宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
ガルマン帝星――。
総督府に居た総統ボルゾンは、自身の言う事を聞く政府の閣僚数名と、何人かの側近たちに命じて、本星を脱出しようとしていた。
ボルゾンは、巨体を揺らして、執務室にあった大切な私物をバッグに詰め込むと、その荷物を部屋に待機していた側近の女に渡した。
「お前は、準備は終わっているのか?」
「はい、私は大丈夫です」
「なら、さっさとここを出よう。戦況は、明らかに劣勢だ。最終防衛ラインでの戦闘が始まったら、我々の動きを気にする者も居ないだろう。その隙に、ガイデルの艦隊でこの星系を脱出する。仮に、我々がガトランティスに敗北し、この本星が蹂躙される事になったとしても、私が生きている限り、ガルマン帝国は滅びぬ」
側近の女は、自国民を簡単に見捨てようとする指導者の彼の事を、信じられないという思いで眺めた。一方で、そのような本心を知られれば、どのような恐ろしい目に会うか、考えただけでも身震いするのだった。
最終防衛ライン――。
キーリング参謀長官は、グスタフ中将と共に、各艦隊指揮官と映像通信で会話をしていた。
「ガトランティス艦隊は、後、二十分程で最終防衛ラインに到達する。ヒステンバーガー少将、ここからは、君らにも戦ってもらう事になる。グスタフ中将と協力して、作戦を指揮してくれ」
ヒステンバーガー少将は、スクリーン越しに敬礼していた。
「もちろんです。我々、西部方面軍の全軍で対応します」
キーリングは、満足気に頷いた。
「ありがとう。ガミラスと地球艦隊にも、最後まで本星防衛に協力してくれると、先程確認した。これで、我々は、大挙して押し寄せる敵を、真正面から迎え撃つ事が出来る。地球艦隊は、もともと予定していたプランBで対応すると連絡があった。それによって引き起こされる混乱は、我々の艦隊の勝利の切っ掛けとなるだろう。諸君らは、目の前の敵艦隊を殲滅する事に、集中してくれたまえ」
グスタフ中将は、キーリングに確認した。
「この期に及んでも、東部方面軍のガイデルは、我々に協力してはくれないのでしょうか? 彼らの艦隊があれば、数の上での不利を少しでも解消出来るのですが」
キーリングは、頭を振った。
「先程、ガイデルの件でボルゾン総統とも話した。本土防衛の最後の守備艦隊を動かせば、誰がその役割をするのか、と叱責された。残念だが、戦力を当てにする事は出来ない」
ヒステンバーガー少将は、眉をひそめた。
「まさかとは思いますが。……いえ、何でもありません」
キーリングは、ヒステンバーガーが言わんとしている事を察した。総統批判を口に出せば、国家反逆罪に問われかねない。そして、自嘲気味に口元を歪めた。
「私も、君と同じ疑念を持っている。だが、だからと言って、ガルマン帝国臣民の生命を守るという、我々の使命を放り出す事はあり得ない。我々は、可能な限りガトランティスと戦い抜く。もはや、政治は関係が無い。我々がこの銀河で生き残れるか、そうでは無いのか……。それを決する戦いなのだ。二人とも、私に最後まで従ってくれるか?」
グスタフとヒステンバーガーは、そこで敬礼した。
「もちろんです」
「私も、当然の事をするまでです」
キーリングは、二人の決意に感謝し、自身も敬礼を返した。
「ありがとう。では、始めようか」
グスタフ中将からの連絡を受けたウォーゲン准将は、最後の決戦の火蓋を切ろうと、最終防衛ラインの北部方面軍全艦に呼び掛けた。
「これより、ガトランティス艦隊が射程圏内に入り次第、砲撃戦を開始する。諸君、これが最後の戦いだ。我々は、決して敗北しない。必ず、ガトランティスに打ち勝ち、ガルマン帝星を死守するのだ。諸君の健闘を祈る!」
そう言って、ウォーゲンは通信を切断した。
「ウォーゲン司令、間もなく射程圏内に入ります」
ウォーゲンは、艦内に指示した。
「本艦も、魚雷攻撃で艦隊を支援する。攻撃用意!」
地球艦隊と、ガミラス艦隊でも、既に多数の艦載機が発艦し、臨戦態勢に入っていた。
山南は、土方の指示通りに、アンドロメダの他に、五隻の主力戦艦を従えて、自軍の陣地を抜け出そうと移動を始めていた。
