太一のアドベンチャー   作:はないちもんめ

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創作意欲が湧いたので久しぶりの投稿。しかし、話は進んでいない…


6 希望

『空!サッカーしようぜ!』

 

表には出さないながらも、母親やチームメートとの軋轢を抱えて、内心参っていたオレンジ髪の少女にゴーグルをした少年は何でもないかのように話しかけた。

 

『別に女でもサッカー上手けりゃ良いじゃん!一緒にやろうぜ!』

 

少年は知らないだろう。いや、少女からすれば一生知らなくて良いのかもしれない。

 

あの時の少年の言葉に。行動に。その少女がどれだけ救われたか。どれだけ感謝したか。どれだけ嬉しかったか。

 

それからずっとかもしれない。

 

面倒を見てるように見えたかもしれないが、その少女ー竹之内空は少年ー八神太一に

 

 

 

 

 

 

ずっと甘えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空?髪飾り落ちたわよ?」

 

「え?あ!ありがとう!」

 

テニスをしていた空はかけられた声で慌てて自身が落とした髪飾りを拾い直すが、それに少し傷がついたことに対して若干渋い顔をする。

 

そんな空の反応が珍しかったのか友人は意外そうな顔を浮かべる。

 

「珍しいわねぇ、空がそんな顔をするなんて…大切なものなの?」

 

「そんなんじゃないわよ。ただ、昔、太一から貰ったってだけ」

 

「ああ、八神から」

 

納得といった表情を浮かべた友人が何を思い浮かべているのかなど、聞かずとも空は分かっている。自分たちの関係が邪推されることなど最近では日常茶飯事だ。

 

「ねぇ、ねぇ。それって何時頃貰ったの?」

 

「…ごめん。ちょっとそれは思い出したくない」

 

「は?何で?」

 

意味が分からないという顔をしているが、空にだって言いたくないことはある。と言うか、自分だって忘れたい。できるならあの日の自分の行動を無かったことにして欲しい。私は一体世界崩壊の危機の最中に何をしていたのだろうか。

 

忘れたくても忘れられない思い出。人はそれを黒歴史と呼ぶ。

 

とは言え、客観的に見て別に空は悪くない。もちろん、太一だって悪くない。偶々偶然、それと世界崩壊の事件が重なっただけだ。

 

まあ、詰まるところ要するに青春って良いよね!という話だ。どういう話だ。

 

意味が分からない人は映画を見よう!個人的には人生でベスト3に入る映画だ!

 

…まあ、それは置いておこう。

 

空は何気なく自身の傷ついた髪飾りを見て嫌な感じが湧き上がる。気のせいであれば構わないのだが、太一の事情を聞いたばかりだということを加味すると気のせいだとは思えない。何の根拠もないとは言え、本人が気にするのであればそれはしょうがないのだ。

 

「ごめん。私、今日はもう帰るね」

 

「は!?いやいや、今日はまずいでしょ!?」

 

「適当に言い訳しておいて!お願い!」

 

手を合わせてお願いされると友人としても断りにくい。日頃、空には助けられているが故に。頭をかきむしってから深いため息を吐くと友人は諦めたように告げた。

 

「はぁ…もう、良いわよ。言い訳しといたげるからサッサと行きなさい」

 

「ありがと!今度何か奢るね」

 

「そんなの良いわよ。それより、その髪飾りのエピソード聞かせてよ」

 

空は一瞬顔を引き攣らせるが、流石に断るという選択肢はない。肯定も否定もせずそそくさと空は逃げ出したがこれは言わないという選択肢もないのだろう。

 

とりあえず、後で太一に文句を言おう。

 

八つ当たりのような気がしないでもないが、ともかくそれで空は自身の気持ちに区切りをつけて太一の元へと走り出す。

 

走りながら空は太一が言わなかったことについて思考する。

 

太一があの時全てを言っていなかったことなど、分かっていた。それなりに長い付き合いだ。自分にとっては家族を除けば一番長い付き合いになる。嘘を見抜くことなどできないはずがなかった。

 

それでも黙っていたのは証拠がなかったというのもあるが、本人が話す時を待っていようという気持ちが強かったからだ。流石に身の危険を感じるレベルであるにも関わらず自分一人で対処しようとするほど独りよがりな人ではないという信頼もそれを後押しした。

 

だが、今になって考えてみればそれには穴がある。本人である太一自身が、問題の大きさに気が付いていない場合と太一だけで解決できる問題の場合、空にそれを知る術がないということだ。

 

その事実に空は怒りを覚える。何故、そんな当たり前のことに気が付かなかったのだろうか。そして何故アイツは自分に問題を打ち明けなかったのだろうか。

 

