鬼滅が凄いのか刀使ノ巫女が凄いのか……
これは期待されているということか!?張り切らねば!
なんてやってたらシリアス&長文になってしまいました。
少ないとはいえ、今まで書いた小説の中で1番長くなってしまった凡人です。
変な部分が多いですが、ご了承ください。
「おにーさんって夜見おねーさんのこと嫌いなの?」
「なんだ藪から棒に……」
新がここにやって来て一週間程、ここの仕事にも慣れてきた頃。
毎度の事ながら結芽に付き合い、一緒に昼食を食べていると、結芽が唐突にこんな事を言ってきた。
「何をもってそう考えたんだよ。俺がアイツの事嫌いとか」
「だっておにーさん、夜見おねーさんと全く喋らないし、顔も合わせようとしないじゃん」
「……俺そんなに露骨に避けてた?」
「うん」
結芽のこの指摘は的確である。
新の仕事は基本紫の執務の補佐。そのため、紫の身辺警護等を務める夜見とは大抵同じ部屋にいるのだが、この2人の会話は本当に少ない。紫が心配するほどにコミュニケーションがない。最低限の事務連絡のみである。
新自身も指摘されるまで気づいていなかった。それほど無意識に避けていたのかもしれない。突き放すような事を言ってしまったから……だろうか。
「それだけじゃなくて、夜見おねーさんを名前で呼ぼうとしないし。真希おねーさんも寿々花おねーさんも呼び捨てなのに」
「マジか。それは自分でも分からなかったわ」
ちなみに、新は真希の事を『真希の姉御』と、寿々花の事を『寿々花お嬢』と呼んでいる。結芽は結芽である。夜見の事は基本呼びかけるだけで終わる。
「……いやまあ、気まずいのは確かだな」
「なんで?」
「……なんでだろ。今度ゆっくりお話でもしてみようかね」
「そうしたほうがいいよ絶対。気まずいままお仕事出来ないでしょ?」
「全くその通りですねハイ」
ヤケに鋭い結芽に若干恐怖する新。しかし、このままでは気まずいままなのも事実。
この辺りが頃合だと、新はいつもよりしょっぱい気がする味噌汁を飲みながら腹を括った。
──昼食終了
そのチャンスは存外早く巡ってきた。紫は真希と寿々花を連れて国会へ、結芽は昼食を食べ終えて散歩に、夜見と新が今いるこの休憩スペースは親衛隊以外が来ることは滅多にない。
夜見に話があると引き止めたら、察してくれたようで今は紅茶を淹れてくれている。
「……おっそろしいぐらいに事態が好転してんな。炭治郎の仕業か?」
「何か言いましたか?」
「んにゃ、なんでもねぇ」
「そうですか」
トントン拍子に都合よく事が運んでいるので、炭治郎の干渉を疑ってしまう新。新の中では非常にお人好しな炭治郎。何かしら動いていると思っても無理はない。
「どうぞ」
「あ、ああ。すまねぇな」
「いえ……」
向かい合ったソファに座る2人。共に紅茶を一口。
「……美味いな。淹れるの上手だな。紅茶はよく分からんけど、それだけは分かる」
「それなりにこだわっていますから」
「へえ、それはなんだ、親の影響か何かか?」
「……そうですね」
──新の心中
(……………………会話続かねぇ。え、どうしよこれ。何を言ったらいい? 義理の親の話から持ってこうとしたのに……助けて炭治郎……! もう貴方しかいないわ!)
(……やべぇやべぇやべぇやべぇやべぇ。割とマジで助けて欲しい。初対面の時に遠慮なく話しかけてきた炭治郎よ、お前のコミュ力を分けてくれ。気まずい雰囲気でも明るく出来そうなコミュ力をくれ頼むから……!!)
