転生オリ主のテンプレ特盛ダイアリー    作:昨日辛雪

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オリ主日記(10) ver.1.2

1999年3月13日

 

 結局、リョウメンスクナノカミを連れて帰ることはできなかった。

 ただ、別れ際にスクナ様は餞別を残してくれたんだが……それも含めて俺の身に起こったことを検証したいという思いはある。だが、一先ずは後回しだ。

 

 先日、山中で行われた死闘の詳細はカリンからエヴァに報告されていたらしく、帰省する前に詠春さん達も交えて俺の生い立ちについて教えられた。

「本当は、お前が一人前になってから話す予定だったのだが……」

 少し歯切れが悪く切り出したエヴァの口調から悔しさが滲んでいるのが分かる。本来ならどのようなシチュエーションでエヴァは俺に真実を語ろうとしていたのか。潰えてしまった未来を思えば、あのゴルゴンゾーラとかいう俗物により怒りを掻き立てられた。

 

 内容としては転生者である俺にとって既知の事柄ではあったのだが、この場にいる誰もがそのことを知らない。

 ゴルゴンゾーラとの会話や普通に生活する上で知ることができる事とそれ以外の情報を、頭の中で整理しながら破綻のないようリアクションをとるのは大分疲れた。

 下手を打って前世の記憶を持っていることがバレたら一大事だからな。戦いとはまた別種の緊張を感じたよ。

 

 一部の権力者に大戦の黒幕・「完全なる世界」の首魁という濡れ衣を着せられ、民のために「災厄の魔女」の汚名を受け入れた母、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア。

 知識としては知っていたソレではあるが、母を知る人物から聞かされると、前世で漫画を読んだ時とは違った感じ方がする。

 詠春さんの口調や語感から隠し切れない憤りや悔恨の念が感じられる。その生々しい感情の吐露が、当時を生きた人の思いを俺に教えてくれた。

 

 エヴァを守れるような男になること。これが俺の第一目標であることは変わらない。ただ、母の汚名を雪ぐことも俺の人生における大きな命題として加わった。

 初めは何とか母を助けて、父と幸せな生活を送って欲しいとだけ思っていた。

 でもそれだけじゃダメなんだ。母の名誉を回復しないかぎり、大戦の後始末を母に任せることしかできなかった男達の無念は晴れない。

 「英雄の息子」としての役割をネギが担うのならば、「災禍の落とし子」である俺が負うべき責任とはなにか。今回の一件で方向性が少し見えた気がする。

 

「麻帆良の闇についても、少年に聞かせるべきではないかね」

 話に一段落ついたところで、神父が不意に口を挟んだ。

 エヴァだけじゃなく、明石さんや詠春さんも身を乗り出して反対している。

 チャチャゼロだけ楽しそうにしている点が引っ掛かるが、麻帆良の闇とは一体何だ?

「真実とは劇薬だ。その一端でも垣間見れば、人間は全てを求めずにはいられない。この少年は聡い。いずれ自身で麻帆良の抱える違和感に気づくだろう。その時、闇雲に動かれるよりこの場で話しておいた方が良い」

 

 麻帆良の闇? 

 二次創作によくある、認識阻害の結界を利用した一般人を盾にしているというやつなのか? そうだとは思いたくないが……。

「五歳の子供に聞かせる内容ではないと私は思うのですが――」

 神父の言葉にどこか納得した様子のエヴァとは異なり、なおも食い下がる詠春さんを

「それは先ほどの話も同じこと、ならば重要なのは少年がどう思うかでしかあるまい」

と神父が切って捨てる。押し黙る詠春さんから視線を外し、神父は俺と目を合わせて問う。

「知りたいかね」

と。

 俺はすかさず頷いた。

 説明役を買って出た明石さんを遮り、神父は言う。

「君達では話しづらかろう。ここは私にまかせたまえ」

 彼の口から語られたのは、俺の予想とは全く異なるものだった。

 

1999年3月14日

 

 ノックをして学園長室に入る。あの日、神父から聞かされた「麻帆良の闇」について……。

 昨日日記に綴ったことで、自分の中である程度考えを纏めることができた。

 だが、腑に落ちない点もいくつかある。それを明らかにするために爺さんにアポをとっておいたのだ。

 

