IS-草薙之剣-   作:バイル77

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第17話 貫け、奴よりも速く(キャノンボール・ファスト)

 ──満月が中庭を照らす明るい夜だった。

 

 

 月明かりが照らす縁側を一人歩く。

 

 季節は秋。だからか鈴虫の鳴き声が、まるでオーケストラの様に中庭に響いていた。

しばし鈴虫達のオーケストラに耳を傾ける。

夜風が静かな音色と共に身体を撫でる。

そのおかげで気分は高揚しているが身体は少し重かった。昼間の手合わせ(・・・・)の感覚がまだ身体に残っているからだ。

 

 キシキシと小さな音を立てて、縁側を進む。

 

 

「……な……い……」

 

 

 少し先の障子の向こうから、声が聞こえた。

その声は昼間に手合わせた少女のものだった。

 

 

「貴女は何もしなくていいの。私が全部してあげるから」

 

 

 挨拶のために障子を開けようとした手が止まる。

その声は確かに昼に手合わせをした女の子(・・・)のものだった。

 

 彼女とは今日初対面だったが、こんな事を言う女の子なのだろうか?

己と手合わせした時の槍には、誰かを守りたいという信念が込められていたのを感じた。

少なくとも己はその真摯さに好感を持った。

 

 

 ──障子の向こう側から、嗚咽が聞こえた。

 

 

 嗚咽もまた女の子のものだった。

ふと手合わせの際に、相対した彼女がしきりに気にしていた【妹】と思われるもう1人の少女の姿が浮ぶ。

その少女は己と手合わせしていた【姉】をずっと心配そうに眺めていた。

 

 部屋は同じだと楯無様(・・・)が言っていたことを思い出す。

 

 だが初対面の姉妹の仲に自分が入り込んでいいものか?

そう思った。だけど、身体は勝手に動いて障子を開いていた。

 

 急に開かれた障子に姉妹2人の目が向く。

当然、障子を開いた己へと視線は変動した。

 

 

 ――1人は涙を流し、もう1人は無表情、いや何かを必死に押し殺している事が瞳からわかった。

 

 

「心にもない言葉は、言うのも聞くのも嫌いだな。そんな言葉は相手と自分を傷つけるだけだよ」

 

 

 ()はそう言って、目の前の女の子へ話しかけた。

 

 

 ──それが彼女達との仲が始まった日の、思い出だ。 

 

 

 

 先ほどまで見ていたはずの景色が、急速にぼやけて身体が闇の中を落ちていく。

落ちていく速度に合わせて、身体の感覚が戻ってくる。

そして軽い衝撃にも似た、意識の覚醒。

 

 

(……懐かしい夢だ)

 

 

 目を見開いた剣の視界に見知った自室の天井が映り込む。

時刻は3時を過ぎているが、まだ朝日も顔を出していない時間。

隣のベッドからもルームメイトの静かな寝息が聞こえている。

 

 

(……)

 

 

 起きるにはまだ早いため静かに横になるが目が覚めてしまった。

ふと、数日前の事が脳裏に思い浮かぶ。

 

 

(もしも……もしもの話だけど……剣はお姉ちゃんがいなくなったら……どうする?)

 

 

 彼女の妹、簪から言われたIF(もしも)

それは殺し合いの場にいることを知っているからこそ出た、心配の言葉。

 

 剣と楯無は互いに暗部の身。非日常が襲ってくることなど、覚悟していたはずだった。

だというのに、今の今まで剣は彼女がいなくなることを考えたことがなかった。

 

 

 ――もしも、彼女が自分の傍からいなくなったら?

