(1~10でこの作品だけ赤グラフじゃない……恥ずかしい……)
分かっていたつもりだった。
だがそれでも本質は分かっていなかった。
教会の戦士。それは幼少の頃から常に訓練を強いられた言わば戦のプロ。神器と聖槍というアドバンテージがあったとしても、そう簡単に拭いきれるものでは無い。
光の銃でこちらを一斉に撃ってくる戦士たち。
ドゥンは空を駆け上がり回避する。何発か狙いのよく避けられない弾はロンゴミニアドを用いて弾く。
面倒事に首を突っ込んだ自覚はある。
後悔はないが、大変なことになった。そう思ったのは仕方の無い事だろう。
「お嬢さん! もっとしっかり掴まって!!」
お嬢さんの腕力ではドゥンの最高速度に耐えられない。
それが教会の戦士たちを一人も落とせてない理由である。
彼らは実に戦い慣れている。
相手の嫌なところをつく、それ即ちロンにとってのデメリットになる所。つまるところシスターだ。
彼らの最大の目的はシスターの殺害。
ロンの聖槍はサブだと考えていい。
じわじわと攻めてくるその面倒な攻撃にロンは少からず参っていた。
何か一手がなければジリ貧。
いっそのこと逃げるか?
ドゥンならそれも可能だろう。
だが、それは問題の先延ばしにしかならない。ここで解決しなければ、それこそ無駄に終わる。
「随分と辛そうだな異教徒? シスターを捨てれば楽だろうに」
「お生憎様、僕が言ってるわけじゃないけど僕は
「私はおっさんでは無い!!」
「うわ! ビックリした……突っ込むとこそこかよ……」
小言を挟む余裕はまだ残してあるが、正直手詰まり。
だからロンは──ドゥンを降りた。
「なに?」
降りてシスターも降ろす。
「確かに僕は騎乗している時が一番強い。でも……」
「──君たち程度なら降りてても余裕かなァ〜」
明らかな挑発。
自分よりも歳下の子供に嘲笑され、見下され。
いくら戦のプロと言えど、攻め入る隙は側面からならあった。
「貴様!!」
「──待て! お前ら!!」
釣れた!!
ドゥンが最速で地を駆ける。
その速さは目にも止まらぬ電光石火。【白亜の天翔馬】は力強く、それでいて光速の神器だ。
頭に血がのぼり、視野の狭くなった相手に捉えられるほどノロマでは無い。
5人の内の3人をドゥンが踏み潰した。目にも止まらぬ速さ、生きているかは分からないが、そんなことを気にしていられるほどの状況ではなかったことからドゥンに責める気は無い。だがそれでもシスターは顔を酷く歪ませた。
「陣形が乱れたね、はっきり言ってもう僕達の勝ちだよ」
「巫山戯るな!! 何故神器が手元から離れつつもそれ程までに強い力を維持出来る!? 答えろ!!」
「ちょっと考えれば分かるだろ? ほら神滅具にもあるんじゃなかったっけ? 独立型神器」
「聖槍に騎馬など!それはまるで──」
「──それで? 余裕が出来たから言うけどさ、まだ続ける?」
「……教会の命令は絶対、失敗など許されない!!」
この時少しだけロンは分かった。
別に同情とかでは無い、この信者たちも同じなんだと。
仕方ないだなんて言わない、可哀想だなんて死んでも言わない。だから……
「誇っていいよ、今代の
「──もう勝った気か? たかだか10年しか生きておらんガキが、世界の広さを知らない。神器使いがお前だけだと思ったのか??」
「【
「
手にある銀色の篭手が教会の戦士を飲み込み、内に秘められていたであろう龍がこの世界に根を下ろした。
『gyaaaaaaaaaaaaoooooo!!!!!!!!!!!』
昔に爺さんの繋がりでドラゴンを生で見たことがあるが、確かにそれと同じ力だと思われる。だが、あの北欧のドラゴンと比べるならばどうか?
