IS-草薙之剣-   作:バイル77

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第14話 波乱の学園祭(フェスティバル・ディスターバンス)

 9月4日

 

 IS学園の夏季休暇終わりをつげ、2学期に入っていた。

幾人かの生徒は夏休みの終わりにがっくりと膝を折ったようだが、いざ学業が再開してみればそんなことをしている暇もなく。

いくらか休みボケが残っている生徒も散見したが、数日中に消えているだろうと思わせるだけの活力が学園中にみなぎっていた。

 

 さて、そんな中SHRと1限目の半分の時間を使った全校集会が開かれていた。

内容は今月中に行われる【学園祭】についての連絡であり、1年1組の列の中で一夏と剣は壇上を見上げていた。

 

 

「それでは、生徒会長から学園祭についての説明をさせていただきます」

 

 

 司会を担当しているのは生徒会役員の虚であり、彼女の言葉と共に水色の髪を靡かせながら壇上に上がる生徒がいた。

 

 

「皆、おはよう。夏季休暇は楽しかった?」

 

 

 楯無が軽く笑いながら挨拶の言葉を口にする。

ちらりと楯無の視線が己に向かっていることに気づいた剣は、小さく笑いながら肩をすくめてみせた。

それに気づいたのか、僅かに微笑みながら楯無も小さく息をついてから本題の説明に移っていく。

 

 

「さて今月の一大イベントの学園祭だけど、今年だけの特別ルールが設定されるわ。その内容だけど……」

 

 

 閉じた扇子を取り出して横にスライドさせると、それに連動するように空間投影ディスプレイが表示された。

 

 

「名付けて、【各部対抗織斑一夏争奪戦】!」

 

 

 小気味よいパンっという音とともに扇子が開かれ、ディスプレイには大きく一夏の顔写真が表示された。

剣の前に並んでいた一夏の口から「は?」という素っ頓狂な声が漏れるのを、剣は確かに聴いた。

 

 

「「「「……ええええええ~!?」」」」

 

 

 その数瞬後、全校集会を行っているホールが裂けんばかりの叫び声が木霊した。

 

 

「静かに」

 

 

 彼女の一声でホールは水を打ったような静けさに包まれた。

それを確認した彼女が空間投影ディスプレイを横目に続ける。

 

 

「毎年学園祭では各部活動毎に催し物を出して、投票を行って上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。今回はそれにプラスする形になるわ……」

 

「「「「異議ありっ!!」」」」

 

 

 さも当然というように話を進めていく楯無の言葉を、手を上げる形で一部生徒達が静止した。

 

 

「草薙剣君はどうしたーっ!!!」

 

「生徒会が剣君を独り占めしているって本当ですかーっ!?」

 

「男子生徒は2人しかいないんだーっ!!! 青春っ、ゲフンゲフンッ、触れ合う機会を奪うなーっ!!!」

 

「権力ってやつか……っ!」

 

 

 異議を申し立てている彼女達の周囲ではブーイングが起こっていた。

呆けていた一夏が剣に振り返ると、剣は顔を手で覆って天を仰いでいた。

その様子からはもうどうにでもなれという諦めの感情しか湧いていなかった。

 

 

「静かにっ」

 

 

 先ほどよりも幾分か冷たい感情を感じる楯無の声が響く。

変わらずの笑顔を浮かべる楯無だが、纏っている雰囲気(オーラ)は先ほどよりも明らかに冷たく重い。

 

 

「草薙剣君はすでに副会長として生徒会に所属しているの。だから部活動には所属できないわ」

 

 

 ぴしゃりと言った楯無に、ブーイングを上げていた生徒達が息をのんだ音が聞こえた。

雄々しく構える阿修羅のイメージを、楯無の背後に幻視している者も存在していた。

 

 

(ん、初耳なんだけど?)