 

 

 それを考えるたびに、剣の胸中はまるで茨に心臓を包まれているかのように痛む。

 

 加えて何も暗部としての活動だけではない。彼女はIS乗りとしての最高峰の国家代表でもある。

ロシアに召喚され、そのまま永住する必要も出てこない可能性がないわけでは、ない。

 

 

 ――考えるたびに、まるで軋むかのように何故か胸が痛くなる。

 

 

 チラリと、横のベッドで眠る彼女に視線を移す。

すうすうと安らかな寝顔で寝息を立てる少女。

その姿だけでは、己と同じ護国の要である【楯無】という称号を背負う少女には見えない。

彼女のそんな寝顔を見たことからか、少しだけ心が軽くなった。

 

 

(……寝よう)

 

 

 意識をシャットアウトするため、思考を止める。

無音の空間特有の耳鳴りのようなものも聞こえてきたが、すぐに剣の意識も微睡みの中に落ちていった。

 

 


 

 IS学園第6アリーナ

 

 紅い光の翼を背部から展開している【打鉄・弐式】改め【弐式・飛燕】。

高機動オートクチュールである【飛燕】を装備したその機体はまるで、空を高速で翔ける燕の様に立体コースを飛翔して行く。

そのまま高速で立体コースを駆け抜け、立体ゴールラインを通過した弐式・飛燕の搭乗者である簪は微笑みながら、後方を振り返る。

 

 

『だいぶよくなったね。剣』

 

 

 彼女の背後には、シールドエネルギーをだいぶ消費してしまったが何とか弐式・飛燕に追従していた都牟刈がいた。

 

 

『お陰様でな』

 

 

 専用の高機動パッケージ【天之常立神(あめのとこたちのかみ)】を装備した都牟刈も、弐式・飛燕にだいぶ遅れながらも立体ゴールラインを通過していた。

そのまま互いに【武装】を格納して、滞空状態で寄り添う。

 

 

『そろそろ上がらないか? もう3時間くらいは訓練してるからさ』

 

『わかった。オートクチュールのデータ更新したいし』

 

 

 剣の提案に頷いた簪と共にピットへ移動する。

ISを互いに待機状態に戻して控え室に戻った剣はドリンクでの水分補給、簪はそのまま整備と調整へと向かう。

 

 現在のIS学園は近日に迫ったISの高速バトルレース【キャノンボール・ファスト】で持ち切りであった。

基本的にはISを用いたレースなのだが、そこに華となるISバトル要素も含まれるため国際大会も開催され毎回好評を博している。

学園では一般生徒が参加する訓練機部門と、専用機持ちが参加する専用機部門に分かれており多くの生徒たちが準備に追われているのだ。

当然一夏達も参加するため、別のアリーナで高速機動に対する調整を行っていた。

また学園外でのIS実習になるため市のISアリーナを使用する大々的なイベントであり、一般客のほか、学外からも多くの著名人が参加するらしい。

 

 

(まさか、参加することになるとはなぁ)

 

 

 ゴクリと口の中を潤す水分を喉に流し込み息をつく。

 

 

(剣はタッグトーナメントのときみたいに、不参加で裏方に回る気満々だったよね)

 

 

 ヒメの言う通り、当初キャノンボール・ファストには剣は参加しないつもりであった。

その理由は、学外での大々的なイベントであるため裏方での警護に専念する予定だったのだ。

 

 だが、数か月前にあった学年別タッグトーナメントに剣は不参加であった。

護国の要である草薙としての行動でもあったが、これが少し問題視されていたのだった。

剣の現在の立場は護国の剣である【草薙剣】でもあるが、織斑一夏に次ぐ【2人目の男性搭乗者】でもある。

つまりは表立った【実績】が、剣には不足していると政府および国際IS委員会から通知されたのだ。

もっともそれを中継したのは、更識家であるためだいぶ濁されていたが。

余談ではあるが、銀の福音撃破作戦はその存在が秘密裏に行われたものであるため、実績としては届いてはいなかった。

 

 

(一夏のデータはかなり制限されてるとはいえ届いているが、俺のデータはほぼないからだろうな。これはたっちゃん達に感謝すべきなんだろうけど)

 

(とはいえ、そういわれちゃうと出ないわけにはいかないよね。断ったら立場が変わっちゃうかもしれないし)

 

