問題児? 失礼な、俺は常識人だ。   作:怜哉

1 / 30
『問題児? 失礼な、俺は常識人だ』のリメイク版的ななにかです。
久々に『問題児? 失礼な以下略』を読みかえしたんですけど、中高時代の黒歴史見返してるみたいでめちゃくちゃ恥ずかしかったです。でもなんか「エタらせないよ♡」とか言っちゃってたのでせめて改訂はしようかと思いまして。


問題児が異世界から来るそうですよ
異世界? ははっ、またまたそんな......まじ?


 

 

 

 

 桜舞い散る、春うらら。

 暦は四月。朗らかな日差しと柔らかな風に心を耕し、そして花粉(春の脅威)に殺意を覚える日本の春。

 

 まぁ別に花粉症でもなんでもない彼としては、ただただ暖かくなったことに対して心安らぎ、つい一週間前から始まった華の高校生活への夢と希望で胸いっぱいだった。

 

 

 

 ────そう、だった。さっきまでは。

 

 

「離せっ! 離せっつーのジジイくそ野郎!! ちょ、まて、力強すぎ...!? た、助けてお母さんーーー!!!!」

「良いではないか〜良いではないか〜、あはははは〜」

 

 

 とある片田舎の河原にて。

 なんとも奇妙な神隠しが遂行された。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 今起こったことをありのまま説明するぜ。

 

 せっかくの何も無い土曜日、天気もいいし散歩するかー、とか思って河原を歩いてたら見知らん老人に話しかけられて突然拉致られ、なんか変な光に包まれたと思ったら上空何千メートルかに放り出されてた。

 

 何を言っているのか俺にも分からない。

 とりあえず寒い。春の日差しどこいった。

 

 

「やははははは!!! すっげぇなオイ! 世界の果てが見えやがるぜ!!」

 

 

 己に降り掛かった理不尽に、諦めという感情で対抗している自由落下の最中(さなか)

 吹き付ける暴風の轟音をものともしない大声量が、俺の耳に届いた。

 男の声だ。この上空何千メートルでパラシュート無しスカイダイビングをしているというのに、何とも楽しそうな、男の声だ。

 

 落下の風圧に首を持っていかれないように気張りながら、声のした方を向いてみる。

 金髪の、学ランを着込んだ男。黒髪の、上品そうな服を着た女。茶髪の、スポーティな格好の女。三毛猫。

 俺以外でスカイダイビングしているメンツは、その三人と一匹らしい。

 

 あいつら誰だよ、とか。なんで俺こんな冷静なんだろ、とか。そもそもなんでスカイダイビングしてるん俺、とか。

 そんなことが頭をよぎりきる前に、俺たちは湖へと着水した。

 

 

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

 湖から這い上がり、服に染み込んだ冷水を搾っていると、近くからそんな怒鳴り声がした。

 さっき見た、黒髪の女だ。

 服はずぶ濡れ。体にピッタリとくっついている上に透けている。とてもえっちだ。三度見くらいした。

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

 黒髪濡れ濡れえっち女とは逆隣りから、さっき上空でも聞いた男の声。

 さっきの嬉々とした声音とは違い、黒髪濡れ濡れえっち女同様、怒りが込められているように思う。

 こちらも濡れ濡れスケスケだが、男のスケベシーンに需要はない。

 強いて言えば、ずいぶんとしっかりした体付きだなとは思いました(ガッツリ見た結果)

 

「...いや、石の中もダメだろ。普通に死ぬぞ」

「俺は問題ない」

「んな身勝手な」

 

 男に素朴な疑問をぶつけつつ、俺は周りを見渡す。

 俺の後方には、これまたさっき上空で見たスポーティな服装の茶髪の女が、三毛猫を抱えて座っていた。

 例に漏れず、濡れ濡れスケスケだ。

 うーん、えっち。えっちのバーゲンセールかよ。やっぱり三度見した。

 

「...ここ、一体どこなのかしら」

「さぁな。まぁ世界の果てっぽいのが見えたし、どこぞの大亀の背中とかじゃねぇか?」

 

 投げやりに答える男は、水の滴る前髪を掻き上げつつ、言葉を続ける。

 

「とりあえず確認しとくが、お前らもあの妙な手紙を受け取ってここに?」

「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後気を付けて。それで、そこの猫を抱き抱えてる貴女は?」

