「そういえば、レイリーさんはいないのか?」
バギーが部下達とバカ騒ぎしながら、芸を披露して笑いを取っている中でシャンクスはルナシアに問いかけた。
「バギーを誘った後、せっかくだし隠居している彼も誘おうと思ったんだけど……シャッキーのところにいなかったのよ。彼女に招待状を渡してもらうように頼んだけど……」
「レイリーさんはふらっと出かけるからな……」
「彼女が言うには、レイリーは魔の三角地帯に幽霊船を探しに行ったそうよ。1年くらい前から」
「レイリーさんらしいなぁ……幽霊船がいるかどうかっていう賭けでもしたんだろう」
「彼女もそう言ってた。そういう賭けなんだって」
笑うシャンクスにルナシアは肩を竦めてみせる。
そのとき、ビリビリとしたものを2人は肌に感じた。
それは他の5人も感じたようだが、そこら中で騒いでいる部下達に変化はない。
ピンポイントで7人に抑えめとはいえ覇王色をぶち当ててくる、そういう技術と度胸がある奴はかなり限られる。
バギーだけは怖がっていたが――他の連中は誰がやったのかすぐに予想ができたらしく、笑っていた。
そして、冥王は堂々と現れる――変な輩と共に。
「誘われたから、来てしまった。こっちはブルック、私の連れだ」
「あ、どうも。私、死んで骨だけブルックと申します……何だかスゴイところにお邪魔しちゃって申し訳ないんですけど……お近づきの印に……パンツ、見せて貰ってもよろしいですか?」
丁寧かと思ったら最低最悪な挨拶をルナシアにぶちかましてきたアフロだけ綺麗に残っている骸骨。
彼女はゆっくりと深呼吸をし、叫ぶ。
「冥王が幽霊を連れてやってきた! 冥王だけに!」
「ありゃ幽霊じゃなくて骸骨だろ!」
『はいっ!』
ルナシアにすかさずツッコミを入れるシキ。
そして2人はポーズを取った。
レイリーはそのやり取りに笑ってしまう。
「受けたわ、シキ……!」
「ああ、やっぱり方向性は間違っちゃいなかった……!」
「あのー、それよりもパンツ……」
感動する2人におずおずと告げるブルック。
そんな彼にルナシアは大きく頷き、ニューゲートをビシッと指差した。
やり取りを見ていた彼は突然指を差されて、首を傾げる。
「ニューゲート! パンツ見せて欲しいって!」
「何で俺に振るんだよ!」
「だってほら、私ってパンツどころか内臓とか色々見せちゃってるから新鮮味が……不死身ネタはもう……」
「答えに困るようなことを言うな! このアホンダラが!」
2人の会話にブルックは陽気に笑いながら、真面目な顔で告げる。
「しかし、レイリーさんから話を聞いたときはビックリしましたよ。まさかあのロックスが子供を育てた上に、自分の海賊団を結成するなんて」
「え? 何? ロックスを知っているの?」
「ええ、知っていますとも。勿論、ロジャーのことも……彼の方は当時ルーキーでしたが、ロックスは大暴れでしたね。どちらも面識はありませんでしたけど」
懐かしむように話すブルックにルナシアはうんうんと頷く。
「あなたの骨にはカルシウムだけじゃなくて、歴史も詰まっているのね!」
「出汁、取ります? 良い出汁出ますよ?」
「あ、結構です」
「酷い!」
何だかんだでルナシアと打ち解けたブルックにレイリーは満足しつつ、彼女に告げる。
「すっかり大物になったな。あの頃とは大違いだ」
「だから言ったじゃないの。最後に勝つのは私だって」
ルナシアの言葉にレイリーは感慨深く頷いてみせる。
そんな彼に彼女はわざとらしく問いかける。
「で、幽霊船は見つかったの?」
「見つかったといえば見つかったが……いや、私もびっくりしたよ」
レイリーは視線をブルックへ向ける。
シキやニューゲートにも絡んでいく――と思いきや、直前でメイドの方へ身体を向けてパンツを見せてと頼み込む。
そこへ、シキが見事なツッコミをブルックに入れている。
「……悪魔の実って本当に何でもありよね。彼、どうやって動いているの?」
「よく分からんが、飲み食いできるぞ。食べた後にトイレに入っていたから、排泄も……飲み物は飲んでいる最中に溢れるが」
「自分が食べた悪魔の実ってかなりぶっ飛んでいるって思っていたけど、彼の食べた実も別方向にぶっ飛んでいるわね……」
ルナシアは肩を竦めつつも、そういえばとレイリーに告げる。
「実は紹介したい男がいるのよ」
「私に?」
「ええ。きっとあなたは誰よりも驚いてくれるわ。といっても、シャンクスもバギーも、ここにいる皇帝達どころか世界中が驚くだろうけど」
「また世界をひっくり返すつもりか。君は何回、世界をひっくり返すんだ?」
問いかけるレイリーにルナシアはにっこりと笑って答える。
「何回もひっくり返していたら、そのうちいい感じになるんじゃない? たぶんね。それじゃ、呼びにいってくるから」
ルナシアはそう言って、席を外した。
彼女が自ら連れてくるつもりだとレイリーは気づいて、楽しみに酒を呑みながら待つことにした。
幸いにも話す相手には事欠かない。
シャンクスやバギーは勿論、白ひげに金獅子といったかつて戦った者達もいる。
思い出話をするにはもってこいだった。
そして20分後のこと。
ルナシアが連れてきたのは――火拳のエースだった。
彼は複雑な表情をしているが、ルナシアに手を引っ張られながらもその歩みを止めることはない。
「エース、いいかしら?」
