IS-草薙之剣-   作:バイル77

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第5話 草薙の使命

「という訳で1年1組のクラス代表は織斑一夏君に決定しました、1つながりで縁起がいいですね!」

 

 

 朝のSHR、副担任の真耶が教壇の前で笑みを浮かべて告げた。

当の一夏は訳が分からないという表情を取っていた。

それは一夏のみならず、剣とセシリア、そして本音を除いたクラスメイト全員が同じ気持ちであろう。

 

 

「俺2連敗してるんですけど……戦績なら全勝した剣か、1勝したセシリアが代表になるのが筋なんじゃないんですか?」

 

 

 一夏が疑問の声を上げながら、立ち上がると同じように立ち上がるものがいた。

それは剣とセシリアであった。

 

 

「そこなんだが、俺達は辞退した」

 

「何で?」

 

「気にするなって言ったけど、俺は皆より1つ年上だ。それもあるんだが……」

 

「代表戦に参加した3人の中では、一夏さんの技量が最も低いです。もしかしたら今後何か事故を起こすかもしれません。そのサポートに私達は回ることになったのです」

 

 

 剣の代わりにセシリアが一夏に返答する。

2人が辞退することをきめたのは、代表戦が終わった後、担任である千冬に頼まれたことに起因している。

彼女から頼まれた内容は、一夏にIS乗りとしての経験を積ませるためにクラス代表を辞退してほしいとのこと。

 

 剣は国家代表である楯無や、所属である日出工業でISに触れる時間を長く取れた。

それに元々暗部の人間だ、力に対する理解は誰よりもしていると自負している。

セシリアは国家代表候補生であり、ISに触れている時間は剣よりも長いため言わずともだ。

 

 だが一夏のISに対する理解度は、一般人であったため比較すると低い。

ISという規格外の力による【事故】というものが2人に比べると発生しやすいと言わざるをえない。

そのためクラス代表として、剣とセシリアのサポートでISに対する理解度を高めさせたいという要望だったのだ。

この提案に剣とセシリアは特に異議もなく答えることにしたのだった。

 

 セシリアの言葉に少しだけむっと顔が歪めた一夏を見て、彼女は一瞬だけたじろいだがすぐに視線を彼に合わせて続けた。

 

 

「ですが一夏さん。あなたの戦いにはセンスを感じました。サポートには全力を持って取り組みます。そして一夏さん、皆さん、この場を借りて謝罪させてください」

 

 

 すうっ、と一息入れて彼女が続ける。

 

 

「先日の軽率かつ浅慮な発言、大変申し訳ありませんでした!」

 

 

 深く頭を下げ、一夏とクラスの皆へ謝罪する。

その様子に剣と千冬以外の皆が目を見開いて驚いた。

 

 

「皆さんにも背負うもの、誇りとするものがあるはずなのに、わたくしはそれを真正面からみることもできませんでした。ですが……今はもう違います!」

 

 

 下げていた頭を上げた彼女の瞳には力強い光が宿っていた。

 

 

「非力な身ではありますが非力ながら全力で皆さんを……一夏さんをサポートさせて頂きたいと思います。どうかよろしくお願い致します!」

 

 

 セシリアの謝罪を受けたクラスメイトの皆は数十秒間、沈黙してから各々言葉を彼女に返す。

 

 

「オルコットさん、変わったね。私は全然いいんだけど、むしろ色々と教えてもらいたいし……っ!」

 

「ちょっと雰囲気悪いかなとも思ってたけど、実は結構熱血なんだね。これは……ありね……」

 

「その話詳しく。あ、私はオッケーです!」

 

 

 一部の珍回答を右から左に受け流した剣だったが、概ね1組の皆に好意的に受け入れられたと感じた。

それは一夏も同じであった。

 

 

「あ、えーっと、セシリ……いや、オルコット……さん」

 

「いえ、一夏さん。わたくしのことはセシリアで、問題ありません」

 

「あっ、あぁ……それと、俺も悪かった。セシリアの祖国のこと、あんな風に言っちゃってさ」

 

 

 一夏も当時のことを思い出してセシリアに謝罪する。

売り言葉に買い言葉を投げてしまったが、アレは暴言として立派に成立してしまう。

誠心誠意謝っているセシリアの態度に、自分も悪かったなと思ったのだ。

 

 

「いえ、そもそもこちらが……」

 

「いや、俺だって……」

 

「なら、お互いイーブンってことでいいだろ?お相子様ってことで、終わり」

 

 

 戸惑うセシリアと一夏に苦笑しながら剣が助け舟を出す。

互いに謝りあうといった場面は不毛でしかないからだ。

 

 

「……そっ、そうだな」

 

「……はい。これからは友人として、よろしくお願いいたしますわ、一夏さん」

 

「あぁ、セシリア。よろしくな」

 

 

 ほぼ同時に握手するために手を出して、互いに苦笑することにもなったが仲直りの握手を2人は結んだのだった。

 

 

 

「クラス対抗戦、勝てば半年食堂のデザート食べ放題とな」

 

(はぁぁぁぁっ!? なんでそんなお得な情報を私に黙ってたの、つるぎぃぃぃっ!!)

 

 

 1限目の休憩時間、クラス対抗戦の詳細情報に目を通していた剣の意識の中でヒメが大声で抗議の声を上げた。

もう慣れているとはいえ、耳元以上に内面から聞こえる大声にげんなりしつつ、剣はその声にこたえた。

 

 

(そういうと思って黙ってたんだよ)

 

(デザートだよっ!? 半年も無料っ! 和菓子は家から送ってもらえるからいいけど、デザート食べ放題なんて最高っ、うぇへへへ……じゃないっ! その機会をなくしてどーするのさっ!!)