「麻帆良が関西呪術協会を使ってMM元老院から送りこまれた間諜を消しているというのは本当か?」

 爺さんは普段は長く伸ばされた眉に隠された瞳、権力者達の欲望渦巻く伏魔殿を渡り歩いてきた者の瞳を見せ、肯定した。

 麻帆良学園都市はMM元老院の下部組織に位置しているが、地球(旧世界)にあることから自治が認められており、詠春さん曰く爺さんが学園長になってからは独立の気風が強いという。

 また、俺やエヴァの件然りMM元老院の思惑を無視して動くことも少なくない。当然ながらMM元老院の中には麻帆良に不審を抱くもの達がいる。

 

 彼等は定期的に間諜(スパイ)を麻帆良に放ち探りをいれてくる。麻帆良が用意した見せ札の情報を持ち帰る分には構わない。

 しかし、極秘指定の機密を知られた場合、関西呪術協会による麻帆良襲撃が起こり不幸な事故として間諜は処理される。

 麻帆良はその見返りとして、地球では手に入らない魔法世界由来の呪術媒体を提供している……。

 今回、俺達が京都に向かった裏の目的がコレだ。あの神父が関西呪術協会から派遣された暗殺者で、見返りが俺を囮にした造反組の粛清だったらしい。

 余談だが、天ヶ崎千草はエヴァに襲い掛かり、あっけなく氷漬けにされ独房送りになったとか。六巻内容終わったな。

 

 それにしても、二次創作ではお約束の関西呪術協会からの襲撃が出来レースだったとはな。

 不謹慎とは自覚しつつも、麻帆良に侵入した格上の術者と遭遇、死闘の末に覚醒して勝利という展開に憧れがあっただけに複雑な気分だ。

 

 この話を聞いて疑問に思ったのが、外部から暗殺者を雇ってはいけなかったのかということと、間諜の殉職理由が毎回関西呪術協会からの襲撃では怪しまれないのかということ。

 事実の確認は終わった。いよいよ本題に入らせてもらおう。

 

「実は前に一度、魔法使い専門の暗殺者に依頼したことはあったのじゃ。しかしの……」

 苦虫を嚙み潰したような顔をしているな。失敗でもしたのか?

「実行手段がの。ゲートがあるイギリスへの移動中に、間諜が乗った旅客機ごと爆破するというものだったんじゃ。無関係な命を巻き込んでしまったわい」

 爺さんが頭を抱えている。なるほど、この一件がトラウマとなり外部への依頼は控えているのか。

 旅客機ごと爆破……確かに、ターゲットを分からなくして麻帆良に疑いを向けずに間諜を始末するには有効な手立てだが、いくらなんでも犠牲が大きすぎる。

 しかし、まだ分からないな。暗殺に関西呪術協会を使う理由は何だ? 自分の古巣というだけではないはずだ。

 

「うむ、それはのMM元老院(うえ)の連中にとって、関西呪術協会が麻帆良を襲撃することは当たり前のようなものなんじゃよ」

 爺さんの話をまとめるとこうだ。

 大戦の前までは関西呪術協会と麻帆良は戦争状態にあり、関西呪術協会が攻め寄せた際には、双方共に多くの死傷者を出していたらしい。

 当時の関西呪術協会が麻帆良を攻撃の標的とした理由。それはズバリ麻帆良の地下にある魔法世界へと繋がるゲートの破壊だ。

 大戦によって魔法世界の都市オスティアが崩壊したことで、現在では閉鎖されているゲートの存在。それが魔法世界人の侵攻から日本を守ることを使命としていた関西呪術協会には許せなかった。

 その時期の関西呪術協会首脳部が太平洋戦争を経験していたメンバーであったことも、攻勢を激しくさせた一因となったのであろう。

 MM元老院達にはこの時のイメージが強烈に刻まれている。だから、爺さんが上げた「神木・蟠桃」を奪取するために関西呪術協会が定期的に襲撃してくるという、偽の報告で殉職者が出ても違和感を持つことはないのだという。

 

「ハルカ君、儂を軽蔑したかの?」

 部屋を出る間際に、爺さんから声をかけられた。いつもの飄々とした声音とは違った、弱弱しさを感じるトーンだ。

 確かに、現代日本の倫理感からすれば、どの様な理由があれど人の命を奪うことは許されない行為だろう。

 しかし、俺を取り巻く世界は「魔法」という常識では語れないもので構成されており、爺さんの決断があったからこそ、今の俺の暮らしがある。そう考えると、不思議と嫌悪感は湧いてこない。

 それに、俺はもう好々爺としての爺さんとそれなりに関係を築いてきたからな、今更冷酷な人間と見る事はできない。

 

