問題児? 失礼な、俺は常識人だ。   作:怜哉

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蝶の羽ばたきどころかジェット機の噴流のようなものでも変えられない調和もある

 

 

 

 

 

 

 

 燈也がウルクの街を出てから、早数日が経った。

 その間、ウルクでは大小様々な事件が巻き起こり、カルデアやリリアナたちが奔走、各事解決していったが、犠牲もあったという。

 特に大きな被害は、魔獣戦線における要であるレオニダスの敗退。

 燈也の留守を察知したキングゥがこれ幸いとウルクを攻め、堪え性のなかった魔獣たちの母が出張ってきたことが原因だ。

 

 偉大なる英雄の死を悲しむ暇もなく、生き残ったギルガメッシュのサーヴァントやマシュ以外のカルデア陣営サーヴァント、そしてリリアナたちは崩れ去った魔獣戦線の士気復活を。立香、マシュ、マーリン、アナはギルガメッシュの王命に従いクタの街へ天命の粘土板を探しに、各自役目を果たすべく行動していた。

 

 

 

「さて、小さな町とはいえ目的の粘土板を見つけるには少々広すぎる。幸い魔獣は入ってこないし、手分けして探すとしよう」

 

 数日かけてクタの街に到着したカルデア一向。

 人の気配はおろか、生き物の気配がない街の中心で、マーリンがそう提案した。

 

「あ、い、いえ。私は先輩のサーヴァントなので、先輩と離れるわけには...」

「大丈夫だよ、マシュ。時間も惜しいし、手分けしよう」

「で、ですが...」

 

 それでも心配だと割り切れないマシュに、マーリンは笑いかけた。

 

「なぁに、心配ない。藤丸くんにはコイツが付いている。見かけによらず、やる時はやる奴さ」

「フォウー!」

「こらこらキャスパリーグ。やる気は伝わったから、私をその肉球で叩くのはやめなさい」

 

 明らかな意志を持つフォウくんの行動に「やはりこの子は知性が...?」と訝しむ立香だったが、それはさておき。

 しぶしぶマシュが折れたため、立香、マシュ、マーリン、そしてアナは手分けして粘土板を捜索することとなった。

 

 とはいえ、街はそれなりに広い。

 四人で手分けをしたところで、そう簡単に見つかるものでもなかった。

 

「どこにあるんだろうなぁ、王様の粘土板」

「フォ、フフォウ」

 

 無人になった民家の釜の中や屋根裏など、一見絶対に無さそうな場所まで目を通す。あの王様に常識は通じない。

 と、傍若無人な賢王のことを思い浮かべていると、もう一人の、最近行方不明である傲岸不遜な修羅王のことを思い出した。

 

「あの燈也に限って神隠しに遭った〜、なんてことはないと思うけど」

「フォウフォ、フォフォウ(特別意訳:神殺しが神隠しに遭うとか、なにそれオモロい)」

 

 ゴルゴーンの襲来時、もしも燈也がいれば。そうすれば、レオニダスも死なずに済んだかもしれない。

 そういう思いも立香の中には確かにあるが、それは自分たちにも言えたことだ。というよりむしろ、立香は己への悔恨の念が強い。

 

 ゴルゴーン襲来当時、カルデアはギルガメッシュと共にペルシャ湾へ調査に赴いていた。

 王命で仕方がなかったとはいえ、ただの調査に、マシュ含め英霊を四人も連れていく必要はなかったと、強く後悔している。

 元々魔獣戦線への参加はギルガメッシュにより認められていなかったが、それでもウルクにスカサハ、ヘラクレス、沖田という特大戦力を残していれば、また結果は違っていたかもしれない。

 今回は前回のような惨劇を少しでも避けるため、スカサハら英霊をウルクへ置いてきた。

 

 

 そして燈也の事に関しては、何よりも心配が勝っていた。

 燈也が召喚した英霊曰く「「アレを心配するだけエネルギーの無駄」」らしいが、いくら強かろうと心配なものは心配だった。お人好しも過ぎれば不敬であり、突き抜ければ笑いが出てくると燈也や古代王らは語る。

