だが、オレンジ……
評価の人数が倍近くなったんですけど…一位の恩恵すげぇ〜
この技を放つことが出来る半数ギリギリでも地形が変わった。
全てを解いた時、世界は正常に機能しているのだろうか。
「アルジェントさん、どうだった」
龍を殺し、信者を殺し。血にまみれた中ではあるが何とか当初の目的であるシスターを……アーシア・アルジェントを救うことが出来た。
「……とても、怖かったです」
「そっか……」
当たり前だ。
シスターにとってこの日は殺されかけて、ドラゴンに狙われて、銃を撃たれて、光に包まれて。
見るからに温室育ちのアルジェントには、この日の出来事。というよりもこれからの出来事に耐えられるか。
「……実は僕も結構限界でね、ちょっと寝る」
手に持つ聖槍ロンゴミニアドは強制的に黄金の輝きを止められ、ダメ押しとばかりに篭手が封をしてロンの体の中へと入っていった。
しかしドゥンだけは戻らない。いくら独立型神器といえ所持者の命令なしに動くことはできないのだが……アルジェントを守り通す。その意思が化身となったのか、それとも原因はロンにあるのか。現時点では不確かな点が多すぎる。
「……はい、ごゆっくりお休み下さい」
ーーーーー
私アーシア・アルジェントは魔女と呼ばれています。
最近教会の近くに傷付いて倒れていた悪魔を治療し、聖女から一変し魔女へと落ちてしまいました。
今朝の話です。私が異端認定され教会から追放され行くところも無く森を歩いていたところに、彼等は来ました。
恐らく異端審問官だと思います。
見たことはありませんが、時期的にそういうことでしょう。
手には武器を持っていて私は殺されるということが分かりました。
走った。
死にたくありません。
私は必死に逃げました。
主は乗り越えられない試練は私達に与えません。
きっと、きっと誰かが…………
そんな時です、彼が助けてくれたのは。
何処の誰だか分からない彼は、何処の誰だか分からない私を守ってくれました。
……ヒーロー。
彼は異端審問官にそう言っていました。
私がお荷物になっていたのに、彼は私の目からしたら苦戦することなく……あの異端審問官を打ち倒したのです。
天を駆ける白馬を乗りこなし、手には黄金に光る槍。
私を助けてくれた彼は──神の使いなのでしょうか。
光に呑まれ、次に周囲を見た時には森は消滅していました。
ドラゴンさんも……それにお馬さんが…………お殺めになった者たちも。
少し心苦しいです。
彼は私を助けるために殺めた。
それを責める権利が私にはない。
ただ、私は彼に感謝をする。
それ以外の感情を
「異変があったからジジイに行けって言われたから来たのに。膝枕とは随分といいご身分だな…………ロン」
声がかかり後ろを振り向く。
そこには紛れもない神がいた。
ーーーーー
「……ん……ん?」
「よう随分とお寝坊だなロン、ジジイに見てこいって言われて来たが……なんだお前ちょっと育ったか?」
目を覚ました時、ロンは何故かヴィーザルの背に乗っていた。
あまり力の入らない体で少し後ろを見るとドゥンに跨っているアルジェントもいる。
「ヤリチンのお兄さん」
「誰がヤリチンのお兄さんだ! 落とすぞクソガキ」
「や? やりちん?」
温室育ちのアルジェントには理解できない単語が飛び交った。
ロンを迎えに来たのはオーディンの息子であるヴィーザル。ロンがオーディンと過ごす内に世話の掛かる弟として接してくれている兄貴分だ。が、その実態は大の女好き。数多の愛人を作ってヤることをヤりまくる種馬神。
「……槍の力を吸収し過ぎたかな」
「使いこなせていない状態で無理やり使うなんて無茶して。ロン! これは良くないことだってことは分かってるな?」
「分かってる……けど」
けど、そうでもしないと勝てなかった。
素の力なら勝てたかもしれない。でも、あの時のロンには中遠距離攻撃での破壊力が足りなかった。だから聖槍に頼り力を吸収した。
それが最善だと思ったからだ。
「けどなんだ?」
ヴィーザルの口調が強まる。
「ま、待ってください! 彼は私の為に──」
