問題児? 失礼な、俺は常識人だ。   作:怜哉

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もっきゅもきゅにしてやんよ

 

 

 

 

 

 

 結論を言ってしまえば、女神(獅子王)神殺し(魔王)は訣別した。いや、しかけた(・ ・ ・ ・)、という方が正しいか。

 

 

 獅子王の語りに耳を傾け、獅子王の所業を知り、人理の行く末を知った。

 その上でなお、燈也は獅子王の思惑を否定する。

 それは人理の未来を憂いたわけでも、魔術王の大偉業に憤ったわけでもない。言ってしまえば、燈也にとって人理など視野にも入っていないのだ。

 見知らぬ世界の、預かり知らぬ火事だ。進んで関わろうとは思わない。

 

 しかし、それを良しとしないのが獅子王だった。

 人理の保管者たる(予定)の自らを肯定しない者は、彼女の正義に叛する“悪”だ。

 故に、闘争が勃発するは必然の理。もとより、女神と神殺しが顔を合わせた時点でこうなることは決定付けられていたのかもしれない。

 

 分は、僅かながら燈也にあった。

 全力の技と、全霊の権能。神を屠り、天上を敗者たらしめる勝者(カンピオーネ)の渾身。その全てを使って、燈也は獅子王を押した。

 あと一歩。残り二秒もあれば聖槍を破壊できるかという刹那。

 魔王の泣き所とでもいうべき、従者たる生身の人間。リリアナとカレンが、その首筋に一閃の傷を受けた。薄皮一枚ではあるが、確かな傷だ。

 下手人は、壮絶を前に割り込むことすら出来なかったガウェイン──ではなく、無言を押し通していたフルアーマーの騎士たちだった。

 

 人質を取られた燈也は大人しく拳を下ろす。

 対する獅子王も、彼に追撃などはしなかった。代わりにリリアナたちを人質とした騎士たちを一掃する。

 

 

 一度訪れた空白。

 しかし、その空白に再び戦場が写し出されることはない。その前に、このままでは負けることを悟り、かつ非礼を詫びるという獅子王が槍を収めたのだ。

 ありえないことだ、とガウェインは目を見開いた。

 あってはならないことだ、とモードレッドは憤った。

 

 しかしながら現実として、燈也は獅子王に矛を収めさせた。

 燈也としても、無抵抗の相手を殴ろうという気はない。図らずも特異点そのものを破壊しかけた戦いは、ここに幕を下ろす。

 

 

 

 

 というわけで。

 

「どうにも、ここの飯は味気ない」

 

 燈也は今、食客として聖都に腰を落ち着かせていた。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

「どうにも、ここの飯は味気ない」

 

 食卓に並び、もしゃもしゃと皿に盛られたものを口に運び咀嚼する俺──佐久本燈也は、不満を隠すことなく打ち明けた。

 それもそのはず。俺は世界各国を巡り、その各地で魔術師だか宗教徒だかのと名乗る胡散臭そうな成金どもに、接待として各地の美味い飯をたらふく食わされてきたのだ。そんじょそこらの美食家並には舌は肥えていると言っても過言じゃない。

 そんな俺の前に、ほぼ毎日出される聖都の食事。それは、ポテトをマッシュしただけの、シンプルにシンプルを極めたものばかりだった。

 

 いや、一日で飽きるわこんなもん。

 

「そうですか? 生前から、ポテトにブレット、そこにエールとビネガーがあれば私は満足ですが」

 

 そうのたまうのは日中三倍ゴリラこと、ガウェインだ。

 毎日毎日、彼は律儀にポテトをマッシュマシュにしているらしい。そのポテトに拘る執念が怖い。

 同じくマッシュポテトを辟易とした表情で見つめるリリアナが、ふとした疑問を抱く。

 

「というか、なぜ円卓の騎士がジャガイモを...? この作物は南米のものでしょう。当時のブリテンには存在しないものだと思いますが...」

 

 それ以上はいけない(スプリガン)

 

「つーかよ、なんで騎士が飯作ってんだよ。コックはいねぇのか」

「何分、聖都の民は“聖抜”に選ばれた者しかいない。調理を生業としている者は限りなくゼロですし、何より我らも彼らも食事を重要視していないので」

 

 つまり、ろくに料理するやつがいないと。

 これは由々しき問題だ。俺の精神衛生上よろしくない。

 

