あの地獄のような修行から逃げるように北欧から極東へと逃げてきた。
ヴィーザルはあと十年修行を続行させる、みたいな事言ってたが爺さんからの鶴の一声でなんとか逃げることが出来た。
本当にありがとうございます爺さん、これから優しくします。
と、何故こんな極東へと出向いたのか……。
それは僕の神器の関係である。
槍術に関してはヴィーザルとの訓練という名の地獄でグンと上がった。今はヴィーザルの魔術でのバフ盛り完全体を5分なら耐えられるようになった……(白目。
こっちもシルフィの風を纏っているのに、なんであんなに余裕でくるんだよ。必殺技……じゃなかった、宝具でブッパしたのに余裕で僕のこと回し蹴りしてきたし。マジで神やべぇわ、マジやばくね。
ともあれそんな地獄から数年、爺さんの伝手に神器マニアがいて僕の神器を強くしてくれるのではないか? みたいな感じでアポをやっとの事で取ることができて、そのマニアがいる極東の日本にまで足を運んだ。
《ちょっと! ロン! ワタシ新鮮な果物がないと死ぬ病気なんだけど!! ワタシまだ北欧離れるの了承してないんだからね!!》
左手の人差し指に嵌められた世界樹の指輪から直接話しかけられる。
数年前からこの指輪に取り憑いた精霊シルフィである。
「仕方ないだろ、爺さんが行ってこいって言ったんだから」
《そんなの建前よ! ロン! ヴィーザルから逃げたくて来たんでしょ!! アンタがヴィーザルと仲良くしてくれないとドラゴンアップル食べられないんだけど!!》
ドラゴンアップルとは冥界に生え、それしか食べられないドラゴンが出来てしまう程の美味な果実。以前シルフィの契約の為にヴィーザルが番外悪魔のメフィストの女王であるタンニーンから取り寄せたもの。
月に数個しか分けて貰えないが、その味はこの世のものとは思えない美味さ(冥界産)。
「僕だって食べたいよ! でもそれでお忍びで食べたら半殺しにされたじゃないか!!」
《知らないわよ! ワタシ痛くないもん!!》
人の気も知らないで! そう思うが精霊だから知るわけないか……と諦める。
そうか、こいつ人間じゃないんだ。
ーーーーー
何やら色々あったが、空港の『産地直送』と書かれている果物コーナーからロンは選りすぐり選抜して購入しようとするが……。
「─────────」
「─────────」
「どうしよう言葉が通じないんだけど……英語はユニバーサル言語だから大丈夫って爺さん言ってたじゃんか!」
《流石に高位精霊であるワタシでも極東の島国の言葉までは知らないわよ〜! 果物食べたい〜!!!》
「うるさいよ! どうせ英語しかできないでしょ! 北欧からでたことないんだから!」
《な! 失礼な出来るわよ!》
「なら何がいけるんだよ?」
《……ド、ドイツ語……》
「例えば?」
《……だ、ダンケシェーン》
その「ありがとう」とか「こんにちは」みたいなド定番を持ってくるあたり底が浅い。北欧のちょっと下に行った所にあるドイツやスイスを持ってきてもたかが知れている。
そんはシルフィを鼻で笑い、日本人っぽいオバサンに何とかジェスチャーで伝えようとするロン。
おばさんはチップに指を指してバツマークを作る。
「ノーじゃぱにーずマネー」
「I got it」
おばさんのギリギリの英語を何とか理解する。
《え? 分かったの!》
「多分……知ってるシルフィ、ポンドって日本じゃ使えないみたいだよ」
《そうだったの!?》
そんなバカ丸出しの会話をしても笑われないのは英語のおかけだということにも気付いていなさそうなロン。
そして周りからは独り言をブツブツ呟く外国人という認識を受けている。
「おいおい! そんな調子じゃ俺の家になんざ一生たどり着かないぞ」
シルフィと言い合いをしていると、内容が分かったのか近くにいた男が声をかけてくる。日本には珍しくかなりの高身長なオジサンだ。
「というか英語だ!」
「ったく、ガキのお守りは一人で手一杯だっつーの」
ガキという単語にロンは反応した。
身長もあの神々と比べれば低い方に位置するし、なにせもっと小さかった時はロセから散々チビ扱いされた。
なのでロンにとってチビやガキという言葉はよろしくない。
「あ、あのねオジサン……どこの誰だか知らないけど。ガキ扱いは辞めてくれない──ってお守り?」
キレる寸前のところで止まり、オジサンの言葉が引っかかる。
