「瀬那」
「瀬那」
「瀬那」
「瀬那」
「瀬那」
知らない、知らない、知らない、知らない、知らない。
だけど、知っている。覚えている。
これは、今までの戦いの記憶だ。
共に、あいつと戦った記憶────。
「瀬那」
「ッ!」
薄暗い部屋の中、傍らに座っていた茜が心配そうにアタシを見つめていた。
「あ……」
「大丈夫? うなされてたけど……」
「あ、ああ……。大丈夫だ問題ない……。あの後、どうなった……?」
話題を切り替え、アタシのことからは視点をずらす。
今は、アタシのことに触れてほしくない……。
「う、うん……。今はみんなここにいるよ。あっ、でもちょっと前に美也って子が出ていったかな。燐も瀬那みたいに眠っちゃったし、美玲さんが様子見てる」
「そうかよ……」
「ところで瀬那……」
「なんだ……」
「なんで、病院の服着てるの?」
病院の服?
俯いて、自分が着ているものを確認して思い出した。そうだ、アタシは入院させられていたんだと。
繁華街である屋戸岐町から聖山駅まで真っ直ぐと続くアーケード街の中、しょげた顔をして通行人達の中に混ざる美也の姿があった。
真里亞の勧誘は失敗に終わり、彼女の理想であった共闘は叶うことはなく。何の成果も得られませんでしたと言っても、燐と美玲は自分を責めることはないというのは分かっている。そもそもが穏やかで優しい燐と、意外と身内には甘い美玲という二人だ。
「あの二人だからこそ私なんかに付き合ってくれて……」
燐とは元々目的が同じであった。美玲は当初こそライダーバトルに乗り気と口では言っていたが、結局のところ戦いを止める側にずっと居続けることになった。
他にも仲間達はいたが、北津喜は重傷を負い未だに意識不明。日下部伊織は心を折られてしまった。上谷真央は学校での戦い以降行方不明。恐らく、やられてしまったのだろう。
「どうすればいいんだろう……。射澄さん……」
燐から預かった射澄の青いデッキを手に取り呟く。
神前射澄と共に戦った時間は短かったけれど、確かな絆を紡いだ相手だ。一番頼ったと言っても過言ではない。
頭が良く、美也をお団子くんと呼んで親しくしていた射澄はこの過酷な現実ばかりのライダーバトルにおいて、美也にとっての頼れる良き先輩となっていた。
しかし、その射澄はライダーバトルで死んでいったのだ。
もういない。
いない人間のことを想っても仕方ないだろうか。いや、そんなことはないと美也は考える。
もしも射澄であればと考えることで、美也にはない視点をもたらす。そして、何よりも射澄の、多くの命を奪っていったこの戦いを何としても止めるのだと美也を奮い立たせるのだ。
「けど、戦力がこれじゃ燐くんの負担が大きすぎる……。私か美玲さんがサバイブを手に入れる……。でもサバイブを手に入れるには失う? だっけ? もう分かんないよぉ……。それに、失うなんて……」
美也の願いは戦いを止めることだ。
それは、デッキを手にした時から変わらない。
『どうです? また剣道したいですよね? 神童と呼ばれ、周囲からチヤホヤされたいですよね』
『うん。そうだね……』
『さあ、それでは願ってくださいな。その右腕の治癒を。かつての栄光を』
日が沈み、夕闇の中の教室でデッキを授けに現れたアリスとの会話。
そうだ、この時からそうだった。
『私の、願いは……!』
『これは……。貴女、馬鹿なんですか?』
『馬鹿でいい。たった今から、私の願いはこの戦いを止めること!』
メモリアカードに刻まれた願いは『PEACEFUL』
平和であった。
平和への願いを失うということはつまり、戦いが続くということではないのか?
