翌日 日出工業本社 地下IS開発/整備区域
【日出工業】
最先端科学を応用した製品を生み出している企業でありシャープペンから果てはスペースシャトル、災害救助用のパワードスーツや重機まで幅広く扱っている。
IS部門にも進出しており、日本では倉持技研と双璧をなし企業所属のIS搭乗者もいるほどであった。
またあまり知られてはないが、更識家は倉持技研と日出工業に出資をしており密接な関係を構築していた。
その日出本社の地下IS開発/整備区域に剣と楯無の姿があった。
メンテナンスベッドの上に鎮座する、マニピュレータのパーツや組立途中の武装パーツなどが金属音と共に組みあがっていく様を見る機会は中々ないだろう。
彼らの目の前を整備士や白衣姿の研究員が世話しなく行き来するため、10代である剣と楯無の姿はだいぶ浮いていた。
「小学校の工場見学以来だな、こういうの見るの」
制服姿である楯無とは異なり、剣はISを効率的に運用するための専用衣装である【ISスーツ】を身に纏っている。
黒を基調とした彼のそれは、一般的に流通している腹部を出すデザインのものとは異なり首から下全てを覆うタイプだ。
「はいはい。工場見学に来たわけじゃないからね?」
物珍しさから周囲をきょろきょろと見回していた剣を、ジト目で見上げながら楯無が言う。
女性としては少し高めの身長である160cmの楯無よりも、20cmほど剣の背が高い為か自然と見上げる形になる。
分かってますよと表情で返答した剣にため息をついた楯無だったが、視界に映りこんだ白い影に意識が向けられた。
二人の目の前に、【黒のスーツの上によれた白衣を来た男性】が小走りで現れる。
身長は180cmの剣よりもさらに数センチ高く顔は十分端正な部類に入るのだが、黒の癖っ毛のボサボサの具合や目の下には盛大に刻まれている隈で台無しになっていた。
「どうもどうも、更識さん。待たせてしまったようですいません」
「いえ、お忙しいところお時間を作っていただいたのはこちらなので」
男性は操作していたタブレットをスリープモードに切り替えた後、楯無に頭を下げてそれから剣に視線を合わせる。
「成程、彼が?」
「はい。剣、彼がアナタの検査を担当する【ジャック】さんよ」
「初めまして、草薙剣です」
「こちらこそ初めまして。紹介に預かりました【ジョン・ヌル・ドウズ】です。ジャックと気軽に呼んでください」
「分かりました、ジャックさん。よろしくお願いします」
ジャックから差し出された握手に、剣は喜んで返す。
するとジャックは視線を下に落とした。
「男性用ISスーツ、着心地はどうかな?」
「そうですね。身体は動かしやすいですね」
「よかった。それは僕が作ったものでね……おっと、立ち話よりも君の【適正】を確認しようか」
ジャックが右側を指差す。
彼が指差した先にはメンテナンスベッドがあり、その上には【灰色の機体】が鎮座していた。
脚部・腕部の装甲はまるで武者鎧の籠手のようにも見える。
草摺や脇楯のような意匠の装甲も武者鎧というイメージを加速させる要因となった。
全体的にガッシリとした印象だな、というのが剣の初見の感想だった。
「【打鉄】、純日本製の第2世代ISで量産機種。開発元はうちのライバルである【倉持技研】。うちが所有許可されてる【5機】のうちの1つだよ……まぁ、これは技術解析の為のサンプルなんだけどね」
「なるほど……それで、どうすればいいんですか?」
剣が打鉄の目の前まで歩み寄り、振り返る。
「触ればいいだけだよ。後は機体がやってくれるから」
ジャックの言葉に頷き、改めて打鉄を視界に収め、深呼吸をしてから右手を機体に触れさせる。
その瞬間、凄まじい情報の奔流が剣の頭に流れ込んだ。
機体の操作方法、装備の詳細情報、ハイパーセンサーの稼働状況、パッシブイナーシャルキャンセラーの稼働状況、シールドエネルギーの状況etc。
衝撃、とも形容できるような凄まじい勢いに、剣は思わず目を見開く。
(っ!)
(うわっ、何これっ?!)
