問題児? 失礼な、俺は常識人だ。   作:怜哉

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なにこれ?


因縁あるところに果報あり

 

 

 

 

 

 

 藤丸立香は、赤面していた。

 

「もうすぐ獅子王のいる玉座に着きます、マスター!」

「う、うん...!」

 

 彼の盾である少女、マシュ・キリエライトの声が聞こえる。

 ついでに彼女の吐息が顔に、ついでにマシュマロが右腕に押し付けられていた。

 

 結論から言おう。

 藤丸立香という健全な少年は、マシュ・キリエライトというデンジャラスビーストに、お姫様抱っこされているのである。

 

「あ、あのマシュ? ちょっとだけその、密着が密で...」

「口を閉じてください、マスター! 舌を噛みますよ!」

 

 聞く耳など持たず、主を抱える少女は王城の長い階段を駆け上がる。

 

 

 なぜ、立香がマシュにお姫様抱っこなんぞをされているのか。

 それは単純明快。ただの人間である立香の足に合わせていては、獅子王の元へ辿り着くのに時間がかかってしまうからだ。それで手遅れになってしまっては目も当てられない、ということになり、厳正なるじゃんけんに勝利したマシュが立香お姫様抱っこ権を奪取したのである。

 

 ガウェインが追ってくる様子も、アグラヴェインが出てくる気配もない。前者はキングハサンが、後者はランスロットがどうにかしてくれているのだろう。立香たちはそう予想していた。

 二人の強力な仲間に心の中で頭を下げつつ、立香は階段の先を睨むように見つめて、対獅子王戦の簡単なシュミレートを行う。そうしないと煩悩に押し潰されそうだったとかではない。決してない。

 

 現在、階段を駆け上がっているのは六人。

 立香とマシュ。

 そして、古代ペルシャの伝説的な大英雄、アーラシュ。

 歴史に名を刻む万能の大天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 円卓の騎士にして獅子王を討つ者、ベディヴィエール。

 現役小学生にして現役魔法少女なオタク気質女児、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。と、愉悦型自立魔法ステッキ。

 

 たった一人の王を相手取るメンバーとしては過剰と言わざるをえないが、相手は女神にまで召し上げられた神秘の塊。

 正直なところ、この過剰に見える戦力でさえ不足がある。

 

「(もし、あの聖槍を至近距離で撃たれたら...)」

 

 立香の額に冷や汗が浮かぶ。

 前回は、何十kmも離れたところから飛来した聖槍の光に対抗するため、イリヤの限界を超えた宝具開放に加えて令呪二画のバックアップを施した。

 そこまでして、ギリギリ相殺できた程度。そんな聖槍が至近距離で放たれればどうなるのか。正直、想像もできない。

 マシュの覚醒があったとはいえ、それで耐えきれるかは分からない。

 立香はマシュを心から信頼している。しかし信頼しているからと言って、それはマシュの防御が破られないという理由にはならないのだ。

 

「(聖槍が放たれる前、速攻で勝負を決める...!)」

 

 獅子王の前に出た瞬間に即座攻勢に出る。

 先手必勝。やられる前にやる。戦術とも言えない脳筋寄りの作戦ではあるが、実際、それが勝利に一番近い。そのことを立香は経験として知っていた。

 

 

 階段を駆け上がる。長い、長い階段だ。

 道中に敵の姿はない。不気味なほど静かな階段だが、障害がないわけではなかった。

 

『むむっ! トラップ系の魔術発見しましたー!』

 

 先頭を走る...否、先頭を飛ぶ魔法少女、イリヤの持つステッキが陽気な声を発する。

 

「ルビー! 解除!」

『はいはーい! 破壊しまぁっす!』

「解除って言ったよね私!?」

『解除も破壊も大差ないですよー』

 

 ルビーと呼ばれたステッキは、どういう原理かクネクネと身を捩よじらせる。

 みょんみょんみょん、などという効果音と共に発せられた魔力の波が、設置されていたトラップ系の魔術を破壊した。

 それを見た後続を走るダ・ヴィンチが、ひゅー! と賞賛を送る。

 

「凄いなー。さすがは《魔法》のステッキだ。今のトラップ魔術は天才である私も解析出来なかったっていうのに!」

『いーえー? 今のは万能型魔術礼装であるルビーちゃんにも解析できませんでした』

 

