問題児? 失礼な、俺は常識人だ。   作:怜哉

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英断か愚断かは結果が出てからじゃないと判断できない。

 

 

 

 

 

 

「覚悟はいいか、負け犬」

 

 そんな言葉を聞いて、獅子王はようやく自分の身に起こった出来事を把握した。

 後になって襲ってきた後頭部への痛みを堪えつつ、獅子王はフラフラと頭を床から引き離す。

 

「ゲホッ...!」

 

 一度立ち上がろうとして、失敗する。足に上手く力が入らないようだ。

 もう一度、今度は膝に手を付きながら立ち上がった。

 

 なんとか立ち上がり、獅子王は声のした方を見る。

 そこには少年が立っていた。どこにでもいるような、普通の少年。

 しかし、彼が普通でないことを、獅子王は身をもって知っている。

 

 獅子王──女神ロンゴミニアドが最も恐れ、警戒した相手。

 それが彼、佐久本燈也という神殺しの魔王だった。

 

「な、ぜだ...!」

 

 脳でも揺らされたのか。痛みに加えて歪む視界に苦しみながらも、獅子王はなんとか言葉を発する。

 彼女が倒れたのは、燈也の仕業だ。目で見えたわけではないが、今この場において、神たる彼女にダメージを与えられる存在は彼しかいない。

 

 なぜ、彼が自分を攻撃したのか。

 獅子王が聖槍を完成させて世界を閉じようとも、それは燈也には関係のないこと。事実、燈也は獅子王の思惑を「くだらない」と断じたが、阻止しようとはしていなかった。

 なぜ今になって自分に反旗を翻すような行為を取るのか。獅子王は、それが疑問だった。

 顔を苦痛に歪ませながら問う獅子王に、燈也は眉一つ動かさずに答えてみせる。

 

「理由か? まぁ何個かあるが、第一はお前が俺を敵に回したからだ」

「て、き.....? なん...!」

 

 心当たりがないと、獅子王は余計に疑問を膨らませる。

 そんな獅子王に、次は睨めつけるように鋭い視線をぶつける燈也。それを受け、獅子王は黙るしかなかった。

 

「リリアナを、俺の騎士を殺そうとしただろ」

 

 燈也の目線が一度、抱くリリアナへと向けられる。

 つい先程まで、放っておけば死んでしまうような重症を負っていた少女だ。血で汚れてしまった髪をひと撫でしてから、燈也は獅子王に背を向ける。

 

「カレン」

「は、はいぃ!!」

 

 アーラシュによって破壊された扉の陰から、メイド服に身を包んだ少女が声を上擦らせながら現れた。

 

「リリアナを任せた」

 

 言って、燈也はとある聖句を唱える。第二の権能、《勝利運ぶ不敗の太陽》を顕現させる聖句だ。

 眩い光と熱が玉座を覆う。その中心に現れた馬車に、燈也はカレンとリリアナを押し込んだ。

 馬車はそのまま走り出し、宙に浮く。そして玉座を見守るように、上空を旋回し始めた。

 

「さて」

 

 十分な高度にまで馬車が達したことを確認した燈也は、再び獅子王へ、そしてカルデアへと視線を移す。

 あまりの急展開に身動きが取れなかったカルデア陣営だったが、ここにきてようやく“構え”を取る。

 

「獅子王はあとでぶん殴るとして、だ。まずはこっちの落とし前からだな」

 

 そう言った燈也は、視線をアーラシュへとロックする。

 燈也が玉座に着いた時には、既にリリアナは倒れていた。故にリリアナが負傷した瞬間を燈也は見ていなかったが、彼女が受けていたのは矢傷だった。そして、この場において弓を扱う者は、パッと見渡した限りただ一人。アーラシュだけである。

 

「別に恨み言を言うつもりはない。これはまぁ、戦争だ。リリアナのやつもお前らを殺す気で戦ってただろうし、お互い様ってやつだ」

 

 けどな、という言葉と共に、燈也の姿が消える。

 

「やられたらやり返すのが俺の性分だ」

 

 不意に、アーラシュの背後から声がした。ついさっきまで、崩れた扉の前にいた少年の声だ。

 

「アーラシュ!」

「アーラシュさん!」

 

 焦った立香と、マシュの声も聞こえる。

 そんなことを認識すると同時に、アーラシュの腹部へ強烈な痛みが走る。見れば、拳大ほどの風穴が、綺麗にポッカリと空いていた。

 