彼の意識の中で、ヒメが困惑したように声をあげる。
彼女にも剣と同じく情報の奔流が流れ込んでいたのだ。
時間にすれば数秒にも満たない短い時間。
気が付くと、剣は打鉄を身に纏って立っていた。
『……これが、ISか』
腕部マニピュレータが開閉して握り拳を作り上げる。
自分の思った通りの操作、まるで肉体そのままのように操れる。
そしてISに搭乗してから一気に広がった視界。
数10m離れた場所でこちらを驚愕の表情で見つめていることが手に取るように分かる。
頭に流れ込んだ情報にあった【ハイパーセンサー】と呼ばれる機能だった。
「……更識さんから聞いていたが、驚いたね。これは」
ジャックは思わず脱帽の表情を浮かべていた。
その隣の楯無は思ったとおりと微笑を浮かべている。
『あー、えっと、【検査】ってこれで終わりですか?』
「あぁ。ISは苦もなく動かせるようだね」
『特に違和感はないですね』
身振り手振りで問題なしと伝えてくる彼の様子を見てジャックは頷く。
「なら検査は終わりかな」
『なら、私の番ですね』
ジャックが隣にいた楯無から離れると、彼女も【IS】を展開する。
それに伴いISスーツが自動展開され、彼女もISスーツを身に纏った。
【
それが彼女、ロシア国家代表【更識楯無】が使用するISだ。
剣が身にまとう打鉄とは異なり、装甲は少なく搭乗者の肌が多く露出しているデザインだ。
また右のマニピュレータには大型のランスを得物として携えていた。
『……は?』
突如、目の前でISを展開した楯無の行動に思わず剣は困惑の声をもらす。
『何故にISを装着してるんですかね、たっちゃん』
『簡単よ、実戦形式での特・訓♪』
流れるようにランスを振り回して構える楯無は満面の笑みを浮かべている。
(……なーんか考えてるな、あの笑顔。なぁ、ヒメ?)
(うん。たっちゃん、ああいう顔のときは悪いこと考えてるよね)
楯無が満面の笑みを浮かべて調子いいことを言っているときは、基本的に何か裏がある。
それを付き合いが長い剣とヒメはよく知っていた。
『……そんなこと言って今度はIS稼動させてる俺のデータ目的とか、言わないだろうな?』
ほぼ口からでまかせ、予測はしていたがそうであってほしくないという意見を告げる。
『……』
すると先程まで浮かべていた快活な笑顔が、機体をびくりと揺らした後消えた。
その替わりにまるで能面のような笑顔を顔に貼り付けてこちらを見ている。
『たっちゃん?』
一歩だけガションと剣が歩み寄ると、ランスを構えたまま楯無はガションガションと2歩下がる。
ハイパーセンサーで補正された視覚には、うっすらと冷や汗のようなものが流れているのが見えた。
『たっちゃんさん?』
『……てへっ♪』
剣がさらに詰め寄ろうとすると、彼女は可愛らしくテヘペロと首をかしげた後に機体を高速で飛翔させて上昇していく。
満足な飛翔方法が分からずフラフラと機体を上昇させる剣だったが、相手が悪すぎた。
『おいこら、楯無ぃ!』
『さっ、さぁっ、特訓よ、剣っ! 実戦形式でISの使い方、教え込んであげるわっ!』
『それはありがとう! だけど話をすり替えないっ!』
剣の怒声に、楯無はごめーんと笑いながら逃げていく。
「……仲がよろしいことで」
そんな様子をジャックは見上げながら苦笑して呟いた。
3月も後半に差し掛かった頃、第2の男性搭乗者が日本で発見されたと言う衝撃的なニュースは世界中に発信された。
2人目の男性搭乗者の名前は【草薙剣】16歳。
このニュースにIS業界の重鎮達は、彼は研究施設へ送られるものだと見ていた。
しかし実際はそんなことにはならず、1人目の男性搭乗者である【織斑一夏】と同じくIS学園への所属が伝えられた。
彼をバックアップするのは【日出工業】であり、彼は日出工業専属のIS搭乗者として登録されることにもなった。
