…が、別に降蓮は主人公じゃありません。
第一話
うっすら曇った午後。暑くも寒くもないこの天気が私が好きだ。人間皆そうだろう。強いて言うとだが、私は寒い方が好きだったりする。
「…待たせましたね」
遺体の管理が楽だからである。
任務が午前で終わった今日。この午後を、私はこの研究施設で過ごすつもりだ。今はもうない反社会的研究組織の隠れ研究所跡である。ここを知る人間は、私だけ。
「…魔力のあと。やっぱり魔法使いでしたね」
巨大怪物ジェムストラの出現により、各国はかなりの打撃を受けた。人命ではなく、主に経済が、である。街を取り込み巨大化するバケモノが、人類に得であるはずもない。それ故、反社会的組織などの動きも変わってきている。目の前の「男性だったもの」が戸籍を確認できるものを何一つ持ち合わせていないのも、その証拠だ。
「財布には…聖徳太子がいっぱい。カタギじゃないですね。…渋沢栄一じゃないですか。なんだって古札まで」
まあ、正直金に興味なんかない。興味があるのはこの男の身体だ。それも、身体の中身、臓物の方。いや、むしろ血管か。魔力は血に乗る。そうして白衣に袖を通そうとした時、私の携帯に連絡が入った。業務外なのでGPSの入った通信機は持ってないが、それでもあんまり出ないと不自然である。
「…はい」
『月桂葉研究員、今どこですか』
冷たく感情のこもってない…言うなればロボットのような声。霧谷沙雪だ。
「C区画のエリア21です」
『地名の方が助かりますが』
「池袋です。旧鉄道駅前で落ち合いましょうか」
『…WIG。西口側でいいですね?』
「WIG。向かいます」
Witch Is Green。ウィグって呼んだりダブルアイジーって呼んだりは人によってまちまちだが、意味は「大丈夫です」「了解です」のようなものだと思えばいい。このクラックでずっと使われているものだ。
「…お待たせしました。乗ってください」
彼女の到着はかなり早かった。丸の内の日本本部から来たのか、移動用にクラックが用意した自動車に乗っている。彼女の指示通り私は助手席へ乗り込んだ。
「沙雪さんと私ということは…」
「でしょうね。ビターの準備はしておきましょう」
「ジェムストラはどこに?」
「板橋区、板橋駅周辺だそうです」
「避難は済んでますか?」
「ええ、後は倒すだけのようです」
ジェムストラ、それが怪物の名前。石のようなものでできた体は、明らかに普通の生物ではない。実際、研究成果には「ジェムストラは生物ではなく、ロボットやゴーレムと言った方が近い」というものもある。
「…レジストコードは」
「サンストーンです。相手をしたことは」
「あります」
「…分かりました」
板橋区に入ったあたりから、全体的に道路がスカスカになっていった。避難勧告が出ているからだ。避難の際に、あまり車は使われない。避難施設やシェルターに急ぐ際に事故が起きることは国的には最悪の事態だからだ。…私にとっては都合が良かったりもするが。
「到着です。そこの角を曲がれば居るはずです」
「ありがとう。…降ります?」
「いえ、このままビターでいきましょう」
アクセルを踏み込み、角を曲がる。おあつらえむきに、戦いやすいロータリーにサンストーンはいた。オレンジの石が固まったような、ウミユリのようなジェムストラである。4mはあるだろうか。
「…せーので行きます」
「WIG。タイミングは任せます!」
4mもある化け物に、普通では敵わない。国も兵器を用意はできるが、採算というものがある。幸い魔力を持つ人間は凄まじい回復力を持っており、戦闘中の死亡例は片手に入るほどだ。それが私としては惜しいのだが。
「「…せーの!」」
車内で、私と沙雪さんが呼吸を合わせる。同時に車と私達が光を放った。…普通なら敵わない敵に立ち向かう上で、クラックが実用化した魔法、それが…。