 

(……お前は俺を若年性糖尿病にしたいのか?)

 

(人生は太く短くでいいじゃんっ! せっかくの食べ放題がぁ……っ!!) 

 

 

 ヒメがヨヨヨと大げさな泣き声を上げたことに、カチンときた剣は眉間に青筋を浮かべながら反撃に転じた。

 

 

(……ヒメ、お前、この前篠ノ之箒に勝手に接触しただろ)

 

(ギクッ)

 

 

 わざとらしい声を上げながら、泣き声を止めたヒメに追撃を浴びせる。

 

 

(頭の中で見てたけど、勝手なことしてくれたよなぁ?)

 

(あれはその……ほうちゃんがさ、見てるこっちが辛い顔してて放っておけなかったといいますか……)

 

 

 しどろもどろな様子で返答するヒメにため息をこぼす。

 

 

(まぁ、いずれ接触するかもしれなかったから、時期が早まったってことでいいが……デザートの件は、それとイーブンな?)

 

(りょっ、了解しましたぁ)

 

 

 すっと意識の奥に引っ込んでいったもう1人の己に、再度剣はため息をこぼす。

 

 

「草薙さん、どうかしたんですか?」

 

 

 そんな剣の様子に首をかしげながら、赤紫色の髪をショートカットにした活発そうな美少女である【相川清香】が話しかけてきた。

はたから見れば剣は1人でため息を何度もこぼしているように見えるのだ、近くにいればそれは気になるだろう。

 

 

「相川か、いや、別に何かあったわけじゃないんだが……後、草薙か、剣でいい」

 

「うーん、なんと言うかやっぱり1つ年上じゃないですか。私そういうところ気になるタイプでして……なので、草薙さんでっ!」

 

 

 たははと笑う彼女の明るさに思わず剣も釣られて笑ってしまった。

 

 

「っと、肝心なこと忘れてました」

 

 

 思い出したように清香がポンッと手を叩く。

 

 

「今日の20時から、織斑君のクラス代表就任記念パーティーをやるんで、参加よろしくおねがいしますねっ!」

 

「早いな、今日か」

 

 

 一夏がクラス代表に決定した事が共有されたのは今日の朝である。

流石に早すぎないかと疑問が顔に出ていたのか、剣の表情から察した清香が続ける。

 

 

「まぁ、元々誰かが代表になったらやるつもりだったので。てなわけで出席よろしくおねがいしますっ!」

 

「了解、20時からだな」

 

 

 ありがとうございます、と頭を下げて別の友人たちのグループへ向かっていく清香を見届けると、別の人物が話しかけてきた。

 

 

「つるぎん、おりむーの代表就任記念パーティに出るんだ」

 

「あぁ。今はたっちゃんいないし、夜はトレーニングくらいしかないからな」

 

 

 なるほどー、と本音が頷く。

彼女は剣とセシリアが代表を辞退する件について、剣からあらかじめ事情を聞いており今朝のSHRでは特に驚いてはいなかった。

 

 

「そういえば、お菓子が出るって聞いたんだけどひーちゃん、何も言わなかった?」

 

「ナニモイワナカッタデス」

 

 

 明らかに棒読みでそう返答した剣に本音は苦笑するしかなかった。

 

 


 

 そして同日 IS学園 食堂

 

 夕食後の自由時間、食堂の一角を貸し切り一夏のクラス代表パーティーが行われていた。

連結されたテーブルの上に、ポテトチップス等やマシュマロ等のお菓子や、オレンジジュース等の飲み物が所狭しと置かれている。

 

 

「織斑君、乾杯のあいさつー!」

 

 

 クラスメイトが囲む中、パーティーの主賓として挨拶をするよう言われた一夏が立ち上がる。

剣やセシリアたちも、緑茶入り紙コップ(セシリアは紅茶)を持って立ち上がった。

 

 

「かっ、かんぱーい!」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 

 乾杯の挨拶と同じく、どこから用意したのかクラッカーを清香達が取り出して一気に紐を引いた。

数個のクラッカーが一気に破裂した炸裂音と中から飛び出した紙テープが宙を舞う。

 

 

「これでクラス対抗戦も盛り上がるの間違いないよねっ!」

 

「だねっ、しかも草薙さんとオルコットさんがサポートしてくれるなら、デザート食べ放題も夢じゃないかもっ!」

 

「私、胸にいく体質だから食べ放題大歓迎だわーっ!」

 

「よし、表でなさい。その塊をもいでくれるわ」

 

 

 やいのやいのと女子達が互いに会話しながら、主賓の一夏の元に向かう。

箒が一夏の隣で険しい顔をしているがなんのその、といった具合だ。

 

 

「やっぱり女子ってこういう盛り上がる場は好きなんだな」

 

「皆さん、賑やかで楽しそうですね」

 

 

 少し離れた席でその様子を眺めていた剣に、隣のセシリアがクスッと笑みをこぼした。

そんな時、剣は自身の背後に忍び寄る気配を感じ取る。

特に気配も消していないのだから、見破るのは簡単ですぐに振り返る。

剣達の背後に忍び寄っていた人物、それは楯無と同じ色のリボンを身につけた少女であった。

 

 

「おっ、おぉ、噂の2人目さんと、英国代表候補生発見伝っ」

 

 