また織斑一夏と同じく草薙剣にも【専用機】が渡されることとなっており、それは日出工業で開発された【新型機】であった。
この一連の流れの裏には、【更識家】と【草薙家】、そして日本政府の働きがあった。
剣と楯無の目的は織斑一夏の警護にある。
剣の存在を公にすることで、世界の目は一夏だけではなく彼にも向けられることになる。
そうすれば必然的に一夏へのアクションは少なくなり、警護もやりやすくなる。
もちろん剣本人にも少なからずアクションがあるだろう。
だが日ノ本に暮らす【民】を守るのが、護国の剣である【草薙家】だ。
己に降りかかる火の粉など、全て薙ぎ払うだけだ。
場所は移り、IS学園校門前。
人口島に立てられた白塗りの建設物の前に、剣と楯無の姿があった。
剣は2名しかいないIS学園の男子用制服を身に着けており、ジャケットのポケットに手を突っ込んでいた。
「写真で見たけど、綺麗な建物だよな」
「そりゃそうよ。世界各国のISに関わる人材を育成するための教育機関だからね。まず外面から、基本でしょ?」
楯無の言葉にうんと頷く剣。
校門の前にたどり着きあたりを見回すと、黒髪にスーツの女性がこちらに歩いてくるのが見えた。
佇まいから凛とした印象を感じ、絵に描いたようなできる女、といった雰囲気だ。
「時間通りだな」
「はい、織斑先生」
この世界で知らぬ人がいない、初代ブリュンヒルデ【織斑千冬】
今なお一部の熱狂的なファンには世界最強と信じられる人物が目の前に現れたのだ。
「彼がそうか?」
「はい」
「初めまして、草薙剣です。織斑千冬さん」
「織斑千冬だ。話は彼女から聞いているな?早速だが色々と確認しなければならないことや、してもらうこともある。ついて来てくれ」
千冬の言葉に剣と楯無は頷き、3人は学園内を移動していく。
現在はまだ春期休暇期間中であるため、学園内には生徒の姿は見えなかった。
「そういえば、草薙。君は更識と同い年だったか?」
「はい。そうですけど」
歩きながらの千冬の質問に答える。
剣の返答に、少しだけ言いにくそうに表情を歪ませた後彼女は告げる。
「普通の高校ならば2年として転入してもらうのだが、IS学園は少々特殊だ。そのため1年として転入してもらうことになる。すまんな」
「まぁ、別にいいですよ、1つ違いなんてあってないようなもんですし」
(それにかんちゃんやほんちゃんもいるみたいだしねー)
(そうだな。あ、【簪】にこの前借りたDVD返さないとなぁ……学生寮で会えるかな)
(あ、今度はVシネマ2作目を借りてね、剣! 私も観たいっ!)
(はいはい)
ヒメが意識の中で伝えた2人の名前は、剣にとっては見知ったものだ。
その2人もIS学園に入学することが決まっていると、楯無が嬉しそうに語っていたことを思い出した。
さてそんなこんなで、3人は校舎から2番目に近いアリーナである第2アリーナのピットに到着していた。
すでに剣はISスーツに着替えており、軽く柔軟体操を行っていた。
搭乗テストの際に身に着けたISスーツとは若干異なり、腕部には紅と白のラインが刻まれている。
日出工業内では、パイロットスーツなどと呼ばれているものであり、やはり腹部を露出するデザインではなかった。
加えて通常のISスーツと異なり、ホルダーのようなものが腰に装着されており、その中には【短刀】が収められていた
「ISスーツに着替えましたけど、この後はやっぱりISに搭乗するんですよね?」
「あぁ。君が問題なくISを動かせるかの確認をさせてもらう。君がISを動かせる映像は所属の日出工業からもらっているが、念のためのだ。基本動作をしてもらった後、ここの試験官と模擬戦を行ってもらう」
「いきなりですね」
「安心してくれ。試験官といってもここの教員だ。もちろん本気ではないし、勝敗が影響することもない。準備はできているか?」
(できてるよぉ……!)
