問題児? 失礼な、俺は常識人だ。   作:怜哉

30 / 30
サボってました。
ごめんなさい。


作戦? BBB! EXアタックだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩! ご無事ですか、先輩!」

 

 

 周りへの配慮など忘れ去り、大盾を持った少女が全力疾走で駆けてくる。

 

 敏捷Dとはいえ、その域はすでに人間を超えており、車並の速度で二メートルはあろうかという大盾が移動している。言うなればダンプカーが突進してきているようなもの。

 優れた身体能力を持つ神代の兵士でさえ、身の危険を感じて道を開けていた。

 

「マシュ!」

「先輩!」

 

 藤丸の声を聞き、無事な姿を確認し、ダンプカーもとい藤丸の正式サーヴァント、マシュ・キリエライトの顔が綻ぶ。

 余程心配だったのだろう。今にも泣き出しそうだ。

 

 そんな感動の再会を他所に、スカサハはリリアナの下へ詰め寄る。

 

「...馬鹿弟子。貴様、その手はどうした」

 

 その手。手首から先が無い右手の話。

 心配してくれている...わけがないことはリリアナがよく分かっている。

 これは説教なのだ。

 

「いや、違うんです。油断したとかではなくてですね。こうしないと死んでいたというか」

 

「油断でないとすれば修行不足か。それにしても嘆かわしい。相手が神とはいえ、一人で戦っていたわけでもあるまい。ヘラクレスもいたのだろう? それを貴様、軽傷であればまだしも、まさか片手を無くしてくるなど。だいたいお前は──」

 

 

 言い訳を試みたリリアナだが、そんなものが通用するのなら苦労はない。

 くどくどくどくど、過去の話まで持ち出してリリアナの不出来を嘆く影の国の女王サマ。

 

 

 

 リリアナは強くなった。

 肉体的にもだが、それよりも精神面の成長が顕著だ。

 昔は自身の過小評価が酷く、劣等感に苛まれ、敗北の度に自分は燈也()の剣として力不足だと消沈していた。

 

 エリカと比べられ、その次は羅濠の弟子・陸鷹化の完成度との比較、さらにその先でサーヴァントという歴史に名を刻む英傑、そしてそれらと限りなく近い実力を持つ粛清騎士との会合。

 

 人間としては、リリアナはキャメロットに辿り着いた時点で、すでに最高峰に近い実力を持っていた。

 だというのに、比べる相手は人外ばかり。リリアナの周りには常に強者が蔓延っていたのだ。

 

 加えて、燈也という魔王の存在である。

 彼は、リリアナが手も足も出ない相手を、片手間で屠ってきた。

 比較対象がおかしいなど考えもせず、リリアナはただひたすら、自分は弱いのだと思い込んでいたのだ。

 故に、彼女の思考はマイナスへと向いていた。

 

 

 

 それが、今ではどうだ。

 リリアナはゴルゴーンに負けた。

 敵に一太刀も浴びせることなく、片腕を失ったのだ。敗北以外の何物でもないだろう。

 それを経て、リリアナは未だ消沈し切ってはいない。

 

 もちろん、悔しさや劣等感はあるだろう。

 だがそれでも、今のリリアナは前を向けている。

 それが何よりの成長だ。

 

 

 

 

 それを見て一番喜んだのは燈也だった。

 

 

「その辺にしとけ、スカサハ。あんまりうちのリリアナを虐めてくれるな」

 

 リリアナの様子を見に来た燈也が、長ったらしい説教を垂れ流していたスカサハを止める。

 

「! 王よ、ご無事でしたか」

 

 燈也の姿を視認したリリアナは、少し青い顔のままに声を上げる。

 

「そりゃこっちのセリフだ。腕の方は...ああ、しっかり止血されてんな」

「はい。ウルクの兵たちがきちんと処置を施してくれたので」

 