 気づかれていないとでも思っていたのか、明らかに狼狽している様子の少女。

リボンの色からして2年生と判断した剣は、彼女の手に持っているカメラに視線を移す。

 

 

「あー、これ? 私新聞部の副部長なの。お二人さんの写真1枚いいですか?」

 

 

 彼女の言葉にセシリアも振り返る。

セシリアにどうすると、視線を移すと、彼女は、構いませんと表情で告げていた。

 

 

「別に構いませんけど」

 

「ほんとっ、やったぁ! それじゃ、次の新聞の記事に使いたいから一言どうぞ!」

 

 

 懐から取り出したボイスレコーダーを剣の前に持っていく。

 

 

「何でもいいんですか?」

 

「大丈夫っ! 面白くなかったらねつ造するから!」

 

 

 心の中でおいっと突っ込んだ剣だったが、受け取ったボイスレコーダーのスイッチを入れて口を開く。

 

 

「……草薙の誇りにかけて、やれることをやるだけです」

 

 

 カチリとボイスレコーダーのスイッチを切った剣は、彼女に手渡す。

 

 

「おーっ、カッコいい。実は名家の生まれだったり?」

 

「まぁ、そんな所です」

 

 

 オッケーオッケーと返した彼女は、次にセシリアにボイスレコーダーを手渡した。

その後、セシリアの一言も撮り終えた彼女は写真撮影の為に、一夏も呼んで3人を並ばせる。

その様子に、クラスメイト達はむずむずと反応していた。

 

 

「うーん、どうせなら皆も入れちゃおうか」

 

 

 彼女のその一言で、一気にクラスメイト達が流れ込む。

中央に一夏、右に箒、左にセシリア、セシリアの隣に剣、その周りにクラスメイト達、という形になる。

なんとかカメラに収まるように並ぶと、OKの合図が出た。

 

 

「それじゃあ撮るよー。829,735×961,527は~?」

 

「はっ、えっ、えーと……一億っ?」

 

「797,812,605,345ですわ」

 

 

 適当に答えた一夏の隣で、数秒で計算を終えたセシリアが告げる。

その直後にパシャリとシャッターが落ちる音が響いた。

 

 

「…………うん、オッケー!」

 

「答え、分かってましたの?」

 

 

 ジト目で懐疑の視線を向けるセシリアだったが、笑って誤魔化されてしまった。

それからパーティー開始から1時間もたつと、自然と解散の空気となり剣もそれに倣って自室に戻ったのだった。

 

 


 

 

「2組に転校生が来たんだって」

 

「珍しいね、この時期に?」

 

「しかも、中国の代表候補生なんだって」

 

「へぇー」

 

 

 朝、1組では転校生の話題で持ちきりになっていた。

 

 

「へぇ、代表候補生の転校生か、誰だろう」

 

「さぁな。まぁ、まずお前は【可動肢制御による姿勢制御(AMBAC)】をマスターすることだろ」

 

「そうですね。あともう一歩、といったところですが」

 

「さいでした……」

 

 

 剣とセシリアの言葉でぐだぁっと突っ伏した一夏に、剣はやれやれと目線を伏せた。

対抗戦は来月に迫っており、もうあまり時間はない。

そのため、剣とセシリアは放課後に時間が有れば一夏の特訓に精を出しているのだった。

 

 

「織斑君、ファイトォッ!」

 

「目指せデザート三昧っ!」

 

「専用機持ちって一組と四組だけらしいし、余裕だって!」

 

(……そうなんだよなぁ、簪もいるんだよなぁ。簡単にはいかないだろうなぁ)

 

 

 清香達が突っ伏している一夏達にだいぶ欲望にまみれたエールを送るが剣の中で1つ懸念事項があった。

それは4組の代表が【更識簪】であることだ。

日本代表候補生としてすでに活躍している彼女である。

剣も何度か彼女のISのデータを見たことがあり、苦戦は必須と考えている。

技量では確実に一夏を上回っており、機体性能でも確実に押し切れるとはいえなかった。

 

 

「──その情報、古いよ」

 

 

 そこまで思い至った瞬間、教室の入口から聞き慣れない女子の声が響いた。

剣も含めてクラス全員の視線が教室入口に集中した。

そこに立っていたのは、特徴的なリボンと栗色のツインテールに肩を出すように大幅に改造した制服。

 

 

「2組のクラス代表はこの【凰鈴音(ファンリンイン)】よっ!」

 

 

そう名乗った少女が、誇らしげに胸を張ると口を開いた者が居た。

 

 

「鈴っ!? 鈴なのかっ!?」

 

「久しぶりね、一夏っ!」

 

 

 ツインテールが彼女の喜びを表すかのようにゆさゆさと揺れている。

その態度に剣はある程度彼女の事情を察した。

そして背後から届いた冷たい感覚が肌を刺激し、何かを察して振り返る。

 

 

「一夏……誰だその女は?」

 

 

 箒がジロリと鈴を睨むように見つめていた。

彼女は一夏を心から想っている。

他の女性と親しそうに一夏が会話していたら、面白くないのは当然だろう。

 

 

「……何よアンタ? あたしは一夏と話してるんだけど邪魔しないで」

 

「貴様こそ何様だ、別のクラスだろう? さっさとクラスに戻れ」

 

 

 バチバチっと視線同士が交差して、まるで火花を散らすかのような激しさだ。

 

 

(うわぁ、修羅場だぁ)

 

(何で楽しそうなんだよ、ヒメ)

 

(だってめったに見れるもんじゃないしー、アニメだけかと思ってたからさぁ、ほうちゃんがんばれー!)

