IS-草薙之剣-   作:バイル77

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第20話 反転する意識

 

「え、もうタッグを組んじゃったのっ?」

 

「あぁ、簪とな。申請も出してきたよ」

 

 

 その日の夜。

食堂での食事も終え自室で小説を読んでいた剣の隣で、楯無が驚きの声を上げていた。

 

 

「っ、申請も出しちゃったのね……残念」

 

「たっちゃんは俺と組むつもりだったのか?」

 

「……そうね。あなたがどれだけ成長したか、タッグを組めばわかると思っていたのだけど……予定が狂っちゃったわ、もう」

 

 

 最後のほうはかなり小声になっており、剣の耳にはよく聞こえなかった。

 

 

(適性が高まった影響が剣にないか、間近で見るチャンスだったけど……いや、まぁ、楽しみにはしてましたけどっ!)

 

 

 ボスンとソファの背もたれに身体を預けた彼女は、顔を逸らしながら少しだけ頬を膨らませる。

そんな彼女の態度を少し不思議に思いながら、剣は再び読み止めていた小説へと視線を移す。

 

 それから数分、部屋には本の頁をめくる音だけが響いていたが、楯無が己に向ける視線に気づいた剣が再び本から視線を上げた。

 

 

「ん、たっちゃん、まだ何かあるのか?」

 

「……剣、ちょっと腕出して。左腕でいいから」

 

 

 頷きつつも不思議そうに首を傾げた剣を見た後、楯無は彼の左腕を取って目線の高さまで上げた。

そのまま寝間着をめくって彼の左腕を眺め、同時に左前腕部分をプニプニと触り、触診を開始する。

 

 

(……外見は何も問題ないわね。触っても特に変なところはなし……か)

 

 

 鍛えられた腕部にシコりなどの違和感は感じない。

そのまま触診を上腕部まで続けていく。

 

 

(あんな短期間でISへの適性が跳ね上がるなんて、身体に異常が出ていてもおかしくないのよね。とりあえず腕は問題なさそうだけど……)

 

 

 そのまま触診を続けていくつもりだったが、ふと少しだけ彼の腕部が震えていることに気づいた。

 

 

「っ、どうかしたのっ?」

 

 

 彼の反応に目を見開いて、視線を上げる。

すると剣は少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 

 

「いや、くすぐったいだけ」 

 

「……えっ、あっ、ごめんなさいねっ」

 

 

 遠慮せずに触診を続けていたのだから、それは当然の反応だろう。

すぐにめくりあげていた寝間着を元に戻して思わず飛びのいてしまった。

 

 

「それで、いきなりどうしたのさ?」

 

「えっ、いや……その、アナタはトレーニングが日課みたいなものでしょ? だから無理してないかなって」

 

 

 思わずごまかしてしまった楯無に、剣は苦笑して返す。

 

 

「そりゃどうも。まぁ、自分でどこまでがトレーニングになるか、わかってはいるから無理はしてないよ」

 

 

 そういって剣は、小説へ視線を戻す。

 

 

(……本当に、何もなければいいのだけれど)

 

 

 彼女もそれ以上は何も言わなかった。

 

 


 

 それから2日後、IS学園 第3アリーナ 整備室

 

 

「うん。いい感じだね」

 

 

 整備室のメンテナンスベッドへ鎮座したIS【都牟刈】。

機体本体の横には、戦闘特化オートクチュール【十種神宝】も鎮座している。

機体に接続されたケーブルが収束される端末に表示された空間投影ディスプレイと眺めながら、都牟刈の製作者であるジャックが頷いていた。

眼前のメンテナンスベッドの横には、学園への入校許可が承認された際に搬入された大きめのコンテナが数個置かれていた。

 

 

十種神宝(とくさのかんだから)のエネルギー消耗率がかなり軽減されてる……どうやったんですか?」

 

 

 その空間投影ディスプレイをジャックと共に眺めていた簪が、少し驚愕した様子で彼に尋ねた。

 

 

「十種神宝……正確には八握剣(やつかのつるぎ)だね。これを最大出力で使用するためには、宝玉4種が必要になる」

 

 

 一息入れつつ、ディスプレイを切り替えると宝玉の生成状況の画面に移行する。

先のキャノンボール・ファストで使用した4種は生成途中のはずだが、どういうわけかすでに宝玉が生成されていた。

機体のエネルギーも回復すでに5割まで回復している状況であった。

 

 

「宝玉4種を再生成するのに時間がかかってしまうのならば、もう1組4つの宝玉を用意してしまえばいい。発想を変えてみたわけだよ、そしたら上手くいった」

 

「……成程、宝玉1組をカートリッジとしてとらえて、予備を用意しておくってことですね」

 

 

 八握剣を使用した後、宝玉を再生成するためにエネルギーをそちらに回すのが現在の都牟刈の仕様である。

ならば、あらかじめ宝玉を増やしておけば再生成の優先を止めることができるのではないか。

その観点で調整を続けていたのがジャックであった。

そしてその観点は見事正解を射抜いており、機体のエネルギー回復を優先する事に成功したのだった。

 

 

「検証用機体でも同様の状況を再現できたからね。都牟刈特有の仕様ってわけだよ」

 

 

 ジャックの言葉に頷く簪だったが、ふと何かに気づいたような表情を見せる。

 

 

「でもこれだけ判明するまでの予算って……どこから出てるんですか?」

 

「……僕のポケットマネー」

 

「えっ」

 

 

 少しだけ表情を暗くしたジャックに思わず声を上げた簪だったが、ジャックはすぐに笑みを浮かべた。

 

 

「まぁ、全額僕のポケットマネーから出してもよかったんだけどね。草薙君のお家に相談したら、援助してもらえたよ」

 

「成程……草薙家も日出工業にはお金出してますからね」

 

「そういう訳だね。さて、細かい整備を手伝ってもらえるかな、簪さん?」

 