あれには及ばない。
圧倒的な力の塊。それこそが龍だ。
しかしこれは紛い物。ロンの独立型のようなものなら話が変わったが、この神器はあくまで所持者と同化して龍となっている。
「お嬢さん、ちょいと失礼」
「きゃッ!」
そのままシスターを放置しておけるはずもなく、大見得切った手前守り通す義務がある。腹の当たりに手を回しロンゴミニアドを持っていない左手でシスターを担ぐ。
『なんだ? 騎乗してこんのか? オレはお前を敵と判断した。捨ておけ、そこの聖女など狙わぬ』
これは恐らくさっきの所持者の方ではなく、眠っていた龍の方。
恐らく亜種の禁手により何もかもがイレギュラーなのだろう。
「僕はアンタ達のこと信頼してないからね、自分で守れる範囲に置いておきたいのさ」
『このオレを相手にその傲慢! 万死に値する!!』
龍からブレスが飛んできた。
ドゥンももう一人の教会の戦士と交戦しており、サポートを頼めない。
「【
騎乗していたならばこの上の【騎駆剱穿】を放つことが出来たが、少し威力が落ちる代わりに広範囲の攻撃を可能にした【聖槍風槌】を使う。
龍のブレスと同等の力を見せ、何とか凌いでみせた。
『オレの咆哮を止めるとはな。だが惜しいな、それでもお前に勝ち目はないぞ聖槍使い』
「あ?」
『オレの力を存分に使えればそんなことは無いが、現時点ではオレよりももう一人の神父の方が強い。いくら独立型神器と言えどオレと同等のお前が使役できる馬如き』
「知らねぇよタコ」
ロンは龍の言葉に機嫌を悪くしたのか槍を握る力が強くなる。
槍からの神性が体に増して肉体その物が強化される。
「【
体を強化し、神性を一段と上げた攻撃が龍へと向かう。
先程のよりも鋭く、そして力強い。
──だが。
『無駄だ』
龍の翼によっていとも容易く振り払われた。
聖槍から放たれる攻撃の方向を変えて、森がごっそりと削られる。
『見たところその技が中遠距離で使える最大威力とみた。そしてそれは通じない。聖槍使い、もう一度言う 聖女を捨てろ! その女を置きお前の槍の本体で攻撃しろ! それ以外の攻撃は無駄と知れ!』
「龍ってのは短気なもんなのか?」
「別に僕は戦いが好きって訳ではないし嫌いって訳でもない。強い敵と戦って心が高鳴るみたいのも知らないし、強い敵を倒したいとも思わない。アンタら龍はそういう訳にはいかないかもだけどさ……」
「──つまり! 別にアンタの言葉を聞く義理はない!!」
ロン自身も分かっている。
これが強がりであるということを。シスターを背負った状態では最速では動けない、そして何より龍の攻撃が当たった場合に受け身の取れないこのシスターは最悪死ぬ事もありえる。
そうなれば今回の戦う意味が無くなる。なにせロンは教会に喧嘩を売りに来た訳では無い、腕の中の哀れなシスターを助けに来た。
『ならば死ね! 愚かな聖槍使い!!』
龍が鉤爪を使って攻撃してくる。
逃げることの出来ないこの状況、ロンも槍で応戦した。
龍の鉤爪とロンゴミニアドが重なる。
凄まじいその衝撃にロン自身も飛んで行ってしまいそうだ。龍の一撃を受けても傷一つつかない槍には感服する。
北欧の学校で学んだ自己強化の魔術と槍から溢れる神性で何とか体を持ちこたえるが、さすがに龍の重量には耐えきれず体が悲鳴をあげる。
「んんッ!!!」
何とか攻撃を逸らしてロンは後ろに下がった。
力強い攻撃、もう一撃きたら正直受け取れるのは不可能だ。体力的にも肉体的にも。
「か! 回復します!」
腕で担いでいるシスターが治癒をしてくれる。
なんとこのシスター治癒魔術ではなく、神器による治癒を使うようだ。
基本的にロンは神々や戦乙女に囲まれて生活していたので、人間だけが持てる神器を見たことは非常に少ない。なにせ希少なものだと聞かされていたからだ。だがこの状況はどうだろう。ドゥンが相手をしている神父を除けば全員が神器使い。
なんとも言えない豪華感だ。
だがそうも言っていられない。
禁手。
それはバグと呼ばれる現象に近く、その力は絶大である事が再認識できる。
聖槍という最強の武具、その最高位に位置するロンゴミニアドでさえ太刀打ち出来ないのでは……。
ーーーーー
違う、こんな物じゃない!!
