アライさんマンション・二次創作   作:たつおか

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参加型企画による個人別のSSとなります。

本SSは『ドルマン(ID:39556)』さんのキャラクターである、
『 ティラノ・ティラン 』の設定を元に執筆させて戴きました。

『5月バザール参加者』https://syosetu.org/novel/216576/14.html
と併せてお読みになると、より楽しめると思います。




【 5月のバザール・テティ 】

  

 

 飲食の販売ということで2スペースを借り受けることが出来た。

 さらに店から冷蔵機能付きのショーケースも二台持ち込むと、ティラノ・ティランはそこへ珠玉の作品たちを並べていく。

 

 かくして彩鮮やかな自作スイーツが並べられた宝石店さながらのショーケースを見やり、

 

「やれることはやった……あとは仕上げを御覧じろ、だな」

 

 小さく鼻を鳴らし、テティはバザールの開催を待つ。

 

 初参加となる今回、テティは自店の宣伝も目論んだ出店を果たしていた。

 マンションの一角において営業しているテティのスイーツ店は、それなりの常連はついたものの盛況というにはまだ物足りなさを感じるところがあった。

 

 テティにとっての経営とは、新規ベンチャーの夢物語などではない。

 家族の住むマンション外の実家へ仕送りもまたしなければならないテティにとっては、退路無き戦いなのである。

 

 そうした切迫した理由からも、新規の顧客獲得を画策した今日のバザールは、今後のテティの進退を見極める重要な一戦とも言えた。

 

「ここでダメだったら、私にもう行く場所は無い……踏ん張りどころだな」

 

 感慨深げにショーケースを見つめていると、突如として会場に起こった拍手の轟音にテティは両肩を跳ね上がらせる。

 波となったそれが出店者達に伝播して押し寄せてくる様に、これがバザール開催の合図であることをテティも悟る。

 

 自身も合わせて大きく手の平を打ち鳴らすと、やがてはショーケースの反対側へと回り込んだ。

 

 しばししてケース越しに覗き込む通路の先に、まばらに一般参加の客達が現れ始める。

 先頭に居たのは何の種類かウサギを思わせるフレンズの二人組だった。

 

──肉食じゃないな……ならば、果実のスイーツは有効なはずだ!

 

 客層を見定め、彼女達がスペースの前へ通りがかるのを待つ。

 そし自分のテリトリーへ足を踏み入れた瞬間、

 

「──いらっしゃいませぇ! 美味しいスイーツなどはいかがですかぁ?」

 

 可能な限りの笑顔と、そして声の明るさを保ちながらテティは彼女達へと語り掛けた。

 その声掛けに気付き、何気なく振り向いた彼女達ではあったが──眼前にテティを見上げると、その顔は見る間に蒼ざめていった。

 

『き、きゃあー!』

『た、食べないでー!』

「あ、いや、違っ、そんなつもりは……!」

 

 過剰なほどの反応は、なにも彼女達が草食のフレンズだからというだけではない。それにはこのテティの見た目の方こそが大きく起因している。

 身長270センチ超の怪異とも見紛わん筋肉の塊に突如として呼び止められれば、臆病なフレンズなどはたちどころに射竦められてしまうことだろう。

 

 初手からしくじった──テティ自身には落ち度が無いこととは言え、出鼻をくじかれたスタートに暗澹たる思いとなったその時、

 

『あ………お、お菓子屋さん?』

 

 フレンズの一人が、ショーケースに並ぶスイーツの存在に気付いた。

 

『ほ、本当だ……すごくキレイ……』

 

 釣られてその友人と思しきフレンズもまた視線を下げると、ほどなくして二人は先の恐怖も忘れてショーケースに並ぶ商品にくぎ付けとなった。

 

『あの……これ、売り物なんですか?』

「え──……あ、はいはい! そうです! よろしかったらおひとついかがですか? マンション内に実る奇跡の果実・エリクサーを材料に仕上げましたスイーツの数々です!」

『えっと……じゃあ、この『果実のミニパイ』を二つください』

「あ……ありがとうございます! お持ち帰りですか? それとも歩きながら食べますかッ? 店の脇のスペースに濡れティッシュとゴミ箱も用意しているので、どうぞそこで食べていってください!」

 

 恙なく料金を受け取り、かくしてバザール最初の商売が成立した。

 

──やった……売れた! どうにか二つ売れたぞ!

