燈也がペルセウスを殺めた翌日の真昼間。
パンドラの儀式によって戦いの傷が全快した燈也は、ふらりと街を歩いていた。
「こりゃまた...護堂のやつもだいぶ派手にやったもんだな」
街のあちこちに刻まれた戦闘の傷痕を眺めつつ、燈也は呟く。
かくいう彼もペルセウスとの戦闘で結構な被害を出しているのだが、そこは棚に上げたらしい。
昨日、街は混乱の最中にあった。アテナの仕業で全電力がストップ。およそ文明的な利器は使用不可となり、さらに民衆の不安を煽るように燈也や護堂達の戦闘音が響いていたのだ。
幸い、全ての電子機器が使用できない状況であったため、街の外部にまつろわぬ神やカンピオーネ等の情報が出回ることはなかった。口伝てに広まる、という心配はまずない。神がどうだのといった話をそう易々と信じられるほど、現代人はロマンチストではない。
神秘の秘匿だかなんだか知らないが、甘粕達は事後処理が大変だろうなと他人事ながらに思う燈也。全く他人事ではない。というか、護堂よりも燈也のせいで甘粕達正史編纂委員会は大忙しなのだ。
護堂は破壊痕の規模こそ大きいものの、そのほとんどが人気の少ない場所だった。
対して、燈也が戦場に選んだのはごく普通の住宅街。民家の破損や一般人の目撃者など、記憶記録を改竄する手間が多すぎる。
そんなことは露知らず、やれやれ護堂の権能は大味すぎるな、などと呆れて見せる燈也。これが魔王、これぞ暴君。カンピオーネに相応しいエゴっぷりだ。
そんな燈也はとある商店街へと足を運ぶ。昼食を摂るためだ。
自分である程度の料理はできる燈也だが、昨日の今日で料理をする気は起こらなかった。今日は外食で済ませようと思い、外に出てきたのだ。
久しぶりにハンバーガー食いてぇな、などと考えていた燈也の視界に、なにやら見覚えのある銀髪が写り込む。
「あれは...確か昨日の...」
記憶を掘り起こし、その銀髪に該当する人物をサルベージする。
この世界で燈也の知る人間などたかが知れているし、彼女ほどの人物は片手の指で数えるほどしか知らない。燈也が彼女を思い出すのには、さして時間がかからなかった。
そしてその銀髪の彼女はというと、燈也を視認するが早いか、己に降り掛かった不幸を全力で嘆いていた。
「(佐久本燈也...!! 八人目の王!!)」
魔王の脅威というものを、銀髪の彼女──リリアナ・クラニチャールは嫌という程知っている。
気を抜けば死ぬ、と本気で思っているレベルだ。そしてそれは実際間違ってはいない。今まで彼女が応対してきた魔王は、人間を道具かそれ以下の羽虫程度にしか思っていなかった。
故に、リリアナは苦渋する。主たる老カンピオーネの命令でもなく、ただ本屋に寄ろうと街をふらついていたばかりに災厄と巡り会ってしまった己の不運を強く呪う。
「っ、」
言葉が出ない。
一応道を譲って頭を下げてみるが、そもそも彼が自分を覚えているかどうかも怪しい。現にイタリアの王サルバトーレ・ドニは、何度も顔を合わせているリリアナのことを未だに覚えていなかった。
魔王にとって、人間などその程度の存在なのだ。それはリリアナが大騎士であったとしても変わらない。どんぐりの背比べみたいなものだ。
このまま何事もなく過ぎ去ってくれと心から祈るリリアナの願いが、天に届くことはない。
「あんた、昨日ペルセウスの近くにいたな」
本当に燈也という魔王と関わりたくないのであれば、リリアナは彼に反応を示すべきではなかったのだ。
何事もないように歩き、何も分からないという然で立ち去るべきだった。
下手に敬意と畏怖を向けてしまったからこそ、燈也に声をかけられる羽目になってしまったのだ。
「...はっ。『青銅黒十字』が大騎士、リリアナ・クラニチャールでございます。八人目の王、佐久本燈也様」
声を掛けられたのなら、それを無視するわけにはいかない。
無礼の一つで壊されるのが己の命だけであれば安い方だ。下手をすれば『青銅黒十字』も、この街も、全て破壊されかねない。
リリアナは本気でそう思っていた。
「ん、クラニチャールな。大騎士...ってーと、護堂んとこのエリカと同じか」