本来の力を出し切れていない。
もっとだ。
もっと神性を高めろ。
もっと波動を感じ取れ。
こんな奴に手こずっている暇なんてない!!
シスターの治癒があったからだろうか。
何時もよりもやけに神性を感じる。
体に別のオーラが入ってきて、それとは別の慣れ親しんだオーラが槍から体に入ってくる。
比較できる。ということで更に力の波動をより鮮明に感じ取った。
そして限界まで酷使しても治してくれるシスターが今はいる。
聖槍の
「……」
聖槍から黄金のオーラが溢れ出す。
青色の篭手もそのオーラを帯びて、本来よりもさらに強く神々しいオーラを放つようになった。
神性属性は体を強化する。
強化して強化して、体の造りそのものを変えるほどの強化を施す。
元々の灰色の髪に聖槍から流れる黄金のオーラが混ざり、毛先が灰色から
目の色も両眼とも髪と同じく色素の薄い色をしていたが、聖槍を持つ右側の眼だけは瞳が黄金に変わる。
心做しか体も少しだけ大きく、髪も長くなった気がする。
聖槍による体の強制的な成長。
『お前の中で今何が起きている!!?? お前は何をやっている!!!??』
「これはお嬢さんがいなければ結構やばかったな。ありがとう、君のおかげで勝てそうだ」
「元々は私のせいですから……」
「それでもありがとう、これで分かった 僕はまだまだ強くなれる」
戦うことに、強敵を倒すことに興味はないとロンは言った。
恐らくあの言葉に嘘はない。一番好きなことはドゥンで空をかけて景色を眺めながら果実を食べる。それがロンの中では一番のお気に入りだ。
でも、それを理不尽に奪う者がいたら。
それに抗わなければいけないのなら。
ロンには力がいる。
自分を通すために、何者にも屈しない力が。
『もう勝った気か!! 時間は稼いだ!! お前の神器もそろそろやられて二対一だ! 絶望的なのは変わらない!! お前の負けだ聖槍使い!!』
「前から思ってたんだけどさ。ドゥンは僕より強いよ、それもずっとね」
ちょうどドゥンがこちらに現れた。口には倒したであろう神父が血を流している。
物音がしなかったので決着は、随分と前に終わっていたはずなのに。
「シスター、君の名前は?」
「アーシア・アルジェントです」
「アルジェントさんか……よし、お礼だ。僕のとっておきを特等席で見せてあげるよ」
ちょっと跳んだつもりだったが、体の思っていた以上の成長により随分と高く跳んだ。
それに合わせる様にドゥンも駆け上がり、僕達を空中で拾ってくれる。
「聞け! 僕が持つ最強をもってアンタを打ち倒す!──聖槍…抜錨──」
13ある枷の6つを解いた。
この力を無闇矢鱈に使ってはならない。そんな思いを込めて。
そしてその枷の一つ一つに条件をつけた。それはその騎士が持つ誇りになぞって。
そしてその枷が半数を超えた時に限り、
聖槍の枷が剥がされ、本来の力が解かれる。
それは今までに見せた黄金の光の比ではなく。それは最早星の輝き。
光の柱と称されたその聖槍。
聖槍の周りを螺旋のように纏わりつく星の力。
全てが霞むその輝きを。
ロンは高々と掲げ詠を歌う。
「最果てより光を放つ──」
「其は空を裂き地を繋ぐ──」
「嵐の錨 ──」
ドゥンはロンを連れて下に降りた。
いつもの様な重力に任せた落雷の様なものでは無い。
力強く、1歩1歩を踏み締めるように。
ドゥンは懐かしさと感動で溢れていた。
──千年にも及んだ王の帰還を──
「
世界は光に包まれた。
正直この13拘束がやりたくて書き始めたので、出来て満足。
次は主人公たちと絡ませたい!!
現時点では禁手のドラゴンより本体は弱いという設定です。禁手なしの人間なんで…でも聖槍の強化によって体を自在に使えるようになったら素の体だけで、あのドラゴンには勝てるようになるかも。
信者a(ドラゴン)強さ…英雄派の影のやつ
信者b(ドゥンが倒した)…ディオドラ
信者c.d.e(ドゥンが一掃した)…レイナーレ