AZALEA 1st Love Liveが中止となったことで発生したTwitterでの企画に投稿した短編です。
季節は春。陽光が温かく、ついついうたた寝したくなるイメージがある季節。けれども、昨今の五月ともなればどちらかといえば初夏であり、日に晒されれば汗ばむくらいだ。だから本当に眠気を誘うのは日の当たらないこういう場所ーーーーそう、図書室のような場所だろう。
昼間にも関わらず味気ない蛍光灯の白い明かりで照される図書室でオラ、国木田花丸は図書委員として受付の仕事をしながら、ついウトウトとしていた。ちなみに、ウトウトしてたら仕事をしていないだろうなんて野暮なツッコミは善子ちゃんからので間に合っているずら。
とにかく2年生になるとともに静真高等学校に編入して早1ヶ月。無事に図書委員という役職を得たオラは曜日交代で放課後の図書室で受付をしてるずら。滅多に人は来ないけど。
部活のある人は当然部活に行くし、部に所属していない人はわざわざ学校の図書室なんて利用しない。欲しい本は買うし、調べものならインターネットを使えばお手軽にできるのだから。
そんな閑散とした環境だからこそ居心地が良くて、駄目だと分かっていてもついつい調度良い気温に身を委ね、半寝半起きのような、そんな極楽の時間を一人過ごしていた。ほんの少しだけ開いた窓から時折通る微風が良い塩梅で、さらにそれに拍車をかける。
怠惰かもしれないし、だらしないと言われるかもしれないけれども連日の練習の疲れがあるのだ。
高校生によるアイドル系ステージパフォーマーの部活ーーーーースクールアイドルの練習は連日行われ、好きでやっているとはいえそれなりにハードなのだ。その疲労は心地良い空間に身を置くオラの意識をあっという間に持っていく。それに、どこからか漂う良い匂いがそれをまた助長する。
この年齢になると普段は夢を見ることなんてあまりない。だけれども、オラはこの時ばかりは夢を見た。もしかしたら鼻をくすぐる匂いが記憶の旅に連れ出してくれたのかもしれない。
夢の内容は何てことの無いもの。何てこと無いけれど大切な思い出。いつかは記憶の波に流されてしまうような、ありふれていて温かい、そんな思い出。
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あれは去年、夏休みのこと。
スクールアイドルの大会である“ラブライブ”と双璧をなすイベント“スクールアイドルフェスティバル”の運営主催による全国スクールアイドルファンミーティングツアーというイベントが開催された時のこと。
オラ達Aqoursもまたそのファンミーティングの仙台公演に参加した。いや、厳密には参加できなかった。
全員の日程が調整できず、参加できたのはAqoursを3等分したユニットであるAZALEAだけだった。AZALEAはダイヤちゃん、果南ちゃん、オラのユニットで普段の行動パターンとしてはあまりない組み合わせずら。
オラ達AZALEAはAqoursを代表してファンミーティングに参加したんだけど、場所は沼津から遠く離れた仙台。遠征ということで気分が昂ったのか、行くと決まってからのダイヤちゃんのリサーチっぷりときたら思わず笑ってしまうものだった。
「ダイヤ、そんなに調べても二泊三日じゃ食べきれないよ?」
「そんなことありませんわ。3人で分けあえば問題ありません」
「ダイヤちゃんってこんなに食いしん坊だったずら?」
「ダイヤってこう見えて意外と健啖家なの。自己管理を徹底してるから太らないだけ」
「果南さんお黙り頂けます?」
なんてやり取りしながらも、調べたのは観光名所よりも食べ物。牛タン、冷やし中華、おはぎ、ずんだ餅、ずんだシェイクととにかく食べ物。
