そして今回から原作捏造設定が本格的に始まります。
「あそこがさっき敵じゃないって言ってた人達の居場所なの?タケル?」
「向こうが言うには…だけどね」
京と伊織と一緒に合流したパタモンの問いにそう返答したタケルだが、言葉から伝わってくるように向こうの話を完全には信じていない。まあ、あんな怪しい雰囲気満載で近づく人間を信頼しろと言う方が無茶だと思うが。
ちなみに、事情を聞いた京も伊織も同意見である。
「と言うか、本当に人間なの?人間に変装したデジモンなんじゃないの?」
「僕もそう思いましたが…見てくださいよ京さん。入っていったのここですよ?」
京の意見に同意するも、目の前に立ち塞がる巨大な建物を指差す伊織。その先にあったのは一つの看板。問題は看板に記載されている文字だった。
『防衛庁』
防衛庁である。誰がどう見てもご存知の防衛庁である。
こんな所に無関係の人間、もしくはデジモンが入り込めるのか?そんな訳がない。どう考えても彼女らはここの関係者だったのだろう。
隠れ家のアジト的な所に行くものだと思っていたタケル達は予想外の展開に呆然と防衛庁を見やる。こんなもの一体どうしろと言うのだ?
「でっかいビルだぎゃあ。伊織。俺がちょっと潜って潜入してみるのはどうだぎゃ?」
「ダメですよ、アルマジモン!!絶対にダメですからね!?」
デジモンであるアルマジモンにはピンと来ていないかもしれないが、これは力尽くでどうこうして良い場所ではない。無理やりしようものならほぼ間違いなく伊織達はテロリストの烙印を押されてしまうだろう。太一を助けられたとしても逮捕者が出ては意味がない。
「京さん。此処は一体なんなのですか?」
「うーん、簡単に言うと…私たちを守ってくれる人たちがいる場所ってことになるわね」
「なんと!それは素晴らしい!では、その人たちにご連絡して太一さんのことを聞いてきた姫川とかいう女性を呼んでもらっては?」
「…それができたら苦労しないわよ」
微妙な顔をして答える京に首を傾げるホークモンだが、デジモンにこの意味を理解して貰うというのが酷だろう。デジタルワールドに防衛庁のような組織がある訳がないのだから。
「何でなの?悪いことしてる訳じゃないんだから、普通に聞けば良いじゃない」
「普通の場所なら間違いなくそうなんだけどね…」
パタモンの純粋過ぎる疑問にタケルは苦笑いを浮かべる。こんな場所に用事など、人生でできたことがないタケルには当然のことながら防衛庁の方との連絡の取り方など分からない。もちろん、伊織も京も同様である。
今の三人の気持ちを簡単に言うとすれば
どうすれば良いんだろう?
ということになる。
まあ、無理もない。
デジモンというファンタジーを追いかけていたと思ったら待っていたのは国家権力という名のリアルだったのだから。
どうしようかと話し合う中、兄からの電話に気が付いたタケルが事情を説明すると絶対に無理はするな。とりあえず光子郎達と合流しろと至極最もなことを言われた。というか、今更ながらに気付いたがあれから光子郎達に連絡をしていない。
意識して携帯を見ると、光子郎達からの着信が恐ろしいことになっていた。先程連絡をしたばかりなのだが?と疑問に思いながら電話に出ると向こうでは更に予想外の事態になっていた。
「え!?太一さんが!?」
『はい。もう事態は太一さんの違和感等と言っていられる状況ではなくなりました。タケル君の周辺でも何か妙なことが発生していませんか?』
「いや、そんなことはないですが…少々困ったことが」
タケルは現在の状況を説明した。
『防衛庁…なるほど』
「あれ?あまり驚きませんね?」
『いえ、驚いていますよ。ただ、今まで起こったことが予想外過ぎてあまりその程度のことでは驚かなくなったと言いますか…』
感覚が麻痺っているのである。
加えて言えば、光子郎にとってその女性が防衛庁の関係者だったことは驚きであっても、防衛庁がデジモンのことを知っていることについては全く驚いていない。あれだけ現実世界にデジモンが暴れる事件が多発していて国家として何も対策を取っていないとすればその方が驚きの話だ。
「僕たちはどうしたら良いでしょうか?」
『離れた所で見張りに徹していてください。もう少しすればデジタルワールドにいたヤマトさんがそちらに合流します。本当はミミさんと一乗寺君もそちらに行くはずだったんですが』
「お兄ちゃんとミミさんと一乗寺君が?」
何というか統一感のないメンツである。
更に光子郎は驚きの事実を告げる。
『その三人は今デジタルワールドにいます…驚かないで聞いてください。
因果関係はわかりませんが……
現在、デジタルワールドでアグモンの姿が確認できていません』
事は太一が闇に連れ去られた直前のデジタルワールドまで遡る。
「大輔ならともかく…お前がいることは予想外だったよ一乗寺」
「いえ、あの…すいません…」
呆れ半分、怒り半分の顔でヤマトは一乗寺を見やる。一乗寺は申し訳なさからか気不味そうに頬を掻く。
