海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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東の海にヤバい連中が集結した結果――平和になった話

「バギー、色々と凄いことになったな」

「うるせー! シャンクス! このハデバカ野郎! 全部お前のせいだろ!?」

 

 朗らかに笑っているシャンクスにバギーは掴みかかった。

 彼の胸ぐらを掴んでガクガクと揺らすバギーの姿に、モージ達は驚愕する。 

 

「赤髪に……」

「キャプテン・バギーがあんなことを……!」

 

 そして東の海から付き従っていた彼らだけでなく、偉大なる航路で新たに部下となった多くの者達もまた同じような反応だ。

 

「噂には聞いていたが……どうやらその噂は本当みてぇだな……」

「ああ、赤髪をあんな風にできるなんて……さすがはキャプテン・バギーだ」

 

 新しい部下達はバギーのやったことが全て本当だと確信する。

 あの赤髪相手にあんなことをできる程のクソ度胸があるならば、やってもおかしくはないと感じたのだ。

 

 

 最弱の海と呼ばれることもある東の海にて、世界最強クラスの海賊達と海軍本部の大将達が集結するというとんでもない事件が起きた。

 

 その事件は東の海危機(イーストブルークライシス)と呼ばれており、海の皇帝達と海軍による世界を巻き込んだ戦争に発展しかねない事態だ。

 だが、バギーはこれを対話によって収めた人物であった。

 そもそもの発端がルナシアが彼に10億の懸賞金を掛けた上で生け捕りにしようと、膨大な兵力を差し向けたことにある。

 それだけではなく、彼はロジャー海賊団の元見習いであり、白ひげ・金獅子・ビッグマム・カイドウにも名前が知られていた。

 肝心の実力はミホーク・アマンド・スムージーの三人による攻撃を無傷で凌ぎきる程。

 

 そして、この事件後に世界政府から掛けられた懸賞金25億4649万ベリー。

 だが、これには真偽不明の噂があり、本来は15億4649万であったが、更に10億上乗せするように五老星が直接指示を出したという。

 

 海の皇帝達だけでなく世界政府すらも危険視する、7番目の皇帝――というのが世間一般に広まっていることである。

 

 どうしてそんなのが東の海にいるんだ、という疑問には能ある鷹は爪を隠す、東の海で着々と力を蓄えているのをルナシアが察知し、手遅れになる前に潰そうとしたのだろう――

 という具合に、バギーにとっては幸か不幸か、変な方向に勘違いされていた。

 客観的な事実に基づくと、そういう解釈しかできないので余計にタチが悪い。

 

 なお、ルナシアの目的がただ単に宴会に誘うことだった、とは世間には漏れていない。

 彼女が怒りの緊急命令を発した理由をあの場にいた者達は理解できなくもない。

 仕事が終わって、さぁ帰るぞという時に新しい仕事を渡されたようなものである。

 ブチ切れるのも仕方がないというもの。

 

 とはいえ、そんなことで振り回された自分達はいったい何なのか、という話に発展してしまう為、藪蛇にならぬよう誰も喋らなかった。

 特に海軍からすると良い迷惑であり、センゴクは迷惑料として掛かった費用の請求書をルナシア宛に送ってやろうかと真剣に考えたほどだ。

 結局、彼はこの状況――東の海に海軍本部戦力がいるということ――をどうせならば、と利用したのだが。

 

 もっとも白ひげ達はそういうことなど気にせず、面白そうだったから見に来たと堂々と答えられるが、彼らはそもそも積極的に世界に向けて発信するような性格ではない。

 ルナシアみたいに頻繁にモルガンズを呼んで取材してもらうような連中ではないのだ。

 

「お前は本当に昔から碌なことをしねぇな!」

 

 シャンクスの胸ぐらから手を離し、ビシッと彼の顔を指差すバギー。

 そんな彼に対して、シャンクスは怒ることなく余計に笑ってしまう。

 

「お前は変わらないな」

「何だとてめぇ! ドハデにぶっ飛ばす……のはやめておいてやる!」

 

 バギーはノリで言いかけたが、シャンクスとの実力差をすぐに思い出して踏みとどまった。

 