「皆、よく聞け! 作戦を開始したら、それぞれの速やかな連携が重要だ。これまでの訓練通りの練度を期待しているぞ。ガルマン帝国艦隊の交戦開始と共に、我々も作戦開始だ。頼むぞ」
「はい!」
「了解です!」
南部は、命令を受けて、両手首を回して腕を鳴らし、身体を少し動かした。その南部に砲雷長の滝川が話し掛けた。
「南部さん、カウントダウンは、何秒前から行いますか?」
南部は、何時もよりも冷静に言った。
「そうだな。三秒前からで充分だ。先に、耐閃光ゴーグルの装着を指示しておけば問題無い」
「了解です」
南部は、正面を見据えて独り言を呟いた。
「やってやるさ。アンドロメダの能力を見せつけてやる」
同じ頃、古代は、既に百式空偵で主力戦艦ハルナに乗艦していた。そして、元の艦長だった葉山と艦長交代を確認し、艦長席に座っていた。その葉山は、古代の背後で艦の状況を伝え、引き継ぎを行っていた。
「葉山さん、ありがとう。安全の為、もう座席について。何かあれば助言を頼みます」
「承知しました!」
まだ若い葉山にとって、古代は伝説のヤマト二代目の艦長であり、地球を救った英雄だった。艦長交代などというイベントを彼が素直に受け入れたのは、そういった古代への尊敬の念があったからに他ならない。それは、葉山の指揮下の乗組員の殆どもそうだったようで、古代はスムーズに移行が行われた事にほっとしていた。それと共に、久しぶりの艦の指揮に、少しだけ高揚感を覚えていたのも確かだった。
「いい艦だ。やりやすくて助かるよ」
古代は、通信マイクを掴むと自身に与えられた六隻の主力戦艦全艦に発信した。
「この隊を任され、主力戦艦ハルナ艦長に就任した古代だ。これより、戦闘態勢を維持し、新たな白色彗星出現を待つ。発見次第、作戦行動を開始する。各員、準備を怠るな! 以上だ」
ガトランティス艦隊――。
ガトランティス艦隊を指揮するユーゼラー提督は、全軍へと命令を送っていた。
「諸君、艦隊総司令のユーゼラーである。我々は、これよりガルマン帝国との最後の決戦を行う。我々は、必ずこの戦いに勝利し、ガルマン帝国を無力化するだろう。しかし、これは我々の戦いの幕開けに過ぎない。前の大帝らを敗北させた要因となった危険な民族、イスカンダル人をこの宇宙から排除し、我々の戦いをより強固な物とするのが、現在の大いなる目標である。各人の武勲を期待する。以上だ」
ユーゼラーは、全軍への回線を切断すると、新たな指示を発令した。
「待機させていた他の白色彗星を、この星系内に侵入させる。ここからは、総力戦だ」
このユーゼラーの指示で、残りの白色彗星二基が、星系外から移動を開始した。
白色大彗星――。
星系内に侵入した白色彗星の後ろには、既に白色大彗星も到着しており、微速前進でゆっくりと進んでいた。
参謀長官ゲーザリーは、司令制御室の作戦会議用のテーブルで、ユーゼラー提督から送られてきた星系内部の艦隊配置図を眺めていた。そばには、カミラとミルも立って同じ様に図を確認していた。
「これまでの戦いは、ほぼ互角といったところ。しかし、白色彗星三基の存在は、明らかに我がガトランティスが有利です」
カミラは、ほくそ笑んだ。
「それに、まだこの白色大彗星がいる。ガルマン帝国には、とても勝ち目は無さそうね。無駄な事なのに、それでも、立ち向かって来るとは、残念な人たちね」
ミルは、艦隊配置図のある座標を指差した。
「地球艦隊はどうなっているか? その白色彗星の脅威となる波動砲を搭載した艦隊がどうなっているか気になる」
これまでの戦況を正確に把握していなかったミルは、それとなく地球艦隊の状況を確認しようとしていたのだ。
カミラは、大きな声を出して笑った。
「白色彗星一基が破壊されてしまった様ですが、既に三分の一くらいの艦艇を撃破したそうですよ。波動砲を搭載している艦があと何隻いるかは分かりませんが、それほど多くは無いでしょう。でも、これまでの所、波動砲を上手く使わせないように、ユーゼラーは良くやっているようです」
ミルは、顎に手を当てて考え込んだ。
古代は、無事だろうか?
