オレンジ危険みたいな事言ってたら黄色も危なくなってきた模様…
「それにしてもロン、戦乙女の次は魔女だなんて……結構いい趣味してるよな」
「お前ら親子と一緒にするな! 僕は色狂いじゃない!! ……というかアルジェントさんは聖女って言われてたらしいよ」
「マジか!? 今代の勇者も聖女か〜。惹かれ合うものなのかね〜」
連れられてきた世界樹の麓でヴィーザルとロンは会話をする。
傍から見ればその会話は兄弟のそれ。ロンはヴィーザルとオーディンの二人のことを親子と言うが、ヴィーザルとオーディンからしてもロンは既に家族のようなもの。
スケベジジイのオーディンに、変態兄貴に、生意気小僧。
何ともバランスの取れた3人に見える。
ヴィーザルの上の兄はしっかりと仕事をしていてヴィーザルの様に遊び呆けてはいない。何せ次の主神はヴィーザルの兄がすると言っていてヴィーザルもそれを了承している。
基本的に自由な神だ。
だからロンという弟分に時間を割いている。
「結局世界樹に何しに来たの?」
「そうだなー、ロンはココに来たことあるのか」
「まぁ一度ロセと来たことあるけど……別に大したものは無かったと思うんだけど」
「おぉ! やるな。学生の時にデートしに来たのか……ホントやることやってんな〜!」
「茶化すならマジで帰るよ」
「ゴメンって」
ヴィーザルは基本的に巫山戯ている。
お付の戦乙女がいないからか一段と増して巫山戯ている。ロンもこのテンションにはついては行けない。いくら体が神に近づいたとしても……精神は難しい。
「北欧魔術は知ってるな?」
「一応学校で……でも僕は初等の基礎中の基礎しかできないよ。身体強化と4大属性位しか……」
「大丈夫。恐らく勇者にとって一番適正の高いものはまだ試してないだろ?」
「勇者にとって? でも代が違うだけで戦い方とかは違うものなんじゃないの??」
「ああ、そうだけど勇者の本質は基本的に変わらない──それは恩恵だ」
恩恵?
与えられるもの。
確かにそれに引っかかるものがあった。
「神器は聖書の神から、聖槍は中に宿る神の意思から。そしてそれを経由して体が強化する。ロンも身に覚えがあるだろ?」
全てに覚えがある。
でも、それを言うなら…………。
「全てが与えられたものになるじゃないか……って? 何を恥ずかしがる、全てそうじゃないか。勇者ってのは基本的に他力本願な生き物だよ」
「……」
「あれ? ショックだった。でも与えられてそれを扱えるようになる、それには努力が必要だ。何せ神の気まぐれで人の身を超える力を与えられるんだ、そのままじゃ身を滅ぼす。そういう意味で勇者は短命なんだろうね」
「…………」
「まぁそんなことはいいんだよ。俺が今のロンなら使いこなせると思ったからここに連れてきたんだ。その力の名前が精霊……いや勇者の更に聖宝具の担い手が精霊と契約する時は聖霊と呼ぶんだったかな?」
ロンは少なからずショックを受けていた。
確かに全て貰い物だという自覚はしていた、だがそれを正面から言われるのは思っていたよりも堪える。
聖槍や聖剣のことを聖宝具が古の戦で呼ばれていた名残がヴィーザルにはある。
「大丈夫、今のロンならユグドラシルが応えてくれるよ」
「……あてはあるの?」
「もちろん。その槍の先代のメイン装備は聖剣だったってのはジジイから聞いてるな? ならその槍に選ばれて何故聖剣が持てないか。考えたことある?」
「いや、そこまで真剣には……」
「俺も詳しくは知らないけどジジイが昔に零してたよ、先代の後悔を見ていた【白亜の天翔馬】が拒否してるって。俺も詳しく知らないからなんとも言えないけど多分ロンには適正はある、でも神器が拒んでる。そんな感じなんだ」
「そーなんだ」
ロンは驚愕する。
まさか自分に聖剣の適正があったということに。
仮に、仮にだ。聖剣が元から扱えて、実験されたとして……。その時に僕の家族達は死なずに済んだんじゃないか?