 

 簪はジャックの言葉に頷いて、整備用ポーチから工具を取り出して機体へと歩み寄っていく。

 

 その様子を少し離れた場所で、逆立ち腕立て伏せをしつつ眺めているのが搭乗者の剣であった。

その隣には、簪と同じく整備服姿の本音が面白そうにその様子を眺めていた。

 

 

「345……つまりは八握剣のエネルギー問題が解決したってことでいいんだよな?」

 

「そういうことだね。というか、つるぎん、その体勢きつくないの?」

 

「まぁ、トレーニングだから……350……予備の宝玉が用意されて、やろうと思えば八握剣が2連続で出せたりするのか?」

 

「んー、さっき私もエネルギー効率のパラメータを見てみたけど、実戦仕様(アンリミット)でもない限り無理かなぁ。実戦仕様(アンリミット)でもそれやっちゃうと動けなくなると思うけど」

 

 

 本音が少しだけ思案顔になった後、剣に伝える。

彼もその答えは予想していたものだったため頷いて答えた。

 

 

(最大火力2連発とか割とロマンなこと考えるね、剣も)

 

(別に……銀の福音みたいな零落白夜と拮抗できるような出力を持った機体が現れた時、使える選択肢が多ければ有利に働くしな)

 

(これが俺の都牟刈だぁっとか、叫んでもいいんだよ?)

 

(……俺のキャラじゃないだろ)

 

 

 意識の中のヒメの言葉に剣は苦笑を浮かべていると、メンテナンスベッドで整備を行っていた簪とジャックが手でこちらを招いているのが見えた。

 

 

「お呼びがかかったな」

 

「そうだね。さぁ、がんばろー!」

 

 

 腕立て伏せを中止して、本音と共に2人に駆け寄っていく。

その日の都牟刈のオーバーホールに近い整備作業は、夕食の時間までかかることとなったのは別の話であった。

 

 

 

 それから時間はあっという間に過ぎ、全学年合同タッグマッチトーナメント当日。

 

 

「それでは、開会の挨拶を更識楯無生徒会長からしていただきます」

 

 

 タッグマッチの開会式をホールで行っており、生徒会メンバーに含まれる剣は司会の虚の後ろで整列していた。

 

 

「おはようございます、皆さん。今日は専用機持ちのタッグマッチトーナメントとなりますが、試合内容は生徒の皆さんにとっても勉強になるものだと思います。しっかりと観戦し、学んでくださいね」

 

 

 彼女の挨拶の後、空間投影ディスプレイが展開された。

それを同じくして、楯無が己の扇子を取り出してバッと開く。

そこには【博徒上等】の文字。

 

 

「それはそれとして、生徒の皆さんに楽しんでもらうため生徒会である企画を考えました。名付けて【優勝ペア予想応援・食券争奪戦】っ!」

 

 

 彼女の言葉に、ホールに集まった生徒たちがスタンディングオベーションへと移行する。

その様子に剣はため息をつき、同じように生徒列の中で妹である簪もため息をついていた。

 

 

「これさ、明らかに賭けだよな」

 

「えぇ、まぁ、そういうことになりますね、剣」

 

 

 楯無にマイクを渡して剣の隣に移動していた虚が、少し苦笑しつつも剣に同意の言葉を漏らす。

 

 

「ですが、ちゃんと根回しは済ませていますから」

 

「……そういえば、織斑先生も何も言ってきてないもんな」

 

 

 剣が視線を教師陣に向けると、誰も反対の態度をとっていない。

千冬を含めた教員のほとんどが頭が痛そうに手を当てていたが。

 

 

「では、対戦表を表示しますっ!」

 

 

 中央にある大型空間投影ディスプレイが楯無の後ろに現れる。

そこに表示されている情報は、剣も初見のモノであった。

 

 

第一試合 草薙剣&更識簪 対 篠ノ之箒&更識楯無

 

 

「……へぇ」

 

 

 思わず剣の口から、そんな声が漏れた。

まさに最初から大本命との試合になるとは思ってもみなかったが、不安は感じていない。

それは剣だけではなく、生徒列の中の簪も同じであった。

 

 

(全力で……お姉ちゃんにぶつかってみせるっ)

 

 

 グッと掌を握った彼女の様子に気づいたのは、剣と楯無だった。

そして楯無は目線を後ろにいる剣に向けて見せる。

その目線は、全力でかかってこいと雄弁に語っていた。

 

 

 衝撃の対戦表発表から、15分後。

 

 

「あ、いたいた。草薙くーん、簪さーん」

 

 

 第4アリーナへと向かう剣と簪の元に、たったかたーっと歩み寄ってきたのは黛薫子であった。

 

 

「どうかしたんですか? これから第4アリーナに向かわないといけないんですが……?」

 

「これこれ、オッズ表が発表されててね、教えてあげようかなって。ちょうど2人そろってたからねっ」

 

 

 やっぱり賭けじゃないかと、苦笑している剣の前に薫子が紙を取りだして広げた。

 

 その紙には各選手のオッズが記載されており、1番人気は箒&楯無ペアであった。

2番人気は3年生のダリル・ケイシー&2年生のフォルテ・サファイア、次に剣&簪ペア、その次に一夏とシャルロット、同率でセシリアとロランツィーネと言う専用機持ちの生徒、その下に鈴&ラウラとなっていた。

 

 

「……意外に高いんだな、俺達」

 

「剣はキャノンボール・ファストで活躍してたからだと思う」

 

「簪さんだって、あの乱入前までは1位取ってたんだから胸張りなってっ!」

 

「お姉ちゃんは1番人気……なんだ」

 

「たっちゃんは国家代表だから、流石にぶっちぎりの人気だね。篠ノ之さんも第四世代機相当なわけで、ここ最近はたっちゃんと特訓してたみたいだし……って、そんな話はいいのよっ!」

 

 

 両手でその話は置いておいてと、ジェスチャーをして薫子が続ける。

 

 

「試合前にコメントを頂戴っ! これから全員分いかないといけないから、私も忙しいのっ! というわけで、はい、ポーズっ!」

 

 

 咄嗟のポーズも何も取れずに、シャッターが下りる。

 

 

「写真はオッケー! 次はコメントっ!」

 

「あー……頑張ります」

 

 

 薫子の勢いに若干圧されていた剣の気の抜けた言葉に、ガクッとズッコケそうになる薫子。

 

 

「優勝はもらったぜっ、くらい言ってよぉー」

 

(そんなキャラに見えるのか、俺?)