理由など分かっている。アイツにとって私は守るべき対象なのだ。

 

その事実に空の胸はチクリと痛む。

 

仮に今回の問題について相談するとすれば、太一は最初に自分に相談するだろうか。

 

恐らく否だろう。

 

勿論、言う可能性もある。しかし、ヤマトや光子郎に連絡する可能性の方が高いだろうという確信があった。

 

確かに私はヤマトと違ってピヨモンを究極体に進化させられない。

 

確かに私は光子郎君と違って的確なアドバイスはできない。

 

だとすれば、太一の判断は間違っているものではない。

 

だが、理論的にそうだとしても感情としてそれは納得できない。

 

馬鹿げた考えだと自分でも思う。彼女でもないのに、これではただの嫉妬だ。

 

だが、それくらい竹之内空にとって八神太一は『特別』だった。

 

その『特別』な関係は周りから見ればただのカップルだとか、お熱い関係のように見えるのかもしれない。だが、空だけはそれに対して断じて否と答える。

 

愛?恋人?

 

ふざけるな。

 

私と太一の関係をそんな簡単な言葉に置き換えるな。私と太一の出会ってからの歴史を。出会ってからの思いを。そんな陳腐な言葉で済ませようとするな。

 

そうじゃない。そうじゃないのだ。竹之内空にとって八神太一という存在はそんな言葉では代用できない。

 

竹之内空と八神太一の関係は竹之内空と八神太一の関係以外の何物でもない。だからこそ、八神太一は竹之内空にとって『特別』なのだ。あの忘れられない冒険の日々を過ごした仲間達の中でも特別に。

 

だからこそ、太一が自分を守るべき対象として見たことが悲しかったのだ。

 

自分が隣に立っていないという事実を実感してしまうから。

 

「太一のばーか」

 

何も分かっていない奴だ。守るよりも頼って欲しかったのに。

 

若干不貞腐れた空は誰に言うともなく一人呟いた。

 

京から空へ連絡が入ったのはその直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!あいつ結局何も言わずに消えやがった!」

 

大輔はハックモンが居なくなった地面に向かって拳を掘り落とす。

 

この場において、光子郎は年長者として何か言葉をかけなければならないと思うのだが、その言葉は口から外に出ていかない。

 

端的に言えば、光子郎も突然の展開の連続に混乱しているのだ。太一が居なくなったショックで呆然と座り込んでいるヒカリに言葉をかける余裕もない程に。

 

何せ、何も分かっていないのだ。頼みの綱のゲンナイも沈黙を保ったまま連絡を寄越さない。

 

「ヒカリちゃん…光子郎さん!俺、デジタルワールドに行って太一さんを探してくる!」

 

ヒカリのためにも太一を探さなければならないと光子郎の返事も聞かずに大輔は走り出した。…が

 

「大輔!待ちなさい!」

 

光子郎よりも先に大声を出した誰かの声で足を止める。

 

その声は自身が良く知る太一と同じく先輩だった人のものだ。

 

「そ、空さん!?何でここに!?」

 

「アンタ達を探して、ここに来たのよ。何かあった…みたいね。大丈夫?ヒカリちゃん」

 

「空さん…」

 

ヒカリの様子と太一がここに居ないという事実から何かがあったと空は確信した。光子郎は空の疑問に答えるかのように事情を説明したが、それは自分の頭を整理する意味も込められていた。

 

事情を聞いた空の顔が曇る。何せギリギリで間に合わなかったのだから。

 

ふーっと大きなため息を吐き、冷静さを保とうとする。慌てたところで何も生まれないことは分かっている。

 

「空さん!何で止めるんすか!早くしないと太一さんが!」

 

ここにいても何も始まらないと大輔は力説する。確かに、間違ってはいない。ここにいた所で何もできないだろう。

 

「行くってアンタ、デジタルワールドに行って何をするのよ」

 

「太一さんを探すに決まってるじゃないっすか!」

 

「何処に?」

 

空の質問に大輔は口を開きかけるが、言葉が続かない。そう。確かに大輔の言うことに間違いはない。だが、デジタルワールドに行った所で何かできることがあるのかと言えばない可能性が非常に高い。

 

もちろん、ないとは言わないが何かあるのならとっくにピヨモン達が異常を発見している。仮に太一がいなくなったことで何か問題が起きたのだとしてもそれを確かめるのはピヨモン達で事足りる。

 

「あ、あてはないっすけど、行ってみればなんとか!」

 

それは可能性ではない。ただの願望だ。それを言うのは容易かったが、空は言わなかった。

 

何故なら知っているからだ。自分の大切な人が目の前で消えたことの恐怖を。その恐怖を打ち消すために行動したい強迫観念を。

 

