「ふっっっっざけんな!」
「わわわ、太一!駄目だってば!」
ゲンナイから事の次第と依頼内容を聞いた太一は、ゲンナイの胸倉を掴み上げる。
それを見ていたアグモンは慌てて太一を止めようとするが、被害者であるゲンナイの方は申し訳ないという態度を崩していない。
「すまない…私は殴られてやることしかできない…」
「…そんなこと言われたら…逆に殴れねぇよ」
そんなゲンナイの態度に冷静になった太一はすっと掌から力を抜く。
そのまま掌を自らの顔に当てて俯く太一は、唇から漏れ出すように弱々しい声で呟く。
「それ以外に選択肢は…ないのか?」
「…ない。残念ながらな。勿論、私のことを信じてくれたらの話だが」
「信じないなんて選択肢があるかよ」
信じないには、ゲンナイのことを知りすぎていた。3年前の冒険では仲間の選ばれし子供達以外には数少ない信じられる対象だった。
「太一ぃ。どうするの?」
「わかんねぇよ」
分かるわけがない。急に以前の仲間を殺せと言われて殺せるはずがない。だからと言って、世界の危機を放っておくこともできない。
「わかんねぇから…会ってみる」
「場所分かるの?」
「分かるってわけじゃねぇけど、確かに何となく惹かれる方向はある」
何の情報も与えられてなければ、無意識的にその方向へ歩いていただろう。
「とりあえず…謝らなきゃな。待たせてごめんってさ」
「ジ、ジエスモン!?って何!?聞いたことないデジモンよ!?」
「ジエスモン!究極体デジモンです!」
「き、究極体!?」
光子郎からの回答に丈は悲鳴のような反応を返す。
今の子供達はジョグレス進化もできず、完全体以上への超進化もできない。何人居ようが成熟期では究極体に勝てる訳がなかったからだ。
「ち、ちょっと待ってジエスモン!こんなこと私たちも聞いてないわよ!」
割と子供達側に冷たい反応をしている姫川も珍しくハックモンを責めている。ハックモンの行動が全く合理的でないことが原因だ。
しかし、そんな姫川も無視してジエスモンは身体から謎の発行体を生み出し、それをブイモンとワームモンに投げつける。
子供達は攻撃をされたと考えて慌てたが、投げつけられたブイモンとワームモンは平然としている。それどころか力が溢れているようだ。
「違うよ大輔!これは攻撃じゃない。力が漲ってくる」
「賢ちゃん!今ならインペリアルドラモンに進化できるかも!」
「当然だ。倒すためでなく、諦めさせるためにやっている。オメガモンに成れない以上、インペリアルドラモンがお前たちの最強の力だろう。それでも無理なら諦めろ」
「待ってジエスモン!私たちは別に戦いたいわけじゃ」
「問答は無用だ。力無き主張は無意味だ。お前たち選ばれし子供達なら、そんなこと身に染みて感じているだろう」
言葉でなく、力で語れ。
ジエスモンはそう言っているのだ。
こうなってしまっては言葉で語った所で止めるのは無理だ。
「やるしかねえってか…ブイモン!」
「そうだな…ワームモン!」
超進化…インペリアルドラモン!
大輔と賢の掛け声に応えたパートナーデジモン達は自らの能力を発揮し、究極へと姿を変え、相手にぶつかり合う。
究極体と究極体の激突。これは一種の災害と大差ない。
周りの人間やデジモン達は巻き込まれないように避難を開始した。
「な、何でこうなるのよ!?ホメオスタシスって脳筋なの!?」
「ホメオスタシスというより、ジエスモンの性格の気もしますけど」
「どっちでも良いわよ!ていうか、そんな簡単に究極体になれるなら私達選ばれし子供達なんて必要ないじゃない!何であのデジモンがダークマスターズとかと戦わないのよ!」
「必要あるのよ。彼等の力はデジタルワールドが安定しているからこそのものだから」
「どういうことですか?」
京の怒りが込められた独り言に返答した姫川の言葉に光子郎が反応した。今の言葉には無視できないものがあった。
「進化にはエネルギーが必要なのよ。貴方達のようなパートナーがいないハックモンはそのエネルギーをデジタルワールドから借りている。その貸し手がボロボロであれば貸せるだけのエネルギーを生み出せないわ」
「なるほど、逆に言えばデジタルワールドが安定している今だからこそジエスモンは強さを発揮できるということですか」
「そういうこと。デジタルワールドを人間に例えたら彼等は白血球のようなものよ。人体が健康であればこそ、ウイルスを排除できる」
その例で言えば、選ばれし子供達は外科手術のようなものなのだろう。デジタルワールドの自浄作用では、どうしようもない事態に陥った時に必要とされる存在なのだ。
「アポカリモンやベリアルヴァンデモンがいるような時ってことですね?」
「半分正解ね。アポカリモンの時は正にそう。デジタルワールドが完全に弱っていて、選ばれし子供達に頼るしかなかった。でも、ベリアルヴァンデモンの時は違う。彼等は動こうと思えば動けていたわ」
