太一のアドベンチャー   作:はないちもんめ

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15 聖獣

2体の聖獣が向き合った瞬間、沈黙が周囲を支配する。

 

勿論、穏やかな沈黙などではない。究極体の中でも上位に位置する2体は直ぐにでも戦闘を初めてもおかしくないほどの殺気を放っていた。

 

顔を青ざめさせながら緊張した面持ちでその痛い沈黙をヤマト達は見守っていた。

 

「邪魔だチンロンモン。そこを退け」

 

「そう言って退くと思うか?その前にお前の矛を納めろスーツェーモン」

 

沈黙は破られたが、交わす言葉の物騒さはナイフのようだ。周囲の子供達やパートナーデジモンは気が気でない。

 

「矛など何時でも納めてやる。他の子供達が勇気の紋章の子供を邪魔しないことが確認できたらな」

 

「邪魔?仲間のことを思いやる気持ちをお前が邪魔だと言うのか?」

 

「当たり前だ。コイツらの行動は世界を滅ぼすかもしれん。それを止めるのが我の役割だ」

 

「この子供達の行動が世界を救ったことを忘れたか?我々ができなかったダークマスターズやアポカリモンの打倒を成し遂げてくれたのがこの子達だぞ」

 

「その行動の結果、ヴァンデモンの暗躍を許したのもまた事実だろう」

 

「都合の良い部分だけを切り取るな。デジタルワールドにも人間界にも居なかったヴァンデモンを倒してくれたのもまたこの子達だろう。我々には奴を滅することはできなかった」

 

確かに人間達の行動がヴァンデモンを助けて世界を危険に晒したのは間違いない。

 

だがそんな世界を救い、ヴァンデモンを倒したのも大輔達のような人間だった。

 

「相変わらず甘いな貴様は」

 

「お前も相変わらず心が狭いな」

 

唾を飲み込むことさえ躊躇する緊張感。究極体どころか完全体に進化することすら難しい今の子供達は、ただその存在感に圧倒されていた。

 

「な、なあ、これ止めた方が良いんじゃ…」

 

「どうやって!?二匹とも究極体よ!?」

 

大輔の当たり前の言葉を京が当たり前の言葉で返す。

 

止めた方が良いことなど分かっている。問題は止めるための方法がないことだ。

 

「蒼雷!」

 

「紅焔!」

 

子供達の言葉が聞こえていないのか、聞こえて無視しているのか定かではないが二匹の緊張が最大限に高まった時に時は動き出した。

 

二匹は自身の誇る最強の技を相手に放つ。最早、殺す気でやっているのか疑うほどだ。同格の二匹の技は中央でぶつかり合い、互いにダメージを負うことはなかったが周囲の子供達はそうではない。

 

「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

ミミと京の悲鳴が周囲にこだまする。当然だろう、四聖獣の必殺技の激突は凄まじい規模の爆風を周囲にもたらした。これで悲鳴をあげないでいる方が難しい。

 

その爆風によって、周囲にいた子供達が無事に済むはずもなく全員が吹き飛ばされないように岩陰に隠れて必死に耐えていた。

 

だが、事はそれだけでは収まらない。その衝撃から発生した光は分裂を繰り返し、子供達の元へと到達する。

 

「な、何だ!?何か光ってるぞ!?」

 

「何かって何!?」

 

「分かりません!」

 

「早く逃げないと危ない!」

 

「落ち着け、選ばれし子供達よ。ただの共鳴だ。害のあるものじゃない」

 

「え?もしかしてこの声って…」

 

ヒカリが聞き覚えのある声に振り返るとそこには今まで何度も助けられた仲間と呼ぶべき存在が立っていた。

 

「「「ゲンナイさん!!!」」」

 

「待たせたね、遅くなってすまない」

 

「待てゲンナイ。アンタこんな所にいて良いのか?ホメオスタシスの意思に背くんじゃ」

 

「心配ない。今は四聖獣同士の戦いを止めることが先決だ。あの二匹を放置しておくことは世界の崩壊へと繋がりかねん」

 

「え?何言ってるの?ホメオスタシスの命令なら止まるんじゃないの?」

 

「無理だ。私たちとは違い、四聖獣はホメオスタシスの命令を聞く義務は全くない。元々は選ばれし子供達のパートナーデジモン。完全に独立した存在だ。デジタルワールドを守るという目的が合致しているだけだよ」

 

「な、何か複雑なのねそっちの世界も」

 

京は頬を引き攣らせる。話を聞くだけでも、あまり穏やかな関係では無さそうである。

 

「ていうかそんなことよりも、この光は何なのよ!!」

 

「あの二匹の必殺技の影響による共鳴現象だ。四聖獣が対面するなど数100年振りだからね。デジタルワールドそのものが影響を受けているんだ」

 

「見て!光が消えていくわ!」

 

空が指差す方向を見ると確かに光が消えていっている。だが、違和感は増していくばかりだ。明らかに光が消えていく先に見えるものは自分たちが先程までいた場所ではない。

 

「ど、何処なんでしょうかここは」

 

「こんな場所知らんがや」

 

「というか明らかに荒廃してない…?というよりも何というか…生命力が無いって感じ?」

 

伊織や京のような第三世代の選ばれし子供達は自分たちが今いる場所に違和感しか抱かなかったが、大吾やヤマトといった前世代の選ばれし子供達は異なり、違和感よりも疑問の方が先に立った。

