宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「白色彗星帝国の逆襲」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」、「連邦の危機」、「ギャラクシー」の続編になります。


白色彗星帝国の逆襲109 地球艦隊の壊滅Part3

 ガルマン帝国艦隊では、全ての白色彗星撃破との報と共に、地球艦隊旗艦を含む、多くの艦が沈んだ事が伝わった。

 キーリング参謀長官は、青ざめた表情でそれを聞くことになった。

「土方総司令には、連絡してみたのか!?」

 通信士は、残念そうに答えた。

「はい。先程から連絡を続けていますが、空母シナノから応答ありません」

 呆然としたキーリングは、しばらく声が出なかった。

「……まだ、敵には本隊の白色大彗星が残っている。あれがここに現れたら……」

 グスタフ中将は、敵艦隊との戦況を報告した。

「参謀長、敵艦隊は、主力の戦艦と機動要塞が全面に出て戦闘を始めました。こちらの艦隊の被害が拡大しています。白色彗星を失った事で、決着を早くつけようとしているものと思われます」

「と、言うと、それらはきっと有人艦隊だな」

「はい。その様に思われます。これまでと、艦隊の動きが違い過ぎます」

 その時、レーダー手は、話に割り込んで来た。

「グスタフ総司令、敵艦隊後方の白色彗星を撃破した地球の攻撃部隊が、後方から脱出しようと苦戦しているようです」

 グスタフは、スクリーンにその映像を出させた。

「これは、地球艦隊所属の戦艦アンドロメダです。敵に囲まれて逃げ道を塞がれています。いかがなさいますか? 部隊を差し向けますか?」

 キーリングは、その報告に色めき立った。

「アンドロメダか……! 分かった。脱出を支援してくれ」

「承知しました」

 

 その頃、主力戦艦ヒエイ以下の古代隊所属部隊の主力戦艦五隻は、一路自軍の本隊が集結する場所に戻っていた。バーガー率いるガミラス艦隊も、ガトランティス艦隊を蹴散らし、同じく戻っていた。

 周囲は、破壊されたガミラスと地球艦隊と、ばらばらに四散した白色彗星の残骸とで、多数のデブリが漂っていた。

「こいつは酷えな。ネレディアは、無事なのかよ?」

 バーガーは、真っ先にネレディアの心配をし始めた。

「空母ミランガルでしたらあちらに。無傷の様です」

 バーガーは、ほっと一息つくと、別の心配を始めた。

「古代の奴はどうした。あいつの艦は何処だ?」

 レーダー手は、艦種識別した結果をスクリーンに出した。

「そこです。戦艦ハルナは、大破した空母シナノのすぐ近くにいます。どうやら、ハルナ自身も大破しているようです」

「土方総司令や、古代に連絡は取れるのか?」

 今度は、通信士が答えた。

「ハルナの葉山艦長に連絡が取れました。現在、古代副司令は、シナノで救助活動を手伝っているとの事です。今現在、土方総司令の生死は不明です」

 バーガーは、古代の無事を確認して安堵したものの、流石に狼狽えた。

「やべえな……。土方総司令にもしもの事があったら、あいつら戦えるのか……? おい、地球艦隊の波動砲搭載艦は、何隻残っている?」

「現在、八隻がこの宙域にいますが、そのうち三隻は、何れも大破していますね……。恐らく、戦闘不能だと思われます。その他に、戦艦アンドロメダと数隻の戦艦が、ガトランティス艦隊に囲まれて逃げようとしている模様です」

「山南艦長の艦か……。こんな敵陣の奥深くじゃ、手も足も出ねえな」

 レーダーチャートを見ると、今もガトランティスとガルマン帝国の決戦が激しさを増している様子が確かめられた。

「いつの間にか、ガルマン帝国軍の数が随分減ってねえか?」

「はい……。ガトランティスの残存艦艇は、約二万一千。ガルマン帝国艦隊の方は……。約一万五千まで減らしています」

 バーガーは、ネレディアに連絡を取るように言った。

 スクリーンに、ネレディアの姿を確認して、バーガーはぼやき始めた。

「どうする? ガミラス艦隊総司令どの」

 ネレディアは、目を細めてバーガーを睨んだ。

「どうするもこうするもない。艦隊をもう一度再編するしか無いだろう。地球艦隊側がどう出るか分からんが、こんな状況では、我々が地球艦隊を含めて指揮を取るべきだろうな」