 

(いやー、バイタリティー溢れてる子っていいよねぇ)

 

 

 薫子の勢いに剣は愛想笑いしか浮かべることもできず、簪に助けを求める視線を送るが、彼女もどうしようかと困惑の視線を剣に送っており視線が交わってしまった。

つまり彼女の助けは期待できない。

 

 

「それじゃあ……伊達にあの世はみてねぇぜ……とか?」

 

「ん……? それ、俺死んでないですか? どこかで聞いたこともありますし」

 

「まぁ、冗談は置いておいて、本気のコメントを――」

 

 

 薫子がひらひらと手を振った瞬間だった。

 

 

 ――突然、地震が起きたような揺れが剣達を襲ったのだ。

 

 

「きゃぁっ!?」

 

 

 連続して襲う振動、突然の揺れに薫子が体勢を崩す。

そのまま壁に頭をぶつけそうになるが、咄嗟に剣が彼女の手を引いて抱き寄せる。

 

 

「大丈夫ですかっ?」

 

「うっ、うん……」

 

 

 抱き寄せた薫子をそっと解放した後、周囲に気を配る。

先程よりも弱くなったが振動は続いている。

 

 

「何が起こった……っ!?」

 

 

 剣の困惑の言葉と同時に、バシンという派手な音と共に廊下の電灯が全て赤に変わった。

続いてあちこちに空間投影ディスプレイが表示され、そこには【非常事態警報発令】と表示されていた。

 

 

『全生徒は地下シェルターに避難! 繰り返す、全生徒は地下――きゃぁぁっ!!』

 

 

 緊急警報を行っていた教員の声が、悲鳴で途切れる。

続けて再び大きな衝撃を校舎を襲ったのだった。

 

 


 

 

「織斑先生!」

 

 

 赤い電灯が照らす廊下を走っていた真耶が、ようやく目の前に千冬を見つけて歩み寄る。

 

 

「山田先生っ、何が起こったっ、状況はっ!?」

 

「しゅっ、襲撃ですっ! この画像をっ!」

 

 

 手元の端末から数秒前のアリーナ・カメラで確認された【襲撃犯】の姿が映っていた。

千冬にはその姿に見覚えがあった。

 

 

「こいつは……っ!?」

 

「はいっ、以前現れた無人機と同型……いえ、発展型と思われますっ!」

 

「数は?」

 

「全部で5機ですっ、各アリーナピットに上空からの超高速降下によって出現、待機中であった専用機持ちの生徒達を襲っているようです!!」

 

 

 彼女の言葉に、千冬が顔をしかめる。

だがそれは一瞬。非常時、予想外の事態における実質的な指揮は千冬に一任されている。

そんな彼女はすぐに指示を出す。

 

 

「各セクションの状況は?」

 

「最高レベルでのロックがかかっていますっ」

 

「わかった。教師は生徒の避難を優先。同時にシステムにアクセスし、ロック解除を試みるんだ。戦闘教員は全員突入用意、装備はレベルⅢでツーマンセル、拠点防衛を前提に動けっ!」

 

「了解しましたっ!!」

 

 

 真耶が背筋を伸ばして答え、己の機体を取りに格納庫へと向かう。

 

 

「……やってくれるなっ」

 

 

 真耶の背中を見送った後、千冬は思いっきり壁を殴りつける。

彼女の瞳の中には、明確な怒りの炎が浮かんでいた。だがすぐにその炎を心に押さえ込んで、事態収拾のために彼女も走り出したのだった。

 

 


 

 

『でりゃあああっ!!』

 

 

 【双天牙月】の一撃を繰り出した後、鈴は襲撃者――黒いISを蹴り飛ばした。

 その蹴りはいつぞやの借りを返すとばかりに繰り出した一撃だったが、相対する機械は特有の無機質な気配を返すだけであった。

 

 

 鈴が相対する黒い機体。

その名は【ゴーレムⅢ】。かつてIS学園を襲撃した機体である【ゴーレムⅠ】よりもはるかに強化されたそれは、シルエットも大きく変更されていた。

 

 【(くろがね)の巨人】ともとれるゴーレムⅠに対して、ゴーレムⅢは【鋼の乙女】といった容姿である。

黒いマネキンとも言い換えることができるだろう。

装甲はよりスマートに、流線形に成形され、女性的なシルエットに。

頭部は複眼カメラからバイザー型のラインタイプに変更され、巻き角のようなセンサーブレードが前面に出ている。

 

 そして最も変更されているのは両腕部である。

右腕は肘から先が大型ブレードになっており、格闘戦を前提としたコンセプトが見て取れる。

対する左腕はゴーレムⅠの意匠を残したまま、巨大化している。

しかしその掌部分には超高密度圧縮熱線を放つ砲口が4つ設けられて、まるで地獄の口のようにも見えていた。

 

 

『性懲りもなくっ!』

 

 

 肩部の衝撃砲【龍砲】がその砲口を開き、狭いピット内で避け場のないゴーレムⅢを弾き飛ばす。

 

 ――はずであった。

 

 ゴーレムⅢの機体周囲に浮遊する球状の物体が、円を描くように浮かび強力なエネルギーシールドを展開していたのだ。

衝撃砲はそのエネルギーシールドの前に、拡散され防がれてしまっていた。

 

