拙い作品ですが、読んでくれる人がいると知ることができ、励みなっております。
改めて、原作「魔法先生ネギま! 」という魅力的な作品と、出会えたことに感謝を。
1996年7月13日
「多重影分身の術」を見せてから、エヴァの態度が少しおかしい。
今までは完全に保護者の顔だったんだけど、時々、獲物を狩る肉食獣みたいな目で俺をみている。
そういえば、ボディタッチも増えたような…… エヴァは不意に近づいてきては、俺の頬をつついたり、ほっぺたをムニムニといじくりまわしたりして、
「フフッ、かわいいものじゃないか」
なんて、意味ありげな笑みを残して去っていく。
嬉しそうなんで、基本的に俺はなされるがままでいる。さすがに顔で遊ばれるのは不本意なので、ジト目で抗議するのだけれど、逆に喜ばれて終わるんだよな。
しまいには、
「やはり、この反応…… フハハハハ! そうか、そうか。ハルカ、お前はニクイ男だな」
とか言って、笑いだす始末。何がそんなに楽しいのか、俺にはサッパリだ。
ひょっとして、逆光源氏計画が本当に始動したのか?
1996年8月3日
ベビィベッドを卒業してから、個別の寝室をもらったのだけれど、エヴァに一度抱き枕にされてからは、彼女の寝室で一緒のベッドで寝るのが常態化している。
エヴァが言うには、
「ハルカ、お前今日からここで寝ろ。お前の暖かさが、快眠には最適だ」
らしい。
確かに、子供の体温は高いという。それでも、冬はともかく、夏にクーラー効かせてまで俺を抱き枕にする意味を問うのは野暮であろうか?
まぁ、俺としては役得でしかないんだが。ただし、寝ぼけて甘噛みしてくるのだけはやめて欲しい。
エヴァの考えはともかく、俺としても、この部屋で眠るのは都合が良い。イヤらしい意味ではなく、理由はこの部屋の位置にある。
エヴァと同じベッドを使うようになって気付いたのだが、月末毎に近右衛門がエヴァを訪ねてくる。爺さんはそこで、俺の育児にかかりきりでログハウスを離れられないエヴァのために、現在の魔法世界の情勢や、ネギの近況などの情報をエヴァに提供していた。
俺に気をつかってか、必ず俺が眠った後の時間帯にやってくる爺さんをエヴァが出迎えるのは、決まって茶室だ。
そして、この茶室、間取り的にエヴァの寝室のすぐ隣にある。ただ寝たふりをして、魔法で聴覚を強化していれば、特別なことをせずとも、自然と二人の会話が漏れ聞こえてくるのだ。
盗み聞き、それが褒められた行為ではないと、自覚はしている。
だが、俺が生まれた時点で、この世界と「魔法先生ネギま!」の乖離が起き始めている。原作知識に引きずられて判断を誤らないためにも、少しでも情報が必要なのだ。そこは大目に見て欲しい。
二人のツメが甘いと思うかもしれないが、ログハウスにはエヴァが直々に結界を張ってある。外敵への備えこそしても、茶室に防音の魔法さえかけていれば、身内の幼児相手に警戒も何もないのだろう。
1997年3月28日
麻帆良に来てから三度目の春が来た。俺はまだ何もしていないのに、原作が勝手にブレイクしていく。
といっても、悪い方にではなく良い方にだ。だから、問題はない…… ないのだが…… 転生者が原作知識を活かして悲劇を回避という、生前よく見た方程式が完全に成り立たなくなってきている。
原作との間で生じた差異は、俺の目下最大の懸念事項であった、故郷の村についてだ。そこは本来の歴史なら、昨年の冬、魔族の襲撃を受け壊滅してしまうはずだった。
しかし、この世界では村は無事。住民も平穏にすごしている。
近右衛門とエヴァの会話を盗み聞きして得た情報だ。まず間違いないだろう。それを知った時は、本当に嬉しかった。
未来を知る転生者だからこそ、勝手に背負いこんでいた重荷。それをまず一つ下ろすことが出来た。
二人のやり取りから、原作ブレイクが起きた原因についておおよその予測はついた。俺が思うに、村が惨劇を回避した要因は、大きく二つある。
一つ目は、ネギの不在だ。
ネギは原作でピンチに陥れば英雄である父が助けに来てくれると考え、自ら犬に追い回されたり、湖に落ちたりして危機を演出していた。
従姉のネカネが自分を心配して流す涙を見て、ネギは考えを改める。これが原作の流れなのだが、ネギの無謀な行動に、この世界の村民は過剰に反応した。
どうやら、俺の存在はスタン老以外には、父と母と一緒に死亡したと知らされていたようで、残されたネギだけは何としても守る。その強迫観念にも似た強い意識が、彼らを突き動かした。