それではサバイブを手にしたところで戦いは終わらないのではないだろうか。
そう考えると、美也はサバイブを手に入れるということが恐ろしいものに感じられて、乗り気にはなれなかった。
ゆえに、仲間を欲した。
みんなで戦いを止めれば、そもそもの前提としてライダーがいなくなってしまえば戦いは終わるのだと。
けれど、その最初の一歩は躓いて。
「どうすればいいんだよもう……」
力なく呟いたところで、他の通行人には聞こえぬ、美也にだけ聞こえる甲高い金属音のような音が鳴り響いた。
ミラーワールド内に響き満ちるこの音がこちらの世界で聞こえるということは、モンスターが人間を襲おうとしているということ。
そう、脅威はライダーバトルだけではない。ミラーワールドから襲い来るモンスター達だっているのだ。
アーケード街に軒を連ねる店達のウィンドウや鏡となるものを見渡してモンスターを探す。音の大きさ的に近いはずだと目をこらす。
そして、見つけた。
美也はアーケードから外れて路地へ出て、人目につかないところに停まる車を鏡にしてデッキを翳した。
銀のベルト、Vバックルが腰に巻かれ右手を勢いよく振り上げると唐竹割りのように、その手を振り下ろし叫ぶ。
「変身!」
赤い鎧の虚像が美也へと重なり、仮面ライダーグリムへと変身。車に吸い込まれるようにミラーワールドへと向かい、モンスター討伐に赴く。
「じゃ、早速ヤろっかあいつを」
ミラーワールドへ向かったグリムを隠れ見ていた理恵が真里亞へと告げた。その真里亞の顔はどこか重く苦しそうな表情を浮かべており、理恵は対照的に和やかな笑みを真里亞へと向けて言った。
「なに、怖くなった? それとも私が信頼出来ない?」
「そういうわけじゃ……」
「そっか、じゃあ行くよ。覚悟決めないと……死ぬのはあんただよ」
理恵は笑顔から一変し、冷徹な顔を真理亞へと見せた。
これは決して、真里亞を思っての言葉ではない。理恵にとって真里亞も美也と同じ殺害対象に変わりはないのだから。協力体制も表面上だけで、時が来れば真里亞を殺すことは確定事項。
その時までは上手く利用して楽に勝ち残り、その頃には信用なんか得ちゃっているだろうか。そうしたら後ろからザクッ。というのが理恵の計画。
まずその第一段階。
邪魔な他のライダーの排除。中でも戦いを止めるとか宣う輩は理恵からすればふざけんなと言い放ちたい相手だ。
「そんじゃ、変身」
「……変身」
美也がミラーワールドへと向かった車を同じく利用し、二人も変身。
理恵は獣を思わせる白いスーツと鎧をベースに、青の差し色が入る仮面ライダー狼牙へと。
真里亞は百合の花のような白銀のスーツと鎧に身を包まれ仮面ライダーヴァリアスに変身。左右非対称で、左腕は特に右腕と比べると装甲が多く、鋭角的。
「楽に狩りしちゃおっか」
「……ええ、そうね」
ヴァリアスの足下に車のミラーから現れた茶色い小型犬のような契約モンスター、ヴェイルーツが現れてヴァリアスの右足に自身の身体を擦り付けた。
「可愛いじゃん」
「いいから、行くんでしょ」
「へいへい。……たく、意外と素は可愛げないな華甸川真里亞」
先んじてミラーワールドへと向かったヴァリアスの背を見つめる狼牙は一人呟くとミラーワールドへ。
ライドシューターで並走し、二人の狩りが始まろうとしていた。
仮面ライダーグリムの相手は白い狼型モンスターであった。青く染まる部位も各部に散らばり、素早い動きでグリムを翻弄していた。
『ガルゥ!!!』
「おわっ!?」
前肢によって払い除けられるグリムはシャッターが閉まる店の前に追い詰められる。そこへ好機と狼型モンスター、セレストウルフは飛び掛かる。前肢の先に備わる鋭い爪を輝かせ、袈裟に振り下ろす。
「くっ……!」
だが、その攻撃は大振りのためグリムが避けるのには充分だった。右斜めに飛び込むようにジャンプしアスファルトの上を転げ、空かさずセレストウルフの方へ身体と視線を向ける。
自分が立っていた場所、シャッターに鋭い爪で切り裂かれた痕が出来ており、もしあれにやられたらと美也の背に冷たいものが流れる。
「こいつ、結構強い……。かなり食べてきたんだろうな……」
モンスターの強さは獲物を捕食してきた数に比例する。
喰らえば喰らうだけモンスターの強さは増していくのだ。その恩恵はライダーも受けるため、多くのライダーがモンスター狩りには積極的になる。
しかし、これだけの強さのモンスターとなるとそう滅多に現れないと美也は思った。
野良で人間を襲うようなモンスターの強さはそう苦戦するほどのものではない。
これがライダーと契約しているモンスターともなれば話は別になる。ライダーと契約したモンスターは、倒したモンスターを捕食する。それを重ね強化されていく。
この狼の強さはそういう強さではないか?