 

『固くしちゃってっ! 防御型っ!?』

 

『鈴っ、下がれっ!!』

 

 

 咆哮と共に右腕のプラズマ手刀を起動したラウラが斬りかかる。

だがそのプラズマ手刀の一撃も、エネルギーシールドに弾かれラウラも弾き飛ばされた。

 

 

『ちぃっ、固いっ!』

 

 

 AMBACで体勢を立て直したラウラだったが、ゴーレムⅢも狭いピット内でスラスターを用いないAMBACで体勢を整えているのを確認して、目を見開いていた。

 

 

『あの防御力に、運動性能……それにあの左腕は――』

 

 

 鈴とラウラに向けて、ゴーレムⅢは左腕を向ける。

その掌にはすでにチャージを終えたビーム粒子が迸っていた。

 

 

『……火力もダンチってわけね』

 

 

 爆発が、ピット全体を揺るがした。

 

 


 

 

『くっ、なんなんだよっ、こいつはっ!!』

 

 

 天井をぶち破って現れたゴーレムⅢは、そのままの勢いで一夏の白式・雪羅へと右腕のブレードで斬りかかる。

その一撃を何とか一夏も雪片二型で受け止め、周囲には金属音が木霊する。

 

 つばぜり合いの形にもつれ込むが、ゴーレムⅢは白式・雪羅に蹴りを繰り出す。

 

 

『ごっ!?』

 

 

 防御が間に合わず、もろに蹴りを食らい一夏は体勢を崩す。

そのままチャージしていた砲口のある左腕を一夏に向けた。

 

 

『このぉっ!!』

 

 

 炸裂音と共に、ゴーレムⅢの左腕へ六十九口径パイルバンカー【灰色の鱗殻(グレー・スケール)】が撃ち込まれた。

 

 

『シャルっ!!』

 

『だめっ、伏せてっ!!』

 

 

 高威力のパイルバンカーを撃ち込まれたというのに、ゴーレムⅢはこちらにビーム砲を向けていたのだ。

シャルロットは警告と同時に、得意の【高速切替(ラピッド・スイッチ)】で物理シールドを3枚展開する。

刹那、熱線がシャルロットに向けて放たれた。

 

 

『くぅ……っ!!』

 

 

 強固なリヴァイヴの物理シールド、それが3枚重ねでも防ぐことができなかった。

わずかに貫通した熱線は、彼女の右腕を焼いていた。

 

 

『シャルッ、大丈夫かっ!?』

 

『だっ、大丈夫っ……ちょっとシールドエネルギーを失っただけだから……』

 

 

 シャルロットが気丈に振舞っていることは一夏にははっきりとわかっていた。

それが彼の怒りに火をつける。

 

 

『この野郎ぉぉっ!!』

 

 

 今の己にできる全力の瞬時加速。

その加速を乗せた一撃を叩き込む、はずだった。

 

 だが、全く同時にゴーレムⅢは同じように瞬時加速で加速していたのだ。

 

 

『瞬時加速っ!? あの出力はっ!?』

 

 

 一夏を止めようとしたシャルロットだったが、すでに遅かった。

 

 ゴーレムⅢと白式・雪羅の刃、先に届いたのは、ゴーレムⅢのブレードだったのだから。

 

 

『一夏ぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 


 

 

 赤い電灯で照らされた巨大な刃が、黒のIS――ゴーレムⅢへと迫る。

 

 

――  草薙流剣術 壱式【大蛇裂(おろちさき)】 ――

 

 

 左腕の切り裂くつもりで放った都牟刈を駆る剣の一撃。

だが、その渾身の逆胴の一撃も展開されたエネルギーシールドに弾かれてしまった。

 

 

『ならばぁっ!!』

 

 

 ゴーレムⅢが体勢を立て直す前に、都牟刈がそのままゴーレムⅢへ組み付く。

同時にスラスターを全開で起動させ、轟音を響かせて壁をぶち抜いてピットへと侵入する。

 

 

『剣っ、逃げてっ!!』

 

 

 組み付かれたゴーレムⅢがそのまま左腕を剣に向けていたことに、後方で敵を観察していた簪が気づく。

すでに都牟刈は戦闘特化オートクチュール【十種神宝】を、打鉄・弐式は高機動オートクチュール【飛燕】をそれぞれ装備していた。

 

 打鉄・飛燕の両腕部に装備された【掌部ビーム砲 飛鳥】が煌めくと同時に、ゴーレムⅢの熱線が放たれる。

全く同タイミングで放たれたエネルギーが空中でぶつかり合い、大爆発を引き起こした。

 

 エネルギーがぶつかり合う瞬間、組み付きを止めて離れていた都牟刈が爆煙を振り払うように現れる。

同じように、ゴーレムⅢもほぼ無傷の状態で現れた。

 

 

 都牟刈と打鉄・弐式はそのままゴーレムⅢから距離を取りながら、作戦を練っていく。

 

 

『……この狭い空間だ、お互いの機体の特性が十分に発揮できない』

 

『……うん。アリーナにでるのは、どう?』

 

『シールドは?』

 

『私たち2機なら、破れるはずっ』

 

 

 簪はそう言って、高機動オートクチュール【飛燕】用に調整された対複合装甲用超振動薙刀【夢現(ゆめうつつ)】を展開する。

彼女の言葉に頷いた剣も、己の得物である大型実体剣【無名】の柄に力を籠める。

 

 

『わかった、行くぞっ!!』

 

『うんっ!』

 

 

 都牟刈と打鉄・飛燕の肩部大型ウイングスラスターが煌めき、剣と簪が飛び出していく。

 

 


 

 

『はぁぁぁぁっ!!』

 

 