「カフっ...!?」

 

 アーラシュの口から血が滴る。

 優れた千里眼()を持つアーラシュですら、燈也の姿を捉えることは出来なかった。攻撃されたことですら、された後にしか知覚できない。

 

「(ち、くそ...ここにきて、こんなやつがでてくるか...!)」

 

 スキルを使ってなんとか意識と命を支えるアーラシュは、顔を苦痛に歪ませながらもなんとか立っていた。

 アーラシュの視線を受けても、燈也に思うところなど何も無い。リリアナのやられた分を返してやっただけだ。すでにアーラシュへの興味は失せている。

 

 報復を終えた燈也が次に見据えるのは、ようやく視界の焦点が合ってきた獅子王だ。

 

「リリアナは放っておけば死んじまう傷だった。にも関わらず、テメェは助けるどころか、諸共に消し去ろうとしたな?」

 

 一歩、獅子王へと足を踏み出す。

 よほど力が篭っているのか、踏み出した足は床を陥没させ、城を揺らす。

 

「もう聖槍は完成するから。世界を閉じてしまえば問題ないと、俺が追って来れないから安心だとでも思ったか?」

 

 そんなことは無い。

 獅子王にとって、燈也がリリアナのことでここまで怒ることは予想外だった。彼は自分と同じように、配下にそこまでの情はないと見ていたのだ。

 

 しかし、それが間違っていた。

 初めて戦った時、燈也はリリアナやカレンを人質に取られて拳を下ろした。その時点で、しっかりと察しておくべきだったのだ。

 燈也は、神殺しまで成し遂げた大罪人は、仲間というものに執着があるということを。

 そう思った獅子王は、ギリと奥歯を噛む。

 

「ああ、それとな」

 

 さらにもう一歩、燈也は踏み込む。

 次は魔力まで込められており、肌を刺すような圧が獅子王をよろめかせる。

 

「俺は逃げ腰の負け犬に味方してやるほど、優しくはねぇ」

 

 三歩目。

 その踏み込みで、再び燈也の姿が掻き消えた。

 

 一瞬目を見開いた獅子王は、すぐに槍を正面へ突き刺した。

 見えずとも、これはきっと攻撃である。ならば先程と同様、正面から突っ込んでくるのではないか。

 そういう憶測の元に槍を突き、そしてそれは見事的中する。

 

 聖槍の穂先が燈也の眉間を捉えた。否、燈也が自ら突っ込んできたという方が正しい。

 見えなかった燈也の姿が、一瞬だけ可視化する。刹那の時間だったが、獅子王の目は確かに『眉間を貫かれた燈也』の姿を見た。

 故に勝利を確信し──そして顔面を襲う痛みと共に後方へと吹き飛ばされる。

 

「ガハッ...!」

 

 玉座にぶつかり、背中にも激痛が走る。

 

 訳が分からない。

 なぜ自分が吹き飛ばされているのか。

 そして顔を上げてみれば、そこにある無傷の燈也の姿。

 訳が、分からなかった。

 

「立てよ、負け犬。それとも、俺に立ち向かうこと()諦めるか?」

 

 圧倒的な力量差が、そこにはあった。

 

 

 * * * * *

 

 

 藤丸立香は、その場を動けずにいた。

 突然現れた、謎の人物。外見や言葉から、自分と同じ日本人ではないかと思わせる少年は、見たところ立香と同じくらいの年頃に見える。

 

「あれが...佐久本、燈也.....?」

 

 立香の口から、少年の名前が漏れた。

 なぜ立香が燈也の名前を知っているのか。それはランスロットが彼に教えたからだ。

 真に警戒するべき相手であり、下手をすればキングハサンでも手に負えないかもしれない、神殺しの魔王を自称する少年がいる、と。

 

 神殺しの魔王。

 なるほど確かに。彼は間違いなく、神を手にかけることができるだろうと、立香は確信した。

 その根拠は、今目の前で繰り広げられている惨劇だ。

 

「ハァ...ハァ...ハァ.....!」

 

 傷だらけになり、槍を床に突き刺し支えにして、やっと立っている獅子王。

 ついさっきまでこちらを圧倒していた女神が、今はたった一人の少年にそこまで追い込まれていた。

 

「なんだ。チキンのくせに、案外粘るな」

 