「お嬢ちゃん、自分の身を捨てなければ守れない勇者なんて迷惑以外の何物でもない」
「それでも──」
「アルジェントさん、この神が言うことは……概ね正しいよ」
「……はい」
それでもアルジェントの不満は拭いきれていない。
命の恩人を目の前でこうも言われては、バツが悪いのだろう。
「と、ところで……やりちん? 様、私たちは何処へ向かっているんですか?」
アルジェントの悪意のないその言葉にヴィーザルは胸に押し留める。
確かに自己紹介していないので、ロンから拾った謎の単語「やりちん?」がアルジェントにとってはヴィーザルの第一印象といえる。
だから怒るに怒れない。
むしろ無垢な少女から「やりちん」と言われる経験は初めてだ。
「ジジイの北欧の主神オーディンの元へだよ。あと俺のことは『ヴィーザル』って呼んでくれ。何なら義兄さんでもいいぞ!」
「……なんじゃそりゃ」
担がれた勇者とは何とも締まらないもの。
その光景を見てアルジェントは憂鬱だった表情とは打って変わって笑顔になった。
「けどロン、真面目な話お前の中に神性が入りすぎて純粋な人間とは呼べなくなっているぞ。それこそ半人半神のそれだ」
「……まぁーいいんじゃない? 元々神様に囲まれて生活してたんだし、そういう突然変異的なことがあっても」
「馬鹿者、試練を乗り越え神の座へと迎えられた訳でもなく生粋の人間が片足でも入るなど不満が上がるぞ」
「でも仕方なく無い? 必要だったんだから……。それにこれでチビじゃなくなった!」
「お前それが本音だろ」
実はロン、チビと言われることが本当に嫌だった。
ロン自身も何処の出身かは知らないけど、北欧の平均身長は高い。腰の曲がった爺さんでさえ見下ろされる始末。学校の帰りにロセと歩くと姉弟と呼ばれる始末。
半人半神?? 神の座に片足踏み込んだ??
否!
そんなものどうでもいい!
身長……有難い!!
「これは早めに取り掛からないとな……」
ヴィーザルが口にしたのはある勢力の動きが活発になってきたという鴉の報告をオーディン経由で聞いたこと。
近々、それも数年後に過激化するテロ行為に向けて勇者を育てなければならない。
如何にポテンシャルが歴代最高でも伸びなければ今がない。
この13歳に求めるのは酷だが、相手は待ってはくれない。聖槍に代償を払いやっとドラゴンを討てる様では話にならない。
ヴィーザルは北欧のシンボルである世界樹ユグドラシルを目視した。
「取り敢えずジジイに連れてくか」
ーーーーー
「ガッハッハッ! パトロールを頼めば女を連れて帰ってくるとは、さすがに儂の息子」
「ちげぇよ、それと息子はコッチだろ」
オーディンの目前にいくと先ずはアルジェント関連でロンが弄られる。そして急な息子宣言、それはヴィーザルだろと呆れかえる。
「確かに神性が高まり擬似的とはいえ神格の様なものが芽生えておるのぉ。髪も瞳も所々にその片鱗を見せておる」
元々灰色だった髪は毛先が、そして右眼があの時から戻っていない。
「しかも半日で儂と背丈が同じくらいにまでなりおって」
「このまま行くと余裕で見下ろせるね! ヤリチンのお兄さんも抜かれた時の準備しといた方がいいんじゃない?」
そうは言うがオーディンにはロンがまともな成長はもうしないと分かっていた。それは叡智によって得られた恩恵で……。前ロンゴミニアドの所持者と同じく聖剣に、ロンの場合は聖槍に選ばれた時から成長は止まる。例外的に槍による強制成長を除外すれば、ロンは成長する手段がない。
だが、オーディンは言うのを辞めた。
可哀想だとかその類の理由ではない。
(あ、やっぱりコイツは道化だ)という意味で泳がせた。
「しかしロンよ、ドラゴン一頭に手こずるとは勇者の風上にも置けんな。遊んでばかりおらず鍛錬せぇ鍛錬!」
「ぐっ……わかってるよ……」
オーディンから喝が入り、逃げ場を失うロン。
確かに色々と思うところはある。遊び呆けた結果が教会の戦士との死闘。ドゥンの余裕さを見れば相手がそこまで強くないことは理解出来る。
その程度の相手に追い詰められたということも。