「物凄くイヤだ」
「いや、ここまできたらもう覚悟を決めなさいよ……」
ルナシアがジト目でそう声を掛けると、エースはおずおずと告げる。
「正直、お前のところで聞いた話によれば、世間で言われるような極悪人じゃない気がする……俺は知りたい」
エースはそうルナシアに言ってから、居並ぶ面々を視界に収めた。
そして、彼は叫ぶ。
「俺の名はポートガス・D・エース! 大恩あるおふくろの姓を名乗ってきた……!」
そこで言葉を切り、彼は深呼吸し――より大きく叫ぶ。
「だが、俺の父はゴール・D・ロジャー! 俺は父のことを世間の悪評でしか知らない! 俺に父が実際にはどんな奴だったかを……教えてくれ!」
叫びは辺りに響き渡った。
誰もが驚愕し、静まり返る中でルナシアは告げる。
「彼の言葉が嘘ではないことを私が保証するわ……彼の母親が20ヶ月もエースを宿して、産んだこととか色々と調べはついているから」
そう言ってルナシアはわざとらしく両手を叩いてみせる。
「あら、やだ。また世界がひっくり返ってしまったわ。さっきと比べて世界はいい感じになったかしら……?」
そんな彼女に対して真っ先に口を開いたのはニューゲートだった。
「色々と言いたいことはあるが……とりあえずクソガキ、本当なんだな?」
「本当よ。彼にこっそり教えてもらった後、私がこっそり直接、彼から教えてもらった島に乗り込んで、色々と調べてきたから……お墓もあったから、墓参りしといた」
ルナシアの答えに対して、ニューゲートは軽く頷いた。
彼は不敵な笑みを浮かべており、一方でシキは嬉しそうだ。
「そうかそうか……お前はロジャーの倅か……!」
彼はうんうんと頷いてみせる。
「……ああ、そういうことだったのか、ロジャー」
レイリーはロジャーから何かを言われていたのか、納得したように頷きつつ、エースを見ながら朗らかな笑みを浮かべている。
「船長の息子とあっちゃ、歓迎しないわけにはいかねぇな! バギー!」
「当たり前だ! シャンクス! 超ドハデに歓迎するしかねぇぞ!」
シャンクスとバギーはすかさずエースを取り囲んで、彼にコップを持たせて酒を並々と注ぐ。
リンリンですらもお菓子を食べる手を止めて、離れたところではカイドウも酒を呑むのを止めていた。
「さ、皆でエースに父親が凄い奴であったこと、その父親よりも凄かったロックスのことを教えましょう」
「さらっとロックスのことをロジャー船長より持ち上げているじゃねぇか!」
思わずルナシアにバギーがツッコミを入れた。
彼女はけらけら笑ったのだった。
時間はほんの少し遡る。
海賊達の大宴会に紛れ込んだ海兵達が持参していた映像電伝虫のカメラによって、宴会の映像がマリンフォードへ生中継されていた。
といっても、スクリーンに映っているのはもっとも危険な皇帝達が酒を呑んでいる姿だ。
冥王が骸骨を連れて現れた時はどよめきが起こったものの、今ではそれよりもルナシアが連れてくる人物に注目が集まっている。
センゴクは勿論、将官達はほぼ全員が会議室などに設置されたスクリーンで、その映像を見ていたのだが――ガープだけはセンゴクに許可を得た上で自分の部屋に、スクリーンを設置してもらい、孫と一緒に見ていた。
今回の一件が終わったらマリンフォードに無理矢理連れてくる、という会話を宴会直前に彼はセンゴクとしていた。
しかし、ガープは皇帝達が集まる今回の宴会を見せたほうがいいのではないか、と判断した為だ。
孫であるルフィは映像に釘付けとなっており、目を輝かせている。
筋金入りの悪ばかり、人殺しも簡単にするような碌でもない連中だとガープは言い聞かせていたものの、これはダメそうだった。
「じいちゃん、俺、やっぱり海賊王になるよ……」
映像を見ながら、ルフィは告げた。
「海賊になれば海軍と……わしと敵になる。身内だからといって手加減はせん。それに、あの連中と戦うことになるかもしれんし、何よりも……死ぬ危険は高いぞ?」
問いかけにルフィはガープへ顔を向けた。
そして、彼の目を真っ直ぐに見つめる。
その瞳は何よりも彼の決意を物語っていた。
「それでも、俺は海賊王になる……!」
凛々しい顔で力強く答えるルフィにガープは深く溜息を吐く。
そして、彼は思いっきりルフィの頭を乱暴に撫でてやる。
「まったく、いつのまにかそんな男らしい顔をするようになりおって……というか、お前、戦闘の方は大丈夫じゃろうが……航海士にアテはあるのか?」
「ない!」
「……最低限の勉強はしておけ。今のままだと船出してもすぐに遭難するのがオチだぞ。海賊王のロジャーだって、最初は1人だったから航海の勉強をしていたらしいからな」
嘘か本当かは分からないが、孫のやる気に火をつけるにはこれが一番だろう、と思ってガープは言った。
その効果は抜群であったようで、ルフィは大きく頷いてみせる。
そのときだった。
ルナシアがエースを連れてきて、彼が叫んだ。
といっても、ルフィとガープは知っていた為、驚きはない。
ガープはそもそもエースを引き取った本人であり、ルフィはエースが島にいたときに本人からこっそり教えられていたために。
しかし、事情を知る極一部を除けば、これは寝耳に水の出来事だった。
ガープとて、どういうことになるかは分かる。
「あの悪ガキめ、また世界をひっくり返しやがった」
彼はそう呟いて、笑うのだった。