魔獣母胎で病んでる彼女の強くてニューゲーム   作:鏡狼 嵐星

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ちょっと遅くなりました。
そろそろ就職か大学院か選ばねばならぬ頃合い。大変だ。
プログラミングも勉強してますが、どうしても勉強は嫌いだし。

これからもゆったり書いていきます。全く違う作品を書くかもしれませんが、それは気が向いたら呼んでくださいませ。

何度も言いますが、感想が励みになります。一言でも結構です。ぜひともお願いします。


『ノウム・カルデア』

『ノウム・カルデア』はある山の上に作られた特別な個性訓練及び特殊教育施設である。その敷地面積は雄英高校の体育祭で使用される会場が丸々十個ほど入ってしまうほど広大な土地があり、各々の個性に合わせた機構・施設・教師が揃っている。

 

一般的には危険視される個性を持っている人間ならば、その年齢に問わず、保護される。ヴィラン予備軍とされる一部犯罪者さえ、一時的な少年院のような扱いをされて、連れてこられるものもいる。

 

個性のせいで自らの命を脅かしたもの、個性のせいで人間と扱われなかったもの、自ら殻の中に閉じこもってしまったもの、社会に適応できなかったもの、その精神を壊してしまったもの、家族を守るために誰かを殺しかけたもの。

 

一流の教育や施設をいくつかの条件を満たすだけで受けることができる。

 

この場所に入る条件は単純明快。『個性』によって迫害、もしくは精神的苦痛を味わったことのあるものであること。

 

そして、将来期待されるのは二つ。なんでも構わないが、一流になること。『フィニス・カルデア』に所属すること。たったこれだけである。

 

もちろん、ここまで軽い条件であるならば、不純な考えを持って入ろうとしてくるものもいる。それを判断するのが、裁定者(ルーラー)役割(クラス)を与えられたものたちである。

 

「なんとも急な話ですわね。義父様(おとうさま)が来ると事前に聞いておけば、色々準備できましたでしょうに」

 

長い金髪を惜しげなく閃かせる、青いドレスの美女。片手に金色の天秤を抱えるのは、一年前にヒーローとして活動を始めた、『アストライア』。ヒーローランクは現在52位。ヒーロー業の傍ら、この施設の職員として働いている。

 

「そうは言ってられないでしょう。事前連絡もなしに柊さんをこの場所につれてくるのは、ドゥムジの提案でしょう。ですが、我々がやることは決まっていますから」

 

日本の古い伝統衣装のような着物を着こなす白髪青年はその笑顔を絶やさない。『ノウム・カルデア』教育者の一人、『天草四郎時貞』。

 

「お出迎えご苦労さまです、ふたりとも。アストライアは二ヶ月ぶりですね、調子はいかがですか?」

 

「ケイローン先生、お久しぶりですわ。問題なくヒーローをできておりますし、それも全てこの場所と先生の教えがあったからこそ」

 

「その感謝は私ではなく、彼にすべきですね」

 

ケイローンの下半身の馬部分の上に乗って、必死にしがみついていた柊はケイローンによって地面に下ろされる。

 

「ケイローンが安全に走ってくれているのはわかるけど、やっぱり怖い」

 

「すいません。私の体では車の運転はできませんから」

 

ふらふらとする柊を支えながら、ケイローンたちは施設の中へと入る。山の表層は実践の訓練などに使われているが、山の中をくり抜いて作り上げられた空間には様々な気候を再現した空間が作られている。

 

「最初に向かうのは氷雪気候のエリア、『ゲッテルデメルング』ですね。防寒対策はしっかりとお願いします」

 

テキパキと用意されていたコートを柊に着させ、施設の中にあるいくつものエレベーターの一つに乗りこみ、地下に向かう。十分程立ったあと、扉が開く。

 

「よく来たな、歓迎するぞ」

 

扉の外は、氷で作られたような宮殿のような場所であった。そこにいた紫色のドレスを着た女王に歓迎の言葉をかけられる。

 

「スカディさん! お元気でしたか?」

 

