「我が王! ご無事でしたか我が王!!」
燈也が北壁で暴れ、魔獣の進行が一時停滞してから二日後。
一日は大人しくしていた魔獣たちにも活気が戻り、良くも悪くも日常を取り戻していたウルクの街中で、そんな危機迫った甲高い声が轟いた。
声の主は、リリアナだ。
ウルクに張られた防御壁によって隔たれた燈也とリリアナ。
どうにかこうにかウルクにまで辿り着いたリリアナは、ギルガメッシュに会いに行くというカルデア一向と別れ、燈也を求めて街中を駆け巡った。
臣下として王を一人にするなどあってはならない、王は今どこにいるのだろう、ちゃんとご飯は食べているだろうか、またそこらの名も分からぬ魔獣や果実を摘み食いしてはいないだろうか、ああ王、我が王よ...と眠れぬ夜を過ごしたリリアナは、ようやく見つけた燈也の姿にテンション爆上がり。旅行から帰ってきた飼い主を視認した忠犬のように、一つに束ねた艶やかに輝く銀髪を揺らして燈也に駆け寄る。
対して、燈也はといえば。
「おう、遅かったなリリアナ」
わりと淡白である。
まぁ燈也は
そんな燈也の前に辿り着き、リリアナは一度息を整えてから再度問いかける。
「ご無事でしたか我が王。不摂生な生活を送ってはいませんか? というかきちんとした寝床は? 歯はちゃんと磨いていますか?」
「どういう質問だそれは。たった二日三日会わなかっただけで不摂生もクソもあるか」
「いいえ、王は私が目を離すとすぐに健康に悪いことをします。この間だって、たった二日、私がスカサハ様に拉致されている間に食事を疎かにしてどこぞの特異点を占拠していたではありせんか」
「いやあの時はサンタアイランドでちゃんと飯食ってたから。お菓子とか」
「お菓子は食事には含まれません! ちゃんとバランスの取れた食事をなさってください! やはり王には私が付いていないと───」
「うぉいマスター、酒買ってきたぞ酒! 食料も大量じゃ! 今宵は宴待ったナシじゃろ!」
「葡萄酒、大変気に入りました。干し肉との相性がとても良い。ところでこの干し肉、なんの肉なんでしょうね? 店主に聞いても目を逸らされるだけで教えてもらえなかったのですが」
「ゲイザー肉らしいぞ」
「ゲテモノ!? でも美味いからヨシ!」
リリアナの小言を遮るように、騒がしい話し声がする。
思わずそちらを見たリリアナの目に、二人の女の姿が映る。
「...あれは、サーヴァント...?」
こちらに近付いてくる、明らかにこの世ならざる者達。
漏れ出る魔力もそうだが、なにより二人の服装が、彼女らがこの時代の者ではないことを物語っている。
本来英霊など生涯で一度見れるかどうかというレベルだが、カルデアなどという英霊のビックリ箱を見てきたリリアナにとって英霊など珍しくもない。
では何がリリアナの気を引いたのかといえば、彼女らの一人が口にした「マスター」という言葉と、やけに親しげな口調。
しかもそれが自分の主に向けられているらしいとなれば、気にならないわけもない。
そんなリリアナの様子に気付いてか気付かずか、燈也が軽く口を開く。
「ああ、英霊だ。俺が召喚した」
軽く言う燈也に、リリアナは唖然とした目を向ける。
というのも、リリアナは知っているのだ。その身をもって、英霊召喚というものの困難さを。
忘れもしない。あれはリリアナが、スカサハに毎日のように殺されかけていた頃。
連日の恐怖(看護師の治療を含む)と疲労から「英霊とか召喚できれば生き残れるのでは?」とトチ狂い、ダ・ヴィンチに相談して英霊召喚を試みたところ、普通に失敗したどころか、「他人(英霊)を頼ろうとは、弛んでいるぞ小娘」とスカサハのシゴキが更に過剰になったのだ。
故に、リリアナは英霊召喚にあまり良いイメージがない。全部師匠が悪い。