 

 

 彼女の言葉で天を仰いでいた剣の思考が通常状態に復帰すると、当然湧いてくる疑問があった。

それは、先ほど彼女が言った副会長として所属している、ということが剣にとっては初耳であったからだ。

 

 

(……あぁ、そういうことか)

 

 

 だが、それは考えようによってはメリット(・・・・)になることにすぐに気づいて頷く。

 

 

(ん、どういうこと?)

 

 

 楯無の発表に隠された意図に気づいた剣だったが、半身であるヒメは意識の中で首をかしげていた。

 

 

(まずたっちゃん達と一緒にいれば行動がスムーズになる。それに一夏が特定の部活に入るってことは、それだけ行動を把握しやすくなる……つまり護りやすくもなるってことだ。学外で活動する際は前元さん達とも連携取りやすいし、メリットだらけだな)

 

 

 剣の言う通り、一夏の行動を把握しやすくなるのは非常に重要である。

IS学園は人工島に作られておりその敷地は広大である。

現状剣や一夏は部活動には所属していないため、放課後は訓練や個別の時間に充てることができるのである。

だが、それは自由であるがため行動が把握しにくい、という問題点もはらんでいる。

現在はこれを、剣や本音等の事情を知っている者達(・・・・・・・・・)が傍にいることで補っているが、特定の部活という縛りを設けることで行動をある程度狭めることができるのだ。

 

 

(なるほどなるほど)

 

 

 ヒメがうんうんと納得したようにうなずくが、そのあとすぐにニヤニヤと笑みを浮かべた。

彼女のその笑みは基本的に何か変なことを考えている合図でもあった。

 

 

(それで、お前は何を考えてるんだよ)

 

(ん~、べつに~? たっちゃんも攻勢に出てきたなぁって)

 

(攻勢?)

 

(んにゃ、こっちの話だから気にしないで。一夏にとっては気の毒だけど、ね)

 

(……まぁ、そうだな)

 

 

 ヒメの言っていることがあまり理解できていない剣であったが、一夏が割を食っている部分については素直に同意して頷いた。

 

 

「今日の放課後から早速作戦会議よっ!!!」

 

「盛り上がってきたぁっ!」

 

 

 ガヤガヤとホール内が一気に騒がしくなる。

一度火が付いた女子達を制御できる存在はここには存在しない。

かくして一夏未承諾のまま、彼の争奪戦が始まるのだった。

 

 

「横暴だーっ!!」

 

 


 

 その日の放課後、特別HRではクラス毎の催し物を決めるためわいのわいのと盛り上がっていた。

クラス代表として、一夏が催し物案をまとめる立場にあるのだが、現状出ている案が案であるため白目で天井を仰いでいた。

それは剣も同じでありもうどうにでもなれといった感じで、こちらは机に突っ伏していた。

 

 

(織斑一夏と草薙剣のホストクラブ、男子二人とくんずほぐれずツイスターゲーム、ポッキーゲーム大戦、2人の王子様ゲーム……いやぁ、女の子のパゥワァーって怖いね)

 

 

 ヒメが挙げられている案を復唱すると、剣の顔が酷く歪んだ。

最初は剣も反対意見を述べ、代案として祭りでもポピュラーな綿あめ屋台や、スイーツ喫茶などを出したが即却下され、次々と己と一夏を中心とした案が上がってきたのだ。

剣がこうもなるのは自然であった。

 

 

「却下」

 

 

 一夏の却下の言葉にすっとサムズアップを送る剣だったが、教室には大音量サラウンドでブーイングが響いた。

 

 

「アホかっ! 誰が嬉しいんだよ、こんなんっ!」

 

「女子は皆嬉しいんだーっ!!」

 

「男子の2人は共有財産なのよっ!!」

 

「ほかのクラスからも希望が滅茶苦茶届いてるよ。あ、ちなみに先輩方からも来てるから」

 

 

 やいのやいのと女子達の声が響く中、一夏は助けを求めて副担任である真耶へ視線を移す。

ちなみに担任である千冬は――

 