 

 穏やかな笑顔で見送るその内面で、声を大きくしては達成感に浸るテティ。……もはや『新規顧客の確保』や『売上重視』といった当初の目的は、大幅に下降修正されてしまっている。

 しかしながら、これは始まりに過ぎなかったのだ。

 

 この後、テティにとって人生の──否、運命の転機ともいえる数時間が始まる。

 

『ん? んんッ!? なにこれ!? 美味しい! こんなの食べたことない!』

『すごい! すごいよ、コレ―!』

 

 今しがた購入したフレンズ達は、店舗脇の喫食スペースにおいてミニパイを頬張るなり感嘆の声を上げた。

 以降は二人、おしゃべりも忘れて瞬く間にパイを平らげると、手に付いたクリームやシロップの類まで名残惜し気に舐め取る。

 

『ねぇ、他のも見てみようよッ?』

『うん! もっと美味しそうなのもあったよ!』

 

 鼻息も荒く頷き合うと、二人は再びショーケースの前へと戻ってくる。

 

「あ、いらっしゃいま……──」

『ねぇ見てコレ! このコンポートって言うのもすごく美味しそう!』

『黄金果実のタルトもすごいよ? でも一人じゃ食べきれないかも……』

『それじゃあ、二人で食べればいいよ! これ買ってすぐに帰ろう?』

 

 もはやショーケースの商品に夢中になるがあまり接客するテティすら目に入らない様子で、二人は菓子の見定めに躍起になっている。先刻までのテティに怯えていた様が嘘のようだ。

 

 やがてケースの中にある全ての商品を買い求めると、二人は足早に去っていった。

 さながら嵐が過ぎ去ったかのような心持で茫然とそれを見送るテティにしかし、

 

「あの、すいません。私にも果実のミニパイと、そこにアイスも付けてください」

 

 次なる掛け声に気付いて振り向けば、今度はヒトの客の姿──そしていつの間にかテティのショーケースの前には、溢れんばかりの客達が押し合いへし合いしながら、菓子の品定めをしているのだった。

 

 それからの数時間をテティはまるで記憶に無い。

 

 ただひたすらに商売をした。

 食べ歩きの客にはミニパイをパラフィン紙で包んで渡し、アイスをコーンやカップに盛りつけ、ついには客側のリクエストから5号サイズで売っていたはずのタルトでさえ7等分に切り分けて販売した。

 

「ミニパイ6個、お持ち帰りのお客様―! お待たせしました! 続いてアイスのお客様はどちらですか!?」

「その前にタルト頼んでるんだけどまだー?」

『ここって本店とかって無いんですか?』

「あ、すいません! タルト、出来てます! 5月〇日までの賞味期限となっております! シールを貼っておきますのでご確認ください! ──はい、本店はマンション4階でも営業しております! ご案内のパンフレットも用意してあるのでそちらもどうぞ!」

 

 かくして数時間後、我に返った時──

 

「はぁはぁ………………──ゆ、夢?」

 

 全てを売りつくし、ようやく客の波が引いたカウンターで息を切らせながら、その一瞬であり永遠であった時間を茫然とテティは振り返るのであった。

 

「出店って、こういうものなのか……賑わっているとは思ってたけど」

 

 ようやく疲労の一つも感じると、それに伴う体の重さにテティは心地良い労働の実感を得ていた。

 しばしして、あとは店を畳んでバザールを見て回ろうと立ち上がりかけたその時──

 

「──すいません。ここの商品についてお話を伺いたいのですが」

 

 突然の声に視線を上げれば、そこにはヒトの男性と小柄のフレンズが一匹。

 ヒトは中肉中背の30代に見えた。緩く波立ったライトブラウンの髪と青い瞳からは欧米人の印象を思わせる。眉間にやや険を籠らせた硬い表情ではあるが、そこに冷酷さや他人を見下す底意地の悪さなどは伺えない。

 きっと真面目なのだろう──と思うとむしろ、その不器用さにテティは好感すら覚えるようだった。

 

 一方でフレンズはというと、

 

『ハハハ! いー匂い! 菓子か? もう無いの?』

 

