前回、今までの倍くらいにまで増えるお気に入り登録数と上がる日間ランキングに反比例するかのように評価がだだ下がりしていったのを見て、意味がわからずに一生首傾げてました。
白は潔白の証っていうのは嘘だよ
「...おや? ふぅむ、これは予想していなかった」
遥か彼方、世界の理から外れた理想郷。
色鮮やかな花々が咲き乱れ、柔らかな陽射しが射し込む白亜の塔。
永遠に閉ざされた牢塔で、とある男が呟く。
「まさか、このタイミングで“彼”が介入してくるとは」
心底驚いたという風に、男は僅かに目を見開いた。
「だが、これは僥倖だ。うん、僥倖僥倖。これで万が一も無くなった」
うんうんと一人頷き、塔の窓から“外”を見透す。
その目にあるのは、これから訪れるであろうハッピーエンドへの期待。星が導く人理の勝利。男がこよなく愛する『美しいもの』を生み出す者への祝福の色だ。
「“彼”の行いは星の意思。正常な時間軸から外れた特異点では
それは憶測だったが、限りなく正解に近い推測だ。
男は微笑み、楽園の端から星の意思を見守る。来たるべき
人間に興味のない男だが、“彼”は少し別らしい。
「この滅びゆく世界を、さて、キミはどう救う? 異星の王、
* * * * *
既視感アリアリの謎光に包まれた燈也、リリアナ、カレンの三人は、気が付いたら大空の中にいた。
「ちょっ──」
いち早く
落下による風圧も加わり、とても口が開ける状況ではなかった。彼女も魔女とはいえ、未だ見習いの身。突然で唐突な自由落下など、失禁していないだけで十分褒められる。失神はしたようだが。
一方リリアナは、現状で適用できる魔術はないかと思考を巡らせていた。自分が助かるためのものではなく、カレンを助けるための手段を模索する。主である燈也のことは放っておくスタイルのようだ。是非もない、彼は自力で空を飛ぶ。
そしてそんな燈也はと言えば、
「芸がない」
まるで数泊したホテルの一室にいるかのような、妙な落ち着きをみせていた。さすが、三回目ともなれば慣れている。
下からかかる風圧をものともせずに体勢を整えた燈也は、慌てることもなく聖句を唱えた。
「《天を翔けるは我が威光。我は常に空に在り、全ての勝利を掴む者なり》」
炎を纏った戦車が降臨し、一緒に落下していたミルクティーが蒸発する。
失神してしまったカレンとリリアナを後ろの超快適空間にぶち込んだ燈也は、運転席で手綱を握った。
「さて...どこだ? ここ」
旋回しつつ、燈也は眼下を見下ろす。
そこにあったのは、荒れ果て干からびた大地。荒れた...というより、生を感じられない土地だった。草木の一つ、昆虫の一匹すらも見当たらない。
遠くには岩肌の山脈、逆側には嵐の砂漠が見える。とても生命が生きていける環境ではない、そんな大地だ。
このまま地上に降りるのもどうだろうとしばらく旋回を続けていた燈也だったが、そんな彼らを地上から登ってくる力の奔流が襲う。
「.....あ?」
天を駆ける戦車は、ジェット機に迫る速度とジェット機を超える小回りを誇る。遠距離からの攻撃を避ける程度は他愛もない。
危なげもなくその奔流を避けた戦車は更に速度を上げつつ、攻撃と思しき奔流の起点を正面に据えた。
カンピオーネになったことで格段に上がった視力でそちらを睨む燈也。彼の視線の先には、一騎の騎馬の姿があった。
「人間か? あれ」
こんな死んだ大地に生命があることに驚きつつ、燈也はじわじわと騎馬との距離を詰めていく。
その際にも、ほぼ絶え間なく騎士がビームのような赤雷を飛ばしてきていることから、少なくとも友好的な存在ではないことを理解した。
「敵、って決めつけることもないけどな」