加えて、自分の知らないところで燈也の従者が増えていたことに、どこかショックも受けていた。
リリアナは半年以上、アストラル界や影の国等異界へのドリフトなどによる時空の乱れやら概念の相違やら云々も含めると一年近く、燈也の騎士として仕えてきた。たかが十数年しか生きていないリリアナにとって、一年とは大きな時間だ。また、その一年の内容が濃すぎた。去年までの人生全てと秤にかけても釣り合うほどに。
今のリリアナにとって、燈也という主は自分の全てだ。燈也に仕えるために、文字通り血反吐を吐いてきた。
また、燈也は自分を必要としてくれていると思っていた。わざわざ最古参の大魔王に喧嘩を吹っ掛けてまで自分を求めてくれたのだ。そう思わない方がおかしい。
だからこそ、リリアナは燈也との間に、ただの主従よりも強固な『絆』のようなものを感じていた。自分には彼が必要で、彼には自分が必要なのだと思い込んでいた。
燈也がサーヴァントを求めるのは納得できる。王が強い臣下を求めるのはリリアナも推奨するところだ。
しかし。しかしである。自分の知らぬところで、見知らぬ者が、
微妙な精神状態にある思春期なリリアナの心がザワつくには、過度とも言える状況だった。
「.....佐久本燈也、説明してください。今、私は冷静さを欠こうとしています」
「何言ってんだお前」
とまぁ、そんな具合にリリアナの心は荒波を立てるが、燈也はそんなこと気にする素振りも見せず、初見の臣下達に互いを紹介する。
「おい二人とも。ちょうどいいところにきたな。こいつがリリアナだ。リリアナ・クラニチャール。生まれた時代はともかく、俺の『
燈也に背を押され一歩前に出たリリアナを、鎧着物と軍服を着た女二人が覗き込むように見る。
多少萎縮し、「あ、え、あの」などと言葉を詰まらせるリリアナに、女二人は意外そうな声をあげる。
「ほぉ? この小娘が、マスターが一番信頼しとるとかいう家臣か。...なんじゃ、想像と違うの。もっとこう、ゴリラみたいな魔人がくるかと思っとったんじゃが」
「確かに、とても可愛らしいですね。あのマスターが『俺の右腕』だなんていうので少しビビ...いえ、仲良くなれるか心配でしたが、これなら大丈夫そうです」
「...信頼してる...? 右腕...?」
リリアナの心に平穏が訪れようとしている。
「いや、もしかしたら変身するかもしれんぞ。『光栄に思うがいい! この変身を見せるのは、貴様らが初めてだ!』とか言い出すかもしれん」
「どこのフリ〇ザ様ですか」
「ネタ分かるのかおぬし」
「?????」
リリアナは置いてけぼりをくらっている。
「うるせーぞお前ら。あー...リリアナ。そっちの赤黒いやつが織田信長で、白いやつが上杉謙信だ。お前も日本文化が好きなら知ってんだろ?」
「第六天魔王と軍神!??!? 戦国SAMURAI!!!??」
リリアナの心に別の荒波がうねり散らした。
* * * * *
「では改めて。私は長尾景虎。越後の軍神などと超絶かっこいい異名もありますが、よければ景虎、もしくはお虎とでも呼んでください。よろしくお願いしますね、リリィちゃん」
「ふはははは!!遠からんものは音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! わしはこそは第六天魔王、織田信長なりッッッ!!! ...え? 自分で第六天魔王とか言うの恥ずかしくないのか? 厨二乙? あっはっは、バカにするなら処すぞ」
ところ移って燈也の下宿。その大部屋。
往来で立ち話もなんだろうとここまで帰ってきた一行は、改めての自己紹介と休息のために腰を落ち着かせていた。
部屋の中央に鎮座するテーブルには所狭しと酒や料理が並び、上座に燈也、順にリリアナ、景虎、信長と座っている。
「よろしくお願いします、御二方。私はリリアナ・クラニチャール。王の剣です」
