アライさんマンション・二次創作   作:たつおか

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参加型企画による個人別のSSとなります。

本SSは『ぶわくち(312856)』さんのキャラクターである、
『 アーサー・ロバート・グッドウィン 』の設定を元に執筆させて戴きました。

『5月バザール参加者』https://syosetu.org/novel/216576/14.html
と併せてお読みになると、より楽しめると思います。

 


【 5月のバザール・アーサー 】

  

 

「さぁ、コーヒー! コーヒーだよぉ、ヒヒ! コーヒー飲んでいかないかぁい!」

 

 アーサー・ロバート・グッドウィンはバザールが好きだ。

 もっともマンションの住人ならば皆一様にそうではあるのだろうが、ことアーサーがこのイベントを好む理由は他にある。

 

 バザールにおいては、皆がアーサーを狂人として見ないからだ。

 

 そもそも多種多様なヒトやフレンズが集まるこのバザール自体、多少の変わり者などはその混沌と化した雰囲気に飲まれて常人とみなされてしまう。

 かといってアーサーなどは、その『多少』の中に収まりきれる狂人ではないのだが、それでもバザールや参加者達はアーサーを受け入れるのだ。

 

 祭り独特の空気に浮かされた参加者達は、平素日頃では触れることを危ぶんでしまうような物をどさくさ紛れの好奇心から触れようとし、そしてその好奇が向かう先はヒトもまた然りなのである。

 

 バザール開催中においてはむしろ、アーサーが奇行に走れば走るほどに周囲はそれに興味を持ち、そして接触を図ろうとするのだ。

 

 そう言った経緯から、今もアーサーの出店する『ストレスコーヒー屋さん』は大盛況を博していた。

 

 背負うコーヒーサーバーから提供されるアーサーのコーヒーは、常にそのクオリティが保たれている訳ではない。

 そのつどで豆の種類も変われば、味わいですらもが一定ではなかった。

 どんな通でも唸らせる極上の一杯の時もあれば、可もなく不可もないインスタントと一口で分かるようなものに至るまで、アーサーのコーヒーは千変万化、常に変わり続ける。

 

 その理由こそは背のコーヒーサーバーに他ならない。

 

 無限に供給されることに加え、条件によっては味すらも変えるこのサーバーは、言うまでも無くこのマンションの『怪異』の一部である。

 否──これこそは、アーサーも含めての『怪異』だ。

 

『こんにちはアーサー。問題なくやってる?』

「おおお~、ギンコぉ! よく来たね! コーヒー飲んでって! コーヒー! ヒヒ!」

 

 たまたま通りかかったスペースにアーサーを見つけたギンギツネのフレンズ・ギンコは、いつにも増してハイテンションに給仕する彼へ声を掛けた。

 アーサーもまたそんなギンコからの声掛けが嬉しかったようで、もはや返答を待つまでも無くカップとソーサを手渡してはコーヒーを注ぐ。

 

『さて、今のあなたはどんな感じかしら……』

 

 一口すすり、舌先で転がした後に吟味して嚥下するとギンコは小さくため息をつく。

 悪くはない。それなりではある。──ということは、今のこの状況はさしてストレスでは無いということもまた分かり、ギンコもそのことにも安堵のため息をついた。

 

 かくいうアーサーのコーヒーとは、それを淹れるアーサー個人のストレスがその味に大きく影響をする仕組みであった。

 

 アーサーが感じるストレスが強いほどに、サーバーから提供されるコーヒーはその深みと味わいを増す。

 具体例だと今朝方、探索から帰還した直後に飲んだコーヒーが特別に美味だったことがそうだ。

 重力鳥と一晩中をかけて繰り広げた追いかけっこはさぞ肉体的・精神的にも負担であったことだろう。

 それを知るからこそ、アーサーの帰還を聞いた朝の仲間達は彼のコーヒーを所望したのだ。

 

 しかしながら、

 

──その楽し気な顔の下で、あなたは今も戦っているのね……。

 

 アーサーを見守るギンコなどは時折りそのことが、どうしようもなく哀れに思えてしまうことがある。

 