 こちらはオオカワウソのようだ。このマンションに居を構えてからというもの、むしろ彼女を見かけない日は無い。

 複製機なる機械で自身を増殖させるオオカワウソ達は常に3人で1つのチームを組み、恐ろしいほど能動的に動く。それこそ己の命もいとわぬ勇敢さ──時には無謀さで。

 

 しかしながら目の前にいる個体に、そんな危うさは見受けられなかった。

 感情の強弱を笑い声に乗せるエキセントリックさはオオカワウソのものではあるのだが、彼女の方はだいぶ情緒が落ち着いているように思えた。

 

「ハハーッ!?」

 

 と思ってた矢先、盛大に彼女はゴミ箱に頭をつっこんで大回転する。甘い香りに誘われてそこを漁るうちにつんのめって転んだのだ。

 

「気のせいだったかな……?」

「よろしいでしょうか?」

 

 男が居たことに気付いてテティは振り返る。

 

「ケビンといいます。あー……」

「ティラノ・ティランです。テティと呼んでください。それで、ご用件というのは?」

「そう、テティさん。あなたが作っていたというお菓子なのですが、それにはあの『エリクサー』が使われているとこのパンフレットに……」

「えぇ、正真正銘の本物ですよ。まさか、偽造をお疑いですか?」

 

 言ってテティは微笑んだ。

 そのことは誰でもない当の調理人であるテティが一番よく知っている。

 しかしそう聞かされてもケビンの表情から疑念の色は拭われなかった。

 やがて、

 

「テティさん、あの果実は……直接食べる以外の加工が出来ないんですよ」

 

 意を決したよう単刀直入にケビンは告げた。

 

「なんですって?」

 

 その言葉に誰よりも驚いたのは当のテティだ。

 自分があの果実の皮をむき身を切り分け、砂糖と酒で煮詰めてはクリームの盛られた生地の上に並べたのだから。

 

「少なくとも俺には無理でした。俺以外にはあそこにいるオオカワウソやその他数名にも頼んでみましたが、それでもあの果実を加工することは出来ませんでしたよ。出来るのは直に齧るだけ……皮を剥くことすら、出来なかったんです」

 

 言いながらケビンは携えていたバックから深紅の果実を一つ取り出す──言わずもがなのエリクサーである。

 

「もしあなたの取り扱うお菓子がエリクサーを使っているのだとしたら、いったいどのように加工を施しているのかと興味が湧いたんです」

 

 次いでポケットナイフも一振り取り出すと、語りながらケビンはエリクサーに刃を立てる。しかし──どんなに角度を変えても、はたまた終いには切っ先をそこに突き立てようとしても、ナイフはひたすらにその表面で滑るばかりで一向にエリクサーを傷付けることは叶わなかった。

 

「……見せてはいただけないでしょうか?」

 

 しばしの奮闘の末、ケビンはため息と共にエリクサーを手渡す。

 それを受け取り、テティもまた手の中の果実とナイフとを交互に見た。

 

──加工できない、だって?

 

 考えたことも無かった。

 ここで商売をするにあたり、このマンションで獲れる果物を材料にすることは当然の発想であったし、事実それを加工することは苦も無く出来たのだ。

 

──ならば、なぜ私にはそれが出来る? それとも、私が『エリクサー』だと思い込んでいたものは、全く別の果実だったのだろうか?

 

 もはやテティには何が真実か分からない……しかし体は、果実を手にした瞬間にはもう反射的に動いていた。

 左手で果実をしかと握りしめ、ナイフのわき腹に親指を押し付けては歯の角度を調整すると、テティは引き剥がすかのよう縦方向に果実の皮をむいた。

 

 濡れたように輝く赤い果皮は──そう成ることが当然のようにするりと剥けた。

 

「ッ──なんと……!」

『ハハハ……中身出た!』

 

 目の前の光景に見入るケビンと、そして頭にミニパイの敷き紙を張り付けたオオカワウソは揃って息を飲んだ。

 

 その後もテティは何に窮することもなくエリクサーを剥き上げては、さらに掌の中で二つに割り、それぞれをケビンとオオカワウソに渡した。

 

 受け取ったエリクサーを嬉々として食べるオオカワウソとは対照的に、ケビンは未だに驚愕のまま手の中のそれを見つめた。

 そして再び顔を上げたそこには、

 

「ッ……素晴らしい! あなたもまた、このマンションに『選ばれて』導かれた人だ!」

 

