「スーツェーモン…って西島先輩あのデジモンのこと知ってるんですか!?」
「ちょっと待って!それよりも今…元パートナーデジモンって…」
急に現れた謎のデジモンに疑問が湧き上がるが、何よりもその言葉に全員の意識が集中した。
「西島先輩が…チンロンモンの元パートナーってこと…!?」
ミミのそんな疑問に西島はスーツェーモンを見つめたまま、何も答えない。
「ずっと…疑問に思ってはいたんです」
そんな中、ポツリと呟かれた光四郎の独白のような言葉が響く。
「何故、僕たちの紋章の力で四聖獣の力が戻ったのか…」
レオモンのように、進化の力を得たデジモンもいるが基本的にはパートナー以外のデジモン達は退化などしない。疲れてもその形態を保っており、休めば体力も回復する。
もちろん例外もいるだろうし、四聖獣が休んだくらいでは回復しないレベルのダメージを負ってしまったのだと無理矢理納得していた。
「ですが、四聖獣が選ばれし子供のパートナーデジモンなら…紋章の力で回復することはむしろ自然」
「確かに…」
「チンロンモンが西島先輩のパートナー…ってことは他の四聖獣も」
「ほぼ間違いなく西島さんや姫川さん達、初代選ばれし子供達のパートナーデジモンなのでしょう。そして、そんなことを知っているスーツェーモンももちろん」
「四聖獣の一角ってことか」
光四郎のデジモンアナライザーで検索しても、スーツェーモンの情報は『UNKNOWN 』。しかし、スーツェーモンが四聖獣であるのならば驚きに値しない。
「ほう…貴様、後輩達に自分たちのことを教えてなかったのか」
「そんなことどうでも良いだろう。何をしに来た?スーツェーモン」
「しれたこと。貴様らの行動を止めに来た」
しかし、そんな関係であると推測されるにも関わらず二人の間の空気は酷く緊迫している。とても、仲間の関係には思えない。
「僕のことを快く思わないのはわかる…だけど、この子達には関係がないはずだ」
「戯け。そんなことで立場を決めるか。今回のホメオスタシスの決定に異議は無い。それを邪魔しようというのなら、容赦はせぬ」
バサリと翼をはためかせる。攻撃でもなんでもないその動きだけで、子供達と成長期のデジモン達は飛ばされないように必死に縋り付く。
「止めろ、スーツェーモン!この子達は別にホメオスタシスの考えに逆らおうとしてるんじゃない!ただ、話がしたいだけだ!」
「話だと?話ならハックモンとの会話で既に終わっているはずだ」
「そんな簡単に納得できるわけがないだろう。仲間との関係というのは。スーツェーモン、お前になら分かるはずだ」
「それよりも大切なことがある。世界の安定…それは何よりも優先する。大吾、お前なら分かるはずだ」
議論は平行線だった。両方の言い分それぞれに筋は通っているのだが、大切にするものが違いすぎる。妥協点を見出すことは難しいだろう。
「それが大切なことは否定しない。だが、世界を安定させながら仲間のことを大切にすることもできるはずだ。それは両立させることが不可能な訳じゃない」
「お前がそれを言うのか?それが如何に理想論かお前が、お前たちが1番知っていることだろう」
それを聞いた大吾が口を閉ざす。何を考えているのかは知らないが、スーツェーモンの言葉に思うことがあるようだ。
だが、スーツェーモンの言葉に思うことがあるのは大吾だけではない。他の子供達やデジモン達は大吾が口を閉ざしている合間に、即座に反論する。
「難しいからって諦める理由にはならないわ!」
「そうさ!おいら達は何時も難しい状況を乗り越えてきたんだ!」
「そうだ!太一さんやコロモンを見捨てるなんて絶対にしねぇよ!」
「随分と幸せ者だなお前達は…教えてやったらどうだ大吾。世界はそんなに優しくできていないということをな」
「んだと!どういう意味だ!?」
「言葉通りの意味だ。そうだろう大吾」
スーツェーモンの言葉を受けて、今まで黙っていた大吾は静かに口を開いた。
「確かにそうだ。世界は優しくなんかない。そんなことはあの時から分かってる」
だが、と大吾は目を見開いて続ける。
「あの時も今も!僕に力が無かったからあんなことになった!自分の無力さが嫌いにならなかった日なんてない!でも、この子達は違う!この子達は僕たちができなかったことを成し遂げた!今回も僕たちとは違う答えを見せてくれるはずだ!」
大吾は感情のままに叫んでいた。子供達には言っている内容の半分もわからなかったが、スーツェーモンは違うのだろう。舌打ちのような音を鳴らすと地鳴りのような言葉を発する。
「本当に変わらないな、大吾」
何処か苛立ちを隠せないまま、スーツェーモンは続ける。
「お前のその…自分だけが悪いとでもいう偽悪的な態度が」
スーツェーモンの口に炎が蓄積していく。それを見たタケルはいち早く、デジヴァイスを構えた。