「いつでもどうぞ」
頭の中で急にどこかで聞いたような台詞を口走ったヒメを無視して、千冬に頷く。
「よし、ならばISを展開してアリーナに出てくれ。カタパルトの接続はこちらで行う」
「了解です」
千冬の言葉に少しだけ深呼吸をした後、腰に回したホルダーから【短刀】を引き抜く。
鞘から引き抜かれた鋭い、まずで常に水で濡れているような【刃】がピット内の照明に照らされて煌く。
『行くぞ、【
淡い翡翠の光が剣の身体を包み込む。
両手、両脚、そして全身に粒子が収束し、ISが展開される。
光が収まるとそこには、【白と翡翠色】を基調にしたISが立っていた。
武装として背負う形で展開されている機体全長ほどの【日本刀型の実体剣】が目を引き、打鉄と同じく鎧武者にも見える姿のISだが特徴的なのは両腕部の装甲量が異なることだろう。
左腕部は重厚な装甲が施され籠手のようにも見えるが、逆に右腕部はほぼ生身が露出しており、最低限の装甲とマニピュレータのみとなっていた。
腰部には非固定浮遊部位としてまるで袴のようにも見えるパーツが存在しており、そのそれぞれにスラスターが装備されている。
脚部は打鉄よりも鋭角的なデザインであるが、あまり似通ってはいない。
ヘッドフォンタイプのヘッドモジュールが装備されて彼の両耳を覆っており、正常展開と装着を確認したのか【System All Green】と小さく空間投影ディスプレイで表示されていた。
この機体【都牟刈】はジャックこと【ジョン・ヌル・ドウズ】が開発した剣の専用機であり、日出工業が誇る新型の【第3世代】機であった。
『それじゃ、カタパルトに移動しますね』
機体を浮遊させて、カタパルトへと向かう。
射出用のカタパルトに機体を接続させると、千冬の言ったとおり自動で固定処理が行われた。
『剣』
コントロールが譲渡され、都牟刈のコンソールにコンディションOKが表示されたと同時に、別枠で空間投影ディスプレイが展開された。
そこに映るのは楯無だった。
『特訓の成果、みせて頂戴……頑張ってね』
『あぁ。草薙として恥ずかしくない程度には、頑張るさ』
彼女の声援に、剣はマニピュレータでサムズアップを行う。
それを見た彼女も、優しく微笑んでいた。
『草薙剣、【都牟刈】、出ますっ!』
電磁加速によって急激な加速を得た都牟刈がカタパルトから射出された。
背部スラスターと共に腰部のスラスターも丁寧に起動させて、姿勢制御を行い加速したまま青い空に向かって飛翔していく。
『――よし、基本動作の確認はこれで終了だ。問題ないな』
『ありがとうございます』
第2アリーナの上空に射出された都牟刈は、空中での基本動作を展開された空間投影ディスプレイに映る千冬の指示のもと行っていた。
ふと遮断シールドの向こう側の観客席部分を見渡すと、人の姿を確認できた。
スーツを身に纏っており、学生とも言える年齢には見えないため政府の関係者だろう。
その全員が驚愕の表情を浮かべていたことを都牟刈のハイパーセンサーは拾っていた。
(お偉いさん方か……)
(あはは、全員驚いてるっ! ざまぁないぜ!)
(……ヒメ、それどっかの漫画か?)
(ううん、アニメ。おっと、剣ー、試験官さんがおいでなすったよ)
意識内でそんなやり取りをしていると、試験官が搭乗するISが逆側のピットから射出され、相対していた。
試験官が身に纏っているのは【打鉄】と同じく量産型ISである【ラファール・リヴァイヴ】であった。
そこまではいいのだが、どう見ても相対している相手は自分と同年代の少女にしか見えないのだ。
ラファール装着状態であるため女性の象徴である果実が強調されているが、剣は見慣れているので視線が釘付けになることはなかった。
『お待たせしました。そちらの準備はいいみたいですね?』
眼鏡をかけた緑髪の美少女はそう剣に告げるが、彼は右のマニピュレータを掲げて待ったをかける。
『? どうかしたんですか?』
『あのー、学生の方ですよね。試験官は教員の方だって聞いたんですけど?』
『あうっ!?』
突如として胸を押さえ込んだ少女は、予想外の言葉に言葉を詰まらせているようだった。
『?』
彼女の様子に首をかしげる剣だったが、先程の閉じた空間投影ディスプレイが眼前で開いた。
そこに映るのはジト目でこちらを睨んでいる楯無だった。
『……剣、彼女は【山田真耶】先生。ここの正式な教員の方よ。つまりアナタより年上』
『えっ!?』
『私、そんなに童顔でしょうか……うぅ』
『あっ、そのホント、すいません。お若いので思わず……』
『あっ、いえ、こちらこそ……まずは自己紹介をするべきでした』
互いISに搭乗した頭を下げあっている光景はそうそう見られないだろう。
そんなやり取りを数分続けた後、真耶がこほんと咳払いしてから告げる。
『私が、草薙君の試験官の【山田真耶】です。これから模擬戦を始めますので、準備はいいですか?』
『はい、よろしくお願いします。山田先生』
剣がそう言って、背後に背負う形でマウントされている【日本刀型の実体剣】を引き抜く。
鈍色の刃に光が反射して煌く刀身、その日本刀【無銘】を所謂【八相の構え】で剣は構える。
通常のそれよりも、若干前屈みな体勢なのは高速戦闘が基本のISバトルに適応するために、彼が判断したものだった。
余談だがこの【無銘】には開発者であるジャックは【草薙】という名前をつけようとしたが、剣はそれを断固として拒否していた。
彼曰く、そうやすやすと【その名前】をつけるわけにはいかないという拘りもあったのだ。
(……成程、草薙君のISは近接格闘型。なら……!)