「それもそうだな……」

 ネレディアのそばにいたランハルトは、複雑な表情をして、悩んでいる様子だった。

「どうした? 大使殿」

 話し掛けられたランハルトは、はっとして顔を上げた。

「うむ。イスカンダル人の救出が上手く行くかどうか、かなり難しくなったと思ってな。もし、この被害で地球艦隊が撤退を判断したら、この作戦は継続不可能だ。そうしたら、ガルマン帝国は……」

「だな。終わりだな」

 ランハルトは、まだ考えを巡らせていた。

「それだけじゃない。ガトランティスは、この銀河系の中央部を、徹底的に破壊し尽くそうとするだろう。それが終わったら、何処へ向かうと思う?」

 バーガーは、考えつつ言った。

「多分……地球に行くかも知れねえし、もしかしたら、サレザー系にやって来るかも知れねえな」

 ランハルトは、頷いた。

「そう。いろんな可能性がある。ならば、ここまで戦力を削ったガトランティスを、ここで倒すのが、最善の方法だ。もし、倒し損ねれば何が起こるか予想は難しい。もしも、ガミラスに来るような事があれば、俺たちには、今度ばかりは対抗手段が無い」

 そう言った矢先、ランハルトはある事に気付いた。

「いや、まて。波動砲艦隊……か」

 バーガーは、目をぱちくりとしていた。

「何だそりゃ?」

 ランハルトは、ネレディアと顔を見合わせた。

「大使。シャルバートの波動砲艦隊の事ですね?」

「……最悪の場合、頼ってみるのもあり得るかもしれん」

 ネレディアは、頭を振った。

「ガルマン帝国に辛酸を嘗めさせられたシャルバートが、同族の我々ガミラス人に貸与してくれるとは思えません」

 ランハルトは、神妙な顔をして言った。

「だが、イスカンダル人なら?」

 二人は、互いに見つめ合って、その可能性を考えた。

 

 古代は、宇宙服を着用して、被害の少なそうな舷側のエアロックから、救助隊と共にシナノの艦内に入っていた。

 そして、艦載機格納庫に入ると、火災があちらこちらで発生しており、何人もの甲板作業員が倒れているのが見つかった。そこでは、何名か重傷の乗組員を発見し、救助隊のメンバーが担架に乗せて運んで行った。

 古代は、救助隊とは別れて、作戦指揮所を目指した。土方がいたのは、艦橋構造物の下に位置する作戦指揮所だった。艦橋構造物を失ったシナノだが、運が良ければ、土方や百合亜は助かっている可能性がある。

「土方さーん! 岬さん!」

 古代は、声を掛けながら、作戦指揮所へ向かう通路を歩いた。しかし、天井が崩壊して穴が空いており、そこには宇宙が見えている。

「この辺りに居た乗組員は、宇宙服を着ていなければ、絶望的だ……」

 古代は、次第に土方を失ったかも知れないと考え始めた。

 彼が向かう通路は、壁や天井から溢れたケーブルが剥き出しになっており、それらに高圧の電流が流れているのか、火花が散っている。それらを避けながら、古代は慎重に通路を進んで行った。

