IS-草薙之剣-   作:バイル77

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第8話 三種の神器

IS学園 生徒会室

 

 暴走したラウラの鎮圧と、八坂という侵入者を退ける事に成功していた剣達は、生徒会室に集まっていた。

現在生徒会室にいるのは、10名。

楯無、虚、簪、本音という草薙家との関わりが深い者、千冬と真耶の教員組、そして一夏、箒、セシリアの3名に剣を加えた面々だ。

すでに夕食の時間は終わりを告げ、夜の帳は下りている。

何故ここにこの10名がいるのか、それは剣の【秘密】を打ち明けるためだ。

 

 

「剣、頭の傷は大丈夫なの?」

 

「あぁ。たっちゃんこそ、大丈夫なのか? 侵入者と戦ったって聞いたけど」

 

「お嬢様の傷は大したことはありませんよ、剣。侵入者についてもすでに【有識者】に連絡してますでの、それよりも説明を。皆さん待ってますから」

 

 

 暴走したラウラの鎮圧の際に負傷した剣だったが、治療は済んでおり、包帯を頭に巻いている。

虚の言葉でソファから立ち上がった剣は、それを弄りながら生徒会室にいる面々を見回した後、口を開いた。

 

 

「えっと、もう一部の人は知ってるんだけど、これから皆の前で起こる事は全部現実だから……気を失ったりはしないでくれよ」

 

 

 そう言った剣の言葉に、楯無や簪達、そして実際に目の前で見た一夏達を除く面々は首をかしげる事になる。

だが、すぐに全員が目を見開いて驚く事となった。

なぜならば、剣の姿が見る見るうちに変わっていくからだ。

 

 長身である彼がどんどん縮んで、150cmでその収縮が停止する。

身長が縮むと同時に、彼の体格にあった制服はブカブカの丈余りになるが、豊満に育った二つの果実によって胸の部分は丁度よく張られる形になっている。

髪の毛も炎のようなメッシュ交じりの黒髪から、炎そのもののような真紅へとその色を変える。

そんな変化が瞬きの間に起こり、目の前に現れた少女が頭を下げる。

 

 

「なんていえばいいの、剣……あっ、うん、そういえばいいの? 分かった。えっと、ヒメ、あっ、草薙ヒメです、初めまして」

 

 

 ペコリと一夏達の前で、ヒメが頭を下げる。

 

 

「どっ、どどっ、どどどっ、どういうことですかぁっ!?」

 

 

 目の前で起こった変化に、真耶が驚愕の余り叫ぶ。

一瞬目の前で男性である剣が、似ても似つかない美少女になったのだ。さもありなん。

 

一度見ているはずの一夏や箒も困惑しており、声には出していないが千冬やセシリアも目を見開いて驚いていた。

事情を知っている楯無達もこの反応は仕方ないかと、苦笑していた。

 

 

「草薙、ヒメだったな、すまない、説明を頼む」

 

「了解です、織斑先生……あっ、説明は剣がしたいって事なんで、また変わりますね」

 

 

 千冬の返事を待たずに、ヒメの姿が変わっていく。

先程とは逆に、柔らかなヒメの身体が男性のそれに変わっていき、縮んでいた身長が元に戻っていく。

丈が余っていた制服も丁度よいサイズの肉体にフィットし、豊かに実っていた2つの果実も厚い胸板へと変化する。

髪の毛も真紅から黒髪へとその色を変え、特徴的な炎のようなメッシュも現れた。

 

 

「俺は特異体質なんです。さっき皆に挨拶したヒメっていう女の子の人格が俺の中にあって、人格を入れ替えると身体の性別も入れ替わるっていう体質です」

 

 

 千冬に真耶、一夏や箒、セシリアに視線を移しながら剣が続ける。

 

 

「黙っていた事はごめん。こんな体質な人間を受け入れてくれる人は正直言うと少ない。だから黙っていたんだ。気持ち……悪いだろ?」

 

 

 乾いた笑みを浮かべる剣の脳裏に一瞬思い出したくもない過去が蘇る。

幼い頃、この秘密を軽率に漏らしたことで決して軽くはない迫害を受けたことを。

そのため身内や、楯無や簪、本音や虚等近い人間にしか教えていないことだった。

だが、先の事件で一夏や箒などの剣にとっての重要人物達に見られてしまったことが転機になった。

彼らに口外しない事を約束させるのも一つの手であったが、今後の余計な混乱を防ぐ事も含めて開示する事にしたのだ。

 

 もちろん、情報開示する範囲は決めている。

一夏や箒の様に、今回の仕事で重要となる者達と、教員である千冬と真耶。

そして己が信頼できる友人と思っているセシリアだ。

 

 剣が口を閉じると、生徒会室がしんと静まる。

誰もが剣を見つめているが、口を開かない。

その様子をみて、あぁと少しだけ納得したように頷く。

 

 

(……そうだよな。まぁ、流石にガキの頃とは違うから、なんとかなるさ)

 

 

 そう思った瞬間、剣の視線の先で、小さく挙手をする姿が映った。

挙手を行っているのは対等の友人、セシリアであった。

 

 

「剣さん。正直なところ、わたくしは驚いています。ですが、わたくしはあなたの体質を気色悪いなどと思ったりはしておりませんわ」

 

「……えっ?」

 

「その体質を悪用すれば、話は別ですけど……剣さんがそんな事をする人間ではないことくらい、存じています。素敵な個性だと、わたくしは思います」

 

