IS-草薙之剣-   作:バイル77

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第4話 決着とヒメの出会い

 剣とセシリアの試合が終了したあと、1時間ほどのインターバルを挟み、一夏対セシリアの試合が行われた。

前の試合で損傷したブルー・ティアーズは、パーツ交換によって修復が完了していたため、万全の状態で試合を行うことができていた。

その結果としては一夏のエネルギー切れで幕を下ろしており、試合時間は10分程度であった。 

 

 しかし、その試合内容は上々のものだった。

なぜならば、一夏の専用機【白式】は、セシリアに一撃入れることは叶わなかったが、肉薄することに成功したのだ。

最後は【瞬時加速】を用いて後方に下がったブルー・ティアーズから発射されたレーザーに撃墜されてしまったのだが。

 

 彼が善戦できた理由だが、白式には【単一仕様能力:零落白夜】と呼ばれる機能が発現していたことが大きかった。

自身のシールドエネルギーを攻撃力に変換することで相手のバリアを無効化し切り裂くことができる機能であり、その刃を受けた相手は絶対防御が発動して大きくエネルギーを削られるのだ。

 

 

「強力な能力には相応の代価が必要になる。バリア無効化攻撃である零落白夜の欠点は、燃費の劣悪さだ」

 

 

 セシリアに敗北してBピットに帰還してきた一夏に、千冬がそう告げた。

今回の場合、一夏は初使用ということもあり長時間使用していたため、すぐにエネルギーが切れてしまったのだ。

 

 

「今後は現役時代の私のデータでも見て、使い方を理解しろ。さて、30分の休憩を挟んだ後、最後に草薙との試合を行うぞ」 

 

 

 同じ頃、Aピットに帰還してきたセシリアに向かってスポーツドリンクが投げ渡された。

大した勢いではなかったため、ISを格納しつつ彼女はドリンクを受け取った。

 

 

「お疲れ様」

 

「ありがとうございます、剣さん。とても充実した時間でした」

 

 

 受け取ったドリンクを軽く呷って、彼女は一息入れる。

 

 

「一夏はどうだった?」

 

「……そうですね。彼もまた、剣さんと同じような男性だと戦って分かりました」

 

 

 剣との模擬戦を終えてふっ切れた彼女は何処か清澄な顔つきで言う。

彼女の中で、一夏も、剣と同じく負けたくない存在へと昇華しているのだ。

 

 

「しかしどうしても、初心者と言わざるを得ないと思います。【瞬時加速】にはほとんど対応できていませんでしたし、AMBACもまだまだ未熟です」

 

 

 眉間に少しだけしわを寄せてセシリアはそう評価するが、次の瞬間には彼女は微笑みを浮かべていた。

 

 

「ですがそれを補って余りある爆発力、という【可能性】を感じました。うかうかしていられませんよ?」

 

「なるほど」

 

 

 剣も彼女の一夏への評価に頷く。

剣がセシリア相手に互角に戦えたのは、事前に彼女の機体や戦法を調べていた他に、楯無との実戦形式での訓練という下地があったからだ。

その下地は2ヶ月に満たないものであるため、うかうかしていられないなと、剣は思った。

 

 剣がふとセシリアの表情を伺うと、彼女は少しだけうつむいていた。

 

 

「わたくしの事を……一夏さんは許してくれるでしょうか」

 

 

 先日の一件以降、彼女は、剣と一夏に必要以上の接触を避けていた。

そのため、どうしてもマイナスな印象しか持たれていないのだ。

 

 

「本気で謝れば大丈夫だろう。いつまでもグチグチいうタイプには見えない。きっと許してくれる」

 

「……ありがとうございます、剣さん」

 

 

 俯いて暗い表情を浮かべていた彼女は、そう言って顔を上げて微笑んだ。

 

 

「つるぎーん!」

 

 

 背後から自分のニックネームが聞こえて、振り返ると都牟刈を整備してくれていた本音と簪が、手を振って呼んでいた。

剣とセシリアはメンテナンスベッドに鎮座している都牟刈の元へと向かう。

 

 

「ありがとう、2人とも」

 

「いいよ。それにほとんどジャックさんが整備してくれてたから……」

 

「かんちゃんと私は手伝っただけー」

 

 

 彼女達の後方を確認すると、壁を背にジャックは座り込んでいた。

どうやら意識を失っているようだが、その表情は満足そうに見えた。

 

 

(あれ、大丈夫なのか?気絶してるみたいだけど……)

 

 

 簪達と一緒に苦笑を浮かべる剣にヒメが語りかけた。

 

 

(あの人ロマンに生きる人みたいだし、たぶん本望だよ、本望)

 

(そういうもんか?)

