問題児? 失礼な、俺は常識人だ。   作:怜哉

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新型肺炎怖すぎますが、、、


カンピオーネ
出会いは突然に、そして理不尽に訪れる


 

 

 

 

 

 照りつける太陽。

 頬を撫でる風には砂が混じっており、たまに目に入って死ぬほど痛い。

 

「えー、あー.....えくすきゅーずみー?」

「? Bimirin」

「なんて???」

 

 道行く男性に声を掛けてみても、返ってくるのはよく分からない言語のみ。英語じゃないみたいだし...何語なんだろ。

 石造りの街並みに、あまり馴染みのない肌色の人々。さらに言語が通じない、となると、考えられるのは一つ。

 

 

 ここ外国だね、間違いない。

 

 

 * * * * *

 

 

 箱庭へ飛ばされた時と同様、じじいに取り押さえられながら謎の光に包まれてしまった俺が視力を取り戻すと、そこは大空の中だった。

 

 またか。

 

 意外にも落ち着いた心持ちで、俺は蒼い空を見つめる。

 こういう時は慌てふためくのが一般的なのだろうが、俺は違う。どうしようもないと判断したら“諦める”。

 と、いうのも。俺は運がいいのだ。それはもう異常なほどに。もう“幸運(それ)”が恩恵であると言っても過言ではないレベルで。

 そうなると、大概のことは放っておけばどうにかなってしまうのだ。ほら、箱庭言った時だって上空に放り出されたけどなんとかなったし。

 

「わぷっ」

 

 何か柔らかいものにぶつかった。

 これは...バルーン? 気球かな。

 

 とにかく、そんなワンクッションを経て、俺は水に頭から落ちた。

 ...いや、しょっぱ。これしょっぱ。塩水...海か、ここ。

 

 水面に顔を出す。

 水を払うように頭を振り、顔に付いた海水を手で拭き取ってから周りを見渡した。

 少し遠く。目測で五キロ先くらいに陸が見えるな。とりあえずそこまで行くか。

 

 目的地を決め、泳ぎだし、しばらくして陸に上がり、服を乾かし、近くにあった町へと足を運んだ。

 ここで冒頭に戻る。

 

「英語なら少しは話せるけど、それ以外のは無理だな...。どーしよ、マジで。てか俺夕飯食い損ねてるんだけど。腹減った」

 

 どうせ誰にも言葉は理解されないんだと思い、わりと大きめな声で独り言を呟く。

 すると、そんな俺の独り言に反応を示す声がした。

 

「どうした? なにか困り事か?」

 

 日本語だった。

 思わず、ものすごい勢いで声のした方へと顔を向ける。

 

「うおっ。ビビったなぁ...そんなに焦ってるのか?」

 

 気の良さそうな青年が、そこにいた。

 黒髪で、背は俺と同じくらい。顔付きはまだ少し幼く、成人はしていなさそうだ。高校生、といったところか。

 

「あー、いや。知らない土地で日本語が聞こえたんで」

「なるほどな。まぁ気持ちは分かる」

 

 うんうん、と頷く青年。いい人だ(確信)

 

「ちょっと護堂。そんなのに構ってないで早く来なさい」

 

 ひょこっと青年の後ろから出てきた、長い金髪の女。冷たい人だ(確信)

 

「分かった分かった。ごめんな、俺たちちょっと急いでんだ。こいつでメシ食ってくれ」

 

 そう言って、青年は紙幣を渡してくる。

 俺がそれを受け取ったのを確認すると、青年は手を振って駆けて行った。いい人だ(再確認)

 

 にしても。

 

「.....これ、何だろ」

 

 渡された紙幣を眺め、ぽつりと呟く。

 見たことのない通貨だった。ユーロやドルだったらまだ分かったんだが、見たことのない通貨のレートなんて分からない。日本円でいくらなんだこれ。

 

 まぁ、とりあえず一食分はあるとみていいだろう。

 なにせ、あんないい人がくれたのだ。これで何も食べれない、なんてことはないだろう。多分。きっと。そう信じたい。

 

 と、いうわけで。

 

「すんませーん、このリンゴくださーい」

「? Bimirin」

「ここの人たち、なんでさっきからそれしか言わないの?」

 

 十個くらいリンゴ買えた。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 パサついてはいたものの、リンゴを丸々十個も食べれば腹は膨れる。