 ポロッと、なんとも軽い調子で重要そうなことを零す愉悦型魔術。

 それにはさすがのダ・ヴィンチちゃんも「ふむ?」と首を傾げる。

 

「解析できないのにトラップだと判別したのかい? 君は」

『まぁルビーちゃんは直感Aなので』

 

 実際、ルビーは先程のトラップ魔術を解析できていない。それどころか、その魔術に対しての知識が全くと言ってよいほど存在しなかった。

 どんな大魔術であれ、魔法の域に達した御業であれ、マジカルルビーという魔術礼装(カレイドステッキ)はそのほとんどの魔術を“識っている”。

 そんな彼女が知らない魔術。それは非常に高度な魔術であるのかと聞かれれば、実はそういうわけでもない。

 構造自体は単純かつ粗雑。ルビーが少し魔力を過剰に注いだだけで破壊できてしまうほどに貧弱。良くて時計塔の「エリート」レベルの強度だが──

 

『(あんな術式、どの平行世界にも存在しないはずなんですよねぇ...)』

 

 第二魔法の真似事、というのは少し誇大ではあるものの、それに近い性能を持っているのが、彼女らカレイドステッキだ。

 平行世界に散らばる「情報」を知り得る能力。その膨大な知識の海を攫っても、先程のような魔術形態は一つたりとも見当たらなかった。

 

 まぁ、今回のカルデアの相手は西暦を刻み始めてから生まれたifの女神。本来有り得るはずのないモノ。ならばイレギュラーもあるものなのだろう、とルビーは軽く流す。

 カレイドステッキ・マジカルルビーという人工精霊は、自分さえ楽しければそれで良いとする愉悦型魔術礼装の擬似人格だ。正直、未知の魔術形態なんぞに興味はないため、スルーという選択肢を取るのは必然でもあった。

 

『まだまだありますよ〜! バンバン破壊っちまいましょう! 斬撃(シュナイデン)!!』

「それ私の技名(セリフ)ー!!!」

 

 玉座での決戦まで残り数分。

 いい感じに、彼らから緊張感が抜けていく。

 

 

 * * * * *

 

 

 

 ぴくり、と少女の眉が動く。

 ゆっくりと立ち上がった少女──リリアナ・クラニチャールは、細かな所作にも揺れ動く銀髪を靡かせ、玉座への入り口へと振り返った。

 

「カルデアの者がくるか」

「...はい。設置していた妨害魔術の陣が破壊されました」

 

 並の魔術師程度であれば十分に足留め、あるいは仕留めることさえ可能なリリアナの術式が破壊された。

 今そんなことをしてまでこの玉座を目指す者など、カルデアをおいてほかに無い。

 

「あと数分とせずに、彼らはここにたどり着くでしょう」

「ふむ、そうか」

 

 緊張した面持ちで愛剣の柄に手をかけるリリアナとは違い、獅子王は落ち着いていた。

 カルデア如き、という油断がある。自分が負ける材料がない、という慢心がある。獅子王、アルトリア・ペンドラゴンにとって、カルデアはそう大した脅威ではない。

 こちらの目的を話した上で、納得するのなら受け入れる。立ち塞がるのなら殺す。聖槍が完成しつつある今、獅子王にとってはどちらでも良かった。

 

「そのカルデアの陣営の中に、お前の主はいるか?」

「我が王、ですか? いえ、いらっしゃらないかと。もし我が王がカルデアに助力しているのであれば、大人しく階段を上がってくるなどせずに、外からこの城、ひいては聖槍ごと獅子王を葬りにくるでしょう」

「...貴女はアレだな。ところどころ不敬だな」

「いえ、そんなそんな。私はただ事実を申し上げたまでです。カンピオーネは非常識、これ常識です」

「ふぅむ」

 

 まぁ良い、と一度目を閉じる獅子王。

 そしてその目を開いた数秒後、玉座の扉が盛大に吹っ飛んだ。

 

「おっ。思ったより脆かったな、この扉」

 

 崩れた扉の向こう。砂塵の舞う奥から、青年の声が聞こえてくる。

 声の主はアーラシュ・カマンガー。どこにでもいそうな好青年然とした彼は、砕け散った扉の瓦礫を飛び越えて玉座の間に立ち入った。

 