「...春日部耀。以下同文」

 

 俺を囲むようにして会話する三人は、俺の理解できない話をしている。

 そもそも手紙ってのが分からない。俺は妙な手紙じゃなく、妙なジジイの手引きでここに来たはずだ。...多分。何も分かんないけど。

 

「そう。よろしくね、春日部さん。じゃあ次は貴方ね。黒髪で、変な肌着を着ている貴方」

「黒髪...ってことは俺だよな? 変な肌着?」

 

 言われて自分の服を見てみると、なるほど確かに。着ていたYシャツが濡れて、肌着が透けて見えている。

 

「“変な”肌着ってのは心外だ。これのどこが変だと」

「でかでかと『成仏』なんて書いてあるもの、変と言わずに何というの?」

「最先端ファッションだ。時代が俺に追い付いていないんだ」

「そう。狂人なのね。近寄らないで。それじゃあ最後に、そこの金髪の──」

「悪かった。自己紹介はさせてくれ、頼む」

「仕方がないわね。早くして」

 

 肌着一つで狂人認定された上に嫌われたっぽい。悲しい。相手が結構な美人なだけに余計悲しい。でも俺泣かない。俺強い子。

 

佐久本(さくもと)燈也(とうや)だ。よろしく」

「ええ、よろしく、狂人さん。じゃあ最後。金髪の、野蛮で凶悪そうなそこの貴方は?」

 

 俺が何したってんだバーローめ!!

 

「見たまんま、野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義、と三拍子揃ったダメ人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれ、高圧的なお嬢様?」

「そう。取扱説明書をくれたら考えてるあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ」

 

 アレは名前で呼ぶのか...。

 ちくせう、終いにゃ泣いてやろうかな。

 ...いや、狂人認定は覆らないどころか今後の逆転もままならなくなりそうだ。やめとこ。

 

「.....で? 呼び出されたはいいけど、なんで誰もいねぇんだ?」

「そうね。呼び出した本人がいない、というのはどういう了見なのかしら」

 

 互いに険悪な雰囲気を醸し出していた二人は、揃って周りを見渡す。

 呼び出した本人、ってのが分からないが、さっきから少し離れた草陰に見え隠れするウサ耳らしい影が気にはなっていた。

 相当にデカいウサ耳だ。耳の大きさから推測するに、体は人間ほどあるかもしれない。おそらく珍獣だ。ぜひ捕まえたい。

 

 逆廻や久遠もそちらをチラチラ気にしてるし、二人も気付いているんだろう。

 そしてなにより、この場ではその二人の存在が強すぎて、俺と春日部の影は薄くなっている。ウサ耳も、きっと二人に注意が向いていることだろう。

 好機だ。俺はそろりそろりと、ウサ耳の後ろに回り込む。

 

「仕方ねぇ。細かいことは、そこに隠れてるやつに聞いてみるか」

「あら、貴方も気付いていたの?」

「当然。かくれんぼじゃ未だ負けなしだぜ? そっちの二人も.....おい、佐久本のやつはどこ行った」

「...? あら、ほんと。彼、一体どこに.....」

 

 

「ギニャァァアアア!! 黒ウサギの素敵耳がぁあああ!?!!?」

「捕ったどぉお!!!!」

 

 珍獣ハンター燈也とは俺の事よ(ドヤァ)

 

 

 * * * * *

 

 

「ありえない...ありえないのですよ...黒ウサギの純情が汚されてしまいました...」

 

 てっきり巨大ウサギ(色違い)だと思っていた生物は、ウサギの耳を携えた美少女だった。

 まぁそれはそれで巨大ウサギより全然珍獣だったから、そこらの(つた)で手足縛って木に括り付けた上でいろいろ物色した。

 さすがに十八禁的なことは久遠と春日部の目があったので出来なかったが、ウサ耳を弄り倒してみたり、ウサ尻尾をコネコネしてみたり、湖で捕れた魚の素焼きを食べさせてみたり、なら生ならどうかと刺身にして食べさせてみたり、と十分に遊ん.....生体を調べれたので、満足して解放したわけだ。

 

「お前の純情が散ったのは残念極まりないが、さっさとお前の知ってることを話せ」

 

 黒ウサギ、と名乗った項垂(うなだ)れるウサギ人間を前に、逆廻は高圧的に話を促す。

 