少し吐き気がした。あの地獄をもしかしたら自分の手で作ってしまった。食い止めることが出来た。その可能性を知ってしまったから……。
「まぁ使えないものは仕方ないよ、多分適正があっても槍で慣れたその体が剣に順応するには時間がかかると思うし、槍の技量を伸ばす方が今は大事だ」
「まぁ、そうだね」
「という訳で先代のスペックがかなり引き継がれてる。そういう人を聖槍自ら選んでいるのかもね。だから聖槍、馬、聖剣。聖剣は省くとして先代はもう一つ適正があったんだ。それが風魔術」
「昔は今で言うところの必殺技を宝具って呼んでたんだ。これもジジイから聞いたけど、その風魔術の名前が
「でも僕はそこまで強い風は……」
「そこで聖霊だ。聖槍が教えてくれる、あのシスターの元へ運んだように、危険を知らせてくれるように。必ず正しい方向に導いてくれる。もしお眼鏡にかなわなくても俺が北欧魔術を教えてやる」
色々とヴィーザルにはお膳立てをしてもらっていたんだと自覚する。
それは全てロンが強くなる。その為に。
「ここまでされて『やりません』は申し訳ないからね。やってやるよクソ兄貴」
「クソは余計だ、やんちゃ坊主」
──進め
──進め
──もっと進め
胸の内に潜む聖槍に耳を傾ける。
光の柱、星の欠片、金色の塔。そんな例えをされている。でもロンにとって……【黄金の羅針盤】と呼ぶのが一番しっくりとくる。
無いわけでは無い、ある筈なのだ。
それを示すように聖槍に動かされる。
──もっと
──もっと
──あの風を──
聖槍に導かれて辿り着いた先には精霊がいた。
世界樹に住み着いているのか、はたまたここに立ち寄っただけなのか……。
だがどちらにしても、聖槍が示した。その事実は変わらない。
この精霊がロンにとっての最善。いや、最強なのかもしれない。
《ん〜? ……はぁ〜。ん? 君はいつぞや……っと失礼、空似か……》
「おいクソ兄貴、ホントにこれなのか?」
「俺じゃなく槍に聞け」
《む? 失礼な連中ね〜、ワタシはまだ眠いのよ。さっさと何処かいってね〜》
本当にこいつでいいのか聖槍。
もっとマシな強そうな刺々しい雰囲気放ってた精霊いただろ。
「聴いてくれ緑の精霊! 僕に力を貸して欲しい!」
《やだ……ほら早く帰って〜》
「全然ダメじゃん!! ちょっと! マジで頼むよこの通り!」
《そんなこと言うならワタシを寝かせてよ〜》
もうなんとなく二人は思う。
(これは無理じゃね?)と。
話す余地がある相手ですらないし、そもそも今話した言葉がちゃんと頭に入っているかさえ怪しい。
「風魔術を覚える方が早そうなんだけど……」
「でも槍がこの精霊を指したんだろ? なら頑張るしかない」
「それはそうだけど……」
《……ZZZZZZZZZZZZZ…………》
いや無理だわ。
内心でそう思い、表に隠すことなく出す。
事実無理だということはヴィーザルにもなんとなく伝わっている。
諦めている雰囲気のなか、ロンは何だか面倒くさくなりご飯を食べることにした。オーディンから早めに行ってこい! みたいなことを言われていたが、ロンは目を離すと散歩に出かけたり果実を食って何処かへ行ったりぬらりくらりとしている。
その発作のようなものが起きる前に色々と済ませたかったが、どうやら止められなかったみたいだ。
「お、今日もリンゴか〜。よくもまぁ毎日毎日飽きないな」
「肉とか魚より、やっぱり果物でし───あれ?」
齧ろうと思ったが手元のリンゴが消えた。
ん??