「カレン。お前、明日から厨房入れ。メイドの本領だろ」

「私の本業は魔女なんですけどね。見習いですけど」

「安心しろ、カンピオーネ()付きって時点でそこらの魔女より上だ。なんなら俺の魔力の一つや二つ、供給()してやろうか?」

「謹んで遠慮します」

 

 相変わらず、このメイドは肝が据わっている。

 どっかの国で会った魔術結社の長は俺を見た瞬間土下座する勢いで平伏してきたってのに。度胸だけなら確実にその長より上だ。

 

 それはそうと、カレンには明日から厨房へ入ってもらうことになった。これで明日からの食事についてはひとまず大丈夫だ。そろそろノイローゼになりそうだったからな。芋しか受け付けない体にならなくてよかった。

 

「おや、明日の食事はそこの可憐な少女(レディ)が用意してくれるので? ありがたいことです。ポテト地獄にはさすがの私も飽きがきていたところだったので」

 

 ポロロン、と弦楽器を奏でるのは赤毛の騎士。名をトリスタンというらしく、盲目の弓兵だ。弓って言っても、武器は楽器だけどな。なんでも、音色を斬撃として飛ばすから弓兵なんだとか。意味分かんねぇ。

 

「ふん。食事など、王より魔力を拝受している我らにとっては不要なものだ。限りある資源の無駄でしかない」

 

 そう鼻を鳴らすのは、円卓の補佐官でもあるアグラヴェイン。眉間にシワの寄った彼は、俺への敵意を消さないまま、俺を食客として受け入れている。まぁ俺としてもそっちの方がやりやすいところもあるため、特に気にしてはいないのだが。

 

 しかし、彼の今の発言は些か頂けない。

 食事はエネルギー補給のためだけの行為ではない。美味しい食事は英気に繋がり、ここぞと言う時の底力にもなり得る。美味い飯、というのは案外侮れないものだ。うちのコミュニティにも優秀なコックの一人や二人は欲しい。

 カレンはほら、侍女だから。料理専門の子じゃないから。

 リリアナが作る飯も美味いけど、道を極めんとする本職のやつらには劣る。まぁリリアナは大騎士であり魔女。一般家庭より上の調理スキルを持っているだけで十分に凄いことなんだが。

 

「おい、アッくん」

「アッくんと呼ぶな」

「本物の“料理”ってやつを見せてやる、アッくん」

「アッくんと呼ぶな」

 

 袖を捲る仕草をし、俺は席を立つ。

 空になった皿を持って俺が向かうのは、この宮殿の厨房だ。九割は獅子王の食事を作るために機能しているというこの厨房は、どこから取り寄せたのかイマイチ分からない食材がたくさんある。海魔肉ってなんだろう、魚介類の何かなのかな。

 

 皿を水に付けた後、俺は食料庫を覗いた。

 海魔肉を初めとして、ゲイザー肉、スフィンクスの涙、フグ鯨などなど、見たことも聞いたこともないラベルの貼られた食材が並んでいる。なんだこれ、ロースバナナ? 肉なのかバナナなのかはっきりしろ。

 そんな奇天烈食材たちを一旦無視し、俺は見知った食材たちを引っ張りだす。

 

 俺が何をしようとしているのか。そう、料理である。それ以外だったらなんだってんだって話ではあるんだが。

 アッくんに本物の料理を見せるため、俺という一人のエセ美食家は立ち上がった。世界各国で味わった料理の品々、そこから学んだ俺の調理テクを見ろ。

 え? そんな自信があるんだったらお前が飯作れって? やだよ、人が作ったもん食う方が美味いもん。

 

 さて、まずはライトに。中東で屠った魔術結社がご馳走してくれたバターピラフを。なんでも数日前まで聖都にいたとある人物が大量に米を置いていったとかで、今聖都では米が有り余っているらしい。だってのに米を使った料理が出てこないというのは何事か。

 

「バターだけだとちょいもの足りねぇかな...鶏肉入れっか」

 

 バターチキンピラフに変更となった。微調整だ微調整。

 食材を切り、炒める。重要なのは火力だ。強火で豪快に!だけが料理じゃない。当たり前か。

 火を使いこなすことで、食材から溢れ出る美味さは段違いになる。ってフランス辺りの高級レストランの料理長が言ってた。

 

 

 

 暫くしてバターチキンピラフが出来上がり、それを意気揚々と食卓に運ぶ。

 

「ふっ、おあがりよ」

 

 俺はキメ顔でそう言った。

 

「おぉ! うまそーじゃねぇか、いっただっきまーす!」

 

 いつの間にか外回り()から帰ってきていたモードレッドが食い付く。熱いから気をつけろよ。

 

「ん、んっ! んめぇ!! なんだこれうめぇ! ポテト以外の味がする!」

 

 それ本当に褒めてる? 舌と頭がバカになってるだけじゃない?