 

 微笑む彼女から出た言葉に、剣は目を見開いて驚く。

 

 

「それにわざわざ教えてくれたということは、信頼してもらっているという事でしょうか?」

 

「っ、それは……っ」

 

 

 己の想いを見破られた事で咄嗟に彼女から視線を外す剣に、セシリアは笑みを浮かべた。

何故か、そのやり取りを見ていた楯無が一瞬だけ不機嫌そうな表情を浮かべて視線を逸らしたが、それに気づいたのは従者である虚と妹の簪だけであった。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 彼女の言葉に照れた剣は頭をかきながらセシリアにそう告げた。

彼女もそれにどういたしましてと、頷いて答えた。

 

 

「いやぁ、驚いたぜ、剣」

 

 

 セシリアの言葉が切欠になったのか、一夏もいまだに驚愕が抜け切っていないようだが剣に向かって口を開いた。

 

 

「……そうだろうな。気持ち悪かったか?」

 

「いや、そんなことねぇよ。ヒメとはもう一緒に戦った仲でもあるし、お前がいいやつだってのは分かってるつもりだから」

 

「……お前はよくそんな恥ずかしい台詞をスラスラと……」

 

 

 一夏のまるで太陽の様に明るく、真っ直ぐな台詞に聞いている剣のほうが恥ずかしくなって視線をそらす。

 

 

「ありがとな」

 

 

 だが、しっかりと感謝の言葉を彼に伝える。

一夏も、おうと笑顔で受け取ってくれた。

 

 

「皆、しっかりと受け入れられているようだな」

 

「織斑先生は、驚いてないんですか?」

 

 

 剣達の様子を見て、千冬が小さくこぼした言葉を真耶が拾った。

その様子に少しだけ苦笑した千冬が続ける。

 

 

「そんなことはないさ。私も少なからず驚いたが……草薙が私の生徒である事には変わりがないのでな、時間がかかるかもしれんが、受け入れるさ。山田先生は?」

 

「私は……私も驚きました。でも、草薙君は秘密を打ち明けてくれたなのなら、私も受け入れてみますよっ!」

 

 

 真耶が張り切ったように言うと、それに満足したのか千冬も頷く。

 

 

(……皆、お人よしだな)

 

(強がっちゃってぇっ! 嬉しいくせにっ!)

 

(うるさいよ)

 

 

 ヒメの言葉どおり、剣は自然と嬉しそうな笑みを浮かべていた。

視線を最初から秘密を知っていた楯無達に合わせると、彼女達も嬉しそうに微笑み、本音は袖越しにサムズアップまでしてくれていた。

 

 そして、最後の1人に視線を移す。

その視線の先は、篠ノ之箒に向かっていた。

彼女は剣の視線に少し驚いたような表情になって、数秒何かを考えた後、視線をそらした。

何かを喋ろうとしてはいたが、それが口から出てこないようであった。

 

 ちなみに、彼女の行動はしっかりとカメラに残っており、相応の罰則として反省文の提出を義務付けられていた。

進捗はまだ5割程度であり、少し腕を庇っているようにも見えるが今は別のことが重要であった。

 

 

「篠ノ之さん、別に無理いって受けれてほしいわけじゃないんだ。気持ち悪いなら、気持ち悪いでいい」

 

「っ、いや、そういうわけじゃない……その、何だ、ヒメ、が説明するといっていたから……混乱していただけだ。お前が特異体質なのは分かった」

 

 

 剣の言葉を否定して首を横に振るう箒に、少しだけ笑みを浮かべて続ける。

 

 

「ならヒメと話をしてもらえるか? こちらがいいだした約束なんだ。それを果たさせてくれないか?」

 

「……分かった。ヒメには【直接】話したいこともあるからな」

 

(ヒーンっ、怒ってるーっ!?)

 

「ありがとう」

 

 

 意識の中でそう叫んだヒメを再び無視して、剣は彼女に頭を下げた。

彼の行動に驚いた箒は少し照れくさそうに返す。

 

 

「というか、聞こえているのか、ヒメに?」

 

「あぁ。主人格は俺だけど基本的に話は聞こえてる。意図的に引っ込まない限りはな」

 

「そうか……なら明日の放課後、初めて会った場所で待っている。今はそれだけだ」

 

 

 少しだけすっきりした様子の箒はそう言うと口を閉じた。

 

 

(さぁ、お前はこれからだぞ、ヒメ。篠ノ之とちゃんと話せよ?)

 

(うん、分かってる。分かってるんだけどさぁ……わりぃ、やっぱ辛れぇわ)

 

 

 そんな様子のヒメを無視して、剣は再度、生徒会室に集まった皆に視線を移す。

 

 

「今日はありがとうございました。篠ノ之さんには明日ヒメが話しますので、それ以外は俺からの用件は終わりです」

 

「分かった。そろそろいい時間だ。皆、消灯時間は守るように」

 

 

 剣の言葉を聞いた千冬が頷いた後そう言って、生徒会室を出て行く。

それに続くように、真耶や一夏達も退室して行き、残るのは更識と布仏のメンバーと剣であった。

 

 ふぅっと疲れたようにソファに座り込む剣を見て、楯無が口を開いた。

 

 

「よかったわね、剣」

 

「皆が、優しい人たちでよかったよ」

 

 

 ソファの隣にぽふっと座った楯無に苦笑しながら剣が答える。

 

 

「ヒメのことを開示する、と聞いたときはどうなるかと思いましたが……正直言って安心しました」

 

 

 虚もいつの間にか用意していたお茶を口に運びながら、胸を撫で下ろしているようだった。

 

 

「後は、篠ノ之さんの件だけだよね。ヒメ、忘れちゃだめだよ?」

 

「ひーちゃん、明日は頑張ってねぇー! 約束は大事だよー?」

 

(かんちゃんとほんちゃんのいじわるーっ!)

