宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
「我々は、ある目的で、現在作戦行動中です。あなたは、デスラー総統に捕まったか殺された、と思われていました。今回の作戦では、ここに来ることが分かっていましたので、もしも、あなたの生存を確認した場合は、連れ戻す手引きをして欲しいと頼まれていました」
ミルは、床にしゃがんだままの姿勢で、彼に尋ねた。
「教えて欲しい。帝国は、今はどうなってしまったんだ? 誰が、私のような、いち士官だった者を探していると言うんだ?」
その民間人に化けたガトランティス軍の男は、憐れむような表情になった。
「何も情報を与えられていないんですね……。ガトランティス帝国は、ガミラスとの戦争に敗北しました。戦争の為、ガミラスに向かったズォーダー大帝や、参謀長官のサーベラー様やゲーニッツ様、そしてラーゼラー様など、帝国の幹部や、主な将校や士官は、亡くなってしまったのか、全員行方不明です。申し訳ありませんが、末端の私が知っているのは、ここまでです」
「何としたことか……!」
ミルは、大きなショックを受けていた。
恐らく、戦争には敗北したのだろうとはミルも思ってはいた。あのガミラスとの戦争で捕虜になった後、デスラーの艦から降ろされ、レプタポーダという惑星に置き去りにされた後、しばらく経ってから戻って来たデスラーの艦で再び移送され、いつしかこの宇宙基地に連れて来られていた。デスラーの艦の兵士たちからは、ガトランティスが敗北したことは聞かされていたが、それが本当かを確認する術もなく、詳しいことを確認することは出来なかった。そして、数年が経過し、二度と彼らには会えないだろうと諦めてはいたものの、実際に亡くなってしまったかも知れないということを改めて聞かされ、大いに落胆することになった。
「……分かった。そういうことなら、もう私のような者のことは放っておいてくれないか。ズォーダー大帝のいない帝国へ戻っても何の意味もない。私は、今のここでのささやかな生活に、十分満足しているんだ」
ガトランティス軍の男は、ミルを励ますように話を続けた。
「そのようにご自分のことを卑下する必要はありません。あなたは、今や帝国にとって大切な方です」
ミルは、末端の兵士にそんなことを言われる自分に対して、ますます自嘲することになった。
「もう、帝国への未練はない。しかし、君のことを誰かに言うつもりはない。だから、私のことは忘れてくれ」
ミルは、景品のプラモデルを再び手に取ると、立ち上がって立ち去ろうとした。兵士は、そんなミルの背に声をかけた。
「あなたを探すように指示をしたのは、あなたのお母様です」
ミルは、驚いてゆっくりと振り返った。
「母が? 母は元気なのだな。そうか、さぞ心配しているだろうな……。しかし、兵に指示をするような立場ではないと思うが、どういうことだ?」
兵士は首を振った。
「大帝たちが行方不明となった後、帝国を指揮する暫定政権が誕生しました。しかし、大帝のような求心力はなく、野蛮な民族もいる帝国をまとめていくのは困難を極めました。そんな時、あなたのお母様が名乗り出たのです。自分の息子は、実は大帝の隠し子だと」
ミルは、その話に呆気にとられていた。
「母がそのようなことを……?」
兵士は大きく頷いた。
「その後の調査で、大帝と、あなたの残っていたDNAの鑑定などが行われ、それが事実と確認されたのです。取りまとめに困窮していた帝国は、急遽、あなたのお母様を大帝の代わりとして祭り上げました」
「な、何と……!」
「あなたのお母様が代表として立つと、帝国の混乱は瞬く間に沈静化しました。皆んな、彼女の指示に従うようになったのです。現在遂行中の作戦は、あなたのお母様の指示で行われています。そして、真の大帝として迎える為、あなたを捜索するようにも厳命されていました」
あまりにも信じがたい話が続き、ミルは、混乱していた。
確かに、母一人、子一人という父親不在の貧しい環境でミルは育った。父親について母に尋ねたことはあったが、何故か母ははぐらかして教えてくれなかった。だからと言って、帝国からの優遇がある訳でもなく、大人になったミルは、自身の力で帝国軍の士官までになったのだ。恐らく、ズォーダー大帝自身も、隠し子が存在したことを、知らなかったのかもしれない。
それにしても……。
母が、そのような大胆なことをするとは、到底信じられなかった。そして、あのズォーダー大帝が、自身の父親だという話も、すぐには信じられなかった。
「一緒に来て下さい。私の他にも、何名か兵士がいます。密かに、あなたを帝国に連れ戻せます。何なら、近くに、帝国の艦隊も潜んでいますので、連絡すればすぐに駆けつけて来るでしょう」
ミルは、その兵士の真剣な目を見ながら思案した。
あまりにも気になる話で、確認せずにはいられない内容だった。しかし、ミルの脳裏には、あのスターシャの優しい瞳が浮かんでいた。
スターシャたちと共に、平凡でささやかだが、平穏な暮らしをこれからも送るのか?
