宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
その頃、イセの島の個室を借りて、土方と徳川は床に座って、本当に酒を酌み交わそうとしていた。
「ムサシに持ち込んでいた本物の日本酒じゃ。こいつは、最近のわしのお気に入りなんだがな。まあ、一杯やってくれ」
土方は、注がれたグラスの中をじっと眺めて動かなかった。
「飲めと言っとるじゃろう。それとも、わしの酒が飲めんと言うのか?」
徳川は、まるで大昔の頑固親父のように振る舞った。
土方は、仕方なく、静かに酒に口をつけた。徳川の方は、土方の様子を見て、満足そうに頷いていた。
「なあ、土方さん。昔、あんたと沖田さんと三人で、酒を酌み交わした事があったな。あれは、何年前じゃったか……。いやあ、とんと最近は、物忘れする事が多くなってな。もう、年じゃよ」
土方は、その話で、昔、確かにそんな事があったのを思い出した。
「……みんなこんなに年をとっていなかった。お互い、まだ若かったですな」
「だが……。その時から、わしは三人の中じゃ、一番の年寄りだったがな」
土方は、少し笑いをこぼしていた。徳川も笑い出し、二人は暫し笑い合った。
「ところで……」
徳川の言葉に、土方は身構えた。
「あんた、かなり責任を感じて、悩んでいるようじゃな」
土方は、黙っていた。そして、無事な方の左手に持ったグラスの中身を少し飲んだ。
「指揮官の重責は、わしにはよく分からん。わしは、出世とは縁もなく、結局機関長止まりだったからな」
土方は、まだ黙っていた。
「察するに、死に場所を探しておる……ってところかな? それで、ここへ来て、ヤマトに乗り、命をかけて、地球艦隊を守ろうと考えている」
土方は、徳川の方を見れなかった。
「……俺は、大勢の若者を、また死なせてしまった。それは、一度や二度じゃない。この責任は、そろそろ取るべき時が来たのだと思っているんです」
徳川は、大きな音を立てて、持っていた酒瓶を床に置いた。
「何を、馬鹿なことを言っとるんじゃ!」
土方は、突然の事に、驚いていた。彼にとっては、誰かに怒鳴られるなど、本当に久しぶりの経験だった。
「お前さんのそんな我儘に、古代たち、未来ある若者を巻き込むつもりか? それこそ、本末転倒というものだ!」
徳川の剣幕に、土方は下を向いた。怒りを顕にしていた徳川は、再び冷静になると、グラスを口にした。
「……沖田さんも、昔、あんたと同じ様に苦しんでいた事があった。だが、それでも、自分の経験を誰かに伝え、そして、出来る限り、生きて連れて帰ってやらなければならんと。そうやって、苦しみながら、考え直し、背中に重い荷物を背負い続けた。あんただって同じじゃ!」
土方は、徳川が真剣な表情で見つめているのに気付き、その目を正面から見据えた。
「これから、古代たち若者は、ヤマトに乗って戦場に戻ろうとしているが、誰も死のうなどと思ってもいないはずじゃ。今回は、わしも着いて行くつもりじゃよ。何故なら、出来る限り、生きて連れ帰ってやりたいんじゃよ。わしの経験が、何かの役に立つかも知れん。あんたも、死に場所を探すんじゃなく、そうするべきじゃないのか? それが、わしら長く生きた者の役割ってもんじゃないのか! 違うか!?」
土方は、徳川の言う事に、何も反論出来なかった。ぐうの音も出ないとは、こんな経験なのかも知れない。
「……いいえ。多分、徳川さんの言う通りなんでしょう。彼らを俺たちの手で、生きて連れ帰ってやる……。確かに、俺には、まだ出来ることがあるかも知れない……」
徳川は、自分のグラスを煽ると、再び酒瓶を持ち上げた。そして、手酌でグラスに注ぐと、土方にも瓶を向けた。
「その調子じゃよ。まだ、あんたは若い。と、言ってもわしよりも、ってだけじゃがな」
土方は、笑みをこぼすと、同じ様にグラスを煽った。それから、グラスを突きだし、徳川はそこになみなみと酒を注いだ。