 箒が操る二刀流の払い上げで、ゴーレムⅢは右腕のブレードを弾かれる。

余剰衝撃をAMBACで立て直そうとしたゴーレムⅢだったが、その隙を見逃す楯無ではない。

 

 

『もらったっ!!』

 

 

 特殊ナノマシンで超高周波振動の水を螺旋状に纏ったランス【蒼流旋(そうりゅうせん)】による一撃突破の突撃(チャージ)

ゴーレムⅢの身体に突き刺さった一撃が身体を貫くよりも早く、ゴーレムⅢが左腕でランスを握りしめていた。

 

 

『箒ちゃんっ!!』

 

『はいっ!!』

 

 

 楯無の叫びと共に、背部展開装甲を起動して楯無の背後に回り込む紅椿。

機体から齎されれる莫大な推進力を、楯無の【霧纏の淑女】が受け止めて、そのまま3機がアリーナ・ゲートへと向かっていく。

ぐんぐんと加速していく機体へ、アリーナへの接近警報が表示されるが、2人はそれを無視してさらに加速していく。

 

 

『くらいなさいっ!!』

 

 

 ランスを握る手に力を籠めるとともに、蒼流旋に装備されたもう1つの武装【4門ガトリングガン】のトリガーを入れる。

 

 ゴーレムⅢがその射撃を可変シールドユニットを使って防ごうとするが、防御の瞬間、その背中をアリーナ・シールドへ叩きつけられた。

 

 

『ぐぅ……っ!!』

 

 

 正面からの衝撃と、紅椿の推進力。

その両方に晒される楯無の身体には激痛が迸っている。

 

 

(まだよっ、こいつは必ずここで仕留めるっ!! 護国を背負う人間が負けるわけにはいかないのよっ!!)

 

 

 だが、彼女が痛みなどで攻勢を止めることはない。

 

 

『このまま、こいつの装甲を貫くわよっ!! 推進力を上げてっ!!』

 

『でっ、ですが……!!』

 

『やれっ!!』

 

 

 痛みで顔を歪めながらも、鬼気迫る表情で箒へと激を飛ばす。

彼女の怒号に、びくりとしながらも言われるとおりに箒は展開装甲の出力を上げる。

 

 

(ぐっ……!)

 

 

 背中から圧迫されるかのような強烈な重量感。

だが、攻撃の手を止めることはない。

水のドリルランスに搭載されたガトリングガン。

この攻撃は確実にゴーレムⅢの装甲を削り取り、火花を散らし続けているのだから。

 

 

『まだよっ!!』

 

 

 それまで両マニピュレータで支えていたランスを左腕に任せ、右腕を真上に突き出す。

彼女の掌の上に、水が集まっていく。

 

 

『奥の手、切札は最後に切るもの――【ミストルテインの槍】』

 

 

 ――【ミストルテインの槍】

それは防御用に表面装甲を覆っているアクア・ナノマシンを1点に集中、攻勢形成することで莫大な威力となす大技である。

構成するすべてのアクア・ナノマシンが超振動破壊を行う破壊兵器の塊であり、表面装甲がどんな素材で構成されていても紙屑の様に突き破ることができる。

しかも、敵の装甲内部でアクア・ナノマシンはエネルギーを転換することで、爆発を起こすことが可能。

その総エネルギーは理論上は小型帰化爆弾4発分に相当する、霧纏の淑女の切札だ。

 

 だが、ゴーレムⅢもされるがままではなかった。

楯無の行動を、エネルギーの流れで把握したのか大型ブレードで楯無を斬りつけた。

 

 通常状態ならば、そんな一撃を避けられない彼女ではない。

だが、今は【ミストルテインの槍】を作り出すことに集中しているため、防御も回避も行えず、その凶刃を己の身体で受け続ける必要があった。

 

 

『くっ、あぁ……っ!!』

 

 

 絶対防御を貫通し、彼女の美しい肌を切り裂く。

鮮血が周囲に舞い、ダメージを受け続ける楯無。しかし、彼女の顔からは笑みは消えない。

 

 

『箒ちゃんっ、展開装甲を防御にっ!!』

 

『っ、でも、楯無さんはっ!?』

 

『いいからっ、それに、私は不死身よ?』

 

 

 そういって、彼女はゴーレムに向けていた笑みを箒に向ける。

それが虚言であることは、箒もわかっていた。

だが、楯無の行動のほうが速かった。

 

 

『いくわよっ!』

 

『ダメですっ、楯無さんっ!! 死ぬ気ですかっ!?』

 

 

 箒の言葉に、楯無は答えない。

 

 

(――護国の為、貴方たちの様な人を守るために、更識はいるのよ)

 

 

 瞬間、楯無の脳裏に映像がフラッシュバックする。

そこに映ったのは初めて会った時の【■■■】の言葉。

 

 

「心にもない言葉は、言うのも聞くのも嫌いだな。そんな言葉は相手と自分を傷つけるだけだよ」

 

 

(――私、こんな時に、何を――)

 

 

 ――【ミストルテインの槍】、起動。

 

 


 

 

『爆発っ!?』

 

 

 第3アリーナのフィールドに出ることに成功した剣と簪は、突如巻き起こった反対側ゲートの爆発に視線を奪われた。

 

 

『何が起こったのっ? 通信ができればいいのにっ』

 

 

 先ほどからこの場にいるであろう楯無と箒に、プライベート・チャネルを開くが反応がない。

剣と簪はおそらくあの無人機がジャミングを行っているのだろうと推測していた。

 

 瞬間、超高密度圧縮熱線が2機に向かって飛んできた。

 

 

『しつこいっ!!』

 

 

 スラスターを吹かして回避に成功する。

 

 

『簪っ、たっちゃんと箒を確認してくれっ!!』

 

『剣っ、でもっ!!』

 

『大丈夫だっ! いけっ!!』

 

 