他兎(たにん)の耳や尻尾をあれだけ好き勝手しておいて...ま、まぁいいデス。それでは、皆様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さぁ言います! ようこそ“箱庭の世界”へ! 我々は皆様のようにギフトを与えられた者だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと、この箱庭に召喚いたしました!」

 

 箱庭。なんか実験場みたいな名前だな。

 それに今、このウサギは『箱庭の世界』と、そう言った。

 それじゃあまるで、ここが俺のいた世界とは異なる世界だと言っているようだ。

 

「既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様は普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ」

 

 神、悪魔、精霊。

 漫画やゲームの中でしか聞いたことのないような存在達が、ごく当たり前のように羅列している。

 人知を超えたモノから授けられた恩恵。ギフト、か。

 それならまぁ、確かに覚えがないこともない。他人には無い才能を、俺は持っている。少しスポーツが出来るだとか、ちょっと勉強が得意だとか、そんなレベルではない稀有な才能だ。

 俺が勝手に“超能力”だなんて呼んでいたソレが、黒ウサギの言う“修羅神仏等から授かった恩恵”とやらなんだろう。

 

 ...軽く頭がどうにかなりそうだが、割って入った久遠の声が、トリップしかけた俺を引き戻す。

 

「まず初歩的な質問をいいかしら。貴女の言う“我々”とは、貴女を含めた誰かなの?」

「YES! 異世界から召喚されたギフト保持者は、この箱庭で生活するにあたって、数多とあるいずれかの“コミュニティ”に必ず属していただきます」

「嫌だね」

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者は、ゲームの“主催者(ホスト)”が提示した商品を手に入れることができる、というシンプルな構造になっています」

「はい。主催者って?」

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が“試練”と称したギフトゲームを主催している場合や、コミュニティが力の誇示のために展開しているギフトゲームなどもあります」

「なるほどな。それで、チップは? 自分の“恩恵”ってのを賭けなきゃいけないのか?」

「それもまた様々です。ギフトを賭けたゲームももちろんございます。しかし、全てのゲームで己の才能をチップにしようという者はそう多くはありません。極めて少数と言えるでしょう。そこで一般的には、金品、土地、利権、名誉、そして人間などを賭けるのデスよ」

「へぇ、人間も。つまり何だ。そのギフトゲームってのは、この世界の法そのものだと思っていいのか?」

「基本的にはそのような捉え方で問題はないかと。ギフトゲームとは別にキチンとした法律も敷かれていますが、ギフトゲームでカタをつけた方が早いは早いですかね」

 

 黙って聞いていると、そりゃあもうスムーズに話が進んでいく。

 理解できないことはないが、頭が追い付かない。とりあえず異世界に転生したって時点で処理の限界だ。

 てか、なんでこいつら普通に現状受け入れられんの?

 

「さて、皆さんを召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それらをすべてを語るには少々お時間がかかるでしょう。ここから先は我らのコミュニティでお話しさせていただきたいのですが.....よろしいですか?」

「その前に一つ、俺の質問に答えろ、黒ウサギ」

 

 ここで待ったをかけたのが逆廻だ。

 彼の顔から、先ほどまでの軽薄そうな笑顔がなくなっていることに気づいた黒ウサギは、構えるようにして聞き返す。

 

「.....どういった質問です? ルールですか? ゲームそのものですか?」

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ。ここでオマエに向かってルールを問いただした所で何が変わるでもねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのはたった一つ」

 

 

 

「この世界は、面白いか?」

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 諦め。

 それは時に、非常に重要となってくる。

 そう、例えば。例えば、『妙な老人に捕まって大空に放り出されて湖に落ちてびしょ濡れになって珍獣ウサギ人間を捕獲してた結果「ココ異世界ネ! メッチャ面白イ世界ヨ!」って言われた時』とか。

 

 

「紹介するのですよ、ジン坊ちゃん! こちらの御四名様が.......あれ? 十六夜さんは?」

「十六夜くんならさっき『ちょっと世界の果てを見てくるぜ』って言ってあっちに行ったわよ?」

「どっ、どうしてその時黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「『黒ウサギにはナイショだぜ』って言われたから」

「嘘ですよね!? 実は面倒だっただけなのでございましょう!?」

「「うん」」

「oh...」

 

 

 とまぁ、一通りコントを見せつけられ、黒ウサギが赤ウサギになって疾走していった数分後。

 俺はジン坊ちゃんとやらに連れられて、箱庭の中のとある喫茶店で紅茶を啜っていた。

 

