ヴォバン侯爵との死闘が繰り広げられてから約三ヶ月が過ぎた。
リリアナをサルバトーレ・ドニに付かせると言い出したリリアナの祖父へ物申す為に青銅黒十字へ殴り込んだり、その際にドニと決闘し辛勝したり、ついでにプリンセス・アリスを《ヨグソ・トース》に勧誘して断られたり、うっかりヴォバン侯爵と遭遇して殺されかけたり、日本に帰ろうとしたら途中で偶然にも羅濠教主と出くわして戦ったらボッコボコにされたり、なんやかんやで教主と仲良くなって酒飲み仲間になったり、リリアナとはぐれたり、リリアナを探していたら足を滑らせて何故かアストラル界に落っこちたり、酔って絡んできた神を返り討ちにしたり、時の番人に会って箱庭へ帰る方法はないか訪ねて「いや、知らんです」と言われたり、なんとか現世へ帰ってきたらそこはアイーシャ夫人の邸宅前だったり、ひょんなことから夫人に気に入られたり、逃げるように日本へと帰ってきたら先に日本に帰っていたリリアナに泣かれ、挙句一晩中説教をくらい、疲れて泥のように眠り──
「そんで、目を覚ましたらまつろわぬ神が降臨してたんだ」
「...まぁ、なんだ。怒涛がすぎるお前の人生には同情するよ」
夕焼けに照らされる崩壊した街を眺めつつ、二人の魔王は熱いコーヒーを喉に流し込んだ。
* * * * *
時は少し遡る。
紆余曲折を経て三ヶ月ぶりに日本に帰ってきた燈也は、リリアナの説教を乗り越えて休息を取っていた。
ここは燈也が貸し切っているホテルの一室だ。
以前借りていた、草薙家近辺のホテルではなく、いくらか離れた場所のホテルだ。いくら友好的な関係であるとはいえ、カンピオーネ同士が近場に住んでいるのは些か問題があると言われた為に拠点を変えたのだ。
朝方まで説教を垂れていたリリアナは隣の部屋で寝ており、そのまた隣の部屋には、リリアナの侍女であり《青銅黒十字》の魔女見習いでもあるカレン・ヤンクロフスキがいる。
最近はアストラル界やらアイーシャ夫人邸やらと落ち着かない場所に居たため、やっと辿り着いた日本の拠点(仮)での睡眠は久々に得た快眠だった。
もう昼過ぎだったが、日が昇ってから布団に潜った燈也には関係ない。
むにゃむにゃと言葉として成立していない寝言を吐きつつ、惰眠を貪っていたのだが...突如として、大木をも揺らしそうな轟音がホテル全体を大きく揺らし、燈也の鼓膜をこれでもかと刺激する。
「ッ!?」
堪らず飛び起きた燈也は、何事かと周囲を確認した。
大きな揺れで家具がいくつか倒れていたが、それ以外に異変はない。
直下型の地震でもきたのだろうか、そう思う燈也だったが、次の瞬間にそれは間違いだと思い知る。
二度目の大振動がホテルを襲った。
その振動に伴い、窓の外に僅かながら紫電が走るのを燈也は見た。
そして極めつけは、ホテルの上空から漂ってくる圧倒的な気配だ。
「.....また面倒事かよ...」
頭を掻き、のそりと布団から這い出た。
寝間着から外着へと着替え、軽く髪を整える。この三ヶ月で、燈也は大抵の事では動揺しなくなっていた。故に、明らかな異常事態に見舞われているにも関わらず、その行動はどこか余裕を感じさせる。
扉が勢い良く開かれた。
「お、王よ! ホテル上空に──」
「分かってる。慌てんな」
血相を変えて部屋に入ってきたリリアナを嗜め、燈也は冷蔵庫を開ける。大量に買い込んだ缶コーヒーを一つ取り、蓋を開けた。
「リリアナも飲むか? ブラックだけど」
「ブラックは胃に優しいとは言えないので砂糖かミルクを入れることを推奨しますが今はそんな場合ではありません!」
「意外と余裕あんだろ、お前」
ぐびっとコーヒーを呷り、カラになった缶を握り潰す。
それをゴミ箱へと投げ捨てると、次は惣菜パンの袋を開けた。
「それにそのような粗雑なもの王の食事として相応しくありませんしというか何を呑気に食べているのですかあなたは!」
もしゃもしゃとコロッケパンを咀嚼し、言葉が発せない燈也へリリアナは追い討ちをかけるように叫ぶ。