 剣がゴーレムⅢの進路を塞ぐように、簪を先に行かせるようにゴーレムⅢへ斬りかかる。

その言葉に従って、反対側のアリーナ・ゲートへと簪は機体を向かわせる。

 

 すぐに、もうもうと煙を上げるアリーナ・ゲートへたどり着いた打鉄・飛燕。

だが、煙を振り払うように現れたゴーレムⅢがこちらに熱線の砲口を向けていた。

 

 

『っ、もう1機っ!?』

 

 

 発射された超高密度圧縮熱線の雨。

光の翼が煌めき、その全てをAMBACとスラスター操作で回避してみせる。

反撃のビームを放つが、鈍重そうな外見からは想像できないほどしなやかなAMBACで、ゴーレムⅢはそのビームを回避した。

 

 

 ゴーレムⅢから距離を取って高機動によるかく乱に移る。

その瞬間だった。

 

 

 ――瓦礫の中に、見覚えのある水色の装甲を見つけたのは。

 

 

『――えっ?』

 

 

 見覚えどころではない。

 間違えるわけもない。

 

 それは己の姉、更識楯無の駆る【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】のモノだった。

 

 

『――』

 

 

 ISが搭乗者の視線の先をクローズアップする。

眼下の瓦礫の中、無残にも破壊された霧纏の淑女。

搭乗者である楯無も深いダメージを負っているのか、地面に倒れ伏せたままピクリとも動かない。

地面には彼女を中心とした赤い池が少しずつ拡大していく。

 

 

『お姉ちゃんっ!!』

 

 

 状況を理解した簪が思わず叫ぶ。

打鉄・弐式の瞬時加速で即座に倒れている姉の元へ向かう。

 

 

『お姉ちゃんっ!! お姉ちゃんっ!! 返事してっ、お願いっ!!』

 

 

 赤の池の中、腕部のみ部分的にISの展開を止めた簪が楯無を抱え上げる。

彼女の声に、楯無は答えない。

だらりと垂れた腕には数えきれないほどの裂傷と火傷、ISスーツも赤黒く染まっている。

最愛の人、超えたいと願う目標の人のその姿に涙が浮かび、頬を伝って落ちていく。

 

 

『そんなっ、お姉ちゃんっ!!』

 

 

 最悪の想像が、彼女の意識を塗りつぶしていく。

 

 

『ぐぅっ!!』

 

 

 それと同時に、簪の真横の瓦礫に上方から都牟刈が落下してくる。

落下の衝撃で剣は額から出血しており、手に握った大型実体剣【無名】は刀身が半ばからへし折られていた。

 

 

『やって……くれたなっ!』

 

 

 即座にスラスターを噴かせて、飛び上がろうとした。

戦意は炎の様に彼の心中にあふれていた。

 

 

 ――倒れた楯無を抱えている簪の姿が、視界に入るまでは。

 

 

『――』

 

 

 戦意など、一瞬で無に消えてしまった。

それほどの衝撃が、その光景にはあったからだ。 

 

 倒れた楯無。それを抱きかかえる簪。血に染まった体躯。だらりと垂れた腕。流れ出る鮮やかな赤。焼かれた肌。開かぬ眼。砕けた鎧。折れた槍。慟哭の涙。紅に染まっていく姉妹。認めたくない現実。突きつけられた事実。

 

 

『――(かた)――()?』

 

 

 その【()】がこぼれ、彼の瞳は光を失い虚の様に変わっていく。

 

 その様子は先の銀の福音迎撃作戦の際、八坂焔と初めて相対した時と酷似していた。

あの時は楯無の言葉で冷静さを取り戻すことができたが、今は当の彼女が傷つけられた状態であるため、それは望めない。

 

 では、冷静さが完全に消失した彼はどうなるのか?

 

 

(っ、剣、落ち着いてっ、たっちゃんならまだ生きてるっ!!)

 

 

 都牟刈のハイパーセンサーは、ヒメの言う通り生体反応を検知している。

だが、その言葉は剣に届いていない。

 

 

『――はぁっ、はぁっ、はぁっ――』

 

 

 呼吸が早まる。

 

 口から取り込んだ空気が、喉で全てなくなってしまったかのような錯覚。

細胞が空気を取り込むことを止めてしまったような幻覚。

いくら空気を取り込んでも、呼吸が安定しない。

 

 

『な――んで』

 

 

 彼女は快活に笑う存在(ひと)だ。

 

 彼女は常に笑顔を振りまいてくれる家族(ひと)だ。

 

 彼女は常に傍にいてくれる(ひと)だ。

 

 彼女は大切な女性(ひと)だ。

 

 彼女がいなくなるわけがない。

 

 

 刀奈の笑顔が、匂いが、声が、温かさが想起される。

 

 

――もしも 

      ――もしもの話だけど

 

 

 ――剣はお姉ちゃんが

      ――いなくなったら

 

 

 ――どうする?

 

 

 己の妹にも等しい少女から、問われたif(もしも)の幻聴。

 いまだに明確な答えを出せずにいる問。

 

 

 ――もし、彼女がいなくなったら?

 

 

 額に負った裂傷から垂れた赤が眼球にしみこんでくる。

 瞳の奥が燃えているかのような、熱と痛みが奔る。

 

 

 彼女の快活な笑顔に血がぶちまけられる。

 

 彼女の笑顔が血に塗りつぶされる

 

 彼女が自分の傍から離れていく。

 

 彼女がいなくなってしまう。

 

 彼女という存在がこの手から零れ落ちていく。

 

 

 刀奈の笑顔が、匂いが、声が温かさが血に潰れていく幻覚。

 幻覚の映像がいとも容易く理性を焼いていく。

 

 

 ――フザ、けるな。

 

 

 怒りが、血管を駆け抜けていく。

 幻覚で焼かれた脳が、意識が、急速に蘇っていく。

 

 

 ――草薙は護国の為の存在だよ、■■■。

 

 