 言って、近くにいた兵士たちに目を向ける。

 それにつられて燈也も兵士らへと目を向けた。

 すると、兵士たちは緊張した面持ちで敬礼を示す。

 遠目とはいえ、燈也とゴルゴーンの戦いを目にしたからだろう。明らかな恐怖の念が込められた目で、燈也を見ている。

 

「そうか。ご苦労だったな、ギルガメッシュの兵士ども。褒美をやろう。金がいいか?」

「い、いえっ! 我らは我らの仕事を全うしただけですので...!」

 

 昔からこの都市を治めてきたギルガメッシュとはまた違う、絶対的な王者への畏怖。

 そんな相手から労われるなど恐れ多いと、兵士たちは燈也からの下賜を拒否しようとする。

 

 しかし、それを燈也は許さない。

 

「うるせぇ。俺がやるっつってんだ。大人しく受け取れ」

 

 ギフトカードから宝石や金塊、冥界で拾った鉱石などの山を、兵士たちの前に出す。

 基本的に他人に興味も関心もない燈也だが、王としてやるべきことはやるし、そこに他人の意見などありはしない。

 相手が気持ちなど関係ない。自分がやりたいからやる。

 要するに、ただの自己満足だ。

 

「佐久本燈也。リリアナの教育は儂に一任しているはずだろう。口を出すな」

 

 説教を中断させられたからか、スカサハが不機嫌そうに言ってくる。

 

「修行については感謝してるよ。だが、あんまりやりすぎるな」

「何を言う。一人前の戦士には程遠い。まだまだしごかなければならん」

「だったら今じゃなくていい。全部終わってから煮るなり焼くなり好きにしろ」

「!?」

 

 リリアナの目に驚愕が浮かぶ。

 助けてくれたと思っていたが、そうではないらしい。

 

「(ま、まぁ確かに、私はまだ弱い。もっと鍛える必要がある。あるが......そうか、全部終わったら、また地獄が始まるのか......)」

 

 リリアナは消沈した。

 

 

 

 そんな弟子に反応せず、スカサハは燈也の言葉に引っかかりを覚える。

 

「全部終わったら、だと? たった今、お主が最後の神を滅ぼしただろう」

 

 そう。

 目下、人類の脅威であった三女神同盟。

 

 南米の女神、ケツァルコアトル。

 冥界の女神、エレシュキガル。

 そして魔獣の女神、ティアマト(ゴルゴーン)

 

 それらは全て、燈也によって倒されている。

 

 であれば、この特異点は修復したも同然だ。

 スカサハはそう考えていた。

 

「まだだ。倒さなきゃなんねぇ神が、まだもう一柱残ってる」

「ほう? なんだ。あのイシュタルとかいう女神か?」

「違う。相手は────」

 

 

 

「女神ティアマト。我らが母、災厄の獣さ」

 

 

 上空から、燈也の言葉に被せるように、声が響く。

 スカサハを始め、リリアナやマシュ、ウルク兵たちもそちらを見上げた。

 

「──お前のことは、信長が相手してたはずだが?」

「はっ。旧人類如きがボクを抑えられるとでも? ...と、言いたいところだけどね」

 

 苦渋に染まった顔で、声の主──キングゥは続ける。

 

「さすがはお前の仲間だ、と言えばいいか? 随分と手を焼かされたし、倒しきれなかった」

 

 キングゥにとって、相手がいくら英霊とはいえ、旧人類に遅れを取ることは屈辱以外の何ものでもない。

 

「まぁ速度ではボクの足元にも及ばないからね。置いてきたのさ。今頃は必死に追ってきているだろうね」

「そうかよ」

 

 それより、と燈也は話題を変える。

 

「まず間違いないだろうが、一応聞いておこう。今度こそはちゃんとティアマトが出てくるんだろうな? 正直、ゴルゴーンみてぇなのだったら拍子抜けもいいとこなんだが?」

「ははっ。安心しなよ、旧人類。今目覚めているのは本物の母さんだ。お前たちにはもう未来はない」

 