「神が! まつろわぬ神が降臨したのですよ!?」
再び、大きな振動がホテルを襲った。
* * * * *
軽く食事も済ませた燈也は、リリアナを連れてホテルの屋上へと足を運んでいた。カレンには離れた場所へ避難するよう言っている。彼女では足手まといどころの話ではなく、戦いの余波のみで死んでしまっても不思議ではなかったからだ。
まつろわぬ神がいるのはホテルの上空。顔を合わせるのであれば、そこが一番手っ取り早いと考えた。
屋上へ登ると、そこには三つの大きな凹みがあった。ホテルを襲った大振動と同じ数だ。
「ったく、人の寝床に攻撃仕掛けやがって」
若干苛立たしげに、燈也は言う。
そしてそのまま上空へと視線をシフトさせた。空には灰色の雲が拡がっており、ゴロゴロと雲の中で雷が走っている。
その中に、一つの影が見える。雷光が走る度に、そのシルエットは雲の中に写し出された。
「どこぞの雷神、ってのが妥当なところか。さて」
ふぅ、と息を吐き、魔力を練る。
そして目を見開き、雷鳴に負けないよう猛々しく聖句を唱えた。
「《天を翔けるは我が威光。我は常に空に在り、全ての勝利を掴む者なり》!!!」
辺りを焼く極光と共に、勝利を運ぶ日輪の戦車が現れる。
戦車に乗った燈也は、リリアナに告げた。
「お前はここにいろ」
「.....承知、しました」
そういうリリアナは、激しい無力感に苛まれていた。リリアナは決して弱くはないが、相手がまつろわぬ神ともなると話は違ってくる。分かっているが、それでも悔しいと。リリアナの言葉からはそんな悔恨が滲んでいた。
それを感じ取った燈也は、先程の言葉に別の言葉を付け足す。
「あの雲ん中にいるやつをここに叩き落とす。お前はここに残って、落ちてきたアレと戦う準備をしとけ」
そう言い残した燈也は、手綱を振るって戦車を空へと駆けさせる。
それを見送るリリアナは、先程とは打って変わって高揚感に包まれていた。
自分は必要とされている。王と戦うことができる。騎士として、それは幸福なことだった。
高鳴る鼓動を原動力に、リリアナは準備を始める。
燈也は“ここに”神を落とすと言った。ならば主戦場となるのはここ。このホテルの屋上ということだ。
「(相手は雷神。ならば、それに対応する術を仕掛けておく)」
対雷用の術というものは少ないが、ないことはない。
効果が期待できるもの、あまりできないもの。少ない術式の中からさらに選別し、場を整えたり必要な文字を描いたりして、リリアナはホテルの屋上を対雷神のフィールドへと作り替えていく。
一方、空へと昇った燈也は、炎の轍を作りながら暗雲の中へと突入していた。
時折襲ってくる雷を戦車で轢き潰し、目標である影に接近する。
「来たか、神殺し!」
燈也の接近に気付いた影は、豪胆な声を上げる。
その声に応じ、影の周りの雲がはけた。視界を阻むものか無くなり、影の姿が太陽の下に晒される。
その姿は青年のものだった。黒い髪に、黒い瞳。髪は真ん中で分けられており、肩にかからないほどの長さで切りそろえられている。まるで日本人のような風貌だ。
肌は白いが、そこに不健康さは微塵も感じられない。全身にバランス良く筋肉が付いているからだろう。
渦巻きやグネグネとした曲線などの文様が施された服を着ており、その上からチョッキのような羽織を来ている。頭にはバンダナのようなものを巻いていて、耳には金色の耳飾りが煌めいていた。
また、その右手には二メートルを越える大剣が握られており、その剣は雷を纏っている。
「その言い回し...なんだテメェ、最初っから俺狙ってんのか」
まつろわぬ神のセリフに疑問を持った燈也が聞き返す。
すると、まつろわぬ神は「うむ!」と傲岸な態度で答えた。
「見つけたのは偶然であるがな! たまには人間の世を見舞ってやろうと参ったのだが、貴様の気配を感じ取ったのだ! 噂はかねがね。幽冥界では大いに暴れ回ったそうではないか! 父上から聞き及んでおるぞ!」
ふむ...?
