捏造過多なので細目で読んでほしい。
それが変質したのはいつなのか、また何が原因だったかは誰も見ていないため分からない。きっと変質したその者自身も分かりはしないだろう。いや忘れてしまったというべきか。
死霊跋扈する谷に佇む怪物のうち一つ喪失骸将のさらにまた一つにある不可逆の変化が生じていた。
その変化した個体に世界が名づけし名は“綺憶喪失(ロストメモリー)”。その変化は外面よりもむしろ内面に特徴があった。
喪失骸将というモンスターは複数体いる。しかしそれらの元、いや「型」というべきか、そんな存在はたった一人の今からはるか昔の悲劇の将軍であった。
悪姫によって最愛の妻と別離れさせられ首も悪姫に奪われた。そして彼は知る由も無いことだが妻も復讐から怪物と成り果てた。
その悲劇の二人から生まれた怪物が綴り手(プレイヤー)によって出会い悪姫から首を取り戻し結ばれ武器も融け合う、そんな話しもある…が“綺憶喪失”には喪われた可能性だ。何故ならそれには怪物となっても残っていた将軍の思いはもはや無い。それに残るのはただ世界への復讐の思いのみ。
首も根幹の哀すら亡くした屑鉄はただ独り谷を彷徨う。
─周りの死体どもがいつに無く騒がしい。将は首は無くとも周りを見渡す。先ほど入ってきた数人の生者の気配は既に無く。どうやら倒されたか逃げたかどちらかのようだ。
そしてそやつらがいた所に黒い死の塊が現れようとしていた。どうやらそれがこの騒ぎの原因のようだ。
死体どもはそいつを異物として襲いかかってはいるが効果はないようでただ無惨になぎ払われ動かなくなっていった。
そいつらを押しのけてその黒き者はこちらに向かってきた。瞬間二つの怪物は相見えた。例え片方には首がなく、もう片方に眼は見えずとも。
そして将はその女の姿をした黒き死を…一刀に斬り伏せた。将の持つ斬るに特化した錆びた剣は本来の喪失骸将であれば死体どもと同じく届くことは無いはずだった。
しかし“綺憶喪失”はその生者を安らかに死へと誘う形をした剣を自らの根幹、心を殺す事と引き替えに死すらも死に誘ったのだ。
黒き女が将に手を伸ばす。その意図は最後の殺意かそれともそれ以外の想いか。そしてそれに将が応える事はなく…女は煙のごとく消えていった。
将は振り返らず次の復讐、もはや何故しなくてはならないかすら忘れたそれを果たすために歩き出した。黒き死の塊に対して思い出す事は亡い。しかし斬り殺したその瞬間微かに無くなったはずの頭、もしくは魂によぎったのは。
楽にしてやらねばという復讐とは真逆の何かだった。