 

 

 簪と本音の言葉によって悲鳴を上げるヒメの様子に、剣は苦笑するのだった。

 

 


 

 

 翌日 IS学園 1年1組 教室

 

 VTシステム暴走事件

ラウラの暴走についてこのような名前で学園の教員や生徒達に認識される事となった。

ドイツにとっては、今回の暴走事件はまさに寝耳に水であった。

国際法上禁止されているVTシステムが、自国の代表候補生のISに搭載されており、それがIS学園で暴走を起こしたのだから大問題である。

VTシステムについては、【シュヴァルツァ・レーゲン】の修理作業中に、徹底して消去された事を確認しており、何故搭載されているかについては開発部門を問い詰めているという。

 またラウラの責任能力が問われたが、この件については【外部からの干渉】があったという報告があがっているため、1ヶ月程度の謹慎処分という比較的軽い処分が下されるに終わった。

 

 さて、そんなラウラなのだが現在は学生という身分であり、謹慎中でも授業に出る事が許されている。

またまるで人が変わったかのように、今までの態度を謝罪した事でクラスメイト達も彼女に対する認識を改めたのだが、それを上書きする出来事が起こったのだ。

 

 その出来事とは、彼女が一夏にキスをして――

 

 

「日本では、気に入った相手の事を“嫁にする”と言うのが一般的な習わしだと聞いた。郷に入れば郷に従えという格言もあるとの事だ。よってお前はこれから私の嫁だっ!」

 

 

 と、堂々と宣言した事であった。

一瞬にして教室は、一部の生徒達は目を見開いて驚き、一部は顔を紅潮させて必死にスケッチを取ったり、立ち上がった箒と別クラスから飛び込んできた鈴によって修羅場になるという地獄変と化した。

それを鎮めたのは当然、千冬であり朝から深いため息を彼女はついていた。

 

 衝撃の行動を起こしたラウラは満足げな表情を浮かべながら、耳を押さえていた剣の元へと足を進める。

 

 

「何か用か、ボーディヴィッヒ?」

 

「ボーディヴィッヒではなく、ラウラで構わないぞ、剣。お前も私にとっては特別な……恩人だからな、昨日のお礼だ。助けてくれて感謝する」

 

 

 少し照れたようにそう言うラウラに剣は、んっと頭に巻いている包帯を弄りながら答えたのだった。

 

 

 同日 放課後 IS学園学生寮 中庭

 

 本日の授業が全て終了し、夕焼けに包まれた学生寮の中庭。

中庭のベンチのうちの一つに、女子生徒用の標準的な制服を身に纏ったヒメが座っていた。

 

 

「だめだぁー、滅茶苦茶緊張する。素数数えるとか役にたたないじゃんっ! 剣も奥引っ込んじゃってるしぃっ! 薄情者ぉっ!!」

 

 

 思わず叫んだヒメだったが、女子用の制服を見に付けている事と、周りに人気がない事から目立ってはいない。

ヒメの言うとおり、すでに剣は意識の奥に引っ込んでおりヒメの言葉は届いていない。

つまりは【1人でちゃんと説明しろ】という事であった。

 

 

(うぅっ、とりあえずは開口一番、ごめんなさいかなぁ……嘘ついてたことになっちゃうわけだしなぁ)

 

 

 以前箒にあった際に、仕方ないとはいえヒメは箒に嘘をついていた。

それをまずは謝るべきだろうと、決めたときであった。

背後に気配を感じたのだ。

 

 

「先にきているつもりだったが、早いな」

 

 

 振り返ると、篠ノ之箒が立っていた。

手に鞄などを持っていないところ見ると、一度部屋に戻ったのだろう。

ヒメも剣用の制服から着替えるために、部屋に戻っていたので同じなのだが。

 

 

「ほっ、ほうちゃん」

 

「隣、座るぞ」

 

「あっ、はい」

 

 

 箒がそう言ってヒメの隣に座る。

女性にしては高身長に入る箒と、低いほうに分類されるヒメの身長差があり、余計にヒメが小さく見えてしまう。

もっともヒメが居心地悪そうに身を縮めているからであるのだが。

 

 

「ほうちゃん、そのっ、ごめんなさい」

 

 

 意を決したヒメが口を開く。

 

 

「前にあったとき、草薙ヒメだーとか、別クラスだーとか、嘘ついて。仕方なかったけど騙したことには変わりないから、ごめん」

 

「えっ、その事なのか?」

 

「……はい?」

 

 

 箒の予想外の返答に、ヒメも思わず素っ頓狂な声が漏れた。

 

 

「いや、お前はヒメで、草薙……あぁ、面倒くさいな、剣とは、違うんだろう? 昨夜の説明で、私はそう解釈したんだが」

 

「えっ、あっ、うん。人格は明確に2つだから……違います」

 