 幼い頃から、そう教えられてきた。日常の中で一秒たりとも忘れたころのない教えだ。

 その教えは信じている。己の中に確固たる柱として存在している存在意義だ。

 

 

 ――草薙の持つ力は全て民と国のために使いなさい。それは義務であり、決して忘れてはいけないことだよ。

 

 

 何度もそう教えられた。呼吸や食事と同じように、生き方として刷り込まれている。

 それに疑問を持ったことはない。疑問を持つこともない。

 己はそういう風に教育されたのだから。

 

 

 ――ならば、彼女のために己の力を使うことに何の問題がある。 

 

 

――カチリと撃鉄が上がる

 

 ──そうだ
──それでいい 

 

 ──彼女はいつも笑っているんだ
──彼女が血に伏していていいわけがない 

 

 ──彼女が傷付いていいわけがない
──彼女を 

 

 ──傷つけるのならば
──■■■ 

 

 ──■■
──■ろせ 

 

 ──ころせ
──ころせ 

 

 ──奴だけは
──"草薙(オレ)"の全てにかけて 

 

 

──殺す──

──殺す──

 

 

 ドクンと、心臓が脈動し、血流が全身へと行き渡る。

鼓動の度に熱い溶岩のような血潮が巡るのを感じる。

 

 

『――ハァ』

 

 

 (からだ)の中の余分な熱を吐き出すように、大きく息をつく。

 

 深い呼吸が心臓から、手足へ酸素を運ぶ。手足をめぐり、脳へ。再び心臓へ熱を届ける。

(ちしお)に乗るのは【本能】。連綿と受け継がれてきた【習性】。

 

 

(剣っ、ダメッ、落ち着いてっ! 冷静に行動しないとっ! 思考を放棄しないでっ!)

 

 

 己の半身が、叫んでいる。

 

 

(――心は冷えた。状況も見えている。問題はない、だから――)

 

 

 ――理性(よぶんなかんがえ)は、邪魔だ。

 

 

(剣っ、つるっ――)

 

 

 意識の中の半身の声が消える。

 

 同時に己の意識は研ぎ澄まされて冴えていく。氷の様に。冷たい()の様に。

明確に残るのは【本能と習性(くさなぎのしゅうせい)】。

己の身で日ノ本の民を守る。そのための疑問は持たず、ただ対象をせん滅するだけ。

ただそれだけの為に存在する機械装置。

 

 

 剣の虚ろな瞳に殺意の光が宿り、現状を再把握する。

マニピュレータに握る、刀身が半ばから折れた無名に視線が移った。

 

 

 ――もうこれは、いらない。

 

 

 ゴーレムⅢに叩き折られた無名を投棄する。

そして、十種神宝の宝玉全てを眼前に出現させる。

 

 

『――』

 

 

 手刀で、4つの宝玉を全て叩き割る。

同時に背後に宿る力を感じながら、紡ぐ。

 

 

一二三四五六七八九十(ひとふたみよいつむななやここのたり)

 

 

 祝詞。

本来は守護の想いを込めるべきものだ。

だが今はただ、殺意を込めて紡ぐ。

 

 

布留部 由良由良止 布留部(ふるべ ゆらゆらと ふるべ)

 

 

 霧纏の淑女の自爆攻撃で、装甲の大部分にヒビが入っている。

 

 

(――あの状態ならば、最大火力で貫ける)

 

 

 目の前に量子展開された剣の柄を掴み上げる。

その瞬間、ゴーレムⅢが瞬時加速で剣の間合いに入り込んだ。

 

 

『――あぁ?』

 

 

 気の抜けたような声をかき消すように、ゴーレムⅢは都牟刈に向かってブレードを振り下ろした。

ガギンッと高い金属音が周囲に響き、装甲の破片が舞う。

 

 だがゴーレムⅢのブレードは、都牟刈|には届かなかった。

ブレードが振り下ろされる瞬間、剣がスラスターを点火させた左脚でブレードを蹴り飛ばしていたのだ。

しかし装甲硬度の違いからか、蹴りで防御した都牟刈の左脚の装甲にヒビが入り稼働状態にアラートが表示されていた。

柄だけが出現していた【八握剣(やつかのつるぎ)】は再び、量子となって消えていく。

 

 

『――ハッ』

 

 

 ――笑わせる。機械風情が踊るのか?

 

 

 己の口が笑みで歪んでいくのがわかる。

 

 

 ――いいだろう。すぐに終わらせてたまるものか。

 

 

 脳裏にフラッシュバックするのは、倒れた刀奈の姿。

朗らかに、快活に笑う彼女が血の池に沈む。己の手の間から零れ落ちていく。

あっていいはずがない。消して許容していいことではない。

だから、決して楽に消していい相手ではない。

 

 蹴りの衝撃で、体勢を崩したゴーレムⅢへ瞬時加速で一気に近寄る。

互いの近距離武装が意味をなさないゼロレンジ。有効な武装など互いに装備していない。

可変エネルギーシールドですらこの距離ならバリアを張ることもできない。

 

 いや、正確には装備などせずとも生まれながらにして、持っているものがある。

ゴーレムⅢも人型なのだから、当然持っているもの。それは【拳】だ。

原始的な、素手(ベアナックル)での格闘。

 

 

『――シッ』

 

 

 ゴーレムⅢの反撃より速く、速く、速く、拳で突く。

連撃の度に、高い金属音が響く。

 

 

 ――突く。

 

 

 ――機械が一丁前にも反撃の所作取る。ならば先に相手の拳(そこ)を突いて潰す。

 

 

 ――稼働をはじめた関節部分を突いて、初動を潰す。左手のマニピュレータが動いている。破壊できなくとも蹴りで弾くことで行動をとらせない。己と同じように蹴りを繰り出す。拳底を下方向から叩きつけることで蹴りの軌道を逸らす。再びマニピュレータを動かそうとする。阿呆が、同じことの繰り返しだ。愚図が、精彩さがかけてきているぞ。