 そんな少年の声が、酷く冷たく響く。

 燈也は、玉座から上空十メートル程度のところに浮いていた。

 かろうじて人型は保っているものの、彼の体はヒトのそれとは全くの別物になっている。

 眩い閃光と、時折地面や宙に迸る紫電。

 

 彼の体は今、電気となっていた。

 

「...なんなんだ、アレは」

 

 ダ・ヴィンチが呟く。

 確かに、電気を纏う者は幾人か見てきたが、電気そのものになる者は初めて見たと、立香は同意に似た意見を返した。

 

『違う、違うよ、藤丸くん。アレはそんなチャチなもんじゃあない』

 

 カルデアから通信を通して燈也を観測したロマニが口を挟む。

 何が違うのか分からないという立香に、ダ・ヴィンチが補足した。

 

「今までキミや私たちが見てきた、いわゆる雷使い、電気使いの類は、魔力を使っていたり、電気を生み出す武具を使ったりしていただろう?」

 

 言われてみれば、そうだった気がしないでもない。

 

「でも俺、魔術とか疎いし、よく分かんないよ」

「そんな立香くんに朗報だ。アレは、魔術じゃない。魔術が施された武具、ってオチも無しさ」

「え?」

 

 思わず、立香の口から声が漏れる。

 では、今まさに獅子王へと落雷した彼は、一体何なのだろうか。

 

「彼は間違いなく電気...いや、かみなり、と言った方がいいだろうね、アレは」

 

 ダ・ヴィンチの頬を汗が伝う。

 口元は笑っているが、内心は決して穏やかではない。

 

「ロマニ、そっちの解析は?」

『多分キミと同じさ、レオナルド。なんてこった、さすが難易度EXの特異点だと笑えばいいかい?』

 

 ロマニが多少軽口を叩くが、それは余裕があるからではない。

 むしろ逆だ。笑うしかない、という状況を前にしているにすぎない。

 

 結局、雷となってしまった佐久本燈也とは何なのか。

 焦らされた立香は、我慢ならないという思いを顔に出す。それを見たダ・ヴィンチは、ふぅと一度息を吐いてから打ち明けた。

 

「アレは、魔術とは格が違うんだ。万能すら上回る神域。つまり──権能さ」

「権、能...? いや、でもそれって、神霊とかが持ってる、神霊にしか使えないものなんじゃ...?」

 

 立香の疑問は当然だ。

 権能とは全知全能の発現。可能不可能の話ではなく、「そうする権利があるからそうする」という理不尽極まる神代の法である。

 立香の知る権能は、ギルガメッシュの宝具である『乖離剣エア』の時空流の発生くらいか。つまりは、あの英雄王と同程度の力を、佐久本燈也という自称神殺しの魔王は行使しているのだ。

 

「ランスロットは彼のことを『神殺し』だなんて言ってたが...いやはや、あれじゃあ『神』そのものじゃないか」

 

 雷とは、神鳴り。

 太古は雷は神が鳴らしていると信じられており、雷とは神そのものだった。

 そんな雷に変質することのできる彼は、神であると言っても過言ではないということだ。

 

『女神VS神殺しとか、なにそれチョー面白そう! って思ってましたけど...女神対神とか、それただの神話大決戦じゃないですかヤダー』

「それどっちもあんまり変わんなくない!?」

『何言ってるんですかイリヤさん! 変わりますよ! 何かが!』

「曖昧!」

 

 ルビーが軽口を叩く。これは余裕がある証拠だ。いや、別に神同士の戦いに首を突っ込んでも生き残る自信があるとかではないのだが、基本彼女は道楽的に生きている。そういう、ある種大きな器があるからこその余裕だった。

 

「しかしまぁ、考えようによっては好都合だ。不幸中の幸いというか、僥倖というか。うん。ラッキーだね、これは」

 

 圧倒される女神を見ながら、ダ・ヴィンチは言った。

 その言葉に、マシュが返す。

 

「ラッキー、ですか?」

「ああ、そうさ。私たちだけでは、あの女神を倒せるという確証はなかった。もしかしたら全滅していたかもしれない。そこに現れた、女神を一方的に屠る神殺しくん、ときたもんだ。このまま彼が獅子王を倒してくれれば、この特異点は修復される。だって聖杯は、立香くんの手にあるんだからね」

 

 そうなればカルデアとしては万々歳さ、とダ・ヴィンチは言うが、そう簡単に事が進むとは考えていない。

 燈也が何を考えているのか、そして一体何者なのか。佐久本燈也という人物について、カルデアは何一つとして有益な情報を持ち得ていない。

 彼が魔術王の陣営である、という可能性もある現状で、何もかもを楽観視できるほど能天気ではなかった。

 