 

(そういうもん、そういうもん)

 

 

 ヒメの言葉に疑問を浮かべて首をかしげていると、セシリアが口を開いた。

 

 

「剣さん、次の試合頑張って下さいね」

 

「あぁ、全力でやるだけだ」

 

 

 軽く頭を下げたセシリアに、剣はサムズアップを合わせて答えた。

 

 


 

 

 別々のピットから【都牟刈】と【白式】が射出され、アリーナ上空で相対する。

背部にマウントされている日本刀型実体剣【無銘】を引き抜き、対する一夏も近接ブレード【雪片二型】を構えていた。

 

 

『準備万端みたいだな、剣』

 

『お前もな』

 

 

 男性搭乗者同士の模擬戦という事で、先程の剣VSセシリアや、セシリアVS一夏よりも観客席は賑わっていた。

剣は八相の構えで得物を握り、一夏は正眼の構えを取ると張り詰めた空気がアリーナに充満していく。

その張り詰めた空気にガヤガヤと賑わっていた観客席も静けさに包まれた。

試合開始のコールは、その数秒後にアリーナ全体に響き渡った。

 

 瞬間、瞬時加速を使用して爆発的に接近したのは都牟刈であり、その速度を上乗せした袈裟切りを白式に振り下ろす。

 

 

『っ!!』

 

 

 咄嗟に一夏が雪片で袈裟切りを受け止め、アリーナには金属同士がぶつかり合った鈍い金属音が響いた。

鍔迫り合いになるかと思われたが、それはほんの一瞬。

都牟刈が右脚のスラスターを点火させて白式に蹴りを繰り出したからだ。

 

 

『ぐっ!?』

 

 

 蹴りの速度は相当なものであり、密着状態であった事から防ぐことも難しかった。

腹部に蹴りを受けた白式は弾き飛ばされ、その衝撃を利用して都牟刈は距離を取る。

体勢を崩した白式は覚束無いスラスター制御で、なんとか体勢を立て直す。

初心者である一夏にAMBACでの姿勢制御を行えというのは酷だろう。

 

 その隙を見逃す剣ではなかった。

一夏よりも早くAMBACによって姿勢制御を行った都牟刈は、すぐさま左腕部内蔵エネルギーガトリング【玉祖命(たまのおやのみこと)】を展開。

高機動で白式の周囲を旋回すると共に、光弾をばら撒いていく。

 

 

『くっ、速いっ!?』

 

 

 これがセシリアならば、剣と同じように【瞬時加速】やスラスターを用いた機動で距離を取るという選択をして試合の流れを変えにいくだろう。

だが、一夏にはまだそこまでの技量や判断力は備わっていない。

そのため精度を意識していないばら撒かれた光弾でも、8割程が直撃して白式のエネルギーを削っていく。

試合開始からまだ1分程度であるが、すでに白式のエネルギーは6割強まで減少していた。

 

 

(セシリアの言ったとおりだな、高速機動戦闘にはほぼ対応できてない)

 

(そりゃ、たっちゃん相手にヒィヒィ言いながら剣は実戦形式で訓練してたし、セっちゃんは代表候補生だからねー。比べるのは酷ってやつだよ)

 

(……ヒメ、お前今日のお菓子抜きだからな。一気に攻めるっ)

 

 

 剣の言葉に意識の中でヒメがあんまりだぁなどとわめきたてているが、その声を掻き消すように【瞬時加速】を発動。

【瞬時加速】によって一夏の視界から消えた都牟刈をハイパーセンサーが捕捉するが、反応が追いつかない。

空間を掴み上げて振り子の要領で体勢を変えた剣は、そのまま見えない足場を蹴り跳躍して加速する。

瞬間、横薙ぎの斬撃が一夏を襲い、雪片での防御が間にあわずに左腕のマニピュレータに深い斬撃痕が刻まれた。

 

 

『ぐぁっ!!』

 

 

 弾き飛ばされた白式は、アリーナの外壁に衝突する直前にスラスター制御でなんとか体勢を立て直した。

 

 

(くそっ、ここまで差があるなんてなぁ……いや分かってたけどっ)

 

 

 脱帽気味に一夏が苦笑して、雪片を再び構える。

自分とほぼ変わらない時期に見つかったもう1人の男性搭乗者なのに、代表候補生であるセシリアと互角に戦うことができた剣のことは正直なところ、羨ましいと一夏は感じていた。

かつての姉と同じ力を手に入れた自分だが、それでもまだまだセシリアや剣には届かないのは分かっている。

だが、負けたくないという気持ちも心に生まれている。

 

 

(だけどっ、このままじゃ終われねぇっ!)