 

      

 肺の中の空気、全てを使っての連撃。

マニピュレータや脚部がゴーレムⅢに命中する度に、少しずつヒビが拡大していっている。

 

 しかしそれに比例するように、いや明らかに傷つく速度は都牟刈のほうが速かった。

すでにコンソール上では両マニピュレータの機能は、正常稼働状態の4割まで低下していた。

 

 

 ――こんなものじゃあない。こんなものでは納得できない。

 

 

 ゴーレムⅢに拳の連撃を食らわせた剣だが、相手は機械(マシーン)だ。

衝撃は相当のモノであったが、そもそも生物特有の【痛覚】が存在していない。

いくらか腕部の稼働に影響が出てはいるようだが、致命傷には程遠い。

 

 

 ――こんなもので済むはずがない。貴様は彼女の痛みの報いを受けるんだよ。

 

 

 ならば致命傷を与えられる武器を使えばいいだけの話。

 

 

 ほんの一息呼吸を挟み、身体中の細胞に活力を与える。

ゴーレムⅢの動きが散漫になったおかげで、一息の呼吸と、切札を抜く時間は十分に稼げていた。

 

 先程格納した柄を再び眼前に量子展開して、そのまま引き抜く。

 

 引き抜いた【八握剣】の柄から、巨大な光刃は現れなかった。

本来ならば150mの巨大な刃を形成するはずの柄は未だ光の粒子を溢れさせているだけ。

 

 

『――ハッ』

 

 

 だが、それは剣の操作によるものであった。

少しの笑みをこぼした後、都牟刈は瞬時加速でゴーレムⅢに組み付いていた。

ほぼほぼ体当たりといってもいい勢いでゴーレムⅢの懐に潜り込み、柄をゼロ距離でゴーレムⅢに押し当てる。

 

 

『消えろ』

 

 

 彼のその言葉と同時に、凄まじい閃光が周囲を照らす。

それは剣。光の粒子で構成された灼熱の熱量を持つ、光の刃であった。

瞬時に柄から顕現した光の濁流は、アリーナを覆っていたシールドバリアを飴細工の様に貫通して空へと延びていく。

 

 如何に装甲が頑強でも、それ以上の威力を押し付けられたのならば結果は1つ。

剣が密着したゴーレムⅢは機体の真ん中を、【八握剣】が貫通し熔解している。

 

 

『――ハ、ハハッ、ハハハッ!!!』

 

 

 ――屑鉄には相応しい姿だな。

 

 

 心の底から快感が湧き上がってくる。

 身体の一部が怒張するかのような、凄まじい快楽の渦。

 殺意が昇華された快感は、絶頂のそれと等しい。

 

 八握剣を振り上げる。

機体中心部を貫通している光の刃が、いとも容易くゴーレムⅢを頭部まで真っ二つに切り裂いた。

切り裂かれ機能を停止したゴーレムⅢは、そのまま落下して爆発する。

 

 その刹那、まだ十分なエネルギーを残していたもう1機(・・・・)のゴーレムⅢが、ブレードを振り上げて間合いに飛び込んでいた。

 

 

『――あぁ?』

 

 

 視界の端で、それを捉えていた剣は迎撃のために拳を振り上げようとするが、それ以上の速度で割り込んできた紅い影があった。

 

 

『剣っ!!』

 

 

 ガギンッと、金属がぶつかり合う音が響く。

都牟刈とゴーレムⅢの間に割り込んだのは、箒の紅椿だ。

両者の刃は鍔迫り合いの状態で、火花が散っている。

 

 

『箒か』

 

 

 形成していた八握剣が、光の粒子となって消える。

機体のエネルギーも2割を割っており、もうあまり余裕は残されてはいない。

 

 つばぜり合いのまま、もう1機のゴーレムⅢの灼熱の左腕が煌めいた。

咄嗟に剣と箒は機体のスラスターを吹かせて距離を取る。

 

 刹那、熱線が先ほど2人のいた空間を薙ぎ払う。

 

 

『くっ、でたらめな威力だなっ!』

 

 

 AMBACを終えた箒が熱線の威力に思わず苦言を呈する。

同じくAMBACを終えた剣もそれには同意であった。

 

 

『威力があろうが、当たらなければ意味がない』

 

『……剣、なんだか雰囲気が、違う……ぞ?』

 

『――少し、頭にきているだけだ』

 

 

 剣の様子がいつもと違うことに箒が気づくが、当の剣は少し肩をすくめながらもゴーレムⅢから視線は外していなかった。

 

 

『俺と、箒であの無人機を切り裂く。それでいいか、簪?』

 

『……うんっ』

 

 

 剣の言葉と同時に、2人の元に簪の打鉄・弐式が合流する。

 

 

『剣、使って』

 

 

 弐式が拡張領域から砕けた実体剣【無名】の予備を取り出して、剣に放った。

 

 

『感謝する』

 

 

 放られた無名を受け取ってそのまま構える。

所属企業が同じになった影響で、使用許可はすでにされている状態だ。

倒れた刀奈は簪によって少し離れた場所に寝かされており、それを剣も確認した。

 

 

『私が援護するから、2人であの無人機を……斬ってっ!』

 

 

 大切な人が倒れたことで彼女の目には涙が浮かんでいたが、今やるべきことを行うためにその涙を振り切って叫ぶ。

剣の視線が簪から箒に移り、交わる。同じように箒も視線を動かしていたようだ。

その様子に箒が笑みを浮かべた。

 

 

『そこまで言われてしまっては……期待に応えるべきだろうっ!』

 

『最初からそのつもりだ』

 

 

 剣も少しだけ笑みを浮かべて、2機は弾かれた様にゴーレムⅢに向かっていった。

 




次回予告

「第21話 名前の意味」


 ――その姿を、美しいと思った。


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