さっきまで「えっ、ノブナガ女? いやアーサー王だって女だったんだ不思議は...いやいやあるだろう。不思議すぎて逆に不思議じゃないまである。あれ? それなら問題ないのでは? むぅ...これがcool Japanというやつか...」などと軽く錯乱していたリリアナだが、今では普通に笑顔を浮かべられるまでに回復していた。その笑顔に闇を感じたとは信長の談。なんでも生前の家臣達を思い出したとかなんとか。闇深い、さすが織田家闇深い。
「さて。それじゃあリリアナとも合流できたことだし、明日から行動し始めっぞ。とりあえずは南の神でも会いに行こう」
焼いただけの肉を頬張りつつ、燈也は言い放つ。
燈也に倣いリリアナ達も食事を始めつつ、話が始まった。
「南の...? 神イシュタルには会いましたが、その女神でしょうか?」
「イシュタル? ってあれか、イナンナっつー豊穣神。たしかデヤンのやつが昔殺したとか言ってたな」
「はい。ただ人間の少女を依代にした降臨のようで、まつろわぬ神ほどの脅威ではないかと」
「なるほどな。それじゃあ多分、そいつは南にいる神じゃない。南のは人間なんて混じってない、純度百パーセントの神性だ」
どこから取り出したのか、フォークとナイフで上品に食事を進めるリリアナ。
酒を浴びるように飲んでいた景虎と、肉を頬張っていた信長も口を開く。
「生前は神なぞおるわけあるかと散々愚弄したもんじゃが...いたんじゃなぁ、神」
「そりゃあいるでしょう。私、毘沙門天の化身ですし」
「厨二乙」
「よぅし殺せー!!」
ドッタンバッタン暴れる武将達を無視しつつ、燈也は酒に手を出し...直前でリリアナに止められる。
「んだよ」
「貴方はまだ未成年でしょう。飲酒は禁じられています」
「真面目か? いやお前は真面目か」
「褒め言葉と受け取っておきます。それより王よ、南へは我らだけで? カルデアの者は連れていかないのですか?」
「ああ、立香たちはどうせギルガメッシュのやつにこき使われるだろうからな。それに、アイツらに俺の楽しみは渡さねぇよ」
スカサハやヘラクレスがいれば、神との戦いも多少は楽になるかもしれない。
だが、そんなもの燈也が望むわけはない。より心躍る闘争を求めて、燈也は一人で神と戦いたかった。
燈也の好戦的な意見に呆れつつも、リリアナは進言する。
「分かりました。ただ、挨拶程度はしておいた方がよいかと。皆、特に藤丸立香は、王のことを心配していましたから」
「心配? 俺をか?」
まさか自分が心配されていたとは思わなかったのだろう。
本当に意外そうにしたあと、からからと笑いだした。
「まさか他人に、しかもただの人間に心配されるとはなぁ。いや、立香はもう“ただの”ってレベルじゃないか。分かった、出る前に顔くらい見せとくよ」
水を一杯飲み干し、燈也は愉快そうに表情を緩めた。
この後、ギルガメッシュが燈也と同じ下宿を藤丸たちにも与えて結局合流することになり、信長と沖田がわちゃわちゃしたり、夜になり顔を出したギルガメッシュの英霊・源義経(牛若丸)を見た景虎が無駄にテンション爆上げさせて二人して高笑いしながら夜の魔獣首狩り大会を開いたり、間違って酒を飲んだリリアナが酔ってスカサハへの不満を本人の前でぶちまけてしまいシバかれたり。
まぁいろいろあったが、些事なので割愛。
* * * * *
プチ宴会が開かれた翌日。
藤丸たちは朝早くに仕事があると言って羊農場へ向かっていき、昼前頃になって燈也たちも出発の準備を整えていた。
「よぉしお前ら、もう出れるか?」
「問題ありません」
燈也の確認に、リリアナが返事をする。
それに遅れて、景虎が大荷物をえっちらおっちら運んでくる。
「おい虎、お前それ何持ってんだよ」