《ふんふんふん☆ウマウマ〜》
(こんのぉクソ精霊がっ!!!)
「ストップストップ! 逆にチャンスだって。ほら、まだストック無いの??」
ぶち殺そうと聖槍を取り出したところをヴィーザルに止められる。
しかしロンは止まろうとしない。仮に、仮に自分から上げたなら許したが……このクソ精霊は盗んで美味そうに食っている。ロンにはそれが許せない。
「まて! マジで止まって世界樹で精霊を殺すのは流石に不味すぎるから!!」
「止めるなアイツぶっ殺してやる」
《ウマウマ〜♡ウマウマ〜☆》
ぶち殺してる。
そう本気だ! 本気と書いてマジなぐらいマジだ。
「こ、こいつ! 食い意地だけで神クラスの身体能力発動してるぞッ!!」
「食い物、怨み、コロス」
「落ち着けッ!!」
ヴィーザルが強めにロンを叩き、正気に戻した……と思いたい。
ロンには恐らく先の龍戦のブレス以上の攻撃が体を駆け抜けて、意識が正常に戻る。
「ロンよく聞け! 多分お前とアイツは同類だ、果物を使って契約してこい」
「で、でも! 果物を分け、分けるのッわ!」
「どんだけだよ! 果物あげるだけで契約とれるなら安いだろ!」
「馬鹿野郎! 僕が朝から選りすぐりの新鮮なメンバーだぞ!! 安いわけねぇだろッ!!」
「ほら、今度俺の特権で何か凄い果物作ってやるから! あ! 確かドラゴンが好む果実があるって聞いたことあるな!」
「ほう! 話を聞こうじゃないかお兄様!」
「お前ホントいい性格してんな」
やっとの思いでヴィーザルはロンを正気? に戻して目的である世界樹に住む精霊との契約に乗り出そうとする。
《ウマウマ〜☆》
「や、やい! 精霊さんよぉ〜」
どこのチンピラだよ。
そう思わせるが、何せ自分の大事なものを奪われても心広くは出来なかった。
《ん〜? ……ぷッ! ウマウマ〜〜♡》
コノヤロウ鼻で笑いやがった。
青筋がロンに浮かぶ。恐らく北欧に来てから一番と言っていいほどロンはキレている。
「果物ならおかわりあるからね〜」
《ウマウマ〜!? え、マジで!? サンキュッ》
何故か比例するように精霊もウザくなる。
しかしこれも堪えて、袋から果実を前に差し出した。
《ウマウマ〜……ちょっと、離しなさいよ!》
「これが欲しければ僕と契約を結ぶんだな! 精霊さん!!」
《あんたみたいな聖宝具持ってる奴と契約したらワタシが聖霊になっちゃうじゃない! いやよ! あんなのになったらロクな死に方できないじゃない!!》
「そこをなんとか」
《無理よ! だからさっさとこの手を離して果物を寄越しなさい!!》
「……ここにまだ山のようにおかわりがあります」
《…………》
「更に隣の北欧の神様がドラゴンが好む幻の果実を採ってきてくれるそうです」
今ロンが果てしなくハードルを上げたのをヴィーザルは「え?」と言いたくなるが、今更何もいうまい。
《〜〜〜!!!》
「え? まだダメ? もう手札ないんだけど……」
《ま、まあ! どうしてもって言うなら取り憑いて上げてもいいけど……でも条件を出すわ! アナタに直接憑くのは嫌! 何か身に纏ってる物に取り憑く!!》
「そう言われても……じゃあ聖槍は?」
《それから逃げたいから言ってんのよ! 馬鹿なの? もうアンタの体に神性が馬鹿みたいに引っ付いてるじゃない! ワタシは聖宝具の余波で聖霊になんてなりたくないの。お分かり?》
「ゴメン、実は精霊が聖霊? に変わる理由を全然知らないんだけど……」
《教えて欲しければ、まずコレを渡しなさい!》
ロンは手にある果実を精霊の方に投げる。
この精霊曰くこうらしい。
