日輪の子は夜と踊る   作:凡人EX

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お久しぶりのとじみこです。

新君と夜見ちゃんの関係に焦点を当てています。

それでは、よろしくお願いいたします。


番外ノ壱・日輪と夜は共に微睡む

「ふあ〜ぁ……」

 

 月の明るい、誰もが寝静まった夜。少女の可愛らしい欠伸が屋敷の中で聞こえた。

 

(ん〜……変に目が覚めちゃった……どうしよう)

 

 燕結芽。どうやら、夜風にでも当たろうと歩いていたらしい。

 

 ちなみにだが、彼女含めた親衛隊は、それぞれ折神家の屋敷の部屋を与えられており、半ば寮生活の様になっている。つまり、結芽が今歩いているのは、折神家の屋敷の廊下ということになる。

 

(最近よくあるよね……なんでだろ)

 

 この問いの答えは、ただ単純に昼寝のしすぎというだけなのだが……彼女本人は気がついていないかもしれない。

 

 

 ただトコトコと、再び眠気が出てくるまで歩いていようとしている結芽だったが。

 

「……足音?」

 

 自分以外の誰かの、少し急いでいるような足音が聞こえた。何となく気になるので探してみる。

 

「……夜見おねーさん?」

 

 音のする方から、浴衣姿の夜見が走ってきた。走っていると言っても小走り程度だが。しかし、結芽が気になったのはそこではなく、

 

(……悲しそう?)

 

 その切羽詰まった表情である。

 

 反射的に物陰に隠れた結芽に気づいた様子もなく、夜見はどこかへ走り去って行った。

 

「どこ行くんだろ?」

 

 結芽は、普段と違う夜見の様子に好奇心を刺激されたのか、こっそり後をついて行った。

 

 

───────────────────────

 

 親衛隊第三席、皐月夜見。しかし、そこに至るまでの、刀使としての経歴(大会の戦績など)は一切不明。それどころか、幼少期の一定の期間の詳細すらも不明な少女。

 

 正確には、彼女はいつ、何処で、どんな環境で産まれたのかが不明。すなわち、出生時の一切合切が分からないのだ。誕生日はおろか、年齢すらも定かではないと言うことになるが、本人は12月24日生まれの14歳であると語っている。

 

 義理の両親と共に秋田県に住んでいたのはわかっている。しかし、彼女と同じ様に刀使となるべく秋田からやって来た幼なじみとも呼べる少女、稲河暁(彼女は美濃関学院へと入学)によると、「小学校入りたての頃ぐらいに、いつの間にか転入していた」らしい。

 

 ちなみに、両親すらも、皐月夜見という少女に関しては一切口を割らなかったという。夜見の事を記事にしようとしたマスコミに対しても、黙りを決め込んだそうだ。

 

 

 そこに更に謎を広げたのが、折神新の存在だった。

 

 というのも、夜見と新の不自然なまでの仲の良さは既に色んな所に知れ渡っているのだ。親衛隊に新が加わった際の取材でも、インタビュアーが驚く程、何ならちょっと引く程にべったりだった。

 

 カメラを向ければこちらが何も言わない限り、必ずどちらも写る。休憩に入った途端、驚きのスピードでくっつき、おむすびを食べさせ合う。他の親衛隊曰く、「仕事中な分まだマシな方」だと言うのだから恐ろしい。

 

「プライベートで二人が一緒にいないのは見た事が無いな」

 

 と、獅童真希は語っていた。風紀的にどうかと何度か注意したが、「これの何が悪いんだ?」とでも言いたげな顔で無言を貫かれた。今では誰も何も言わなくなった。微笑ましいからなのか、バカバカしくなったからなのか……

 

 ただ、何よりも驚きなのは、新といる時の夜見は、感情を表情に出すという事だ。

 

 皐月夜見という少女は、笑わなかった。とにかく笑わなかった。人間なのか疑わしいほどに笑わなかった。

 

 本人曰くちゃんと笑っているそうなのだが、まあ分からない。はたから見たら常に無口無表情な少女だった。感情表現が下手にも程があった。

 

 ところが新と引っつけてみると一転、花が咲くように笑うのだ。満開の花畑を幻視できるレベルで、それはそれは満面の笑顔になるのだ。それでは飽き足らず、表情が別人の様にコロコロ変わる。しかも新の方も普段より楽しげときた。

 

 これにはあの折神紫も心底驚いていたらしい。初めて見た際の動揺が凄かったそうな。夜見の無表情が崩れたからか、息子がそれを成したからなのかは定かではない。

 

 勿論これが気にならないマスコミでは無かった。それとなく聞いてみたところ。

 

「赤ん坊の頃から知っているからな、お互い」

 

 曰く、色々あってしばらく離れていて、新の親衛隊入隊で偶然再開した。しばらくギスギスしていたが、何とか仲直りした。という情報が得られた。(誕生日も12月24日で、自分と被っているとか何とか)

 

 双子なのかと聞いてみたが、ただの幼なじみであると言う。新は謎だらけの夜見の素性を知っている。ならばと色々詮索しようとしたのだが。

 

「それを知ってどうするつもりだ?」

 

 表情が抜け落ちた能面の様な顔、そしてドスの効いた声だった。殺気を感じないのに、めちゃくちゃ怖かったという。それ以上何も聞けなかった。

 