「私が確認したかったのは、ヒメは私の友人でそれは変わらないという事なんだが。別クラスとか言っていたのは、その時はまだ話せない事情があったんだろう? なら仕方ないじゃないか」

 

「……ぷっ、あははははっ」

 

 

 最初は耐えようとしたヒメだったが、耐えられないとばかりに大声で笑い声を上げた。

 

 

「あー、勘違いしてたのかー」

 

「どうやら、そのようだな」

 

 

 箒も笑みを浮かべてそう告げる。

その笑みで何かを思い出したヒメが口を開いた。

 

 

「ほうちゃん、そういえば反省文は?」

 

「うぐっ、痛いところをつくな……大丈夫だ、今日中には終わる」

 

 

 腕を庇いながらそう言う彼女の姿にヒメが頷く。

 

 

「……迂闊な行動だったという事は分かっている。目の前で血を流した剣とお前を見たときに、馬鹿なことをしたと思ったさ」

 

「……うん、それが分かっているならいいよ。それに失敗は誰にもあるからね。あっ、ああいうのはあれっきりにしてほしいとは思うけどね、流石に痛いから」

 

「あぁ、分かっているさ。ありがとう」

 

 

 箒はヒメの言葉に頷き、2人の顔に笑みが浮かぶ。

その後、他愛のない雑談を少し行った後、ヒメは剣に戻るために自室に戻っていった。

 

 だいぶ長い間ヒメと話していたためか、すでに夕焼けは沈み、夜の帳が降りた中庭。

ヒメと話をしたベンチに座り、手に持った携帯を起動させた箒は、意を決した様にとある番号に連絡を入れる。

コール音はすぐに止み、耳に響くのは恐ろしくテンションの高い声。

 

 

『待ってたよ、箒ちゃんっ! この世界が生まれたときからずぅぅっとねぇっ!』

 

 

 箒がかけた連絡先、それは彼女の姉。

ISの開発者である天災【篠ノ之束】であった。

 

 

『うんうん。皆まで言うな皆まで。欲しいんだよね? モチロン用意してあるよ。君だけの唯一無二(オンリーワン)。【白き王(ホワイト・キング)】に並び立てる、箒ちゃんだけの【専用機】をね』

 

 

 束とは数度言葉を交わしただけで通話を切る。

相変わらずぶっ飛んだ姉だとは思う、だがこれで【力】を手に入れる算段はついた。

 

 あの姉の事だ。

誇張表現なしに満足できるほどの機体を手に入れることができるだろう。

だがその【力】を使う理由を今の箒は持っていた。

少し前の箒ならば、己のみしか見ていなかっただろう。

実際、束もそう捉えているようであった。

 

 しかし、今の彼女は違った。

脳裏に浮かぶのは想いを寄せる、【幼馴染】の姿。

そして目のまで血を流しながら心配してくれた大切な【友人】の姿。

 

 

(違う。違うんだ、姉さん。【並び立つ力】なんていらない。私は……一夏やヒメ達……【大切な人達を守りたい】から力が欲しいんだ)

 

 

 己が得る力の使い道を決めた彼女の瞳には、明確な光が宿っていた。

 

 


 

 それから数日経った、放課後。

第2アリーナの上空で動く2つの人影と4つの浮遊砲台。

時折発射される光が煌き、夕暮れになりかけている空を彩っている。

模擬戦で相対しているのは、【都牟刈】と【ブルー・ティアーズ】であった。

 

 

【ティアーズ】から奔るレーザーをAMBACを交えた加速によって、回避して姿勢制御を行う。

だが、攻撃はそれだけではない。

ティアーズの射撃と同時に、ライフルを構えたセシリアが反転姿勢のままスターライトmkⅢをこちらに向けていた。

刹那、放たれた閃光は都牟刈に直撃して装甲の一部が破壊され、その衝撃に弾き飛ばされた。

 

 なんとかスラスター制御で姿勢制御を行う都牟刈だったが、体勢を立て直すと同時にハイパーセンサーが周囲の反応を検知。

都牟刈の360°をティアーズが起動状態で浮遊していた。

 

 周囲には【天磐船】を展開済みだが、ここまで包囲されては加速の所作をとる前に撃ち落される。

両者のエネルギーはほぼ互角。しかし、この包囲攻撃を受ければエネルギーが枯渇するのは目に見えていた。

 

 

『チェックメイトですわ、剣さん』

 

『【同時制御】だなんて、いつの間に覚えたんだよ……セシリア。降参だ』

 

 

 スターライトmkⅢを向けたまま、そう言ったセシリアに剣も両手を上げて降参の意を示す。

周囲に展開されていたティアーズが、ブルー・ティアーズに帰還して行き装着されていく。

回収動作と、都牟刈への接近を苦もなく行っている彼女の成長には目を見張るものがある。

かつて戦ったときにはどちらか片方しかできなかったはずなのだ。

 

 

『わたくしも、努力は惜しみませんから』

 

 

 セシリアはかつて剣や一夏と戦った代表決定戦から代表候補生としての意識をより改めていた。

BT兵器に必須となる【空間認識能力】と【並列思考】を鍛えるのに最適な、キューブ型立体パズルを使った基礎訓練などを徹底して行っており、そのかいもあって4基のティアーズを自由自在にとはいかないまでも、ある程度は自由に操れるようになっていた。