 

「時間がかかりそうだがお前たちにすべて任せる。後で結果を伝えにこい」

 

 

 とこの場にはいなかった。

 

 

「えっ、えーとっ……私はポッキーなんかが……あっ、でもツイスターも捨てがたいですね……?」

 

 

 頬を少し赤らめて言う真耶の姿にヒューヒューと女子達が反応し、一夏はがっくりと肩を落とす。

 

 

「とにかく、普通の意見が欲しい……」

 

「なら、メイド喫茶などはどうだ?」

 

 

 すっと手を上げたラウラが己の案を告げる。

 

 

「客受けはいいだろう。加えて飲食店なら経費の回収も行えるし、招待券制で外部からも入れるはずだったな? それなら休憩所としての需要も見込めるだろう」

 

 

 彼女の言葉で、落胆していた一夏と突っ伏していた剣も顔を上げる。

2人の顔に浮かぶのは意外という感情であり、それはクラスメイト達も同様で理解に時間がかかった。

いつもの淡々した口調だが、あまりにもキャラにそぐわない意見だったからだ。

 

 

「えーっと、皆はどう思う?」

 

 

 まだ少し困惑している様子の一夏だったが、多数決を取らないことに始まらない。

だが急に振られたせいか、クラスの女子全員がきょとんとしていた。

 

 

「いいんじゃないかな? 一夏や剣は交代制で執事と厨房に回ってもらえばそれでオーケーだよね」

 

 

 そんな中、援護射撃を飛ばしたのはシャルロットであった。

彼女の提案が女子達の導火線に火をつけ、一気に燃え上がらせていく。

 

 

「織斑君の執事!!」

 

「いいっ!!」

 

「っ、待ったっ!! 草薙さんは執事というか若頭よっ!! 甚平とか似合いますってっ!!」

 

「執事と若頭っ!!!」

 

「メイド服はどうする? 演劇部から借りてくるし、必要なら縫うけどっ!!」

 

「メイド服なら伝手がある」

 

「わたくしも協力しますわ、ラウラさん」

 

「甚平ならツテあるから安心してねー!」

 

 

 今まで黙っていたセシリアや本音まで女子達の輪に加わって話がとんとん拍子で進んでいく。

意見が一つにまとまっていく一体感を、男子二名を除いて全員が感じていた。

その一致団結っぷりはこの数か月間で初めてといってもいいだろう。

 

 

「……俺は極道(そっち)方面じゃないんだけどなぁ」

 

 

 小さくつぶやいた剣の元に、もはや多数決をとっても結果が見えてしまった一夏が歩み寄る。

非情に疲れた様子で苦笑している彼の考えは剣もわかる。

少なくともホストクラブやツイスターゲームなどよりは、メイド喫茶のほうが現実的であるからだ。

比較対象が常識を外れすぎていて、バイアスがかかっているともいえるのだが。

 

「……疲れたな」

 

「……うん」

 

 

 二人の苦笑混ざりのため息は全く同じタイミングであった。

かくして、一年一組の催し物はメイド喫茶改め【ご奉仕喫茶】に決定したのだった。

 

 


 

 そして時間はあっという間に進み、学園祭当日。

一般開放は行っていないため花火などは上がらないが、生徒達のテンションと熱気はそれに匹敵するくらいに高まっていた。

 

 

「えっ、一組は織斑君と草薙君の接客を受けられるのぉっ!?」

 

「織斑君は執事で、草薙君は甚平姿っ!!」

 

「ゲームもあって、勝てればツーショットがとれるのよ、ツーショットッ! しかもオプションでお姫様抱っこもありだってっ!!!」

 

「くっ、完璧じゃないっ!! こうしちゃいられないわっ!」

 

「くぉらーっ! 持ち場から離れないでよーっ!!」

 

 