 食欲が満たされたから現状把握をしたいところなんだが、如何せん言語が通じない。小一時間色んな人間に話しかけてみたが、日本語を理解できる人はいなかった。

 

 ちょっと心の折れてきた俺は、さっき残ったリンゴの芯を餌代わりに、そこらで拾ったボロ釣竿で海釣りを始めた。

 リンゴの芯なんかで何が釣れるんだよ、と思いつつも暇で始めた釣りだったが、意外や意外。結構釣れる。楽しい。

 

 餌が無くなれば釣れた魚を餌にして、徐々に大きい魚をヒットさせていく。

 魚の名前なんかはさっぱり分からないが、とりあえず二十センチ台の魚が十数匹ほど釣れたところで、俺は釣り場を変えることにした。

 

「...あれ。なんで俺本気で釣りとかやってんだろ」

 

 ジェスチャーでなんとかボートを借り、沖まで出たところで、ふと我に返る。

 その頃にはもう五十センチを超える魚が網かごいっぱいになっていた。

 

 これで三日はいけるな。

 そう確信できる量を釣り上げ、釣りの熱も冷めてきた俺はボートを漕いで岸へ帰ろうとした。

 と、その時。

 

「.......? うおっと」

 

 海が大きく揺れた。

 それだけではない。

 遥か海底、目では捉えきれないほどの深さに、“何か”がいる。

 

 何だ、何がいる。

 サメやクジラよりもっと巨大で、強大な“何か”。

 微かに既視感を覚える気配と、肌を突くような圧力。

 これは───

 

「おーい!! お前ー! そんなとこにいると危ないぞー!!!」

 

 海底へと神経を集中させている俺に、そんな声がかかった。

 五感を強化していたからこそ聞き取れた、遠方からくる聞き覚えのある声.....あー、さっきの親切な日本人か。

 海底に意識を置きつつ、チラリと横目で声のした方向を見てみる。

 

 なんか豪華客船っぽいのがこっちにきてた。

 

「.....は?」

 

 砂の目立つこの土地ではあまりにも不自然極まる船に、俺は一瞬だけ意識が持っていかれる。

 そのたった一瞬。その隙をつくかのように、“何か”が弾けた。

 

「え、ちょ...!」

 

 津波、とは少し違うか。

 まるで海中で爆弾でも爆発したかのように、まるで火山でも噴火したかのように。

 俺の周囲の海水が、根こそぎ上空へと吹き飛ばされた。

 

 ボートなんかひとたまりもない。

 衝撃を受け、粉々に砕け散る。せっかく釣った魚もだ。

 空高く放り投げられた俺は空中で体勢を整え──宙に浮く。

 

「なんなんだ一体...」

 

 凡そ、地球上の生物が生み出せるエネルギーではなかった。

 少なくとも、俺はそんなパワフルな生物は知らない。それこそ、爆弾や火山なんかと比肩する超エネルギー。

 地図を塗り替えられるほどの力を奮う“何か”が、そこにいる。

 

「おーい! 大丈夫かぁー!!」

 

 未知へ対する若干の焦りと、多大な憤怒(・ ・ ・ ・ ・)

 そんな感情を込めて海面に睨んでいた俺に、再び声が届く。

 

 見ると、さっきの余波で少し流されてはいたが、ほとんど損傷のない豪華客船があった。

 甲板には二つの人影。親切な日本人と、冷たい金髪だ。

 

 状況から考えて、あいつらは海中にいる“何か”について知っていることがあるんだろう。

 ならば一旦合流して、“何か”について聞いてみようか。

 

 そう思った俺を、一つの暴力が襲う。

 

『Graaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!』

 

 大気を震わせるような咆哮と、天に舞い上がる海水の竜巻。

 今まで見てきたどんな天災よりも凶悪で、明確な殺意が込められていた。

 ...思い出した。この既視感ありまくりの気配はあれだ。

 白夜叉やじじいからした神の気配、“神格”だ。

 

 白夜叉は正確には神じゃないっぽいが、この際そんなもんはどうでもいい。

 迫る竜巻を慣れない(・ ・ ・ ・)空中移動でなんとか避けつつ、豪華客船へと着地する。

 

「おい! 大丈夫だったか、お前!」

 

 さっきから安否しか確認してこねぇな、この親切な人。

 

「そんなのは放っておきなさい、護堂」

 