身をもって体験していた空には大輔の気持ちは非常に良く分かる。大輔は過去の自分なのだ。だから

 

「大輔。大丈夫よ」

 

空は大輔をぎゅっと抱きしめた。突然抱きしめられたことで、驚き半分、照れ半分で顔を赤くする大輔だが結果として心の中に空の言葉を聞く余裕が生まれた。

 

そして空は俯いていたヒカリにも声をかけて目を合わせるとにこりと笑った。

 

「太一の奴はしぶといから。前もダークホールみたいなものに巻き込まれてどっか行っちゃったことがあったけど、平然と帰って来たのよ。こっちの気持ちも知らないでさ」

 

当時の空は大輔だった。居なくなったから探して。それでも見つからないから探して。探して探して探し続けた。仲間を探すために、仲間と離れ離れになるという矛盾を抱えたまま。何処かにいるという根拠もなく。

 

空の単独行動ははっきり言って意味がないものだった。何故なら、別にヤマト達と一緒に居ても太一を探すことは可能だったのだ。行く道の先で太一のことを聞いて回れば良い。アテがない以上、単独行動をしてもしなくても意味などなかった。

 

そんなことに気付けない程に太一が居ない空には余裕がなかった。

 

(そりゃ、頼ってくれないわよね)

 

太一が自分を頼ってくれないことに寂しさを覚えたが、考えてみれば当たり前のことだった。自分に頼りきっている人間に頼ることは難しい。

 

竹之内空にとって八神太一の側というのは居心地が良すぎた。適度に世話がかかり、開けっ広げな太一の側では空はしっかり者のお姉さんでいられた。自分で作った仮面を守ることができた。自分に都合が悪い現実から目を背けることができた。

 

だが、デジモン達との冒険を通じて空はこのままではいけないと思った。居心地が良すぎる空間にいれば楽しいかもしれないが、人間はそれ以上成長しない。だからこそ、空は新しいことを始めてみようと思ったのではなかったか。

 

空は目の前にいる大輔を通して過去の自分を見る。太一の後ろに居続けた自分を。その自分と今こそ決別するために空は一歩前に進む。。太一の隣に立つために。

 

「だから、太一はきっと大丈夫よ。落ち着きなさい。慌てたところで良いことなんて何もないわ」

 

「い、いや、そうかもしれないっすけど、他に何もアテなんかないですし…」

 

大輔がある程度落ち着いたことが分かった空はスッと大輔から離れると人差し指をピンと立てる。

 

「アテなら一つあるじゃない。ほら。京ちゃんからの連絡が」

 

空の言葉に大輔だけでなく、光子郎も慌てて携帯を確認する。ヒカリもゆっくりとした動きで携帯を確認しているが、内容を確認するとその目に薄らと光が宿った。

 

「糸は切れてないわ。ヒカリちゃんは知ってると思うけど、タケル君の尾行は今も続いてる。既にホークモン達を連れて都ちゃん達もタケル君に合流できたみたいだし、私たちに出来ることはまだ残ってるわ」

 

だから、と空は続ける。

 

「ゲームセットじゃない。できることはまだある。ヒカリちゃんも座ってる場合じゃないわよ。あの馬鹿をサッサと迎えにいかないと」

 

視線を合わせて空は微笑んでいるがヒカリは知っている。空がかなり無理をしていることを。ヒカリだって空とは長い付き合いだ。空が無理をしているくらい分かる。空が兄を心配しない訳がないのだから。

 

自分も…強くならないと…

 

「はい。そうですね」

 

無理をしているのがありありと分かる表情だが、何とかヒカリは立ち上がった。それを見て大輔とテイルモンは無理はしないほうが良いと慌てて近づいているが精神的なことなのでそれはただの過保護だろう。

 

だが、何とか混乱した場は収まることができた。

 

それを確認して空はホッと息を吐くが、それを見て光子郎は情けない顔を浮かべて空に声をかける。

 

「すいません、空さん。本当は僕が何とかしなきゃいけない場面だったのに何もできませんでした…」

 

「仕方ないわよ。私だって、その場面を見てたら混乱して光子郎君みたいになってたと思うわ」

 

これは空の本心だった。空がある程度落ち着いていられたのは現場に居なかったからというのが大きい。

 

それに…と空は髪飾りを手に取ってふっと笑う。

 

「何時迄も太一が居ないと何もできないままじゃいられないからね」

 

太一の後を歩いていたオレンジ髪の少女はもう居ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 




次回 対面

作者のイメージですが、空ってかなり太一に依存していたイメージです(最強のブラコンに隠れていただけで笑)
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