『いやー、さっすがですね大英雄! 弓の一矢で鉄製の扉木っ端とか。正直引きます』

「やっぱり英雄さんってすごいよね、ルビー。ヘラクレスさん(バーサーカー)も鉄くらいなら小指で壊しちゃうんだろうなぁ」

「イリヤちゃんのヘラクレスへの信頼度は狂信的だねぇ。ちなみに私も鉄を破壊するなんてちょチョイのちょい、おちゃのこさいさいさ! 弓だって私が魔改造すれば鉄の扉を壊せるようになるもんね!」

「レディ、そこは張り合うところではないかと」

 

 青年に続いて、空飛ぶ魔法少女と喋るスティック、どこぞの絵画で見たことのあるようなないような美女、銀色の騎士も現れる。

 次いで、騎士のような格好をした少女と、その少女の抱えられた少年も玉座の間に入ってきた。

 

 彼らのことを、リリアナはある程度知っている。カレンの報告や使い魔を通した映像で、多少ではあるが、彼らの戦い方も知っていた。

 故に、リリアナでは彼らに勝てないことも判っている。如何なる奇跡が重なろうとも、今のリリアナの実力では敵わない。

 だが、それで逃げていては、彼女の主たる燈也の顔に泥を塗る。

 負けるとしても、戦いの最中で。燈也がそれを望む望まないに関わらず、それはリリアナの、騎士としての覚悟だ。

 

 しかし、リリアナとてここで簡単に死んでやるつもりもない。

 正攻法で敵わないのであれば、搦手で。

 幸い、この場には獅子王がいる。リリアナが一人で戦わなければならないというわけではない。

 

「──アルトリア...いや、獅子王、アーサー・ペンドラゴン!」

 

 リリアナの手に力が籠る中、敵方の少年、藤丸立香が声を張る。

 彼の目は獅子王を捉えており、それ以外はほとんど目に入っていない様子だった。ここでの最大の脅威は獅子王なのだから、それは当然といえば当然なのかもしれない。

 そんな立香の言動に若干の憤りを覚えつつも、リリアナは静かに戦闘の準備を始める。

 

 立香の作戦擬きは、既に全員に伝えてあった。

 獅子王が動く前にアーラシュやイリヤ、ダ・ヴィンチが攻撃を仕掛け、獅子王の体勢が崩れたところをついて、ベディヴィエールがトドメ。

 そんな簡単にことが進むわけはないと思っているが、かといって他に有効な作戦を思いつくわけでもなく。失敗したら、そこからは各々が柔軟に対応する。下手に立香が指示を出すより、歴戦の英傑たちに任せた方が有利に進むこともある。

 立香の役目は、要所要所で的確な指示を出すことだ。一から十までではなく、そのうちの二、三ほど。それが指揮塔、マスターとしての役割だ。

 

 視線で合図を出し、いざ作戦開始だというその瞬間。

 玉座に深く座った獅子王が、立香たちよりも先に口を開いた。

 

「──答えよ」

 

 名を呼ばれた獅子王は、ゆっくりと言葉を下す。

 冷徹に、冷酷に。人の心を忘れた──あるいは、初めから知らなかった彼の王の言葉に、温もりと呼べるものはない。ただただ無機質で、平坦で、それ故に冷たい。

 

「答えよ。お前たちは何者だ。何をもって私の前に立つ」

 

 言葉に重力があるかのような錯覚。

 その場の空気そのものが竦み上がるかのように張り詰める。

 

 その場の誰もが、動きを止めた。止めてしまった。

 格上の存在を前にして、一歩踏み出すことが出来なかった。

 

「お前たちは私を呼ぶ者か。お前たちは私を拒む者か。最後の人理、カルデアのマスターよ。汝は、何をしにこの果てへ至った?」

「そんなものは決まってる。俺は...俺たちは、人理を救うためにここにいる!」

 

 歴史に名を刻む英雄ですら押し黙る状況で、それでもなお、人類最後の希望は立ち向かう。

 

「──人理を救うことと、私を殺すことは同義だ。残念だ、カルデアのマスター。お前は、聖槍には選ばれない。...奴に選ばれる可能性はあるがな」

「...?」

 

 ぼそりと呟かれた最後の言葉に首を傾げる立香たちだったが、すぐにそんな余裕はなくなった。

 獅子王が玉座から立ち上がり、槍を握ったのだ。

 

「貴様は、悪の魂は、私の理想都市には不要だ。故にこれより、円卓を解放する。死ぬがよい、最新のヒトよ」

 