普段は見られないダイヤちゃんの食い意地を垣間見た。それは妹のルビィちゃんの目が届かないからこそなのかもしれない。もちろんそんな様子もルビィちゃんには報告済みずら。
そんな食に纏わる情報を延々と垂れ流されたせいか冷やし中華が宮城発祥なんていう嘘か真か分からない情報まで知ることとなった。別にオラ自身が興味津々だったから調子に乗って2人で調べ倒した訳では無いずら。無い、ズラ。
とにかくダイヤちゃんの暴走(食欲的な意味で)ぎみな前準備もそこそこに出掛けることになったオラ達だったけど、思えばAZALEAだけで遠征するなんて初めて。だからAZALEAもそれ以外のみんなもどこか気持ちが浮わついていて、普段はやらないようなこともやったりした。
例えば道中の新幹線でのことだ。
スマートフォンに送られてきた動画を見て思わず笑ってしまった出来事があった。
Aqoursの居残り組で動画を撮って、暇そうな時間を見計らって送ってくれたものなんだけど、内容がまぁ・・・・・・酷かったずら。
千歌ちゃん、曜ちゃん、ルビィちゃん。3人合わせたユニット CYaRon!。そして梨子ちゃん、善子ちゃん、鞠莉ちゃんのユニット Guilty Kissがそれぞれシャロリア、モーモーkissと称してクイズを用意してくれた。
「これ、本当に見ます?」
「折角撮ってくれたんだし一応、ね?」
「でもダイヤちゃんの見る気の無くなるのも分かるずら。シャロリアはともかくモーモーkissは無いと思う」
二組とも出オチ感が凄かったけど、反面、問題の難易度はマニアックの一言。
CYaRon!の楽曲“P.S.の向こう側”をライブ披露した時の、背景映像の中から使われていない絵は4つの内どれか?とか、Guilty Kissの楽曲“Strawberry Trapper”の衣装で梨子ちゃんの胸元の装飾は何か?なんて正直覚えていない問題。
ダイヤちゃんも果南ちゃんもそれは同じで、新幹線の中で過去のライブ映像を見直すことになった。そのお陰で退屈せずにすんだんだけど。
「がんばルビィ!」
「凄く良い笑顔でやられたら私も何も言えないよ」
「ずら」
見直しながらダイヤちゃんがルビィちゃんの物真似をしていて妙にクオリティが高かったのは印象的だったけど、ルビィちゃんの決め台詞であるがんばルビィを連呼するのはちょっと。乱用はご法度ずら。
結局CYaRon!の問題の選択肢 イルカ、ヒトデ、ペンギン、タツノオトシゴの中で使われていなかった絵はペンギンだった。そしてGuilty Kissの梨子ちゃんの衣装の装飾は鎖という解答を仙台に到着する頃には無事に導き出せたのだ。
残念ながら、仙台に到着してからは観光する間も無かった。
ファンミーティング会場である仙台サンプラザホールに直行するなり、慌ただしく打ち合わせとリハーサルをしたのだけれども、そんな忙しい中にも嬉しいことはあった。
今朝早くから会場に足を運んでくれたお客様がファンミーティングのロゴ入りのフラッグに寄せ書きをしてくれていたのだ。
フラッグにはオラ達をデフォルメしたような可愛らしい絵が書かれていたり、色々な心の声が駄々漏れていたりして面白かった。
“男は黙ってトリコビト”、なんてのもあってステージに上がった時には思わずクールポコが会場に居ないか探していたらサイヤ人を見付けてしまったり、“しゃろとも参上”とCYaRon!からの回し者がまぎれていたり、“生まれた時からトリコビト”と書かれてるのに果南ちゃんが「生まれた時はAZALEAなかったよ」とマジレスしたりと書かれた内容はバラエティに富んでいた。
ファンミーティングが始まってからはそのフラッグについて弄ったりしたらみんなが笑ってくれたからマル達も安心してトークすることができたずら。
人前でフリートークなんて緊張したけど、今日に合わせてみんながお手紙をくれていたり、ご当地ネタを教えてくれたりと、仙台ならではの空気感がとても楽しかった。
