──ああ、やっと会えた。
ずっと、ずっと会いたかった。
ずっと、伝えたかったことが、ようやく……
「あの、ずっと「なんでお前がこんなとこにいやがる」……え?」
その言葉で、その顔で私の思考は止まった。
何もかもを恨むような、そんな顔だった。
この世の全てを憎むような、そんな声だった。
彼の声以外、何も聞こえなくなった。
「ああ、クソ、なんでお前が戦ってんだよ……」
「……新、さん」
かろうじて言葉を紡ぐ。届かないだろうと思っていても、それ以外に何もできない。
──何故、こうなったのでしょうか。
そんな疑問が頭の中をぐるぐる回る。
私が何故戦うのか。彼はそう言いました。
私が戦うのは、私を拾ってくださったあの方のため、そして何より……
「その、私、は……」
「……すまん。言いたい事があるんだろ? ……今はやめてくれ、気が狂いそうだ」
……言わせてくれないんですね。
覚悟はしていましたが、つらい、ですね。
「……っ、はい」
「……俺も色々話したいことがあるが、無理だ。そんな気持ちじゃない」
貴方は悪くない。
「……」
「勝手なこと言ってんのはわかってる。だが、俺は……」
貴方は悪くない。勝手なのは私だ。
貴方に並びたい。貴方を守りたい。
何より、貴方に会いたい。
貴方への迷惑を考えず戦ってきた私が、全部悪いんです。
「……いつか」
そう思っているのに、
「いつか、お話できますか?」
今度こそ、貴方の傍にいたいと思ってしまう。
「……気長に待っててくれ」
……ああ。
やっぱり、貴方は……
ずっと私を照らしてくれるのですね。
本当に、ごめんなさい──
「……いやなんでだよ」
気がつくと木漏れ日降り注ぐ山の中だった。
マジでなんでや。
アイツに案内してもらった部屋で寝落ちしたまでは覚えてるんだがなあ。
いや、だとすれば、ここは……
「……行くか」
夢の中であることを理解した俺は、久方ぶりに友人、もしくは師匠のところに向かう。
2人とも元気だろうか、いや、この世界で元気もクソもないだろうけど。
「案外近かったな。落ちたところが良かったか」
歩き始めて数分もせずに、家があった。俺の目的地だ。
生き物がいないくせして、ここはいつも炭の匂いがする。
代々炭焼きを営んでいた家系の家なだけある。
「おーい、誰かいるか?」
「今行く! 」
試しに呼んでみたら、快活な声が返ってきた。
この分だと師匠はいなさそうだな。
稽古でもつけてもらおうと思ったが。
ドタドタと音がし、やってきたのは赤が混じった目と髪、そして左の額に炎の様な痣を持つ少年。
「よう、久しぶりだな、炭治郎」
「ああ、久しぶりだな、新! 」
夢の中の友人、竈門炭治郎だった。
「まずは入隊、おめでとう! 」
「別に望んで入ったわけではないと思うが」
「いやいや、それでも凄いことなんだろう? だったらお祝いはしなくちゃ! 」
「時間の概念がない世界とはいえ、本当に変わらんなお前」
こちらの事情をいつも把握している炭治郎は、俺の親衛隊の入隊を祝ってくれた。
お茶のひとつも出せなくてすまないとも。
いつも思うが情報源はどこなのだろうか。
今自分が見ている景色を夢とは言ったが、実の所は全く違う。
隠世。人間を含む全生物が生きる、物理法則の成り立つ世界とはまた違う世界。
刀使達が使う写シを始めとした特殊能力は、御刀を媒体として、この隠世から引っ張り出しているとされている。
俺が今いるのは、そんな無限に等しい広さの世界。
何故そんなところにポツンと一軒家があるのか。
炭治郎曰く、「想いが形になったんだと思う」との事。この家は山を含めて炭治郎の生家だったそうな。
話が逸れたが、要は炭治郎が俺の現状を知る手段がない筈だという事だ。
聞けばいいのにって? 昔本人に聞いてみたが、自分で辿り着いて欲しいとの事。
まあ、俺が調べられる範囲に炭治郎がいるという事だろう。
……誰に向かって話してるんだ俺。
「そういや師匠は?」
「お兄さんを探しに出ていったばかりだ」
「いつものか」
こんなだだっ広い世界でいるかもわからん人を探す……奥さんは見つけたんだっけか。
師匠の化け物ぶりはとどまるところを知らないからな。
具体的には大木を紙程の薄さに斬れるぐらい。
これが本当の紙技って自分で言っちゃったけどな。天然か。
炭治郎と話しているうちに気になった事があるので、切り出してみる。
「ところで炭治郎」
「なんだ?」
「俺を呼んだのはお祝いのためだけか?」
そう聞くと炭治郎は少し難しい顔をした。
前提として、俺から隠世に来ることはできない。
大体炭治郎か、師匠か、後アイツが俺をこの世界に呼ぶ。
呼ぶという事はそれなりの理由があるはずで、ただお祝いするために炭治郎が呼ぶとは考えにくい。
確かに炭治郎は律儀だ。でもそれ以上に慈悲深い。
俺の事情を把握しているならおそらく……
「……新はあれで良かったのか?」
「何が」
「あの、夜見って子のことだよ。久しぶりに会ったんだろう? 家族みたいに大切だって言ってたじゃないか」
……やっぱそうだよな。
「それなのにあんなふうに突き放す様なことを……」
「……ダメなんだろうがな」
「へ?」
「自分でもあの言い方はないと思った。だが、炭治郎も何となくわかってんだろ」
「あの子が無理をしていることか」
「ああ。それ見て無性に腹が立ってつい」
「うーん、気持ちは分かるけど、もう少しこう、言い方というか……」
「無理無理。炭治郎も妹さんの無茶を叱ったことあるだろ? そんときの気持ちを思い出せよ」
「なるほど」
納得させられたようだ。
だが、と炭治郎は話し出す。
「それでも怒りに任せてっていうのはダメだぞ! 次はちゃんと話し合うんだ」
……う〜む。
「炭治郎の話は聞かなきゃいかんという気になるな。不思議なもんだ」
「長男だからな!!」
「出た長男力。どっから出てくるんだよその自信」
「弟や妹に注意するのは長男の役目だからな」
「ハッ、そうかよ」
兄弟なんぞいた事ないからわからんが。
……ゆっくり話し合えると良いんだが。
「あ、新! そろそろ戻らないと」
「もうそんな時間か」
この世界にいられる時間は決まっている。丁度帰る時が来たらしい。
「んじゃな炭治郎。頑張ってみるよ」
「ああ、新ならできるさ! 頑張れ!!」
長男の激励を受けて家を出る。
……悪い気はしないな。
炭治郎は本当、太陽の様なやつだ。
目を覚ましたら夜の7時程。
……腹減ったな。何食おうか。食堂とか開いてるかね。
「……あ、そうだ」
せっかくなので親衛隊の制服を着てみる。
アイツにも袖を通しておけと言われたしな。
全体的に茶色い制服。あの4人とは違って流石にズボンだが。
「……ふはっ、似合わねー」
思わず笑ってしまう。いや、本当に似合わん。
「ま、仕方ないよなっと」
とりあえず飯食いに行こう。
そう思って、俺は広い部屋を出た。
ええ、炭治郎君もいますとも。
師匠は誰かって?そりゃまあ、ね?
活動報告の方、更新しました。よろしければ見てください。