 

 

 意識の中でヒメが楽しそうに煽っているが、当然その声は剣以外には聞こえない。

さらに発展するかと思われたそのときだった。

 

 

「何をしている、貴様ら」

 

 

 鈴の背後から響く声。

振り向いた鈴の視界には、1組の担任である織斑千冬が仁王立ちしていた。

 

 

「ちっ、千冬さん」

 

「織斑先生だ。凰、さっさと2組に戻れ、授業開始の時間だ」

 

「うっ、すいません……一夏っ、後でね!」

 

 

 鈴は千冬の圧力におされて、そそくさと2組に戻っていく。

彼女の様子にはぁと小さくため息をついた千冬は、授業開始の合図を取るように指示を出すのだった。

 

 

 その日の夜 IS学園 学生寮 剣の部屋

 

 

「……それで、あいつ、約束を中途半端に覚えてたの、酷いでしょ?」

 

「……そうだな」

 

 

 剣の部屋のソファの上で脚を組んで涙ぐんでいる鈴に、剣が相槌を打つ。

何故こんなことになっているのか。

放課後の訓練を終えた剣が自室に戻ろうとしたところ、学生寮のロビーに涙目で俯いている鈴がいたのだ。

関わり合いはほぼない剣だったのだが、鈴が視界に剣を捉えてしまったので後の祭りだった。

 

 今では自室に入り込まれて、愚痴を聞かされている状況だった。

それからさらに数分、彼女は愚痴をある程度吐き終えたのか少しだけスッキリとした表情を浮かべていた。

 

 

「……ふぅ、少しだけスッキリした」

 

「そりゃよかったな」

 

 

 げんなりとした表情で剣がそう返すと、ごめんごめんと手を振りながら鈴が謝る。

 

 

「悪かったわね、つき合わせちゃって。それで、アンタが草薙剣だっけ?」

 

「あぁ」

 

 

 いまさらかよという表情を浮かべて剣はため息をつく。

 

 

「それで、どうするんだ? 平手打ちしたんだろ?」

 

「うっ……それはそうだけど、悪いのは一夏なんだから全部思い出すまでは無視する。クラス対抗戦もボッコボコにしてやる」

 

 

 子供かよ、と心で突っ込むがそれは顔には出さない。

 

 

「ありがと草薙……あ、1つ上だっけ? ま、いいか。剣でもいい?」

 

 

 鈴の言葉に剣が頷くと、彼女は快活な笑顔を浮かべた。

 

 

「んじゃ、改めてありがと、剣。聞いてもらえたら少しすっきりしたわ。よぉし、一夏ぶっ飛ばすわよぉっ!」

 

 

 ぐわんぐわんと右腕をぶん回しながら、鈴は剣の部屋から出て行く。

自室の扉がパタンと閉じたことを確認した剣は、己のベッドに身を投げて倒れこむ。

 

 

(はぁ、疲れた)

 

(お疲れ様ぁ、パワフルだったねぇ)

 

 

 うん、と静かに剣は頷いた後意識を手放すことにした。

 

 


 

 

 5月 クラス対抗戦当日 第2アリーナ 観客席

 

 

 観客席には1年生で溢れているが、2年、3年生の姿も多く見られる。

その理由は、IS学園は多くのイベントで有名であり、その中でも最初に行われるのがクラス代表戦だからだ。

それに加えて今年度は過去例がなかった【男性搭乗者の1人】が1組のクラス代表であり、そして2組と4組の代表は【代表候補生】で【専用機持ち】。

話題にならないほうがおかしく、期待が高まってしまうのは仕方がないであろう。

 

 初戦の組み合わせは、1組対2組、3組対4組、つまるところ初戦から【一夏VS鈴】であった。

 

 

「さて、どこまで行けるか、だな」

 

「えぇ。AMBACはこの数週間で身につきましたが、果たしてどこまで通用するか……」

 

「おりむーも訓練頑張ってたから大丈夫だよ、たぶんっ」

 

「あぁっ、一夏なら大丈夫だっ、そうだろうっ、草薙っ、セシリアっ、布仏っ!」

 

 

 剣、本音、セシリアの会話が聞こえていたのか、観客席から振り返った箒がムッとした表情でそう告げる。

 

 

「……そうですね、私達はできる限りのことをしました。そして友人を信じないのは失礼に当たりますね」

 

 

 微笑むセシリアと頷く剣はアリーナ上空に視線を移す。

すでに白式と対戦相手である鈴のIS【甲龍(シェンロン)】は射出されていた。

特徴的な棘のような突起物を持つ【非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)】を有し、スマートなブルー・ティアーズに比べると都牟刈に近いが、ゴツさは都牟刈以上だった。

 

 

『来たわね』

 

 

 大型の両マニピュレータに握られた2本の青竜刀【双天牙月】を軽く振り回しながら、得意そうな笑みを鈴は浮かべている。

 

 

『あぁ、来たぜ鈴。約束の事、俺が勝ったらちゃんと教えてくれよ』

 

『嫌よ、説明なんてしたくないわよ馬鹿っ! それに負けるわけないでしょっ!?』

 

『だから言ってんだろっ! 教えてくれればすぐに謝るってっ!』

 

『それを教えたくない乙女心が分からないから馬鹿なのよっ! 馬鹿一夏っ!』

 

『馬鹿っていったほうが馬鹿なんだよっ!』

 

 

 まるで子供の喧嘩のような言葉の応酬。

オープンチャネルでのやり取りであるため、アリーナ全てに響き渡っているがヒートアップしている2人は気づかない。

 