 

 

 心に灯った炎が、機体を伝わり白き光となって刃を覆っていく。

 

 

『【零落白夜】全開っ、うおぉぉぉぉっ!!』

 

 

その咆哮と共にスラスターを全開にして上空に存在している都牟刈へと突貫していく。

雪片から溢れる光が軌跡となって、まるで流れ星のようにも見えた。

 

 

(……カウンターは怖いな)

 

(そだね、天磐船、天鳥船、瞬時加速の3連コンボで離れようっ!周りにはもう天磐船を設置済みだしね)

 

 

 真っ直ぐな軌道で眼前に迫る白式相手に、真正面からの近接戦闘はリスクが伴う。

直前まではカウンターを考えていたが、白式の速度もかなりなものであるため回避を選択することにした。

それに加えて、先程のセシリア戦と同じくすでに周囲には天磐船の力場を配置済みだ。

力場を使った変則的な近接戦闘ならばよほどのことがない限りリスクは、真正面からの戦闘に比べると少ない。

 

 すぐさまマニピュレータから【力場】を新たに発生させて回避行動に移るのと、零落白夜の光が突貫軌道上に存在していた【力場】に届くのはほぼ同時だった。

瞬間、目の前に存在していたはずの天磐船が消滅したことを、都牟刈のセンサーが捕捉した。

 

 

(天磐船が消されたっ!?)

 

(うそっ!? エネルギーを消せるのっ!?)

 

 

 【力場】を発動したままの零落白夜によってかき消されたという事態に剣の思考が一瞬だけ停止した。

草薙としての経験が身体を自然と動かすが、コンマ数秒、その分だけ回避行動が遅延してしまう。

その遅延は回避を困難にしてしまうという必然を呼び寄せる。

 

 

(ちぃっ!)

 

 

 被弾を覚悟してすぐに新たな【力場】を作り上げようとマニピュレータを掲げたときであった。

マニピュレータの先には、天磐船によってあらかじめ作り上げていた【力場】が存在していた。

 

 そこに天磐船を発動させたマニピュレータを干渉させた結果――

 

 

『ぐっ!?』

 

 

 上段から刃を振り下ろそうとしていた白式が、突如一瞬だけ動きを止めた。

 

 

『っ!』

 

 

 その隙を剣は見逃さずに、瞬時加速を行うと共に新たに構築した力場を掴み上げて加速し、ショートレンジから離れる。

当然振り下ろされた白き光の刃は、虚空を斬ることになった。

 

 

『っ、しまった!』

 

 

 まるで何かに体当たりされたかのような衝撃で、一瞬だけ身体が止まってしまった。

せっかくのチャンスをふいにした一夏が苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

 

(今、何が起こった?)

 

(天磐船の力場が、一夏に向かって飛んでった……と思う)

 

(まさか天磐船の力場は、力場同士で干渉するのか?)

 

 

 偶然の出来事であったが、先程の事象を見る限りそうとしか考えられない。

 

 

(都牟刈自体、稼働時間が短かったし今までは作って足場や取っ手に使うだけだったもんね。ジャックさんも知らなかったみたいだしありえるかもよ)

 

(……とにかく今はっ)

 

 

 思考を切り替えた剣は、自機の右側に存在している【天磐船】を蹴ると共に【瞬時加速】を用いた【天鳥船】に移行する。

追撃に移ろうとしていた一夏はその行動を見て、防御に移った。

 

 

(零落白夜があるんだっ、防御すれば剣のエネルギーを減らせるはずだっ!)

