日輪の子は夜と踊る   作:凡人EX

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紫様の回想です。


折神紫はかく語りき

 私がその子供を見つけたのは、8年前の話だった。

 

 前から荒魂がいるという情報があったので、何度か刀使を調査に向かわせていたのだが、誰もその荒魂を祓うことができず、被害が増える一方だった。

 

 このまま放っておくわけにはいかず、私が直々に出撃したのだ。

 

 秋田県のとある山の奥地。そこを中心として人型の荒魂が人を襲っているという情報を元に、ノロの回収班を待機させ、様々な場所を探し回っていると、更に上の方から金属音が聞こえた。

 

 音のした方へ向かい、数分ほど斜面を登っていると、視界が開けた。見る限り、そこは廃村だった。

 

 ボロボロに崩れた家屋がいくつもあった。

 

 しかし、それ以上に目を引いたのは、

 

──刀を振り下ろす襤褸を纏った少年と、それを刀で防ぐ人型の荒魂だった。

 

 先程の金属音の正体はこの衝突だった。

 

 人型の荒魂が刀を持っているというのは既に報告されていたことだった。

 

 が、問題は、ひと目でわかるほどに荒魂が圧倒されていたことだ。

 

 曲がりにも刀使達を返り討ちにしてきた荒魂がだ。

 

 しかし、少年は荒魂の攻撃を難なく防ぎ、躱し、時に弾き返し、鋭く荒魂の首を落とそうとする。

 

 確かに、荒魂の剣術は荒削りで、多少の弱点はあった。しかし多少だ。すぐに見抜けるようなものでもない。

 

 それでも、油断さえしなければ、或いはすぐに斬り祓えただろう。

 

……戦いに慣れているのか。あの歳で。

 

「くっ、なんなんだお前! なぜ、刀使でもないのに俺と張り合える!?」

 

 荒魂がそんなことを言っていた。しかし、それを意に介さず、少年は刀を振り続ける。

 

 この彼のような戦い方は見たことがなかった。舞うかのように一撃一撃が繋がっている剣閃。身体捌きも舞のそれだった。

 

 そして、程なくして荒魂は細切れにされ、ノロに還った。

 

「……はぁ。最近よく変な生き物が出てくるが、人型が出てくるなんてな」

 

 などと悪態をつく少年の声は、思ったより幼かった。

 

「どいつもこいつも人がのんびり暮らしてるとこに突然襲撃してきやがって。せめて食えるやつが来ねぇかな?」

 

 どうやら彼はこの廃村で、野生の動物を食べて過ごしているようだ。

 

 それにしても……

 

──口調が随分と荒いな

 

 小学校に入れるかどうかの少年は、悪い意味で幼さを感じない。

 

「……はぁ〜、あんたもこいつと同類な感じか?」

 

 こちらを見てため息をつく少年。そこそこ距離があったのだが、どうやら気づいていたらしい。

 

 私は少年に近づく。

 

「いや、私は君が先程戦っていたものを倒しにきた。もう必要ないだろうが」

 

「ああそう」

 

 興味なさげにそっぽを向いてしまう。が、すぐこちらを向き、

 

「んで? 何もんだよあんた。こんなとこまで来た人間は初めてだ」

 

 と聞いてきた。

 

──正直に答えても良さそうだな。理解できるかは別として。

 

「特別刀剣類管理局の局長、折神紫という」

 

「特別……なんちゃらっつーのは知らんが、何か偉いやつ? なのはよくわかった」

 

「……刀使というのを知らないか?」

 

「知るか」

 

「さっきみたいな怪物を倒すのが仕事だ。私は彼女達の管理をしている」

 

「偉い人か」

 

「偉い人だな」

 

 私の事は話した。さて──

 

「逆に聞くが、君は何者だ? この村に住んでいるのか?」

 

「……間違いではないな」

 

「他の人は?」

 

「コレみたいなやつに皆殺しされた。何か獣みたいな奴だったけどな」

 

 そう言ってノロを指さす。人型がもう一度この村を襲ったのはなくなったな。

 

「いつの話だ?」

 

「知るか」

 

「……そうだな。では、何回夜が来た?」

 

「あー? 七、八回ぐらいじゃねーの?」

 

 そう言われて、頭の隅にあった報告を思い出していた。

 

 一週間前、山の奥地の村にて、大量の荒魂が発生したと聞き、部隊を送ったのだが、既に村は壊滅していたと言う。

 

 しかし、奇妙なことに、荒魂は既にノロになっていたそうだ。

 

 生存者もなく、周りに人がいるような気配もなかったというのがその部隊の報告だった。

 

 話を聞くに、ここがその村だと思われる。

 

……彼の家族も恐らくそれで死んでしまったのだろう。

 

「その荒魂はどうした?」

 

「荒魂? ……あの怪物か、全部斬った」

 

「やはり……」

 

 にわかには信じがたいが、先程の動きを見るに嘘ではないだろう。なぜ、刀使が行った時にいなかったのかは不思議だが。

 

「それで、さっきの動きはなんだ? 私が知る限り、あのような流派はなかったはずだが」

 

「流派? んだそりゃ。俺は適当に斬ってただけだ」

 

 嘘だな。どう見てもデタラメな動きではなかった。

 

 教えてくれる気は……無さそうだ。

 

「その刀は?」

 

「漁ってたら見つけた」

 

……御刀か? こんな所に? 確かに私達の手を離れている御刀はいくつかあるが、刀使もいなかっただろうに不自然だ。

 

 

──神性を感じない。御刀では無いな。

 

 意識の奥でそんな声が聞こえた。

 

……御刀でないのに荒魂を祓った? 

 

 本来御刀の神性によって斬ることで荒魂はノロに戻せる。

 

 しかし、現にノロは再統合していない。

 

──わからないことだらけだな。

 

「おい、もういいか? 俺はそろそろ狩りに行くぞ?」

 

「まあ待て。君、身寄りは? 親戚はいないのか?」

 

「知らんわ。そも、俺を預かりたいやつなぞいるわけが無いだろう」

 

「では、とりあえず私の家に来るか?」

 

 少年は固まった。私も固まった。

 

──何を口走っているんだ? 私は。

 

 唐突にも程がある提案に、少年は

 

「ふざけてんの? バカなの? どっち?」

 

 辛辣な言葉が帰ってきた。

 

 しかし、子供を一人にする訳にも行かないので、ようやく来たノロの回収班にも事情を説明しよう。

 

 寒さの厳しい冬の夜が明けようとしていた。

 

 これからどうしたものかと、昇る朝日を見ながら頭を悩ませたのを覚えている。




やっぱり口調が難しいです。

特に威厳がある感じが出しにくくてしかたないです。
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