「なるほど、じゃあ僕は劇的な変化が無い限り
あの龍との戦いで禁手がどれだけ強力かということは分かった。ならば今の状態でもありえない程強いドゥンが、禁手に至れば……。
そう考えていたが、現実はそう簡単には運ばないらしい。
アザゼルから禁手に至るには何か劇的な変化や神器への理解を深めなければいけない。そう言われた。
何人かの神器の禁手をみているアザゼルにとって、ロンの神器は至る資格は既に持っているがあと一手なにか足りないというのが見解である。
「まぁ神器と深く理解し合えば話は変わる」
「深く?」
「そうだな……人間で言うところの深層心理ってやつだ。お前の神器【白亜の天翔馬】との深い所を知れ」
深い所、そう言われると困る。
ロンにとってドゥンは愛馬であり相棒であり半身である。
深く知れ、というより全て知っているような。
それこそドゥンが生まれた何百年も前から──
「おーいドゥンさんやー、深いところを教えてくださいな〜」
『……』
「おいおいおいおいドゥンさんや〜」
『…………』
「おいおいおいおいドゥン──」
後ろ足で蹴られた。
このくそ野郎、いつか馬刺しにしてやる。
アザゼルの言う通りに深い所を知る。というのが分からなかったので、まずは過度な接触を志そうと思ってやってみたものの、ドゥンからありがたい後ろ足で返事を貰った。
恨み辛みが湧き上がったが、寸前で止めて喧嘩になることは避けた。
勝敗はやる前から見えている(ドゥンの圧勝)
それ程にドゥンとロンには差がある。
それは聖槍をフルに使い、もう一度段階強制成長すれば話は変わってくるだろうがある意味それは禁じ手に等しい。現能力を使っての仮定の話だ。
ひよっこ勇者と大英雄の愛馬では格が違うが、神器に美味しいところを持っていかれるのはそれはそれでいやだ。
どうしたものか……。
はっきり言って手詰まりだ。
「アザゼル、誰だこいつは?」
アザゼルの家に上がってきた銀髪のチャラチャラした男に指を指された。見たところ生粋の人間という訳ではないらしい。
「こいつは北欧の勇者様だ。名前はロン」
「……どうぞ宜しく」
「そうか、俺は今代の白龍皇のヴァーリ」
白龍皇?? その言葉の意味は分からない。
でも何故か白龍という言葉に、少しだけ懐かしさを感じたのはなんでだ?
「ったく白龍皇も知らねぇのかよ……お前の聖槍と縁があるだろ、これだから最近の若いモンは知識が足らねぇんだよ」
そんなことを言いながらアザゼルはなんやかんやで教えてくれる。
白龍皇とは。神々でさえ恐れた天龍の片割れ、曰くその力の塊は最強に近い存在だったという。
大昔に3大勢力の戦争中に喧嘩で割って入り、挙句の果てには滅ぼされて神器として転生した大マヌケ。
「へぇー」
「それよりも勇者、少し手合わせ願えないだろうか? 北欧の勇者、この肩書きどれほどのものか確かめてみたくて」
「……ま、いいんじゃねぇの? 一応ヴァーリは禁手化に至っているし、俺がいるから死ぬことはねぇよ」
少しだけ悩んだが、結局受けることにした。
最強に近い存在。それだからこそ挑む価値がある。
それに最近はヴィーザル以外との戦闘をしてこなかったので、自分がどれだけ伸びたか分からない。
そう天龍に胸を借りるつもりで戦うことになった。
「
白龍皇ヴァーリのその言葉と同時に戦いは始まった。
場所は少し離れたアザゼルが作った専用の空間である。
前に出会った龍の神器とは違い、ヴァーリは龍の鎧の様なものを纏う。
「同じ龍の禁手化でも違うんだな〜」
「何の話だ?」
「いや、こっちの話」
ヴァーリから聞かれるが、こればかりは何を言っても分からないだろう。それこそこれはロンの過去の中でしか語れない。
「まぁいい……始めよう!! 俺は強者との戦いを待っていた!!」
ヴァーリは翼を用いて高速で動き出す。
それに応じてコチラも新しい力を使った。
「シルフィ」
《分かってるわよ!》
「
指輪が光る。
シルフィが風の魔術を使い、ロンにバフをかけた。
相手が龍の鎧ならば、こちらは風の鎧。見た目の違いは鉄が纏っているのでは無く風が纏っているということ。
そして
この時のロンの心境は意外にも余裕だった。
(……遅い?)