 

 

 得物にはまだ【零落白夜】が発動し続けているため、無敵の矛であり、無敵の盾としても使用ができるのだ。

だが、それは未熟な考えであると数瞬後に理解することになった。

 

 左薙で放たれた無銘の一撃だったが、【零落白夜】が発動している雪片に触れる直前にその軌道がまるで【蛇】のように変化したのだ。

その変則的な斬撃に一夏は対応できず、白式の左マニピュレータを切り裂かれる結果になった。

切り裂かれたマニピュレータの一部と共に、雪片が手元から離れて落ちていく。

 

 

『なっ!?』

 

『終わりだっ!!』

 

 

 呆然としたのは一瞬だった。

すぐさま腹部に衝撃が奔り、後方に弾き飛ばされた後に今度は全身をうちつける衝撃に視界が明滅した。

都牟刈の左脚から放たれた強烈な蹴りによって弾き飛ばされ、アリーナの外壁に衝突したのだ。

また衝突と共に零落白夜によって消耗していた機体のエネルギーも底を尽き、機体がゆっくりと降下していく。

 

 

『……勝てないかぁ』

 

『単純な経験の差だ。これから訓練すれば分からないぞ?』

 

 

 降下を続けていた白式に、剣は都牟刈で肩を貸す。

 

 

『……そうだな、今回は負けちまったけど……次は勝ってみせるぜ、剣』

 

(おー、案外熱血な面もあるんだねぇ、一夏って)

 

『あぁ。楽しみにしてる』

 

 

 一夏の言葉に反応したヒメを無視した剣は、そう言って少しだけ微笑んで頷いてみせた。

 

 

白式、エネルギー切れにより行動不能。勝者、都牟刈。試合時間、3分47秒―

 

 

 試合終了のコールがアリーナに響き渡る。

こうして一連の騒動から始まったクラス代表決定戦は終了したのだった。

 

 


 

 クラス代表決定戦が終了した週末。

IS学園 学生寮 中庭

 

 

 降り注ぐ柔らかく暖かな日光、適度な気温。

まさに春の陽気と言うに相応しい快晴の土曜の昼下がり。

 

 半日授業があるIS学園の授業日程だが、すでに授業は終わっており生徒達は各々の週末を謳歌している。

訓練に励むもの、勉学に励むもの、惰眠を貪るもの。

それは様々であるが、その中で学生寮の中庭のベンチに座っている女生徒が一人。

 

 

「いっただきまーす」

 

 

 真紅の長髪に豊満な果実を実らせた美少女、【ヒメ】が特に改造もしていない標準的なIS学園の制服を身に纏って満面の笑みを浮かべて手を合わせていた。

彼女の膝上や、ベンチの上には色とりどりの和菓子が置かれており、ひょいぱくひょいぱくと、ヒメはその和菓子を口に含んでいく。

舌に広がる甘みに舌鼓を打って、顔を破願させたヒメはペットボトルの緑茶をあけて口に含む。

適度な苦味によって、舌をリセットさせた後、再度和菓子の甘みに打ち震える。

 

 

「あー、美味しいっ、やっぱり和菓子だよねぇっ」

 

 

 何故、ヒメがこんなところでこのようなことをしているかというと、これは剣と話し合った彼女達の週末の生活習慣だった。

正確には【仕事のない休日にはヒメに1日身体を貸す】ということを、剣はヒメと幼い頃から約束しているのだ。

これは剣が草薙家の跡継ぎ、そして現在は当主であることに起因している。

 

 ヒメという女性人格があり、人格変化で性別までが切り替わるという特異な体質を持つ剣は、護国の剣として存在する草薙家にとっては非常に有用なのだ。

ターゲットにはヒメが近づいて、実際に手を下す際に剣に切り替わる。

これが常套手段であり、幾人もの国家に仇なす要人達を闇に葬っていた。

 

 だが当然ヒメにはヒメの人格があり、草薙の仕事の性質上どうしてもストレスが溜まってしまう。

そのため、休日1日をヒメに与えることで所謂ガス抜きをしてもらっているのだ。

なおIS学園の授業日程は土曜日も半日授業があるため、ヒメが息抜きできる時間もその分減ってしまう。

このことに彼女は盛大に不満を漏らしていたが、日曜日の半日も使っていいと剣と交渉して機嫌を直していた。

 

 また週末にヒメが表に出ている際は、剣は意識の奥に引っ込んでおりよほど危険なことがない限りは基本的には出てこない。

そのためヒメも遠慮なくお菓子を貪ることができるのだった。

 

 

「ん~、いちご大福おいしいー!」

 

 

 爽やかで程よい酸味の苺と、餡子の柔らかな甘みの配分。

一つで数千円ほどする高価なものであるがヒメの存在は草薙家でも認知されているため、小遣いとして十分な額を剣から渡されているため問題はなかった。

 

 

「あ、そうだ。今度うーちゃんに送ってあげようかな。最近大変みたいだし」

 

 