「もちろんだ。この場所を与えてもらってからというもの、私の欲しかったものは手に入ったも同然」

 

玉座のような場所から降りてきて、柊の質問の受け答えをする『スカサハ・スカディ』。ゲッテルデメルングの管理者であり、教育者である。

 

「生徒たちの様子はどうですか?」

 

「問題ない。スルトが連れてきた特殊な目をもった娘も、イヴァンが見つけてきた人形を抱いた娘も、私の愛しき天使たちも、順調に育っておる。誰をここにつれてこようが、私は全てを愛そう」

 

「現在訓練中だ。会うのはまたの機会にしてくれないか?」

 

宮殿の入口から入ってきたのは、仮面が特徴的なヒーロー兼ヒーローアイテム開発局局長のアヴィケブロンだった。

 

「アヴィケブロンさん、訓練中だったの?」

 

「私が訓練していたわけではないが。私は訓練用ゴーレムの調整に来ただけだよ。今さっき、訓練が始まったばかりだから、邪魔をしないほうがいいだろう」

 

「そっか……」

 

残念がる柊の肩を、アヴィケブロンの隣から歩いてきた男が叩く。

 

「はっはっは! そういうこともあるだろうが、まぁ、気にすることはないさ!」

 

「ナポレオンさん」

 

豪快に少年の肩を叩く、大きな笑い声を響かせる長身の男。その言葉を聞いて、柊の表情が明るくなる。

 

「アストライアにはここに残っていただきましょうか。訓練中なら、ちょうどいいですから、評価してあげてはどうです?」

 

「あなたに言われなくてもそうするつもりですわ、トキサダ。久しぶりに来たんですもの、その程度のことはやりますわ」

 

やる気に溢れたアストライアが宮殿の入口から外に出ていくのを見届けて、柊たちは別のエレベーターを使い、違うエリアへと向かう。

 

「次はどこへ?」

 

「次は亜熱帯気候のエリア、『ユガ・クシェートラ』ですね。担当しているのは『アルジュナ・オルタ』です」

 

「毎回思うんだけど、名前かっこいいね。誰がつけてるの?」

 

「各エリアの担当者がつけてますよ」

 

エレベーターの到着音が鳴り、扉が開く。平原にはいくつもの泉があり、沢山の種類の花が咲いている。ふわりと凪ぐ風とともに、柊たちの前に宙に浮く黒い髪の黒人が姿を表した。

 

「ようこそおいでくださいました、義父上(ちちうえ)。今回はどういったご要望で?」

 

翼には到底見えない何かを背負いつつ、いくつもの色を持つ数個の球状のものを手に浮かべる『ユガ・クシェートラ』管理者、アルジュナ・オルタ。

 

「みんなの様子を見に来たの」

 

「それでしたら、少し前に訓練が終わり、昼食をとっていることかと。ここから遠くありませんので、徒歩で向かいましょう。あと、一月ほど前に『個性調節』を行った少年と少女ですが、順調に回復しています。離れた場所にいますので、昼食が終わったあと案内いたします」

 

アルジュナ・オルタの後ろについて行き、大きな石造りの都へとたどり着く。その場所では噴水の前で大人数が食事をしていた。その中で特徴的なのはある男女のペアである。

 

「たるいッス~~。ボクはのんびりゲームでもやっていたいって何度言ったらわかるッスか、カルナさん」

 

「そうはいかんぞ、ジナコ。お前の体は運動をせず、ふくよかになっている。体重を減らすべきだ」

 

「酷いッス、女の子に対してそれは酷いッスよ、カルナさん!」

 

片方は長身であり、表情を一切変えない青白の男。片方はメガネを掛け、ダボダボの服を着るボサボサの髪の女性。

 

「ジナコさん、カルナさん!!」

 

柊の呼びかけに、二人は真っ先に反応し、食事の手を止めて、急いで飛んできた。

 

「柊さん、久しぶりッス!」

 

「ジナコ、義理とはいえ父親だ。名前で呼ぶべきではないだろう」

 