 

 と、ここでロマニが慌てた口調で声を届ける。

 

『え、あ!? ま、まずいぞ!』

「どうしたのドクター? ワイバーンでもきた?」

『神話の再現みたいな現場にいてそんなに慌ててないなんて藤丸くんは大物だなぁ...ってそうじゃない! ガウェインだ! ガウェインがそっちに向かってるぞ!』

 

 

「『エクスカリバー、ガラティーン』!!!!」

 

 ロマニの忠告から一秒もせず、灼熱の炎波が玉座を貪る。

 鉄すら溶かしてみせる劫炎は、カルデアごと燈也を襲った。

 

「っ! 先輩、皆さん! 私の後ろに! 『いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)』!!!」

 

 慌ててマシュが宝具を展開する。

 決して崩れぬ白亜の城は、太陽の炎ですら防ぎきる。覚醒したマシュの堅牢さに深く感心する立香だったが、すぐに別の思考へとシフトした。

 

「ロマニ! 佐久本燈也は!?」

『えぇ!? な、なんでまた...!』

「いいから! 生きてるか、生存確認だけでも──」

 

「舐めんな、あの程度の火力で誰が死ぬかよ」

 

 そんな声と同時に、立香たちとガウェインの間へ燈也が現れる。

 雷化は溶けておらず、見たところ外傷はないように見えた。

 

 燈也はじっとガウェインを見つめ、またガウェインも燈也を睨む。

 

「燈也...! なぜ貴方が王と戦っている!? 貴方は我々に協力していたのではないのですか!」

「事情が変わった。俺は考えたんだよ、ガウェイン。足りねぇ頭で、それなりにな」

 

 燈也とガウェインの対話。

 それは、立香たちカルデア側にとっては意外すぎる展開だった。

 燈也は雷だ。雷の速度、雷速は光速の三分の一程度。秒速にして約十万キロメートルほどだ。

 光よりは遅いが、それでも知覚できるような速度ではない。故に、燈也は不意をつかれない限りはほぼ必ず先手を取れることになる。

 やろうと思えば、一秒と待たずに攻撃を与えることができるはずなのだ。ガウェインがいくら硬いとはいえ、雷速で何度も殴られてはタダでは済まないだろう。

 それをせずに、燈也はガウェインと対話するという選択肢を取った。それは、ガウェインとはまだ明確な敵対関係ではないということなのか。

 

 深まるカルデア側の疑念など知りもしないまま、燈也は言葉を続ける。

 

「あの髑髏野郎は建築王がどうとかも言ってやがったが、そっちは知らん。俺が考えるべきは、獅子王とカルデアのことだ」

 

 右手から人差し指、中指、薬指の三本を立てた燈也は、そのうち薬指を降ろす。

 そして、人差し指を左手で握った。

 

「まず、カルデアだ。こいつらとは全くと言っていいほど絡んじゃいなかったが...こいつらは、戦う者だ。人類史が燃えただかなんだかは知らねぇが、人理ってのを取り戻すために立ち上がった戦士。そうだろ?」

 

 くるりと振り返った燈也は、カルデア...藤丸立香という最後のマスターに確認を取る。

 その問いかけに、立香は──

 

「違う」

 

 否と答えた。

 

「確かに俺たちの戦いは人理を救うものだ。けど、そんなのは結果でしかない」

「...へぇ?」

 

 立香の答えに、燈也は興味深げな目を向ける。

 

「俺は、俺が死にたくないから立ち上がった。後輩を、マシュを救いたいから戦うんだ。人理とか、そういうのも確かに救うべきなのかもしれないし、救いたいとも思う。でも、俺は俺のためにしか行動できない。そんなただの一般人だ」

 

 キッパリと、まっすぐに燈也の目を見てそう答える。

 マシュは驚いたような顔を、ダ・ヴィンチは「ひゅ〜!」とおどけた様子を、ベディヴィエールは納得と覚悟の篭った目を、アーラシュは優しい笑みを、イリヤは在り方の少しだけ似ている兄を思い浮かべたはにかみを。それぞれが、立香の答えへ反応を示す。

 

「ふはっ。いいな、お前」

 

 そして燈也は、そう小さく笑った。

 

