魔獣母胎で病んでる彼女の強くてニューゲーム   作:鏡狼 嵐星

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内容を少し修正しました。


『フィニス・カルデア』

「さて、時間はかかってしまいましたが、住居を用意いたしました。これからお二人の家はこちらになります」

 

ひつじさん、えっと、どぅむじっていうらしいんだけど、おうちをよういしたっていうから、てぃあといっしょにまちにきた。

 

「ねえ、ひつじさん」

 

「ドゥムジとお呼びください。どうされました?」

 

どぅむじにつれられてきたところには、おおきなびるがあった。まうえをみても、ぎりぎりおくじょうがみえるくらいの。

 

「ここがおうち?」

 

「正確にはここの最上階を全て住居用に購入いたしました。眺めはいいですよ」

 

いや、そうじゃなくて。そういうことじゃなくて。

 

「おかねとかどうしたの?」

 

「それに関しては心配することはありませんのでご安心を。中にはすでにお世話係がいますので雑用はお任せください」

 

いろんなことがあって、あたまがおいつかない。ぼくはどうしたらいいの、かな?

 

「しゅう、行こ?」

 

「わ、わかった」

 

てぃあがてをひっぱる。わからないけど、いくしかないのかな。

 

「しゅうはなにか食べたい? なんでもあるよ?」

 

「ぼくはなんでもいいよ?」

 

てぃあたちについていくっていっちゃったし。いっしょにいかなきゃ。

 

 

 

 

 

ティアさんにエレベーターへ連れて行かれる柊さんを見送って、ビルのロビーに戻ってくると、その正面に仮面を付けた男がいた。

 

「フッ、ドゥムジよ。我が父の様子はどうだ?」

 

「スルトですか。まだ二日目ですし、多少警戒心がありますが、時間が解決してくれるでしょう」

 

「気楽だな? 俺はしっかりと仕事を果たしてきたぞ?」

 

スルトがいくつかの書類を差し出す。受け取って目を通し、成果があったことを確認して少々安堵しました。

 

「戸籍の登録自体はうまく行ったようですね」

 

「俺の他にイヴァン、ジーク、バベッジ、キングゥ……。他何人かの知性魔獣を人間として登録した。これでなんの遠慮もなくヒーロー免許とやらを取りにいける」

 

「近々、ヒーロー仮免許一般枠の試験がありますから、全員合格をお願いします。すでにこのビル内で会社を起こす準備は進めてますから」

 

このビルで働く人間にみえる者たちは全てティアさんにより作られた魔獣たち。その全員がある目的のために動いている。

 

「だが、わざわざ会社など建てる必要があるのか? 他にもいくらでも方法はあるだろう?」

 

「これが手っ取り早いんですよ。この世界の柊さんを守りつつ、前の世界の柊さんの約束を守るなら」

 

仮面越しだが、スルトの表情が変わったように感じる。

 

「ティアさんは前回の約束を守るつもりです。ですが、今回はわざわざティアさんがヒーローになる必要はない。金が手に入ればそれでいい。ならば数を増やしたほうがいい」

 

前回は柊さんがティアさんにヒーローになることを勧めました。だが今回はそうではありません。ならば知性魔獣たちをヒーローにしたほうが効率がいいでしょう。

 

「この世界の柊さんは前回と違い、ごく一般的な子供です。高潔な精神も、強力な知識も、桁外れの予想能力も持っていない。ティアさんが柊さんを傷つかせるようなことはないと思いますが、護衛は多いほうがいい」

 

「なるほど、確かに有名な組織の重要人物となれば、遠慮なく守っていても問題はあるまい。そこで会社を作るというわけか」

 

「ええ。ヒーロー稼業以外にもサポートアイテムなどにも手を出します。大企業になればなるほど、表沙汰で手を出しにくくなりますから」

 

前回の世界では、柊さんが事件に巻き込まれた上、重症を負いました。それでもティアさんが世界を滅ぼさなかったのは、柊さんが事前準備ができるほど覚悟と先見のある存在だったから。

 

「二度とあのような事故を起こすわけには行かない。そうでしょう?」

 

「もちろんだ」

 

……前回の柊さんのあの精神は、一体どうやって出来上がったのでしょうか。それはわからない。だが、たった一時のティアさんとのやり取りを見て、本質は全く変わらないことがわかりました。そして、今、確実にわかっている2つの世界の違い。それは柊さんの精神状態。

 

「スルト、知性魔獣たち全員に柊さんとの接し方は気をつけるように行っておいてください。何が引き金で、両親による恐怖を引き起こすかわからない」

 

「……了解した。一言一句違わずに伝える。あの親とも呼べぬようなゴミども、厄介なものを残してくれた」

 

お二方の親たちにはそれはもう大きな罰を与えた。もう人間として誰も扱ってくれないような、悲惨で凄惨なものを。この会社の元手も彼らに借金をさせたもの。今や生きていることも辛いはずです。まぁ、死ねないように弄りましたが。

 

「ドゥムジ様、お父様がお呼びです」

 

近寄ってきた黒い鱗のナーガに呼び出しを受けた。

 

「今向かいます。スルト、お願いしますよ」

 