(草薙と更識の根回しも万全じゃないからな。顔は立ててやるさ……ただ前回の学園祭と同じく【亡国機業(ファントム・タスク)】がこのイベントに目をつけてくる可能性もあるからな)

 

 

 先の学園祭、剣が八坂焔と戦闘をしていたタイミングで、一夏や楯無は国際テロ組織【亡国機業(ファントム・タスク)】のエージェント【オータム】の襲撃にあっていた。

その際に英国から奪取されたBT2号機【サイレント・ゼフィルス】の存在も確認されたという。

連中の目的は不明だが、学園祭と同じく大々的なイベントである【キャノンボール・ファスト】も目をつけられている可能性は十分にあった。

 

 

(そうそう、サイレント・ゼフィルスだっけ? 英国から奪取されたISでセッシーと互角に戦って聞いたけど……)

 

(らしいな。そんなテロリスト連中が出張ってくるかもしれないんだ。できるのなら処理できる機会が多い裏方に回りたかった。まぁ今回は今の立場を継続させるために尽力するだけだ)

 

(たっちゃんやうーちゃんが警備についてくれるんだっけ?)

 

(あぁ)

 

 

 ヒメの言う通り、キャノンボール・ファスト当日は草薙・更識の実行部隊が会場の警備につき、楯無と虚も警護に参加する予定である。

何かあった際は剣もレースよりも生徒や観客の警護を優先する事は伝えてあった。

 

 

(なら安心だね)

 

 

 その言葉にうなずいて手に持ったままだったドリンクに再度口をつけて、飲み干す。

空になったペットボトルを近くの専用ダストボックスに放り投げると、ストンと箱の中に納まった。

 

 そのまま剣は更衣室へと向かう。

 

 

(ただ、実績がいるってのは分かってるが……優勝は無理だろ)

 

 

 それがこれまで高機動調整を行った剣の感想であった。

貸し切りの更衣室にたどり着いた彼は、荷物をしまっていたロッカーを開けてタオルを取りだして、備え付けのシャワールームへと向かう。

 

 

(【弐式・飛燕】、相対してみてわかったけど性能がダンチだよね)

 

 

 ヒメもその言葉に同意して苦笑を浮かべた。

 

 簪のISである【打鉄・弐式】自体が高機動ISとして仕上げられており、それに加えて高機動オートクチュール【飛燕】を装備した【弐式・飛燕】は現存するISでもトップクラスの機動力を持っている。

機動力だけならば、高機動パッケージを装備したISならば並ぶ事も可能ではあるが、加えて【弐式・飛燕】が優れているのはその【運動性能】だ。

 

 背部非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)である一対の翼状モジュールから溢れる【光の翼】。

この翼状モジュールはフレキシブルに稼働させることが可能であり、彼女のAMBAC技術と合わさった【運動性能】が他の高機動機体にはない強みとして存在していた。

加えて彼女自体が情報処理能力に秀でており、高機動戦闘に必要な【咄嗟の判断力】も備えている。

味方としてはとても頼りになる彼女が敵に回すとこうも恐ろしい存在になるかと、剣は脱帽していたのだ。

 

 

(少なくとも、今の状態じゃ勝率はかなり低いな)

 

(全力でやって負けるなら、いい経験になると思うよ?)

 

(分かってるさ。全力でやらないとは言ってないだろ?)

 

 

 ヒメの言葉に苦笑しながら、シャワーを浴びるために剣はISスーツを脱ぎ始めた。

 

 

 ――それから30分ほど経って。

 

 

「さて、戻るか」

 

 

 制服姿に着替えた剣が、まだ少し湿っている髪を風に靡かせながらアリーナの入口から外に出る。

すでに日はほとんど沈み、空は群青色が支配する夜の色に染まっていた。

そのまま学生寮に戻り楯無と共にキャノンボール・ファストでの警備計画を詰めていこうと考えていた剣だが、入口の傍に金髪の少女が立っていることに気づいた。

 

 

「セシリア?」

 

 