「何って、もちろんお酒ですとも! 道中お酒がきれたらどうするのですか」
「どうするって.....このアル中大名め」
呆れつつ、燈也は景虎の持っていた大量の酒をギフトカードへと収納する。
「おおっ。便利ですねぇ、それ。魔術ですか?」
「まぁそんなもんだ。そういや信長は? あいつどこ行った?」
軽く流し、姿を現さない信長の名を出す燈也。
リリアナも景虎も、信長の所在は知らない。二人してキョロキョロと周りを見渡していると、遠くから歩いてくる信長の姿を見つけた。
「織田信長! どこに行っていたのですか! 集合時間はとっくに過ぎていますよ!」
リリアナが叱りつけるように声を荒らげる。
そんなリリアナの叱責を、前世から叱られ慣れてきた信長は笑って受け流す。
「いや〜、すまんすまん。厠に行っとったら遅れたわ」
乙女...というには些か血生臭い前世を歩んできた信長だが、それにしても女性に有るまじき発言をする。
さらに注意しようとするリリアナと、この程度は許せとまともに取り合わない信長。
それを諌めるように、景虎が口を挟む。
「おやめなさい二人とも。主の前です。リリィちゃん、そのうつけに説教するのは時間の無駄ですよ」
「厠くらい許さんか。...いや、厠で乙ったおぬしは怖くて行もせんのか! うわはははは! すまんすまん!」
「意味も脈絡も分からないですし景虎ちゃんはトイレとか行かない! とりあえず殺せー! にゃーっ!!!」
「そのフレーズ古いわ!! 今どき売れない地下アイドルでもそんなこと言わんぞ!」
「ええいうるさいぞぐだぐだ大名ども!!!」
ギャーギャー騒ぎ散らす三人へため息をもらし、燈也は視線を外す。
鳴り止まない喧騒をシャットアウトし、燈也は聖句を唱えた。
「《天を翔けるは我が威光。我は常に空に在り、全ての勝利を掴む者なり》」
見る者の目を焼く閃光の後、日輪の戦車が降臨する。
かの赤兎馬にも匹敵するであろう、神獣である四頭の馬を見て、先程まで騒いでいた景虎が関心を向けた。
「ほぅ。良い馬たちですね、放生月毛に勝るとも劣らぬ駿馬と見ました」
「空飛んだり炎纏ったりするから俺の馬の勝ち」
「空飛んだり炎纏ったりするのはもはや馬ではないのでは? 景虎ちゃんは訝しんだ」
「神獣ってのはそんなもんだ」
景虎の反応に満足した燈也は、軽く地面を蹴って御者席へと飛び乗る。
「お前らもさっさと乗れ。神狩り、今日中に片付けんぞ」
* * * * *
《勝利運ぶ不敗の太陽》
大英雄ペルセウスを自称する神から簒奪せしめた、太陽神ソールの権能だ。
ソールはローマ神話の神だが、古代ギリシアではヘリオスと同一視される。燈也が召喚する太陽の戦車は、ヘリオスが乗っていたとされる御者だ。
その戦車は古代ギリシアにおいて「太陽である」と信じられていた。
そのせいか、戦車は『太陽と同じ質量と強度』を持ち、その内部はほぼ異界と化している。
どれだけ縦横無尽に動き回っても戦車の中では揺れもしないのはそのためだ。現世とは隔絶された空間であり、神の御者ということで、紅茶や菓子などのたいていのものは揃うという充実っぷり。めちゃくちゃ便利である。
そんな余人禁制の御座では現在、ガールズトークが繰り広げられていた。
「うまっ、この茶うまっ。え、これほんとにリリアナが
「ジャパニーズカルチャーは一通り習得済みですので。琴も弾けます」
「お茶も良いですがやはり酒! リリィちゃんも飲みましょうよぉ」
「未成年飲酒は犯罪です」
「えー! 昨日は飲んでたくせに!」
「あれはっ! あれは事故です私の意思じゃないんです本当です信じてくださいごめんなさいお師匠様ごめんなさいごめんなさい...」
「あっ、これもしかして地雷?」
「地雷っていうより闇じゃろ。あの全身タイツに何されたんじゃこやつは」
ガールズトークが繰り広げられていた!