五十五口径アサルトライフル【ヴェント】を2丁展開し両マニピュレータに構えた真耶も戦闘態勢に入る。
2人が戦闘態勢に入ったことを確認したのか、その数秒後に試合開始のコールがアリーナに響いた。
瞬間、都牟刈が機体各所のスラスターを全開に稼動させて得られる加速を持って、真耶に切りかかる。
『先手必勝っ!』
速度を全く殺さずに振り下ろされる刃。
しかし、その刃は虚空を切った。
(剣、上っ!)
ハイパーセンサーと意識の中のヒメの声に、咄嗟に右方向に機体を加速させた。
上方から降り注ぐ、鉛の雨は回避行動を続ける都牟刈を追跡してきた。
『中々の加速ですが、動きが一直線すぎですっ!』
『ぐっ!』
弾丸の雨は彼女の正確な偏差射撃により、都牟刈に数発被弾してエネルギーを削り取っていく。
被弾によって崩れた体勢を、スラスターとバーニア、PICを応用した【
ISに搭乗して僅か2ヶ月程度の彼が、基本にして高等技術である【AMBAC】を扱うのを見て真耶は思わず笑みを浮かべた。
(AMBACは正確。先程の加速も速度としては申し分なかった。とても搭乗経験が2ヶ月程度しかないとは思えません。楯無さんのお陰でしょうか)
真耶の予想通り、適正が判明した後に楯無が彼に実戦形式で特訓を施していた。
彼女も国家代表としての業務や、IS学園での仕事、そして更識としての裏の仕事があったが、その合間を縫って剣の特訓に精を出してくれた。
高速戦闘の基礎や【
だがそれでも相手が悪すぎた。
『ちぃっ!』
AMBACで体勢を立て直した都牟刈は左腕を、上方にいる真耶のラファールに向ける。
するとガシャンと左マニピュレータの装甲カバーが展開され、そこからガトリング砲が覗く。
『【
ガトリング砲が高速回転し、そこから光弾を連続で発射していく。
左腕部内蔵エネルギーガトリング【
実弾武装よりも扱いが難しいエネルギー武装であり試作武装の面が強いが、その威力は折り紙つきだ。
連続発射された光弾が多少バラつきながらも、ラファールを狙う。
しかしそれらを真耶のラファールは踊るように回避していく。
回避しながらもヴェントを格納したラファールは、今度は無骨な大型銃器を量子展開した。
それは一般的には【グレネードランチャー】と呼ばれるものであり、当然IS用に調整されたものであるため威力は桁違いに高い代物だ。
『狙いが甘いですっ!』
ポシュンという気の抜けたの様な音で発射された炸裂弾頭は、【玉祖命】の吐き出す弾幕をすり抜けて発射されたばかりの至近距離に位置した光弾へ直撃し、爆ぜた。
『ぐぅっ!?』
爆発によって生じた衝撃に思わず弾き飛ばされた都牟刈だったが、すぐに姿勢制御スラスターを稼動させて体勢を立て直す。
だが追撃で発射されてくる炸裂弾を相手に成す術もなく回避を選択するしかなかった。
(……強いな)
ここまでの短いやり取りだったが、この展開に剣は脱帽するしかなかった。
千冬曰く、本気では相対してはいないとのことでその実力差を痛感することになったのだ。
(うん。あれで本気出してないってことは先生って強いんだね)
(……流石にこのままなす術なくやられるのは情けない。それに訓練に付き合ってくれたたっちゃんに申し訳が立たない)
(まだ諦めてないんだね、剣)
(当然だ)
劣勢である彼を奮い立たせるのは、護国の剣である【草薙】としてのプライドだけではない。
訓練に付き合ってくれた楯無に申し訳が立たない。
(なら【切札】を切ってみる?)
(あぁ。【
真耶のラファールからして少し離れた後方から【玉祖命】で射撃を行っていた都牟刈は、武装を格納しつつ体勢を整える。
整えると同時に、【瞬時加速】で真耶に一気に近づく。
(また一直線……その程度ならっ!)