燈也は考え込む。幽冥界、つまりはアストラル界で自分がしたこととはなんだったかな? と。
時の番人には会った。この世界にとって異物である自分を排除しにくるかもしれないと思ったから、それなら殺られる前に殺っちまえ、と。結果としてはそんなことはなく、ただ一緒に茶を啜っただけだったが。
その時は暴れてなどいない。稀に見る平和さだったと記憶している。
で、あれば。ほかに考えられることは一つしかない。
「...あー。もしかしてお前、あの時の酔っ払いジジイんとこの息子か?」
「酔っ払いジジイとは言ってくれる! あれでも父上は偉大な方なのだぞ!」
言い放つまつろわぬ神は、バーンと胸を張る。どうやら本当に偉大で自慢の父上らしい。
そんなまつろわぬ神を前に、燈也は若干呆れる。燈也にとって、アストラル界で絡んできた彼の父とやらは、どこからどうみても酔っ払いであったし、暇だからと言って戦いを挑んでくるはた迷惑なクソジジイだった。アレの息子となれば、この厚顔無恥そうな態度も頷ける、と。
故に決意する。さっさとこの戦いを終わらせようと。
「歯ァ食いしばれ、アホ息子」
手綱を打ち、鏖殺戦車を走らせる。
一気に日輪の戦車で轢き殺してやると、そういう勢いで突撃した。
しかし。
「ふんッ!!」
まつろわぬ神が大剣を振るう。
燈也にも戦車にも届かない剣先だが、剣先の代わりに極大の雷が降ってきた。
戦車を操り、それを避ける。大振りな一撃だったために辛うじて避けることは可能だった。
だが、地上はそうもいかない。
落雷した場所は火に包まれ、轟々と燃え盛る火の海となった。
「ちっ」
目を見張る威力の雷に舌打ちし、燈也は警戒度を上げる。
真っ直ぐ突っ込むだけでは雷の餌食だ。さて、どう攻め込むかとまつろわぬ神を睨む燈也だったが、次の瞬間にその視界がブレる。
「かハッ、!?」
右頬が僅かに焦げていた。痛みも感じることから、そこを殴られたのだろうと推測する。が、信じられなかった。その攻撃が全く見えなかったからだ。
戦車からは既に落ちている。どうやら殴られた時に飛ばされて落ちたらしい。すぐに空中に足場を作って体勢を整える。
見えない攻撃に軽く混乱したものの、すぐにその正体を見破った。
「テメェ自身が雷になれんのか...!」
「いかにも! 我は父の
「そうかい。そりゃ大層なこった」
そう言いつつも、燈也は既にその対処法を知っていた。
それは、過去にも目で追えない超速度を誇る敵と戦ってきたから。サルバトーレ・ドニや羅翠蓮。彼らは燈也の知覚できる速度を遥かに越えた超速度を持っていた。そんな彼ら彼女らと拳を交え、そして生き延びた燈也は、その対処法をいくつか知っているのである。
「往くぞ神殺し! 我が至高なる武芸が剣や弓だけと思わぬことだ! 魔神をも下した我が拳、その身に喰らうが──」
「うるせぇ」
燈也が拳を振り下ろす。
その拳はまつろわぬ神の顔面へ綺麗に入り、まつろわぬ神はまるで落雷のように地上──ホテルの屋上へと落ちていった。
知覚外の速度への対処法その一。それは──相手が最高速度になって目で追えなくなる前に叩く、という至極単純かつ原始的かつ脳筋なものである。
ちなみにその二は“勘に頼る”で、その三はない。
地上へ落ちたまつろわぬ神を追い、燈也もホテルの屋上へと着地する。
そこでは突如として落ちてきたまつろわぬ神に驚いたリリアナと、頭からコンクリート製の屋上に突き刺さっている間抜けな姿の神の姿があった。
「ひは!! はかはかはひゅは、はひほろひ!!」
「.....なんて?」
燈也が首を傾げ、リリアナもそれに倣う。
コンクリートに突き刺さったままではろくに言葉を発することができるはずもない。本当にこいつは神なのかと、燈也とリリアナは訝しんだ。
少しだけジタバタしたまつろわぬ神は、勢いよくコンクリートから抜き出る。
「ふはははは...中々やるな神殺し! それでこそ我が宿敵、父の仇だ!」
「ごちゃごちゃうるせぇやつだな。つーか別にお前の父ちゃん殺してはねぇよ」
襲ってきたからボコっただけだという燈也。
しかしそんなことを聞き入れる相手ではない。問答無用で、燈也を父の仇だと位置づける。
その言動に、燈也は既視感を感じていた。