──その一方、夜見
(……………………会話が、続かない、ですね。どうしたらいいんでしょうか。話したいことは山ほどあるのに、いざ面と向かって話すとなると……! ああ、お父さんの話題から何とか広げれば良かった……)
(……助けてください栗花落さん、どうやって人と話せるようになったんですか? 昔は何も自分で決められなかったと言っていたではないですか……! どうやったらそんなににこやかにお話ができるんですか……!! 心は人の原動力だと言っていましたが、私の今のこのもどかしさは原動力に出来そうにありません……)
「「あ、あの……」」
「あ、えっと、どうした?」
「い、いえ、お先にどうぞ」
「いや、俺のは大したことなくて……」
「私の話も、そこまで重要ではありませんから……」
「「……(気まずい……)」」
──以上、肝心なところでコミュ障を発揮する2人の図
──沈黙から数分後
気まずいまま、紅茶を飲んでいた2人だったが、
「……やめだ」
新が唐突に口を開いた。
「っ! ……どうしたんですか?」
「当たり障りの無さそうな会話から入ろうとするのはやめだ。んなんじゃお互い全く話せねぇ、違うか?」
「……いえ、おっしゃる通りです。私も、同じことを考えていました」
夜見のこの言葉を合図に、ティーカップを置く2人。新は少し困ったように両手を組む。
「……どこから聞こうかね。お前を拾ってくれた人ってどんな人らだ?」
「たまたまその診療所で寝泊まりしていた、医者と看護師の夫婦でした。ちょうどあの日、集落へとやってきて、吹雪が酷かったのでそのまま泊まっていたそうです」
「医者だったのか?それはまた運が良かったというか、なんというか……」
「新さんが扉を壊した音で起き、様子を見に行ったら私が寝ていたそうです。私が起きたのはその4日後でした」
「……傷が深かったしな。スマン」
「そんなことは……」
「いや、俺がもっとお前の近くにいれば、気づけたんだ。あんな怪我を負わせることは無かったんだ……謝って済むことですらねぇよ」
「……大丈夫です。私は、今生きていますから。気に病まないでください」
「……そうも、いかねぇだろう」
「……お願いです。気にしないでください。もう大丈夫なんですから」
前のめりに俯いてしまった新の頭を撫でる夜見。そのまま話を変えようとする。
「……新さんは、私が、その……」
「ん?」
「…………新さんは紫様の息子という話ですが、どういった経緯でそうなったんですか?」
が、咄嗟に出そうとした話題は、答えを聞くのをはばかられるようなものだった。故に、それを隠して別の質問を出した。
(なぜ置いて行ったのか、なんて、この状況で聞けるはずないじゃないですか……新さんを更に困らせてどうするんですか私……)
「……ああ、まあ、お前を預けて? 元の村に帰ってしばらく暮らしてたら、何か、拾われた……」
「……よく分からないのですが」
「俺も分からん。あれよあれよという間に折神家に連れてこられ、あっという間に折神姓をつけられ、うんと言うまもなく折神新になっちまった。別に嫌って訳ではないけれども」
「そうですか」
説明が分かりそうで分からない絶妙な加減を保っている。しかし、新自身理解しようとしていないため、これが限界である。夜見も曖昧なまま返事した。
「……では、荒魂を祓う力は?」
「それは多分お前の考えている通りだ。お前も覚えているだろ? ヒシン神楽」
「やはり」
今度は納得がいった。同時に、夜見の中ではあの日に新が木の枝で荒魂を祓ったという記憶に裏付けができた。
木の枝で荒魂と戦うということ自体異常ではあるが、この際置いておく。
「……私にも扱えるでしょうか」
「舞と呼吸が正しければ多分な。お前も逃げるために練習してただろ?」
「はい……そういえば、ヒシン神楽に関して気になる事があるんです」
「あ?」
「今でも少し練習するのですが、舞を始めると写シが解けるんです。唐突に」
「……はあ? 舞を始めるとってのは……呼吸を使うだけじゃなくて、型を使うと解けるってことか?」
「はい。新さんは何かご存知ですか?」
「いやいや、知るわけねぇだろうが。俺男。御刀を使えない男子中学生。OK?」
「……ごめんなさい」
「…………心当たりはある。ヒシン神楽は曰く、神をその身に宿す技だとか。御刀の神性と何らかの形で反発するのかもしれんな」
「……納得はいきますが、何処でそんなことを?」
「村を漁ってたら日輪刀と一緒に古ーい本を見つけてな。それに書いてあった。日輪刀や全集中の呼吸のこと、ヒシン神楽の意義に……鬼なる存在のこと」
「鬼、ですか? 昔話に出てくるあの、赤や青の」
「いや、読む限り、どっちかって言うと吸血鬼に近いな。かつて、人を喰らい、己の力とする鬼がいたらしい。血鬼術なるものを操る個体がいたとか、首領が人を鬼に変えていたとか」
「……世の中に存在していた、というのですか? そんな鬼が」
「ああ、大正時代に産屋敷家によって鬼の首領が倒され滅んだらしいが」
「産屋敷」
「正確には産屋敷家を中心とした、鬼を斃す組織があったらしい。その組織が日輪刀を用いて鬼を斬っていたそうだ」