それとも、再び戦いに明け暮れるあの帝国に戻るのか?
この数年の暮らしで、ミルは、平穏であることの大切さや、素晴らしさを知ってしまっていた。
そして、あの優しいスターシャを裏切ることなど、到底考えられなかった。
ほんの、少し前までは。
「あら、こんな所で、何をなさっているの?」
背後から声をかけられ、ミルの目の前にいた兵士は、慌てて姿を消した。
ミルが振り返ると、そこにはイスカンダル人と思われる衣装の若い女性が立っていた。一瞬、スターシャが現れたのかと思ったミルは、彼女を裏切ろうとする心を見透かされたのかと真っ青になった。しかし、良く見れば、スターシャではない、別のイスカンダル人だということが分かり、ミルは困惑していた。
「あなた……。ガミラス人じゃないわね。もしかして、ガトランティス人かしら?」
サーシャは、彼に近寄ると、その顔を良く見ようと顔を近づけた。
少し赤くなったミルは、後ろに後ずさった。
「は、はい。私は、ガトランティス人です。元々、捕虜として捕らえられていましたが、スターシャ様のお陰で釈放され、ここで裏方の仕事を手伝わせてもらっています」
「ふうん。そうだったのね」
にっこりと笑ったサーシャは、後ずさったミルに、また一歩近づいた。
何て、綺麗な人なんだろう……。
ミルは、サーシャの美しさに思わず息を飲んだ。
「スターシャお姉様がそんなことを……。そう。あなたも、わたくしと同じね」
「同じ……ですか?」
サーシャは、憂いに満ちた表情をしていた。
「籠の中の鳥。自由に空を飛びたいけど、その籠に閉じ込められていて、ずっと自由を夢見ているの。でもね、いざ、自由になって見ると、本当は自分はどうしたかったんだろうって、考えるの。私も、今はそんな感じなの。あなたも、そうなんでしょう?」
ミルは、はっと驚かされた。
そうだ。
自分は、本当はどうしたいのだろうか?
ここで、平穏な暮らしに埋まるのもいい。
しかし、先程聞いたことの真実を確かめる機会は、永遠に失われるだろう。
本当は、自分はどうしたかったんだろう……?
サーシャは、突然、ミルの手を握り締めた。
「あなたって、とっても素敵な、綺麗な顔をしてますのね。良く言われますでしょう?」
男か女か分からない、とは良く言われていたが、こんんなことを言われたのは初めてだった。
ますます顔が赤くなったミルは、彼女に一目惚れをしてしまっていた。
「あ、あの……。私は、ミルと言います。あなたのお名前を聞かせて頂けませんか?」
サーシャは、にっこりと笑った。
「わたくしは、イスカンダルのサーシャ。サーシャ・イスカンダルです」
サーシャは、彼の手を離すと、満足気な表情で、手を振った。
「そろそろ、宴も終わりだし、スターシャお姉様も、デスラー総統も帰る頃だろうし、戻らなくちゃ。また、お会いしましょう。正直で、心の綺麗なミルさん」
ミルは、景品のプラモデルを抱きしめて、サーシャの後ろ姿を見送った。
本当は、自分はどうしたかったんだろう……?
ミルは、まだ自問自答していた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。