「くく、了解。我が父のため、我が母のため、全うする」

 

 

 

 

 

 

 

 

最上階そのものが一つの自宅となっており、家としての機能を含め、娯楽もある程度楽しめるようになっている理想的な住居である。その寝室の扉を開けて、中を覗く。

 

「お呼びでしょうか、柊さ、ん……?」

 

そこにいたのは、大人の姿になったティアさんがベッドの上で、柊さんを抱きしめて、恍惚な表情で、その柔らかそうな頬を舐めているところだった。柊さんはどこか困惑しているようだ。

 

「あ、どぅ、どぅむじ! てぃあが、てぃあがおおきくなって、それで」

 

柊さんが抱きしめられながらわたわたしている。愛らしいのはわかりますが……。

 

「ああ、大丈夫ですよ、柊さん。ティアさんの個性の影響ですから問題ありません。なので落ち着いてください。ティアさんも少しぐらい説明をしたらどうですか」

 

ティアさんの愛は角を育てる、と最初本人を含め、認識していた。が、正確には愛が深いほど最も魅力的な女性の形になりつつ、角を伸ばすらしく、現在、柊さんにあった日からティアさんの体の成長は著しい。今のティアさんの外見から考えると十代前半ぐらいであろう。

 

私が提案すると、ティアさんは柊さんを抱きしめたままだが、舐めることを止めた。

 

「何があったんですか?」

 

「しゅうが私の角をなでてくれて、嬉しくて嬉しくて、抑えられなくなって」

 

「いつものですね。はいはい」

 

これならば問題ないと判断して、会社の調整に戻ろうと考えていたところ。

 

「ねえ、どぅむじ。おねがいがあるんだけど、いい?」

 

「何なりと」

 

柊さんのお願い、それは我々にとっては神の言葉に等しい。もちろん、全力を持って対処します。

 

「えっと、ぼくはふたりにたすけてもらったから、ここにいるの。でも、その、ぼくだけがこんなにいいことばっかりあって、ずるいとおもうの。ぼくみたいなこはいっぱいいるとおもうから」

 

……この人は優しい。トラウマさえ抱えているはずなのに、この場にいる私達でさえ完全に信頼できていないはずなのに。この優しさは変わらない。これがこの人の本質、でしょうね。

 

「ふむ、なるほど。柊さんは同じ境遇の子供を救ってほしい、ということでよろしいですか?」

 

「えっと、うん。いたいのはいや、だから」

 

「了解いたしました。今から手配いたしますので、ご安心を」

 

安心する柊さんを見つつ、部屋をあとにする。この提案はある意味都合が良かった。

 

「いくらティアさんでも常時知性魔獣を運用するには黒泥が足りない」

 

ならば、どうするか。単純だ、知性魔獣全てを形作っている黒泥を節約すればいい。生物の核があれば、黒泥を大幅に節約して、知性魔獣を作ることができる。

 

「いくつかのデメリットが見つかりますが、その全ては『恩』を売っておけば、大方規制できる」

 

前回の世界の知識がある我々ならば、有能な人物を引き抜くのは容易い。柊さんとティアさんのために働いてもらいましょう。

 

「トリム、いますか?」

 

「なんですか、ドゥムジ?」

 

お世話係としてここにいるトリムマウに一応のため箝口令を敷いておく。他の魔獣たちにも伝えるようにとも言った。

 

「さて、一年以内には大企業にしなければ、ティアさんに怒られてしまう。必死こいて、やりますか」

 

 

 

 

 

 

 

「全員準備はできているか?」

 

「君に言われなくても、すでにできているよ」

 

ヒーロー試験会場にある待機室。そこにいるのは知性魔獣の中でも、戦闘力が高く、人間に理解があり、人の定義するヒーローになっても問題ないとされた者たち。

 

「むしろ、君こそ準備はできているのか? この中で一番本領を発揮できないのはお前だぞ、スルト?」

 

長い緑の髪を大きくなびかせる、男とも女とも取れる人の完成形の一つ、キングゥ。

 

「問題はない。すでにこの肉体での個性の調節も、十分に会得した」

 

赤い目の光を強め、笑い声を隠さない仮面の騎士、スルト。

 

「話は終わったか? 余らはただ試験を突破することだけ考えていれば良い」

 

部屋の奥で座するのは、巨大な青い体に雷を迸らせる、イヴァン雷帝。

 

「我は実技試験に関してよりも、筆記試験の方を心配している。知性魔獣は知識が突出しているものが多いからな」

 

機械の体から蒸気を噴き出し、隣にある自らの武器を整備する、バベッジ。

 

「そう考えると、一番合格に不安があるのは俺かもしれないな。頑張らないと」

 

緊張しているのか背筋を伸ばして椅子に座る、ジーク。

 

「いや、君が一番問題ないと私は思うが。まぁ、心配することは必要だ。存分にすればいい」

 

手のひらサイズの無骨な石の人形を片手で操作しながら本を読む、アヴィケブロン。

 

ヒーロー関連企業『フィニス・カルデア』はこの六人を筆頭に、トップヒーローと引けを取らない逸材達を世に出していく。それが魔獣なのか、人なのかを知るのはほんの一握り。

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