 

『馬鹿一夏っ! 唐変木っ! 朴念仁っ!』

 

『誰が朴念仁だよ、貧乳っ!』

 

『ひんっ……貧乳といったわねっ!? 貧乳と言ったわねぇぇぇっ!?』

 

(子供の喧嘩かよ)

 

(ヒートアップしちゃってるから気づいてないねあれ)

 

 

 ヒートアップしながらも、2機は互いの得物を所定位置で構える。

その様子に、騒がしかったアリーナも静けさに包まれていく。

 

 

 次の瞬間、試合開始のブザーが鳴り響くと共に2機は弾かれたように機動を開始した。

瞬時加速で白式が詰め寄り雪片を上段から振り下ろすが、同じように瞬時加速を用いた加速で甲龍は上方への回避を成功させた。

 

 

(へぇ、瞬時加速は使えるんだ。 なるほど、セシリア・オルコットと剣の入れ知恵か何かね?)

 

 

 一夏の機動の速さの認識を修正しながら、ペロリと鈴は舌なめずりをした。

 

 

(でも、これならどうかしらっ!)

 

 

 甲龍の非固定浮遊部位の装甲部分が展開され、内部に光が奔る。

その数瞬後、白式は何かに殴られたかの様に吹っ飛ばされ、エネルギーが減少する。

 

 

『ぐぅっ!?』

 

 

 なんとかAMBACで機体制御を成功させた一夏が上方から見下ろす甲龍に視線を移す。

 

 

「アレが【衝撃砲】か」

 

「衝撃砲……?」

 

 

 剣の言葉を箒が広い、聴きなれない言葉にクエスチョンマークを浮かべる。

 

 

「えぇ。調査した情報では空間に圧力をかけることで砲身を作成して、衝撃を砲弾として打ち出す兵器とのことです」

 

「要はでかい空気砲だ。作ったことあるだろ、ダンボールに穴を開けて側面を押すやつ」

 

「蝋燭の火を消したり煙で空気の軌道がみえるやつだよね」

 

 

 剣と本音の言葉で合点がいったのか、あぁと箒は頷いた。

しかし彼女は衝撃砲の脅威となる点には理解が追いついていなかった。

 

 

「あの武装の恐ろしいところは砲身が周りの空間であるため、【肉眼】で確認できないところです。ハイパーセンサーでも正確には検知できない見えない砲撃など脅威でしか有りません」

 

「威力はそれほどじゃないのが救いだな」

 

「おそらくは視線や演算などで射線や射角を調整しているので、回避する手段はあるはずです。それに気づくかどうかが、鍵ですね」

 

(……一夏っ!負けるなっ!勝ってみせろ……っ!)

 

 

 心中でそう祈った箒の手には、何故か力がこめられていた。

 

 

(剣やセシリアが言ってたのはこれかっ!)

 

 

 試合前に鈴のISの情報については、セシリアから一夏に伝えられている。

だからといって全てを回避することは難しい。

ブルー・ティアーズや都牟刈のように実体を持った兵器ならば、射線の予測も訓練のお陰でおぼろげながらも行える。

だが兵器自体が見えないのならば、対処の使用がないのだ。

 

 

(……ならっ、勝負は一瞬。瞬時加速で一気に間合いを詰めて、零落白夜で……っ!)

 

 

 握る雪片に力を込める。

スラスターを噴かして鈴に接近しようとする一夏に対して、鈴は衝撃砲での迎撃体勢を整える。 

勝負は一瞬にかかっており、その刹那が最も盛り上がる瞬間になるであろうと試合に期待を膨らませていた時だった。

 

 

 凄まじい衝撃音がアリーナに奔った。

衝撃砲の威力ではない、それ以上のナニか。

 

衝撃の中心地点には、灰色の機械が存在していた。

首がない人型、と形容できるその巨体は異常に長く太い腕、その腕を覆うように与えられた装甲によって一種の怪物のようにも見えた。

 

 

「っ、何が起こりましたのっ!?」

 

 

 セシリアの驚愕の叫びが観客席に響くが、すでに回りはパニックの様相を呈していた。

学年が上に行くほど混乱に陥っている生徒は少なく迅速な行動ができているが、1年生はそうも行かなかった。

1組のクラスメイト達もほぼ全員がパニックに陥っており、叫び声を上げる者、呆然とアリーナ中心を見つめるもの等様々であった。

 

 

(っ、遮断シールドを破ってアリーナに侵入した何者かがいるっ! このままでは皆さんにも危険がっ!)

 

「セッシーっ!」

 

 

 すぐさま動けたのはセシリアと本音であった。

 

 

「本音さん、皆さんの避難をっ!」

 

「でも、皆この様子じゃあ……っ!」

 

 

 パニックに陥ってしまった人間を説得して避難させる。

言葉で言うには簡単だが、実際にはパニックには度合いが存在しておりそれは人それぞれ異なっている。

全員をたった2人で避難させるにはどの程度の時間がかかるか分かったものではない。

 

 そう2人が思い至ったその瞬間、真横からまるで会場が割れるかのような音が大きく響いた。

突然の出来事であったため、セシリアも本音も、その音のせいで行動を停めてしまっていた。

音の原因、それは剣が両手を叩いた音であった。

まるで爆発したかのような音だったが、その音は周囲のクラスメイト達にも届き彼女達は一斉に剣に視線を移した。

 

 

「皆、まずは深呼吸だ」

 

 