精霊は人間と契約する、所謂取り付くことでそれは完成されるらしい。取り付くと武器に精霊を宿す精霊装備や精霊が扱う魔術を人間を通して強化し莫大な力を発生させる精霊魔術がある。
だが、今回問題になるのはロンが勇者であるということ。それと聖宝具を持っているということ。
聖宝具とは聖属性を宿し伝説上に存在するような武器のことをいい、神性を纏うこともその条件に当てはまる。
だがその絶大な力故に周りにも影響を及ぼす。
ロンが神性に呑み込まれているように、周りのつまり取り付いている精霊にも危険が及ぶのだ。
純粋な人間だったロンが半人半神に近い存在になった。聖宝具に宿る神性には体や人格までに変化を及ぼす。
その神性を取り込む影響で精霊も聖霊に成るという訳なのだが……この精霊曰く、聖霊はロクな死に方をしない、とのこと。
「でも、僕身につけてるものとかないんだけど……」
《何よアンタ、ダサい契約者なんて願い下げなんですけど〜》
何かアクセサリーを身につけている訳でもなく、聖槍以外に武器を身につけている訳では無い。神器もこの場合は違ってくるのだろう。
「それは慣れ親しんだものでなければいけないのかい?」
ヴィーザルが精霊に尋ねる。
《別にそういう訳じゃないけど〜、やっぱりそれがベストね。適当なものに宿るのもいいけど、それだとワタシの力を引き出すのに時間がかかるわ!》
「何日??」
《そうね〜、特別製でないなら、だいたい一年ってところかしら〜》
「特別製? それだと?」
《ワタシにゆかりのある物とかよ〜、ちょうどこの世界樹の一部とかだったらそれに成れそうね〜。それならだいたい三日くらいよ!》
「世界樹すげぇえ!」
ヴィーザルに目配せをする。
世界樹ユグドラシルは北欧のシンボルの一つに数えられる程の代物だ。それを採るのは流石に無許可ではできない。そして本来なら採ることも許されないが、目の前には北欧の主神の息子がいる。
「……仕方ない、少しだけなら問題ないだろ」
ヴィーザルは折れた。
もうどうなってもいい、いっそやけだ。
ヴィーザルは世界樹から蔦に葉に枝を世界樹から摂り指輪を造る。
枝を丸めて指輪にし葉と蔦をその指輪に纏わせる。
ヴィーザルにしては良いセンスの指輪だ。
「これなら入れそう?」
《ええ! それならイケるわ! あ! 右手に嵌めちゃダメよ、左手に嵌めなさい。見たところ右側だいたい汚染されてるじゃない! あ〜ヤダヤダこれだから聖宝具の使い手は嫌なのよ〜》
「まぁそう言わずに……あ、まだ名前教えてなかったな。ロンだ、お前は?」
《シルフィよ、カテゴライズするなら風精霊。よろしくね
何とか当初の目的である精霊との契約を結ぶことが出来た。
ヴィーザルの言う通りになったが、属性も風。聖槍が導いたのだから心配はいらないだろう。
「あ〜……ジジイになんて言おう……」
ヴィーザルはここまで大事になるとは思っておらず、ロンを世界樹へ連れてきたことを後悔している。
主神に無断で世界樹を採って装飾品を作ってしまうなど……。
そして三日が経ち、やる気に満ち溢れているロンと反比例しヴィーザルは疲れた顔をしている。
オーディンや兄弟達からユグドラシルでの出来事を色々と言われたのだろう。
ゲッソリしていたヴィーザルはロンに修行を付けるという面目で、サンドバッグ兼指導係という立場にたちロンを絞った。
正直精霊のくだりはいらないと思ったけど、槍オルタの宝具のことを考えると風のバフがどうしても欲しかった。
それに……25巻のヴィーザルの(人工〇〇ネタバレ)みたいに……ね!
これからシルフィのおかげで槍が見えなくなるぞ〜〜!!
次は神器だ!!先生だ!!