 そして相変わらず冷てぇな、この女。

 

 女の方を軽く睨んだあと、俺は親切な人に向き直る。

 

「さっきは金ありがとう。そんで、アレはなに」

「お、落ち着いてるんだな...お前、魔術師か?」

「.....まぁそんなとこ」

 

 全然違うけど。

 

「で? アレなに」

 

 クイッと顎で海をさす。

 荒れ狂う海面から、例の“何か”がちょうど顔を出したところだった。

 

 その姿は、伝承にきくような、いわゆる龍だ。

 

 屈強な山羊を思わせる巻いた太い角。

 体は蛇のように長く、青白い。

 海面からまだ全体が出ていないので分からないが、その大きさは三十メートルを超えるだろうか。

 竜巻を従え、明らかにこちらへと殺気をぶつけてきている。

 

「神的な何か、ってのは何となく分かるけど」

「...お前、魔術師なのにまつろわぬ神を知らないのか?」

「知らん。けどまぁ、まつろわぬ神、か。OK、理解した。アレをぶっ殺せばいいんだな?」

「何を理解したんだお前は?」

 

 馬鹿なの死ぬの? と言いたげな目線を無視して、俺はまつろわぬ神とやらを睨み付ける。

 そんな俺の態度に腹が立ったのか、やつの従えていた竜巻が一つ、豪華客船を襲った。

 それをまた飛んで避けようとする俺の前に、親切な人が立ち塞がる。

 

「うおぉぉおぉぉおぉぉぉおぉ!!!!」

 

 足場をしっかりと踏みしめ、腰を使い、彼は渾身の右ストレートを竜巻にぶつけた。

 気でも狂ったのか、そう思うより前に、彼の纏う空気が変わったことを知覚する。と同時、竜巻が人間の拳に押されて霧散した。

 竜巻に巻き上げられていた海水が弾け、雨のように降り注ぐ。

 

「エリカ!」

「分かってるわ!!」

 

 親切な人の呼びかけに応じ、冷たい金髪が飛翔する。

 いつの間にか装備していた細剣を構え、まつろわぬ神とやらへと立ち向かう。

 それに続き、親切な人までも、普通の人間では考えられないような脚力で飛び出した。

 

『GRAaaaAAaaAAAaaaaaAAAA!!!!!!!!!!!』

 

 交差する暴力と暴力。

 

 ...アレはダメだ、と直感した。

 

 女の方はまだいい。

 だが、男と神はダメだ。俺じゃ勝てない。

 彼らの打ち合いを数回も見れば、嫌でも分かる。

 

 あそこに混ざれば、今の俺は死ぬだろう。

 塵芥同然に屠られるだけならまだいい。眼中にすら入らないかもしれない。

 事実、今のアイツらには、俺の姿なんて写っちゃいないんだろう。

 

 常識人ぶってたわりには獰猛に笑い拳を奮う男と、獣のような咆哮をあげて一切を薙ぎ払わんとする神。

 

 ああ、なんて。なんて───

 

「──...うっぜェなぁ」

 

 食い締めた奥歯が砕ける音がした。

 怒りは体のリミッターを外すトリガーになるとは聞いたことがあるが、なるほど確かに。欠けたであろう奥歯から痛みは感じられず、全身の筋肉は軋みを上げるほどに唸っていた。

 

 ...いい度胸だ。

 神だか何だか知らねぇけど、俺を格下だと見くびったこと、骨の髄まで後悔させてやる。

 

「この俺を、無視してんじゃ、ねぇぇぇえええぇぇぇえ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 今ここに、小さな王は憤怒する。

 

 

 * * * * *

 

 

 カンピオーネは『覇者』である。

 天上の神々を殺戮し、神を神たらしめる至高の力を奪い取るが故に。

 

 

 カンピオーネは『王者』である。

 神より簒奪した権能を振りかざし、地上の何人からも支配され得ないが故に。

 

 

 カンピオーネは『魔王』である。

 地上に生きる全ての人類が、彼らに抗うほどの力を所持できないが故に。

 

 

 人類は、彼らに抗う術を持たない。

 元は同じ『ヒト』でありながらも、彼らはその枠組みを超越した。

 彼らに対抗しえる存在は、彼らの同胞か、神の使徒、もしくは神そのもののみである。

 絶対的勝者であり、人類の頂点に君臨する王者。

 人類が持つ“まつろわぬ神”への唯一の対抗手段であり、人類が抱える最大の腫瘍(災害)