ヴィーザルとの戦闘を死ぬ思いで乗り越えたロンにとって、拳に重みがあろうとなかろうとその一撃は随分とスローに見えた。
神の蹴りによって鍛えられた体。
比べるには余りに酷だが、白龍皇の拳はそれ程までに遅く軽い。
ロンは指を上から下に指して風をコントロールする。
風の鎧。シルフィの風を纏うことでロンは勇者にとって最も適正が高いとされる精霊魔術を使いこなせるようになっていた。
本来なら指で指す必要はないのだが、イメージのしやすさを求めた結果それを付けるようになった。
ヴァーリは上から急に現れた暴風に直撃し地面と風に挟まれる。
風の攻撃は基本的に透明であることから回避がとてもしずらい、他の炎や土ならば視認出来るのだが風は見えないもの。更に屈折率を弄ることの出来る水や風に関しては手の打ちようがない。
挟まれて身動きの取れない白龍皇を見てロンは気付いた。
自分が強くなっていることに……
このまま風を与え続け、更には斬撃の風である鎌鼬を発生させてつつ風で巻き上げ失血死させる方法もあるのだが……あくまでこれは手合わせ。
一度拘束を解いてヴァーリを元いた位置に風を使って返した。
圧迫されたことによってヴァーリは息を荒らげている。
風に支配されるということは生物にとって自然そのものを敵にしているということ。
「ハァハァ……これが勇者か……」
初撃で随分と体力を削れたようだが、腐っても白龍皇。まだまだピンピンしてきるし、今の方が強さが増しているように見える。
ほんの小手調べのつもりが、思ったよりも強い力で返されて少しビックリした。そんな所だろう。
「どうやら挑むのは俺の方だったみたいだ。禁手化に至らずこれか……是非とも至った時に手合わせ願いたい」
この時にはロンも嫌でも気づく「あ、この人戦闘狂だ」と。
「そういうのは勝ってから言うものだよ。白龍皇さん」
「そうだな……違いない!!」
続けての突進。
2度目で確信する。恐らく中遠距離での攻撃がない。もしくは当てたところで意味の無い程の威力。
二度目も使わないとなれば、それは確信に近づく。
ロンは今回は風を操るのではなく、何かを持っている様な手の形をしている手を突進してくるヴァーリに向かって突き立てた。
「──グッ!!」
何も無かったはずの空間から攻撃がヴァーリの腹に刺さる。
何とか龍の鎧が身代わりとなり串刺しとはならなかったが、胸の内部分の鎧はこわされ生身が剥き出しとなっている。
「無手だと思った? 残念だけど違うよ」
ヴァーリは二度目の魔術による攻撃を警戒し、どこから来ても対応出来るようにしていた。今回の突進も手から魔術の発動を感じなかったのでブラフだと思い攻撃に至った。
間違いなく読み逃しは無かったはずだ、だが現にヴァーリは攻撃を受けている。
「……既に……魔術を展開させて武器を隠していたのか……」
疑問ではない。ヴァーリは確信を持ってその答えに達した。
魔術の発動には魔法陣や魔力の乱れが必ず起こる。なにせ空間に働きをかける術なのだから、乱れが起こるのは仕方の無いこと。
それを見逃すはずは無い。だがそれを見せずに攻撃してきた。
それは既に展開していた……もしくは神器による特殊な攻撃、目にも止まらぬ武術
これしか考えられない。
そして消去法で最初と最後の二択に絞られる訳だが、まだロンは本気を出していないことがヴァーリにも分かる。
だから既に展開していた以外に見当がつかない。
二度も初歩的なことに釣られた事に悔しさはあるが、それ以上にヴァーリには高揚感がある。
これが勇者!
これが北欧!
これがヴァルハラ!!