 

「嘘だろ…!?ここは…まさか…!?」

 

「ダークマスターズがいた時のデジタルワールドに似てる…?そんなことが…」

 

「そのまさかだ。今、私たちは過去の記憶を見ている」

 

光四郎達の発言をゲンナイが肯定する。今、自分たちは過去の映像を見ていると。

 

「ってことはまさか、さっきの共鳴現象の続きってこと…?」

 

「そうだ。あの二匹の過去の記憶を見ている」

 

「じゃあ、昔の大吾さん達が近くにいるってことですよね?一体何処に…大吾さん?」

 

子供達も全員驚いているが、大吾だけは妙に反応が異なることに伊織は気が付いた。驚愕だけではない。顔色も悪くなり、何か体調に異変をきたしていることは明らかだった。

 

他の子供達もそれに気がつき、大吾の側に寄ろうとするがそれをゲンナイが止めた。

 

「放っておくしかない。これは彼にとって…いや、彼等にとってトラウマに近いことだ」

 

「?一体ここで何が…お前らあっちを見ろ!」

 

事態を把握するには視覚情報しか無いことをわかったヤマトは周辺を見渡していたが、遠く離れた空にある光の塊が目に入った。

 

その光は何か暗い塊に押し出され、地面に叩きつけられた。

 

音は聞こえないヤマト達にも察せられるほど凄まじい衝撃である。

 

「アレは…もしかして大吾ハン?」

 

「姫川みたいな子もいるよ。でも、変だなぁ。5人いるよ」

 

「それの何処が変なんだよゴマモン」

 

「だって四聖獣って言うからには四匹なんだろ?一人足りないじゃないか」

 

「言われてみればそうね」

 

どう言うことだ?と言いたげに大吾を見ると顔を青くしたままの大吾は項垂れたまま口を開かない。

 

「見ていればわかるよ…」

 

ゲンナイはそう言うと寂しそうな目のまま、戦場を見つめた。

 

それに釣られてそちらに目を向けると闇の塊のようなものが空から姿を現す。その姿にヤマト達二代目選ばれし子供達は息を呑む。

 

「ダーク…マスターズ」

 

「ダークマスターズ…!?」

 

「アレが…!?」

 

大輔達3代目選ばれし子供達もその名前は知っていたが、対面したのは初めてだ。過去の映像からだけでもその危険性と強さは感じ取れる。

 

ダークマスターズは倒れている子供達にとどめを刺そうと、どどめの攻撃を仕掛けている。

 

思わず飛び出したヤマトと大輔だが、これは過去の映像だ。見えているだけで介入などできるはずもない。

 

ヤマト達を素通りしたダークマスターズの攻撃は一直線に倒れている大吾達へと向かっている。

 

ヤマト達が目を瞑ろうとした瞬間、姫川の手から離れたパートナーデジモンであるバクモンはダークマスターズの攻撃の盾となった。

 

姫川達が別れの言葉を告げる間もないまま、消えたバクモンは粒子と化した。

 

だが、奇跡が起きた。

 

粒子は始まりの街へと帰ることもなくその場に留まり、あろうことか他のパートナーデジモンの体を包んだ。

 

それにより、他のパートナーデジモンの傷は治り、更なる進化を遂げー四聖獣へと姿を変えた。

 

だが、すぐに戦うことはできなかった。現状が理解できていなかったからだ。死を悲しむ暇もなく、危機も去っていない。感情がその場に停滞していた。

 

「何してるの…戦って!」

 

どうしたら良いのか戸惑っている他の子供達を姫川は叱責する。

 

ーその瞳に涙を浮かべたまま。

 

「アンタ達が戦わなきゃ…バクモンの死が無駄になる!」

 

姫川のその言葉に大吾達、初代選ばれし子供達とそのパートナーは戦う決意を固め、ダークマスターズと向かい合う。

 

バクモンの影響かどうかは定かではないが、子供達とパートナーデジモンとのリンクは四聖獣へと進化をした時に切れておりダークマスターズの隙をついて子供達は現実世界へと逃がされた。

 

その結末は今更語るまでもないだろう。長きに渡る戦いの末、ダークマスターズに敗れた四聖獣は封印され、太一達二代目選ばれし子供達がダークマスターズを倒すことによって解放された。

 

人間界に戻った姫川はその後もデジタルワールドに関わり続けようとした。ありとあらゆる手段でデジタルワールドとコンタクトを取り、デジタルワールドを救おうとした。太一達がダークマスターズを倒したと言った後もその行動は続いていた。その結果が今であり、姫川は今でも人間界とデジタルワールドを助けようとしている。何を犠牲にしたとしても。

 

世界を救う。正に英雄の所業だ。

 

だが、姫川には英雄になる以外選択肢がなかった。そのためにパートナーは命を賭けたのだから。残されたパートナーにはー姫川にはその思いを受け継ぐことしかできない。少なくとも姫川はそう考えた。

 

「カッコ良いよね本当に。皆、そう言うよ。でも僕はね…姫ちゃんには…」

 

無理に作ったような笑顔を貼り付けたまま大吾は顔に手のひらを当てる。

 

その姿は泣いているようにも、怒っているようにも、苦しんでいるようにも見えた。

 

「英雄になんて…なってほしくなかったんだ」

 

 

 

 




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