「いや、むしろボクは明らかに僕たちより年下のこの子に、お父さんって呼ぶことがおかしいと思うッスけど。えっ、ボクが変なんッスか?」

 

心外だという顔のジナコに対して、申し訳無さそうに柊が言う。

 

「なんで僕はお父さんって呼ばれるんだろう? 僕も知らない」

 

「……柊さんがこのとおりッスよ。別に名前にかんしてはどうでもいいじゃないッスか」

 

アルジュナ・オルタが呼びかけると、他にも何人か柊の周りに集まってくる。

 

義父(おやじ)殿じゃぁねぇかっ! どうしてこんなむさ苦しいところにいるんだ!?」

 

黒い筋肉質の体を隠すことなく、巨大な車輪のようなものを抱えてくる赤い髪の大男。

 

「アシュヴァッターマンさん、久しぶり!」

 

「おう、久しぶりだぜ。義父殿のことだ、ここのやつんらの心配でもしてきたんだろ?」

 

「うん。みんな元気そうで良かった」

 

大きく笑うアシュヴァッターマンにつられ、周りの人間も笑い始めたそのとき。町の外から、巨大な蛇のようなものに乗った、黒いコートと大きなマスクが特徴的な人物がアルジュナ・オルタの隣に降り立つ。

 

「最終的な治療が終わった。これからは経過観察に徹するように……。ん? 義父さんか。ちょうどよかった」

 

アルジュナ・オルタに対してある患者たちの治療結果を伝えようとしていたところに、柊を見つけ、次の報告先がいたと言わんばかりに、脇に挟んでいた資料から患者の症状を説明する。

 

「例の『個性調整』をした二人に関してだ。一ヶ月間、二人共ある程度の副作用が続いていたが、女の方はもう問題ない。だが、男の方は本人の個性も相まって、まだ全快とは行かない。しばらくは療養で様子見だ」

 

「えっと、もう二人に会っても問題ないの? アスクレピオスさん」

 

「問題ない。だが、決して動くようなことはさせるな。個性のコントロールが完璧になるまでは、自分の個性で自分の肉体を引きちぎりかねない。あとは考えさせるような質問も控えるように。思考加速して、自分で脳を焼き切りかねない」

 

「アスクレピオス、注意するのはいいことです。ですが、もう少しオブラートに包んでください」

 

少し顔が青くなっている柊の心象を察したケイローンが、フォローを入れる。

 

「それで、件の二人はどこに?」

 

 

 

 

 

 

 

街から離れた小さな集落。地下の空間の一つである『ユガ・クシェートラ』の端に位置するここは、『個性調整』が行われた者たちが多くいる。その中に一つだけ日本家屋のような和風な家が一つだけあり、そこには二人の少年と少女が住んでいた。

 

『個性調整』。これは端的に言えば、調整という名の変質(寄生)である。ティアの魔獣を寄生させることで擬似的に知性魔獣を作ることである。だが、それは個性調節をされる身からすれば、自らが操りきれなかった個性を強力に、かつ扱いやすくしてくれる。良くも悪くも個性社会であるこの世の中では、これほどの救いもそうそうないだろう。

 

「お茶が入りました、セキ様」

 

眼鏡を掛けた茶髪の女性がふすまを開け、寝室へと入る。十畳はありそうな大きな部屋の真ん中に敷かれる布団の上で、体を起こしているのは小柄な少年。見た目は中学生になるかどうかで、顔の作りだけを見れば、相当な美青年である。が、その無表情のようなその顔と、大きく開いた黄色の瞳孔は見た人に恐怖を抱かせる。

 

「……ヒナか。未だに信じられぬ。世界とはこうも静かなものなのだな」

 

「はい。セキ様、世界はあなたの想像していたほど騒がしいものではないのです」

 

少年は伸び過ぎている自分の髪を見て、外の景色を見て、ヒナと呼んだ少女を見て、無表情だった表情が少し和らいだ。

 

「苦労をかけた、ヒナよ。今をもって初めて、私は世界を、そしてヒナを見ることができた」

 