ヘラったリリアナもすぐに立ち直り、自分で点てたお茶を一口啜る。
一度落ち着いたところで、リリアナは真剣な面持ちで英霊二騎に向き直った。
「さて。昨日はいろいろと騒がしく、詳しいことを聞けませんでしたが」
「騒がしかったのは酒飲んでボロ出してシバかれてたおぬしと、遮那王と二人して大量の獣の生首持ってきた軍神(笑)じゃろ」
「沖田とかいう剣士と貴女の方が騒がしかったですよ。というか(笑)はやめなさい」
「軍神(厠乙)」
「推して参る!!」
「参るな軍神(狂)!!!」
「リリィちゃんまで!?」
姦しいとはこのことだ。
「最後まで黙って話を聞きなさいこの戦国大名!」
「戦国大名を悪口みたいに使うな」
「このうつけと同じ括りにしないでください」
「いいから黙って聞けと言っているんだ!!」
この時リリアナは決めた。
ああ、この二人に対して、偉人に対する礼儀や畏敬、ましてや敬語はいらないな、と。
まだ何も話は進んでいないし何なら始まってすらないというのに疲れきってしまったリリアナは、再度お茶を啜る。
一息ついたところで、ようやく本題に入った。
「...単刀直入に聞く。貴女たちは、王に忠誠を誓っていると思っていいんだな?」
これが、リリアナが気になっていたことだ。
英霊とは本来、召喚者に対して叛逆できないようになっている。令呪という強固な縛りがあるからだ。マスターに令呪がある限り、英霊は逆らえない。まぁそれも絶対ではないのだが。
しかし、昨日リリアナが確認した限りでは、燈也に令呪の発現は見られなかった。それはつまり、目の前の英霊という爆薬が二騎も、何の縛りもなく解き放たれていることを意味している。
「貴女たちは大名...一国の王とも言える存在だった方々だ。そんな方々が、何の見返りもなしに我が王に仕えているとは思えない。何か裏がある。そう考えるのが自然だ」
このことは今朝方、燈也にも確認していた。
リリアナの心配を受けた燈也は「罠があるなら殴り壊す。陰謀があるなら蹴り倒す。謀反するなら叩き潰す。それが王ってもんだ」と、王者としての振る舞いを宣言した。
ならば、リリアナは燈也を信じるのみ。
しかし、信じることと何も行動を起こさないことは同義ではない。
王の手を煩わせることなく問題を処理することも、右腕たる騎士の務めである。リリアナはそう考えていた。
故に、リリアナは警戒を怠らない。歴史に名を刻む血に濡れた武将二騎が相手でも、今のリリアナであれば刺し違えることくらいはできる。
静かに魔力を練り、いつでもイル・マエストロを抜けるよう気を張る。
殺意とまではいかないが、敵意にも似た威圧を受けた信長は、目を丸くさせたあと、高らかに笑いだした。
「ワッハッハッハ!! 裏ときたか! あの化け物相手に罠をしかけよと!」
膝を叩き、心底愉快だと声を上げる信長。
予想だにしない信長の言動に、リリアナは吠える。
「なっ! なぜ笑う! やはり何か...」
「リリィちゃんが心配しているようなことは何もありませんよ。いや本当に」
盃に酒をトプトプと注ぎながら、景虎は続ける。
「私たちは既に一度マスターへ反旗を翻し、負けています」
「それも完膚なきまでにな。いやはや、生前含め、あそこまでの大敗は初めてじゃ」
「貴女、生前はわりと負けてますけどね」
「(最終的に)勝てばよかろうなのだァァァァァッ!!」
「畑に棄てられ、カビがはえて、ハエもたからないカボチャみたいに腐れきってますね、貴女の根性」