「つーわけでガウェイン。カルデアのマスターは、自分の生を諦めなかった。力はないが、もがいて、運命に抗おうとしてる。俺はそんなやつが好きなんだよ。そういうやつは強いからな」

 

 そして、と次は中指を握る燈也。

 

「対する獅子王だが...あいつはダメだ。逃げやがった」

「逃げた、だと? 我が王が?」

 

 疑念と怒り。

 いわれのない誹りを受け、ガウェインは我が事のように腹を立てた。

 

「ああ、そうだ。あいつは逃げたんだよ。魔術王とかいう、全ての元凶から」

「ふざけるな! 我が王は逃げてなどいない! 魔術王が人理を焼却するのであれば、可能な限り人類を救おうとした! 最悪の中の最善を選び──」

「それが逃げだっつってんだ」

 

 ピシャリと、ガウェインの言い分を遮る燈也。

 彼は今もガウェインをまっすぐに見据えている。

 

「可能な限り人類を救う? 最悪の中の最善? 何言ってんだテメェ。んなもん、魔術王との戦いを避けたやつの言い訳だろうが」

 

 そこで、燈也はガウェインと対峙してから初めて、獅子王へと視線を向ける。それに誘導されるように、ガウェインの目線もそちらへ移った。

 

 酷い傷だった。

 潔白だった鎧はほぼ砕け、数えることすら億劫な火傷や打撲の痕。だらりと下ろされた左腕は、おそらく折れているのだろう。端正な顔にも裂傷があり、血がツーと流れている。そして一番酷いのは、右横腹に空く風穴だった。

 

 生きていることが不思議な状態だ。さすがは女神、といったところか。

 そんな獅子王の無惨な姿を見て、ガウェインの頭に血が登る。

 

「貴、様ァアア!!!!」

 

 本来円卓では適用されないはずのギフト。『不夜』が、今は発動している。獅子王が円卓を解放したと同時に、ギフト無効化の縛りもなくなったのだろう。天に輝く日輪は、屋根の無くなった玉座の間を明るく照らす。

 それは、ガウェインが十全の力を出し切れるという証拠だった。

 

「オォォオオォォォオオオオオオ!!!!!」

 

 ガウェインの咆哮が空気を揺らす。

 

 ガウェインは判っていたはずだ。如何に普段の三倍の力を持つ自分でも、燈也には勝てないということを。

 先のハサンとの戦闘を見て、彼はそれを確信したはずだった。

 にも関わらず、ガウェインは燈也に挑む。

 それは無謀であり、愚かな行為だ。負けの見えている戦いに、大した策もなく身を投じる。普段のガウェインであれば、絶対に冒さない暴走であった。

 

 しかし、ガウェインにも退けない理由がある。

 

 かつて正しかった(・ ・ ・ ・ ・)この特異点に到達した獅子王により召喚された、円卓の騎士たち。二人を除いて全員が召喚されたが、偽りのリチャード一世を倒したあとに残ったのは、たったの五人だけだった。

 

 騎士らは、リチャード一世に屠られたのではない。

 確かにリチャード一世と自称していた者は怪物だった。強力なギフトを持つ獅子王の騎士ですら一体一ではまず勝ち目がなく、獅子王をして犠牲なくしては勝てないと言わしめるほどに。

 

 だが、リチャード一世に殺された騎士は、一人もいない。

 円卓の騎士を殺したのは、ほかでもない。獅子王の騎士となった、ガウェインたちである。

 獅子王を止めようとした円卓の騎士を、獅子王の騎士は斬った。

 そして自らの身を犠牲にしてリチャード一世を倒す礎となった獅子王の騎士──ガウェインの妹、《不浄》を授かり、その心を壊してしまったガレスを、ガウェインは斬った。

 

 もう、後には退けない。

 ここで退いてしまったら、今までの行為が全て無駄になる。

 同胞を斬った痛みが、妹を殺した覚悟が、無辜の民を傷付けた罪が。全て、全て。

 

 故に、ガウェインは剣を握る。

 獅子王さえ無事ならば...聖槍さえ健在ならば、獅子王の目的は達成される。達成されなければ、ガウェインたちは何のために戦ってきたのかが分からない。

 決死の覚悟だ。死しても怨念で止めてみせる。

 

 自らの全てをかけたガウェインの死闘は──二秒で終わる。

 

「その覚悟はかってやる。お前はきっと強いよ、ガウェイン」

 

