魔獣母胎で病んでる彼女の強くてニューゲーム   作:鏡狼 嵐星

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英雄との再開と少年の会合

突如としてある企業が日本の経済界を揺るがした。

 

『フィニス・カルデア』。それはヒーロー自身の派遣も含め、サポートアイテム、事務所の制作などヒーローに関する仕事の全般を専門とするその企業は、数年の間にヒーローたちにとっての需要を一気に拡大した。

 

設立した瞬間に、その組織に所属した六人の新人ヒーローたちはすぐさま結果を出していき、翌年の『HERO BILLBOARD CHART』の百位以内に全員が載るという驚愕の成果を叩き出す。

 

さらに、個性によって迫害を受けた子供を無償で保護し、育てる特殊な保護施設『ノウム・カルデア』を築き、そこから続々と優秀な人材を排出していく。

 

独自のサポートアイテム制作の研究所を持ち、その出来栄えはプロヒーローを唸らせた。

 

たった数年で他の大企業と比べ物にならないレベルに成長し、提携もするまでになった。ライフスタイルサポート企業『デトネラット』や大手IT企業『Feel Good Inc.』などの一流企業に仲間入りしていると言うものも少なくない。

 

ヒーローの他にも優秀な人材が多いことでも、新聞やニュースに取り上げられた。ユーモアあふれる羊である取締役、ドゥムジ。その恐ろしい外見に反して、情のあふれる社長であるエキドナ。そして、殆どの情報が存在しない『フィニス・カルデア』創設者、ファム・ファタール。

 

オールマイトの情報が多かった世間は、この新しいネタに大きく喰い付いていた。そんな情報が錯綜する中、オールマイトはその有名になっている会社の中にいた。

 

「HAHAHA。まさかかの有名な会社の取締役に呼ばれるとは思わなかったよ! 噂通りのユーモアな体をしているね!」

 

「あなたに言われると両方とも嫌味にしか聞こえませんよ、オールマイト。忙しい中、時間を作ってきていただいてありがとうございました」

 

「いやいや。私にとっては無視できないことだったのでね」

 

一つの会議室にオールマイトとドゥムジ、そして他に三人の男が座っていた。一人は既にヒーローランキング四位になったイヴァン雷帝。その巨大な膝に自分の腕を置いて、頭をその手のひらの上に置く。

 

「英雄よ。急ぐ気持ちはわかるが、覇気を抑えよ。それでは落ち着いて話もできぬわ」

 

「っと、そうだね。すまなかった」

 

「我々もあなたの急ぐ気持ちがわからないわけではありません。話を始めてしまいましょう」

 

高ぶる気持ちを抑えようとするオールマイトに対して、それを抑えなくとも良いとアドバイスにも似た言葉をかけるのは人馬にして、『ノウム・カルデア』の室長であるケイローン。

 

「では今回、あなたを呼ぶ理由となった情報を持つ人物を紹介します」

 

ドゥムジの言葉を聞いた最後の男は椅子を下げて、立て掛けてあった杖を使い、立ち上がる。その初老の男性は、白い立派なひげを触りながら微笑を浮かべ、大げさにお辞儀する。黒いコートは外側が黒いのに対し、内側が水色の鱗粉のような不思議なデザインをしていた。縞模様の長袖シャツに茶色のベスト、赤いネクタイと黒い手袋。その第一印象はなんとも胡散臭い(・・・・)

そして、もう一つ気になるのはその隣においてある巨大な棺のようなもの。それは左右対称になった西洋風の棺で、その両端には蝶の羽のような装飾がされている。それは彼のコートの内側に描かれた模様と酷似していて、棺に繋がれている鎖を片手で持っている。

 

「改めて自己紹介させてもらうヨ、平和の象徴たるオールマイトどの。私の名はジェントル。ジェントル・モリアーティ。しがない数学教師サ」

 