「...これあれだな。ペルセウスと似てるな、こいつ」
不遜で傲岸。一々大仰で、良くも悪くも自分の道しか見ていない輩。
それはかの英雄、かつて燈也が殺めたペルセウス神によく似ていると燈也は思った。
その些細な呟きに、まつろわぬ神は反応する。
「ペルセウス! 東方の英雄か! 腕だけではなく目も良いらしいな神殺し! だが少し間違いだ、我は彼の英雄程度の英雄ではない! 創世の時代、地上に初めて降り立った英雄の中の英雄だッ!」
雷鳴を轟かせ、高らかに言い放つまつろわぬ神。
その姿を見て、燈也はうんざりとし、リリアナは天啓を得た。
「荒神の
ぶつぶつと、感情を失ったように機械的に呟くリリアナ。
それを聞き、まつろわぬ神は大いに喜んだ。
「ほう! 我が神格を見たか、西洋の姫巫女よ! 良い! 述べよ! 我が名を! 我が誇り高き神格を! 我が許す!」
促されるままに、リリアナはその神の正体を口にした。
「あなたは日本の極北、アイヌの地に誕生した英雄神...アイヌラックル!」
「如何にも! 我はアイヌの神! 荒ぶる雷、カンナカムイの息子にして、人間を導く者! 名高き最高の英雄、アイヌラックルだ!!」
「知らない名だな」
名乗りを完全に無視した燈也の拳がまつろわぬアイヌラックルの鼻っ柱を捉えるまで、あと一秒。
* * * * *
結論を述べてしまえば、勝ったのは燈也だった。
神すら恐れる当代最古の神殺しであり暴虐の化身、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。
イタリア最強の騎士にして(自称)世界で四番目の武闘家、サルバトーレ・ドニ。
ヴォバンと並んで「当代で最も粗暴な神殺し」と言われる最強の武闘家、羅翠蓮。
そんな化け物達と死闘を繰り広げてきた燈也にとって、今やマイナーな神など取るに足らない存在...とまではいかないが、拳を交えてきたカンピオーネ達と比べてしまえば、アイヌ最強を誇る神ですら劣ってしまう。
加えて、リリアナが施した対雷神用の術式が面白いようにハマり、アイヌラックルは全力を出せない状態に陥ってしまっていた。そうなってしまえば、あとの結果は目に見えたものである。
しかし、なんだかんだ言っても相手は神。
いかに自分が不利な状況であろうと、そんなものは関係ないとばかりに暴れ回り、燈也を苦しめた。カンピオーネ達との戦闘経験が無ければ、殺られていたのは燈也の方だったかもしれないと思うほどに。
その結果として、ホテルを始め、その周辺の街並は退廃した都市のように悲惨なものと化していた。
騒ぎを聞きつけやってきた護堂が目を背けたくなるほどには悲惨で酷烈なものだったと言える。
暗黒は消え去り、西日の照らす街並みは哀愁を漂わせていた。
拠点だったホテルすらも戦いの最中に崩壊してしまい、こりゃやべぇやり過ぎたとさすがに反省の色を見せる燈也は、とりあえずコーヒーを啜る。
「...まぁ、なんだ。怒涛がすぎるお前の人生には同情するよ」
魔王に励まされる魔王の背中は小さかったと、後にエリカは語った。
* * * * *
はてさて、そんなことがあっても魔王はいつだって魔王。
一晩寝たら陰のあった表情も晴れており、とりあえず反省の証として復興費をカジノで稼いでくると言い渡米した。
その際ロサンゼルスの守護聖人と一悶着あったものの、特に問題なく一国の国家予算レベルで荒稼ぎして世界経済に影響を与えたとかなんとか。
目が回るほどの大金を渡された正史編纂委員会では金に目が眩んだ連中との内部抗争があったらしいが、そんなものは魔王たる燈也の知る由ではない。
その後も、佐久本燈也という神殺しの魔王は世界各地で暴れ続けた。
たまたま来日した羅濠教主に新たなる権能を引っさげて再戦を申し込み引き分け、後に教主に師事し神に届く武道を習得、教主と共に日本に再臨した斉天大聖を撃破(尚、羅濠教主との共闘のため権能は得られなかった模様)、教主の元を離れた後は唯一会った事のないカンピオーネである黒王子アレクの元を訪れ、なんやかんやあって勝負をする羽目になるが勝利、そしてまたもやヴォバンと遭遇して死にかけ、なんの因果かヴォバンと夕食を共にし、アイーシャ夫人の話題で何故か盛り上がり、運命の歯車が二個くらい壊れたのか「トーヤ」「デヤン」と呼び合う仲に、日本に帰ってからは面白半分で護堂の学校である私立城楠学院に転入、つかの間の青春を謳歌している。