「風の屈折率をシルフィに弄ってもらってね、よく見れば魔力が集まり過ぎて空間に異変があるだろ? でも、それも確かには見えない」
「ああ、なにか持っているのは分かるが……得物が何なのか、長さがどれくらいなのか……正確には分からないな。武器が見えないというのは厄介だな」
ヴァーリはこの魔術の厄介さについて考える。
どちらかと言えばヴァーリは接近戦に持っていき、ドカドカと殴るタイプだ。だが得物を持つ相手と無手で戦うのはやや分が悪い。そこに不可視とあう大きなアドバンテージが付けば尚更のこと。
だからヴァーリは自分の強みである白龍皇の能力を使用した。
「
触れたことにより白龍皇の半減の力は発動した。
魔術により形成されていた不可視の槍が少しだけ綻びを見せる。
だがシルフィの再形成により槍の不可視は戻された……。
が、一瞬でも長さや太さが見えたことが幸い。ヴァーリはその類まれなる才能で槍の大きさと長さを一瞬で覚える。
それに槍全体に半減の力を使ったのに、周りの魔術しか半減できなかったことに少し焦りを覚えた。
勇者の持つ槍は神クラスのものでみて間違いない。
それこそ世界に名を残すような武器であることに違いない。
「もういいか?」
ロンの声でヴァーリはニヤける。
戦いを求め、強敵を求め、力を求め……。
あの組織に入らずとも、ヴァーリの欲した敵が目の前にいる。
全てを使っても……それでも届かないと思わせる程の強者が。
「ああ、全開だ!」
── 我、目覚めるは
覇の理に全てを奪われし二天龍なり
無限を妬み、夢幻を想う
我、白き龍の覇道を極め
汝を無垢の極限へと誘おう
「
鎧は大きく姿を変え、人ですらなくなる。
人間ではなく、それは龍と変わらない姿。
「やっぱり龍になるのかよ」
ギリギリでしか倒せなかった龍の禁手を彷彿させるその姿。
白龍皇、その名の通り白銀の体をし皇として強さも尋常では無いのだろう。
だが……。
「なんていうのかな……弱くはないんだと思うけど」
どこか物足りない。
恐らくこの覇龍は白龍皇の中では奥の手と呼べるものなのだろう。
力もそこから放たれる波動も、先程までとは段違いだ。
それなのに……。
「ドゥン」
出しはしたが。
浴びせられる咆哮を風で相殺し、襲う爪を槍で受け止める。
前はあれだけギリギリで堪えていたのに、まるで赤子の手をひねるように……。
槍を持たない左手、つまり指輪の嵌めてある手を前に出し風を弄る。
周囲に風を抑えて、自身が竜巻の目であるかのようにその場に留まる。
ヴァーリも何をされるか分からないが、阻止しようと竜巻の中にいるロンを狙うが攻撃が中へと通らない。竜巻であると同時に結界としての役割すら担っている。
槍を高々と挙げ、竜巻は槍にへと収束していく。
段々と……結界の規模が狭く収縮し……。
途端、竜巻は消えた。
否、槍にへとその竜巻は纏ついたのだ。
極小の大竜巻、それがロンの持つ槍に纏わりつく。
ゆっくりとヴァーリの方を向け、槍を突き刺した。
「
前とは違い、本物の精霊魔術を使ったその技はドラゴンを一撃で致命傷を負わせるほどの力を手に入れていた。
暴風がヴァーリへと向かい、風が過ぎた頃には無数の切り傷がついており龍となったヴァーリは大量の血を流す。
「まだだ、面白い! 面白すぎるぞ北欧の勇者!!」
覇龍が解かれ、鎧と剥がれ落ち。それでもとヴァーリは嗤う。
翼の神器でもう一度鎧を作ろうとする時。
《辞めておけ、ヴァーリ》
翼から言葉が放たれた。
「なぜ止めるアルビオン、最高だ。最高なんだ止めてくれるな」
《勝てないさ。あの槍の持ち主はな》
その言葉はロンに向けられた言葉なのか……。
それとも以前所持していた王に向けられた言葉なのか……。
「そうだな、お前らそろそろ終われ! 空間がもう限界だ」
外で興味深そうに見ていたアザゼルは空間が維持できないといい二人を外に出す。
それが嘘か本当かも分からない。
ただ、あのまま続けていればヴァーリは危ない状況だった。
それだけでアザゼルが止めるには足りる。
「……ったく、これ以上強くなって何になるんだよ」
オーディンから預けられた勇者は、過去現在未来全てを合わせても最強と呼ばれる白龍皇ヴァーリ・ルシファーを無傷で戦闘不能に追い込む規格外のバケモノ。
それも見せたのは力のほんの少しだけ。
禁手が必要なのかと、些か疑問は残るがアザゼルは新たな面倒事に頭を悩まされる日が来たことは間違いない。
(ったく、幹部の一人が最近不審な動きをしてきたのに……ここに来てもっと面倒なことになっちまったな)
アザゼルは北欧でこの状況を悟って尚送り付けてきたクソジジイに向かって恨みを込めた。
次は一旦設定を入れることにします。
ほとんど完成してるので直ぐに出せると思います。