太一が何か隠していることに感づいていたヤマトは嫌な予感からデジタルワールドの様子を探って見ることにしていた。ぶっちゃければこれがヤマトの外せない用事であった。
ガブモンと直ぐに合流してからデジタルワールドの様子を自分の目で確認していたヤマトだったが、先客が存在していた。それが一乗寺賢だった。
何故、此処に?と思ったが状況を考えれば賢が此処にいる理由など一つしかない。
「まさか、お前が大輔より無茶する奴だったとは…」
「賢ちゃんを馬鹿にしないでよ!」
「ワームモン…それは流石に本宮が気の毒だ」
さり気なく大輔を貶しているワームモンだが、とりあえず置いておこう。
「たく…太一への借りを返したかったんだろうが前から言ってるだろ?太一はもう気にしてねぇよ」
ここでは本筋ではないので省略するが、賢は太一に借りというか負い目がある。太一本人には気にすんなと笑って言われたのだが賢本人としてはそれで済ませられない。
何時か恩返しをしなければ!と考えていた賢にとって今回の件は渡に船の物であった。
それ自体は悪いことではない。悪いことではないのだが…
「ちなみに、この行動についてタケル達には連絡したのか?」
「…」
「してない訳だな?」
無言でサッと目を逸らした賢とワームモンを見てヤマトはため息を吐くが同時に少し喜ばしくも思う。壁を作りがちだった仲間が積極的に動くようになってくれたのだから。
「だが、太一の親友としてはありがたく思う。アイツのために動いてくれてありがとな」
「い、いえいえ!あの…ところでこのことは本宮達には…」
「それとこれとは話が別だ。当然連絡する」
ヤマトの言葉にガクリと肩を落とした賢をワームモンが慰めるが、ヤマトとしては黙っている気はない。コイツまで太一みたいな単独行動をするようになったら困るのだ。
「でも、ヤマトだって一人で来てるじゃない」
「俺はちゃんと光子郎と空には連絡してる」
なお、太一には余計な心配をさせないために伝えていない。空と光子郎からすれば、似た物同士なんだよなぁと思ったりしたが、本人はそのことを知る由もない。
「まあ、良い。それでお前から見て何か分かったか?」
「とりあえず、何も起きていないということがわかりました」
「だろうな」
ヤマトも賢と会う前に軽く見て回ったが、その感想は平和の一言に尽きる。何も知らなければガブモンとゆっくりと散歩しているようにしか見えなかったろう。
「手掛かりは太一が聞こえる声ってだけだからねぇ」
ガブモンの言葉に内包されているように手詰まりである。
「しょうがない。後はアグモンに会って太一の側にいてくれるように伝えとくか。確かこの辺にいるって話だが」
「それで合ってます。昨日もこの辺りで会いましたし」
「…お前、昨日もこっちに来てたのか?」
「…夜に少しだけですよ」
そういう問題ではないとヤマトは思ったが、ここで追及すると話が逸れそうだったので保留にしておいた。
「そうか。じゃあ、とりあえず「あれー、ヤマトさんと一乗寺君じゃない!こんな所でどうしたの?」ってミミ!何で此処に?」
だが、途中で割って入ってきた自信が良く知る声に話は中断される。
「何でって明日、明後日と学校が休みだからデジタルワールドに遊びに来たのよ。ヤマトさん達は?」
「僕たちは太一さんの件で少し調べてみようかと思って来たところです」
「太一さんの件?何それ?」
首を傾げるミミに驚き、ばっとヤマトを振り返る賢。その視線を受けてヤマトは自分たちの今までの行動を振り返るが…
(そう言えば連絡してなかったな…)
事件化していないこともあり、どうせ調査の段階では居ても居なくても大して変わらない、もとい!地理的な関係から協力する事が難しいと判断したヤマト達はミミに連絡をしていなかった。
その事実にヤマトは内心冷や汗をかく。感情表現が激しいミミである。無視されていたという事実が分かれば悲しみではなく、怒りを覚えるに決まっている。
これは予想ではない。あの旅を通して得た確信だ。嫌な確信である。
事実、事情を賢に聞いているミミの機嫌は急激に悪化していく。
「ちょっとヤマトさん!何で私に連絡しないのよ!!」
怒髪天をつくと言わんばかりに、怒りを露わにしたミミに詰め寄られたヤマトは一つの決断をくだした。
「さ、さあ。何でだろうな。光子郎なら知ってるんじゃないか?」
秘技、丸投げ!自身に投げられたボールを見るまでもなく光子郎へと放り投げた。友情の紋章は何処行った。
賢とワームモンとガブモンは何とも言えない顔で自分を見てくるが、ヤマトにだって言い分はある。
太一と違って相手の気持ちを読み取るのに長けたヤマトは本人も気付いていない光子郎のミミへの好意に気付いていた。
先輩としてヤマトはその気持ちを後押ししてあげようと二人で会話をする機会をプレゼントしたのだ。
決して、ミミの機嫌を取るのが面倒臭かった訳ではない!違うと言ったら違うのだ!