 当然、男子二名という大きすぎる看板がある一年一組はとりわけ盛況で、朝から大忙しの状況であった。

具体的には一夏と剣が引っ張りだこであり、交代で厨房に入るのが休憩と言える状態だ。

それ以外の接客担当の女子達もメイド服を着ているが、2人と比較すると楽しそうにしているのが明らかである。

なお一組の外には長蛇の列ができており、一番最後の客は2時間待ちのプラカードを手に持っていた。

 

 

「ようこそいらっしゃいました、お嬢。ご注文をお聞きしても?」

 

 

 ようやくテーブルへに案内された女子生徒へ、甚平姿の剣がメニュー表を手渡しながら尋ねる。

浅葱色の甚平姿の剣は普段と違って髪型をオールバックに変えており、彼の髪の毛にある特徴的な赤のメッシュも纏められ炎のようにも見えた。

 

 

(あひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! お嬢だってっ!!! 無理っ、お腹いったい、死んじゃうっ!!!)

 

(……これは仕事だ、草薙の仕事。仕事、仕事……)

 

 

 意識の中で大声でゲラゲラと笑い転げているヒメをしり目に、剣は黙って注文を待つ。

剣の表情は無理やり張り付けた笑顔だが、幸いなことに女子生徒は気づいてはいないようであった。

 

 

「ひゃっ、ひゃいっ……えっと、【若頭にご褒美セット】で、お願いします……」

 

 

 リボンの色から同級生であることが分かる女子生徒は、緊張からか声が上ずっていたが要望を確かに伝えるだけの意志の強さを瞳に宿していた。

剣からしてみればその意思は捨ててくれと、内心思っていたのだが。

 

 

「……かしこまりました。【若頭にご褒美セット】ですね。少々お待ちください、お嬢」

 

 

 丁寧にお辞儀した剣がメニューを受け取ってから立ち去る。

オーダーは甚平につけられたアクセサリー型マイクですでに厨房に届いているため、キッチンテーブルに戻れば用意ができている状態になる。

 

 

「お疲れっ、若頭にご褒美セット、はい」

 

 

 現在は剣が接客担当であるため交代である一夏が厨房を担当しており、燕尾服を少しだけ着崩した彼は【若頭にご褒美セット】を渡してくる。

それは抹茶ラテと冷やしたポッキーのセットで、値段は300円と格安だ。

なお一夏用の【執事にご褒美セット】は、抹茶ラテをアイスハーブティーに変えただけのものであり、値段も同じである。

 

 

「抹茶ラテの在庫、また切れそうだから補充の準備しないと……」

 

「……交代はあと30分か。長いな」

 

「……分かるよ、すっげー分かる」

 

「そろそろポッキーで胸焼けしてきた」

 

「朝飯抜いておいてよかったな、俺も剣も」

 

 

 肩をすくめた2人だったが、客が待っている状況だ。

受け取ったセットをもって、剣は客の待つテーブルへと向かう。

 

 

「お嬢、お待たせいたしました」

 

「ひゃいっ!」

 

 

 ことり、と女子生徒の前に皿をおいて正面に座る。

その行動にセット内容をよく理解できていなかった彼女は少しだけ首を傾げた。

 

 

「お嬢、【若頭にご褒美セット】の内容なんですが……こちらのセットは、私に食べさせる、セットになります」

 

 

 すでに今日だけで同じ説明を何回もしている剣は、若干棒読みになりながらもセット内容を伝えた。

説明を受けた彼女は察しのいい方の客であったため、小さく声を漏らして理解の反応を示したのは剣にとって幸運であっただろう。

 

 

「……あっ、じゃあ……っ!」

 

 

 目の前に置かれた冷たいポッキーを掴んだ彼女が腕を伸ばす。

ポッキーの先端をパキリと口に含んだ剣は、数度咀嚼してから飲み込む。

優しい甘さが口に広がるが、すでに何度も味わっている甘さなのでそろそろ胸焼けが来そうだなと、剣は思っていた。

 