 不敵に笑うキングゥは、ティアマトの勝利を信じて疑わない。

 

「へぇ? 俺が負けるとでも?」

 

 対して燈也も、自分が負けるなど微塵も思っていなかった。

 互いの絶対をぶつけ合う。

 

「勝つとか負けるとか、そういう次元の話じゃないんだよ。この世の如何なる存在であれ、母さんを倒すことはできない」

 

 驕りではない。彼女には、何者も決して届かないのだと、キングゥは確信している。

 事実、獣となったティアマトは強大だ。勝てる者など存在しないのかもしれない。

 

「そうか。なら、あえてこう言おう」

 

 だが、不可能を可能に変えてこその魔王。

 キングゥの“絶対”を嘲り笑い、神殺しの魔王は宣言する。

 

 

 

「“勝者”は俺だ」

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

『言ってろよ、旧人類』

 

 

 そう言い残して飛び去ったキングゥを追うことなく、燈也たちはウルク市内にあるカルデア大使館に戻ってきていた。

 

 この場にいるのは、燈也、リリアナ、藤丸、マシュ、スカサハ、そしてアナの六名。

 加えてホログラムのロマニが神妙な面持ちで写し出されている。

 

 他の英霊たちはウルク近郊の哨戒に出ていた。

 ゴルゴーンを討ったとはいえ、魔獣は健在。最終決戦の前に駆逐しておこうという考えだ。

 

 

「さて。現状の確認──の前に、リリアナ」

 

 大部屋で机を囲みながら、上座に座る燈也が話し出す。

 

「まずはお前の腕を治す。見せろ」

 

 言われて、リリアナは損傷した右手を差し出す。

 きれいに処置されているとはいえ、手首から切断されている様は痛々しい。

 傷には慣れているはずの藤丸でさえ目を逸らしてしまう。

 

『治すとはいうけど、もうほとんど完璧に処置されているよ? これ以上は、そちらの医学ではどうにもならない』

 

 医者としての見解をロマニが告げる。

 

『まさかとは思うけど、手を生やすだなんて言わないよね?』

「そのまさかだ」

 

 燈也が取り出したのは、黄金に輝く魔力。

 ゴルゴーンから搾り取った、聖杯の残滓の集まりだ。

 

「俺は基本何でもできるが、苦手なこともある。特に回復系のものは苦手だ。俺に効かないからな。あんまり使ってこなかった弊害みたいなもんだ」

 

 黄金の魔力に自身の魔力を混ぜ、それをゆっくりとリリアナの傷口に送り込む。

 

「んっ...」

 

 奇跡の残滓は柔らかに傷口を包み、黄金から白銀の輝きへと変わっていった。

 リリアナの口から吐息が漏れるが、苦しんでいる様子はない。

 

「『損傷箇所の再生』なんて、ほとんど魔法の域だ。回復魔術を極めてりゃまだしも、今の俺には不可能。だがまァ、外部の力を使えば、これこの通り」

 

 光が霧散し、リリアナの患部が露わになる。

 と同時。先程までなかったリリアナの右手がそこにはあった。

 

「え!?」

「ほう...」

「...びっくりです」

「ヒュー! さすが燈也だ! ヒュー!」

 

 当の本人、リリアナが声も出せないほど驚く中、奇跡を目の当たりにした面々は、各々驚愕を露わにする。

 特に反応が大きかったのは、医者としての知識があるロマニだ。

 

『そんな...! ど、どうやったんだい!? 時間操作!? それとも因果への干渉かい!?』

「ンな大したもんじゃねぇよ。欠損箇所を魔力で補って型どり、受肉させた。あとは治癒魔術の要領で、傷口を癒してくっつけただけだ」

『十分大したことだけど!?』

 