 ファインプレーであるが、周りはそうは思ってくれない。

 バギーの器が大きいが為にシャンクスを許したのだ、とそんな風に解釈されてしまう。

 

「で、赤髪のシャンクスさん? 何の御用ですか? 俺の首を取りに来たんですか?」

 

 わざとらしい物言いのバギーにシャンクスは切り出す。

 

「いや、そうじゃないさ。ルナシアからバギーを会場まで案内して欲しいと頼まれたんだ」

「あんのクソガキぃ!」

 

 ルナシアの名が出た途端にバギーは叫んだ。

 周囲の皆様方はどよめいた。

 

 あのルナシアをクソガキ呼ばわりだと――!?

 

 白ひげと金獅子がクソガキ呼ばわりしているのは、それなりに知られていることだ。

 しかし、カイドウやビッグ・マムですらルナシアをクソガキ呼ばわりしていない。

 

 そんなとんでもないことをサラッとやってしまったバギーだ。

 

 一方、バギーからするととんでもない懸賞金を掛けられたり、7番目の皇帝にされたり、ロジャー海賊団の見習いであったことが世間にバレたり、しまいには偉大なる航路に拠点を移さないといけなくなったりで踏んだり蹴ったりだ。

 

 クソガキ呼ばわりしたくなるのも当然といえば当然である。

 なお、実年齢的にはルナシアの方がバギーよりも上であるが、見た目はそこらの小娘にしか見えないのは確かだ。

 

「というわけで、バギー。そろそろここを出発しないと、宴に間に合わないぞ?」

「お前、俺が何と答えようが無理矢理でも引っ張っていくつもりだろう!?」

「そりゃそうだ。何しろ、ロジャー船長のことを船長と競い合っていた連中から聞けるチャンスなんぞ、滅多に無い。そうだろ?」

 

 そう言われるとバギーも弱い。

 特に金獅子や白ひげからロジャーのことが聞けるなんてチャンスはまずないだろう。

 しかし、バギーは念には念を入れて尋ねる。

 

「そりゃそうだけどよ……色々と大丈夫なのか? 俺達、連中からすると敵だぞ? 下手すりゃその場で殺し合いに……」

 

 ロジャー海賊団の元船員。

 たとえ見習いだとはいえ、敵は敵である。

 シャンクスは心配するバギーに対して告げる。

 

「それは大丈夫だ。その場でそういうことをしたら、ルナシアの顔に泥を塗ることになる。誰だってそれは避けたい筈だ……カイドウあたりは酔って暴れるかもしれないが」

「噂では酔っ払ったカイドウは見境なく破壊するとか何とか……?」

「安心しろ。カイドウが暴れたって、その場には止められる奴が6人もいる」

「おい待て。それには俺も含まれているのか?」

「お前も本当は実力を隠して、東の海で力を蓄えていたんだろう?」

「……カイドウが暴れたら、お前を盾にしてやるからな」

「いや、お前の方が死ににくいんじゃないか……? ミホーク達の攻撃を無傷で……」

「もういい! その話はもういいから! お前、からかっているのかそれとも本気でそう言っているのか、どっちなんだよ!?」

 

 バギーのツッコミにシャンクスは大笑いしてしまう。

 彼はひとしきり笑ったところで告げる。

 

「俺もお前の実力はよく分からない……だが、誰よりも度胸があるのは知っているぞ」

 

 その言葉にバギーは何だか気恥ずかしくなってしまう。

 本当に昔からコイツとはソリが合わねぇ、と彼は思いつつ告げる。

 

「分かった、分かったよ。今回だけはお前の顔を立てて、参加してやる……」

「ああ、それは良かった。ところで言い忘れていたんだが……お前の海賊団はサーカスっぽいよな?」

「ん? ああ、まあそうだな。何かしらの芸を持っている奴は多いぞ」

「ルナシアが余興に何かやってくれたら、相応の謝礼を支払うと言っていたぞ」

 

 バギーはニンマリと笑みを浮かべ、シャンクスの両肩をガシッと掴む。

 

「シャンクス、そういうことは早く言え……いくらくらいだ?」

「そこは本人と交渉してくれ」

 