言いつつ、燈也は戦車を飛び降りた。戦車は空を駆けたままであり、燈也が離れてもコントロールを失った様子はない。
飛び降りた燈也は地上に着地し、間をおかずに騎馬へと接近した。
騎士が赤雷を出す前に懐まで入り込み、突っ張りの容量で馬上からはたきおとす。
「ってェな、ンだてめぇ!!」
地面を転がった騎士が吼えた。
兜越しだからか多少くぐもってはいるものの、その声は少しだけ高い。
「何だてめぇってのはこっちのセリフなんだが。突然雷なんてぶっ込んできやがって。つーか赤い雷って何?」
倒れる騎士を見下ろす形で、燈也は立つ。
その構図に余計腹を立てたのか、騎士は赤雷を撒き散らしながら立ち上がった。
「黙れ! 叛逆者共の首が無いんだ、代わりにテメェの首を獲ってやる!」
「何言ってんだこいつ」
叛逆者だとか、代わりだとか。燈也にとってはとんと話が見えてこない単語の羅列だ。
しかしながら、分かったこともある。目の前の騎士は明らかに味方ではない、ということだ。
「
「何言ってんだテメェ。ハッ、諸共に消し飛べ!」
吼える騎士は、赤雷を纏った両手剣を、力任せに片手で振り回す。
およそ剣技とは言えないそれは、有象無象にとっては暴力の顕現に写るだろう。実際、その騎士は強い。
しかし羅濠の元で武芸を習得した燈也にとって、それは児戯に等しい稚拙な刃。型に嵌らないと言えば聞こえはいいが、そも、型とは技の集大。僅か一滴の水滴が大河になるように、先人達が長い時間と優れた才覚を持って築き上げてきた“型”は、粗雑な荒波を容易く破る。
最小から最大を。
僅かに踏み込んだ燈也は、左手の甲で剣の腹を撫でる。軌道が逸れた剣は、ぶつけどころを失った慣性と共に燈也の後ろに流れ、騎士の体を燈也へと近付けた。
「──フッ」
短く息を吐いた。剣を払った手とは逆、右手を握る。
両足を大地に根付かせ、足から腰、腰から肩、肩から腕へとその力を相乗させながら伝達していく。
何倍にも膨れ上がった力が燈也の右拳に乗り、それは分散することなく騎士の体を打った。
「──────」
声もなく、ただ肺から息が吹き出る音がする。
鎧の上からでも十分にその威力は発揮され、騎士の体はまるで強打者に打たれたライナー性の鋭い打球のように、地面とほぼ並行な直線を描いて飛んでいく。
だいたい四十メートルほど飛んだ騎士は、一度バウンドし、そこから更に二十メートルほど転がった。地面と鎧が擦れる度に砂塵が舞い、死んだ大地を抉り取る。
常人ではまず生きていられない。人類最高峰の武芸者であっても生存は怪しい。そのレベルの攻撃を喰らった騎士は、だが、絶命することはなかった。
「──ぁっ、ガハッ、ぅ...!」
吐血でもしたのだろうか。兜と鎧の付け根、首の辺りから血が流れ出す。
窒息を間逃れるために、騎士は兜を取り払った。取り払ったというよりは胴の鎧に収納したと言うべき動作だったが、些細なことだと燈也は無視する。
太陽の下に晒された騎士の顔は、血で染まっていた。吐いた血が顔面に付いているのだ。
その為、詳細な顔相は分からない。分かるのは、血で染まって尚爛々と輝くエメラルドの瞳と、少し
虫の息でも消えない、その瞳に篭った闘志。瞳の色も合間り、どうにもかの狼王を思い出してしまう。
燈也は騎士に歩み寄り、転がる騎士を見下ろした。
「お前、なかなかいいな」
久しぶりの実戦に、燈也は僅かではあるものの喜んでいた。
しかも相手は強い。技は無く、粗雑の一言に尽きる戦闘スタイル。だが、有り余るセンスがその全てを超越せんと言わんばかりに荒れ狂っている。まるで野生の獣、それも人を喰らう猛獣だ。
「ヒューッ...! ヒューッ...!」
犬歯を剥き出し、ままならない呼吸で苦しみながら、その瞳が