 確かに、時間操作や因果への干渉と比べたらいくらかは難易度が低いのかもしれない。だがそんなものは誤差だ。

 そも、魔力で補った部位、つまりはエーテル体を受肉させるなど、聖杯くらいにしか真似出来ない所業なのである。

 

『そ、そうか! なるほど、受肉を聖杯の奇跡に頼ったんだね! いや、それでも神経に至るまで精巧なエーテル体を構築するなんてすごいことだけど...』

「あ? 違ぇよ、聖杯の残滓を使ったのは治癒魔術の部分だ。受肉させるくらい俺一人で十分だわ」

『化け物! 燈也くんっていっつもそうですよね! 私たち一般人を何だと思ってるんですか!?』(エ〇漫画)

「石ころ」

『あァァァんまりだァァアァ!!!!』(スッキリ)

「動物ですら無い辺り、ギルガメッシュ王より酷いな...」

 

 この人たち、意外と余裕あるんだなぁ。

 騒ぎ散らすカルデアを見て、アナは呑気にそう思った。

 

「リリアナ。手の感覚はどうだ」

「え? あ、はい。...そうですね。多少違和感はありますが、大きな問題はないかと」

「そうか。ある程度時間が経っても違和感が無くならなかったら言え。ほかの手を考える」

 

 そう言うと燈也は再び席に座り、ふんぞり返る。

 

「さて。それじゃあ作戦会議、始めるぞ。ロマニ」

『はい?』

「現状確認だ。ティアマトの“仔”だが、俺は一億と五千くらいは感知できてる。そっちではどうだ」

『感知できてる、って...百キロくらい離れてるんだけど』

 

 呆れつつ、まぁいいやと気持ちを切り替える。

 

『そうだね。こちらでも確認できる数はその程度だ。加えて、今も尚増え続けているし...何より恐ろしいのは、その強さだ』

「強さ? どのくらいなんですか?」

『...。信じられない...いや、信じたくないが、一個体の持つ魔力量は、ウガル数体分、ってところかな』

 

 藤丸の質問に、ロマニは一息おいてから答えた。

 それにはさすがのスカサハでさえ、一瞬顔を強ばらせる。

 

 当然だ。

 ウガル──ゴルゴーンの魔獣より数倍強い敵が、さらに数倍の数で迫ってきているという。

 戦争などと、生温い表現では収まらない。

 これは蹂躙だ。

 

「まぁ、ティアマトの仔ってんならそのくらいはあるだろ。俺の創る仔(ラハム)でさえゴルゴーンの魔獣(ウガル)の三倍は強い」

 

 一同に沈んだ空気が流れる中で、燈也の声はよく通る。

 

「だが数は問題だな。これからまだまだ増えるだろうし。海の支配権が半分でも奪えれば問題ないんだが...一回見に行ってみるか」

 

 言って、燈也は立ち上がり、外に出る。

 突然の行動に周りが動けずにいる中、外から眩い光と共にゴロゴロという雷鳴が聞こえてきた。

 

「リリアナよ。貴様の主は何をしておる?」

「言っていた通り、ペルシャ湾の様子でも見に行ったのでは?」

『相変わらず自由だなぁ。...ってうわぁ!?!??』

「!? ど、どうしたんですかドクター!」

『い、いや...突然とんでもない魔力が計測されたと思ったら、敵生命体の数が二割くらい減った...。な、何を言っているか分からないと思うけど、僕自身わけが分からない。機器の故障かな...?』

 

 と、再び彼らの目と耳を突く閃光と雷鳴。

 それらが収まったと思えば、少しばかり紫電を纏った燈也が大使館の中へ戻ってくる。

 

「やっぱりダメだな。海の支配権はほとんど全部取られてる」

 

 言いながら、燈也はドカッと荒々しげに椅子に座った。

 

「王よ。Dr.ロマニが敵生命体の大量消滅を観測したと言っていますが」

「あ? ああ。雷の雨を降らせた。全部消すには数が多すぎたからな。とりあえず数割だ」

『気が狂うよ...♡』

「先輩! ドクターが壊れました!」

「ドクタァアアアア!!!!」

「お前らうるせぇぞ。黙れ」

 