 多少訝しんだが、モードレッドだけでなくトリ公や三倍ゴリラ、リリアナやカレンも美味いと言っているからきっと美味いんだろう。集団味覚オンチになった説は拭いきれない可能性ではあるが。

 

 アッくんも一口、スプーンで掬って口に運ぶ。

 

「...ふむ、悪くない」

 

 アッくんの悪くない頂きました。

 

「しかし」

 

 しかし?

 

「塩気が足りんな。あとひとつまみ、と言ったところか。それから鶏肉。焼く前に砂糖や酒を染み込ませると肉がパサつかない」

 

 ほあ?

 

「バターは多いな。もう少し少なくて良いだろう。ほかにも多々あるが...まぁ妥協点として“美味い”」

「ほ、っほぅ...?」

 

 何それ。お前美食キャラなの? じゃあ「食事など不要だキリッ」とか言うなし。

 てか普通に傷付いた。俺のプライドが傷付いた。

 

「待ってろアッくん、次の料理を作ってきてやる!」

「アッくんと呼ぶな」

 

 馬鹿野郎コノヤロウ! お前、俺はやるぞお前!

 

 

 

「魚介ラグーソース和えパスタ!」

「魚...これはタラか。ふむ、悪くない。しかしあと塩をもう一振り、生クリームは多いな」

 

「鮭ときのこのバターホイル焼き!」

「味を付けすぎだ。鮭本来の味を殺してどうする」

 

「真鯛の土鍋飯!」

「魚介が続きすぎだろう。これでは飽きがくるわ。それから砂糖を少々入れてみろ、王好みになる」

 

「かぼちゃプリン!」

「もう少し柔らかめが王の、ついでに私の好みだ」

 

 

 結構アッくんの舌を真に唸らせることはできず、俺は力不足を痛感せざるを得なかった。やっぱり食べただけじゃその味の再現は難しかったか...。

 

 ...あれ。なんで俺、こんなに一生懸命料理なんかしてるんだろう?

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 時は少し遡り、燈也と獅子王がドンパチ小戦争をカマしていた頃。

 

 山の民が隠れ住む村の一つにて、人理継続保障機関「カルデア」の一行は、村をあげての葬儀に参列していた。

 

 誰の葬儀か。犠牲になった村人達の葬儀だ。

 何の犠牲か。獅子王の軍勢による蹂躙の犠牲だ。

 

 湖の騎士に、悲しみの子。二人もの円卓の騎士...獅子王の騎士に襲われた村の被害は甚大であり、捧げる冥福の祈りも一つや二つではない。

 凄惨な現実を前に、カルデアのマスター──藤丸立香は奥歯を噛む。

 

 沈痛を浮かべる藤丸の隣で、身の丈を越えるほどの大盾を持った華奢な少女が、震えた声を絞り出した。

 

「どうして、ここまで...っ」

 

 彼女の声には、憤りと困惑の色が滲んでいる。

 無辜の民を躊躇いなく殺す獅子王やその騎士達へと憤りと、あのアーサー王がどうしてここまで“堕ちた”のかという困惑。いや、そもそもまだ少女には、これが本当にアーサー王の所業だと信じられず、また信じたくもなかった。

 

 俯く少女に、藤丸立香は拳を握ったまま声をかける。

 

「...行くぞ、マシュ。アトラス院に急がなきゃ」

 

 マシュ。そう呼ばれた少女は、唇を強く結び、藤丸の指示に従う。

 拭いきれない感情を胸に村を出ようとするカルデアの一行に、背中から声がかかった。

 

「よう、もう行くのか」

 

 声に反応し、藤丸は跳ねるように振り向く。

 同じくマシュも振り返り、そして驚愕の声をあげた。

 

「アーラシュさん! もう起きて大丈夫なのですか?」

「おう! 藤丸がくれた魔力と、藤太殿の美味い飯を食ったからな。怪我の方はもう全快したぜ」

「さ、さすが大英雄...」

 