オールマイトは人情家であるが、討つべきあの男の雰囲気に似たその気配に思わず身をこわばらせてしまう。

 

「そこまで警戒されてしまうと怖いネ。まぁ、仕方ないと割り切ってくれたまえ!」

 

ハハハと笑う老人に対し、ハッとしたオールマイトが頭を下げるが、気にしないでくれと老人は笑うだけであった。

 

「では、オールマイト。連絡したとおり、契約を。私達はオール・フォー・ワンに関するある情報を提供します。その代わり、一つだけあなたには我々に対する貸しを作っていただきたい」

 

「……できれば一つ確認したい。その情報が正しい、という保証はあるのかい?」

 

その隆起した筋肉が、強みを増した青い目が、嘘を許さないと強くにらみつける。あえてオールマイトはその情報が正しいのかどうかを聞いた。世間に優秀な大企業の重要なメンバーである彼らが敵でないことを祈りながら。

 

「オール・フォー・ワンが近々、ある計画の実行のために動き出しているという情報」

 

「……!」

 

それはオールマイト自身には信頼できる警察の友人がおり、本人から確証がない情報として、一応聞かされていたものだった。それが本物であるという確証が強まったことに、気持ちを抑えられなくなるのを止めようとするオールマイトに更にドゥムジが言い放つ。

 

「その情報をあなたが掴んでいるという事実を、オール・フォー・ワンが知っているという情報を提供するためですよ」

 

「んなっ!?」

 

思わず声が出てしまっているオールマイトに対し、ドゥムジはため息をつく。ジェントルが顔に手を置き、大きく笑う。

 

「随分素直だネ! そのほうが人気が出ると私は思うけどサ!」

 

「仮にも平和の象徴と言われているんですから、ある程度会話術も覚えたほうがいいですよ? あなたの指摘通り、騙されないためにも」

 

「……HAHAHA、言葉もないよ。だが、あの男のことだ。ありえないわけじゃない、いやむしろ、そうだと考えておくべきだったかな」

 

オールマイトは頭をかいている状態だった。彼自身は完全に降伏という感じで、信じると決めることにした。

 

「では、貸しの件でよろしいですね?」

 

「流石にこれはしょうがないかな。甘んじて受け取るよ。ただ、私の信念に反することはしないからね?」

 

「もちろん、いい関係を築いていけるようによろしくおねがいしま……」

 

そんなとき、いきなり会議室の入り口がガチャと開く音がした。そこから現れたのは小学生ぐらいの少年だった。小柄で黒髪、本当に平凡な少年だった。

 

「……?」

 

オールマイトが疑問に感じるのも無理はない。ここは日本でもトップに数えられる大企業の中枢であり、この場にいる人間はその会社の重役たち。悪い言い方になるが、一般人を相手にしているような暇を持っている人間ではないのだ。

 

「しゅ、柊さん!? なぜここにいるんですか!?」

 

「え、えっと、その、ク、クッキー焼いたから、食べないかなって、思って、その、駄目だった?」

 

「もちろんいただきますが、事前に連絡を入れてください。びっくりしますから!」

 

今しがた冷静に対処していたドゥムジが慌てて、その少年を迎えに行く姿はオールマイトにとって、驚愕の一言だった。本来なら大企業の取締役という時点で、他人の機嫌を伺うことなどしない。だが、確実に取締役であるドゥムジが柊という名前の少年のことを最優先にしているのは間違いなかった。

 

「みんなの分、持ってきたのっ! か、感想聞きたくて、いいかな?」

 

大きいな皿に並べられている不格好なクッキーたち。決して一流の人間が作ったものではなく、家庭で母親の手伝いでともに作ったような、そんなクッキー。

 

「おや、クッキーとは。紅茶に合いそうだネ。私の相棒を呼んでもいいかな? このクッキーに最も合う紅茶を入れてもらおう」

 

「余もいただこう。ふむ、大小様々あるな……」

 