 ギンコは彼がこうなってしまう前の、『アーサー・ロバート・グッドウィン』を知る者の一人である。

 マンションを訪れた当時の彼は攻略勢でもなければ探索者でもなかった。

 恋人と一緒に、純粋にこのマンションへ住居を構えようと越してきた一般人であったのだ。

 

 礼儀正しく、それでもどこかイタズラっぽい性格の部分もあり、生来の彼が持つ人懐こさも手伝って、そんなアーサーの人間性は誰からも愛された。

 ギンコに至っては、自分の転生後すぐに彼が越して来たということもあってか、このアーサーを後輩の様に思い面倒を見たものであった。

 

 しかしそんな蜜月も長くは続かなかった。

 

 ある時アーサーは恋人とともにマンションの怪異に巻き込まれた。

 数日間の捜索の末、正気を失ったアーサと、そして複製階での復活すら望めないほどに変わり果てた姿となった恋人を発見したのは、皮肉にもギンコその人である。

 

 以来、アーサーはご存じの通りである。

 それからというもの、アーサーは自ら進んでマンションの探索に乗り出すようになった。

 その姿は狂人特有の不合理な行動のようにも見えたが、在りし日の彼を知る仲間達は、そんな彼の行為があの日無くしたものの全てを取り戻そうと躍起になっているように見えて心を痛ませずにはいられなかった。

 

 しかし運命というものは皮肉なもので、狂人と化してからのアーサーは徐々に探索者としての才能を開花させていくこととなる。

 動物的な直感により行われる探索と危機回避能力は、どんな装置やフレンズの勘にも負けなかった。

 

 事実、その安否を案じて同行した仲間達が逆に彼に助けられたり、はたまた長年探して止まなかったアイテムや階の発見をすんなりアーサーが嗅ぎつけてしまったなどということも一度や二度ではない。

 いつしか彼は庇護の対象でなく、頼るべきパートナーとして求められるようになった。

 

 そしてそんな彼と誰よりも多くマンションに潜っているのがギンコである。

 

「バザールは楽しんでる!? ギンコ! ヒヒッ!」

『まあそれなりにね。これからフィリアのところに商品を渡しに行くところよ』

「ヒッヒヒヒ、そいつはいい! ついでにもしどこかでアイツも見つけたら、戻ってくるように言っておいてよ! なかなか帰ってこないんだ」

 

 何気ないアーサーの言葉にギンコも息を飲む。──今しがた彼が口走ったその人こそが、このマンションで死んだ恋人のものであった。

 あの日を境に大きく変わってしまったアーサー……しかしその中身は何も変わらないアーサー。彼の時間はすべてあの時で止まっている。

 

 その昔ギンコはこの世界へ顕現する直前に『じごくちほー』なる世界を彷徨い歩いたことがある。

 その時、そんな世界においてギンコを導いてくれたのは『じごくボス』なる怪異へと変わり果てたラッキービーストであった。

 

 その見た目も異様であるのならば、意味不明の言動を繰り返す成れ果ての姿ではあったが、それでも彼は『迷い人を案内する』といった使命を忘れることはなった。

 日々、精神(AI)を侵食しつつある怪異と戦いながらも己の指名を果たし、そしてついにはギンコをじごくちほーより生還させてくれた。

 

 今のアーサーはまさにじごくボスと同じだ。変わり果てた姿と心の内では、今もあの日と変わらないまま恋人とそして失った平穏な生活を探し続けている。

 だからこそアーサーは救い出す価値があるのだと思った。そしてそれはけっして不可能なことではないとギンコも確信している。

 

 なぜならば、あの日じごくちほーで自分を助けてくれたラッキービーストこそが、今日の自分の相棒である『ボス』であるからだ。

 

 ともにあの次元を抜けてこの世界へ辿り着いた時、ボスは本来の姿を取り戻した。

 ならばアーサーもまたそうなれる可能性が十分にある。あわよくば失った恋人ですら再生できるのかもしれない。

 そしてギンコはそれに協力してやろうと思っていた。

 それこそはじごくちほーから自分を救いだしてくれたボスと、そしてあの『恩人』と同じように。

 

 