 藤丸の呟きに、アーラシュと呼ばれた男は歯を見せて笑う。

 

「砂漠に行くんだろう? なら村のことは任せとけ! ──なんて大口は、さすがにもう吐けないか。失態を晒したばっかりだしな。だが、挽回は必ずする」

 

 英雄らしく、覚悟と闘志の篭った瞳。

 そんな目を向けられて、信用しない藤丸ではない。

 

「任せた、大英雄!」

「おう!」

 

 両者ともに親指を上げ、笑う。

 

「村の護衛も、任せとけとまではいわんが...今回は呪腕殿たちもいる。生き残ったやつらや、あの(・ ・)嬢ちゃん(・ ・ ・ ・)は何があっても守ってみせる。オレの命にかけてな」

自爆(ステラ)はダメだよ?」

 

 不穏な一言に釘だけさして、藤丸は山を降りた。

 

 藤丸と共に山を降り、アトラス院へと向かうのは、錚々たる面々だ。

 

 まず、マシュ・キリエライト。

 大盾を携えた少女は、こと防御力という面では最高だ。かの転輪する勝利の剣を防ぐほどであり、まだその真価を発揮していない...できていない状態。様々な脅威からマスターを守る者だ。

 

 サー・ベディヴィエール。

 円卓の騎士にして、銀の腕を携えた者。その銀腕は獅子王の騎士と対等に渡り合える実力を持っている。

 

 玄奘三蔵。

 言わずと知れた聖人。御仏の導きとかなんとかで無茶でもなんでも罷り通す、トップレベルの霊基を誇る色モノのサーヴァント。ぎゃてぇ。

 

 俵藤太。

 東洋のドラゴンスレイヤーにして、お米のお兄さん。彼の存在は餓死という概念を無くす。なお、ドラゴンスレイヤーとはいうものの、倒したのは平将門と大百足。むしろ龍神さまの救世主的なあんちゃん。

 

 

 そして、エドワード・ティーチ。

 カルデアにて藤丸に召喚された「海賊の象徴」。海賊といえば黒髭であり、黒髭といえば海賊。生前は敵味方隔てなく恐れられた非道の悪漢だが...今ではただの全方位オタク。美少女フィギュアのキャストオフが現在彼のマイブーム。

 

 さらに、ジャンヌ・ダルク。

 信心深く清廉で善良な少女。全てを慈しみ、何者も憎まず、己の辿った裏切りと死すら“罰と救済”であると受け入れる聖女──が、夏の魔法的なアレで開放感マシマシになった真夏の聖女。色々とふわっふわで能天気な、自称・マスターのお姉ちゃん。イルカ界のスタァ。

 

 

 以上、色モノに色モノを混ぜて、ひと握りの温情をまぶした混沌より混沌としているカルデア陣営。

 彼らが行く先は果たして絶望か、それとも救済か。少なくとも、荒れた大地はとりあえず海に沈むだろう(確定)

 

 

 

 * * * * *

 

 

 燈也たちが聖都に滞在し始めてから、早くも二週間近くの時間が過ぎ去った。

 

 何不自由のない生活を送りながら、リリアナは焦っていた。

 

「リリアナ様、紅茶をお持ちしました。...どこの茶葉かは分かりませんが」

「そんなものを出すんじゃない」

 

 文句を言いつつも、鼻腔をくすぐる爽やかなハーブ系の香りにあてられ、カレンの差し出してきた紅茶を啜る。

 

 時刻は夜。

 聖都の民は皆寝静まり、騎士達は交代で荒野を見張る、月夜に照らされた白亜の城塞。

 虫の音も聞こえぬ静寂な夜に、リリアナは怪しく輝く月と、謎の光輪を見上げた。

 

「.....はぁ」

 

 思わず、リリアナの口からため息が零れる。

 それは決して、闇夜に咲く月光の神秘に浸ったからではない。己の無力さを改めて思い知ったからだ。

 

 この聖都にきてから、リリアナは円卓の騎士を《見て》きた。

 彼らの目的はリリアナにとって褒められたものではないが、彼らの実力は本物だ。今のリリアナでは足元にも及ばず、彼女の宿敵であるエリカ・ブランデッリと共闘したとしても、恐らく敗北する。

 

「(それでも、王は彼らをも一蹴する)」

 

 ガウェインやトリスタンを見て「いや、あいつらつえーよ」などと言っている燈也だが、彼らの主たる獅子王をあと一歩まで追い込んだし、戯れで行われたvsガウェイン戦では何だかんだで燈也が勝利を収めた。