本来なら、ここで殺しておいた方がいいのかもしれない。後々の禍根ななる可能性が高いし、この獣を飼い慣らすことは至難の業だろう。
しかし、燈也がとった行動はそれとは全くの逆。即ち、騎士の回復であった。
何処で学んできたかも分からない回復魔術を使い、騎士を癒す。傷は塞がり、その影響で騎士が体の動きを取り戻した。
「死ね!!」
白銀だった剣が赤黒く染まり、その凶刃が燈也の首を狙う。
岩をも斬り裂く剣を、燈也は片手で止めてみせた。騎士はまともに力を溜める時間もなく、今の一撃も全力の一閃ではなかったが、それでも騎士を驚愕させるのには十分すぎる。
「ナニモンだテメェ.....!」
思わず、騎士は尋ねた。尋ねずにはいられなかった。
自信の剣を受け止める者などそうそうおらず、加えて今の騎士は普段よりも数倍の強さを持っている状態だった。騎士に油断慢心がなかったと言えば嘘になる。だがそれでも、騎士が敵に回そうとした燈也という魔王は異質が過ぎた。
問われた燈也はと言えば、余裕を持っていた。
それは自分の優位を示す余裕であり、相手を萎縮させる余裕だ。絶対的強者、抗うことのできない存在。そんな自分を相手に想像させる。勝負は気から。そういう考えの下の態度だった。
「なに、ただの魔王様だよ。それで、そういうお前は?」
新たなる異界での戦闘は、魔王の勝利で幕を下ろした。
* * * * *
リリアナ・クラニチャールは混乱していなかった。
訳も分からず突然大空へ放り出され、よく分からないうちに空飛ぶ戦車の車内に放り込まれ、降りてみれば主である魔王が見知らぬ騎士を縄で縛っていようとも、彼女は混乱などはしなかった。
王の奇行蛮行はいつものことだし、燈也とヴォバンが同じテーブルで食事を摂っているところをとあるテレビ中継でなんの前触れもなく突然目撃した時よりかは幾らかマシな事態だった。
その代わり、脳の奥底から鈍い頭痛が襲ってくる。
「...どういう事態ですか、これは」
こめかみを人差し指と中指で摘みながら、リリアナは問う。
「この円卓の騎士とやらが襲ってきたから返り討ちにした」
「ああ、はい。そうですか。円卓の。.....円卓の騎士!?」
「そこらの円卓の騎士と一緒にすんなよ、ガキ。オレは円卓最強の騎士、モードレッド様だ」
「叛逆の騎士!?」
リリアナ・クラニチャールは混乱した。
カレン・ヤンクロフスキは錯乱していた。
最後の記憶は、眩い閃光に包まれて視界が奪われたこと。大空へ放り出された辺りはあまりの衝撃に記憶が飛んでいるらしい。
視界が真っ白に染まったあと、目を見開いてみればそこは見知らぬ土地。見渡す限りの死んだ大地と、空に輝く惑星レベルの巨大な光輪。
隣では主たるリリアナが、その主である燈也と縛られた見知らぬ騎士に何やらギャーギャーと物申している最中だった。
「えと.....?」
とりあえず乱れたメイド服(日本製)を正し、主達の会話に耳を傾けてみる。
「円卓!? 円卓ってあの円卓ですか!?」
「応よ! 獅子王が率いるあの円卓だぜ!」
「いや、知らんけど」
「獅子王とはなんですか獅子王とは! リチャード一世のことではないのですかそれは!」
「はぁ!? テメェ、父上をそこらの王と間違えてんじゃねぇぞ! アーサー王に決まってんだろ!」
「いや、知らんけど」
「そんな...まつろわぬランスロットは数年前に確認されたという記述が賢人会の資料にはあったが、まさかまつろわぬアーサーやモードレッドまで...!?」
「なぁなぁ。こいつ、さっきから何言ってんだ?」
「いや、知らんけど」
もうめちゃくちゃだったしぐだぐだだった。
混乱を越え錯乱し、いっそ冷静になってきたカレンは、再度周囲を見渡した。
「.....