 とまあ、結局二人の事に関しても、二人の関係についても、何も分からないまま終わったのだ。何やら不穏な何かがあるのは確実なのだが……好奇心は、時折死地へとその人を運ぶのだ。

 

 

───────────────────────

 

 そんな彼女が、夜分遅くに走っていた理由。彼女の向かった先は、部屋。夜見が扉を2、3回ノックしたその部屋は。

 

「新おにーさんの部屋だ……」

 

 正真正銘、折神新の部屋である。他の親衛隊の部屋とは少し離れているのだが、これは新が紫に直談判して、部屋を移して貰ったという裏話があったりする。要は前はもっと近かったのだ。

 

『嫁入り前の女子と思春期の男子だぜ? 何かあったらどうすんだ』

 

 という様な事を言っていた。その辺、やたら古風で固い新である。ちなみに紫は、その辺の心配を一切していなかったらしい。新の実績ありきとはいえ、何とも奔放な御仁である。

 

 少しすると、部屋からこれまた浴衣姿の新が出てきた。二人共やけに和服が似合っている。余談だが、二人共制服以外で洋服を着ないらしい。普段着は和服だけだとか。

 

 途端、夜見は新に抱きついた。それに対し、新は何かを察した様な顔になると、すぐに抱きしめ返し、夜見の頭を撫でた。

 

 気づかれることの無いまま尾行していた結芽は、その様子を廊下の角に身を隠し、頭だけを覗かせてその様子を見ている。廊下の窓から射し込む月明かりが、新が慈しむような顔で夜見の頭を撫でているのを照らしている。

 

(す、凄いの見ちゃったかも……)

 

 皆が寝静まった夜の、二人の逢瀬。しかも結芽にとっては兄や姉の様な二人だ。そんな二人の、普段とはまた違う甘い雰囲気に当てられ、結芽はわけもわからずドキドキしていた。しかし、そのドキドキはすぐに別の物へと変わる。

 

「──っ!」

 

 声を上げかけた。新の視線が結芽を突き刺した。勘違いなどではなく、確かに気配を消していた結芽を見たのだ。しかし新は、すぐに夜見を見てその手を離し、自分の部屋に招きいれた。その一瞬で見えた夜見は、泣いているようにも見えた。

 

 そして新も、部屋へと消えていった。

 

 その後、結芽は色々な想いでぐちゃぐちゃになりながら部屋に戻り、ベッドへと潜り込んだ。冬もそろそろだというのに、体が熱くてたまらない。

 

 ベッドの中で悶々とあれこれ考えた結芽だったが、数分もしないうちに夢の世界へと旅立った。

 

 

───────────────────────

 

 新の部屋。部屋の主である新と、訪問者の夜見が、ベッドの上で向かい合って座っていた。外聞相応と言うべきか、親衛隊に与えられた部屋は無駄に広く(新の談)、それに応じてベッドもまた大きい。それこそ、中高生が二人座っても何ら問題ない程に大きい。

 

 しばらくお互いに沈黙を保っていたが、しびれを切らした様に新が口を開く。

 

「んで」

 

「はい」

 

「今日も、なんだな?」

 

「……はい」

 

「そっぽを向くな、せめて俺の目を見てくれ」

 

「すみません」

 

 実は、仲直りをしたあの日から、夜見は毎晩新の部屋を訪れている。目的は一つ。

 

「その、今日も……一緒に寝ていただけませんか?」

 

「……もはや拒否権ねぇよなぁ」

 

 と、そういうことである。一切の含み無く、夜見は純粋に新と眠りたいのだ。口では面倒そうにしている新も、夜見用の枕を置いているので何をかいわんや。

 

「結芽には後で口止めしとかねぇとな……」

 

「その、それに関しては本当に」

 

「ああ〜、いいよ別に。謝んな」

 

「……」

 

「………………」

 

「…………………………」

 

「……………………………………寝るか」

 

「……はい」

 

 

 

 布団に入り、向き合ったまま何も言わずにお互いを抱きしめる。これもいつも通りである。

 

「……殆ど癖みたいなもんだな」

 

「……新さんが」

 

「おう」

 

「貴方がここにいてくれると思うだけで、私は……」

 

「……そうだな……一日が終わって、お互いにちゃんと生きてるって確かめあってたんだよな、俺達」

 

「……その度に、幸せだと感じていた私は、おかしいでしょうか……貴方と共にいられるだけで、幸せだと思える私は、単純なのでしょうか……」

 

「……それが聞けて嬉しい俺も……随分と単純なんだろうよ……ああ、俺も幸せだ」

 

 語り合う二人は、見つめ合っていた目を閉じて、ゆっくりと微睡みに落ちていく。

 

 

「……新……さん……」

 

「……ん……何だ……?」

 

「…………もう……離しません………………離れません……から……」

 

「……そうか…………もう……離れらんねぇのか………………嬉しいねぇ……」

 

「……ええ……ずっと…………いつか来る……………………終わりの……時、までは…………」

 

「…………なに……俺も……絶対に……離しはせんさ……」

 

 

 それっきり、その日は何も話すことは無く。それでも夢うつつにて出した言葉が現実のものとなったかの様に、固く抱きしめ合っていた。

 

 

 

 

 翌日、結芽に根掘り葉掘り聞かれたのは、想像にかたくないだろう。




目指していたところと随分離れたような……何故だ。

ただまあ、二人は一筋縄ではいかないと思っていただければ幸いです。

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