 

 ここにはいない仲間であり友人だと思っている魔王のことを考えながら、立香は街を進む。粘土板は見つからない。さらに奥へ、奥へと歩を進め───

 

 気が付けば、薄暗い地下にいた。

 

「──.....へっ、?」

 

 ふと我に返る。

 自分は階段らしきものを降りた記憶もないのに、どうして地下なんかにいるのだろうか。そう疑問に思うと同時に、言いようのない寒気にも襲われていた。

 

「ここって.....」

 

 そも、民家の地下室とは思えない光景が広がっていた。

 冷たい岩肌に、遠くまで見通せない闇。寒々しさを感じさせる地下空間に、立香は恐れという感情を抱く。

 急いで帰らなければ。

 そう思い、振り返る。

 

「っ、うわぁ!!?」

 

 きっと階段があるはずだと思い振り返った先で、目と鼻の先に人がいた。

 しかも、ただの人とは思えない。生気を感じないのだ。

 驚き、後ずさる。が、後ろは崖となっていた。逃げ場がない。

 

『──なぜ、生者が冥界にいる...』

 

 呟くような、底冷えする声音。

 立香の爪先から頭までを見て、その生気を感じられないモノは呟いた。

 

「め、冥界!? ここが...!?」

 

 慌てて辺りを見渡してみれば、確かに全てから生気が感じられない。

 この世ならざる空間。そう呼ぶに相応しい場所だった。

 

『我らは殺された』

『尊厳もなく祈りもなく、ただ打ち棄てられた』

 

 最初は一体だけだったモノが、気が付けば数十、数百にも及ぶ郡になっている。

 これにはさすがの立香も恐怖した。当たり前だ。ゴーストなどならば見慣れたものだが、これはそういった類と似て非なるもの。冥界に蔓延る怨念だ。生者である立香は、本能から全てに恐怖してしまう。

 

『笑いに来たのか?』

『奪いに来たのか?』

『逃げて来たのか?』

『どれも許されない』

 

 ヌッと、生気無きモノの手が立香に伸びる。

 

『温かな息など、温かな肉など──』

 

 

「オラどけゴラァ!! 魔王様のお通りだ!!!」

 

 群の後方が吹き飛んだ。

 生気の感じられない空間で、やけに躍動的に吹き飛んだ。

 

「この声...!?」

「フォウ! フォフォウ!(特別意訳:魔王だ! 魔王が来たぞ!)」

 

 数百もいた生ならざるモノどもは、ものの数秒で半分以上が崖下に落ちて行った。

 その後も嵐は止まらない。大規模な魔術をぶつけるでもなく、一体一体を丁寧に、かつ高速に。殴り、蹴り、弾き飛ばしていく。

 十数秒もすれば、生ならざるモノの群は壊滅していた。

 

「チッ、ほんとにキリがねぇなこのゾンビども」

 

 転がっていた死体を足でどかし、嵐の正体──魔王、佐久本燈也は息をついた。

 

「燈也!!」

「あ? ああ、立香か...立香?」

 

 嬉しそうに燈也へ駆け寄る立香と、その立香の存在に疑問を抱く燈也。

 が、そんな彼らの再会を待つほど冥界の住人は温厚ではないらしい。

 

『許さぬ...許さぬ...』

『生ある者など不要』

『我らと共に...』

 

 つい先程燈也がなぎ飛ばした数とほぼ同等の死者たちが、虚ろな目を生者たる二人に向ける。

 燈也は舌打ちし、またも数秒で何百もの相手を下した。

 その様を見た立香は唖然とし、敵を薙ぎ払ったばかりの燈也へ問いかける。

 

「...え、っと...燈也。今までキミは何をしてたの?」

「あ? 何ってお前、戦ってたんだよ」

「ずっと冥界で...?」

「いや? 冥界に入ったのは昨日だな。入口見つけたまではいいんだが、あのゾンビどもの相手をしてるうちに一日経っちまった」

 