通常の高機動戦闘の際に【同時制御】による射撃を行う事も可能となったため、元々手数の多いブルー・ティアーズの選択肢をより増やす事に成功しているのだ。

相手にとっては脅威としか言いようがない。

 

 

『成程な、俺も負けてられないな』

 

『ふふ、それはこちらもですよ』

 

 

 都牟刈とブルー・ティアーズが着地する。

すると、セシリアが何かを思い出したように口を開いた。

 

 

『そういえば、剣さん。もうすぐ学年別トーナメントですが、準備のほうはいかがですか?』

 

(そういえばそんなイベントがあったな)

 

 

 セシリアの話で剣の脳裏に浮かぶ【学年別トーナメント】

正確にはより実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組(タッグ)で行う【学年別タッグトーナメント】だ。

すでに申し込みは始まっているのだが、【とある事情】から頭からすっぽり抜けていたのだ。

 

 

『もしよろしければ、わたくしと組んでいただけませんか?』

 

 

 セシリアが微笑みながらそう提案してくれる。

だが剣は首を横に振るう。

 

 

『ごめん。俺、それ出れないんだ』

 

『出れない? 出場できないということですか?』

 

『あぁ。開催日に【実家】へ戻らないといけないんだ。もちろん、織斑先生にも許可を取ってある』

 

 

 そう、とある事情、それはタッグトーナメント開催日から数日間、実家に戻るよう言われているのだ。

内容は、先の襲撃者である【八坂】という少女の件であり、楯無も同席する予定だ。

一夏の警護については、虚と本音が秘密裏に行う事となっており、もし万が一非常事態が発生した場合は楯無と2人で【IS】を使用して駆けつけるつもりだ。

もっとも更識家と草薙家に関わる事柄であるため、学園としても余り強くは言い出せないのも、欠場できる理由なのだが。

 

 

『そうですか……残念ですが、事情があるのならば致し方ありませんね』

 

『悪いな。あっ、そういえば簪がタッグパートナーを探してたな。もしよかったら声、かけてあげてくれないか?』

 

 

 そう言った瞬間、都牟刈にオープンチャネルでの通信が届き空間投影ディスプレイが展開された。

そこに映るのは件の少女、簪だ。

驚き8割、怒気2割といった表情であった。

 

 

『ちょっ、剣っ、いきなりオルコットさんに何言って……っ!』

 

 

都牟刈の稼動については、簪と本音がサポートしているため、剣が模擬戦を行う場合必ずどちらかが側にいる必要がある。

今回は簪がサポートについていたのだが、オープンチャネルで己の事を話題に上げれば耳に入るものだ。

 

 

『何だ、聞いてたのか。探してるんだろ、パートナー』

 

『それは……そうだけど……』

 

 

 ちらりと簪の視線が、一緒にディスプレイを眺めていたセシリアに向かう。

彼女は自分に自信を持つことが苦手な性格であり、その為自己の評価を低くしがちでもある。

幼い頃に比べればだいぶマシにはなったのだが、それでも一般的には内気に入ってしまう。

だが、簪の心配は杞憂に終わった。

 

 

『わたくしはかまいません。これも何かの【縁】ですし、更識さん……いえ、簪さん。わたくしとタッグを組んでいただけますか?』

 

『っ、いいの、オルコットさん?』

 

『はい。それと、ファーストネームで大丈夫ですよ、気軽にセシリアで』

 

『わっ、分かった。よろしく、セシリア』

 

 

 セシリアが笑みを浮かべながら言うと、簪もつられて笑みを浮かべたのだった。

 

 

 それからさらに数日がたった。

 IS学園 1年1組 教室

 

 

「みっ、皆さん、おはようございます」

 

 

 朝のHR、教室に入ってきた真耶はどういうわけかふらふらとしており、うっすらとだが隈も見えた。

普段の真耶を知っている皆はぎょっと目を見開いて驚いている。

それには剣も含まれていた。

 

 

(どうしたんだろね、先生。疲れてるみたいだけど)

 

(……あぁ、そういうことか。ほら、シャルルがいないだろ?)

 

 

 皆が驚愕している中、剣がくるりと教室を見回してみると案の定【シャルル】がいなかった。

そこから導き出される答えは、自ずと限られてくる。

 

 

(あ、シャルルがいないね、確かに)

 

 

 ヒメもそれに気づいたのか、納得して頷く。

 

 

「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。いや、転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか……とりあえず、入ってください」

 

「失礼します」

 

 

 【少女】の声が響き、教室のドアが開き金髪の人物が入室してくる。

 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 

 スカート姿、女子用のIS学園制服を身に纏ったシャルロットがそう言って頭を下げる。

 

 

「ええっと、シャルル君は、シャルロットさんでした。ということです。はぁ、また寮の部屋を組みなおさないと……というかまだ草薙君の部屋調整もできてないのに……」

 

(ご愁傷様です、山田先生)

 

 

 真耶の憂いの言葉を拾った剣が心の中で、彼女を労わる。

 

 シャルルがどうしてシャルロットという本名を明かす事ができたのか。

それは裏で動いていた【更識楯無】の尽力があったことに尽きる。

彼女は所謂【二重スパイ】として行動する事を担保に、更識家によって保護される事となったのだ。

 