 玉座の間の壁が消え、代わりに“果て”が顔を見せる。

 今も尚、エジプト領を侵し、消し去る“世界の果て”。その対極こそが獅子王の白亜城、『最果ての槍』が根を張るこの場所だったのだ。

 これには、さすがのカルデア陣営も声を失った。どこかで聞いた未知の出来事ではない、実際に目の前に横たわる『終わり』。その『終わり』にて楔を構える女神。

 圧倒的な現実、圧倒的な格差。誰もが何も口答えできなくなる中で、藤丸立香だけは震える膝に力を込めた。

 

「分からない。なんでお前は世界を閉ざすんだ、獅子王!」

「理由か。ヒトはいつでも理由(それ)を知りたがる」

 

 短い嘆息の後、獅子王は再び言葉を紡ぐ。

 

「私が世界を閉じるのは、人間(お前たち)を残すためだ。ある者の大偉業によって、この惑星の歴史は終了する。人理は焼却され、人類史は無に帰される。だが、それは私の存在意義に反する」

 

 ふと、獅子王は虚空を見つめた。

 

「(...以前にこの話を聞いた男は、『くだらない』と一蹴したな)」

 

 自身の正義を否定される。それはヒトであれ神であれ、嬉しいことではない。

 

 神は──アルトリア・ペンドラゴンは、人間が好きだ。彼らなくして、自分の存在は保たれないから。

 だから彼女は、人間に永遠を与える。悪を成さぬ魂、悪を知ってなお穢れぬ魂。善に飽きぬ魂、善の自覚無き真の魂。

 そういった『残るべき、正しいもの』を収容する理想都市。女神アルトリア・ペンドラゴンにとっての絶対的な善。

 

 ──彼女はそれを、理解して欲しかったのかもしれない。

 彼女の正義が、同じ円卓を囲んだ同胞にすら理解されないのは、悲しいことだ。

 彼女の自由が、惑星に選ばれた王に否定されることは、悔しいことだ。

 

 ならば、ヒト。

 自分が躍起になって守らんとしている人間という種族が相手であれば、あるいは理解してくれる。

 そういう思いが、獅子王に『対話』という手段を取らせていた。

 目の前の人間は“悪”だ。それは彼女の中では覆らない事実ではあるが、それでも、彼女は心のどこかで期待した。

 

 そして、その結果が──

 

 

「そんなものは標本と同じだ。お前は間違っている、獅子王!」

 

 

 ──誰にも理解されぬ孤独の再確認であった。

 

 

「──...そうか。ああ、そうか。お前たちも、私を否定するのだな」

 

 そこに“感情”というものはない。アルトリア・ペンドラゴンの精神構造は、完全に神霊のソレへと昇華されていた。人間の価値観など、とうの昔に無くしている。

 

 ...はずだった。

 

「お前たちが私を否定するのなら、私もお前たちを否定するまで」

 

 無機質でありながら、その言葉に微かな揺らぎが生まれた。

 

 王にはヒトの心が分からない。そうかもしれない。彼女は《王》であり続けたのだから。

 人間の価値観など消失した。確かにそうだ。神々にとって、矮小で愚かな人間の価値観などゴミにもならない。

 

「いずれ死ぬもの。もう死ぬもの。命の限りを嘆くものたちよ」

 

 だが、そこに“心”がないわけではないのだ。

 思考できる。会話もできる。であるならば、そこには心が生まれる。

 他人(ヒト)の心は理解できないかもしれない。人間とは見方そのものが違うのかもしれない。

 しかし、そこには確かに心がある。彼女の夢見た理想がある。

 故に、

 

「終わりだ、人間。我が庇護の元に──砕けよ」

 

 聖槍は、抜錨される。

 

 

 * * * * *

 

 

「くっ...! ヨナタンの弓よ! 鷲よりも疾く、獅子よりも強き勇士の器よ!」

 

 リリアナの持つ白銀の弓から、複数の弓矢が穿たれる。

 神の身にすら傷を付ける青白い神秘の灯った矢は、しかしながら空中で軽々と撃ち落とされた。

 

「筋は悪かない。だがまだまだ未熟だな、嬢ちゃん!」

「チッ!」

 

 接近戦は不利、むしろ獅子王の聖槍に巻き込まれると判断したリリアナは、すぐにサーベルを弓に変質させていた。この世界にきてから、何故か突然《イル・マエストロ》を長弓に変質できるようになっていたのだ。

 彼女の主、燈也曰く「よく分からんけど多分俺のおかげ」。

 