 心底ウザイ。

 そんな顔をして、燈也はギフトカードから取り出した水を飲む。

 その水を立香に投げ渡し、燈也は話を続ける。

 

「冥界に入る前はなんかめちゃくちゃデケェ牛っぽいツノ生やした山みてぇな奴と戦ってた。あれが噂にきく天の牡牛なのかもな。二日くらい戦い続けて、あとちょっとで倒せるって時に消えちまったけど。あれ、どっかに召喚された風だったけど、どこに召喚されたんだろうな」

「フォウ.....」

 

 呆れたような目を向ける小動物。

 小動物に呆れられる魔王とはこれ如何に、と思わなくもない燈也だったが、まぁいいかと流す。フォウのことは下等生物とは思っていないし、何なら同等レベルの扱いをしていた。本能で「こいつまじヤバくね?」と理解しているらしい。いつか戦ってみたいとは思うが見た目小動物と戦いたがる魔王もどうよ、というのが小さな悩みだとかなんとか。

 

「冥界には何か用事があって?」

 

 こっちもこっちで大変だったけど、あっちはあっちで大変だったんだなぁ。そう軽く思った立香は、水を一口飲んだ後にそう問う。

 

「ああ。ちょっくら女神と戦いにな」

「女神、って...冥界にも女神がいるの!?」

「なんだ、知らなかったか? 三女神同盟とかいうやつの一柱らしいぞ。古代バビロニア、メソポタミア神話の冥界の女神っつったら、まぁエレシュキガルだろうな」

 

 立香にとって衝撃の事実を次々打ち込んでいく燈也。

 今まで三女神同盟だと思っていたゴルゴーン、南米の女神、そしてイシュタル。その他にさらに一柱追加されてしまい、何が正しいのか分からなくなってしまっていた。

 

「そんで? お前はなんでまた冥界なんかにいるんだよ」

 

 少し考え込んでしまっていたところに、次は燈也が質問した。

 立香は一度思考を切り、燈也の質問に答える。

 

「俺は...正直に言うと、よく分からない。クタの街で天命の粘土板を探してたんだけど、気付いたらここに...」

「フォウ!」

 

 同意するようにフォウも声をあげる。

 

「なんだそりゃ。俺があれだけ探してようやく見つけた冥界に偶然入れたとか」

 

 生まれてこの方絶対的な信用をおいてきた自分の直感を疑いたくなりそうだ、と燈也は呆れる。

 

「ん? じゃあお前、帰り方も分かんねぇの?」

「うん、まぁ、恥ずかしながら」

 

 地殻に縦穴を開けて冥界入りした燈也と違い、立香は空間の捻れのようなもので冥界にきた。立香単独で帰ることはできない。

 

「俺の開けた穴はちと遠いしな...普段なら俺の戦車でひとっ飛びなんだが、今は使えねぇし」

「使えない?」

「ああ。冥界に入ってから、権能が使えなくなった。魔術もだ。まぁ使えないこともないんだが...」

 

 言って、燈也は手のひらにバスケットボールサイズの火の玉を出す。

 

「これだけの火球を出すのに、ウルク一つ焼き払えるくらいの魔力が必要なんだ」

「サラッととんでもない魔力出してきたな...」

 

 やはり規格外な魔王に、さすがの立香も引く。

 そして魔術がほとんど使えないのに冥界で一日戦い続けて無事な魔王に、さらにドン引きした。

 

「つーわけで、どうするよ立香。ちと時間はかかるが、俺の入ってきた穴から地上に出るか?」

「.......」

 

 立香は悩む。

 地上ではきっと、マシュたちが心配しているだろう。それを考えると、少しでも早く戻るべきだ。

 

「...ちなみに、その穴までどのくらいかかりそう?」

「そうだな...まっすぐ向かえば、まぁ半日ちょいってところか」

 

 問題はこれだ。

 穴まで戻るということは、立香が地上に上がったあと、燈也はまた同じ道を通って女神と戦いに行く。そうなると、燈也という大戦力が地上に戻るのが、一日程度遅れてしまうことを意味する。