「心配して来てみりゃ、通貨も知らないガキだなんてな……こんなのが勇者とは世も末だな」
爺さんから知らされていた人は堕天使という聖書の天使が堕天した存在の長、そして総督と呼ばれているのだと聞かされていたのに、まさか殆ど
「なんて言うか意外だね……もっと棘棘しいオーラだと思ったんだけど。思ったより人間っぽい」
「そりゃお前が囲まれてる北欧の神々からすれば俺なんざその程度の存在だ。比べる対象がデカすぎるんだよ」
「そっかやっぱりあそこは
「ヴァルハラだろ?」
遠い目をするロン。
その目はヴィーザルとの地獄の特訓(と称したサンドバッグ)を思い出す。やはりアレでも神様なんだよな〜。と思うロン。
「それじゃあ日本に着いた事だし、総督! ちゃっちゃと家に向かおう!」
ロンは神器をだ──
「馬鹿野郎! こんなとこで神器を使おうとしてんじゃねぇよ!!」
──すことはなく総督はロンを殴る。しかもかなりの強いヤツだ。
「いきなり何するんだよ総督!!」
「いきなり何するは俺のセリフだ! こんな人通りの多い場所でなんてことしやがる」
ロンにとってそういう常識と呼ぶものはない。
生まれてから実験の日々、北欧に来てからは神々と戦乙女に囲まれる日々。身につけているものも聖槍に神器に世界樹という、裏の世界で最上位の存在に囲まれる生活が普通であり常識である。
気まぐれにドゥンに跨って散歩したり、ハティやスコルに餌をあげたり。
そういった物がロンにとっての日常だ。
「は? 総督の家に行くんだろ!? だったら早く行った方がいいだろ?」
「ダメだこいつ」
総督は呆れ気味にロンをタクシーに放り込み、人間界のルール的に問題ない行動で……。
ーーーーー
北欧から日本まで爺さんの息のかかったプライベートジェットで約20時間、そして日本に着いてから総督にタクシーに放り込まれて約1時間、長旅からやっと解放され総督の家にあった来客用の果物を頬張る。
「ん〜☆日本のも意外とイケるかも!」
「お前人んちに入って初めにするのがそれかよ」
「総督! これ結構行けるよ」
《ちょ! ワタシにも食べさせなさいよ!!》
総督の言葉など二人は気にせず目の前の果物を食い漁る。
それは傍から見ればカラスのそれだ。
「ったくオーディンからの頼みじゃねぇと即効で追い返してんなこりゃ」
「ところで総督、なんで神器なんて調べてんの?」
「いきなり来るな、あと総督はやめろ。アザゼルでいい」
ロンの踏み込んだ質問にアザゼルはなんでもないように返す。てっきりロンはアザゼルには神器と深い関係があるのではないか、それこそ友を殺したら神器を探している。みたいな壮大な野望があるのかもしれない。そう思っていたが、返ってきたのは意外な答えだった。
「そりゃ趣味に決まってんだろ? あんな面白ぇモン中々ねぇよ」
「いや趣味か〜い」
本当に思っていたより軽い理由だった。
しかもそれが堕天使の総督だなんて、下が苦労人なのは確定したかもしれない。
「早速見せてくれよ、そこの精霊は神器とは関係ないんだろ? オーディンのジジイから聞いてるぜ、お前の神器のことは。あの騎士王が乗ってた馬らしいじゃねぇか! それも前例がないと来た!」
アザゼルの言葉でドゥンが前例のないものなのを初めて知った。
知識が知識なのでそこら辺のものは全てアザゼルから吸収しよう。
「だそうだ、お呼びだ…ドゥン!」
ロンはアザゼルの興味をひく【白亜の天翔馬】を出す。
幸いなことに神器は聖槍の神性の影響を受けていないようで、肉体的な変化は現れていない。
至って普通の白馬だ。
「これがあの騎士王の馬ねぇ〜、それに世にも珍しい神器の中で更に珍しい独立型ときた。こりゃ研究のしがいが──」
アザゼルがドゥンに手を伸ばそうとすると、ドゥンは嫌がったのかアザゼルを威嚇する。
「っておいロン! 警戒心剥き出しじゃねぇか! なんか解く方法とかないのか!?」
「いや、そう言われても……今まで何人か乗せたことあるけど、そんな反応初めてだし。あれじゃない? 悪人面だからとか!」
「てめぇなんてこと言いやがる! ったくこれじゃ詳しく調べられそうにねぇぞ」
ドゥンを触る時に色々とヤバそうな顔だったなんて言えないロンはオブラートに包むことで伝えたが、どうやら返って無駄になったらしい。
北欧の勇者は、ひょんなことから極東の堕天使の総督の元で厄介になることになった。
次回ヴァーリに会う。
そしてあと二、三話で原作inする