 彼のつぶやきが聞こえたのか、入口で待っていたセシリアが微笑みながらこちらに小走りで近寄ってくる。

 

 

「お疲れ様です。剣さんも高機動調整でしたか?」

 

「あぁ、簪と一緒にな」

 

「簪さんはとても基礎ができている方ですから、いい判断だと思います。学年別トーナメントの際にはお世話になりましたから」

 

「まぁ、そのおかげで実力差を痛感したところなんだけどな」

 

 

 剣の言葉にセシリアはクスリと笑みをこぼす。

 

 

「わたくしとしては剣さんは今回も不参加かと思っていたのですが、ちゃんと参加されるようで安心したところです」

 

「真面目にやらないと、ヒメが出場しそうだからな」

 

「そうなのですか?」

 

「なんでも1位にはスイーツ無料券が……あー、いや、冗談だ。まぁ、上の顔を立てるってところだよ」

 

 

 剣の言葉に少し思案顔になったセシリアだったが、すぐに納得したようにうなずく。

 

 

「成程。実績、でしょうか?」

 

「流石。お見通しか」

 

 

 セシリアは己の上司(エーカー少佐)から剣の事情について他の生徒達よりも聞いている。

そのため彼の性格ならキャノンボール・ファストも不参加で裏方に回るという判断を取るだろうと、考察することができたのだ。

加えて真面目にイベントへ参加する理由についても、同じく導き出すことができた。

 

 

「……剣さん、歩きながらでいいのですが少しお時間いただけますか?」

 

「あぁ、別にいいけど……?」

 

「ありがとうございます」

 

 

 剣の返答にニコリとほほ笑んだ彼女と共に、学生寮へ向かいながら歩く。

周囲には運動部なのかランニングを行っている生徒が数名いるが、そのまま2人とはすれ違って消えていく。

辺りには鈴虫の鳴き声が静かに響き、秋特有の気持ちのいい夜風が吹き始めていた。

 

 

「キャノンボール・ファスト、わたくしは今の全力を注いで勝ちに行きます」

 

 

 しばらく黙って歩いていた彼女が口を開いた。

その声色はどこか強張ったものに聞こえる。

 

 

(……何か無理矢理自分を鼓舞しているって感じだね)

 

(サイレント・ゼフィルスの事があったからな。肩に力が入るのも、当然だろ)

 

 

 サイレント・ゼフィルス。

BT2号機として英国で開発されたIS。

そして謎のテロリスト集団によって奪取され、先の学園祭で姿を現したIS。

 

 当時剣は別の場所で戦闘をしていなかったため報告でしか聞いていなかったが、サイレント・ゼフィルスとはセシリアが交戦したらしい。

高速機動戦闘では全くの互角であったが、サイレント・ゼフィルス側は偏向射撃(フレキシブル)を発現させていた。

セシリアもその事実には驚愕してしまい、追い詰めていた亡国機業のエージェントと共に取り逃がすという結果になってしまった。

それ以降、彼女は今まで以上にBT適正を高めるための基本訓練に打ち込むようになっていたが、残念ながら偏向射撃(フレキシブル)の発現までは至っていない、とのことであった。

 

 

「肩に力が入りすぎていると足元を掬われるぞ。まぁ、奪われた機体(サイレント・ゼフィルス)の事もあるからわからないでもないけどな」

 

「……ご存じでしたか」

 

「俺も報告だけしか聞いてないが、戦ったんだろう?」

 

「……剣さん……少しだけ話を聞いていただけますか?」

 

「……あぁ」

 

 

 剣がそう返答した後、彼女は視線を伏せてしまう。

コツコツと二人が歩く足音がすっかり群青色に支配された夜空へと消えていく。

学生寮まであと半分ほどの距離になったところで、セシリアが立ち止まった。

 

 

「……情けないのです。サイレント・ゼフィルスの搭乗者が偏向射撃(フレキシブル)を使った時、わたくしは動けませんでした」

 

 

 ぎゅっと、スカートを両手で握りしめる。

 

 