美也の頭にそんな可能性が浮かぶ。
さっき、人を襲おうとしていたのはモンスターに食事させようとしていたからとも考えられると。
「許せない、そんなこと……!」
小型のチェーンソーのような刃を持つ双剣、グランリッパーを握る手に力が入る。
もしも、自分が考えている通りだとすれば、尚更このモンスターはここで倒さなければいけない────。
「だあッ!」
セレストウルフへと立ち向かうグリム。そこへ、水流による砲撃が襲いかかった。
真横からの強襲にグリムは反応出来ず、直撃をもらい宙を舞う。
「きゃあッ!?」
現れたのは、第二のモンスター。上半身は人型で背には翼を備えて、ここだけ見れば天使のように思えるが下半身は蛇のそれである。
アゲートヴィーヴル。それが、あのモンスターの今の名前であった。
うずくまるグリムへアゲートヴィーヴルは水流弾を連続で撃ち込み、追い込んでいく。
「あーあ。さっきの可愛いのがあんなになっちゃって」
「……」
「お喋りぐらい付き合ってくれないもんかね」
「そういうのいいから、トドメを刺すタイミング逃さないようにして……!」
「はいはい……」
ぷらぷらと遊ばせていた双剣の片割れを肩に担ぎ、狼牙は機を伺う。
全ては作戦。
セレストウルフは狼牙の契約モンスター。グリムを誘き出し、モンスター達をグリムへけしかけて弱ったところを狙う。
元より、狼牙に正々堂々だとか真っ向勝負といった考えはない。
中務理恵のこれまでの人生経験において、武道はおろかスポーツにものめり込んだことはない。そんな中でライダーバトルに参戦しセレストウルフと契約したものの、デッキの構成カードはどれも真っ向勝負向き。
ぶっちゃけ、負けると最初は感じたという。
だからこそ理恵はライダーバトルの最終盤まで身を潜めることを決めた。もちろん、モンスターとの契約はあるのでモンスターとの戦闘は行っていたがどれもひっそりと、誰にも見つからないように。
一度だけ見つかったことがあったが、目撃者はセレストウルフに襲わせて始末した。
「相手は神童なんでしょ~。こんなん持ってヤー! とかやっても返り討ちにあうだけだからね~」
こんなんと双剣を揺らし、狼牙はアゲートヴィーヴルの弾幕に成す術なしのグリムを見つめている。
水流弾が着弾したアスファルトも抉れるほどの威力。ライダーの装甲にグリムは感謝するべきだなと狼牙が余裕ぶっていると、狼牙の仮面に柔らかい白いものが舞い降りてきた。
「ん?」
「これは……雪……?」
「バッ、こんな時期に。ありえんでしょ」
狼牙とヴァリアスの周り、いやこの一帯に雪が降り注ぐ。あり得ない。まだ九月だぞ。それにここはアーケード街の屋根の下。だと言うのにと二人は驚愕する内に、雪は吹雪となる────。
ほんの少し遡る。
水流弾の嵐に襲われるグリムは必死になって打開策を模索していた。
接近戦に強いグリムであるが、それは言い換えれば遠距離戦に弱いということであった。
バランス型のデッキであればまだ手はあるのだろうが、グリムはツルギと同じく接近戦型デッキ。遠距離攻撃には本当に手の打ちようがない。
けれど、自身を襲うものは水である。そう気付いた時のグリムの動きは速かった。
襲い来る水流弾を冷静に見切り、回避しながらカードをデッキから抜くと左手の手甲型召喚機、グランバイザーにカードを装填。
【COLD VENT】
このカードの効果が発揮されるのには少々時間がかかる。
だからひたすら時を待つ。
グリムのデッキは接近戦型であるが、ツルギとの違いはフィールド操作のカードを持つことである。
自身に有利な戦場を生み出し、戦況を変える。かなり強力なカードと言えよう。しかし、これらのカードは強いがゆえに効果が大味だ。
仲間と共に戦う分には使い勝手が少々悪い。しかし、今は自分一人と遠慮することなくこのカードをグリムは切った。
────そうして、鏡の世界に雪が舞う。