 

 閑話休題(気を取り直して)

 

 

「結論だが、俺一人じゃ厳しい戦いになってきた」

『ほんの数秒で千万以上の敵を倒した人の言葉とは思えない』

 

 怯えたように言ってくるロマニに、藤丸やマシュも頷いて同意を示した。

 

「千万体程度、あっちがその気になったら数十分で補填される」

 

 それより、と燈也は続ける。

 

「雑魚も数がいればそれなりの脅威だ。ほぼ無限に湧くとなると、ティアマトに集中できなくなるからな」

『いや、相手は決して雑魚じゃないんだけど......うん、まあ、もういいや。だったら藤丸くんの仕事は、敵生命体...一応神話に(なぞら)えてラフムと仮称するけれど、そっちの露払いをしろ、ってことかな?』

「いや、違う」

「え?」

 

 思わぬ否定に、藤丸の口から疑問が漏れる。

 それはマシュやロマニ、スカサハ、アナも同じだ。自分たちの仕事はラフムの相手だと思っていたからだ。

 

「正確には、立香とマシュだけ別行動だ。ほかの奴には仔の相手をしてもらう」

「俺とマシュだけ...?」

「ああ。マシュはお前の護衛で...立香。お前に任せるのは、お前にしかできない仕事だ」

 

 思わず、生唾を飲み込んだ。

 あの魔王が、他人に仕事を任せようとしている。それも、彼の言いぶりからして、とても重要そうな仕事をだ。

 燈也とは短い付き合いだが、彼の性格はある程度知っている。

 

 一体、何を言われるのか。

 

 緊張する藤丸に、燈也は命令を下す。

 

「お前、今から女を口説いてこい」

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

「マスター! 周辺の魔獣の駆逐、完了しました!」

「もう一匹もおらんぞ。全く、腹が減ったわ。肉の体を得るというのも考えものじゃの」

 

 返り血に塗れた二人の武将が、大使館へと戻ってきた。

 その後ろには牛若丸や武蔵坊、藤丸のサーヴァントである沖田とヘラクレスの姿もある。

 

「遅かったな」

「これでも随分急いだのですが」

 

 仕事を労わってくれない王に、景虎は不満を隠すことなく伝える。

 だが、文句を言ったところで何が変わるわけでもない。一度のため息で全て流し、景虎は気になっていたことを問う。

 

「そういえば、カルデアのマスターくんと盾子ちゃんは? 一緒に作戦会議をしていたのでは?」

 

 キョロキョロと大使館の中を見渡す景虎につられ、後ろにいた沖田が信長を押し退けて入ってくる。

 

「確かに見当たりませんね...上の部屋にいるんですかね? マスター! 貴方の剣がお仕事を終えて帰ってきましたよー!」

 

 沖田の叫びに答える声はなく。

 大人数が集まっているというのに、大使館に沈黙が流れる。

 

「お? 沖田め、とうとう愛想尽かされたか? まぁただの人斬りなんぞ、神の血をひく英傑がいるカルデアでは役不足も良いところよな」

「マスターはそんなことしないカリバー!」

「ビームすら出せないセイバーが何を言うとるんじゃ」

「アルトリア顔なのでいつか絶対出せるようになりますぅ! お願いシャッチョ!」

 

 いつでもどこでも騒がしい奴らだ、と燈也は呆れてみせる。

 

「まぁ、この状況で遊んでいられるのもある種才能なのかもな」

 

「!? おい、マスターがわしを褒めたぞ。今日はマグマでも降るのか...?」

「褒められたんですか? 今の。馬鹿にされたんじゃなくて? というか降るのなら槍でしょう」

「ここには槍降らしてくる奴(全身タイツ女王)がおるので槍はいつでも降ってきます」

「まぁあなたは女王様に粗相してますからね。串刺しもやむ無し。南無」

「それは回す方のノッブじゃろうが!! わしやってないもん! 揉んでないもん!」

 