「え?なら、どうして?」
「それは」
「「インペリアルドラモン!」」
姫川の声を大輔と賢の声が遮る。話に夢中になっていた姫川と光子郎が戦いの場に目を向けると、膝をつくインペリアルドラモンの姿があった。
「くそっ、あんにゃろう!メチャクチャつええ…」
「経験値の違いだ。お前達が戦い慣れていないとは言わんが、究極体同士の戦いの経験値が少なすぎる」
「究極体と戦う機会なんて殆どねーんだよ!」
ダークマスターズのような例外中の例外を除けば、究極体と連続して戦うことなど殆どないと言って良い。というか、あってたまるか。
「メガデス!」
反撃の一手をとインペリアルドラモンは必殺技を放つが、その攻撃もアッサリと躱される。当たらない。その事実に大輔と賢は冷や汗をかいた。
「くっ、ダメか!小回りのスピードじゃ分が悪すぎる!」
「まずは隙を見つけないと…」
翻弄されているインペリアルドラモンの姿に、側から見ているヤマト達も気が気でない。別に恨みなどないが、彼を倒さなければ太一のところには行けないのだ。
「強い…」
「あいつ、一体どれだけの敵と戦ってきたんだ…」
「彼等はデジタルワールドを守ることが使命。貴方達と同様、いえ、それ以上に戦いか宿命づけられている存在よ。経験値で勝てるわけがないわ」
「それもある。だが、お前達の場合はそれ以前の問題だ」
「え?」
ヤマト達の疑問の声に戦っているジエスモンが応える。戦っている最中でも返事ができる程度の余裕すらあるのだ。
「甘いんだ。何故、敵である私を殺す気で攻撃しない?」
「お前らは別に敵ってわけじゃねぇだろ!」
「お前達の勇気の紋章の少年の所に行きたいという覚悟はその程度のものなのか?」
ジエスモンの問いに大輔達は答えられない。口を開こうとはするが、そこから言葉が漏れていかない。
「優しさも思いやりも結構だ。だが、それをすることができるのは圧倒的な実力者のみだ。格下のお前達が格上の私を殺す気で攻撃しないで、どうやって勝つつもりだ?」
「お前だって俺たちを殺す気で攻撃してねぇじゃねぇか」
「当たり前だ。お前達を殺すことはデジタルワールドに何の利益ももたらさない。私の代わりはいるが、お前達の代わりなどそうそういないのだ」
「だから…俺たちがお前達を殺すのは構わないってのか?」
「当然だ。私はシステムの一部だ。私の代わりなどいくらでもいる」
「ふざけんな!」
思わず大輔は叫んだ。自分に関係ないとしても、今の発言は看過できない。
「代わりがある命なんかあるかよ!ブイモンも!お前も!太一さんの昔のアグモンも!皆、同じ大切な命じゃねぇか!」
代わりなんていない。大輔の言葉にヤマト達世代の選ばれし子供達は過去の戦いで自分たちのために死んでいったデジモン達を思い出した。始まりの街で生まれ変われる。そう言って死んでいったデジモン達もいた。しかし、その悲しみは本物だった。生まれ変われるからといって、誰かが死ぬということを軽く扱っていいはずがない。
「志は立派だな…だが、それに実力が伴うのか?」
大輔の言葉に薄く目を閉じたジエスモンは身体に力を溜め始めた。
マズイ…この場にいる全員がそれを感じた。ジエスモンはこれで終わらせる気だ。
相殺するしかない。インペリアルドラモンは攻撃の準備を始めた。
「メガデス!」
「シュベルトガイスト!」
究極体同士の必殺技が激突する。離れた所にいるヤマト達ですら吹き飛ばされないように堪えるので精一杯だ。
だが、僅かにジエスモンの攻撃が優っている。このままでは勝てない…そう考えたインペリアルドラモンは残された力を全てメガデスに込めた。相手への配慮など込めている場合ではない。
それにより力のバランスは崩れ始め少しずつ、しかし確実に天秤はインペリアルドラモンに傾きつつあった。
だが…
「インペリアルドラモン!」
何処か心配したような大輔の声にインペリアルドラモンは一瞬注意がそちらに向いてしまった。
「だから」
その隙を見逃してくれる相手では無かった。
「それが甘いと」
力のバランスは一瞬で崩れ、立て直そうとした時にはもう遅かった。
「言っている!」
ジエスモンの必殺技がインペリアルドラモンを覆った。
煙が晴れた先には傷だらけのチビモンとミノモンが転がっていた。
声を上げながら近寄る大輔達を尻目にジエスモンは呟いた。
「これが結果だ。勇気の紋章の少年の所に行くのは諦めろ。だが、心配するな。目的さえ達成すれば身の安全は保証する」
そう言うとジエスモンはその場から去っていた。
その背中にかけられる声は無かった。
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