強風が雪を幻想的なものから脅威的なものへと変貌させる。
恋人と見る雪はロマンチックと言うが、流石に吹雪の中ではそんなことは言えまい。
ましてや、命削りあうライダーバトルの最中となれば。
「なんも見えないっての!」
「くっ……! あれは!?」
ヴァリアスは吹雪の中、微かに見えたアゲートヴィーヴルの様子に危機感を抱いた。
自身が放つ水流弾がこの零下の中で凍てつき、アゲートヴィーヴル自身を拘束させてしまった。
「やあぁぁぁぁ!!!!!!」
吹雪の中にあって響く裂帛はグリムのもの。吹雪はグリムに味方する。その背を押して、加速させて。その剣を凍てつかせ、氷の刃を与える。
「チェストぉぉぉ!!!!!」
バツ字に切り裂かれようとするアゲートヴィーヴル。
しかし、その刃が振り下ろされる瞬間、アゲートヴィーヴルの姿が光となって忽然と姿を消したのだ。
「えっ!?」
これにはグリムも驚愕を隠せない。
確実に切り裂けると思ったものが、斬ったのは空のみだったのだから。
【SWORD VENT】
『グルァ!!!』
「なっ!?」
吹雪の中からグリムに迫ったのは狼のようなモンスターであった。しかし、最初に遭遇したものとは違った。
この吹雪の中にあってもグリムにはそれが分かった。
カラーリングは似ていたが、いま襲いかかってきたモンスターの特徴として尻尾が巨大な刃となっていたこと。明確に最初のモンスターとは違う。
なにより。
「さっき、確かにソードベントって聞こえた……。近くにライダーがいるんだ」
ほんの微かにではあったが、確かに耳にした召喚機の電子音声。自分以外のライダーがいる。
となれば、先程の自分の仮説と繋ぎ合わせるとこうだ。ライダーがモンスターを囮にして、自分を誘き寄せて始末しようとしている。
それも、最低二人はいるだろう。
「近くにいるんでしょう! 戦いなんて止めて! こんな戦いしたって何にもならないよ!」
力いっぱい声を張り上げ叫んだ。
その声は吹雪の向こう側にいる狼牙とヴァリアスの二人にも届いた。
「は? 何にもならないなんてことはないでしょ……!」
「……中務」
「あいつ、苛つくことばっかり宣いやがって……! 殺す、殺してやる……!」
「中務落ち着いて! ここは撤退するべきよ」
「はあ? こっちは二人いる、あいつはダメージ受けてる。押し切ればいい……! それともなに、怖じ気づいた? あんたから殺してやってもいいんだぞ!」
「中務……!」
狼牙の頭には完全に血が上っていた。
とてもじゃないが冷静とは言えない彼女を前にして、ヴァリアスは逆に冷静になることが出来た。
「あんたはそこで見てなよ。私は何をしたって菜月のために勝たなくちゃいけないんだよ!」
そう言って吹雪の中へと消えていく狼牙をヴァリアスは止めることは出来なかった。最後に、狼牙が口にした言葉が引っ掛かって。
「ナツキ……? まさか、彼女も……」
もしかしたらと、ヴァリアスはひとつの仮説をたてた。
狼牙、中務理恵の願いを聞きはしていないが、彼女もまた自身と同じく大切な誰かを蘇らせようとしているのではないか。もしくは、助けようとしているのか。
彼女の口から語られぬ限り、正確には分からない。
だが、そうだとしたらと……。
「私もあれぐらい真っ直ぐ想えたらいいのにね……。やっぱり私、分からない……。迷っちゃったよ小夜……」
ヴァリアスの、華甸川真里亞の独白は吹雪の中へと消えていく。
その白銀の鎧には、翳りが見えた────。
「どこだ……どこにいる……!」
吹雪の中、グリムを探す狼牙。見つけ次第、ファイナルベントで奇襲し屠るつもりでいる。だが、この吹雪の中ではそう簡単には見つからない。
一面の白を掻き分けて進む狼牙はようやく、ようやくその赤い鎧を見つけた。
「見つけた……!」
この機は逃さないと、手斧型のバイザーにカードを装填。
ここならば、確実に仕留められる────!