「心のどこかで、自分のBT適正が最高値であると驕っていた……それに気づいた時には、もう目の前からサイレント・ゼフィルスは消えていました」

 

「……」

 

「それから以前にもまして空間認識能力の強化のために訓練量を増やしました。それでも、未だに偏向射撃(フレキシブル)の発現には……至っていません」

 

 

 さらに強く彼女はスカートを握りしめ、フルフルと小さく肩が震えていた。

その様子を剣は黙って眺め続けていた。

 

 

「本国からは奪還命令が各代表、候補生達にも出ています。ですが……今のわたくしでは……」

 

「だから肩に力が入りすぎてるんだよ、セシリアは」

 

 

 剣の言葉に、セシリアが思わず顔を上げた。

少しだけ苦笑した彼の表情が視界に映る。

 

 

「確かにまだ偏向射撃(フレキシブル)には届いていない。けど君は努力を惜しまない。そう遠くない未来に必ず習得すると、クラス代表決定戦(あのとき)に見せてくれた凛々しい姿がそれを信じさせてくれる」

 

 

 剣のあの時という言葉に、少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らすがすぐにまっすぐと彼を見つめなおす。

 

 

「焦るのは分かる。だけどまずは自分自身を信じる事が大事だと、俺は思う。当然愛機の事もな」

 

「自分自身と……ブルー・ティアーズを?」

 

「あぁ」

 

 

 蒼いイヤーカフスに触れて呟く彼女に頷いて答える。

 

 

「信じる事が自信に繋がる。そして自信は誇りへと昇華する。持論だけど、間違ってはないと思う」

 

「……」

 

「それに、俺も見てみたいんだ。偏向射撃(フレキシブル)をマスターした君の姿を」

 

 

 彼の言葉にかぁっと頬を赤くした彼女が顔を逸らす。

その姿にクスっと笑う剣だが、肩をすくめながらいう。

 

 

「好敵手、だろ俺と君は。なら強くなった好敵手の姿を見てみたいと思うんだが?」

 

「っ、当然ですっ!」

 

 

 怒ったように顔を逸らす彼女だったが、口元は笑っていた。

 

 

「それで、少しは気が晴れたか?」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

 

 一礼した彼女の顔に浮かぶのは笑みであった。

 

 

「信じてみようと思います。わたくし自身と、ブルー・ティアーズを」

 

 

 彼女のその返答に、剣も微笑みながら頷いて答えた。

 

 


 

 そして、キャノンボール・ファスト当日。

 

 IS学園から少し離れた市内ISドーム。

会場は超満員であり、快晴の空には花火が打ち上げられていた。

 

 

「さて、やるだけやってみるか」

 

 

 控え室の窓から空に打ち上げられた花火を眺めていた剣だったが、隣で空間投影ディスプレイを眺めていた楯無がクスリと笑う。

 

 

「あら、珍しい。学園のイベントでやる気だしてるなんて」

 

「実績は必要だろ? まぁそれだけじゃなくて、個人的に楽しみたいってのもあるんだけどさ」

 

 

 剣の言葉に驚いたように目を見開く楯無だったが、すぐに微笑みながら展開していたディスプレイを消す。

そのままコツコツと歩いて控え室の扉に手をかける。

 

 

「それなら私は、あなたが全力を出せるように警護のほうをしっかりとしないとね」

 

「たっちゃんなら大丈夫さ。任せるよ」

 

「えぇ。剣、頑張ってね」

 

 

 グッとサムズアップで返すと、彼女も手を振って控室から出ていった。

それから剣も控室からピットへ向かう。

 

 ピットに到着すると、すでに準備を終えていた一夏達と合流した。

全員がすでにISを装着しており、いつでも準備万端の状態であった。

ピット外からわぁぁ……ッ! という歓声が響いてきている。

 

 