ユナイトである。二人の魔女が融合し、新たな存在になる。私は紫と沙雪の記憶があるから状況がわかるが、それでも唐突に戦うのも面倒というものだ。だが私のうちの両方が戦うことを仕事にしてもいる。面倒だがやらねば。
「……」
「ぐぎるるる…」
言葉を出して余計なカロリーを使うつもりはない。素早く飛び込み、私はサンストーンをぶん殴った。いったいどこからこの声を出してるのか。口はないのに。
「…フン」
車も装備品として扱われるのか、車が分解されてアーマーとなる。トランクに入れていた沙雪と紫の武器も、私はアーマーから取り出せる。
「…っ!!」
「ぐにゆっ…ぎるぎるぎるぎるっ!」
気持ちの悪い鳴き声だ。生き物ではないらしいが、この声は何のためのものなのか。だがバケモノと言っては私も同じだ。四本の足や240cmほどの身長。見た目は怪獣寄りだ。
「……!」
「まぎゅっ!」
紫の武器である鎌を茎のような部分に突き立てる。ぐぎんと曲がり、奴の体が折れた。上の花のような部分が地面に落ちるが、そこから石片を飛ばし始めた。私の靴はタイヤで走行出来るようになっており、避けにはぴったりだ。
「…」
「…?」
紫の鎌と沙雪のライフルを取り出す私を、サンストーンは不思議そうに眺めていた。目がどこにあるかは知らないが。魔女の武器の機能の一つ。ユナイト用の機能が…。
「……はっ!」
合体である。ボウガン型になった武器から、私は光の矢を放出した。外見こそボウガンだが、威力はそこら辺の銃と比べ物にはならない。
「むぎぎぎぎ…」
きりきり声を立てるサンストーン。体をぐっと動かしたかと思えば、茎のような部分から花のような部分を切り離し、急速接近してきたではないか。
「…!」
回転しながら花びらのようなブレードを向けてくるが、避けるのは容易い。飛び越えつつ、奴に矢を浴びせる。
「……たっ!」
「んびゅっ!?」
さらにグリップをひねって鎌へ。思いっきり奴へと振り下ろした。
「うぎゅぎゅぎゅ……んっ!」
ぼふんと煙を立て、サンストーンは爆散した。かと思えばぎゅっと破片が一か所に集まり、石のかけらに。この状態になったジェムストラはただの石だ。宝石としての、サンストーンである。
ビター・チョコレイト、私と沙雪のユナイト体の名前だ。しかしどうも彼女はすぐ消えたがるところがある。戦闘後ボーッとしたり、「存在」を満喫するユナイト体もそれなりに居るのにだ。一回三分間しか存在できないユナイト体だが、一分半ほどでビターは帰ってしまった。
「私は帰還しますが…月桂葉研究員はいかがなさいますか。必要であれば送りますが」
「いえ、電車で…でも一駅だし近くですね。歩いて行きますよ」
「…わかりました。お疲れ様です」
車で去っていく彼女へ、私は手を振る。我ながら白々しい。暑くもなく寒くもない天気の中、私は研究所へと向かった。
「月桂葉さんじゃないっすか」
最悪だ。ここで同僚に会うとは。研究所へと行きづらくなった。幸い目の前の天奈さんは智略タイプではない。バレる恐れは無いだろうが。
「天奈さんは何の用でここに?」
「アンティークの良い店があるんですよ」
「へぇー。好きですもんねぇ」
「そうですね。休みの時は探し回ったりしてますよ」
「今日とか?」
「ええ。…では」
彼女は人付き合いは好くタイプだが、自分の趣味に人を付き合わせるわけではない。アンティーク趣味は退屈に感じる人が多いのも分かっているらしい。
「…月桂葉さんは?」
「お洋服です。そこの百貨店に」
「なるほど。では…」
「天奈さんもお洋服買ったらいかがですか?美人さんですし似合いますよー」