「じゃあ、アグモンを連れて行くか。行こうぜ皆」
怒りの矛先が自身から逸れたタイミングを見計らって話をすり替えるヤマト。見事なものである。
しかし、ヤマトの進む先を見て光子郎に怒りを向けていたミミは首を傾げる。
「ヤマトさん何でそっち行くの?」
「アグモンがこっちに居るって聞いたんだ…何でそんな事を聞く?」
ヤマトの説明で更に首を傾げるミミに違和感を覚えたヤマトはミミに発言の本意を尋ねる。
「いや、いないわよ。私、そっちから来たけどアグモンの姿なんて全く見てないわよ」
ヤマト達に太一が消えたと連絡が入ったのはその直後だった。
そして、時は今に戻る。
「そんなことが…」
光子郎との電話の後、合流したヤマトに事情を聞いたタケルの顔は益々曇る。立て続けに色々起こっているのに何も良い報告が上がらないのだ。
「あの後、暫く探したが見つからなかった。一応、まだ空と大輔も加えて四人で探してるが…これはアグモンにも何かあったのは間違いないだろうな」
舌打ちをしながらヤマトは吐き捨てるように話した。タケルはヤマトの気持ちが良くわかった。
「こうなったら、どうあってもあの女の人と会うしかないよね!皆で行こうよ!」
「いや、タケル達はもう家に帰れ」
信じられないヤマトの命令にタケルだけでなく伊織や京も納得がいかずに理由を尋ねるが、理由は簡単なものだった。
「もう、夜だからだ。小学生が出歩くには目立ち過ぎる」
時間は夕方6時過ぎ。小学生が外に居るには遅い時間だった。最悪、補導されかねない。ヤマトの言うことは最もである。
「でも、兄さんと一緒にいれば!」
「そうすれば皆残るって言い出したねないだろ?ワガママ言うな、タケル」
そう言われても不満しか感じないタケルは何とかして自身も残ろうとヤマトを説得にかかるが暖簾に腕押しだった。
諦めたタケル達小学生組は何かあったら絶対に連絡すること。自分たちに黙って勝手に行動しないことを約束させて帰って行った。
「さて…と」
タケル達が帰ったことを見届けたヤマトは自身の携帯に手を掛け、今日は遅くなると父親に連絡する。
しかし、
『ダメに決まってるだろ。お前も家に帰れ』
小学生だろうが中学生だろうがそんなに遅くまで外出して良い訳がない。これも当たり前の話だった。
午後11時。深夜に近い時間になりながらも、働き続けている大人達は存在する。
例えば
「石田さん、コーヒー買ってきましたよ」
「おお、ありがとな」
石田裕明はそう言って部下からコーヒーを受け取りながらも目だけは車の窓越しに防衛庁のビルの入り口を覗いていた。
マスコミ関係の仕事の人がそれだろう。
報道局に勤めるヤマトとタケル父親である石田裕明は慣れているのか大した疲れも見せずに平然としている。
「しかし、また突然でしたねぇ。いきなり、デジモン関係の仕事が始まるなんて」
「止めておけ。まだ調査の段階だ」
部下の言葉を裕明はしっかりと訂正する。
ヤマトの願いを却下した裕明だが、息子の親友である太一が行方不明になったとあっては無視するはずもなく代案として自身が防衛庁を見張ることを提案していた。
無論、裕明も時間がないこと。いざという時に戦力がいないことからヤマトは猛反発した。
しかし、裕明であれば仕事の一環として見張れること。また、そこそこ目立つ場所であることから向こうも荒事を起こすとは思えないと反論してヤマトを黙らせた。
勿論、万が一ということもあるのでいざとなれば全力で逃げ出す心算である。
なお、先ほどまでヤマトとタケルからしょっちゅう電話がかかってきていたがもう遅いから寝ろとだけ言い残して電話を切っている。遅くまで起きていることを心配しているが故の発言なのであろうが完全に言葉が足りていない。間違いなくヤマトの父親である。変な風に不器用なところが妙に似ている。