 興奮もしきりに目を輝かせたケビンはそう伝えてくるのだった。

 

「私が、『選ばれた』のですか?」

「はい。まだ俺自身も確証は持てていませんが、このマンションには何らかの役割というか──もっと大げさに言うなら、『使命』を受けて来訪された方々が何人かいます」

 

 そう言われたところで、テティにはどう応えることも出来ない。

 ここを再起の場所に選んだのは自分自身であるし、そもそもがこのマンションの存在すらそれまでは知らなかったのだ。

 

 もし外の世界で、成功とまでは言わずとも従来通りに就職できていたのならばおそらくは一生涯、このマンションを訪れることは無かったであろう。

 

 そう思いつくままに返すテティにもしかし、ケビンは緩やかに首を振った。

 

「あなたが外での就職に恵まれなかったこと……いえ、そもそもはあなたがこの世界に生を受けたこと自体が、既にこのマンションへと組み込まれる事象(こと)の一部だったとしたら?」

 

 そんなケビンのジョークとも本気ともつかない言葉に、ついにはテティも何も言えなくなってしまった。

 それこそは一連のケビンの言動に呆れているからではない。

 

 超規格外の肉体を持つ自分、外世界の枠に嵌れなかった自分、そして今は加工不可能と言われた果実を苦も無く変形させた自分──むしろ、ケビンの発言を受け入れるに値する心当たりは、今日までのテティ自身が幾度となく感じていたことだった。

 

 しばしの沈黙の後、

 

「──ならば私は、どうしたら良いのでしょう?」

 

 テティは尋ねる。

 

「深く考える必要は無いかと思います。……こう言っては無責任ですが、もしかしたら俺の言う『選ばれた』の仮説も的外れである可能性はあります。ただそれでも──」『ハハハ、食わないんならくれ』

「それでも?」

「それでも、このマンションに自分が必要とされ呼ばれた──と信じるのならば、胸を張っていいと思います」

 

 張り詰めていた緊張の糸がほつれ、この日ケビンは初めて笑顔をテティに見せた。

 

「あなたのその能力──エリクサーの加工にのみ留まらず、これだけの素晴らしいお菓子を作れる才能は万人に誇れるものだと思います。少なくとも俺は、あなたに敬意を表しますよ」

 

 言いながらケビンは立ち上がる。

 

「もしよろしければ、あなたのお店の場所を教えてはいただけないでしょうか?」

『行くのか?』

「今日の無礼を詫びる代わりと、そして今後もあなたとマンションの関係性を調査させてもらう見返りに──これからは定期的に、この果実をあなたの元へ届けることを約束します」

「なんですって……ッ?」

 

 ケビンからの申し出は願っても無いものであった。

『探索者』を自称する身とはいえ、本職はパティシエであるところのテティにとっては、かの『祭壇』』へ果実を取りに行くことは実にリスクの高い行為であったからだ。

 そんな思わぬ仕入れ先の確保に、テティは万感の想いを込めてケビンの手を取った。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

「えぇ。今度は、お店の方にお伺いしますよ」

『ハハハ、甘いの買いに行くぞ。ハハ』

 

 やがてはケビン達も立ち去り、スペースには本当にテティだけが残される。

 頭の中では、先のケビンの話が反復していた。

 

「私は『選ばれた』……か」

 

 成功の内に終了したバザールの高揚感も手伝ってか、呟くとその実感はなおさらに不思議な感動として体を駆け巡った。

同時に思い出すのは、今日ここに至るまでに味わった辛酸の数々……しかしながらそれも、『ティラノ・ティラン』という生を彩る為のスパイスなのだとしたら、この人生は何と素晴らしいものなのかと思えた。

 

「いや、ここで終わりじゃない……まだ私の人生は完成してないんだ。ならば、より良く生きなければ」

 

 想いは言葉となって漏れては自分自身を励まし、そして祝福した。

 

 バザールが終わったら今夜はハカウソのラーメン屋へ行こう──

おそらくは他の仲間達も集まっていることだろう。ならばぜひ今日の出来事と、新たに気付けた自分の人生について語らいたい。

 

 立ち上がり大きく背伸びをするテティ。

 人生で初めて、強く大きく自分を広げられたような気がした。

 

 

 

 

【 続 】

 

 

 

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