「はっ。エリカ・ブランデッリの属する『赤銅黒十字』とはライバルにあたる組織に属しております」
「なるほど...。クラニチャール、お前今から時間ある? ちょっと付き合えよ」
「えっ」
リリアナが否定する言葉を待たず、燈也は歩き出した。
ここで逃げ出したい気持ちは山々だったが、さすがにそんなことをすれば死はまのがれない。幸いというかなんというか、今日は一日オフだ。本当は執筆活動に勤しみたいと考えていたが、それは叶わぬ夢と散る。
リリアナのことなど振り返ることもなく歩く燈也に、リリアナは渋々ながらも着いて行くことを決意した。
* * * * *
不安がるリリアナを引き連れた燈也が向かったのは、とある日本料理店だった。
ハンバーガーが食べたいなどと思っていた燈也がなぜ日本料理店なんぞに足を運んでいるのか。答えはリリアナに気を使ったからである。
個室に案内された燈也達は、すぐに注文を取りにきたスタッフに急かされるようにメニューへと目を通す。
「クラニチャール、お前昼飯食った?」
「いえ、まだですが.....」
「ん。じゃあこの『春の宴懐石コース』ってのを二人前」
かしこまりました。恭しくお辞儀をした店員は、個室の扉を音もなく閉めながら退席する。
「急に連れてきて悪かったな。ここ奢るから許してくれ」
「いえ、そんな...王のご命令とあれば従う、それが我ら魔術師です」
畏怖の対象と向かい合わせで座っている状況に、リリアナは酷く混乱していた。
それをおくびにも出さない彼女は、年齢と似つかわしくないほどの修羅場をくぐって来ているのだろう。
酒菜が運ばれてくる。
燈也とリリアナの前にはお猪口が二個置かれており、二合の徳利の中には日本酒が注がれていた。
「そういやお前、酒は大丈夫か?」
「はっ、多少は...」
「じゃあ大丈夫だな。ほれ、飲め」
リリアナのお猪口に注がれたのは、
魔王に酌をされるという理解不能な現実に、リリアナの思考はショートしかけていた。気絶してしまいたい、その方が楽だと思うほどに。
「んじゃま、とりあえず乾杯」
「か、乾杯.....」
条件反射でなんとか乾杯するが、何も考えられない。飲んだ酒の味もよく分からなかった。
特に酒に詳しいというわけではない燈也がテキトーに選んだ酒だったが、案外悪くはないものだ。それなりの人気もある。
当たりを引いたな、と軽く感心していた燈也だったが、そう長く味わってはいなかった。
「さて、クラニチャール。お前を連れてきた理由だが...ちょっと聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと、でございますか.....」
まさか、とリリアナは構えた。
リリアナの家系、クラニチャール家は長年とある魔王に仕えてきた家柄だ。その末子であり、現在その魔王の騎士として日本にまで赴いた自分に、新しい魔王が聞きたいこと。
闘争を好む神殺しが求めるとこなどにロクなものなどない、そうタカをくくっていたのだが...その思いは少しだけ外れることとなる。
「この世界についてだ」
「.......は?」
予想外にもほどがある。
「俺と同じ、神殺しの魔王ってのがほかにもいるのは知ってる。俺が八人目ってことは、護堂を含めて七人いるんだろ?」
「え、ええ、まぁ...」
「んじゃその七人...あいや、護堂以外の六人か。そのカンピオーネらの情報と、魔術結社? とかいうやつらの情報。赤銅だか青銅だかのやつとか、日本の正史編纂委員会とかいうやつ、そのほかにも主要な機関のもんは教えてくれ」
指を折り、数を数えてみせる燈也に、リリアナは先とは別の意味で混乱していた。
何を言っているんだこいつは、という混乱である。
「あとは、そうだな...そうだ、アリス。プリンセス・アリスとかいうやつの情報も欲しいな。百発百中の予言ってのが本当なら一回会ってみたい。それから...」
「お、お待ちください、王よ!」
堪らず、リリアナは待ったをかけた。
なぜ止められたのかが分からない燈也は、ん? と小首を傾げる。