「あら、意外と美味しいじゃない」

「ほんと。それにとってもいい匂い」

 

 女性二人はここの紅茶に大変満足しているらしく、柔らかい笑顔を浮かべていた。

 かく言う俺はと言うと、訝しげに店のメニュー表と睨めっこをしている最中だ。紅茶の味が分かるほど舌も肥えてないしな。

 

 ここが異世界だ、ということは嫌でも理解させられた。

 周りを見れば、いわゆる獣人といった種族や、謎の動力で水を吐く噴水など、『異世界だから』以外では簡単に説明のつかないことが起こりすぎているのだ。

 そして、この文字。

 メニュー表に限らず、そこらの看板にも書いてある文字は、少なくとも俺は見たことのない文字だ。けれど、俺はその文字を何の不自由もなく読めている。おそらく言葉も日本語じゃないんだろう。

 何か特異な力が働いている、と言われた方が楽になってきた。

 

「皆さん、まだ召喚されたばかりで落ち着かないでしょう。ある程度のことは黒ウサギの方から聞いているとは思いますが、何か聞きたいことなどはありますか?」

 

 諦めたと言いつつも真剣に現状把握に努めていた俺の耳に、まだ声変わりも終わっていない少年の声が届いた。

 ジン・ラッセル。黒ウサギからは「ジン坊ちゃん」と呼ばれていた、黒ウサギ達のコミュニティの(おさ)らしい。

 子供がトップなんてあまり信じられないが、ここは異世界。俺の常識はまず通用しないと思った方がいい。もしかしたら、このジンくんも俺の倍は生きているのかもしれないし。

 

「じゃあ、とりあえず俺から質問いい?」

「はい、どうぞ」

 

 律儀に手なんか挙げてみて、俺はジンくんから許可を貰ってから再度口を開く。

 

「まず前提の確認なんだけど、この世界じゃ“コミュニティ”ってのに入らなきゃいけないんだって?」

「そのような法はありませんが、コミュニティに属さないということは死に直結すると考えていただいて結構だと思います」

「なるほど。んじゃ次。俺たちをこの“箱庭”に呼んだのは、ジンくんや黒ウサギが入ってるコミュニティなんだよな?」

 

 まぁ俺は多分、久遠や春日部、逆廻たちとは別口だろうけどな。

 

「はい。僕たちが皆さんをお呼びしました」

「それで、無一文な上にこの世界の知識もほぼない俺たちを、自分らのコミュニティに入れてあげよう、と。つまりはそう言ってるんだよな?」

「は、はい.....」

「じゃあ、ここからは質問だ。『才能を持つ者を呼び寄せよう』だなんて、なんでそうなった?」

 

 そう言うと、ジンくんの視線が少しずつ下に下がっていくのが分かった。

 明らかに動揺している。額に脂汗までかいてるし、手も震えている。

 

「ただの親切心だなんてのは、残念ながら俺には信じられない。ジンくんたちに何のメリットもないからな」

 

 子供へ詰問してるみたいでちょっと罪悪感もあるが、そこははっきりさせなきゃいけないところだ。

 まぁ俺の予想としては、『藁にもすがる思いで外界(そと)から戦力を呼び寄せなければ、今後コミュニティの存続すら危うい』ってとこだろうと思う。まぁ、単に戦力強化要員として呼ばれた可能性もあるけどな。

 しかし、ずっと黙っているジンくんを見るに、前者で正解な気はする。

 

 俺たちを上手く誘導して自分たちのコミュニティに入れてしまおう、と。

 そんな魂胆がバレそうになって焦ってしまったのだろうか。完全に下を向いてしまい、言葉の出なくなってしまったジンくんに代わって、聞き覚えのない野太い声が割り込んできた。

 

「そこから先は私が説明しましょう、御三名方」

 

 トラ。

 そう表現するに相応しい風格を担った男だ。

 ピシッとタキシードなんて着ているが、その程度では隠せないほど臭い。

 

「ガルド...!」

「黙れ、“ノーネーム”の小僧。箱庭の恥晒しが。まさか俺を呼び捨てにするとは驚きだ」

 

 ガルド、と呼ばれた男は、眼光を鋭くしてジンくんを射抜く。

 久遠がティーカップを置いてガルドを見やった。

 