「……………………何故、その組織が使っていた刀が、あの村に?」
「何か関係があるのかも知れないが、如何せん解読が難しくてな。俺もよく分からんのだ」
「今度私にも見せてください」
「勿論だ。当事者の方が何か分かるだろう」
「「……」」
お互いの情報交換を終えて、再び場に沈黙が流れる。しかし、その時間は短かった。
「あの、ずっと言いたかったんです」
「ん? お、おう」
「あの日まで、ずっと守ってくれて、ありがとうって、ずっと言いたかったんです。新さんはそう言うと困るかもしれませんが、私はずっと貴方に助けられていたんです。刀使になったのも、今度は貴方を守れるかもって、守りたいって思って、ここまでやってきたんです」
「……」
堰を切ったように涙が止まらない夜見。しかし、そんなことはお構い無しに言葉を続ける。
新は夜見の隣に座り、頭を撫でながら静かに聞く。
「ずっと、ずっと、会いたかった。また貴方に会いたかった。非力な私を支えてくれたお返しを、貴方にしたかった。迷惑になるかもしれない、そう思っても、貴方を支えたかった。私はっ……」
ここまで言って、言葉が詰まり、その代わりと言わんばかりに泣きじゃくる夜見。今ここにいるのは、常に無表情な親衛隊第三席ではなく、情緒豊かな、ただの皐月夜見という少女だ。
新はただ隣にいる。何を言うでもなく、ただ隣にいる。
(……こりゃあ、随分と不安にさせちまったんだなぁ)
「……その、ごめんなさい」
「別にいいさ。これぐらいはさせてくれ」
夜見は泣き止んだ後、恥ずかしいのか新と目を合わせようとしない。
が、新はそのままでいいと前置き、自分の心を話し始める。
「なぁ夜見。お前は俺に助けられてたって言ってたが、そいつは俺のセリフなんだよ。お前がいたから、アイツらの仕打ちに耐えることができたんだ。いつかお前と外に出るんだ、ずっと一緒にって約束したお前に、どっかにある綺麗な物を見せてやりたいってな」
「新さん……」
「でも、そうする前に荒魂が来て、お前は大怪我して、嫌になったんだ。今までも守れないでいたってのに、俺は大切な1人すら守れないのかってさ。そんで、お前がいなくなるのが急に怖くなって……俺の事を忘れて欲しかったんだ、俺は」
「……何で、そんな」
「待て、最後まで言わせてくれ。……一緒にいて危険な目に遭わせるよりは、俺の事を忘れてどっかで幸せになってて欲しかったんだ。それで、あの家に置いて行ったんだよ」
「……忘れるわけないじゃないですか」
「……ああ」
「何があっても一緒にいた貴方を、忘れられるわけないじゃないですか。私が弱いから、約束を破って置いていかれたんだと、ずっと思っていました」
「……本当に勝手な事した。スマン」
「……謝らないでください。知ることができただけで十分です」
「……そうか、それで強くなろうとしたのか。親衛隊になるほどまで」
「はい」
「荒魂……いや、ノロか。そんなものを打ってまで?」
「はい……え?」
「気づかないとでも思ったか? 俺以外の親衛隊から荒魂のような気配がするんだよ。匂いも音も、荒魂が混ざってるんだ」
「……」
「大方お前の場合、御刀への適性が低かったんだろ? それでも刀使として強くなるために」
「……このことは、その」
「後で紫を問いただす以外何もしねぇよ。……原因が言えた口じゃねぇがよ、無茶せんでくれ。自分を傷つけるような真似はやめてくれ」
「……」
「……ふぅ、すぐには変えられんってことでいいな?」
「……ごめんな「謝らないでくれ、これに関しちゃ俺が全面的に悪い」……」
「……まあ、何だ。今度は絶対に、
「……必ず、守ります」
「……生きててくれて、ありがとうな。夜見」
「お話できて良かったです。……また会ってくれてありがとうございます。新さん」
「さて、そろそろ紫達が帰ってくるだろ。出迎えに行こうや」
「そうですね」
「改めてよろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
日輪は夜を想い西へ沈み、夜は日輪を想い空を白く染める。この2人の蟠りは解け、交わることはなかれども心は再び重なる。
重なるまでの過去、重なってからの未来。この2つに、彼ら2人がどう関わるか。
それはまた、後の話。
最終回っぽいけど最終回じゃない。
この小説の夜見さんは、そこそこ感情豊かで高津学長への忠誠が低いです。全ては新君に会うため。感謝はしていますけどね。
この2人の過去編はまたいつか、何話か使ってやろうと思っています。
今回はターニングポイントとなる話を早いこと回収して、後を円滑に進めたいがために書きました。
2人がさっさとイチャつけるようにお膳立てしたという事ですねハイ。
前書きにもありますが、お気に入り登録100件突破!
本当にありがとうございます!
これからも、『日輪の子は夜と踊る』を何卒、よろしくお願いします!
日輪コソコソ話。
新君は夜見さんのおむすびが密かに好き。
前に差し入れてくれた時に完全に気に入ったらしい。