 あの神父にしたってそうだ。彼は今回、麻帆良に送りこまれた間諜を殺したが、俺と京都で過ごした時は決して非道なだけの男ではなかった。

 麻帆良の闇のことで俺を気にかけてくれた理由を問うた時に、彼はこう答えた。

「私はこれでも君の父親には感謝していてね。あの男がいたからこそ、破綻者は破綻者なりに家庭を持って暮らしていられる。今回はその借りを返したに過ぎない」

 破綻者の意味するところは分からないが、筋は通そうとする人物であったし、奥さんのクラウディアさん? だっけか。時折、電話越しで彼女や娘さんと話している姿は、どこにでもいる父親のようにも見えた。

 

 総じて俺は仲良くなった人や身内に甘いのかもしれないな。甘さと優しさは違う。使い古された言葉だが、俺は案外甘さも悪くないものだと思っている。

 なんせ、元六百万$の賞金首を幸せにしようっていうんだ、そのくらいの甘さは必要だろう。

「軽蔑なんてしないさ。自分の生まれを知った今だからこそわかる、爺さんが俺を守るために色んな苦労をしてきてくれたんだって。だから、軽蔑なんてしない。俺、さ。まだまだ、エヴァに囲碁で全然かなわないんだ。だから、また教えにきてくれよ」

 そう言い残して閉めた扉越し、僅かに嗚咽が聞こえてきたのに気付かないフリをして、俺はその場から立ち去った。

 

1999年4月5日

 

 今日は入学式。憂鬱な二度目の小学生ライフが幕を開ける。

 保護者席には雪姫状態のエヴァとカリン。そして七尾セプ子が座っているのが見える。そう七尾セプ子である。セプ子。七尾・セプト・七重楼と名乗った青年は、麻帆良に着いたら、性別が女に変わっていた。

 つまりどういうことだってばよ? と疑問符を浮かべる俺にエヴァは、光の精霊である七尾・セプト・七重楼には元来決まった性別がなく、男女どちらにもなれるのだと教えてくれた。今では慣れたが最初見た時は、開いた口が塞がらなかったよ。

 エヴァはどうやら原作の舞台となった麻帆良学園女子中等部で教鞭をとるらしく、そっちの入学式はまた別の日だ。

 

 式の最中はこれから同級生となる子供達が足を揺らしたり、明後日の方向を向いたりと落ち着きがなかったな。姿勢を正している俺の方がむしろ浮いていた。

 それに、初等部では男女共学みたいだ。

 今は最初のホームルームの最中で、担任の明石先生がこれから学校生活を送る上での注意点などを話しているのだが、どいつもこいつも碌に聞いちゃいない。

 こいつらを見ていると、ガキの頃の自分もこうだったのかなと思い、妙に気恥ずかしくなる。コナン君はよくこんな環境に耐えられるな。

 

「みなさんが一日でも早く、この学校で楽しく生活できるよう。一年間、五年生のお兄さんお姉さんがペアになって色々なことを教えてくれます」

 そういや、あったな上級生とのペア制度。精神年齢は俺のが上だから正直面倒なだけなんだが……ん? そういや五年生って言ったよな。普通は六年生がやるもんじゃないのか?

「それでは、これから五年生のお兄さんお姉さんが入ってきてくれるから、みんな元気に挨拶できるかな?」

 少し考え事をしていた俺は突然の

「はーい!」

の大合唱にビクッとなってしまった。教室のドアが開き、子供達が続々と入ってくる。そのうちの一人、長い黒髪をした成長したら和風美人になりそうな女の子が俺の前にやって来た。

「ウチは近衛木乃香いうんよ。ハルカ君の話はおじいちゃんからよく聞かされとるよ。これからよろしくな~」

「こちらこそ、よろしく」

 彼女が差し出した手を握り返しながら答える。ここで、原作キャラとエンカウントするとは。

「でも不思議やね」

 不思議とは、何が?

「去年までは一年生とペアになるんは、六年生やってんけど。今年から急にウチらの学年になったんよ」

 それはいったい何故?

「なんや六年生は中等部へ進学するから、勉強する時間を確保させてほしいいう署名がおじいちゃんに届いたらしいえ」

 なるほど、理解したわ。俺の入学が早まった本当の理由はこっちか。

 




 ちょっとしたクロス要素として登場させた神父が、書き手の意思を無視して本編に絡んできて変な笑いがおきました。

修正箇所
ver.1.2:一年の面倒を見るペアが六年から五年になった理由を追記

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