 ようやく、作戦指揮所へ入る扉が見えて来たが、黒焦げになっており、大きな火災が発生した事を示していた。

 中を覗くと、まだ大きな炎がそこら中から立ち上っていて、煙が充満している。照明もほとんどが壊れているのか、中は暗く、炎が無ければ何も見えなかったに違い無い。

 古代は、炎と煙を避けながら、中に進んだ。

「誰か、生きていたら返事をしてくれ!」

 そう声を出したが、応えは無かった。

「土方さん! 岬さん! 返事をしてくれ!」

 瓦礫の山と化した作戦指揮所の中は、足の踏み場もない程、天井の構造物や艦内の設備が散乱していた。そして、乗組員の見知った顔が倒れて亡くなっているのを何人も発見する事になった。それらを避けて、気を付けて歩き続けると、古代は、つい数時間前まで土方と一緒に立っていた作戦指揮所の中央のテーブルに辿り着いていた。そのテーブルは、天井から落ちて来たスクリーンが粉々に砕け散った残骸で溢れている。

「土方さん……。岬さん……」

 どうやら、生存者は一人も居なかったらしい。古代はがっくりと肩を落とした。

 そんな時、先程入って来たドアの方で物音がした。

 古代は、身構えて、その方向を確認すると、煙の中から現れたのは、足を引きずって歩く百合亜その人だった。

「岬さん、岬さんだな!?」

 百合亜は、とても驚いた様子だったが、古代だと確認すると、堰を切ったように、泣きながら古代に抱きついた。

「古代さん……! 助けに来てくれたんですね! 私、わたし……。もう駄目かと思ってました……!」

 古代は、大きく息を吐きだして安堵した。そして、百合亜の背を優しく叩いて、彼女を安心させようとした。

「……もう大丈夫。救助隊を呼んでるから」

 百合亜は、手足に傷を負っているのか、艦内服のあちこちが赤く染まっていた。

「君は……。怪我をしているじゃないか。大丈夫なのか?」

 百合亜は、涙を拭いながら頷いた。

「私は、これでも運が良かったんです。天井が突然落ちて来て、部屋の中はあっという間に火の海になりました。その時、爆発も起こって……。私は室外に吹き飛ばされたんです。その時、少し火傷と切り傷を負っていますけど、他の人に比べれば……」

 古代は、来る途中に見かけた黒焦げになった遺体を何体も見ていた。確かに、百合亜は運が良かったのだろう。助かった方が奇跡に近い。

「何人か私の様な生存者がいます。動ける人は、ここから脱出する為に、宇宙服を探しに行ってます。私もさっきまで、医療品を探しに行って戻って来た所です」

 そう言った百合亜は、背中に背負っていた荷物を開けると、消毒液や、包帯などの物資をいくつか取り出した。

 古代は、微笑んで彼女の肩をそっと叩いた。

 ようやく少し笑顔を浮かべた百合亜を見て、古代もほっとしていた。

 しかし、古代は確かめねばならなかった。彼は、恐る恐る聞いてみた。

「ところで……。土方さんは?」

 百合亜は、はっとして腕を振って指差した。

「あそこです。天井から落ちて来たパネルの下敷きになっています!」

 古代は、百合亜の指す先を見て、慌てて向かった。

 そこには、鋼鉄のぶ厚い鉄板が落下していて、誰かの腕が見えた。

「土方さん!」

 古代は、鉄板の下を覗いて見ると、そこには、頭から血を流した土方の姿があった。幸いにも、その付近は火災に襲われなかったらしく、土方には微かに息があった。

「何人かで、パネルを動かそうとしたんですけど、どうしても動かなくて……」

 百合亜は、泣きそうになって説明していた。

「待って。何か機材があるかも知れない」

 古代は、背負って来た救助隊の装備品を下ろし、中の物を取り出した。そして、いくつか取り出した所で、中からレーザーカッターを見つけた。

「うん。これでパネルを切断して軽くすれば、持ち上げられるかも知れない。やってみよう」

 古代は、早速土方の身体を避けて、パネルの切断を始めた。

 少し時間はかかったものの、溶解して切断された天井のパネルは、かなり小さくなった。

「岬さん、手伝えるかい?」

「はいっ! やります!」

 百合亜は、パネルの端を掴んだ。そして、同じ様にパネルの端を掴んだ古代と、息を合わせて持ち上げた。

「上がった! もうちょっと!」

 そして、渾身の力を込めて、パネルを土方の身体の横にずらすと、どうにか完全に退ける事に成功した。

 息を切らした二人は、床に尻もちをついて息を整えた。

 起き上がった古代は、土方の様子を確認した。右腕がおかしな方向に曲がっており、どうやら肩から腕にかけて骨折している様に見受けられた。他に、大きな傷は見当たらないが、重いパネルの下敷きになっていた事を考えると、他にも怪我を負っている可能性があった。