「それは...それは、我が主と戦うために必要な情報なのでしょうか...?」
「我が主?」
意味が分からない、という風に聞き返す燈也へ、リリアナは驚いたように顔を上げた。
「クラニチャール家は代々、とあるカンピオーネの騎士を務めております」
「ほう? それで?」
「そのカンピオーネの名は...ヴォバン。当代のカンピオーネの中では最古参にあたる、欧州の魔狼王、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン公爵でございます」
「へぇ、最古参」
ヴォバンの名を聞いてなお、燈也の態度は崩れない。
ヴォバンの名を知らぬ魔術関係者などいないこの世界ではありえないことだ。当代最凶と呼ばれる魔王は、他のカンピオーネと比べても絶大な力を持っている。
「んで? そのヴォバンってのが強そうってのは分かったけど、なんでそいつと俺が喧嘩せにゃならんわけよ」
あっけらかんと、燈也はほざいた。
てっきり燈也も最凶と名高いヴォバンに挑みたいと思っている、闘争を好む魔王だと。リリアナはそう思っていた。
しかし、いざ話してみたらどうだ。戦闘に興味がないというわけではないだろう。そんなものは昨日のペルセウス戦を見れば一目瞭然。
だが、闘争に積極的というわけでもなさそうだ。己に飛びかかる火の粉は払う、そういう精神の持ち主なのかとリリアナは再認識する。
──それは間違いだ。
燈也は間違いなく王である。自分より上の存在を認めない暴君である。
そんな彼がヴォバンに大した興味を抱いていないのは、単に戦う理由がないからだ。
「まぁいいや。じゃあとりあえず、そのヴォバンってやつの話から聞かせろよ」
いつの間にか空になっていたリリアナの猪口に酒を注ぎながら、燈也は促す。
魔王の命令に逆らう術など、今のリリアナは持ってはいなかった。
* * * * *
数時間後。
「お爺様ったらもうひっどいんですよぉ!? エリカが草薙護堂の愛人になったからってぇ! ヒック...私に公爵の愛人になれとかぁ!! 相手三百歳のおじいちゃんなんですよぉ!!?」
ダーンっ、と抱えていた一升瓶を机に叩きつけるように置くリリアナ。
その瞳は焦点もあっておらず、トロンという擬音が聞こえてきそうなほどに微睡んでいた。
色白な彼女は顔の火照りも分かりやすく、暑いといってはだけさせた上着から覗く鎖骨付近まで真っ赤になっている。
リリアナ・クラニチャールは泥酔していた。
「へぇ。まぁ愛に年齢は関係ないって言うじゃん?」
「そこに愛がないからこうして困ってるんでしょうが!!! あ゙あ゙〜...なんでお爺様は変な闘争心燃やしちゃったの...うぅぅ」
怒り散らしていたかと思えば、次は泣き出してしまう少女を前に、燈也は落ち着いた様子でデザートのメロンを食べていた。
リリアナがここまで泥酔しているのは、燈也にも原因がある。
魔王との会食で緊張していたリリアナはペースを誤り、手元にある酒を次々と飲み干した。そして空になったその猪口に、すかさず燈也が酌をする。
燈也にしてみれば気を利かせたつもりだったのだが、それも逆効果となってしまったのだ。
リリアナの目が据わり出してから少しだけ後悔したものの、彼女の愚痴に付き合うのも悪くはなかった。なにせ、聞いてもいない情報が次から次へと零れてくる。おかげでヴォバンとクラニチャール家についてはおおよその事情を知ったわけだ。
そして何より、この数時間で燈也は彼女を気に入った。
「ふぅん...なぁクラニチャール」
「グズ.....なんですか」
「要するにだ。お前んとこの爺さんは、お前に魔王の愛人になって貰いたいわけだろ?」
だからこそ、リリアナの愚痴は燈也の闘争心へと火を灯したのだ。
リリアナが恐れた事態へ、リリアナが招き込んでいるのである。
「まぁ.....そうです」
「よし。じゃあ決まりだ」
メロンを食べ終えた燈也は、パンッと自分の膝を叩く。
「お前は俺が貰う。俺も魔王だ、文句は言わせねぇぞ」
「.......なんですって?」
リリアナ・クラニチャールは混乱していた!