それからしばらくして、古代と島、そして百合亜は、ヤマトの艦内に入り、第一艦橋に上がった。
第一艦橋の扉が開くと、そこには、相原と真田が待っていた。
「皆さん、ようこそ。ヤマトへ」
相原は、嬉しそうにしている。真田も、彼らに近寄って来た。
「私も、同行させてもらう事にした。構わないかね?」
「もちろんです。ありがとうございます!」
古代は真田と、固く握手を交わした。
「と、ところで、まさか雪もここに居るんでしょうか?」
真田と相原は、互いの顔を見た。
「古代さん、ご心配なく。ゲール少将の船に、他の人は全員移乗しました。ムサシで来たのは、私と真田さん、それに徳川さんの三人だけです」
古代は、ほっと胸を撫で下ろしていた。
「そ、そうか。安心したよ。でも、ゲール少将の船か……。それは、それで心配だな」
真田は、雪を心配する古代を安心させようとした。
「雪さんは、美雪ちゃんと、そして、新見くんと澪も一緒にいる。あまり心配は無いと思う。しかし……私も、こっちに行くと言ったら、新見くんに怒られてしまったがね」
真田以外の四人は、それを聞いて笑っていた。
「それにしても……。第三艦橋を失ったというのに、艦内に重力が発生していますね。真田さんが修理されたんでしょうか?」
「修理というか、部品を交換したと言ったら良いのかな。先程まで、ムサシの第三艦橋を、ヤマトに移植する作業をやっていた。これで、慣性制御だけでなく、波動防壁も使えるようになったよ」
「波動防壁まで……! それは、助かります!」
「他にも、いくつかの損傷を修復するのに、ムサシのパーツを結構流用した。後で、今度は、早紀くんに怒られるかも知れないがね。ヤマトは、かなりいい状態に整備出来たと思う」
「では、早速発進準備にかかりましょう。用意が出来たら、デスラー総統と、どのタイミングで出るか、相談しましょう」
「了解した」
「それにしても、久しぶりだなあ。支度を始めるか」
みんな、それぞれの持ち場について、準備を始めた。古代は、戦術長の座席につくと、様々な思い出が蘇って来た。横を見ると、島も、同じ事を考えていたらしい。
「懐かしいよな、古代。ヤマトを操艦するのは、何年ぶりかなあ」
「僕もだよ。この座席に着くのも本当に久しぶりだ。でも、結構身体が覚えてるみたいだぞ」
百合亜も、その話題に同調して来た。
「私もですよ! ここに座るの、何年ぶりかなぁ」
古代は、彼女を振り返って見た。そこに居るのが雪で無いのは、少し残念な気もしたが、彼女も、イスカンダルの旅を共にした、あの時の懐かしい仲間だった。
その時、新たに艦橋に入って来る人物がいた。それは、徳川と土方であった。
「おお、なんじゃ、南部と太田がいないが、ほぼイスカンダルに行った時の乗組員が揃い踏みじゃな」
古代は、感慨深く立ち上がって周りを見回した。
島がいて、百合亜がいて、その向こうに真田が居る。そして、徳川が居て、相原がいる。
航空隊の待機所には、加藤や、篠原、山本といった懐かしい航空隊のメンバーも待機している筈だ。
そして……。
「土方さん。みんなも聞いて下さい。私からのお願いと言いますか、提案があります。土方さん、ヤマトの艦長に就任して頂けませんか?」
「俺は……」
徳川は、土方の脇を肘で小突いた。二人は、顔を見合わせた。徳川は、彼の目を見て頷き、さっきの話を忘れるなと、目で訴えている。
土方は、目を閉じて、もう一度考えた。
彼ら若者を助け、未来に繋ぐこと。そうやって、老いた者は、大切な事を若者に伝え、継承し、彼らの歩む道を手助けする。そうして、無事に連れ帰ってやる。
しかし、もしかしたら、また失敗するかも知れない。それでも、自分にしか出来ない事をやり、苦悩は自らの胸にしまっておく。
土方は、大きく息を吸い込んで、呼吸を整えた。そして、今の決意を胸に、古代を始めとした若者たちを、真っ直ぐに見据えた。