「あなたは?」

「失礼。私はこの地域を治めているコミュニティ《フォレス・ガロ》がリーダー、ガルド=ガスパーです」

 

 どこで習ってきたのか、なんとも不気味な紳士風を装ったトラ野郎は、ジンくん率いる“ノーネーム”というコミュニティについて、事細かく説明してくれた。

 コミュニティの名前、そして旗のブランドについて。“ノーネーム”の過去の華々しい栄光。そして、魔王の襲来。“ノーネーム”の転落。

 

 気になるワードが何個かあったが、今のところは黙っていよう。

 別に今すぐ知る必要はない。後でゆっくり聞けばいい。

 

 

「“ノーネーム”に入ったところで何の得があるわけでもない。そこで提案です。皆様、私のコミュニティに入る気はございませんか?」

「ないわね」

「右に同じく」

「以下同文」

「にゃあ」

「三毛猫も『ねーわ。それはねーわブ男が』って言ってる」

「随分と口の悪い猫だな」

 

 つーか名前は三毛猫なん? どういうネーミングセンス。

 ちょっと引いた目で春日部を見ていると、拳を握りしめたガルドが声を震わせて聞いてきた。

 

「...理由を、理由を教えていただいても.....?」

「簡単なことよ。私は裕福な家庭も約束された将来も、およそ望みうる全てを捨ててここに来たの。それをたかが一地域を支配して満足しているだけの貴方に、それも組織の末端として迎え入れてやるだなんて言われて魅力的なわけがないでしょう?」

 

 置いたティーカップを再び持ち、話は終わったとばかりに紅茶を啜る久遠。

 そんな彼女に続き、春日部も理由を口にした。

 

「私はぶっちゃけどうでもいい。どのコミュニティに入るとか、ほんとに興味ないから。私はただ、ここに友達を作りにきただけ」

「あら、じゃあ私が春日部さんの友達一号に立候補してもいいかしら」

「...うん、いいよ。久遠さんは」

「飛鳥でいいわよ」

「分かった。じゃあ、飛鳥。飛鳥は、私の知ってる子たちと違う気がするから大丈夫。なろう、友達」

「やった♪」

 

 キャッキャと手を握りあい始めた少女二人に倣って、俺も拒否理由を言ってみる。

 

「俺より弱いやつの下に付きたくない」

 

 俺の言葉がトドメだったのだろう。

 ピチピチだったタキシードを軋ませ、ガルドは激昂する。

 

「この.....この小僧共が!!!!」

 

 人間の外面(ガワ)を破り捨て、ガルドはその体をトラへと変貌させた。

 トラだトラだと思っていたが、まさか本当にトラになるとは驚きだ。

 狼男ならぬ虎男。元の世界ではお目にかかれなかった珍事を前にして──俺は少し楽しくなった。

 

「.....喧嘩はダメ」

 

 俺たちへ襲いかかろうとしたガルドは、春日部により簡単に押さえつけられる。

 トラはトラでも、動物園のトラだったようだ。野生の強さには程遠い。

 前にロシアで野生のトラと闘ったことのある俺が言うんだから間違いない。

 

 そこからは酷いものだった。

 押さえつけられたガルドに対し久遠が尋問をかけ、ガルドの非道が晒される。聞いていて気分の良いものではなかったし、特に興味もわかなかったが。

 しかし、久遠はそれに腹を立てた。そんな彼女の取った行動が、《フォレス・ガロ》とのギフトゲームだ。

 

 

 

「なんであの短時間に《フォレス・ガロ》のリーダーに喧嘩を売る状況になってるのですか!? しかも日取りは明日!!? 敵のテリトリー内で戦うのですか!!!? 一体どういう心算があって──ちょっと聞いているのですか!!!!?」

 

「「ムシャクシャしてやった。今は反省してます」」

「黙らっしゃい!」

 

 

 軽快なハリセンの音と、ケラケラという逆廻の笑い声が響く。

 

 ああ、なんだか面白いことになってきた。

 

 諦めて現実を受け入れてしまえば、これ以上面白い現実(こと)もない。力を持て余してたのも事実だし、与えられた機会を楽しんでみるのもいいだろう。

 

 

 ただまぁ、なんだ。

 俺は逆廻たちと違って問題児なんかじゃないからな。

 

 




黒歴史不可避で泣いた。
評判良ければ続けます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。