ちなみに仕事の一環として見張れるという発言は嘘ではない。本当に裕明はデジモン関係の特番を組む気でいたのだ。
だが、この問題は簡単に取り上げて良いことではないことも理解していた。
下手に取り上げてデジモンの危険性だけ伝われば間違いなく一部の人間によるデジモン排斥運動が起きる。
しかし、ぶっちゃけて言ってしまえばこれは無理なのだ。
聞いた話によると今なお、選ばれし子供達と呼ばれるパートナーデジモンがいる子供達は加速度的に増えているらしい。
それと同時にこの流れが止められるようなものではないということも。
そうであれば好むと好まざると人間とデジモンは共存していくしか道がない。
勿論、どんなに頑張っても排斥する人間はいるだろうが、自分たちの報道によってはその人数を減らせるかもしれない。そのためには正確な理解が必要だ。
知る権利を振りかざし、あたかも正しく聞こえる聴き心地が良い情報を垂れ流すのではなく、例え不快な思いを味わったとしても出来るだけ正確で中立な意見を述べるのが報道の役割である。裕明はそう考えていた。
今回の太一失踪の件もデジモン関係であれば警察に言ったところで無駄であろうがだからといって子供達に全部任せておいて良いことではない。
これが今回限りのことではなく、頻発するようであれば大人として然るべき対応を取らなければならないのだ。
だからこそ、裕明は今回の事件の背景で何が起こっているのか正確に知るために調査に乗り出したのだ。
こう言ってしまうと、太一のことがついでに聞こえてしまうかもしれないが太一のことは太一のことで裕明は心配している。
だが、警察でもない裕明が仕事として太一探しに協力するにはそれなりの理由が必要なのだ。
大人も色々めんどくさいのである。
そんな理由から裕明達は事件の鍵を握ると見られる防衛庁を見張っていた。
一晩中でも見張っているつもりであったがそんな必要は無いようだった。
「石田さん…」
「ああ、わかっている」
自身の車から一メートルほど離れた所から男性がじっとこちらを見ている。しかも、その男性はタケルから聞いた女性と一緒にいた男と特徴が一致していた。
向こうから近づいて来るとは手間が省けたと思いながら裕明はすっと車を降りる。
それを待っていたのか男も裕明にすっと近づき、口を開いた。
「石田裕明さんですね。はじめまして。私は西島 大吾と申します」
「俺の自己紹介は不要のようだな」
「すいません、仕事柄貴方のことも調査させていただいておりました」
タケルのことを言う前に知っていた上に、相手が国家公務員となれば自分のことを知っていたことに対して驚きはないが不愉快な気持ちが消えるわけでは無い。
若干不機嫌になった裕明の感情を悟ったのか西島は即座に謝罪する。
「そんなことは良い。わざわざ会ってくれるということは事情を話してくれるんだろうな」
「ええ。このままではずっと張り込みをされてしまいますので」
「子供が一人消えているんだ。当然の対応だ」
「そう言える大人は少ないですよ」
子供のために本気で動ける大人は少ない。しかも、それが自分の子供でなければ尚のこと。
「世辞は良い。とにかく話してくれ」
「ええ。ですが、貴方だけでない方が良いでしょう。子供達にも教えるとなれば明日の16時に此処ではいかがでしょうか?」
「そっちが逃げないという保証は?」
「私がここにいる事が証明になりませんか?」
話さないのであれば此処に来る訳もない。
裕明にも納得できたので、こくりと頷いた。
「良いだろう。承知した。じゃあ、明日の16時に此処で」
「ええ。お待ちしております」
西島さんが防衛庁にいることと防衛庁がデジモンのことに関わっていることは捏造設定です。
try軸だと国立情報処理局情報通信戦略課情報管理科二級管理担当官らしいですが3年後の話ですので、とりあえず本作では防衛庁にいるってことにしていてください!