「なぁ軍神、おぬし意外と平成に詳しくない?」
「? なんのことです?」
「すぐに話を脱線させるなぐだぐだ大名ども!!!」
イル・マエストロが煌めいた。
* * * * *
「話を戻すぞ」
一悶着あったものの、再び席に付いたリリアナ、信長、景虎の三人は、それぞれお茶やら酒やらを手にしながら話を再開する。
「一度反旗を翻した、と言ったな?」
「ああ。召喚されたその瞬間にな。令呪もなしにマスターを自称されても納得いかんかったからの」
悪びれもなく、信長は言い放った。
その態度にリリアナは若干眉を顰めるが、我慢して続ける。
「佐久本燈也に負けたことは分かった。だがそれは、今後貴女たちが佐久本燈也を裏切らない、という保証にはならない。下克上、とは貴女たちの時代の代名詞のようなものだろう」
「代名詞かどうかは分かりませんが、我らがマスターを裏切ることはありません」
「その理由を、根拠を聞いているんだ」
酒を呷る景虎へと、リリアナは鋭い眼光を突き付ける。
「マスターの圧倒的すぎる力を目の当たりにしたこと。そして、我らがマスターの...彼の“仔ども”となったからです」
「“仔ども”...?」
「...おや? リリィちゃんは知っているはずでしょう? マスターの権能を」
“仔ども”という単語に引っかかったリリアナに対し、景虎、そして信長も不思議そうに首をかしげる。
燈也のことで自分より詳しい素振りをみせる二人に多少の不愉快さを覚えつつ、リリアナは説明を求めた。
「佐久本燈也の権能は知っている。だが今まで“仔ども”などというものは聞いたことがない」
「ふむ...。ま、マスターの説明不足じゃろ」
茶を飲みきった信長が新しい茶を点てながら、リリアナに目線を向けることなく話し始める。
「“仔ども”は、言葉通りの意味じゃ。マスターの権能...なんといったか、海がどうとかというアレ」
「...『生命なる混沌の海』」
「そう、それじゃ」
リリアナの呟きを拾い、信長は続けた。
「その混沌の海の権能の一つ、とか言っておったのぉ。神話になぞり、十一体の魔獣を創る、じゃったか」
そこて点て終えた茶を啜り始めた信長に代わり、次は景虎が話し始める。
「我らはマスターに負けたあと...正確には信長は戦う前でしたが、とにかく。我らはマスターにより、受肉させられました」
「受肉させられた?」
「はい。肉の身体を授けられたのです。それもただの人間のソレではなく、遥かに優れたモノとして」
それは受肉というよりも“創造”に近い、と景虎は語る。
「これは、親子盃よりも固い契りです。もちろん、令呪よりも。『そういうモノ』になってしまったのだから仕方ありません。
「ま、親子云々の前に、どうやってもあの化け物に勝てる気がせんしの」
どこから取り出したか、金平糖を数粒口に放り込んだ信長が、呑気な顔で付け加える。
そして、リリアナにとって聞き捨てならないことも口走り始めた。
「そんでまぁ、序列というか。わしら“仔ども”の中で最も上の存在、まぁ“筆頭仔ども”とでも言うべき者が貴様じゃ、リリアナ。わしらはお前にも従うよう、マスターから言われておる」
「...........は?」
リリアナは呆けた。
話が進まないのは全部妖怪のせい(古い)(責任転嫁)
もうちょい後になるかもなんですけど、羅濠教主とかカンピ作品キャラとオリ主くんとの絡みをちゃんと書くべきだなって思いました、まる
そのうち閑話休題?幕間?みたいな感じでその辺軽く書こうと思います。