 彼女から得られる情報を元に、更識家を通してデュノア社とフランス政府に圧力をかけることができる。

現デュノア社社長、【アルベール・デュノア】にも近々コンタクトを取り、取引を行う予定とのことだ。

法治国家と企業が1人の少女を都合のいいように扱っていたなど、しかるべきところに流せば世論を焚きつける事も十分可能。

フランスは欧州連合の統合防衛計画、通称【イグニッション・プラン】から除名されており、政府からの予算もカットされ経営危機に陥っているデュノア社にとっては致命傷になりかねない。

勝算は十分にあると楯無から聞いてもいた。

 

 

(成程ねぇ)

 

(たっちゃんも頑張ってくれたし、シャルロットも協力してくれたからこうして女の子として出てこれたんだ。まぁ、よかったよ)

 

 

 情報戦、諜報戦は基本的に楯無達更識家の得意分野であるとはいえ、数ヶ月でここまでの結果を出す事には素直に脱帽している剣であった。

 

 

「え? デュノア君は……女の子……?」

 

「美少年じゃなくて美少女だったとはっ、この私の目を持ってしても読めなかったっ!」

 

「それって節穴じゃないのよっ!」

 

「HEY、ちょっと待って。織斑君、同室だから知らないって事はないんじゃあないかしらぁっ!?」

 

「というか、学年別タッグトーナメントの織斑君のタッグ相手はデュノア君よねぇっ!?」

 

 

 クラス全員の視線が一夏に向くと、一夏が冷や汗をだらだらと流しながら剣を見ていた。

その視線は助けてくれと心のそこから訴えているものであった。

 

 

「剣、助け……っ!!」

 

『一夏ぁーーっ!』

 

 

 教室のドアが蹴破られたかのように開き、ラウラの嫁キス騒動と同じく鈴が教室に飛び込んできた。

しかもすでにIS【甲龍】の象徴【衝撃砲】を両肩部分だけ展開し終えていた。

 

 

「どわぁっ!? 鈴っ、やめろぉっ!?」

 

「少しだけ離席しますね、山田先生」

 

「えっ、ちょっ、草薙くーんっ!?」

 

『死ねよやーっ!』

 

 

 一夏の叫びと、死んだ目で真耶に告げた剣が消えたのはほぼ同時であった。

その後、ラウラのISの能力である【AIC】による介入もあって教室自体が吹き飛ぶ事もなかったのだが、箒や鈴、ラウラを含めた少女達の怒号はしばらく消えなかったという。

なお、ちゃっかり剣は一限目の開始には戻ってきていたのだった。

 

 


 

 季節はすでに初夏の色を感じさせる暑さと湿気。

梅雨明けはしばらく先ではあるが、本日は快晴。

IS学園では、タッグトーナメントが行われているはずの今日。

【草薙】と書かれた木製の表札、SP付きの大きな門の前に剣と楯無の姿があった。

 

 

「戻ってくるの久々だな」

 

「そうね、2ヶ月くらいかしら」

 

 

 グレーのインナーに紺のテーラードジャケット、薄茶色のカーゴパンツという私服姿の剣と、薄手の淡い水色のワンピースに茶色の編みベレー帽を被った楯無は歩き出す。

門で警護を担当していたSP達も2人の姿を確認すると、礼をしてくるのでそれに返しつつ門をくぐる。

 

草薙家は所謂伝統的な日本家屋よりも、武家屋敷に近いような構造となっている。

敷地内には離れがいくつか存在しているが、今二人がいるのは御殿だ。

剣と楯無の二人は、初夏の日差しが注ぐ縁側を歩きとある部屋の前で歩みを止めた。

 

 障子の戸を開けて和室に入ると、畳独特のノスタルジックになる匂いが香る。

ここは客間として使用される一室であり、件の話をする為の【有識者】を二人呼んでいるのだ。

先程通った縁側を通る音が聞こえ、再び障子の戸が開く。

 

 現れたのは、着流しを身につけた壮年の男性だった。

長身細身の体つきだが、着流しから見える筋肉は非常に引き締まったものだった。

剣と同じく黒髪に入った炎のようなメッシュや整った顔つきに目がいくが、若年の彼にはない歳をとった男性の凄みを顔の皺から感じる。

 

 

「父さん、久しぶり」

 

「御館様、お久しぶりです」

 

「やぁ。大体2ヶ月ぶりかな。剣、それに楯無君」

 

 

 そう和やかに微笑んだ剣の父親は和室に入り、剣達と小さな机を挟んで正面に座る。

 

 

「さて剣、IS学園というなれない環境で楯無君に迷惑をかけていないよな?」

 

「久々にあって二言目がそれかよ、父さん」

 

「主にヒメ関係だね。ヒメ、聞いているかい?」

 

(ひーんっ、お父さんの意地悪ー!)

 

「ふふっ、迷惑だなんてことはありません。私も彼やヒメちゃんには助けられていますから」

 

 

 剣はうんざりとした表情で、楯無は微笑しながらそう返す。

 

 

「そうか。さてと、そろそろあいつも来ると思うんだが……」

 

 

 彼がそう言うと、縁側を歩く音が耳に届く。

その音が、開いたままになっていた障子の戸に重なると、黒の長髪の男性が現れる。

剣の父親と同じく着流しを身につけた彼も、剣と楯無を視界に入れると笑みを浮かべていた。

彼も着流しの上からでも分かるくらいに、限界まで鍛えられた体であるのがよく分かる。

 

 

「【峰善(みねよし)】、書庫から飛び出していくのは結構だが、40代でそれをやる男を見るこちらの事も考えてくれないか?」

 