 

(しっかし、凄いメニューだよね。剣が食べさせてあげるってならあるんだろうけど、その逆なんだもんねぇ)

 

 

 ヒメの言葉に心から全くだと同意の意を示した剣はポッキーをさらに食べ進めていく。

その後、オプションとしてツーショットを希望され死んだ目をしながらもそれに従ったのは別の話である。

 

 

 それから約30分後、剣と一夏の交代時間直前のことであった。

案内担当の女子生徒が1人の女性を、教室前の列から案内して入室してくる。

 

 年齢は箒達よりも少し上、身長も彼女達よりも高いため20代前半だろうか。

雪のような純白の肌と空を映したような水色の瞳。炎のように紅い腰まで届くほどの長髪が、空調の風にゆられて一瞬だが美しく舞う火のようにも見えた。

身に着けている紫を基調とした和服も併せて、まさに大和撫子を地でいく美女といっても過言ではないだろう。

 

 

「おう、剣。交代だな」

 

「やっとか……やっっとか」

 

 

 その女性は、案内担当の生徒にお礼を言った後、接客の交代に映ろうとしていた剣と一夏に視線を向けた。

 

 

「……ぷっ」

 

 

 そして堪えきれない様子で口に手を当てて笑みを隠す。

だがプルプルと体が震えているため、声を押し殺して笑っていることは明白であった。

その様子にほかの執事接客担当の一夏も、メイド服を身に着けた接客担当スタッフである箒や、クラスメイト達も不思議そうな視線を向けていた。

 

 当然、待機していた剣もその女性に気づく。

どういうわけか顔をしかめていたが接客をしないことにははじまらないため、彼女を近くのテーブルへと案内する。

 

 

「……こちらです、お嬢」

 

「あらぁ、お嬢だなんて。もうそんな歳じゃないのにねぇ」

 

 

 ニヤニヤと美しい顔に弧を浮かべる女性に、剣はため息を零した後言った。

 

 

「……何してるんだよ、母さん(・・・)

 

「「「ええええええ~!?」」」

 

 

 剣が零した言葉を周りにいたスタッフであるクラスメイト達が拾って、驚愕の叫びが響く。

その様子にさらに女性は、クスクスと笑みを浮かべていた。

 

 

「剣のっ、お母さん……っ!?」

 

「初めまして、織斑一夏君。草薙剣の母の【草薙鞘華(さやか)】です。息子がお世話になっているようで」

 

「あっ、いえ、俺も剣には世話になってますんで……その、ずいぶんとお若いんですね」

 

「おっ、おい、一夏っ、失礼だぞっ」

 

 

 思わずといった形で口に出した言葉にあっと、声を漏らした一夏を戒めるメイド服姿の箒。

その様子に鞘華はいいのよいいのよと手の動きで示していた。

 

 

「あらやだ、こんな40代のおばさんに唾をつけるなんて……織斑君も見かけによらず強引なのね」

 

 

 鞘華の言葉に思い切り動揺した一夏だったが、冗談冗談と彼女の目は言っていた。

そんな様子に苦笑しつつ息子である剣が話に割り込んだ。

 

 

「からかいに来たんだな、母さんは」

 

「そんなわけないでしょ。子供がちゃんと学生やってるかの確認よ、確認。峰善さんとの血で血を洗うジャンケン勝負に勝ったかいはあったわね」

 

 

 グッと小さくガッツポーズをした鞘華の様子に剣はため息を出すしかなかった。

 

 

(……お父さん落ち込んでそうだなぁ)

 

(だろうな)

 

「ところで、ヒメちゃんのメイド服見たいんだけど……だめ?」

 

「当店ではそのようなサービスは行っておりませんので」

 

 

 視線で周りを確認した鞘華の声量を抑えた問いに、作り物の笑顔を張り付けて有無を言わさず剣は返答するのだった。

 