* * * * *
そうと決まれば話は早い。
酔いとは別で顔を赤く染め上げたリリアナを引き連れ燈也が向かった先は、ちょうど下校時間に入ったばかりの私立城楠学院だ。
部外者である燈也は本来立ち入ることのできない、というより立ち入る理由がない場所だったが、今は少しばかり急いでいた。
正門を抜けた辺りから刺さり始めた周囲の視線を尽く無視し、護堂の気配を追って一年五組と書かれた標識のある教室のドアを無遠慮に開く。
「よう護堂! ちょっと話あんだけど」
「ちょ、佐久本燈也! 貴方は不躾と無礼の言葉を知らないのですか...!」
快活な男の声と、酔いから醒めた女の声が教室に木霊する。
明らかに学校部外者である二人の登場に、教室内ではどよめきが走った。
「と、燈也ぁ!? おまっ、なんで学校なんかに...まさかお前まで転校してくるってんじゃないだろうな!?」
「? あら、リリィじゃない。佐久本燈也と一緒だなんて、どうしたのかしら」
「.....っ!!」
どよめきの中でも特に大きな声が一つ。七人目の王、草薙護堂の声だ。
それに続くように彼の騎士であるエリカ・ブランデッリ、そして声も出せないほどに驚愕しているのが万里谷祐理である。
「転校だァ? ...それも面白そうだな」
「辞めろ! もう厄介事は辞めてくれ...! 俺のささやかで穏やかな学園生活をこれ以上脅かさないでくれぇ!!」
「酷い言われ様だ」
ズカズカと教室に入り込み、護堂の前の席へと腰を下ろす。
その席の所有者は近くにいたが、余りの恐怖に何も言えなかった。それもそうだろう。魔王だの何だのの前に、突然自分らの教室に学校部外者が我が物顔で入ってきたら、それは十分恐怖である。
少なくとも、この教室の生徒達にとって燈也はいわゆる“不良”であり、恐ろしい存在に写っているのだろう。
だが、そんなことを気にするような燈也ではない。
彼の関心はただ一人、護堂にのみ向けられているのであって、周りの人間は全員モブだった。
例外なのはエリカと祐理くらいだろうか。
その二人はと言えば、突如現れた魔王に警戒の色を濃くしていた。
特に祐理の警戒度が異様に高い。昨日の戦闘を間近で見たからだろうか、燈也をヴォバン同様恐怖の対象として見ている。
「まぁ聞けよ、別にお前に喧嘩売りにきたわけじゃないんだ。スジ通しにきただけだよ」
「スジ...?」
訝しむような護堂に、燈也は笑って返す。
「ああ。日本の王はお前ってことになってっからな。この地で暴れるってなったら一応は報告しとかなきゃだろ?」
「暴れるって...まさかまたまつろわぬ神が来るのか!?」
「うんにゃ、違う。...ああいや、少し惜しい。放っておいたらそうなるな」
チラリと祐理に視線をやった燈也は、含みのある言い方で護堂と机に肘を着いた。
「誤魔化すなよ。燈也、お前一体何をしようとしてんだ」
真剣味を帯びる護堂の声音に、燈也は尚も笑みを崩さない。
苛立ちを覚えてきたエリカの眼光に促されるように、燈也は己の目的を口にする。
「老王ヴォバンを狩る。手は出すなよ護堂、これは俺が売る喧嘩だ」
祐理が白目を剥いてひっくり返った。
* * * * *
倒れてしまった祐理が起きるのを待ち、護堂は学校を出る。
地平線の先に大きな太陽が赤く燃え、街を朱色に染め上げていた。
「ったく、燈也のやつ...自分勝手にもほどがあるだろ」
嘆息しつつ、顔見知りの同胞を思い出す。
何とも迷惑な話だが、自分の預かり知らぬ所で勝手に暴れられるよりはマシかと思い込む。あとは人のいない場所でやってくれと願うばかりだ。神殺しが一体何に願うのかは知らないが。