 理由はよく分からなかったが、相手は神殺しだ。気にするだけ無駄だと理解は諦めた。

 しかし、攻撃の幅が広がるのはリリアナにとっても喜ばしいことだ。剣技に加え、トリスタンをはじめとした複数の騎士たちから弓術も習っていたリリアナは、早速新たな己の力を使っていた。

 

 結果は、あまり芳しくない。

 遠・中距離からの狙撃で獅子王の援護をしようとしたのだが、彼女の弓は尽く空中で撃ち落とされる。

 

 舌打ちし、リリアナは忌々しげに相手を見た。

 先程からリリアナの弓矢を撃ち落とす、敵の狙撃手。大英霊・アーラシュ。爽快な青年は、うっすらとその白い歯を見せながら、正確無比な弓術を惜しげも無く披露している。

 

 アーラシュが持っている弓は、そう特別なものではない。大英雄が使っている武具なのだからそれなりの神秘が篭ってはいるが、それだけ。下手をすれば、《神斬り》の偉業を成して、燈也によって霊格を上げられたリリアナの《イル・マエストロ》と武具としての格は同等程度なのかもしれない。

 しかしながら、そこから放たれる矢の威力は桁が違う。

 

 はっきり言って、この時点でリリアナに勝ち目はない。弓という土俵において、アーラシュという存在は絶対だ。彼と打ち合える者など、過去現在未来においても数えるほどしか存在しない。

 加えて、

 

「いくよルビー! 斬撃(シュナイデン)!!」

『いつもより三割増でシュナイってまぁっす☆』

 

 魔法少女などという巫山戯た存在、イリヤとルビー。

 見るからに世界観の違う装飾である彼女らは、色々な意味で無視できるものではなかった。

 魔力isパワーだとでも言わんばかりに、魔力そのままでぶん殴る(ぶった斬る)戦法を取るイリヤ。

 リリアナにとって、魔力とは術式を介するからこそ効力を発するものであるのだが、そんな常識をあっさり覆す存在が魔法少女だった。

 

 遠・中距離の競り合いでは、リリアナに分はない。

 だったら得意な接近戦で、といけるほど、獅子王はリリアナの存在を考慮などしていなかった。

 現状、リリアナに打てる手は何も無い。というより、もう全て打っている。

 

 英霊二基を相手取れていることは上々と言えるが、互角かと言われればそうでもない。

 どちらかが本気を出せば、リリアナは簡単に潰れる。

 そうならないのは、単に獅子王が強いからだ。

 

「フッ──」

 

 聖槍が振るわれる。

 盾の少女が守るが、それだけでは足りない。マシュごとベディヴィエールが薙ぎ払われ、ダ・ヴィンチの万能ですら全能の前には蹂躙される。

 格が違うのだ。英霊でしかない彼らと、神霊に達した獅子王では。

 マシュや立香たちの援護のために、アーラシュやイリヤは常に気を割いている。それが、リリアナがアーラシュやイリヤという強敵を前にして未だ立っていられる理由だった。

 

「(正直、舐めていたな、私は)」

 

 カルデアの実力を、ではない。獅子王の実力を、だ。

 燈也に負けたという事実が獅子王の力を霞ませていたが、獅子王は決して弱くなどない。むしろトップクラスの実力を持っている。

 燈也というデタラメな存在を計りにしてしまったから、リリアナの獅子王への評価は実際よりかなり低かった。

 

 主の意向次第では獅子王に弓を引く?

 無理だ。弓を引く前に殺されてしまう。

 

 リリアナ自身、獅子王の思惑にあまり好感は持てない。どちらかといえば否定、つまりカルデア側の意見と合致する。

 本来であれば、リリアナは獅子王を止める側に立っていただろう。己の正義感を掲げ、成すために。

 それをしないのは、燈也が獅子王に味方しているから。

 

 ──それが、リリアナの大義名分。主に全ての判断を任せた彼女の言い訳だった。

 

「おっと、よそ見か?」

 

 獅子王の戦闘を一瞬でも眺めてしまったリリアナに、風を切る弓矢が飛来する。

 慌てて回避しようと身を捻るが、遅い。アーラシュの弓はリリアナの右肩の肉を抉り、鮮血が上がる。

 

「ぐ、ぅ...!」

 

 痛みに顔を歪めたリリアナは、乱れた思考をどうにか調律し、《イル・マエストロ》を弓から(サーベル)へと変質させる。片腕が使えなくなった今、弓は使えない。持っているだけ無駄だ。