【FINAL VENT】
セレストウルフと共に吹雪を切り裂き疾走する狼牙。赤い鎧を前にして、胸が高鳴る。お利口さんみたいなことを言う奴が、昔から嫌いだった。
何より、自分の邪魔をする奴が。
今、殺してやる。
振り下ろされる双剣とセレストウルフの爪。
だが、響くは鎧を砕いて肉を断つ音ではなく、鋼と鋼がぶつかり合う音であった。
狼牙の剣とセレストウルフの爪は、その盾に阻まれていた。
「……なんだよ、お前」
理恵は、仮面の下の目を見開いた。
赤い鎧なのは、間違いない。しかし、こいつはグリムではない。
赤い鎧の背には、天使の翼が広げられていた。
そして気付く。吹雪の中に、こいつの羽が混ざっていたと。
「……羽の盾がなければやられていました」
「だから、なんなんだよお前は!」
「私達、モンスターを狩りに来たのですが、吹雪に見舞われてしまいまして」
山菜を採りに山に入ったら遭難してしまってと言っているかのようだった。それならばただの遭難者、被害者なのだが、この場にいるということは彼女もまたライダーであった。
赤い天使のライダー、仮面ライダーエクスシア。樋知十羽子。
彼女もまた、狼牙の作戦に誘われてしまったライダーであった。
「ふふ、貴女もやはり苦しんでおられますね……。ライダーは皆さん、私がお救いしなければならない方ばかり」
「は? 意味分かんない。頭おかしいんじゃない?」
とにかく、こいつもライダーだと狼牙は有無を言わせず双剣で斬りかかる。
せっかくのファイナルベントを無駄撃ちさせられたこともあり、怒りの感情はゲージを振り切り冷静な判断を下せずにいた。
「らあッ!!!」
勢いよく振り下ろされる双剣を前にして、エクスシアは棒立ちであった。
それは、余裕からか?
そう、余裕からである。
「ッ!?」
刃はエクスシアに届くことはなく、弾かれる。
エクスシアの背に備わる翼型の盾、シルトウイングが自動で防御を行ったからだ。
また、周囲を舞うシルトウイングの羽根は威力減衰の効果がある上、この吹雪もまた同じ効果を持っていた。
先程の狼牙のファイナルベントがいとも容易く防がれたのにはそういった理由があったのだが、今の狼牙には理解しようもない。
何度も何度も剣を叩き付け、肩で息をする。
エクスシアは対照的に動じることもなく、平然とした様子で立つ。
勝負は既に見えていた。
「くそっ!」
【ADVENT】
『ウォォォォン!』
銀世界を駆ける白狼セレストウルフが主人と同じくエクスシアへと向かっていく。
やはり変わらず、動じる様子もないエクスシアに飛び付くセレストウルフ。
【ADVENT】
狼牙はもちろん、エクスシアがカードを使った様子はなかった。
であれば、グリムか。そんなことを考える間もなく、雪原を水面にして現れたノコギリザメ型モンスター、スピアーシャークが頭部の鋸状の刃でセレストウルフを真横から斬りつけた。
怯んだセレストウルフは後退していくも、それを追いかける青い影。
仮面ライダージュリエッタ、上谷真央。
「なっ!?」
「私達って、言いましたよ」
仮面の下で不敵に微笑みながら狼牙に告げるエクスシア。そうしている間にも、ジュリエッタはカードを使用していた。
【FINAL VENT】
スピアーシャークのノコギリが、セレストウルフを空へと打ち上げる。そこへ、スピアーシャークのノコギリを模した槍、シャークラッシャーを装備したジュリエッタがスピアーシャーク目掛けて駆ける。跳躍し、スピアーシャークの尾鰭の上に乗ったジュリエッタをスピアーシャークがセレストウルフ目掛けて再び打ち上げる。
槍を構えたジュリエッタはさながら矢の如し。アーケードの屋根を貫き、青空の下でセレストウルフを狙いに定め一直線に加速したジュリエッタが貫く────!