気温五十度前後。肌を刺すような日差しがカレンの柔肌をゆっくりと焼く。
「お、カレン。目ぇ覚めたか。ほれ、水。飲んどけ」
ギフトカードから水の入ったペットボトルを取り出した燈也は、それをカレンへと投げ渡す。
突然飛んできたペットボトルをキャッチできず、一度地面に落としてから拾うカレン。その目は燈也への非難の色が浮かんでいたが、文句を口にすることはない。
そんなカレンの目に気付きながらも無視した燈也は、パンっと響く柏手を打った。
「ほらお前ら、カレンも起きたしそろそろ行くぞ」
「...行く、とは?」
リリアナが問う。
こんな訳の分からない場所に引っ張りこまれて、一体どこに行くと言うのか。本当に分からなかった。
「とりあえずは円卓の騎士がいるっつー“聖都”だな」
「ハッ! お前らじゃ聖都には入れねぇよ!」
「お前人質にすればいけんだろ、円卓最強の騎士サマ」
「それこそ無理ってもんだ。なんたって、オレに人質の価値なんざねぇからよ! 残念だったな!」
「言ってて悲しくない?」
まぁどうでもいいけど、と燈也は続ける。
「とりあえず、だ。まずは聖都に向かう。食料調達しなきゃなんねぇしな」
言って、燈也は日輪の戦車を再度召喚する。
納得のいっていなさそうなリリアナとある意味落ち着いているカレンを車内に乗せ、燈也は縛ったモードレッドと一緒に運転席へ乗り込んだ。
「それで、聖都ってのは...どっちだ?」
「教えねーよ」
「んー、あっちだな。ここから東の方」
僅かに目を見開いてから沈黙するモードレッドの態度を答えと取り、燈也は戦車を走らせる。
「フン、勘は良いみたいだな。それともただの運か?」
モードレッドが囀る。
縛られながらも、その態度が軟化することはない。
「まぁ? お前はあの叛逆者共とは違う勢力らしいしな。あの尼野郎と一緒で、ハナっから殺されるこたぁねぇだろうよ」
「尼...野郎?」
あまりの矛盾に疑問符を浮かべる燈也だったが、一々気にしても仕方がないなと頭の端っこに追いやる。
空を走ること、数十分。
燈也達の目の前には、巨大で荘厳な白亜の城塞が構えていた。
「あれが獅子王ってのの居城か...これまたデカいな。見栄っ張りめ」
「父上は壮麗だからな!」
胸を張るモードレッドを横目に、燈也は手頃な位置に戦車を下ろす。
荒野の中で異彩を放つ、純白の豪華絢爛な城塞都市。戦車から降りて数十メートルはある壁を見上げていると、一人の騎士がこちらへ歩み寄ってきた。
黒い服の上にファーの付いた豪華な造りのマントを羽織り、白銀の篭手を両手両足に装備している、ブロンドの紳士然とした男だ。
「(.....強いな)」
燈也をして、そう評価せざるを得ない。
モードレッドも強かったが、目の前の騎士は桁が違う。正攻法で倒すのは難しそうだという、カンピオーネとしての勘が働いていた。
「はじめまして、異邦の者よ。私はガウェイン、円卓の騎士です」
「佐久本燈也だ」
紳士然とした男は、やはり紳士然とした仕草で燈也へ語りかける。
その最低限の返礼として、燈也は自らの名を名乗った。
「では、ミスター。王がお待ちです。どうぞこちらへ」
「はぁ!? 父上がこいつを!?」
燈也を城塞の中へと促す騎士──ガウェインと、それに不信を抱くモードレッド。縛られた体をエビか何かのように跳ねさせ、自らの存在をアピールする。
「黙りなさい、モードレッド」
「アグラヴェインはどうした! あいつが、こんなやつの謁見を許すわけがないだろ!?」
「黙れと言っているんです。アグラヴェイン卿は、例の山の翁を捕らえている砦へと向かいました。これはアグラヴェイン卿の意思ではなく、王のご決断。反論は認められない」
燈也の知らない人間を話題に上げつつ、ガウェインとモードレッドは話を進める。というよりも、モードレッドが窘められている感覚か。
どちらにせよ、そんなものは燈也にとって関係のないこと。良いと歓迎されようが、悪いと拒絶されようが、決めるのは王たる燈也だ。
「会ってみようか、その獅子王...アーサー王とやらに」
早く案内しろ、と燈也はガウェインを促す。
それに応じたガウェインは、モードレッドから視線を切って燈也達に背を向けた。ついてこい、という意思表示らしい。
「お前らも来い。ここじゃ熱いだろ」
そう言って、戦車からリリアナとカレンが下車した。
振り向いたガウェインが一瞬目を輝かせ、ある一点を見て落胆し、そして再度紳士然とした自己紹介をする流れがあるのだが、カリバー案件なので割愛。
* * * * *
燈也、リリアナ、カレンの三人は、燦然とした王宮の廊下を歩いていた。
射し込む太陽の光が反射し、白く輝く王宮。外界の荒野とは違い、緑や水が見られるそこは、まさに楽園の如く。目に映る悉くがひどく神秘的で、少女たちだけでなく、燈也の目すらも奪っていく。