「まぁ、彼がやらなければ護堂がやることになっていた事ではあるわね」
「はぁ? なんで俺がほかのカンピオーネとやりあわなきゃならないんだよ。ドニじゃあるまいし」
エリカの発言に、護堂は心からの否定をする。
自分は平和主義者であり、決して戦闘狂ではないのだと言い張る魔王だが、今まで成し遂げてきた偉業からその言葉には信頼性の欠片もない。
しかし、エリカが言ったのは「護堂が自らヴォバンに喧嘩を売りに行く」のではなく「護堂が喧嘩を売られる」もしくは「喧嘩を売らざるをえなくなる」ということだ。
「公爵の狙いは、恐らくアテナだったのでしょうね。でなければ、このタイミングで日本に来る理由がない」
「ならもう日本には用無しじゃないか。アテナは帰ったんだから」
「それがそうもいかないわ。かの公爵は、慈善活動から神を殺めているわけではないの。己が欲望を満たすため、争いを求めているのよ」
つまり、とエリカは続ける。
「アテナという敵を失った今、次に公爵が標的にするのは...」
「.....俺、ってことになるのか?」
「その可能性が高いわ。もしくは──かの有名な四年前の事件、神招来の儀式を再度目論んでいる、ということも考えられる」
ビクッ、と祐理の肩が跳ねた。
ヴォバンが四年前に引き起こした神招来の儀式は、祐理も無関係ではない。生贄として捧げられた当事者の一人である。
魔王の恐ろしさを植え付けられた出来事がフラッシュバックし、恐怖が込み上げてくる。
「...神の招来、なんて馬鹿げた真似ができるのか?」
「ええ。四年前はたった三十人の犠牲で神を地上に召喚した。数あるヴォバン公爵の悪行のうち、最も傷痕の新しいものとして賢人議会にも記録されているわ」
そこには祐理だけでなく、リリアナも生贄となったはずだ。
かの儀式を生き延びた者は少ない。類まれなる才能と幸運、そのどちらをも兼ね備えた祐理とリリアナだからこそ、なんの後遺症も遺さずに生還できたのだ。
「リリィが佐久本燈也のそばにいた。彼女の家系はヴォバン公爵に仕えていたはずだから...もしかしたら、佐久本燈也がリリィを老王から奪い取ろうとしているのかもしれないわね。とてもロマンチックだわ、リリィ好みのね」
「ロマンチックもいいけどな、個人的な理由で街を壊されたらみんなが迷惑するだろ。その辺、燈也のやつはちゃんと考えてんのか?」
「あら、護堂だっていざとなればお構い無しに破壊するじゃない。世界中に貴方の爪痕が残っているわよ?」
嬉しそうに微笑むエリカに、護堂は返す言葉もなく言い淀む。
護堂がカンピオーネとなってからまだ日は浅いが、彼が世界各地でやらかした破壊痕は多く、各地の呪術師達に畏怖の念を抱かせている。
昨日のアテナとの戦いだって、民衆への被害こそ燈也の方が大きかったものの、単純な破壊行為であれば護堂の方が上だった。
瓦礫の山と巨大過ぎるクレーター、どちらがマシかと聞かれればどっちもどっちだと甘粕の上司などはブチ切れるだろうが。
「護堂。今夜は帰らないと妹さんに伝えておきなさい」
「はぁ? なんでだよ、今日は静花が肉じゃが作るって息巻いてたんだぞ」
「残念だけれど、それはまた明日にでもお食べなさいな。いい? 護堂。貴方はこの地の王。ならば貴方は、彼らの闘いを見届ける義務がある」
エリカにふざけた様子がないことを知り、護堂も彼女の言葉をしっかりと受け止める。
彼にこの地を治めているという自覚などないし、事実治めてなどいない。君臨すれども統治せず、とも少し違う。護堂は今、どこにも属さないフリーの王だ。