吹雪の中、ライダーがいるはずと探すグリムは吹雪の中で立ち尽くすヴァリアスを見付けていた。
「あなたがこれを仕組んだの」
「……ええ、そうよ。ごめんなさい、影守美也」
「その声、真里亞さん……」
先程、対話した相手とこんなに早く、こんな形で再会するなんてとグリムは内心ショックであった。
しかし、彼女に戦意がないのを見て取っていたがどうしたのかという疑問もまた浮かんでいた。
「もう一人、ライダーがいる。貴女の友達の友達ね。私のことを貴女に伝えた人がライダーだった。それで、貴女を潰そうって……」
「ッ……」
美也はこの戦いで幾度も殺意を向けられてきたが、やはり慣れるものではなかった。
「謝って済む話じゃないのは分かってる。ただ、今の私には戦うなんて……」
足下に突き刺さっていた短剣型の召喚機がヴァリアスの言葉を真実として証明させているようだった。
「……もう一人は、どこに?」
「貴女を殺すって、自分だけ……」
「そっか……」
グリムはヴァリアスへと背を向けて、再び歩き出す。
白い闇の中へと向かって。そんな彼女をヴァリアスが呼び止めた。
「待って!」
「なに?」
「戦うつもり……?」
その問いに、グリムは首を横に振った。
「戦うんじゃない。話すの」
「話す……」
「そう、さっき真里亞さんとしたみたいに。上手くいかないかもしれないけどさ、まずは話さないとね」
そう言って、自身へと向けたグリムの仮面の下の顔をヴァリアスは幻視した。
笑顔だった。
本当に強い人がする、頼もしく明るい光みたいな笑顔。
ああ、だからか。この白い闇の中でも、彼女は進めるのかと。白の中へと消えていく赤い背中を見つめてそう感じた。
ヴァリアスはまた一人。この戦場に自分がいる意味とは。その答えではないかもしれない。
けれど、何かは掴めたかもしれない。
短剣を掴み上げ、ヴァリアスもまた吹雪の中を往くのだった。
「あ……」
吹雪の中からは爆発は見えないが、音で分かる。
何より、力が抜けて重くなるこの鎧がそれを告げていた。白と青の色彩は脱色されて、灰色の鎧が。
「あなたと契約していたモンスターは倒されましたね……!」
エクスシアが狼牙ブランク体の足を払う。万全とは言えない状態の狼牙はエクスシアの狙いどおり仰向けに倒れ、雪の中に沈む。
そして、エクスシアは狼牙のデッキからカードを引き抜いた。
願いを刻印された、メモリアカードを。
「返せ……! ぐあっ!」
奪われたメモリアカードを取り返すべく起き上がろうとした狼牙の胸部をエクスシアが力強く踏みつけた。
「なるほど、REVIVAL……。復活ですか。誰かを蘇らせたいとか、そんなところですね」
「ああ、そうだよ……。私の代わりに死んだ親友を……菜月を蘇らせるんだよ!」
「そうですか……。貴女の代わりに、とはどういう意味ですか?」
「……」
口を閉ざした狼牙を前に、エクスシアはソードベントを使用。両刃の剣を手にし、狼牙の太ももに突き刺した。
「いぎっ……!?」
「どういう、意味ですか? どんな苦しみを抱えているかを知ることが私にとって重要なのです。それ以外のことはどうでもいいので話さないように。朝なにを食べたとか、今日の占い何位だったとか……。言わないと、こう、ですから」
こう、とは。狼牙の太ももに突き刺した剣を、子供が地面を木の枝で穿るようにすることであった。
「がぁぁッ!!!!」
「言えば、止めてあげますよ」
「いうッ! いうがらやめっ! ぎぃ!」
エクスシアが剣を動かすのを止め、狼牙は痛みを堪え、息を整えてから震える口で語り出す。
「ちゅ、中学の時……ライブのチケットが当たって……。だけど、その前に熱、出して……」
乱れた呼吸と嗚咽が混ざり、途切れ途切れの弁であった。
なかなか進まぬ話に苛立ったエクスシアは再び、剣を揺らし傷口を拡げて話を促した。