「ずっと不愉快だった!」
スーツェーモンの口から弾き出された炎は真っ直ぐに大吾へと向かっていく。必殺技どころか、本人からしてみればお遊び程度の技だろうが人を一人殺すには充分すぎる熱量だ。
それが着弾する様を見た時、ミミや京は悲鳴をあげたが大吾は間一髪で進化が間に合ったタケルとペガスモンの助けで何とか頭上へと逃れていた。
逆に言えばペガスモンが間に合わなければ、大吾は死んでいたことになる。
「何やってるんだスーツェーモン!殺す気か!?」
「邪魔をするな、希望の紋章の子供!貴様らには関係のない話だ!」
「関係あるに決まっているだろ!西島さんは僕らの先輩で、仲間だぞ!!」
「では、聞こう。こいつが貴様らに少しでも何か自分のことを話したか?」
「そ、それは」
確かに何も聞いていない。それどころか、先代の選ばれし子供達であるということを聞いたのも望月の口からだ。
「それで仲間とは笑わせる。大吾自身がお前達を仲間だと思っていないのではないか」
「仮にそうだとしても、お前は大吾さんの仲間だったのだろう!何故、そのお前が大吾さんを攻撃する!」
「先程も言ったはずだ。世界の安定のためには元仲間の命など瑣末に過ぎん」
「て、テメエ黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!」
今まで黙って話を聞いていたが、この中でも沸点が最も低い大輔は黙っていられないとばかりに言い放つ。
「お前も俺たち選ばれし子供も皆、デジタルワールドを助けるために戦った仲間だろうが!その仲間に何でそんな言い方するんだよ!」
「勘違いをするな、デジメンタルの選ばれし子供。大吾達や紋章持ちの選ばれし子供達ならば、いざ知らず、貴様らに助けられた覚えなどないわ!」
「ん、んだとぉ!?」
「大輔さん止めてください!また、戦いになっちゃいますよ!?」
「いや、これは黙っていられない!おい、スーツェーモン!どういう意味だ!?」
伊織に抑えられた大輔に代わって、ヤマトが声をあげる。
「そのままの意味よ。確かに此奴らはデジモンカイザーを止めた。だが、アポカリモンやダークマスターズならばともかく、あの時のダークタワーで操作できたのは大体が成熟期まで。良くても完全体。そいつらが束になった所で私やハックモンに勝てると思うか?」
「…それは」
勝てないだろう。戦うまでもなくヤマトには断言できた。究極体とそれ以外の力の差は、そこまで大きいのだ。
しかし、それだとすると別の疑問が生じる。
「じゃあ、何でお前らが止めなかったんだよ!」
「ホメオスタシスの意思だ!人間達との関係のバランスを取るために、我々を止めたのだ。我々が動くと、どうしても過激にならざるを得んからな」
デジモンカイザーの話題になった時から青ざめていた賢の手を京は咄嗟に握る。スーツェーモンのいう「過激」がどのレベルかは不明だったが、恐らくそのままの意味だろう。
「だからこそ、ホメオスタシスは人間の問題は人間に解決させようと考えて、お前達デジメンタルの子供達を選んだに過ぎん!デジタルワールドのために?笑わせるな!そもそも、お前達人間が発端の事件だろう!」
その意見を完全に否定はできない。ヴァンデモンの暗躍が有ったとはいえ、あの事件を起こしたのは賢自身であったことには変わらない。
「お前達…じゃない…僕のせいだ!」
「け、賢君!やめて!刺激しちゃダメ!」
「アレは僕の罪だ!人間が悪いわけじゃない!責めるなら僕だけを責めろ!」
賢にとってデジモンカイザーとは自らの罪の象徴である。だが、その事実から逃げることはしない。自分は罪を侵した。その事実は変わらない。しかし、その事実から逃げないと誓ったのだ。
だからこそ、スーツェーモンの発言は許容できなかった。そうであれば、自らだけを責めるべきだ。
だが、その言葉を聞いてスーツェーモンの苛立ちは更に上昇する。
「お前といい大吾といい…自分のせい、自分のせいと図々しい奴等だ」
空気が明らかに変わった。先ほどまでの脅しではない。本気で攻撃に出るのだろうことを察したデジモン達は前に出る。
「そんなに自分のせいだと言うならもう良い…」
子供達もそれに気付き、進化させようと行動する。だが全ては遅すぎた。
「死んで詫びろ!」
明らかに成長期のデジモンと人間を殺すのに十分な火力がスーツェーモンから放たれる。思わず子供達は目を瞑る。
しかし
「蒼雷!」
空から蒼き雷が舞い降りて、スーツェーモンの攻撃を掻き消した。子供達とパートナーデジモンは呆然としていたが、スーツェーモンは苛立ちを込めて言葉を発する。
「やはり邪魔をしに来たか…チンロンモン!」
「相変わらず過激だなお前は」
四聖獣同士が静かに対面した。
15 聖獣