代理人の異常な愛情、または如何にして私は心配するのを止め戦闘を愛するようになったのか。   作:イエローケーキ兵器設計局

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 命の値段とは…

誰にも設定しようがないものである。


凍りつく記憶-2

 命の値段について考えることはとても安い買い物である。

 

 私が…人間であった頃、いや、兵士だった頃は"人類"の生存圏はもっと広かった。

 

 あの日までは。

 

 

「橋姫さん、何してるんですか?」

『別になんだっていいでしょう?』

「そんなこと言わずにー教えて下さいよー。」

『…記録よ。記録。私の過去を記述してるの。』

「記録ですかー?」

『ええ。記録。』

「少し見せてもらえません?」

『嫌よ。』

「そこをなんとかー。」

『いーやーでーすー。』

「…ケチ。」

『ケチで結構。』

 

 あんまり知られたくないのよね。少なくともこの娘には。

 

 私は元は単なる人間だった。あの日までは。

 

 

橋頭堡を確保するぞ!エイブル隊!撃ちまくれ!

死にたくなければ頭を下げろ!

パーシングだ!パーシングが来たぞ!戦車兵!機関銃を黙らせてくれ!』

(105mm砲の砲声)

 砲声と共に緑色の砲弾が敵のトーチカに飛び込む。

 煙幕をまた炊いて、対戦車砲を構えようとする陣地を機関銃で黙らせて、私達は橋頭堡をなんとか確保した。

 

 上陸に気がついてやってきたティーゲルもヤーボが鉄塊に変えてしまい、制空権こそはと頭を抑えにやってきた戦闘機は流星となって落ちていった。

 

 とはいえこちら側も損害は出る。運良く死者は出なかったけれど落伍した兵士は多い。砂浜が血で染まる。パーシングから捨てられた薬莢が転がる。ヤーボが地面に刺さり、ロケットが浜を抉る。

 

 全てが美しかった。そう…全てが。

 

「エイブル隊が突入します!」

『了解、イージー隊!行くぞ!』

「うぉぉぉぉ!」

 

 人間らしからぬ雄叫びを上げて銃弾が飛び交う中間地点を走り抜ける。エイブルを援護して、ベーカーを送り、ベーカーがエイブルを援護、チャーリーも手を貸し…私達第225特殊混成大隊はトリプト海岸を制圧した。

 

 『"第225特殊混成大隊は戦車、砲兵、歩兵、戦闘機、攻撃機、爆撃機を混合した部隊であり大隊と言うには大き過ぎる規模の秘匿部隊である。"』

 

 『"隊長は橋の守護神と呼ばれているらしい。""隊長に近づく物好きは居ない。""隊長は厳しいけれど優しい面もある"』

 

『色々好き放題に言われてるな…』

 

「そういうもんですよ。」

 

 副官が言った。この副官はこの部隊に来る前からずっと一緒でかなり長い間共に戦っている。私は敬意を込めて"タフガイ"と呼んでいた。丈夫な男だ。

 

 副官は元は航空畑出身で軽戦闘機を操縦していた。さらに遡るとこの戦争が始まってしばらく…田舎に被害が及ぶようになった頃、郵便配達中に襲撃されて辿り着いた先が航空隊の基地、腕が素人にしては立つからと徴募されていったと言う。

 

 プレイ環礁(※1)まで海軍と一緒に飛んだかと思えば"燃える海"へ飛んでいったり、としていたらいつの間にか私と一緒にされていた訳だ。

 

 それに対し私は…海軍出である。海軍出であるが海兵隊に送られ気がつけば副官と一緒に三軍統一の軍に編入されていた。

 

 

「ところで…橋姫さん。ニューマ…あー…ツェッペリンとの関係は?」

 目の前の金髪長身(巨乳)戦闘狂が聞いてくる。あんまり言いたくないのだけれども…

『まず…貴女とあの子の関係は?』

 逆に聞き返す。まず自己紹介が先であろう?

「ツェッペリンの姉です。」

『ニューマで構わないよ。実の?』

「…物心ついたときにはもう居ましたが…」

『…そう…長話だけど構わないかしら?』

 

『まず、貴女とニューマ、二人の間に血縁関係は無いわ。』

「え?」

『次に、ニューマ…ニューマコーニオシスと私の関係は…親子よ。私があの子の母親。』

「はい?」

『信じられないと思うけれど私はあの子の実の親なの。最近思い出したけど。』

「…でもそれって証拠は!」

『そうなのよね…持ち出せる証拠はほとんど無かったんだけど…』

 一冊の本を差し出す。

「母子手帳?」

『そう。母子手帳。数少ない彼との思い出。』

「…どうやって思い出したんです?」

『…あの子に101号室に引きずられていって…挙げ句の果てに私を拘束した上で自分の手を刺したの。私の記憶に残るように。それを見て…過去を思い出して…』

「違う!嘘だ!だってお母さんは!お母さんは…」

『…確かに貴女は血が繋がっていない。けれども…娘であることに変わりはないわ。』

 

 

 どうも…お久しぶりです…ホルニッセ代理人です。元ですけどね。何か談話室を覗こうとしたらこんなカオスな状況になってまして…音を立てないように努力しながら逃げてきたところです。

「…」

『…』

 二人して何も言えません。T34と一緒に帰ります。割り当てられた自室まで。それでは…

 

 

 ベルタは拾い子だった。戦争が集結して部隊が解体されたとき副官と結婚した。二人ともまともな"人間"と呼べるような状況じゃなかったけれど、人間らしさはあったと思う。結婚して2年でベルタを拾った。自宅の玄関前にコウノトリが籠を置いていく、そんな感じだった。

 

 兵士とは悲しい身分である。それも本来存在しない筈の部隊ともなると余計に。

 ある朝私と彼は実験所に送られ、薬漬けになり、彼は出てこなかった。私は力を得た。彼と引き換えに。その冬、私は子どもを産んだ。それが…

 

「ニューマだったと…?」

 

 そう。人間だった頃のニューマよ。

 

 その後、監視やさらなる実験の為に私は連行され、二人の子どもは里親に預けられた。

 

 あの頃の私には分からなかったけれど、ニューマは一度橋の下に来て祈っていた事がある。

 

 力を求めてやってきていた。暫く…いいえ、ずーっと会っていなかったからツェッペリンだとわからなかった。ツェッペリンも私を母親とは認識できなかった。




※1
プレイ環礁とは…
 「オセアノートの平日」シリーズに登場する海域の名前。"Pray"である点に注意。

新しく着任してほしい架空DOLLS募集

  • オイ車(極東重鋼)
  • T-95GMC(星屑連邦)
  • T-35(赤色10月同盟)
  • それ以外で…

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