ご当地ネタで言えば印象に残っているのが幾つかあつて、ミヤテレタワーのライトアップ見ると明日の天気がわかるとか、穴の空いて指が出た靴下のことを“おはよう靴下”と言ったり、学校の始業・終業の挨拶が起立、気を付け、注目、礼という流れがあることなど沼津とは違った文化で面白かった。
ちなみにオラの靴下は指よりも踵の方が穴が開きやすい話をしたらみんな「えっ?」て顔してて、内心少し焦ったのは余談ずら。
レクリエーションのコーナーもあってストラックアウトとか吹き矢とかなりきりジェスチャーゲームとかも楽しかった。
器用な果南ちゃんは頼りになったけど、ダイヤさんはひたすら顔芸していたのは流石のマルでもルビィちゃんには報告できなかった。顔芸の大安売りをし過ぎて花丸事務所も流石にNGを出さざるを得なかったずら。
なりきりジェスチャーの、サーフィンするしいたけ、なんてお題・・・・・・あ、そんなものは無かったずら。ズラ。
最後に行われたのはライブパート。
みんなどの曲でも楽しんでくれているのが良く伝わってきたけれど、一番印象的だったのが“ホップ・ステップ・ワーイ!”。
果南ちゃんがサビ部分の躍りのレクチャーをしてから披露したんだけど、中には予習をバッチリしている人もいて、最初から最後まで一緒に踊ってくれていたりした。
“決めよう 次にしたいこと
君と遊びたい 笑ってたい”
そう歌ったその時にはみんなも笑顔で、このままずっと同じ時間を過ごせたら素敵だなって、心から思った。
“一緒ならできる なんでもそう思ってるよ”
そう思ったのはきっとオラ達だけじゃなくて、みんなもなんだってことが歓声からひしひしと伝わってくるから
“探しに行こう 君の目が ああ トキメキを待ってる”
そしてみんなが持っているブレードのキラキラが照してくれるのだ。みんなの生き生きとした輝く瞳を。
“さあおいで さあおいで 急がないと置いてくよ?”
だからサビ部分でみんなと同じように手を伸ばしあったりするのがとても嬉しくて
“僕らのパワーと 君のハートで 明日へ向かうよ
ワーイだワーイ!”
“ワーイ”の部分で手をパーにして両手を上げる様子は花が咲いたみたいで、本当にもう、お花○で、キラキラと色とりどりに輝く花畑のようなその景色は、ここにいるみんなの未来を暗示しているようでした。だから、マルはその景色を見るといつも口癖のように出てしまうのだーーーーーー「未来ずら」と。
歌詞引用元
アーティスト:Aqours
楽曲:ホップ・ステップ・ワーイ!
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帰宅を促すチャイムの音に私は意識を取り戻した。
随分とまた懐かしい夢を見たと思ったけれど、それはまだ半年ほど前のことでしかないのだから自分のことながら信じられない。信じられないくらい早かった。でもそう感じるのは、それほどに濃密な時間を過ごしたことの証明だ。
駆け抜けてきた素晴らしい季節はもう過去のものだけど、けど、ずっと心にある。段々と記憶は薄れてしまったとしても、あの時感じたことはずっと残っている。だから不安は無い。AZALEAとしての私の両隣は今は寂しいけれども、私は歌い継いで行くのだ。その歌声に2人の気持ちを乗せて。
「もう日が暮れるずらね」
気付けば空は茜に染まり、じっとしていたからかほんの少し肌寒くなっていた。
もう下校の時間も過ぎたので図書室を閉めようと少しだけ開けていた窓を閉めに行く。すると、そこでようやく居眠りする前後からする良い匂いの正体が分かった。
窓の下の花壇にあった花が綺麗に咲いていたのだ。そこに植えられていたのは西洋ツツジーーーーAZALEAという名の、恋の喜びを咲かせるピンク色の花だった。