 友人である本音の姉であり、自分にとっても一つ年上の女性の顔を脳裏に浮かべたヒメの視界に、ふと何かが映りこんだ。

それは人影だった。

 

 

「んー?あれって箒?」

 

 

 そう、視界に映りこんだのはヒメ以上に豊な果実を実らせたポニーテールの大和撫子、【篠ノ之箒】であった。

そんな彼女が暗い表情で、ヒメと同じようにベンチに座り込んでいたのだ。

何かぼそぼそと呟いているのは口の動きを見れば分かるが、剣とは違い読唇術を嗜んでいる訳ではない為、何を呟いているかの判別はできない。

それ以上に、何故そんな暗い表情をしているのかのほうが、ヒメは気になったのだが。

 

 

「……よしっ」

 

 

そう言って膝上のおはぎをそそくさと片付けたヒメは立ち上がった。

 

 

「……一夏……」

 

 

 箒のが何故暗い表情を浮かべているのか、それは数日前のクラス代表決定戦に起因している。

代表決定戦の一夏の戦績は2戦2敗の全敗だった。

本来は少しでもISの稼動を優先させるべきだった期間であるのにもかかわらず、熱くなってしまったとはいえ準備期間全てを剣道の時間にあててしまっていた。

 

 恋する少女は盲目だ。

全てが彼女の責任というわけではなく一夏も特に気にしたりはしていない。

だが少なくとも彼女は自分に非があると思い込んでしまい、暗い表情をしているのだった。

 

 

「……はぁ」

 

 

 本日何度目になるか分からないため息をついたときであった。

 

 

「そんな暗い顔してると運気が逃げちゃうよー? あれ運気だっけ? 金運? 男運? まぁ、いっか!」

 

「わぁっ!?」

 

 

 箒の顔を覗き込むようにしてきたヒメの行動に、箒は驚きの声を上げた。

 

 

「そっ、そこまで驚くことかなー……?」

 

「なっ、何だっ、お前は?」

 

「ん、私は……あー、えっと……草薙ヒメ、でいいかな。うん。草薙ヒメ、そう言うあなたは篠ノ之箒、でしょ」

 

 

 少しだけ言いよどんだ後、ヒメが胸をはって答える。

 

 

「すまないが、クラスメイト……ではないよな?」

 

「うん、えっと、別クラス。4組だよ、うん。4組」

 

「そうか……ん、草薙?」

 

 

 ヒメの苗字がクラスメイトである、もう1人の男性搭乗者と同じことに気づいた箒は首をかしげる。

草薙という苗字は珍しいため、何か関係性があるのだろうかと思ったのだ。

それを察したヒメが笑みを浮かべながら答える。

 

 

「妹、いや、姉かな? あー、いや、剣は妹って言い張るだろうなぁ、じゃあ、妹で」

 

「じゃあって……そんなに適当でいいのか?」

 

(本当は本人なんだけどね、ごめんねー)

 

 

 双子の兄妹か何かだろうかと、箒は推測するが彼女の行動の前にその思考は続かなかった。

 

 

「隣、座ってもいい?」

 

「えっ、あぁ……別に構わないが」

 

「ありがとっ」

 

 

 ニコッと微笑んだヒメは箒の隣に腰を下ろし、手に持っていたビニール袋を広げる。

その中から、先程しまいこんだおはぎを取り出して箒の目の前に差し出した。

 

 

「はい、これ。あげる、お近づきの印ってヤツ」

 

「……食欲は特にないんだが」

 

「いいからいいからー」

 

 

 遠慮して受け取りを拒否しようとした箒に、ヒメはほぼ無理やりといってもいいくらいにぐいぐいっとおはぎを手渡した。

両手でぽつんとおはぎを受け取って眺めている箒はため息をついた。

 

 

「そうやってうじうじ悩んでるから、ダメなんだよー。そう言うときは気持ちを切り替えて前に進まないとっ」

 

 

 追加でビニール袋からおはぎを取り出して頬張るヒメに、ついカッとなって箒は立ち上がった。

 

 

「っ、お前に何が分かるっ!?」

 

「分かるよ、好きな男の子のことで悩んでるんでしょ、箒は?」

 

「っ!?」

 

 

 まさかヒメが完全に己の気持ちを見透かしてくることは想定しておらず顔を朱色に染めた箒は、わなわなと震えた後ベンチに座り込む。

それを見てニヤニヤっと笑みを浮かべるヒメは口元についた餡子を指で舐めとって追加のおはぎを取り出しつつ口を開く。

 