その速度は高機動機としては十分のものだったが、あまりにも単純な一直線の機動でありカウンターを狙うのは真耶にとっては容易であった。
都牟刈が【無銘】を振り上げると同時に、両マニピュレータに握るグレネードランチャーから炸裂弾が発射され――
――虚空を切った。
(避けられたっ!?)
グレネードは完璧に命中する軌道/タイミングだったのに、回避された。
その事実に目を見開く。
どうやって都牟刈がグレネードランチャーを回避したのか。
それは、都牟刈はまるでそこに【足場】があるかのごとく跳躍して回避したのだ。
上方に移動した都牟刈だが、今度は【透明な何か】を握り跳躍によって得た加速そのままに、真耶のラファールに【無銘】を振り上げつつ飛び掛った。
(【
(分の悪い賭けは嫌いじゃないよっ!)
剣が行ったことは単純だ。
【
【
それは草薙家に伝わる【体術】である。
指が引っかかる僅かな取っ手や、足場を利用して跳躍して加速しそれを連続してつなげる事が基本であり、その体形は【パルクール】に近い。
草薙に所属するものは、全員が修めている基礎にして奥義ともいえる体術。
パルクールと決定的に違うのは、取っ手や足場を最大限に行かす強靭な四肢の力を持つことが前提でもあるため、相応の修練をしなければならないところだ。
19代目の草薙党首でもある剣も高いレベルで修めており、彼にとっては狭い屋内であっても標的を仕留める為に事欠かない
そして何もない空中を当然蹴れるわけがない。
だがそれを可能にしたのは、【
機能としてはごくごく単純。
PICとシールドエネルギーを応用して、空中に【力場】を構築するだけのもの。
【力場】はマニピュレータで干渉できるため、武装に転換できないかを研究されていたものだが、現時点では技術的に不可能という判断が下されている。
またこの【力場】は搭乗者のイメージで生成できるため、都牟刈が【第三世代】に含まれるのはこの装備があるからだ。
単体では攻撃能力のない装備。だがそれが剣の【
しかも、生身とは異なりISのパワーアシストと機能有りでの使用だ、精度や速度は比較にならない。
ISバトルの経験値で真耶に天地がつくほどの差を付けられている剣だが、この戦術ならば通じると確信を持っていた。
『後ろっ!?』
スラスターでの高速移動や瞬時加速を用いた高等技術とは異なる変則機動。
目の前で空中を数度【跳躍】して背後に回り込むなど、代表候補生として気の遠くなるほどの試合を重ねた彼女も見たことがなかった。
『うおぉぉぉっ!!』
咆哮とともに逆袈裟気味に振り抜かれる【無銘】の刃。
驚愕が身体を硬直させてしまい、瞬時加速も間に合わなかった。
咄嗟にグレネードランチャーを盾として使用することで、刃を防ぐ。
だが完全に無傷で防ぐことは叶わなかった。
シールドエネルギーが減少し、体勢を崩す。
(このまま一気にいけぇ、剣ぃっ!!)
(頭の中で怒鳴るなっ!)
グレネードランチャーを真っ二つにした、返す刃が真耶のラファールに迫る。
その瞬間、試合終了のコールが響いた。
『……えっ?』
真耶のラファールに迫っていた無銘の刃がピタリとその動きを停止させる。
『試合終了……ですか?』
思わず目の前の真耶に尋ねる。
『はい』
『分かりました。せめてもう1撃与えたかったですが……カウンター喰らっていたかもですね』
剣はそう言って、視線の先をラファールの腕部に移してから苦笑を浮かべる。
彼女のラファールの右手には、盾として使用したグレネードランチャーの代わりとなる五十五口径アサルトライフル【ヴェント】を展開して構えていた。
試合終了のコールがなく、剣が攻撃を続けていた場合至近距離からの銃撃を受けていた可能性があった。
タイミング的に【天鳥船】が間に合うかは微妙なところだっただろう。
『ふふ。でも草薙君のあの変則機動には驚きました。まさかランチャーを破壊されるとは思ってもなかったですよ。さっきの【あれ】はどこで?』
『そこは家の都合ってヤツなので……それではお疲れ様でした。山田先生』
無銘を背負うようにマウントさせた剣は、そう言って頭を下げた。
次回予告
第2話「蒼の雫」
(トラブルメーカーってやつだね、剣も彼も)