 清香に優しく語り掛けるように剣が言うと、彼女を筆頭にしたクラスメイト達が静かに深呼吸を行う。

 

 

「はい、吐いて。吐いて。肺の下部から全て空気を押し出すように、フゥって吐いて」

 

 

 静かな呼吸音が異様なほどはっきりと清香達の耳に残った。

 

 

「はい、今度は3秒だけ、息を止めて。1、2、3」

 

 

 そして剣はパンと軽く手を合わせる。

 

 

「はい、OK。呼吸が勝手に整ったはずだ」

 

「あっ……」

 

 

 先程までパニックに陥っていた清香は、自身の呼吸がいつの間にか整っていること、耳の裏から聞こえていたはずのドクンドクンという鼓動音も小さくなっていることに気がついた。

また清香だけではなく、指示に従ったクラスメイト達全員が程度の差はあれ先程よりも落ち着いて周りが見えるようになっていた。

それを確認した剣が、観客席をざっと見回す。

1組や2組の生徒達は先程の剣の行動でパニックがだいぶ収まっているが、別クラスの生徒達は依然パニック状態だ。

3組と4組の生徒達はISスーツ姿の水色の髪の少女、【更識簪】が避難誘導を行っているが、思うように進んでいないようにみえる。

 

 

「本音、セシリア、皆の避難は任せた。簪も避難誘導してくれているが手が足りないみたいだ」

 

「はい、簪様のほうは私がサポートを。剣様はどうしますか?」

 

 

 いつもののほほんとした口調とはうって変わり、まるで従者のような本音の口調。

その様子に隣に居たセシリアが目を丸くして驚いていた。

 

 

「俺のやることはどこでも変わらない」

 

「承知しました、御武運を」

 

「本音も気をつけてくれ」

 

 

 頷いて返事をした本音は普段からは想像できないほどの速さで観客席を駆け下りていく。

剣も観客席前列まで一気に跳躍して、すぐさまアリーナへ身を乗り出そうとしていた。

 

 

「つっ、剣さんっ、待ってくださいっ、まさか侵入者と戦うつもりですかっ!?」

 

「あぁ。セシリアは1組の皆を頼む」

 

「待ってくださいっ、ならばわたくしもっ!」

 

「ヤツが何をするか、何が目的なのか不明な状況だ。もしかしたら被害が拡大するかもしれない。だから1人はここで皆の避難が完了するまで残るべきだ。ブルー・ティアーズなら広域の援護もできる、適任は君しかいない」

 

 

 侵入者に向けられた剣の目を見てセシリアは反論の言葉を飲み込んでしまった。

彼が向けていたのはいつか自分に向けられた殺気を込めた瞳、だが込められた激情の濃度は桁が違った。

視線だけで人を殺せるのならば、間違いなく殺せるだろう、それほどの殺気が込められた冷たい視線だったのだ。

思わず冷や汗が頬を垂れた。

 

 

「俺は護国の剣、草薙剣。日ノ本という【国】を、【民】を守る。IS学園は国家に属さないなんてのは知っているが、ここは日ノ本。ここにいる生徒皆が俺にとっては国であり、民だ。だから俺が、【草薙剣】が災禍を払う。それが俺の役目であり【誇り】だ。頼む、セシリア」

 

 

 振り返った剣は、いつもと変わらない態度で笑みを浮かべていた。

 

 

「……分かりました。わたくしもオルコット家の誇りにかけて、皆さんを無事に避難させてみせます。ですから剣さんもご無事でっ」

 

 

 振り返らず走り出したセシリアに、あぁと小さく頷く。

制服に覆われて見えなくなっていた、腰のホルダーから【短刀】を抜いて構える。

 

 

(セシリアと本音、簪には後でお礼言わないとな……さて)

 

(【お仕事】だね)

 

(あぁ)

 

 

 意識の中のヒメと頷きあった後、淡い翡翠の光が剣の身体を包み込む。

 

 

『日ノ本の敵は、この手で処理する』

 

 

 IS【都牟刈】の完全展開を確認した剣は、スラスターを全開に吹かせてアリーナ上空へと飛び出していった。

 

 


 

 

『うぉぉっ!?』

 

 

 迸った閃光に一夏が戸惑いの声を上げる。

その閃光は侵入者が放ったビームであり、一夏はスラスターを全開に噴かせて回避に成功していた。

 

 

(なんて出力なのよっ! エネルギー兵器って訳ねっ!)

 

 

 甲龍のセンサーが取得したビームのエネルギー数値を見て鈴は目を見開いた。

ISに搭載されている武装の大半は実弾武装であり、光学兵装の数は全体的に見ると少ない傾向にある。

これは技術的な発展が遅れている、または実弾武装のほうが信頼度が高い為であるが、それにしても異常としか思えないほどの数値の高さであった。

 

 

『これをあたしと一夏だけでやれってのね……いいじゃない、上等っ!』 

 

 

 もし先程のビームの直撃を受けてしまったら、ISといえども無傷ではすまない。

その緊張感を感じながらも、跳ね除けるように鈴は舌なめずりをした。

そこからの鈴の行動は速かった。

 

 

『一夏っ、武装の情報をあたしによこしなさいっ!』

 

『っ、武装の情報っ!? そんなの雪片と【零落白夜】しか……っ!?』

 

『えっ、ワンオフっ!? いいから、よこしなさいっ!』

 

 

 絶えず飛来してくるビームを互いに高速機動で回避しながらオープンチャネルに向かって鈴が叫ぶ。

その数秒後、白式から甲龍に武装の情報が送られてきた。

 

 

(ブレードオンリーっ!? 機体作ったやつ頭おかしいんじゃないのっ!?)