 

 彼らは、人類の味方ではない。

 究極の快楽主義者だ。

 己の欲に応じ、食い、寝て、暴れる。

 

 人類にとって最凶の脅威である“まつろわぬ神”とどちらがマシか、と本気で考えたくなるような暴君。

 そんなカンピオーネの一角が、草薙護堂である。

 

 

 

 

 

 

 そんな魔王・草薙護堂は今──混乱していた。

 

「この俺を、無視してんじゃ、ねぇぇぇえええぇぇぇえ!!!!!!」

 

 突如として飛び出してきた、同郷の少年。

 多少は魔術を扱えるようだが、感じ取れた呪力は、隣の紅き悪魔(ディアヴォロ・ロッソ)と比べても見劣りするようなレベルだった。

 

 魔術を使える半一般人。そんな認識だった少年が今───神の顔面にライダーキックをカマしている。

 

 

 

「なっ、はぁあぁあ!???!」

 

 護堂の口から、思わずそんな叫びがもれた。

 しかし、その声をかき消す轟音が大気を揺らす。

 少年に蹴りを入れられたまつろわぬ神が、海面へと叩き付けられた音だ。

 

 三十メートル級の相手を蹴り飛ばす、という中々に現実離れした光景を見せつけた少年、佐久本(さくもと)燈也(とうや)は、空中に立って満足気に鼻を鳴らす。

 

「さてさて、どうやってあの蛇野郎をぶっ殺すかな」

 

 軽いストレッチをしてみせる燈也を見て、紅い悪魔ことエリカ・ブランデッリは戦慄した。

 神を軽く蹴り倒す膂力もそうだが、何よりも、先程まで(・ ・ ・ ・)との(・ ・)あまりの(・ ・ ・ ・)変わり(・ ・ ・)よう(・ ・)について(・ ・ ・ ・)だ。

 

「(さっきまでは一般人に毛が生えたくらいの呪力だった...でも、今のアレは一体なに.....?)」

 

 神が叩き付けられたことにより、空へと上がった海水が降り注ぐ。

 濡れた髪が少しずつ重くなっていくのを感じながら、エリカは顔色を激変させて叫んだ。

 

「っ! ソレから離れなさい、護堂!!!」

 

 さっきまでは、確実に自分よりも格下だった東洋人。

 数秒前までは、自分と比肩する人類の中の上級者。

 

 そして今は──自分を遥かに凌駕するどころか、魔王にすら迫る圧力(プレッシャー)を放っている異端者。

 

 たった数秒。

 ゼリー飲料を飲み干すよりも早い期間で、鼠が虎へと進化した。

 

 アレは人の領域にはない。

 エリカの本能がそう告げている。

 

「『ソレ』だぁ? モノ扱いかよ...あのデカブツの次はあの女ぶん殴ろうかな」

 

 そんな不穏な呟きは、突如吹き荒れた暴風によりかき消される。

 常人では吹き飛ばされてしまいそうな暴風に乗せられ、水の(つぶて)が燈也を襲った。

 が、その悉くは燈也によって叩き落とされる。

 

『Grrr...』

 

 呻く声が聞こえた。

 風が音を遮断する中で、しかしながらその場の全員にはっきりと届く、獣の唸り。

 その声の主は、ついさっき燈也に蹴り飛ばされたまつろわぬ神だった。

 

「なんだ蛇公。あんまダメージ入ってなさそうだな」

 

 ボキボキと指の関節を鳴らし、燈也は神を見据える。

 神もまた、燈也を見据え──否、すでに攻撃は始まっている。

 それにいち早く反応したのは、草薙護堂だった。

 

「下! 海だ!!」

 

 護堂の叫びより一瞬早く、海水がうねりを上げて燈也に襲いかかった。

 それを勘に頼って空へと逃げた燈也に、更なる追い討ちがかかる。

 

「な、はぁ!?」

 

 燈也の口から思わずもれる、驚愕の声。

 それも仕方のない事だと、その場にいた者であれば言うだろう。

 

 未来視という異能を持つ燈也にとって「未来とは決まりきったことか」と問われれば、ノーと答える。

 予測(予知)し得ない出来事が起こる、なんてことはザラだ。

 