そんな風景を眺めること、十数分。
長い長い階段を登り切ったその先に、一際清廉で潔白で、それでいて全てを拒むような、そんな広間が現れた。
「お待たせしました、王よ」
まるで高次の世界をそのまま引き下ろしてきたような、厳格な場所。
壁際には、全身を甲冑に包んだ騎士たちが鎮座している。ピクリとも動かない彼らは本当は置物なのではないかとすら思えるが、そこには確かな気配があり、張り詰めた空気の一部として機能している。
そんな空間の中において、比類なき豪奢な椅子があった。豪奢とはいっても、広間との調和は測れており、嫌味な高級感は感じさせない。寧ろ、ただそこに在るだけで、その空間をより一際荘厳なものへと昇華している。
下手な人間が座れば、たちまちその椅子の存在感に飲み込まれてしまい、周囲の目からも隠れてしまうかもしれない。そう思わせるほどの椅子だった。
この厳格な空気を作っているのはその椅子である。そう言われても納得せざるを得ない光景ではあるが──椅子を超える神秘を纏った者が、そこにはいる。
「──ご苦労」
一言、告げる。
ただの労いの言葉だが、まるで言葉そのものが“重み”を持ったかのように、場へと重くのしかかった。
ガウェインはその言葉を難なく受けるが、余波を喰らった少女たちはたまったものではない。神と対峙したことのあるリリアナはまだしも、カレンにとっては過呼吸を起こしかねない程の重圧だ。
燈也達は、嫌でも理解する。
彼の者こそが獅子王。この清浄なる城塞を支配する、偉大なるアーサー王であると。
「──よくぞここまで来た。歓迎するぞ、隷属者よ」
鬣を思わせる甲冑を取り、アーサー王はその素顔を晒した。
純白の鎧に身を包まれたアーサー王は、あきらかに女性である。語り継がれた伝記とは異なる性別。その事を気にする者など、今更いない。気にすることができないだけの理由もあった。
「──────あ?」
場が移り変わったと、アーサー王と燈也以外がそう錯覚した。
荘厳で静謐だった広間は、一変して死を思わせる煉獄と化す。
その発端は、言うまでもなく燈也だった。
彼の放つ怒りが。獅子王と比肩する重力となり、場を押し潰す。
「気を悪くさせたか? だが事実だ。貴公は万人の隷属者たるが故に、この時代、この特異点へと召喚された。そうだろう」
「ちげぇよ、何言ってんだテメェ。俺は“王”だ。誰にも隷属なんかしちゃいねぇ」
言葉の大砲が応酬する。
円卓の騎士であるガウェインやモードレッドですらたじろぎ、カレンに至っては白目を剥いてしまうほどの高火力の舌戦。
女神たる王と、勝者たる王。彼らの言葉に込められた密度は、普通のそれとは桁が違う。
「ふむ。隷属者、という言い回しが気に食わないか。では言い方を変えよう。人理の守護者...は、かのカルデアにこそ相応しいか。であれば──」
「ごちゃごちゃとうるせぇな。佐久本燈也、箱庭第2105380外門《ヨグソ・トース》リーダー、神殺しの魔王。それが俺だ」
「...神殺しとは、私を相手に大きく出たものだ。以前に神を殺めた経験でも?」
「四回くらいな」
「...そうか...。では神殺し、佐久本燈也よ。改めて、貴公の来訪を歓迎しよう」
若干微妙そうな顔をした獅子王は、気を取り直したかのように言葉を紡ぐ。多少言葉の圧は和らいだが、それでも彼女の言葉は一つ一つが厳格だった。
「歓迎される理由が分からん。...いやまぁ、こっちから押しかけといてなんなんだけどな」
対する燈也も、言葉から棘を取り去り、体の力を僅かながらに弛緩させていた。今ここで戦う意思はなくなったということの証明なのだが...その程度の差異を理解できるのは、この場においては獅子王ただ一人。
完璧な騎士と謳われたガウェインは、いつでも愛剣、
それはリリアナとて同じことで、彼女は気絶してしまったカレンを支えつつも、いつでもイル・マエストロを抜けるように準備していた。
しかし、そんな二人の思いは無意味だ。
「理由など言うまでもない。いずれこの世界は滅びる。有り得ぬことではあるが、魔術王との決戦もないとは言い切れぬ。だから私は欲したのだ。貴公の力を、星の願いたる貴公自身を」
「...待て。話が見えん。世界滅亡だとか魔術王だとか、もっと分かるように話せ」
「...? “星”から何も伝えられていないのか?」
「何も聞いちゃいねぇよ」
不満そうに語る燈也へ、獅子王はふむ...と考え込む仕草をとる。
「特異点は、彼らの干渉が届かぬ断絶の間。であれば、それもまたありえる話だ。──では語ろう。人理の焼却と、その黒幕について」
獅子王は主人公の性質を履き違えています。