「その事だけどジジイ、ロンを少し借りてくぜ」
「ヴィーザルよ、どうするつもりじゃ?」
「北欧らしくいこうと思ってな、ユグドラシルに少しな」
「ユグドラシル? ……なるほど、聖槍の次は精霊か。先代は湖のだったが今代はどうなるかのぉ……これは儂でも分からん」
「上手くいけばな……俺はたんにユグドラシルで肉体的に……」
「ならば儂は神器の方を何とかしよう。一人そういうのに詳しいのがいての」
段々と進んでいく会話。
その会話が何となくと断片しか話さないので何も言わなかったが、このままではどうも流されてしまう。流される前に一つ決めておかなければいけないことがロンにはあった。
「ちょっ! アルジェントさんをどうするか先に決めないと」
ロンの言葉でオーディンとヴィーザルがやっと気付く。
余所者とはいえ、ここまで露骨に忘れていれば恨みすら出ないだろう。何よりアルジェントにそういう負の感情は無かった。
せいぜい思っていることがあるとすれば(仲がよろしいですねぇ)位のものだ。
「確かにそうじゃな……そこのシスターよ。お主はどうしたい?」
「私は……」
言葉に詰まる。
数日前までは言われた通りに人を治していた。それに疑問はなかったし、それでいいと思っていた。
だが、それは既に過去の話。もう戻ることの出来ない昔の話。
「先に言っておくがこのバカが勝手にお主を庇っただけで、儂としてはお主を庇う義理はない」
「爺さん!」
あまりの物言いにロンは声をあげる。
だがオーディンではなくヴィーザルから強い威圧がきて、ロンは重圧に押し潰される。
「私は……分かりません。どうするのが正解なのか」
「じゃろうな」
「でも魔女と言われても私はシスターです。人を癒すことしかできないならそれを通してみせます」
「献身なシスターじゃのぉ。聖書の神もさぞ幸福じゃな、こんな信者に崇められて」
「ありがとうございます」
「ならば好きにするがいい。なに、少なくとも北欧ではお主に手出しはさせんように手をうっておこう」
「は、はい。ありがとうございます!」
何はともあれアルジェントの処遇が決まり、一段落とはならなかった。
「では早い方がいいな、ヴィーザル! ロンをしっかりと連れて行け」
「わかってるってジジイ」
逃げてしまわぬように、やる気のある今のうちにちゃっちゃと済ませるに限る。そう考えた二柱は行動を移そうとする。
「あ、あの! 御使い様!」
「……ん? 僕のこと??」
アルジェントが頷く。
どうやらロンのことを神の使いとまだ勘違いしているようだ。
「た、助けて頂いてありがとうございました!!」
「いいよそんな堅苦しくなくて。あと変な呼び方じゃなく普通にロンでいいよ、様もいらない僕はそんな大層なものじゃないからね」
「ならロンさん! 本当にありがとうございました!!」
「いいってアルジェントさん。困ったらお互い様でしょ」
確かにアルジェントが発端だったが、自分の弱さに気づけたのは今回のおかげだ。更にアルジェントの治癒のお陰で神性を過剰に取り込めたと言っていい。言うなればアルジェントのお陰で身長が伸びた。
そういう意味ではアルジェントはロンを助けている。だからこそのお互い様だ。
北欧でのロンの初めての教会との小競り合いは、大きな物を得て終わりを迎えた。
良くも悪くも、聖女と出会ったこの数奇な運命が後々になって実を結ぶ事となるが……。それはまだ先のこと……。
ロン
性別:男
神器:【白亜の天翔馬】
武器:【最果てにて輝ける槍】
技:【騎駆剱穿】ーードゥンに乗り、光速の移動と光速の突きによって得た貫通力を極細にして穿つ技。
【聖槍風槌】ーー騎駆剱穿程の貫通力はないが、広範囲に渡る風の攻撃が出来る。
【最果てにて輝ける槍】ーー13の枷を半数解くことで発動することが出来る。半数ギリギリでも魔王クラスの力は出せる。
容姿:灰色の髪に灰色の瞳、体の色素が薄いチビ。だが聖槍の神性を取り込んだお陰で少し大きくなった。でもまだ小さい部類。聖槍の影響で毛先が金色に、右の瞳が黄金になる。