 シャンクスの言葉にバギーは大きく頷いた。

 そして、周囲にいる彼の部下達に告げる。

 

「野郎共! ルナシア主催の宴会に行くぞ! あのクソガキからたんまりと金をふんだくってやる!」

 

 バギーの宣言にモージ達は大きく歓声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海軍にとって――東の海危機(イーストブルークライシス)はルナシアに振り回されたのだが、結果としては東の海における治安の向上に繋がることになった。

 

 その原因は新世界の海賊共とそれに対抗できる海軍本部の将官達が多数、東の海に乗り込んだことにある。

 東の海の平均賞金額は300万ベリーで、海軍支部の兵力も最弱。

 東の海では1000万ベリークラスの海賊になると実質的に野放し状態という具合だ。

 そんなところへ、億を軽く超える懸賞金が掛けられた海賊達と三大将をはじめとした将官達が軍艦を率いて入ってきたのである。

 

 それによって何が起こったかというと――東の海にいた海賊達がほぼ掃討されてしまった。

 先を急いでいたルナシア海賊団や、ニューゲートの性格から白ひげ海賊団と出会った海賊達は被害としてはマシな方だ。

 金獅子やカイドウ、ビッグ・マムの船に出会ってしまった海賊達は悲惨であった。

 彼らは見慣れぬ海賊旗であったことから新興の海賊団と勘違いしてしまう輩が多く、ちょっかいを掛けてしまったことで、東の海にいながら新世界の洗礼を受けてしまったのだ。

 

 勿論、大将や中将が乗っていた軍艦に遭遇してしまった海賊達も中々に悲惨であった。

 

 振り回されたとはいえ、東の海に本部の戦力を回したことに変わりはない。

 このまま手ぶらで帰るよりは、とセンゴクは東の海における海軍支部の査察やルナシアの勢力下にはない島々の治安状況確認を徹底的に行うよう命じた。

 バギーのようなとんでもない輩が潜んでいるかもしれない、と考えた為だ。

 

 一方、センゴクは万が一を考え、サカズキとボルサリーノの2人と多数の中将達を早期に本部へ呼び戻していた。

 残ったのは将官でいえばクザンと中将数名といった程度だが、東の海ではこれでも過剰戦力だ。

 

 とはいえこの結果、幾つもの支部で汚職が発見された。

 特に酷かったのは第16支部と第153支部であり、どちらも大佐が好き放題にやっていた。

 そして、ルナシアの勢力下にはないとある島では、海賊が死を偽装して富豪の屋敷に執事として潜り込んでいたことが発覚した。

 それが発覚した原因は、ジャンゴという男が船長を務めているクロネコ海賊団を偶々巡回していたクザンが発見し、捕まえたことにある。

 

 クザンはジャンゴが何かを隠していると感じ、支部ではなく本部の者に取り調べを任せた。

 当初、ジャンゴはシラを切っていたが、海軍本部の取り調べは支部のものよりも遥かに厳しいものだ。

 新世界で捕まえた凶悪な海賊を相手に取り調べをすることもある為、当然といえば当然だが――彼が耐えきれるものではなかった。

 

 そんなこんなで徹底的な海賊掃討作戦及び汚職根絶作戦が行われ、東の海はかつてない程に平和になった。

 ルナシアの勢力圏こそ残っているが、彼女の配下は民間人を襲ったりはしないので一応問題はない。

 

 

 

 

 

 

「先の一件は東の海における治安の向上に繋がった……そう思わなければやってられん」

 

 そう呟き、センゴクは執務室でお茶を啜っていた。

 そのとき、ガープが煎餅の袋を片手に部屋へと入ってくる。

 彼はセンゴクを――より正確には髪の毛の色を見て察した。

 

「センゴク……貴様、さては既に総白髪だな?」

 

 センゴクが思いっきりお茶を吹き出したのは言うまでもない。

 

「ガープ! 何を言い出すんだ貴様は!?」

「ほんの僅かだが……白いところが残っとるぞ? 染めているな?」

「うるさい! 現役の間は黒いままでいたいんだ! 文句あるか!?」

「ぶわっはっは! わしみたいに開き直ると楽じゃぞ?」

「人の勝手だ! で、何の用だ?」

 