演じるためにはこういう付き合いも必要だ。実際、世間的に見て彼女が美人であるのは間違いない。魔法使いは美男や美女が多いと言うし、クラックはそれを体現している気もする。
「…いや、遠慮しておきます」
「あら、そうですか。ではまた」
彼女が良いと言うなら、こちらも食い下がる理由はない。寂しそうな顔でも演じて、彼女を見送れば良いだけだ。
「…さて」
「あー!月桂葉さんじゃないですか!!」
呪われてるのだろうか。今度も同僚である。降蓮、クラック日本本部の中になぜかあるお寺の住職だ。190弱の長身に見下ろされるのは圧迫感があるというもの。
「降蓮さん。…またお人形ですか?」
「人形といえば人形ですが…プラモデルを」
「…ガンダムのですか?」
「ゲッターロボです。一世紀前のアニメですよ。ほら、四年前ぐらいにリメイクされてた…」
彼女は人形を作る趣味がある。休日はその作成と材料の購入に充てていると聞いたが、まさにその通りだ。プラモも人形といえば人形である。
「降蓮さん…速い」
「あっごめんなさい!重いですかね?持ちます?」
「…いいよ、ボクのモノだし」
彼女の後ろから、トコトコと少女が現れる。去年入ったばかりのエージェント舞浜だ。
「舞浜さんもご一緒でしたか」
「あ……月桂葉さん」
少し気怠げに答える彼女。降蓮さんが下の立場から来られるのが好きじゃないらしく、彼女に対してのみタメ口の人は多い。舞浜さんもその類だ。
「舞浜さんもプラモデルを?」
「魚のです。…泳ぐんですよ。水中で」
「耐水用の電池で泳ぐんですって。面白いですよね」
「…しかしまた何でこの二人で」
誰にでもニコニコして愛想がいいのが降蓮さんだが、特に舞浜さんと付き合いが深いわけではない。
「緊急の任務だったんです。舞浜さんって自宅が本部に近いじゃないですか。私も白水寺から拾いやすかったので」
「柴舟ですか」
「はい。……まあ、パパッと」
「あ、趣味の時間に捕まえちゃってごめんなさいね。月桂葉さんは確かお洋服がお好きでしたね!お騒がせしました!」
そうして立ち去っていく二人。本当に騒がせてくれる…。まあいい、今度こそ邪魔なく私は研究所へと戻っていくことができた。
「…!?」
するとどうだ、遺体が消えているではないか。最悪だ。目の前で入ってきたなら殺すなりなんなりできたというのに。まずい、探さなくては。私はここに設置していた監視カメラの映像を再生した。
『やぁ、月桂葉紫』
侵入者の一言目は、カメラ目線でのコレである。完全にバレている。だが、どこから?どうやって?
『私の名前はフェルドスパー。今後キミを利用したいんだ。今日はね、キミを脅せる立場にあることを見せつけに来ただけ』
男か女かわからない微妙な雰囲気の人が、こちらを見て言った。フェルドスパーは顔を完全に晒していたが、データを探っても該当はない。戸籍のない人間であろうか。
『じゃあね。記念品にもらっていくよ。この死体。墓でも作っちゃおうかな』
ざざっ。ノイズが走った瞬間に、フェルドスパーは消えていた。私の日々は、穏やかではなくなりそうである。
「……しないわよ、ユナイトなら。二人がかりなら十分でしょ」
次回、「切り裂いても闇」
今回は多少のキャラ紹介も兼ねているので、クッソ短いですね。今後はもっと長いです。たぶん!
次回ですが、優しめの作風のキャラたちの中でシリアスしてる珍しい人です。紫さんもめっちゃシリアスだけど。可哀想な人ってやっぱもっと可哀想な目に合わせたいですよね!(クズ)
というのもこの作品、よくある組織の闇とか負の面とかばっかりで胃もたれする作品にはしないつもりでスタートしたので、「犠牲者」とかには「普段は全然出ない犠牲者が出てしまった理由」が勝手に付くんです。まあそれがエグいことになりかねないのは想像通りです。
まあそんなこんなでよろしくお願いしまーす!