 しばしアーサーと会話を交わし、貰ったコーヒーも飲み終わろうかとしたその時だった。

 

『あー、ギンコだ』

 

 ふいに声を掛けられて一同は振り返る。

 視線の先には、

 

『ギンコもバザールに来てたんだね』」

 

 小走りに走り寄ってくるギンギツネのフレンズが見えた。

 彼女もまたこのマンションで知り合った友人の一人だ。

 

 ギンコにおいては共に『ギンギツネ』ということからも話が合い仲良くなった。

 加えてギンコは、『老化と退行の階』で見た目の年齢を10歳ほど進めた大人の容姿とあって、なおさらにギンギツネは羨望のまなざしを注いでいるようである。

 時にその感情は暑苦しいほどの親しみとなって抱きつく等の強気なボディランゲージにも現れるが、頼られ好きな姉御肌であるところのギンコはまんざら悪い気もしない。

 

 しかしながら今日は間が悪かった……二人のこの場にアーサーまで居たのである。

  

『今日は一人なの、ギンギツネ?』

『ううん。キタキツネと一緒に回ってたんだけど人混みではぐれちゃって……。ずいぶん歩いたんだけど見つからないんだ。もう疲れたよぉ』

「なんだいお姉ちゃん!? 疲れてるのかい!?」

 

 自己紹介も無しにアーサーは二人の会話に割って入る。

 そして有無も言わさずに、

 

「だったらこれを飲むといい! この僕特性のコーヒーサプリだよ! 元気になるよ! ヒヒ!」

『わあ、ありがとー』

 

 何やら怪しげなカプセル錠剤を渡すアーサーと、なんの疑いも持たずにそれを口に含んでしまうギンギツネ。

 

「ち、ちょっとアーサー! それって昨日の晩にわたしが飲んだ──……」

 

 思わぬ展開にギンコもそれを止めようとするがしかし──時すでに遅し。ギンギツネは受け取ったそれを嚥下してしまった。

 次の瞬間、

 

『……ん? あれ? なんか体が熱い……あれ? あれれ? なにこれッ? ワクワクする! 元気が湧いてくる!』

 

 ギンギツネの表情が一変する。

 声高に吠え猛るや、傍らにいたギンコの腕を取った。

 

『ねえ、ギンコさん! 一緒に回ろッ? お店回ろ! もうどこでもいいよ! 二人で行こう! ね!』

『ちょ、ちょっと……ねぇ、アーサー! どうにかしてよ!』

「ヒヒ! 5時間は元気だよ! 頑張ってね! ヒヒヒ!」

 

 すっかり熱しあがったギンギツネと、困惑するギンコと、そして笑うアーサー──三者三様に感情の温度差が違うその様は信号機の点灯を見つめているような感がある。

 

 そして半ば強引に手を引かれ、ギンコがスペースを離れんとしたその間際、

 

 

「好きな人が居る時はね、出来るだけ一緒にいた方がいいよ」

 

 

 瞬間、掛けられたアーサーの言葉にギンコは息を飲む。

 

 今まさに人混みに飲まれんとするその隙間に垣間見えたアーサーは──笑っていた。

遥か昔に見た平穏であった頃と変わらない穏やかな笑顔で。

 

「アーサー! あなた──……」

 

 しかし次の瞬間には流れる人混みに飲み込まれ、アーサーとギンコの視界は遮られる。

 

 時折りギンコは考えるのだ。

 本当にアーサーは狂っているのだろうか、と。

 

 もしあの日の怪異に対する癒えぬ傷と、そして彼女を守ることの出来なかった自分とに強い怒りを抱くがあまり、あえて修羅の道を歩んでいるのだとしたら……。

 

「ならば、みんなで突破しましょう。けっして一人なんかにしないから」

 

 

 感慨深げに語り掛けるギンコは、それでもアーサーの消えた人波から目を離すことが出来なかった。

 

 

 今日もバザールは様々な人々の混沌を飲み込んで回る。

数多の喜びと、そして僅かの悲しみを苦みにした人種の坩堝は──アーサーの淹れるコーヒーの様に思えた。

 

 

 

【 続 】

 

 

  

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