しかし、周りはそうは見てくれない。日本人たる護堂が、魔王となった後も日本に居座っている。その時点で、彼は自分の意志とは関係なく日本の王だと
「それに、いざとなれば彼らの闘いに介入しなければならなくなるかもしれない。争いを諌める裁定者、貴方にはそういう役割もあるのよ。この国を海に沈められたくなければね」
護堂は思い出す。
古代フェニキアの神王。かつて共闘し、後に敵対した地中海最強の一柱であるメルカルト。彼は、自分への信仰を失った地中海の住民を、洪水によって島ごと滅ぼそうと企んでいた。そして事実、一つの島が沈められている。
燈也とヴォバンの戦闘が苛烈を極めれば、そういった事態を招きかねない。何分小さな島国だ。その全てがとは言わないが、陸の割合が減るくらいのことは起こりかねない。
「はぁ...分かった、静花には連絡しておく。それで? どこに行けばいいんだ」
「ふふ、それでこそ我が主よ。行き先については...そうね。祐理、頼めるかしら」
「ふぇっ!?」
突然話を振られてしまい、とっさに反応できなかった祐理は焦ったようにエリカを見る。
「貴女の霊視、頼りにしているわ。そうでなくても、編纂委員会の方でヴォバン公爵の居場所は掴んでいるのでしょう?」
「...委員会からそういった報告は受けていませんが...おそらく掴んではいるかと。そして...ヴォバン公爵のおられる場所について、心当たりがあります」
「ヘぇ? 話が早いじゃない、もう霊視していたのね」
「え、ええ...今朝方、夢のような形で視ました。必ずしも合っているとは限りませんが...」
「十分よ。貴女の霊視なら信頼できるわ。ねぇ? 護堂」
「ん、んああ、そうだな、うん」
霊視がどうなどの知識に乏しい護堂は、正直言って何も分かってはいなかった。
だが、祐理のことは信用できる。そう思っているのは事実だ。
「特等席から神殺し同士の戦闘を見ることなんて滅多にないことなんだから、しっかり見ておきなさい。今後敵になるかも知れない存在達よ」
「物騒だな。ヴォバンってやつは知らないけど、燈也はなんだなんだで話せるやつだ。最低限の良識もある。敵対なんて──」
「護堂。貴方の直感は信じるに値するけれど...この世に、絶対はないのよ」
カンピオーネ同士が巡り会えば、争うか休戦協定を結ぶか、その二択しかないと言われている。
互いが王として頂点に君臨しているのだから当然だ。この世に自分以外の王は要らないと考えている。
積極的に争おうとしない護堂は例外中の例外、特異すぎる例なのだ。
「(温厚そうに見えても、アレは魔王。いつ護堂に牙を剥くとも分からない)」
エリカは燈也を警戒していた。
神殺しとなる前から神殺しに比肩する力量を持っていた、真性の化け物。その力は計り知れず、護堂であったとしても勝てる保証はどこにもない。
せめて力の一端でも見極めたい。
今回の観戦には、そんな理由があった。
「(護堂の言う通り、このまま護堂と友好な関係を築いてくれれば助かるのだけれど)」
淡い希望を奥底に秘め、エリカはアリアンナへと電話を入れる。
目指すは日本におけるヴォバンの居城。おそらく決戦の地となるであろう、破壊が約束されてしまった可哀想な建物だ。
法定速度ガン無視で来た迎えの車に乗り込み、護堂達は魔王の決戦という現代の神話を覗き見に行くのであった。
作者は銀髪キャラが好きです。ポニテも好きです。故にこれは必然なのです(性癖吐露)
よろしければ感想とか評価など頂けないでしょうか。
高評価がいいです(傲慢)
よろしくお願いします。