 センゴクの問いかけにガープは真面目な顔で告げる。

 

「ああ、どうやら連中の宴会がいよいよ始まるらしい。シャングリラの監視船からの報告によると、ブラッディプリンセスが動いた。今度はルナシアも乗っているぞ」

 

 その言葉にセンゴクは軽く頷きつつ、答える。

 

「問題はない。既にG-1支部には先遣隊として中将20名及び軍艦40隻がいる。そして例の島にも監視船を複数、張り付けてある」

「そして、本部にも先日戻ってきたクザンをはじめ、大将達と将官多数……軍艦も大量か。まるで昔みたいじゃな」

「あの悪ガキは本当に碌なことをしない……バギーの懸賞金についても」

「バギーの懸賞金? 突然、政府から10億を上乗せしろって言われた件か?」

 

 ガープの問いにセンゴクは頷きながら答える。

 

「悪ガキはどういう手を使ったかは分からないが、五老星にお願いをしたらしい。15億4649万ベリーで既に内部では纏まっていたのが、ルナシアが掛けた金額である10億を上乗せという形になった」

「端数の部分は悪ガキに続く、史上2人目じゃな」

「バギーに関しては、悪ガキを止めてほしいという切実な願いも込められているがな」

 

 センゴクはそこで言葉を切り、ガープに問いかける。

 

「もしも今回、連中が仕掛けてきたら戦争になる……そして、そうなった場合は世界大戦だ」

「そうなっても良いように海軍は力を蓄えてきた。戦ったらわしらが勝つ。勝たねばならん……!」

 

 ガープの力強い言葉に、センゴクもまた頷き、あることを思い出す。

 それはガープの珍しい愚痴であり、センゴクはよく覚えていた。

 

 孫が赤髪の影響を受けて、海賊王になるとか言い出したというのが愚痴の内容だ。

 

「ところでお前の孫、もう海賊になったのか?」

「いや、まだなってないらしい。来年くらいには村を出るとか何とかマキノから手紙にあったがな……もういっそのこと悪ガキのところへ放り込むか?」

「……それはやめてやれ」

「じゃあ白ひげのところに放り込むか? あいつならマトモに育ててくれそうな気がする」

「それもやめてやれ。というか海賊にしたいのか、したくないのか、どっちなんだ?」

「したくないに決まっているだろう!」

「じゃあもう今回の一件が終わったら、お前が無理矢理マリンフォードに引っ張ってこい! でもって、海賊がどんなものか、お前の船に乗せて実際に見せてやれ!」

 

 センゴクの言葉にガープは両手を叩いた。

 暗にガープの責任の下でやれ、とセンゴクは言っていたが、それはガープもまた承知の上だ。

 何しろ、自分の孫である。

 まだ今なら間に合うような気がしなくもない。

 もしも手遅れだったら、彼は自分が責任を持って捕まえるつもりだ。

 

「その手があったか! 赤髪はどうやらアイツの中で特別じゃから無理だろうが……金獅子・カイドウ・ビッグマムあたりか? 碌でもない連中は」

「もうちょっとマイルドなところからにしろ……」

「マイルドなら、やっぱりあの悪ガキしかおらんじゃないか! 孫と仲が良かったサボとエースまでもいつの間にかアイツのところにおるし!」

「だから何でいきなり七皇なんだ!?」

「海賊王になるって言っているから、それを狙っていたり、それに近い連中を見せた方がいいじゃろう」

「七皇に拘るというなら、バギーはどうだ? 海賊王を狙っているかは知らんが、アレも相当碌でもない奴だぞ」

「いや、わしの孫だから、ああいうぶっ飛んだ輩はカッコいいとか言いかねん……」

 

 そう返すガープにセンゴクも思わず頷いてしまう。

 ガープの孫でその性格を受け継いでいるなら、そういうことがあってもおかしくはない。

 疲れたセンゴクはガープにそう提案する。

 

「もうそこらの賞金首でいいだろう……新世界なら碌でもないのはいっぱいいる」

「そうじゃな……まずはそうするか」

 

 ガープは彼の提案に頷いたのだった。


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