「お前らちったぁ静かにできねぇのか」

 

 微妙にキレた燈也は暴力とは別の怖さがあったと、後に二人は語る。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

「立香にはちょっとした仕事を任せてある。面倒な仕事だし、もう暫くは帰ってこないだろうな」

 

 自主的に正座をした沖田へ、燈也は告げる。

 

「危険な仕事ですか?」

 

 見事な正座を見せる沖田は、藤丸の身を案じて聞き返した。

 

 沖田にとって、佐久本燈也という人間は、正直なところあまり信用に足る人物ではない。

 理由はいろいろとあるが、決め手は彼女の直感だろうか。少なくとも「良い人」ではないことは確信していた。

 

「危険...まぁ、危険っちゃ危険か。展開によっちゃあ、立香がマシュに殺されかねない」

「一体うちのマスターに何をやらせてるんですか?」

「気にすんな。ただちょっと、女を口説かせに行かせてるだけだ」

「一体うちのマスターに何をやらせてるんですか!?」

「気にすんな」

 

 それより、と暴れる沖田を押さえ付けながら、燈也は話を進める。

 

「今後の戦略を話し合った結果、ティアマト本体は俺が、仔どもの相手はお前ら全員でやることになった。敵はそこそこ強いが、まぁ各々頑張って生き残るように」

 

「#戦略 とは」

「パワープレイの間違いじゃろ」

 

 景虎と信長の頭頂部に、大きめのタンコブが出来上がった。

 

「牛若丸。あの金ピカ王に伝えろ。俺は俺で自由にやる、邪魔はすんな。ってな」

「は、はぁ...」

 

 そんな事を言えば自分の首が飛びかねないのですがそれは...

 という言葉を飲み込み、なんとか噛み砕いてギルガメッシュには伝えようと決める。

 

「とはいえ、あの金ピカの戦力もバカにならない。あいつ自身もそうだが、牛若丸や弁慶なんかの契約サーヴァントも......あ? そういやマーリンのやつはどうした?」

 

 マシュらは帰ってきたというのに、同行していたはずのマーリンが見当たらない。

 

「そういえば、途中で置き去りにしてから見ていませんね。魔獣の餌にでもなったんでしょうか?」

「フフォーウ!!(特別意訳:ざまぁみろ!!)」

 

 今まで口を閉じていたアナが呟き、フォウも続く。

 フォウの言葉が分かる燈也としては、何がそこまでマーリンを嫌悪させるのかが分からず、首を傾げた。

 

「ま、いないならいないで問題はない」

 

 強力な戦力だが、別段絶対に必要というわけでもない。

 

 

 燈也としては本当に、心の底から癪だが、今回の戦いはギルガメッシュの力を借りざるを得ないと考えている。億の相手に対処するのであれば、宝具ハリケーンのギルガメッシュの力は絶対に必要だ。

 だがそれはギルガメッシュ個人の力であって、彼が契約するサーヴァントは付属品でしかない。

 

 故に、牛若丸を通じて煽るような言葉を投げかけることにしたのである。

 軽く煽ってやれば、基本的に沸点の低い英雄王は腰を上げる。なんとも軽い腰だ。

 まぁ燈也もギルガメッシュ同様煽り耐性は低いので、立場が逆であればギルガメッシュと似たような行動を起こすのだろうが。

 

 

 まぁ要するに。

 燈也がウルク側に求めている戦力はギルガメッシュのみ。ほかはまぁ、いるなら使えるか、くらいの気持ちだ。

 

「戦闘開始は明朝だ。各自、休憩なり鍛錬なり、明日に備えとけ。以上、解散」

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 一方、藤丸はというと。

 

「またこの道を下ることになるなんてなー」

 