 

「(それに比べ、私はどうだ)」

 

 まつろわぬアイヌラックルを殺めた際には多少なりとも助力できたが、それ以外では全くと言っていいほど役に立っていない。

 それは仕方のないことだ。燈也が相手にしているのが神やら魔王やら英霊やらと、人の領域を大きく超越した存在たちなのだから、人の身であるリリアナが追いつけないのは当たり前。むしろ良くやっている方である。

 

 しかし、リリアナはそんな“当たり前”のことに思い悩んだ。

 

「.......はぁ」

「まったく。そんなに落ち込まないでくださいよ、リリアナ様。円卓の騎士殿たちに完膚無きまでに負けたくらいで。それに今日は一太刀入れられたじゃないですか」

「たった一撃だろう。しかも...負けたし」

「粛正騎士さんには勝てるようになってきたじゃないですか」

「勝率二割もいいところだろう。...今日は負けたし」

 

 聖都に滞在し始めてから約五日間、リリアナはのほほんと過ごしてきたわけではない。彼女なりに研鑽を積み、少しでも燈也の力になれるようにと努力してきた。

 しかし、その結果はあまり芳しくないらしい。

 

「私なんて粛正騎士さんにワンパンでやられるんですよ? ワンパン。剣すら使われずに。燈也様もおっしゃられてましたけど、あの粛正騎士さんたち、少なくとも一流魔術師の三倍は強いらしいじゃないですか。そんな相手に一太刀入れれたんだから、成長してますよ」

 

 落ち込む主をなんとか元気づけようとするカレン。

 だが、リリアナはそれに満足などしない。

 

「.....王は粛正騎士をワンパンしてたぞ」

「それは燈也様(カンピオーネ)がおかしいだけです」

 

 空になったリリアナのティーカップに新しく紅茶を注ぎ、呆れ混じりに答える。

 それでもリリアナは暗い顔をしたまま、虚ろな目で窓の外を眺めていた。

 

 

 リリアナは焦っていたし、病んでいた。

 生まれてこの方優秀の部類にいた彼女は、人生で最大の劣等感に苛まれて最高に病んでいたのだ。

 

 

 

「(...まったく)」

 

 弱りきっている主を見て、カレンは黙って息を吐いた。

 それは明確な“呆れ”だ。窓辺で死んだ目をしているリリアナに、隠しきれない呆れを抱いている。

 

「(本当に気付いていないのでしょうかね? ご自身がすでに、人の身を超えつつあるということに)」

 

 リリアナが相手取ってきたの粛正騎士。あれらは一体一体が並の英霊と同等の力を持つ、正真正銘“人の枠を超えたモノ”だ。そんなものたちを相手に、リリアナは少ないながらも勝利を収めている。

 そんなことは、所詮人の身でしかない魔術師には到底不可能なことなのだ。それが例えエリカ・ブランデッリであればほぼ不可能であり、彼女の父であるバウロ・ブランデッリや、羅濠の弟子である陸鷹化でさえ、粛正騎士に勝利することは困難を極める。

 

 燈也があまりにも簡単に粛正騎士を屠るものだからリリアナは勘違いしているようだが、粛正騎士とは本来、そんな相手なのである。

 

「(加えて、あの円卓の騎士...ガウェイン卿に一太刀入れた)」

 

 それで落ち込んでいる人間など、カレンからしてみれば本当に意味が分からない。

 

「(『俺の魔力を流してやろうか?』でしたっけ)」

 

 ふと、カレンは先日の燈也の発言を思い出した。

 あの時はノリで拒否してしまったが、リリアナが本人の自覚無しに急成長している理由は、もしかしてそれだろうかと考える。

 

「はぁ。カンピオーネとは、本当に理不尽な存在であられますね」

「まったくだ」

 

 結論こそ同じであるものの、根本が少しだけ違っている二つの溜息が空気に溶ける。

 カレンは更なる呆れを、そしてリリアナは更なる鍛錬を決意し、空に輝く十六夜の月を見上げ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵襲ーッ! 敵襲ーッ!」

 

 

 

 

焦りを含んだ騎士たちの声と、警告音としての鐘の音が響く。

 

 

闇夜を切り裂く鐘の音が二つ(・ ・)と、目を焼かんばかりの太陽が聖都を覆った。

 

 

 

 

 

 

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