 ガウェインの腹部が、弾け飛ぶ。

 雷速の重さを付加した一撃が、かつて日中最強を誇ったガウェインの鉄躯を穿ち、屠ったのだ。

 言葉もなく光の粒子となって消えゆくガウェインに、燈也は目を向けることはせずにそう言った。

 

「さて獅子王。ガウェインは消えたぞ。さっき下の方でアっくん...アグラヴェインは見たが、あいつは今ランスロットと戦ってるはずだ。お前を守る騎士は、もういない」

 

 紫電を撒き散らしながら、燈也は獅子王を睨む。

 獅子王を倒すのは、簡単だ。

 

 

 つい数週間前にはほぼ互角の戦いを見せていた燈也が、今では獅子王を圧倒している。もちろん、最初の不意打ちヘッドショットが効いているということもあるが、それ以上に、この結果には燈也の成長という側面がある。

 

 今の佐久本燈也という存在は、些か不完全だ。

 燈也自身は知らぬことだが、彼の持つ《星の王権》という恩恵(ギフト)は、最強を討ち滅ぼす力(・・・・・・・・・)だ。最強を討ち滅ぼすのだから、その力は最強でなくてはならない。

 しかしながら、燈也はその力を使う機会に恵まれてこなかった。平和な時代に生まれ、彼自身が特異点となって何か大きな問題が起こるということもなかった。まぁ一度だけ惑星存亡の危機が訪れたことがあったが、その時は《星の王権》という力が開花しただけ。使い方を学ぶには、燈也のいた世界は平和すぎた。

 

 しかし、箱庭を経て、神を殺め、この特異点に到達した今は違う。

 日々の中に、常に成長する刺激がある。ここにきて、燈也は日に日に成長し続けているのだ。

 

「歯ァ食いしばれよ、女神」

 

 燈也は拳を握る。

 立っているのがやっとであるように見える獅子王に、トドメをさすつもりなのだ。

 このままいけば、決着は一秒と持たずに着くだろう。満身創痍もいい所な今の獅子王など、一発殴ってやれば崩れる。

 

 それはダメだと、ベディヴィエールが声を上げた。

 

「お待ちを、佐久本燈也。神殺しを名乗る少年よ」

 

 今まさに踏み込もうとしていた燈也の動きが止まる。

 

「...なんだ、テメェは」

「我が名はベディヴィエール。円卓の騎士です。そして...獅子王が倒すべき敵だ」

「...?」

 

 言葉がおかしい、と燈也は不審がった。

 獅子王の敵、というのであれば分かる。だが、獅子王が倒すべき敵、とは一体なにか。

 

「すみません、立香。貴方たちにも黙っていたことですが、獅子王...我が王が、彷徨える嵐の王へと変貌してしまったのは、愚かな私の罪なのです」

 

 ベディヴィエールは語る。

 伝承とは異なり、聖剣の返還を『三度目ですら躊躇った』、己の罪を。

 

 そして、ベディヴィエールは今日この時のために、千五百年という永遠にも思える時間を、たった一人、生身の体で放浪してきた。

 それはおよそ、人間に耐えられる所業ではない。ベディヴィエールは聖剣を持っていたため老化は止まっていたが、それは肉体に限った話。魂は摩耗し続け、すり減っていく。

 

 そんな彼の、旅の目的。償うべき罪が目の前にあるのだから、お前は手を引け、と。

 ベディヴィエールは、遠回しながらも、燈也にそう言っていた。

 

 ベディヴィエールの思いを聞いた燈也は、多少不満そうなため息を漏らした後、自身の雷化を解く。

 

「別に、俺が獅子王を殺さなきゃいけない理由はないしな。お前のその忠義に免じて、譲ってやる」

「ありがとう、ございます」

 

 ベディヴィエールの義手が輝き出す。

 どこまでも気高く、高潔に、最果てすら照らす、星々の息吹を束ねた黄金の極光。

 その輝きは、立香たちの知る光量を遥かに超えている。命を、魂すら燃やすほどの、尊い光。

 

 銀腕の正体、約束された勝利の剣、エクスカリバー。

 星の内部で結晶・精製された最後の幻想。

 

 かつて獅子王が振るった最強の聖剣が、今、本来の所有者たる《騎士王》へと返還される。

 

 

 

 




ここまでぐだぐだしといて最後はちょっと駆け足気味なFGO時空第6章編、完。
何話か幕間的なの挟んで7章突入します。長いね。
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