 

「まぁ、別クラスの私から見てもバレバレだからね」

 

「だっ、黙っていろっ、一夏に告げ口でもしたら……っ!」

 

「しないよ、そんな事」

 

 

 ヒメはきな粉おはぎを取り出して、丁寧に口に運んでいく。

 

 

「はむっ、だって、そう言うことはちゃんと箒の口から言うべき、でしょ?」

 

「あっ、当たり前だっ!」

 

「分かってるならいいよ。 でもさ一夏のこと好きなら、なんでそばにいてあげないの?」

 

「……それは……私がずっと剣道の練習などさせていたせいで、代表決定戦で一夏は負けたのだ、そばにいられるわけがないだろう」

 

「失敗しちゃったこと? それはもうしょうがない、そう割り切るしかないよ」

 

 

 口元についたきな粉を指で拭って舌でペロッと舐め取る。

 

 

「……」

 

「割り切るってこと、結構大事だよ? 私もよくお菓子選びで失敗するしね」

 

 

 ビニール袋の中から【草団子】と包装紙で包まれた箱を取り出す。

よく見ると一部が破れているためすでに口をつけているのだろうと、箒は思った。

 

 

「最近はこれかなぁ、ちょっと苦味が強いんだ。剣は美味しいって言うんだけどね?」

 

 

 取り出した箱をビニール袋にしまってから箒に視線を向ける。

 

 

「私は甘いお菓子が好きだからこれは失敗。でも失敗したからこそ、次はもっと甘いお菓子を探すんだって気になるんだ。程度の違いはあるだろうけど、失敗したなぁって脚を止めてるより、まだまだこれからって脚を動かしたほうが、前に進める。ついでにカロリー消費にもなるっ! そうじゃない?」

 

「……一夏のことと、お菓子選びを一緒にされるのは初めてだ……いただこう」

 

 

 そりゃそうだ、とヒメが頭をかきながらたははと笑うなか、箒は手渡されていたおはぎを口に運ぶ。

甘いがくどい甘さではなく、ささくれた心を癒すような優しい甘さ。

いつの間にか箒も少しだけ笑みを浮かべていた。

 

 

「あ、笑った」

 

「っ」

 

 

 咄嗟に口元を隠すが、すでに遅かった。

 

 

「やっぱり笑ってるほうが可愛いって、ほうちゃんはさー!」

 

「ほっ、ほうちゃん?」

 

 

 突然ニックネームが飛び出したことに箒が驚く。

 

 

「うん、箒だからほうちゃん」

 

 

 至極当然といった表情で、箒を見つめるヒメ。

数秒沈黙していた箒だったが、はぁとため息をついてから苦笑を浮かべた。

 

 

「……好きにしろ」

 

「うんっ、じゃあ、私のことはヒメでよろしく!」

 

 

 はいはいと頷く箒だったが、不思議と悪い気はしなかった。

それから10分程度、雑談していたが箒が立ち上がったことでヒメが首を傾げた。

 

 

「どったの?」

 

「一夏も訓練を終えて帰ってくる頃だ。私も前に進もう……そう思ったんだ」

 

「……うん、それがいいと思う」

 

 

 ビッとサムズアップしたヒメの陽気さに、箒は苦笑しながら口を開く。

 

 

「いきなりだったが少し気が楽になった、ありがとう……もしよかったらだが、また相談に乗ってもらってもいいだろうか? その……私はあまり人付き合いが広くなくてな……」

 

 

 満面の笑みで、ヒメが頷く。

 

 

「なら、私達はもう友達だよね!」

 

「友人……そうなるな、ヒメ」

 

 

 やったー、とヒメも立ち上がる。

手には貪った和菓子の包装紙などが包まれたビニール袋を持ちながら。

 

 

「頑張ってね、ほうちゃん!」

 

「あぁ、ありがとうヒメ。それではな」

 

 

 そう言った箒は学生寮の一夏の部屋に向かうためにやや駆け足気味で去っていく。

その姿が見えなくなるまで、ヒメは彼女の後姿を見守っていた。

やがて完全に箒の姿が見えなくなると、わざとらしくニヒルな笑みを浮かべた。

 

 

「ふっ、草薙ヒメはクールに去るぜ……なんちって」

 

 

 てへって笑いながら、ヒメはベンチに座りながら残りの和菓子を食べ進めるのであった。

 




次回予告

第5話「草薙の使命」

『日ノ本の敵は、この手で処理する』
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