季節は既に秋に突入しており、木々の葉が深い緑から紅黄へと色を変えていた。
「なぁ護堂」
「ん? なんだよ」
学校帰り、新しくできたタピオカ屋に行きましょうと言い出したエリカに連れられ、燈也、護堂、そしてリリアナや祐理、そして何故かカレンにエリカ専属メイドのアリアンナ、加えて護堂の新ハーレム要因である清秋院恵那という見る者が見たら腰を抜かす面々が、タピオカを片手に下校道を歩いていた。
魔王が二人、タピオカなんぞを食べながら並び歩く姿は非常に異様なものだが、ここ最近は見慣れたものとなってきている。欧州の賢人会では「日本のカンピオーネはとても仲が良い、歴史上初の例だ」としている。
「俺さ、なんだかんだで戦ったことのない魔王ってお前とアイーシャさんだけなんだよな」
「.......俺は戦わないぞ?」
「えー」
つかの間の青春、つかの間の平和を謳歌していた燈也だが、そろそろ飽きがきた。ヴォバンのように血湧き肉躍る死闘を求めているわけではないが、少し体を動かす程度の相手が欲しかった。
「ちょっとだけ! 十分くらいでいいからさ〜。俺権能ナシでもいいし」
「なんで俺がお前と戦わなきゃならないんだよ」
「このままじゃ体や勘が鈍っちまう」
そこらの魔術師が聞けば奇声を上げて逃げ出しそうな会話だ。
燈也は何も、相手を選んでいないわけではない。ヴォバンやドニ、アレクと戦えばゲームで終わらないし、羅翠蓮は実質的に燈也の師匠であってゲームの相手にはならない。アイーシャは戦闘向きではないし、アニーは闘争を望んではいなかった。かと言ってそこらの魔術師呪術師では相手にならず、人類最高峰の武闘家ならば文句はないが、そんな達人はその辺にゴロゴロ転がっているものでもない。
故に護堂なのである。
「佐久本燈也。お控え下さい。魔王の遊戯は、人類にとっては災厄に等しいものです」
護堂に強請るような視線を向ける燈也を、彼の騎士でもあるリリアナが諌める。
彼女とて、燈也が護堂相手に本気になって殺し合いをするとは思っていない。本当に手合わせ程度の感覚で、修練の一環のつもりなのだろうことは分かっていた。
だが、そのせいで発生する被害がゼロとは限らないということも知っている。
ちぇっ、と不満そうに漏らした燈也は、残っていたタピオカを一気に飲み干した。
「神が降臨しろとは言わねーけど、なんか面白いこと起こんねぇかなぁ」
その言葉がトリガーだったのかもしれない。
言葉には力が宿ると、昔からよく言われてきた。俗に言う「言霊」というものだ。
内心に留めておけばいいものを、燈也は不用意にも口に出してしまった。故に、その言葉には霊力が籠る。言霊から有を生み出さんがため、願望が現実の事象に影響を与えようとするがために、歯車が廻り始めた。
『「なんか面白いこと起こんねぇかなぁ」? よろしい、ならば転移だ。世界の危機でも救ってこい』
「は?」
誰の声だったか。
その場にいた八人全員に、謎の声が届いた。上から聞こえてくるような、下から聞こえてくるような。出処を掴まさせない、頭に直接響くような声だ。
そして次の瞬間、燈也の足元が強く光る。
「うっわ何これすっげぇ既視感!!」
燈也の焦ったような叫びという珍しいものを聞きつつも、突然の出来事すぎて誰もその場を動けない。
眩い光に包まれた燈也は、その光が無くなった後、その場に残ってはいなかった。
「お、おい...? おい燈也!? どこいったんだよ! ...くそ、一体何が...!?」
「護堂! リリィもいないわ!」
「カ、カレンさんもですぅ...!」
跡形もなく、影すら残さず。世界を股に掛けた若き魔王とその従者達は、忽然と世界から消え去った。
どうしても雷系の権能は持たせたかったんです...リメイク前のオリ主くんの象徴的な能力だったので...許して...。
さて次行こう次。
サクッと世界の危機でも救っとこ。
《魔を祓い轟けよ雷鳴》
アイヌの英雄神アイヌラックルより簒奪した第3の権能。詳細不明。