 それは避けたい、と立香は考えた。

 女神ゴルゴーンが再びウルクを襲うまで、あとどれくらいか分からない(・ ・ ・ ・ ・)。準備が整い次第再び攻めるとエルキドゥ...もとい、キングゥが宣言したらしいが、それがいつになるのかまでは明言されなかったらしい。

 燈也の冥界下りがどの程度の時間を要するかは想像できないが、一日、いや一時間でも早く帰ってきてほしいのが立香の思いだった。

 

 地上に戻り仲間に無事を知らせるか、それとも燈也が地上へ戻る時間を早めるために行動すべきか。

 前者を選べば、燈也の帰りが遅くなる。

 後者を選べば、カルデア側に心配をかけるだけでなく、クタで待つマシュ、マーリン、アナが、自分を見つけるまでウルクに戻らないかもしれない。

 二つに一つ。どちらが最善かを必死で考える。

 

「ああ。リリアナとかにならパスが繋がってっから、俺から一方的な念話ができるぞ。こっちからは送信できても、あっちからのは受信できないやつ」

「よぅし、冥界下りへ出発だー!」

 

 憂いを無くした立香は、冥界遠征を楽しむ方向に切り替えたという。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 場所は変わり、ウルク北壁。

 女神ゴルゴーンの侵攻で半壊した壁を背に、リリアナはウルクの兵士たちの指揮をしていた。

 

「いやぁ、リリィちゃんは筋が良いですね。教えたことをすぐに吸収していく。すでに軍略Cくらいはあるでしょう。まあ? 私の教え方が上手いこともありますけど?」

「自意識過剰乙」

「事実ですしおすし」

 

 リリアナの指導者として壁の上から戦況を見渡していた景虎と信長は、いつも通りのやり取りをする。

 

 この二人とリリアナを合わせた三人は、先日のゴルゴーン侵攻の際の最功労者だ。

 突然戦場に現れたキングゥを、景虎が大怪我を負いながらも単騎で抑え。そして対ゴルゴーンをリリアナと信長が務めた。

 カルデアの一行はギルガメッシュと共にペルシャ湾へ調査に出向いており、マーリンとアナも別の王命があったために戦場には不在。牛若丸と弁慶は非番だったために戦場へ来るのが遅れた。

 

 ゴルゴーン戦にはレオニダスも加勢したが、女神の魔眼からウルクの街を守り、消滅。

 この一件、レオニダスの敗退を、リリアナは「自分の力不足故の失態」と捉えたらしい。気にするなと景虎も信長も声をかけたが、生真面目なリリアナは今までに増して奮闘するようになった。

 

 故に、リリアナはレオニダスの分まで戦場で働くようになったのだ。

 

 

 

「「────!」」

 

 

 もはや教えることの少なくなってきたリリアナの采配を眺めている彼女らの脳内に、とある声が響く。

 

『冥界で立香拾った。とりま立香と一緒に冥界の神ぶん殴ってくるから、あとよろしく。カルデア側にも伝えといてくれ。クタってとこにマシュとかもいるから、そっちもな』

 

「こ、こやつ、脳内に直接...!」

「念話の類ですかね...? 予兆とか全然ないですし、その割に妙に強い魔力使って送られてきましたし...心臓に悪い」

「というか、しばらく連絡もないと思ったら、マスターのやつ冥界におるのか。死んだのかの」

「あの化け物は殺しても死なないでしょう」

 

 数日ぶりの主からの生存報告に、軽い様子で対応する二人。

 アレは何があっても、仮に死んでも死なない。そういう、ある種の信頼にも似た確信を持っているが故の反応だ。

 

「さて。それでは私は藤丸くんの件をスカサハさんにでも報告してきますよ」

 

 そう言い、景虎は北壁の上から飛び降りる。

 スカサハは現在リリアナの指揮下にあり、ちょうど休憩中のはずだ。本人は「休息などいらん。戦わせろ」と煩かったらしいが、さすがに半日ぶっ通しで戦い続けたら疲労も溜まっているだろうからと、リリアナに半ば強制的に下げられていた。