「いやぁ、悪いな、【蔵人(くろうど)】。久々に息子に娘、それと楯無君に会えると思ったらついつい」

 

「全くお前というヤツは……」

 

 

 蔵人が呆れながら、峰善の隣の座布団に座り込む。

座り込んだ後、彼は剣と楯無、そして隣の峰善に視線を移した後に口を開く。

 

 

「先代と今代の【草薙剣】と【更識楯無】がこうして揃うというのは、成程、壮観だね。そうは思わないか?」

 

「お父様っ、今は冗談を言っている場合ではなくてですね……っ」

 

 

 蔵人の言葉に楯無が返すと、面白そうに彼は笑う。

峰善と蔵人、この二人はそれぞれ【剣】と【楯無】の父親であり先代の【草薙剣】、【更識楯無】でもあった。

現在はその【称号】を息子と娘に引き継いでおり、相談役のような地位にいるのだ。

件の【有識者】はこの二人のことを指しており、すでに状況については【虚】から説明済みであった。

 

 

「さて、早速本題だが……楯無君、すまないが映像の方を出してくれないかな?」

 

『分かりました。それでは映します』

 

 

 ISの空間投影ディスプレイを展開した楯無が、全員が見れるように位置を調整した後に【戦闘記録】を再生しだす。

先の襲撃者【八坂焔】との戦闘は、待機形態のISを使って【記録】として録画していたのだ。

映像が映し出されて数十秒、峰善と蔵人の眉がピクリと反応した。

 

 

「そこで止めてくれ」

 

 

 峰善の言葉に従い、楯無が映像を停止する。

映る映像は、八坂が使った【天鳥船】に酷似した体術と相対している場面であった。

 

 

「……これは【黄泉比良坂(よもつひらさか)】だな、峰善」

 

「あぁ。まさかかと思ったが、どうやら現実のようだ」

 

「【黄泉比良坂】? 天鳥船じゃなくて?」

 

 

 剣の疑問の言葉に、峰善が頷く。

 

 

「天鳥船は、剣や楯無君が知ってのとおり【草薙家】に伝わる秘伝だ。その特性も知っているだろう?」

 

「指が引っかかる僅かな取っ手や、足場を利用して跳躍して加速する特殊な体術。ですよね、御館様」

 

「あぁ。この【黄泉比良坂】は跳躍して加速する瞬間、軸足と身体に特殊な捻りをかけることで、わざと軌道をずらす事で実現させる、【八尺瓊(やさかに)】が作り上げた体術なんだ」

 

「これを使えるという事はこの八坂という少女は間違いなく【八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)】の血筋だね、峰善」

 

「八坂というのも、名前を変えているのだろうな」

 

「【八尺瓊勾玉】……それってまさかっ!」

 

 

 剣の言葉に峰善と蔵人が頷く。

 

 

「三種の神器について、ここで君達に伝えておこう。我等、護国三家の因縁を、ね」

 

「因縁……ですか?」

 

 

 楯無の呟きに峰善が頷き、蔵人が口を開いた。

 

 

「君達の知ってのとおり、現在の【草薙家】と【更識家】はこの日ノ本の暗部の主力だが、日ノ本の護国には古くから【護国三家】が関わっていた」

 

「【草薙家】・【八尺瓊家】・【八咫(やた)家】。【三種の神器】の伝説はこの三家の活躍が民間に流布されたことで創作されたんだ。草薙家は【剣術】に秀で【裂き払う者】、八尺瓊家は【掌術】や【体術】に秀で【砕き封ずる者】、そして八咫家は【槍術】に秀で【流し鎮める者】と呼ばれていた」

 

「俺もそれは知ってます。ただ、現在は【八尺瓊家】と【八咫家】はすでに途絶えていると聞いていますが……」

 

「あぁ。護国三家のうち、現在も続いているのは【草薙家】のみ。それはかつて【八尺瓊家】が起こした凄惨な事件に起因しているんだ」

 

「事件、ですか?」

 

 

 ごくりと、生唾を飲み込む音が室内に静かに響く。

 

 

「【八尺瓊家】の人間は生まれながらにして、とある【衝動】を強弱はありつつも全員が宿していた一族だった」

 

「衝動?」

 

「そう。その衝動とは、【殺人衝動】だ」

 

「【殺人】……っ!?」

 

 

 峰善の口から出た言葉に、思わずと言った形で楯無が言葉を漏らした。

 

 

「人間に向けて発現する【殺人衝動】。それを日ノ本に仇なす者たちに向けていたからこそ【八尺瓊家】は護国三家として数えられていた」

 

「だがその矛先が身内に向かう事となり、凄惨な事件が起こった……【八咫家】が【八尺瓊家】によって滅ぼされたんだ。八咫家にあった槍術もここで全てが失われてしまった」

 

「老若男女問わずの鏖殺。初代【草薙剣】が残した書物にはそう残されている。それは酷い有様だったらしいよ」

 

 

 剣と楯無は、己の脳裏に浮かんだ鏖殺のイメージに顔をしかめていた。

 

 

「当然、【草薙】としては【八咫】を滅ぼした【八尺瓊】を放置する事などできない。数年に渡る血で血を洗う闘争が起こった」

 

「両家の力は拮抗していた。だがある事を機に情勢は草薙に傾く事になった」

 

「滅ぼされたと思われていた【八咫】に、僅か数名程度だったが生き残りがいたんだ。八咫の助力を得る事ができた草薙は、八尺瓊を殲滅する事に成功した」

 