 

 

 愚痴を心中でこぼしながらも、凄まじい速度で視線を動かして頭に叩き込む。

その中でも鈴の目に留まったのは、白式の【単一使用能力】【零落白夜】だった。

零落白夜の【エネルギー無効化機能】と【バリア無効攻撃】、これがあれば十分対抗できる。

 

 

『これなら……あたしが援護っ、あんたがオフェンスっ!それでいいわねっ!』

 

『っ、あぁ……分かった、やってやるさっ!』

 

 

 鈴の言葉に一夏が頷いた瞬間だった。

突如として、白式のみにビームが飛来するようになった。

先程までは甲龍にも砲撃を行っていたが、甲龍への攻撃を破棄して全ての砲撃を白式に絞り始めているのだ。

 

 

『くそっ!!』

 

 

 呻き声をもらしながらも一夏がビームをなんとか回避するが、AMBACの錬度が足りないために姿勢制御が完璧には終わらずに体勢を崩してしまった。

それを侵入者は見逃さずに、砲口を一夏に向ける。

 

 

『一夏っ!!』

 

 

 咄嗟に瞬時加速によって甲龍を白式の前に移動させて、己を盾にする。

数秒後には飛来するビームに鈴は思わず目を瞑ってしまった。

 

 

 だが、ビームが2人に飛来することはなかった。

 

 凄まじい金属音がアリーナに響き、その音に驚いた鈴は瞳を開く。

侵入者の左腕部分、人間で言えば肘の部分が半ば切断されていた。

内部フレームもほぼ断ち切られている状態で露出しており、バチバチと火花が飛んでいる。

 

 

『硬い。一撃での切断は無理か』

 

 

 その声と共に、甲龍のハイパーセンサーが自機の上方に反応を検知した。

鈴が顔を上げるとそこには、AMBACを終えて日本刀型実体剣【無銘】を構えた【都牟刈】が存在していた。

 

 

『つっ、剣っ!?』

 

『あっ、あんたっ! なんでここにっ!?』

 

『日ノ本を守るのは俺の使命。奴はIS学園の皆の命を脅かす敵であり、処理する必要があるからだ』

 

 

 その言葉に鈴はぞくりと寒気を感じた。

剣とは依然愚痴を聞いてもらった程度の関係性しかないが、ここまで冷たい殺気を纏う人間には思えなかったのだ。

 

 

『凰、先程のお前の作戦で構わない。俺とお前で援護、一夏の零落白夜で決める。それでいいか?』

 

 

 剣が鈴に確認するが、その瞬間3名の眼前に空間投影ディスプレイが出現した。

そこに映っていたのは、1組の副担任である山田真耶であった。

 

 

『織斑君っ、凰さんっ、いますぐそこから避難を……って、えぇっ!? なんで草薙君までそこにいるんですかぁっ!?』

 

 

 彼女からしたらこの反応は当然だった。

その反応に苦笑しながら、剣は侵入者に目を移す。

左腕部分を深く斬りつけ、ダメージを与えることに成功しており、いまだ行動を起こす気配を見せない。

それに安堵しながら、真耶に返答する。

 

 

『今からヤツを俺達3人で止めます』

 

『だっ、駄目ですっ、危険すぎますっ! 今から私達教師陣で対応にあたりますからっ!』

 

『ISの稼動までにどれくらい時間がかかるか分かりません。こいつをここで放置したらどれだけの被害が出るか、考えたくもありません。だから俺が処理します』

 

『っ、駄目ですっ、私達が行くまで交戦は避けて……っ!』

 

『すいません、切ります』

 

 

 そう告げて、真耶の言葉を途中で通信を切る。

それと同時に、侵入者が動きを見せ、こちらに砲撃を繰り出してきたのだ。

その砲撃を3人はスラスターを噴かして回避する。

 

 

『凰っ、再確認だっ、ヤツを仕留めるのは一夏っ、それでいいなっ!』

 

『っ、あぁっ!! もう分かったわよっ! それでいいわよねっ!?』

 

『あっ、あぁっ、任されたっ!!』

 

 

 半ばやけくそ気味に頷く鈴に苦笑する剣は、すぐさま高機動に入り左腕部内蔵エネルギーガトリング【玉祖命(たまのおやのみこと)】を展開して、光弾をばら撒いていく。

鈴もその背後から衝撃砲を放つが、どちらも回避、着弾しても有効打にはいたっていなかった。

 

 

(ねぇ、剣、少しだけいい?)

 

(何だ?)

 

 

 全身から放たれるビームを回避して、AMBACで体勢を整える都牟刈。

そんな時、ヒメが意識の中から話しかけてきた。

 

 

(さっき、剣が不意打ちで打ち込んだ一撃でさ、左腕半分切れたよね?)

 

(あぁ、そうだな)

 

(けどさ、あれ生身の部分見えなくない?)

 

(……)

 

 

 ヒメの言葉が引っかかった視野部分を拡張表示させる。

確かに彼女の言ったとおり、内部フレームまで損傷させ、マニピュレータの装甲にも深い傷跡が残っている。

通常のISなら生身の腕部分が露出してもおかしくはない。

 

 

(確かに、生身の部分が露出してもいい程の損傷だな。それに斬撃の瞬間にも生身を切り裂いたような感触もなかった……まさか)

 

(そうそう、所謂【無人機】ってヤツ?)