 

「スカサハさん」

「東方の軍神か。お前も戦いに参加しに来たのか?」

「いえ、私はまだ先日の傷が癒えていないので。リリィちゃんからも今は休むように言われています」

「ふむ...どう思う? 軍神よ。我が不肖の弟子は、些か慎重...いや、臆病になりすぎてはいまいか」

 

 不服そうに、スカサハは前線で指揮を執るリリアナを見る。

 それに苦笑しながら、景虎は言葉を返した。

 

「臆病なのは良いことですよ。そういう者が最後まで生き残り、偉大な功績を遺すものです」

「そうか...あいや、そういうものだな。無謀な勇気は死を招く。どれだけの猛者であれど、引き際を知らぬ者は早死しやすい」

「ええ。ですから私も、そして貴女も。今はきちんと休むべきです。魔獣たちの母との決戦へ、万全の状態で望むためにも」

 

 まぁ、一番休んで欲しい少女が中々休んでくれないことが、景虎の悩みでもあるのだが。

 

「ああ、それはそうとスカサハさん。貴女に、我が主から言伝を頼まれていまして」

「何? あの神殺し、ウルクへ戻ってきておるのか?」

「あ、いえ。念話っぽいものが飛んできただけで、本人はウルクにはいないです。今は冥界にいるとかなんとか」

「相変わらず自由よな、彼奴は。カルデアにいた頃も、勝手に微小特異点に赴き、自分都合で特異点を肥大化させていたものだ。藤丸や、ドクターロマンとかいうカルデア最高責任者も頭を抱えていたぞ」

「あはは...いやはや、我らが預かり知らぬ頃の話とはいえ、マスターがご迷惑をお掛けしました」

「まあ、一緒になってサンタアイランドでサンタ狩りをした儂も儂だが」

「私の謝罪を返してください」

 

 違うそんな話をしにきたんじゃない。

 ふと本題を忘れそうになった景虎は、息を一つ吐いて本題を出す。

 

「マスター曰く、藤丸くんは今、マスターと共に冥界にいるそうです。そのことをクタにいるマシュさんたちにも伝えてほしい、と」

「...なに? 藤丸も冥界にいるだと?」

「はい。まぁ、死んでしまったわけではないでしょう。スカサハさんたち、藤丸くんのサーヴァントが今も尚現界しているのですから」

「.....いや、仮に藤丸が死んだとしても、儂らサーヴァントは現界し続けることが可能だ。直接的な魔力供給はカルデアから来ているからな。だから儂らの存在では藤丸の生死を判断できん」

「なんと。ははぁ...いや確かに、藤丸くんは普通の人間ですものね。我らがマスターと違い、複数の英霊を使役するには魔力が足りていない」

 

 深刻そうに眉にシワを寄せるスカサハだが、それとは対照的に、景虎は特になんの心配もしていなさそうに語る。

 

「ですがまぁ、大丈夫でしょう」

「? 一体何を根拠に...」

「マスターが一緒なのです。もし死んでいたとしても、マスターがどうにかしてくれますよ。冥界の神を殴りに行くとか言ってましたし、脅して藤丸くんを生き返らせる、くらいのことはやらかしてくれるんじゃないですかね?」

 

 あっけらかんと言ってのける景虎に、さすがのスカサハも数瞬押し黙る。

 確かに佐久本燈也という存在は規格外に過ぎるが、それはさすがに盲信しすぎではないかと疑った。

 

 だがしかし、立香が死んでいようといまいと、それをどうこうできるのは今同行している燈也のみ。

 どの道、立香の件は燈也に任せるしか手はないと割り切り、スカサハは立ち上がる。

 

「我らが敵は異形の女神だが、はてさて。どちらが怪物なのかは議論が必要なところだな」

「怪物具合でしたらマスターの圧勝でしょう。ゴルゴーンくらいなら余裕で倒せますよ、多分」

「ははっ、まったく。恐ろしい男だ」

 