「セキ様……!」

 

少女は少年の初めて見せる表情に、歓喜の色に感動し、涙を貯める。今にも二人は抱きしめあいそうな雰囲気であった。

 

「いい雰囲気であるのは重々承知ですが、失礼しますよ」

 

ふすまの外から声をかけて、ケイローンは中へ入る。柊がものすごく申し訳無さそうにしているのは気のせいではないだろう。

 

「セキさん、ヒナさん。調子はどうですか?」

 

柊の質問の前に、セキと呼ばれた少年とヒナと呼ばれた少女は柊に対して、頭を下げる。

 

「私の持つ全てを持って、貴公に感謝を。あなたのおかげで私は知りたかったものを知ることができた」

 

「私からも、お礼を。私の一生をかけて、この恩をお返しします」

 

「ちょ、ちょっとまって!? 僕は、僕は何もしてないよ。個性を調節したのは、えっと、ファム・ファタール、だよ?」

 

もちろん、個性調節を行うのはティア本人だが、その仕事はファム・ファタールと言う名で動いていることもしゅうは知っていた。だから、礼を言われるのはティアだと考えるは当然だった。

 

「否。私もファム・ファタールと名乗った人に礼を尽くそうとした。だが、彼女は『私はそんな物に興味がない。私はしゅうに頼まれたからやったに過ぎない。感謝するなら、そのすべてを持って、しゅうを助けろ』と言った」

 

「同じことを私も言われたわ。彼女は本心からそう思ってる、そう感じたから、私も、セキ様もあなたに恩を返す」

 

二人共、彼女の言葉が何一つ嘘偽りがないことを知っていた。目の前にいる少年が彼女に頼んだからこそ、この場に生きていると理解していた。

 

「……では、これからのあなた達についての相談をしましょう」

 

ケイローンは二人の覚悟を聞き、都合がいいと思っていた。それは彼が純正な魔獣であるからこそ、でもあった。

 

「我々、『ノウム・カルデア』はあなた達に一流になることを課します。どのような分野でも構いません。たった一つで良い。何かの達人を求めています。あなた達は何になりますか?」

 

既にセキとヒナは、『ノウム・カルデア』所属である。理由はセキの個性の調節のために、セキとヒナは『ノウム・カルデア』で一生働くことを契約していたから。

 

「私の個性は戦闘にこそ、意味を持つ。故に、ヒーローを志そう」

 

「セキ様がそれを望むなら、私はそれを全力で支えます」

 

「いいでしょう。では、アルジュナ・オルタにそう伝えておきます。体が全快したあとは地獄ですからお覚悟を。クラスとランクはある程度訓練したあとでもいいでしょうし、おいておきましょうか」

 

いい笑顔でかんたんに地獄と言えるケイローンに、柊はオブラートってなんだっけとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『探せばいるもんだね、知性魔獣に適合する子が。そうそういるもんじゃないけどなぁ』

 

世界に存在する巨大な一本の柱のようにみえるエレベーター。そこに『何か』が腰掛けていた。空間がブレるように何かがそこにいる。その言葉は決して誰にも聞かれることはない。発言されていないのだから。

 

『この施設といい、会社といい。めちゃくちゃだな、やること全てが』

 

腕にみえるブレが、頭にみえる光を抱えているような動作をするが、輪郭がぼやけ、存在もはっきりしない。この空間を把握していると言っても過言ではない、アルジュナ・オルタも彼には気づいていない。

 

『さて、俺がやることはまだあるし、道草食ってるわけにはいかないか』

 

徐々にブレがなくなっていく。わずかに笑うように体を震わせて、消滅する。

 

『この世界には一体何人転生者がいるのか、君らに調べてもらったほうが早いかな? まぁ、俺も用心深く行こう』




詰め込みすぎたかな?
ちなみに次の話でも、まぁ増える予定です。

次回のあとに、どのキャラが見たいか投票したら皆さん投票しますか?

追加として、人として見れるサーヴァントは大半が『調整』されていると思ってください。もちろん例外がいますけど。

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