結果として、ネギが懐いているネカネが在学し、常時監視の目があるメルディアナ魔法学校に特例として押し込めてしまおうという判断に至ったらしい。
現在、ネギは魔法学校で早くも頭角を現しているようだ。やはり、原作主人公は伊達じゃない。
余談だが、近右衛門が友人であるメルディアナ魔法学校の校長から聞いたネギの天才エピソードを話すたび、エヴァが、
「フンッ! それがどうした、私のハルカはなぁ」
と張り合うのが、少しおかしかった。
嬉しいような、こそばゆいような…… エヴァは意外と親バカなのかもしれない。
二つ目は、近右衛門の情報操作だ。
原作でネギの村、つまりは俺の故郷を魔族に襲撃させた黒幕がいるのがMM元老院。魔法世界最大の超巨大魔法都市国家、メガロメセンブリアの最高機関だ。麻帆良学園はその下部組織にあたる。
麻帆良学園の学園長である近右衛門は、旧世界(地球のことを、魔法世界の住人はそう呼ぶ)の情報を魔法世界に報告するのも役割の一つだ。
あの爺さんはその立場を利用して、上手い事MM元老院を振り回している。原作でも喰えないジジイの印象があったが、そんな生易しいもんじゃない。あれは、海千山千の老獪だ。
まさか、嘘一つつかずに、情報を「いつ」「誰に」「どこまで開示するか」を工夫するだけで、世界をここまで思い通りに動かすとは……
近右衛門は父の死が公式発表されると同時に、エヴァの復活を魔法世界に公表。さらに、MM元老院の印象を操作して「英雄の息子」としての側面をネギに、「災厄の魔女の息子」としての側面を俺に集約させた。
そこで、母を陥れた一部の連中にだけ、俺がエヴァと行動を共にしていると報告を上げる。ご丁寧に写真付きでだ。
するとどうだ。ヤツらの中で、ネギは「いつか使える駒」に、俺は「パンドラの箱」に早変わり。連中の目は俺に釘付けだ。権力で汚れたオッサンの熱い視線とかノーサンキューなんだがな。
「災厄の魔女の息子」を恐れる一派にとって、俺は存在すら知られてはいけない存在だ。母の真実が公になれば、メガロメセンブリアの歴史は文字通り引っ繰り返るだろう。なんせ、母一人に大戦の責任を押し付けて、今も権勢を保っているのだから。
そんな危険因子が、復活した六百万$の賞金首と一緒にいる。もし、エヴァを狙う賞金稼ぎが俺を目撃したらどうなるか…… 連中は俺の容姿が母そっくりだと確認しているのだ。さぞ、肝を冷やしただろう。
エヴァの手配書は即刻棄却された。ヤツ等は自らの保身のために、エヴァを危険視する声を抑えなければならない。心ならずも、エヴァを擁護する立場に追いやられたのだ。
手っ取り早いのが俺を始末することだが、肝心の俺は、そのエヴァに守られていて手出しができない。
連中は八方塞がりで、俺のことを「災禍の落とし子」と呼び、忌み嫌っているとか。だから俺、まだ何もしてないっての……
奴等にとってのアキレス腱である俺の情報を、迅速かつ内密に伝達したことで、近右衛門の評価はウナギ登りらしい。
それでいて、何食わぬ顔で俺とエヴァを麻帆良で庇護しているんだから、大した役者だよ、ホント。
俺にとっては、囲碁を教えてくれる気の好い爺さんなんだけどな、あの人。エヴァの趣味に付き合うために教わりはじめたんだけど、現職の学園長だけあって、教えるのがメチャクチャ上手い。
最近ではエヴァと対局する時の、置き石もだいぶ減ってきた。
しかしなんだ。役割が避雷針の転生者とは一体…… それにしたってエヴァのネームバリューありきだし。早く守られるだけじゃなく、
「エヴァは俺が守る」
って、言える男になりたいなぁ。
1997年5月9日
四歳になり、体術の訓練を始めることになった。「多重影分身の術」を用いたインチキ訓練は、さらにエヴァの別荘を利用することで、修行効率を大きく上げることができる。
エヴァのログハウスには地下室があり、そこには透明な球体で覆われた塔のジオラマがある。これこそが実はエヴァの別荘で、内部には魔力に満ちた広大な空間が広がっている。
それだけでも十分破格の性能なのだが、その真骨頂は別荘の中と外で時間の流れが違っている点だ。中での一日が外での一時間に相当する。言うなれば「DRAGON BALL」の「精神と時の部屋」だ。
もちろん、別荘の中で過ごした時間の分だけ歳はとるし、一度入ったら二十四時間出られないというデメリットはあるが、通常の何倍も修行の時間をとれるメリットはあまりにも大きい。
さらに俺の場合、本体は別荘の外にいて分身体を中で修行させることもできるため、デメリットなど無いに等しいのだ。「NARUTO」と「DRAGON BALL」の修行法が合わさり最強に見える。