 薄暗い道を、マシュと二人で歩いていた。

 

 

 

 ここは冥界。

 生が行き着く、死の王国。

 

 たった数刻前に脱出したばかりのこの国へ、藤丸は再び足を運んでいた。

 理由は明快。魔王に仕事を任されたからである。

 

 

「マスター、足元が悪い上にこの薄暗さです。転ばないよう、気を付けてくださいね」

「うん。ありがとう、マシュ」

 

 先程までは多くの(ゴースト)に囲まれていたのだが、それもマシュが一掃した後だった。

 今は敵対反応もなく、ただただ坂を下っている。

 

「...本当に暗いです。人間は本能で闇を恐れるといいますが...この闇はそれとはまた少し違った、なんというか、もっと“濃い”恐怖を感じてしまいますね」

「そうだね。黒より黒く、闇より暗き漆黒、って感じだ。爆裂しなきゃ」

「意味が分かりません」

 

 思えば、こうして二人で歩くのは久しぶりかもしれない。

 場所は場所だが、久方ぶりの状況に、マシュは少しだけ気が盛り上がっていた。

 

 しかし、そんな高揚した気分も、徐々に徐々に薄れていく。

 

 

「あ! 燈也が殴って砕けた岩だ! ってことはもうすぐ門かぁ」

 

「あ! 燈也が脱ぎ捨てた服だ! まだ残ってたんだ」

 

「あ! 燈也がつまづいた窪みだ! 笑ったらすごい睨まれたんだよね...本当に殺されるかと思った...ロンドンで遭った魔術王より怖かったよ...」

 

「あ! 燈也が────」

 

 

 道行く先々に、藤丸(マスター)と例の魔王との思い出()が散らばっている。

 

 自分は初めてなのに、相手には別の人物との思い出がある。

 これは今カノが元カノへ抱く“嫉妬”という感情か。マシュはまた一つ、学ばなくてもよい学びを得た。

 

 いや、別にマシュは藤丸の今カノではないし、燈也も藤丸の元カノではないのだが。

 

 

 それに加え、マシュの機嫌を損ねる原因がもう一つあった。

 

「ふぅ。結構下ったね。あと少しだよ」

 

 軽く汗を拭う藤丸。

 疲れ、だけではない。これから自分が行うべき所業に対して、僅かどころではない緊張がある。

 

「...本当に、俺にできるのかな」

 

 藤丸の不安からくる呟き。これに対し、普段であればマシュが肯定しフォローする側に立っていただろう。

 しかしながら、今回ばかりは言葉に詰まる。

 

 藤丸には無理だ、と思っているわけではない。

 あまりやってほしくない、と思っているのである。

 

 

 

 ───冥界に行って、あの根暗女神を口説いてこい。

 

 

 

 燈也より下された任務に、マシュは最初、猛烈に反対した。

 藤丸も、反対とまではいっていない様子だったが、何故自分が行くのかと疑問を抱いていた。

 

 それに対する燈也の答えはこうだ。

 

 

 

 ───だってお前、女誑かすの得意だろ。

 

 

 

 絶句だった。

 藤丸は「自分にそんなギャルゲー主人公みたいな特殊能力はない」と思ったが故に。

 マシュは「先輩なら本当に女神の心すら動かすかもしれない。だって先輩だし」という、ある種の不安から。

 

 

 マシュとしては、本当は藤丸を行かせたくはなかった。

 本人すらはっきりとは自覚していない恋心からくる嫉妬、という側面。

 そして、生身の人間であるマスターを危険極まりない冥界、そして女神の前に行かせることに対する不安があったから。

 

 

 しかし、冥界の女神を味方に引き入れることができたのなら、ティアマトという強大な敵に対抗するための大きな武器になる。

 そういうことも理解できてしまうが故に、マシュは渋々、燈也の命令に従った。

 

 

 

 はぁ、と漏れた二つのため息が、冥界の闇に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。