 飛び道具の無くなったリリアナに、続いて三本ほど弓矢が襲う。

 リリアナは剣で受けるようと試みるが、片手で振るう剣に出来ることは限られていた。右肩の負傷で動きも鈍る。一本は何とか払ったが、残る二本が左腿、左脇腹に突き刺さった。

 

「ぐ...ぁああッ!」

 

 焼けるような痛みが走る。

 もはやどこが痛いのかも分からない。熱いのに、寒い。だくだくと流れる血が、リリアナから体温を奪っている。

 血溜りが潔白の円卓を染める。徐々に失われていくリリアナの顔色。立っていることすらままならず、リリアナは前のめりに倒れた。

 

 致命だ。放っておけば、数分とせずにリリアナの命は消える。

 そんなリリアナを横目で見やった獅子王は──

 

「ふむ」

 

 特に、変わることなどなかった。

 強いていえば、一度に相手取る敵数が増えて面倒だ、と言ったところだろうか。

 獅子王にとってリリアナは配下ですらない、協力者の下僕。生き死ににもそこまで興味はない。

 否、もしこれが円卓の誰かであったとしても、獅子王の態度は変わらなかっただろう。彼女の望みは聖槍の完成。善なる人類のみを補完した理想郷の実現だ。

 その目的が達成されるのであれば、どんな犠牲も厭わない。と言うよりも、彼女にとって犠牲と呼べるものなど一つもなかった。

 

「面倒だ。聖槍の光を持って、貴様らを蹂躙する」

 

 それは神故の傲慢か。

 自覚の有無はともかく、他人に理解して欲しいという思いがあった。

 それにも関わらず、彼女は他人を──自らの同胞である円卓の騎士ですら、道具としか見ていなかったのだ。

 円卓の騎士はそれを理解した上で獅子王に付き従っていた。獅子王を止めようとする同胞を斬り、偽りとはいえ聖地の人々を屠り、罪人の名を背負って燃える人理に沈む覚悟をしてまで、彼らは獅子王に付き従った。

 

 

 ──しかし、リリアナは...彼女の主は、そうではない。

 

「其は空を裂き地を繋ぐ嵐の錨───」

 

 聖槍を掲げ、世界を揺るがす魔力を収束していた時。敵を射貫くように見据えていた獅子王の視界がブレ、強い衝撃と共に暗転した。

 

「な、にが...?」

 

 そう声に出したのは、獅子王ではない。

 一部始終を見ていた立香が漏らした声だ。

 

 否。『見ていた』とは少し違うかもしれない。

 彼の目には、『聖槍を振り上げた獅子王が、突然顔面から床にめり込んだ』という結果しか映っていなかった。

 

 獅子王は立ち上がらない。あの化け物じみた女神が、地面に倒れ伏している。

 明らかな異常事態だ。警戒するなと言う方が無理というもの。慌てて周囲を見渡すが、立香には何も見つけられない。

 生身でそれなりの修羅場をくぐってきた立香の危機感知能力はなかなかのものだ。そんな彼をして、「ヤバい」という警鐘がガンガンに鳴り響いていた。

 

「みんな、気を付け──」

 

 衣服に施された魔術礼装、場合によっては令呪すら切る準備を整えつつマシュたちに声をかけようとする立香は、そこで押し黙る。

 舌を噛んだわけではない。もっと本能的な、獅子王を上回る純粋な恐怖が立香を、そしてその場全員を押さえつける。

 

 

 “ソレ”は、立香たちのすぐそばにいた。

 あまりにも自然な異物、溶け込みすぎた違和感。森の中に聳える高層ビルのような存在でありながら、誰もそれを不自然だと思えなかった。

 

 “ソレ”はリリアナのそばにしゃがみこみ、彼女の傷をゆっくりと撫でる。それだけで、致命傷だった傷は痕も残らず消え去った。

 傷は消えたが、血は元に戻っていないのだろう。リリアナは顔を青くしたまま、その瞳は閉じられたままだ。そんな彼女を静かに抱きかかえた“ソレ”は、全てを見下ろすように口を開く。

 

「覚悟はいいか、負け犬」

 

 神殺しの言葉が、世界の果てを揺るがした。

 

 

 

 




もう自分が何書いてるのかも分かんなくなってきたけど、とりあえず勢いだけで書いてみた。見切り発車じゃ限界があるって昔学んだはずなんだけどな...おかしいな...。
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