真白の雪原に、赤いのが混ざって、溶かして、またその上に白いのが重なってを繰り返す。
「ひぐっ!?」
「ほら、早く」
「は、は……いけなく、なったから……なつき、に……チケットわたし、て……。なつきも、すきだったから……。ずっと、ずっといっしょにいたともだち、だったから……。そしたら、なつきの、のったバス、が……じこって……」
「なるほど、それで自分の代わりにナツキさんは死んでしまったと」
エクスシアの言葉に、狼牙は頷いた。
「それで、苦しんでいたんですね……。本当なら自分が死ぬはずだったのに、と」
「だから、わたし、が……かって、ねがいを……」
「それでこんな苦しい戦いに参加するなんて……。大丈夫です、その苦しみから解放してさしあげます」
「え……ぎっ!?」
狼牙に突き刺されていた剣が抜かれる。滴る理恵の血が、処刑までのカウントダウンのように見えた。
「貴女はそのお友達のことをとても大切に思っている……。とても美しい友情です。私、友達がいないので羨ましい限りですが……。羨むのをやめました。友達でそんなに苦しむのなら、友達なんていりませんね」
「……狂ってる……」
「いいえ、正気ですよ」
振り上げられる剣。
断頭台の刃が上げられていくようだった。
「貴女の苦しみは友を失くしたことによるもの。であれば、この生は苦しかったでしょう。友のいる死の国へお行きなさい」
「い、いや……!」
「友達とはずっと一緒にいるものでしょう? ナツキさんのところに行くのを嫌がるなんて、友達不孝者ですね」
違う、そんなんじゃと理恵は誰に向けてか分からぬ言い訳を頭の中でしていた。
同時に、受け入れもしていた。
ああ、死ぬのだと。
「ああ、神の祝福を────」
祝福など名ばかりの刃が下ろされる。
だが、命を奪うための剣は命を守る者の剣によって阻まれる。
「なッ……」
「……なんですか、貴女は」
自身の剣を受け止める赤い騎士を見下ろすエクスシアが苛立ち混じりに問いかけた。
跪いて小振りな双剣を交差させての防御。この程度、エクスシアのパワーであれば押し切れると判断し、力をこめていく。
だが、押し切れない。逆に押し返されていく。
徐々に立ち上がっていくもう一人の赤い騎士にエクスシアは気圧される。
そして、エクスシアの剣が弾かれる。
「貴女は……!」
立ち上がったその者に名を問うエクスシアの声には苛立ちと同時に畏怖が混ざった。
彼女は、私が救いを与えるべき存在ではない。
他のライダー達とは違う。
奴は一体、何なのだ────。
「仮面ライダーグリム……!」
力強く、名乗る。
彼女の名は仮面ライダーグリム、影守美也。
戦いを止めるため、人間を守る仮面ライダーである。
次回 仮面ライダーツルギ
「こんな状態じゃ、満足に君とヤれないよ」
「私を……私を見ないで!」
『私は……あなたとは、違う……』
「無償の愛?」
『お前を斬る。それだけだ』
運命の叫び、願いの果てに────。
ADVENTCARD ARCHIVE
COLD VENT 2000AP
使用したライダー付近の天候状態を吹雪にする。
吹雪は使用者には恩恵を与え、武器に氷の刃を付与することなどが可能。
敵対するモンスターやライダーにとっては視界を遮り、ライダーでなければ凍傷を負うほどの低温という厳しい環境。
どれほど熱い闘志も、吹雪の中では凍てつく。
「どうしてぼくは、好きになっちゃったんだろう。言える訳がないのに」
仮面ライダー銀姫の春風れっさー先生が紡ぐ、ツルギのとある物語。
星の少女が手を伸ばしたのは運命、純白の翼。
仮面ライダーツルギ・INTERLUDE 影星トロイメライ
https://syosetu.org/novel/319829/
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