 

(ISほどの兵器が無人仕様にできるのならばとっくに実用化されている。それができないから公ではできないと公表されているはずだ。実用化されたという報告もない……ないが……いや、いまはよそう)

 

 

 脳裏に浮かんだ予測を振り払って、一夏と鈴に通信をつなぐ。

 

 

『一夏、凰、ヤツは有人機じゃないかもしれない』

 

『はぁっ!? ISは人が乗らないと動かないのよっ! 無人機なんてあり得ないっての!?』

 

『だが俺はヤツの左腕を切ったような感触はなかった。それにこちらの様子を観察するような動きもときよりみせている。実際に俺達が作戦会議している時は停止していた』

 

『……分かったわよっ、仮に【無人機】だととして、どうするの?』

 

やりやすくなっただけ(・・・・・・・・・・)だ、作戦は変わらない』

 

 

 剣は視線を一夏に向けると、彼の言葉に頷く。

 

 

『凰、衝撃砲の最大出力、どの程度チャージに時間がかかる?』

 

『えっ、そうね……動き完全に止まるけど3秒あれば、いけるわ』

 

『分かった。今から俺がヤツの注意を引く。チャージが終わったらすぐにトリガーを引け』

 

 

 えっ、と驚いた鈴の返答を待たずに、剣は【瞬時加速】で加速する。

接近する都牟刈に向けて、無人機はビームを発射し、その濃度は嵐のようだ。

だが、剣はその嵐の中をエネルギーの消耗を最小限に抑えて突っ切って行く。

着弾コースのビームだけを、【天磐船】の力場を蹴り上げたり、取っ手に使うことで踊るように回避しているのだ。

攻撃密度が高い為、被弾なしとはいかないが掠る程度に抑えることに成功していた。

 

 そして剣は無人機をそのレンジ内に収めると同時に、瞬時加速で右方向に一気に加速した。

無人機と真正面のラインにいるのは、衝撃砲のチャージが完了した甲龍だった。

 

 

『凰っ!!』

 

『喰らいなさいっ! 最大出力よっ!!』

 

 

 圧縮された空気が、それこそ砲弾のような威力を持って無人機にぶつかった。

装甲がひび割れ中に舞うが、機能停止に至ってはおらず砲塔を鈴に向けていた。

 

 しかしまだ終わりではない。

その射線に割り込むように、力場を蹴って加速する草薙の体術、【天鳥船】で加速した都牟刈が現れたのだ。

蹴り飛ぶと同時に瞬時加速を用いたその速度、そして大きく右腕を反るような構えから繰り出す一撃を回避することはできなかった。

 

 

――  草薙流剣術 壱式【大蛇裂(おろちさき)】 ――

 

 

 一閃、光の軌跡が無人機の左腕から胴体、そのまま胴体を通じて右わき腹へと抜けた。

 

 草薙流剣術 壱式 【大蛇裂】

それは天鳥船によって加速して打ち込む、神速の抜き逆胴。

甲高い金属音と共に、無人機の左腕、胴体は両断され落下していく。

 

 剣も確かな手ごたえを感じたものだったが、まだ無人機は行動を止めていなかった。

バチバチと火花を散らしながらも、都牟刈を殴り飛ばそうと残った右腕を振り上げたのだった。

 

 剣は無人機を蹴り上げた衝撃と共に加速して、右腕の一撃を回避して離れる。

 

 だが終わりではない。

本命はこの後なのだ。

 

 

『『一夏っ!』』

 

『うぉぉぉぉっ!!』

 

 

 一夏は咆哮と共に零落白夜を起動させて、無人機へ一直線に迫る。

いち早く姿勢制御を完了させた無人機は、残る右腕を一夏へ向けると、光を収束させていく。

発射までコンマ数秒以下、すでに加速してしまっている一夏には回避のしようがなかった。

 

 だが、そのビームは一夏とは見当違いの方向に発射されることになった。

 

 

『おまけよっ、持って行きなさいっ!!』

 

 

 ドンっと通常出力の衝撃砲が無人機を襲ったのだ。

無人機は剣の一撃で人間でいう下半身部分を喪失しており、左腕も存在していない。

当然姿勢制御は通常時よりも困難になり、時間も相応に必要になる。

その隙は、致命的であった。

 

 

『これでどうだぁぁぁっ!!』

 

 

 零落白夜が発動した白き刃が、上段から振り下ろされ無人機を真っ二つに切り裂いた。

バチバチと火花を上げて、駆動音が停止してそのまま落下していく無人機。

 

 肩で息をしながら、無人機を切り裂いた一夏は鈴と、剣に視線を送る。

鈴は安堵したように大きく息をついた後サムズアップを浮かべ、剣は微笑む。

それは無人機の撃破に成功したことを示していた。

 

 


 

 

 剣たちが無人機の撃破に成功したのと同時刻。

 

 IS学園の上空数1000mのポイントに【人】がいた。

 

 

『アレが今代の【草薙剣】……ね』

 

 

 そう呟いた【ISを纏った赤髪の少女】は口角を大きく歪に歪ませた。

顔は間違いなく美少女に分類されるものであったが、その笑い方が尋常ではなかった。

 

 

『クックック……フハハハ……アーッハッハッハ!!』

 

 

 まるで狂ったような高笑いを数分間に渡って続ける少女。

しばらく笑い続けた少女の姿は、空に融けていくように消えていった。

IS学園のセキュリティでも捉えることはできずに、空に消えた少女の存在に気づくものはいなかった。

 




次回予告

第6話「暗雲の予兆」

「【敵】になるのなら容赦はしないけどな」

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