彼にもしもの事があった場合、スターシャ女王たちの救出は困難になるかも知れない……。
「どうされましたか?」
ミルの近くに立っていたシーラは、そっと話し掛けて来た。ミルは、少し驚いていたが、悟られぬように冷静にそれに答えた。
「君は、我々の脅威となるであろう、地球艦隊の状況が気にならないか?」
シーラは、表情を変えずに答えた。
「私は、特に気にしていません」
無表情の彼女の顔は、何を考えているのか、ミルには分からなかった。
「シーラ。ちょっと来て」
「はい」
カミラに呼ばれたシーラは、様々な戦略についての意見を求められていた。戦略立案に彼女が深くかかわって来たのが良く分かる光景だ。
「……分かったわ。じゃあ、私たちは、もう少し様子見した方がいいわね」
「その方がよろしいかと。より、効果的だと思います」
その頃、ゼール中佐と、桂木透子は、再び要塞都市帝国の最下層にある、科学奴隷の研究施設を訪れていた。サーダたちは、作業に集中しており、彼らには気が付いていないようだった。
透子は、指を指した。
「見て。あれを、何処かに運び出すようよ」
ゼール中佐は、長細い卵型をした装置を、研究施設から反重力コンテナに積んで運び出す様子を、物陰から覗いた。
「あれは、もしかして、惑星ファンタムで盗み出したコスモフォワードシステムか?」
「多分ね。組み立てが終わったんでしょう。いったい、何処に運ぶ気かしらね」
「む? あのオートマタは……」
ゼール中佐は、不格好な姿のロボットの姿を目撃した。全体的に円形の身体に手足のついたその特徴的な形は、彼らの記憶を呼び覚ますのに充分だった。
二人は、こっそりと近寄ると、すぐ近くで観察した。すると、目のようなメーター部が輝き、小さな音声が聞こえて来た。
「アナタガタハ……」
ゼール中佐は、酷く慌てて、声にならない声を上げたが、相手のアナライザーAU−O5は、騒いではいけないと察したのか、彼らにしか聞こえない様に、更に音量を下げた。
「……お、お前は、地球のオートマタだな? どうして、こんな所にいる?」
「コスモフォワードシステムヲ輸送シテイル機体ゴト、ワタシモ連レテ来ラレタノデス」
透子は、くすりと笑った。
「あなたも、帰りたいのかしら?」
ムサシに搭載されていたアナライザーは、しばし考えているような間をあけた。
「……ソウデスネ。出来レバ、ムサシニ帰リタイデス。ワタシノ居場所ハ、アノ船デスカラ……」
「そう……。私たちの事を、他の人に内緒にしてくれるなら、考えてあげてもいいわ」
「ナラ、心配イリマセン。約束ハ守リマス」
透子は、アナライザーの足元を確認すると、脚部が取り外されている事を知った。きょろきょろと周囲を見回すと、アナライザーの手の届かない場所にあるテーブルの上に、その脚部は放置されていた。
「いいわ。助けてあげましょう。あなたの足も着けてあげる」
その時、反重力コンテナと一緒に、サーダたち科学奴隷の大半が、その場を離れて、部屋の奥の方へと進んだ。
「……その前に、あの連中は、何処に向かっているのか分かるか?」
「サア……? 船ニ運ンデ装置ヲ装備スルトイウ話ヲシテイマシタ」
ゼール中佐は、一行が向かった先を、テーブルの下から顔を出して眺めた。
「艦船格納庫へのエレベーターは、反対側だが……?」
「ワタシノセンサーデハ、アチラニ、巨大ナ空間ガアルノガ検知サレテイマス」
透子は、それにぴんときていた。
「そう……。なるほどね……。この要塞都市帝国でも、あれを建造していたとはね」
「あれとは?」
「……脱出用の宇宙船、って言えば、あなたも分かるかしら?」
その話で、ようやくあることにゼール中佐も思い立った。
「あ……ああ。あれのことか……!」
「その事は、後回しにしましょう。私たちは、人質を解放する準備をしなければ。時は、かなり迫ってきている」
「そ、そうだな」
透子は、こっそりとアナライザーの脚部を取りに行くと、それを掴んでアナライザーに渡した。
「工具を探して来る。少し待っていて。足が着いたら、一緒に来るのよ」
「感謝シマス……」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。