「……分かった。その要請を受けよう。俺は、沖田の代わりにはならんが、みんなも、それで良いのか?」
「もちろんです!」
「心強いです!」
「助かります」
その後、ヤマトには、イセから乗員の補充をし、艦内は再び人で溢れた。そして、ヤマトの機関室に戻った薮は、久しぶりに徳川に雷を落とされ、それすらも楽しんでいるようだった。
桐生美影は、真田からムサシの事を任され、イセから派遣された数名の技術者と共に、重力を失った艦内に、磁力ブーツを履いて乗り込んでいた。目的は、何とかして慣性制御装置を繋げて、重力を復活させる事だった。
そして、ハルナは、イセと共に亜空間を去り、帰還艦隊に合流すべく、旅立って行った。
そして……。
ヤマトの頭上のスクリーンには、デウスーラに乗るデスラー総統と、タランが映っていた。
「ヤマトの諸君……。どうやら、準備が出来たようだね。君たちが、必ず戻って来ると、私は信じていたよ」
土方は、みんなを代表して、立ち上がって挨拶を返した。
「デスラー総統。土方です。諸事情があり、私は艦隊総司令官では無く、このヤマトの艦長となりました。今回、ヤマトやイセを守って頂いた事に、地球艦隊を代表してお礼を言わせて下さい」
デスラーは、静かに頷いた。
「あなたとお会いするのは、前のガミラス・ガトランティス戦争以来の事だね。あなたの様な指揮官の重責は、私も理解しているつもりだ。共にスターシャの救出作戦を担える事、私からも礼を言わせ頂こう」
そして、デスラーは、タランに目配せした。
「それでは、ここからは、私からこちらの考えを説明します。まず、我々は、亜空間に潜んでおり、その存在はガトランティスも認知していません。これを、最大限利用し、我々は、最後の切り札として動きます。つまり、闇雲にあの戦争の只中に飛び出したりはせず、息を潜めて、その時を待ちます。地球艦隊は、山南艦長率いる最後の艦隊が、白色大彗星に対峙する事になるでしょう。しかし、我々はそこには合流しません。彼らに、もしもの事があった場合にのみ、出番が来ると考えています。そして、白色大彗星の弱点を彼らか、もしくは我々が突く事に成功した暁には、そこから本格的に動きます。そして、我々の最大の目標は、人質の救出作戦を展開し、イスカンダル人と、あなた方地球人兵士を救出することです。そうしたら、その後は、ガトランティスを遠慮なく倒すだけです。何か、ご質問は?」
古代は、手を上げた。
「お考えは分かりました。その事に、私は異論ありません。我々が出る場合に備えて、白色彗星の弱点である、真上と真下の循環路の存在を、探し当てねばなりませんが、それは、どのように行いますか?」
タランは、頷いた。
「はい。それは、フラーケンの次元潜航艦を使い、潜望鏡のカメラの映像で解析を行います。その情報は、リアルタイムでヤマトにも伝送するように手配します」
真田もそれについて発言した。
「ヤマトでは、私が情報を受け取り、解析にかけます。そちらでも、同じ事を実施されるでしょうが、間違いが無いように双方で実施しましょう」
「真田さん。それについては、了解しました。こちらは、特に問題ありません」
土方も質問をした。
「白色大彗星を止める事に成功した場合、その後の作戦は?」
「はい。侵入路を探し、そこから内部に乗り込もうと考えています。そして、内部で人質救出作戦を展開する者と、どうやって合流するかは、今はアイデアがありません。ですので、救出作戦については、それぞれの陣営で考え、実行に移しましょう」
そこまでタランが答えると、もう一度、デスラー総統が前に出てきた。
「それでは、いつでも作戦を開始出来るように、これより亜空間を移動する。では、始めようか」
デスラー総統は、その言葉を最後に、スクリーンから消えた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。