原作の描写的にこの別荘には拡張性があり、別のジオラマを用意することで、極寒の雪山や、亜熱帯ジャングルといった様々な修行環境を作り出すことができる。
ゆくゆくは、エヴァから別荘の一角を貸してもらって、そこの環境を、地球の十倍の重力、空気の薄さは地上の四分の一で、気温が五十度からマイナス四十度まで変化する、真っ白な何もない空間に設定して修行したいと考えている。
1997年5月18日
今、俺はエヴァの別荘で体術を習うための、基礎となる体作りに励んでいる。こればかりは影分身は使えない。どんなにすごい技を覚えても、使い手が貧弱では意味をなさない。
技術や知識の習熟には便利だが、影分身に筋トレさせたところで、本体の俺がパンプアップされる訳ではないのだ。
エヴァの別荘を利用するようになってから、無精髭と眼鏡が渋いナイスガイ、タカミチ・T・高畑と交流を持つようになった。どうやらネギだけでなく俺も友人として扱ってくれるらしく、今では「タカミチ」とファーストネームで呼んでいる。
彼は普段は麻帆良学園で教師をしているが、作中きっての実力者だ。エヴァとは同級生として親交があったらしく、時々修行に訪れている。
イギリスに住む俺と同い年位の魔法使いの友人の話を、タカミチはよくしてくれる。どう考えてもネギのことだろう。家族だと明かすことはできないが、せめて何らかの形で情報を伝えようとする、タカミチなりの優しさなのだろう。
でも、エヴァがいるところで、ネギの話題をだすと、
「フッフッフ。タカミチ、貴様は知らんだろうが、私のハルカは既に咸卦法をモノにしているぞ」
「なんだって! それは本当かい!?」
エヴァが対抗心剥き出しで、突っかかるんだよなぁ。しかし、爺さんの時も思ったが、「私の」ってのが、俺の名前の枕詞みたいになってきたな。
1997年6月5日
今日はタカミチに居合拳を見せてもらう約束をしている。居合拳とは、ポケットを鞘代わりにした拳の居合抜きで、目にも止まらぬ速さでパンチをくりだし、不可視の拳圧で相手を射抜く技だ。
ポケットに手を突っ込んでいるだけで周囲の敵対者が次々と倒れていく様は、スタイリッシュで厨二心をくすぐられたものだ。
さらに、咸卦法を使うと、一撃の威力が大砲の着弾を思わせる豪殺居合拳となり、原作での描写がメチャクチャ好きだった。
生前憧れていた技が今、目の前で披露されている。これに興奮しない男はいないだろう。
ヤバイ、スゴイ、カッコイイなどと語彙力が退化する勢いで、歳がいもなく…… いや、歳相応にはしゃいでしまった。
「そうかい? そんなに喜んでくれるなんて思わなかったな。僕なんて、君のお―― あっ、いや、僕の師匠に比べたらまだまださ」
タカミチは照れ臭そうに頬をかいている。というか今、ちょっと口が滑りかけてたぞ。大丈夫か?
「ほう、面白いことをやっているじゃないか。ハルカ、ちょうどいい機会だ。お前に最強無敵の魔法使いの実力を見せてやろう」
何か、周囲の気温が2度位下がった気がする。おや? エヴァの様子が…… ひょっとしてアレか。俺がタカミチばかり褒めるから嫉妬しているのか?
ここは、
「えっ、本当!? 見たい! 見たい! 」
と、流れに乗っておくのが、吉だろう。
「私は素直な子が好きだぞ、ハルカ。いいか、私の圧倒的な力を、しかと目に焼き付けておくんだぞ!」
そうして、エヴァはノリノリで「凍る世界」みたい大呪文をポンポン披露してくれる。俺は持てる語彙力の全てを駆使して、全力全開でエヴァを褒めちぎった。
いやしかし、魔法の冴えもさることながら、俺の声援に気をよくしたのか、ハミングをしながら呪文を唱えるエヴァも可愛かったな。
タカミチは、なんか「温かい目」をしていた、ドラ○もんかよ。
ネギまを読み返して、作中の時間が西暦で進行しており、また、イベントによっては、大まかな日取りも分かるため、日付の書き方を変更しました。
また、エヴァをヒロインにする以上は、やはり、「UQ HOLDER!」も読まねばと思い、先日単行本を大人買いしました。
固有能力というロマン溢れる設定や、何処までオリ主をインフレさせても倒す相手に困らない安心感など、二次創作の幅が広がったと共に、やはり、私は赤松健先生の世界観が好きなのだと感じました。
あの世界に繋がらないからこそ、できることを、拙作で色々やっていこうと思うので、今後は「UQ HOLDER」のネタバレや近衛刀太の活躍をオリ主が代行する展開もあると思います。(次元の狭間のアレコレとか)
また、それに伴い、前話を一部、改訂しました。