 そも、燈也の未来視は完璧ではない。狙った未来が視えるわけでもなければ、少しのエフェクトで未来は簡単に覆る。

 今回は前者だ。未来を視るよりも早く、その未来は訪れただけのこと。

 ならば予想もできなかったのか、と言われれば頷くしかない。

 しかし、これは燈也が甘かったのではなく、()が規格外過ぎたのだ。

 

 一体誰が予想できようものか。

 うねった海水が(かたち)を成し、明らかな自律意思を持って襲いかかってくるなどと。

 

『GRAAAAAAAAAAaaaAAAaAAA!!!!!!!!!!!!!!』

 

 現れたモノは、怪物と称して余りある異形だった。

 蛇の頭、獅子の上半身、鷲の下半身。尾にはサソリの様な鋭利な針がある。

 全長は十メートルを超えるだろうか。生みの親であるまつろわぬ神ほどではないにしろ、それは巨体と言って不足ない。

 

「あれは...!」

 

 そんな珍妙な生物に見覚えでもあるのか。

 エリカは目を見開きつつ、その視線を一瞬だけ護堂に移す。

 

 そんなこと知る由もなく、燈也は目の前の化け物への対処を考えることで頭がいっぱいだった。

 

「(足場作って回避、間に合わない! ぶん殴る、力溜める時間がない!)」

 

 少しでも足掻こうとさらに上空へと逃げてみるが、蛇の頭は燈也との距離を詰めてくる。

 回避を諦め反撃する決意を固めるが、それも遅い。

 

 空中で為す術を失った小さき王は、蛇の口へと吸い込まれていった。

 

 神の期待に応えるために......否、神の意志を罷り通すために、貌を成した怪物は咆哮する。

 その声は大海を震わせ、大空を駆け巡った。

 勝利を謳う咆哮は世界に響き、力の誇示へと役割を変える。

 

「ちっ! 次、こっち来るぞ!」

 

 空に君臨する勝者が次に目指すは、海上の魔王。

 身体をしならせ、その尾の針を護堂へとぶつける。

 

 同郷の者が死んだことを嘆く暇など与えてはくれない。

 怪物の生みの親であるまつろわぬ神は、余裕の現れなのか、静かに護堂を見据えていた。

 容赦の欠片もない所業に、護堂は腹が立つほどの既視感を覚える。

 

「神ってやつはどいつもこいつも...!!」

 

 友人でもなければ要人でもない、知人と言えるかどうかすら怪しい関係だった少年の死に、護堂は少なからず思うところがあった。

 怒りは力へと変換される。

 

 もはや船の役割を果たしているとは思えない木片を足場に、護堂は怪物へと立ち向かう。

 迫る鋭利な針を、護堂は避けようとはしなかった。

 かといって体を貫かせるわけではない。針をギリギリまで引き付け、そして両腕を使ってその針を捕らえる。

 

「うぉらぁぁぁばぁぁぁぁあ!!!!!」

 

 気合一閃。

 捕らえた尾をぶん回し、怪物を海面へと叩きつける。

 

 ウルスラグナより簒奪せしめた権能の一角、牡牛の化身による剛力だ。

 先のまつろわぬ神との戦闘時から使用していた怪力を遠慮なく振る舞い、巨大な怪物をねじ伏せるその姿は、まさしく覇者のそれである。

 

 しかし、相手もそのままでは終わらない。

 ダメージは確実に受けているようだが、大人しく倒れてはいなかった。

 巨体を起こし、再び護堂へと襲いかからんとする。

 

 ──が。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 護堂の口から困惑した声があがる。

 エリカは言葉を失い、まつろわぬ神は僅かに目を見開いた。

 

 彼らの目の先にあり、彼らを驚愕させたもの。

 それは────

 

 

 

「チックショウ...! あー、クソがッ...喰われんのは初めてだ、気分が悪い」

 

 

 悲鳴すら上げられずに爆散した怪物。

 そしてその中から現れた、死んだと思われた少年だ。

 

 

「おう、糞神風情。俺はやられた分はやり返す性分なんだが...お前はなんだか不味そうだなぁ」

 

 苛立たしげに濡れた前髪を掻き上げた燈也(怒れる王)は、神への懲罰を執行する。

 

 

 

 

 




新型肺炎に負けず、自粛期間も頑張って投稿していきたいと思います。
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