 


 

 それから休憩時間という厨房での作業を終えて、再び一夏と接客担当を交代した剣は、心を無にして接客を続けていた。

男子の存在というのはIS学園ではやはり絶大なメリットとして働くようで、午前中の営業だけで経費をすべて賄えるだけの黒字を出していた。

そのせいかクラスメイト達のやる気がさらに上がっているという副次的効果も発生させていた。

 

 

(……早く終わらないかなぁ)

 

(まだまだこれからだよ、剣。あ、もしよかったら変わってあげ……)

 

(一夏達には話したとはいえ人前でお前を出せるわけがないだろ)

 

(ですよねー)

 

 

 直前の接客を終えた剣は、待機場所で水分補給を行いつつ己の半身を戒める。

元々大して期待していなかったヒメもすぐに話題を変えることにした

 

 

(お母さん、まだ学園にいるのかなぁ)

 

(さぁな。簪達の出し物を見に行くって言ってたけど、祭事なんて久々だろうからはしゃいで出し物全部回ってるんじゃないか?)

 

(それ、ありえるねー。お母さんこういう時ははしゃぐタイプだしね)

 

 

 先ほどまさかの身内が自分を指名してきたという剣にとってはトラウマになりかけるような出来事を何とかクリアし、鞘華をほぼ無理やりクラスから追い出していたのだ。

そんな彼女は、簪がいる4組の出し物も見てくるとスタコラサッサといった感じでその場を去ったのだが。

 

 

「草薙さーん、ご指名でーす」

 

「分かった、すぐいく」

 

 

 ドリンクが入ったペットボトルをおいて、待機所から外に出る。

そのままクラスメイトのスタッフに案内され、自分を指名してきた客が待つ窓際のテーブルへと向かう。

 

 このテーブルは他のテーブルとは違いオプションで指定できるものであり、遮光カーテンで一部を遮られているためか中の客の様子を窺うことはできない。

また外から中の様子を窺うことがということはそれだけプライベートを確保できるということであり、人気を二分している【執事】と【若頭】メニューを注文しても上がってしまうような客にはもってこいだろう。

そのためかオプション料がメニューよりも高い1000円という学生にとっては高額な値段設定になっているのだが、午前中だけでも何度もこの席は利用されていた。

 

 遮光カーテンを捲ると、男性用の学生服のようにも見える黒のパンクロックワンピースに同色のロングスカートを身に着けた赤髪の少女が席に座っていた。

座っている席の関係から顔は見えないが、首や手には包帯がまかれており、ゴシック風な雰囲気も感じられた。

 

 

「ようこそいらっしゃいました、お嬢。ご注文は?」

 

「この、【若頭にご褒美セット】をひとつ」

 

「承知しまし……っ!?」

 

 

 すでに慣れてしまった接客対応で注文確認のため客の横に立つ剣であったが、少女の顔を覗き込むと張り付けていた笑顔は一瞬で霧散し、浮かぶのは驚愕であった。

同時に半歩下がって、警戒のために甚平服の中に仕込んでいた待機形態の【都牟刈】を取り出して構えた。

 

 テーブルに座っていた少女の顔が歪む。

そこに浮かぶのは狂喜。

左頬に真新しい一文字傷が入っているが、剣が彼女を見間違えるはずがない。

何故ならば、先の臨海学校で己が殺めたはずの人間がそこにいたからだ。

 

 

「なぜ、貴様がここに……っ!!」

 

「クククッ、甚平姿も中々にあっているじゃないか。草薙ぃ?」

 

 

 目の前に現れた少女――【八坂焔】はそう言って手に持っていたメニュー表を放り投げて剣をまっすぐに見つめていた。

 

 




次回予告

「第15話 混迷の中へ」

「あっ、あのっ、いい天気ですねっ!!」

「今回は遊びだ。まぁ、楽しんでくれ」
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