「土方さん! 古代です! 分かりますか?」

 古代は、土方の顔に触れて、顔の近くで声を掛けた。

 突然咳き込んだ土方は、苦しそうな表情で、目を開いた。

「古代か……」

「土方さん!」

 土方は、右腕の痛みが酷いせいか、呻きながら身体を起こそうとした。もう片方の左腕を使って起き上がろうとする土方を、古代と百合亜は支えた。

「俺は……」

 土方は、そうして身体を起こすと、座ったまま辺りを見回した。艦内の惨憺たる様子を確認して、顔を歪めた。

「土方さん。ここは、いずれ空気が無くなってしまうでしょう。救助隊をここに呼びましたので、彼らが来たら、すぐに退艦しましょう。ハルナをまだ横付けしていますので、そちらで治療を受けて下さい」

 土方は、辛そうにして、古代を左腕で払い除けた。

「俺は……失敗した。大勢の兵が、俺のせいで死んだ……。俺のせいで……」

 古代は、土方のそんな姿を見て、何も言うことが出来なかった。大役をいくつか任された今なら、彼の気持ちが痛い程に分かった。彼が背負っていた重責は、みんなが考える以上に、土方の心を縛ってきたのだろう。

「土方さん。土方さんのせいじゃありません。こんな策を敵が取ってくると想像するのは、誰であっても困難だったと思います」

 土方は、絶望した様にそれを否定した。

「これは戦争だ。結果が、俺が負けた事を示している。俺の事は放っておけ。他の生存者と共に、お前たちはここを出ろ。俺は……。責任を取ってシナノと運命を共にする」

 古代は、百合亜と顔を見合わせた。百合亜は、こんな土方の姿に愕然としていた。

 古代は、少し悩んだが、意を決して、土方の左腕の下に身体を滑り込ませた。そして、そのまま肩を使って、土方の身体を起こした。

「古代……。止めないか……! 俺を、ここに置いてゆけ!」

 古代は、わざと腹を立てたような声を出した。

「いいえ。駄目です。責任をお取りになると言うのであれば尚更、ここで死なれては困ります」

 土方は、古代から離れようと抵抗した。

「止めんか! 貴様、俺に、生き恥をさらせと言うのか……!」

 古代は、土方を睨んで言った。

「ええ、そうです。貴方には、最後まで責任を負って頂かなければ。それに、雪だって、貴方が死ねば悲しむでしょう。貴方は、雪の大切な家族であり、僕の家族でもあるんです。そうでしょう? お父さん。絶対に死なす訳には行きません」

 土方は、自らを父と呼ぶ古代の言葉に我に返った。

「こんな時に……貴様……!」

 土方は、亡くなった森夫妻に代わって、雪の面倒を見てきた日々を懐かしく思い出した。美雪が誕生し、孫が出来たような気がして、古代や雪と共に大いに喜んだのも、ついこの間のようだった。

 土方は、抵抗を止め大人しくなった。

「古代。お前を恨むぞ」

 古代は、土方の顔をちらりと見て微笑んだ。

「ええ。構いません。それで貴方が生きてくれるのなら。取り敢えず、ここは火災が発生していて危険です。部屋から出ましょう」

 百合亜も、古代と反対側から土方を支えると、ゆっくりした足取りで、作戦指揮所を出た。

 その入口には、既に古代が呼んだ救助隊のメンバーが駆け付けていた。百合亜は、彼らに他の生存者の情報を伝え、慌ただしく救助活動が行われた。

 こうして、大破したシナノで発見された生存者は、次々にハルナへと移送されたのである。

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。

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