 白き装甲を身に纏う一夏の【白式・雪羅】

 対をなすかのように紅き装甲の箒の【紅椿】

 高機動パッケージ【ストライク・ガンナー】を装備したセシリアの【ブルー・ティアーズ】

 増設スラスターを4基も装備した高機動パッケージ【(フェン)】を装備した鈴の【甲龍】

 専用装備ではないが、増設スラスターを3基装備したラウラの【シュヴァルツェア・レーゲン】

 ラウラと同じく、増設スラスターを左右の肩に1基ずつ、背部に1基装備したシャルロットの【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】

 

 それぞれの国家が誇るISが一堂にそろっているのは壮観であった。

少し離れた場所で、翼型の高機動オートクチュール【飛燕】の翼型スラスターを畳んで本音とやり取りしている簪の【打鉄・弐式】。

 

 

(皆準備万端だな)

 

(剣もほら、ISを展開しないとっ)

 

 

 分かってると、意識の内のヒメに返答した後、剣もISを展開する。

翡翠色の粒子が集まり、都牟刈が展開される。

 

 今回展開された都牟刈は、通常の状態ではなかった。

高機動パッケージ【天之常立神(あめのとこたちのかみ)】が装備されているのは、基本がレースであるキャノンボール・ファストであるため当然だろう。

だが、それだけではなかった。

天之常立神(あめのとこたちのかみ)】には干渉しない設計であるためか、戦闘特化オートクチュール【十種神宝(とくさのかんだから)】も同時に装備されていたのだ。

【紋章型の非固定浮遊部位】は停止状態であるためか、静かに浮いているだけであるが威圧感はかなりのものであった。

 

 

『剣もやる気満々だな』

 

 

 その様子を見た一夏が小さく呟くと彼の隣にいた箒もうなずく。

 

 

天之常立神(あめのとこたちのかみ)十種神宝(とくさのかんだから)の併用……エネルギー消費は一気に高まるけど、それだけ高機動になるし戦闘力も上がる。剣も本気なんだ……っ)

 

 

 十種神宝の詳細スペックを唯一知っている簪が小さく息をのむが、グッと手を握った後ほほ笑む。

その笑みは全力でぶつかってくる好敵手達に自然に浮かんでしまったものだった。

 

 

「みなさーん、準備はよろしいですかー? スタートポイントまで移動しますよー!」

 

 

 副担任である真耶の声の後、各々が頷いてマーカー誘導に従ってスタート位置へと移動を開始する。

数分の後、それぞれがスタート位置へとつく。

会場からは割れんほどの歓声が響いていた。

 

 

『さぁ、白熱のキャノンボォォォォル・ファァァァストっ! 第2戦の専用機レースの開幕だぁっ!!』

 

 

 かなり長いリーゼントの男性が今回のMCであり、手に持ったマイクへ向かいレース開幕の宣言を上げる。

彼の言葉にさらに会場は盛り上がっていく。

 

 

『男性搭乗者2名が参加する第1学年専用機レースっ! さぁ、コースに魔法をかけようっ!!』

 

 

 彼の言葉と同時に、剣達の目の前に空間投影ディスプレイでシグナルランプが表示される。

 

 

『カウント開始ぃっ!! Into the Stormっ!! スピードと共に風になれぇっ!!』

 

 

 ――3!

 

 

 白式、紅椿、甲龍、ラファール、レーゲンのスラスターから光が溢れていく。

 

 

 ――2!

 

 

 弐式・飛燕、ブルー・ティアーズのスラスターから発せられる音が、高音に変化していく。

 

 

 ――1!

 

 

 都牟刈のスラスターから、翡翠色の光が大きく噴出する。

 

 

『キャノンボール・ファストォ! イグニッションッ!!』

 

 

 その合図とともに、全機がロケットスタートを決めて発進していった。

 

 




天之常立神(あめのとこたちのかみ)】+【十種神宝(とくさのかんだから)】=都牟刈アサルトバスター

次回予告

「第18話 終わらない蒼の円舞曲(ブルー・エンドレス・ワルツ)


(アイ・ハブ・コントロールっ!)

布留部 由良由良止 布留部(ふるべ ゆらゆらと ふるべ)

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