「では、私も。あなたはどうですか、オールマイト?」

 

既にオールマイト以外の全員が、彼の周りでクッキーを取っていた。オールマイトは驚いたまま、そして言われるがまま、クッキーを取ってしまっていた。

 

「そういえば、なんでオールマイトがここに?」

 

少年の素朴な疑問にオールマイト以外が言葉をつまらせる。なにせ、情報を売る代わりに貸しを作ろうとしているなんて、そのまま言えるわけはない。

 

「簡単に言いますと、仕事です。それ以上のことではありませんよ」

 

「……ほんと?」

 

「……本当です」

 

「ほんとだね?」

 

「………………はい」

 

「わかった。でも、ドゥムジはやりすぎることがあるから気をつけてね」

 

徐々に言葉尻が小さくなっていく羊に、怒っているような様子を少しだけ見せる。そんな男の子をまだ固まった状態で見ているオールマイトに、彼は振り向いて言った。

 

「えっと、オールマイト、はじめまして。北水 柊と言います」

 

「……あっ、いやぁ、AHAHAHA! よろしくね、北水少年。聞きたいことが山ほどあるんだけど、いいかな?」

 

「質問は厳禁です、オールマイト。柊さん、ノウム・カルデアのほうに行っていただいても構いませんので。ケイローン、ついていってください」

 

「了解いたしました。では、柊さん、行きましょう。生徒の皆さんはあなたが来るのを心待ちにしていますよ」

 

柊はケイローンによってすぐさま退席となってしまった。オールマイトは行き場のない疑問をどうしようかと思っていると、ドゥムジがそのまま床に伸びる。

 

「よりにもよってこんなタイミングで。柊さん、あなたは預言者ですか。あ~~、疲れた。今日休みにしましょう、そうしましょう」

 

「……この数分で君のイメージがだいぶ変わったよ、ドゥムジ」

 

「取り繕わなくて良くなったんで、だらけてるだけですよー」

 

「ドゥムジよ、もう少し取り繕え」

 

遠慮なくカーペットの上を転がるドゥムジに、イヴァンが呆れていた。

 

「仕方ないサ。元より、彼の性格はこんな感じだからネ。それより、質問があるのだろう? 今なら答えてくれるサ」

 

ジェントルはいつの間にか用意していたティーカップに入っている紅茶を啜っていた。

 

「それじゃあ、質問させてもらおう。彼は一体何者なんだい?」

 

「簡単に言うと、会長であり、この会社の創設者であるファム・ファタールの唯一の身内です。柊さんはあの人にめちゃくちゃ溺愛されているので、会社の中でも自由に行動できるんです」

 

オールマイトは思わず、なるほどと思ってしまった。有名なヒーローが自分の事務所に自分の子供を入れることは珍しくない。だが、いくら会長の身内とはいえ、子供を自由に行動させるものだろうか。

 

「それに、だ。自由に行動できている理由は、この会社にいる人間はあの子に救われたものも多い。余もその一人だ」

 

「私も、その一人だヨ」

 

今日何度目か、もうわからない。だがオールマイトはまた驚かされた。

 

「余も含め、この会社には異形型の個性が数多い。差別されたものも多く、ノウム・カルデアにも似たような迫害を受けた子が多い。そんな者たちを今もなお救っている」

 

「君の見立て通り、私は悪人だが。受けた恩を返さないほど外道ではないつもりだヨ、私は」

 

「……最初は平凡な少年だと思っていたけど、認識を改めなきゃいけないね」

 

片や数年で上位一桁に上り詰めた異形型の個性を持つヒーロー。片やオールマイトに驚異と認識させかける自称悪人。

 

両方とも全く違う人間性を持ち、全く違う過去を持つであろう人間。その両方に恩を感じさせることの大変さはオールマイトはよく知っていた。彼は北水 柊という人間にものすごく興味を持つこととなった。

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