「そして生き残った【八咫】はその名前を【更識】に変えて、今も暗部の一族として草薙家と協力を続けている、というわけだ」

 

 

 最後に蔵人が楯無に視線を移しながらそう言うと、楯無が目を見開いて驚いていた。

それは彼女の横にいる剣も同じであった。

 

 

「ちょっ、ちょちょっ、お父様っ、その話、初耳なんですがっ!?」

 

「たっちゃんが、【八咫】の血筋っ!?」

 

「おい、蔵人、楯無君に説明していなかったのか。てっきり僕は彼女の襲名の際に伝えてるとものばかり」

 

 

 峰善が蔵人に呆れた様な視線を投げるが、涼しい顔をしながら蔵人が返す。

 

 

「八咫家の血筋である事は口伝のみで、成人してから伝えるのが更識の慣わしでね。まぁ、今代は仕方がない事情があるからここで伝えただけだよ……失礼、話がそれたね」

 

 

 娘の反応に面白そうな笑みを浮かべた蔵人だったが、手の仕種で話題を変える、とそう言った。

 

 

「つまるところ君達とこの【八坂】という少女には、十分すぎるほどの【因縁】があるのだよ」

 

「何故彼女がIS学園に現れたかというところについては、現状見当がつかないがな」

 

「……成程」

 

 

 剣が二人の言葉に頷く。

 

 

「虚君の話によると、八坂という少女は【IS】を所持している可能性が高いとの事だが、本当かね?」

 

「はい。あの短時間で姿を消せるというのはISを所持している可能性が非常に高いと考えていいと思います」

 

「とりあえず、現状打てる手は打っておこうか。蔵人」

 

「分かっている。この八坂という少女について、更識実務部隊に周知させておこう。流石に指名手配にはできないが、関係各所にも話を通しておく」

 

「助かる」

 

 

 峰善の返事に蔵人が笑みを浮かべた。

 

 

「とりあえずは現状こんなところだね、質問はあるかい?」

 

 

 峰善の言葉に剣と楯無は首を横に振るう。

 

 

「それじゃあ、二人は現状維持。重要護衛対象である織斑一夏君の警護を続けるようにね。【八坂焔】について何か分かれば、すぐに連絡しよう」

 

「「分かりました」」

 

 

 その言葉と共に、峰善と蔵人は立ち上がって和室を後にしていく。

 

 

「……いやぁ、驚いたな、たっちゃんが八咫家の血筋だったなんて」

 

「あのねぇ。それについては私の方が驚いてるのよ……はぁ、まぁ、早めに知れてよかったってことかしらね」

 

 

 峰善と蔵人の気配が遠ざかった事を確認した二人は、疲れたように肩をすくめた。

 

 

(成程ねぇ。じゃあ、たっちゃんの本名は、八咫か(・・・)――)

 

(ヒメ)

 

 

 意識の中で呟こうとしたヒメの言葉を剣が止める。

ヒメも思わずしまったという顔になり、口を閉じるのだった。

 

 

(軽率にその名前を出すなよ)

 

(ごっ、ごめーん)

 

 

 謝罪の言葉と共にシュンとなるヒメにはぁとため息をつく剣だったが、楯無がこちらを見ていることに気づいた。

 

 

「たっちゃん、どうしたんだ?」

 

「そういえば剣、もう少ししたら【臨海学校】だけど、準備はしてるのかしら?」

 

「【臨海学校】?」

 

 

 IS学園のイベント【臨海学校】。

それは校外特別実習期間として3日間学園を離れて、海の近くにある旅館に宿泊して行う実習である。

 

 

「1日目は基本的に自由時間だから、目一杯楽しむ子が多いわよ」

 

「海かぁ」

 

 

 特段剣にとって惹かれるものがあるわけではないが、おそらく一夏は女子に絡まれたりするのだろうと予測できる。

ならば自分はサングラスでもかけてビーチパラソルの下でゆっくりしていたいなどと想像していると、頭に声が響いた。

 

 

(海ぃっ! 泳ぎたいなぁっ!)

 

 

 先程からシュンとしていたヒメが意識の中で大声を出す。

 

 

(お前、泳ぎたいってなぁ……俺にビキニを着ろってのか?)

 

(うぇっ!? いきなり何言ってるのさ、気持ち悪っ、うっわ、想像しちゃったっ、記憶消してぇっ!!)

 

 

 ガンガンと響くヒメの声に、げんなりとする剣。

それを苦笑しつつ眺めていた楯無だったが、何かを思いついたように笑みを浮かべた。

 

 

「剣っ、この後暇かしら?」

 

「えっ、まぁ、暇だけど……?」

 

 

 剣の返答を聞いた楯無は彼の左手を取って立ち上がらせると、そのまま引っ張っていく。

 

 

「えっ、ちょっ、なんだよっ?」

 

「臨海学校の準備よ。どうせ水着準備するのめんどくさいとか思ってるんでしょっ、見繕ってあげるからっ!」

 

(……なんでたっちゃんテンション高いんだよ)

 

 

 満面の笑みでそう言う楯無に引っ張られていく剣は、不思議そうな顔でそんなことを思っていたのだった。

 

 




次回予告

「幕間 平穏の中で」


(えっ、ちょっと、やだっ、まだ心の準備できてないわよぉっ!?)

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