 軽口とはいえ、影の国の女王に「恐ろしい」と言わしめる魔王は、やはりこの時代のどんな存在よりも怪物なのだろう。

 

「さて...リリアナ!!」

 

 よく通る声を大にして、スカサハはリリアナを呼んだ。

 戦場の中でも、これだけの大声はリリアナの耳によく届く。

 

「? なんですかお師匠様。貴女を出すのはまだ先だと先程から...」

「いいや、儂は一度ウルクを離れ、クタに向かう。儂抜きでも問題ないな?」

「え? ...ああ、先程の佐久本燈也からの伝言ですか。ええ、大英雄ヘラクレスや沖田総司もいるので、魔獣程度であれば問題はないかと」

「良し。では、何があっても儂らが帰るまで持ち堪えよ。いいな?」

 

 そう言い残し、スカサハはクタに向けて疾走し始める。

 みるみる間に小さくなっていく師の背を見送ったあと、リリアナは再び戦線へ視線を戻した。

 

「何があっても持ち堪えよ、か」

 

 簡単に言ってくれる。

 もし再びゴルゴーンが現れたら、彼女らでは決定打に欠ける。加えて、魔獣の数も、今の何倍にも膨れ上がっていることだろう。

 

 そもそも、ゴルゴーンとはメデューサ、ステンノ、エウリュアレという三姉妹の総称だ。

 であれば、以前現れたゴルゴーンとは別に、あと二柱の《怪物ゴルゴーン》がいる可能性もある。

 

「(先日攻めてきたゴルゴーンは邪眼を使っていた。であれば、アレは末の妹メドューサ。それならば、確率は低かろうと、理論上倒すことも可能だろうが...)」

 

 問題はもう二柱。

 ゴルゴーン三姉妹のうち、もっとも有名なのはメドューサだろう。しかしそれは、とある英雄によって『倒されたから』有名になったようなものだ。

 そして、残った二柱。ステンノとエウリュアレは、不死とされている。

 故に彼女らは討伐されず、可死のメドューサだけが殺された。

 

「(魔眼だけでも厄介なのに、そのうえ不死の神が二柱...佐久本燈也がいても、同時に攻めてこられては死傷者無しの勝利とはいかないだろう)」

 

 まぁ、それは最悪の場合だが。

 リリアナの予想する最悪の場合、女神三柱に加えて、キングゥという強敵を相手にすることになる。そうなると、燈也抜きではまず勝てず、燈也がいれば勝てるだろうが全員無事かどうかは怪しい、というのがリリアナの見解だ。

 

 しかし、そうならない可能性だってもちろんある。

 例えば、「ゴルゴーン三姉妹が一つの神性として看做され、一つの器に収まっている」という場合。

 その場合、確かにゴルゴーンは強敵かもしれないが、神話上で『打倒可能』と証明されているメドューサも含まれている以上、倒せる可能性も生まれてくる。

 それならば燈也抜きでも足留め程度ならどうにかなるし、燈也がくれば勝ちが見えてくるだろう。

 

「(それに、ゴルゴーンが三つの神性を持つ一柱の神なのだとしたら、ヘラクレスがいれば対応できるだろう)」

 

 一説によると、ゴルゴーンはギガントマキアの際に、ギガンテスの味方としてガイアにより生み出されたとされている。

 そのギガントマキアの際に、神々が殺せなかったギガンテスを殺したのが最強の英雄たるヘラクレスだ。

 ヘラクレスがゴルゴーンを討伐した、という話は聞かないが、ギガンテスを殺した神話を持つヘラクレスならばどうにかできるかもしれない。

 

「...可能性を模索するのは良いが、考えすぎて今を蔑ろにしては本末転倒だな」

 

 あらゆる事態に対応するためには、思考を止めてはいけない。

 だがそれ以前に、現状を維持、または改善できなければ、そもそも未来の話など考えても意味が無い。

 

 今やれることを精一杯果たそう。

 改めて意志を固め、リリアナはウルク兵へ次の指示を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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